ショウグンギザミ。またはショウグンギザミ亜種。
主に火山や沼地の薄暗い洞窟などを根城とする大型の甲殻種。ガミザミが長い年月を経て完全に成長したものを呼ぶ。
鋭角な形状の頭部や長く鋭く発達した爪など、ダイミョウザザミとは対照的な印象を受ける特徴が多く見られ、攻撃的な見た目に反して意外にも大人しい。
もう一度言おう。彼らは主に火山や沼地の薄暗い洞窟などを根城とする生態だ。断じて砂漠などの日の照る砂漠のど真ん中に現れるモンスターではない。
ならばなぜここにいる? 俺がハッパ吸ってラリった果てに見た幻覚だと言われた方がまだ信じられる。
世の中を回しているのは神の決定でも無ければ大いなる存在の意志でもない。いつだって狂った偶然が全てを決定付ける。
偶々数日前に火山が噴火した事。それにより住処を追われたモンスターが本来は生息地でない場所に居ついて漁夫の利を狙っていた事。そこに偶々俺たちがやって来た事。よりによって奇襲をかけようとしたタイミングが両者ともに被ってしまった事。
全部偶然だ。そこに何者かの意志が介在する余地などはありはしない。
我々にできる事は、口を開けて呆けるか、しゃにむに体を動かして困難に抗っている
他に何ができるっていうんだ?
「クソッ!!」
口汚い罵り言葉が出てしまったことを、どうか許してほしい。じゃなければ、いつか俺はこの世界を破滅させてしまうだろう。
視線の先ではG級クラスのモンスターとオトモたちが絶叫を上げながらわちゃわちゃしている光景が繰り広げられている。
正直介入したくはない。頃合いを見て撤退をしたい。しかしそんな事をしてみろ。ただでさえ五月蠅いギルドや学者連中に何と小言を言われるか分かったもんじゃない。
どいつだどっちから攻める? 幸い俺の存在はまだバレていない。弾丸はそのままレベル2徹甲榴弾。
腹ばいのまま狙いをつけ、頃合いが来るまでひたすら待つ。
「ギィイイ!」
ショウグンギザミ亜種が両腕を振り回して周りをちょろちょろするオトモたちを牽制しながらダイミョウザザミ亜種へと頭部から伸びる角で突き刺しにかかった。
「ミィイイ!」
迎え撃つダイミョウザザミ亜種は口から高圧の泡ブレスを吐き、接近を拒絶。
「ギイイイイ!!!」
「ミイイイイ!!!」
将軍は避けることもせずに大太刀を構えたまま突撃を維持。大名は泡の奔流の勢いをなお高め押し流そうと躍起になっている。
ここだな。俺はダイミョウザザミ亜種の頭に狙いをつけ、引き金を引いた。
発射された徹甲榴弾は空気の層に一直線の穴をあけ、過たずダイミョウザザミ亜種の頭に突き立った。そして僅かに点滅し、ボンという音とともに爆炎が広がった。
「ミイイ!?」
唐突の事に驚いてブレスを止めたダイミョウザザミ亜種は、その混乱を拭い去る間もなくショウグンギザミ亜種の頭突きをもろに食らった。
青黒い血が吹き上がり、辺り一面が真っ青に染まった。
「オトモ!」
「うぉおザッケンニャコラ―!!!」
「食材如きが良い気になってんじゃねぇぞ!!!」
大声でオトモに呼び掛け、間髪入れずに俺もマガジン分の徹甲榴弾をぶち込みにかかった。マサムネとヨシツネも己の得物を時間が許す限りぽいぽい投げた。
ボン、ボンと火薬が爆ぜる音がからからに乾いた砂漠に何度も響き渡った。とうとう黒煙でダイミョウザザミ亜種の巨体がすっぽりと覆い隠されて見えなくなると、空になった弾倉に電撃弾をぶち込み、砂丘から滑り降りてオトモたちと合流した。
「ギィイイ……」
ショウグンギザミ亜種は黒煙の向こう側と俺とを交互に見ながら威嚇するように爪をこすり合わせ、一定の距離を維持。束の間静寂が、場を満たした。
いつの間にか頭上にいたガブラスは姿を消していた。危険を感じてどっか行ったか、さもなくば俺の見ていた幻覚が消え去ったかだ。
沈黙を破ったのは、怒り狂った大名だった。
黒煙を突き破り、悪魔の如き双角を将軍に向けて恐ろしい勢いで後進。
「ギィイイ!?」
凄まじい勢いだったことと、唐突過ぎて反応が一瞬遅れたようだ。意趣返しは成功し、再び青黒い血が吹き上がり、辺り一面が真っ青に染まった。
途端に生臭い匂いが立ち込めた。思わず顔を顰める。
「ギィイイ!」
「ミィイイ!」
怒り狂った大怪獣共は取っ組み合ったまま横歩き。こっちに向かって突っ込んできた。
「こっちくんじゃねえよ馬鹿!」
再びオトモに散開させると、俺は後方へ下がりながら2匹同時に貫き通すように電撃弾をぶっ放した。
「ギイィ!」
取っ組み合いを維持しながら、ショウグンギザミ亜種は片方の腕を振るい、大鎌で切り付けてきた。俺は横にステップする事でそれをかわし、カウンター射撃を頭部にこれでもかとくれてやった。
「ミィイ!」
ショウグンギザミ亜種の大鎌斬撃を自慢の盾で防ぎながら、ダイミョウザザミ亜種は俺に向けて泡ブレスを放ってきた。俺は横にステップする事でそれをかわし、カウンター射撃を頭部にこれでもかとくれてやった。
「ギギギィ!!!」
ショウグンギザミ亜種は両腕を広げたまま大回転。ダイミョウザザミ亜種を大きくノックバックさせると唐突に反転。俺に向けてヤドであるグラビモスの頭骨を向けた。
ぞっとする気配がし、俺は慌てて横っ飛びをした。その一瞬後に高圧水流が放たれ、あちこちを無茶苦茶に切り裂いた。
「マサムネ! 何とかしろ!」
「うぉおおおダンナにキタねーもん向けてんじゃねぇよ!!!」
逃げ回りながらダイミョウザザミ亜種に牽制射撃を打ち込みながら、ショウグンギザミ亜種をマークしているマサムネに呼び掛ける。
マサムネはフルフル亜種の牙を加工して作らせたブーメランを投げ放ち、ショウグンギザミ亜種の顔面を切り裂いた。
「ギッ!?」
唐突の事に驚いて
「ギィイイ!?」
盛大に横転したショウグンギザミ亜種は青黒の血や朱殻の破片やらをまき散らしながらごろごろと転がった。
しかし、上位相当のディアブロスを即死させたそれを喰らってもなお、ショウグンギザミ亜種はぴんぴんしていた。
「ギギギギギイイイイイ!!!」
怒り狂った大将軍は狂ったように爪を振り回し、飛んでくるブーメランや小タル爆弾を軽々撥ね退け、ついには接近してきたダイミョウザザミ亜種の片腕を付け根から切り飛ばしてしまった。
「ミィイイ!?」
「ギィイイイイ!!!」
ドスンと尻もちをつくように転倒したダイミョウザザミ亜種にショウグンギザミ亜種は大跳躍して押しつぶした。
「ギギギィイイイイイイイイ!!!」
「ミィイイイャアアアアア!?!?」
マウントを取った大将軍は大鎌を何度も何度も振り降ろし、大名は撥ね退けようと残った大楯を打ち付けたり泡ブレスを打ち放ったが、怒りの大将軍は自らが傷付くのを気にも留めずにただひたすら大鎌を振り下ろし続けた。
「ミ……ミ……」
そして、断末魔の声を上げるとともに、ついに大名は動かなくなった。
「ギイイイイイイイイ!!!」
将軍は勝鬨の声を上げ、大名の血の滴る大鎌を高々と掲げて勝利に酔いしれた。
「終わったニャ? じゃあ、死のうか」
「ギィイ!?」
その傍らで待機していたヨシツネが抱えた大タル爆弾Gが、そのどてっぱらに炸裂した。
「残念ながらお前の天下は3日も持たんぜ」
「うはは下克上じゃ下剋上じゃ!」
ひっくり返って転倒したショウグンギザミ亜種に、俺たちはしこたま最大火力を撃ち込みまくった。
稲妻が閃き、爆炎が吹き上がり、砂埃が舞う。
「ギ……ギ……」
そして、天下を謳った大将軍は、その味に浸る間もなく絶命するのであった。
「糞みてぇな幕切れだな」
と、俺。
「勝利を疑うことなく笑う奴なんて後ろから刺されてしかるべきニャ」
ヨシツネは唾を吐いた。
「河豚は食いたし命は惜しし、何事も躊躇いをもってやらなくちゃな」
マサムネはうんざりと信号弾を打ち上げた。
■
「で、結局は噴火の影響がどれだけ生態系へ影響を及ぼすのか調査中の時に起きた事故、てのが今回の事件の顛末だな」
「恐ろしい話だな。それでG級モンスター2匹相手にさせられちゃア命がいくつあっても足りないぜ」
「違いない」
仕事を終え、帰って来て早々気球の上から見ていた観測員から謝罪の言葉やら何やらでえらいこと時間を取られ、近場のギルドへ文句と報告を行ったせいで、結局返ってきたのはそれから数日後の事だった。
帰ってきた俺たちは研究材料で余った素材から装備制作の相談もかねて倅とそのツレのアイルーを招き、
「なあこれ、凄い旨いんだが……材料は何だ?」
「良く味わえ? G級モンスターの肉なんざめったに食えるもんじゃないぜ?」
「ゲ!? マジニャこれ!?」
目を剥く2人にしてやったりと笑みを浮かべるマサムネが持ってきた黄金芋酒を倅に振舞った。連れのアイルーには特製のマタタビ酒を注いでやった。
「うっこ、こいつは黄金芋酒か!? クソ、いいもん持ってやがんなお前は!」
「あ゛~効゛く゛ニ゛ャ゛ぁ゛~」
「そうニャそうニャ、良く味わって飲むニャ」
何て偉そうに講釈垂れるヨシツネが飲むマタタビ酒は水割りで、こいつは碌すっぽ飲めない癖に誰彼見境なくマウンティングを取りにかかるとんでもないカスだった。
「はぁ、とにかく疲れたぜ。あむ……」
肴のザザミソ和えをつつき、黄金芋酒をため息とともに飲む。
ふと、気配を感じ、窓をみる。びっしりと張り付いた村人の視線とかち合った。
「……マサムネ」
「はあ、想像はついてたよ」
暴動が起きる前に、静めねばならない。幸い食切るには過ぎた量を貰ってはいたから、そこまで懐は痛まない。
面倒なのはテーブルやら食器やらの準備だけだ。
「おらてめーら! カメムシみたいに引っ付きやがってからに! 旦那さんがくれてやるってえからさっさと準備手伝いやがれニャ!」
「「ワオオオオオ!!!」」
飛び出したヨシツネにそう言われ、村人共は狂ったようにはしゃぎながら手に手に酒やら椅子やらを持ち込み、俺の家の前でやんややんやの大宴会が図らずしも幕を開けたのだった。
「せわしねぇな」
「うるせえな」
傍らに立つ倅が俺の肩に手を置いて、憐みたっぷりに首を振った。