それは、ある晴れた昼下がりの事。
その時の俺は止めとけって言っているのに、絶対にやると言ってきかない村のガキがいて、仕方がないのでライトボウガンの射撃訓練に付き添ってやっていた。
歳の程は14。この村のガキどもは大抵2つのパターンに分かれる。親のやっている家業を継ぐか、このガキが言う様にハンターになるかだ。
割合としては半々といった感じで、大体16くらいになるとこの村は俺には狭すぎるというかのように早々に出てゆき、世界の過酷さを思い知って泣く泣く帰って来るか、誰にも顧みられることなく野垂れるかしてゆく。
しかしガキどもの中でガンナーになろうとする奴は今までおらず、俺が射撃訓練しているさまを遠巻きに眺めながら、へったくそに武器を振り回してキャッキャとはしゃぎ合っていた。
双剣とハンマーになろうとする奴なら俺にも一家言あり、ハンマーの溜めの変化や双剣(新大陸仕様)や鬼人突進連斬とかを教えてやった。
クラッチクローや翔蟲さえ使えたなら、クラッチ溜め3とか螺旋斬とか教えてやれたのだが、無い物ねだりしたところでしようがない。
「力み過ぎだ。もっと体の力を抜け。両目は開けろ」
「はい……!」
立ち膝姿勢で俺がガキの頃に使っていたチェーンブリッツを構えるガキは、言われるがまま、引き金を引き続ける。
教えを請われてはや数年。多少はマシになったとはいえ、まだまだ粗は多く、発射された弾の半分ほどは狙った個所から大きく逸れていた。
「うぅ……」
的を穿った弾痕に、ガキは恥ずかしそうに顔を伏せた。
「別に恥ずかしがるこたねぇだろ。始めたころに比べりゃマシになったもんだ。ハゲミナサイヨ」
「は、はいセンセイ!」
ガシガシと頭を撫でながら言ってやると、ガキははにかむように笑った。子供は単純で良い事だ。
で、そんな時に教官からお声がかかった。
「おーいトチノキ殿、ちょっといいか? 村長がお呼びだ」
「あぁ?」
面倒臭い事この上ないが、仮にもこの村の長直々の呼び出しとあれば、無下には出来ない。面倒臭い事この上ないが。
「鬼様……?」
ガキはまるで捨てられる寸前の子犬のような顔でこちらを見てくるが、俺はただ肩を竦め、そのまま続けるように言い渡して村長のとこへ向かった。
一に訓練、二に訓練、三四に訓練、五に実地訓練。結局ガンナーなんてもんは正確に狙った所に弾丸を当て続けるだけだから、やる事といえばそれだけだ。
下地も出来ていないのに、応用なんて出来るはずもない。しっかりした大地でなくば、大樹は育たないのだ。
あいつにはしっかりと育ってほしい。下位、上位、そしてG級へと。いい加減命の奪い合いにはうんざりだ。育てて育つというのならば、多少の労力は惜しむつもりはない。
訓練場を出てすぐの村の出口の前に、村長とネコートの奴はいつも通りそこにいた。
「おいばあさん、来てやったぞ」
「おぉ来たか童よ」
「何の用だ? まさかまた貴族共が薬でもせびりに来たか?」
自慢じゃないが、俺の作る薬はよく売れる。ギルドストアで売っている調合書は全て読み込んであるし、時折来る行商ばあさんからもらった調合書・錬金だって読破している。
あまりピンとこなかったが、識字率っていうのはあまり良くなくて、本を読む奴はもっといない。
薬なんてギルドストアで購入するのが当然で、薬を作る奴は問屋か薬師くらいのもので、ハンター稼業をしている奴が自分で作るなんて話は聞いたことも無い。
だからこそ秘薬や回復薬グレート、生命の粉塵なんかを量産でき、尚且つ誰にでも安く売る俺の存在はありがたいらしい。
その面と、G級モンスターを狩れるワザマエを評価され、俺が時々行うポカもそれで帳消し、または上に掛け合ってもみ消したりしてもらえている。
この前戯れにいにしえの秘薬なんかをギルドに売りに行ったのだが、実物を目にするや担当者はひっくり返り、態々ギルドマスターが出張って長々と会議に付き合わされた挙句目玉が飛び出る様な額で買い取られたこともあった。
顧客は村人、ギルド、流れのハンター、貴族、ギルドの上層部の何人かとまあ様々だ。
ネコートを通じて後ろ暗い連中に薬を卸すこともあり、俺がさっさとハンターを止めたい理由は、こいつ一本で一生に困らない金が入ってくるからだ。
最近は俺が付近の脅威となるモンスターを根こそぎにしてるから流通も良くなっており、ハンターたちも訪れる頻度が上がった。
いよいよ俺がハンターを続ける理由も無くなってきており、ギルドが俺にハンターを強制させなければ、とっととやめて薬だけを売って生きていくのだ。
「まぁ、そうとも言えるな」
と、ネコートがむっつりといった。
「煮え切らねぇな」
「まあそう急くな」
婆さんに言われ、仕方なくネコートの話に耳を傾ける。
何でもとある貴族のお偉いさんとその夫人がおり、仲は至って良好なのだがなかなか子供ができなくて、そのせいで後継者争いが勃発しそうなんだとのこと。
しかし歳のせいもあって勃起に持続力が無くなりつつあり、危機感を持ったお偉いさんはあちこち精力剤を探し回り、その過程でゲリョスの狂走エキスに目をつけた。
丁度そのタイミングで沼地で原因不明のゲリョスの大量発生が起きた。これ幸いとギルドに依頼を出し、ギルドとしても大量発生したゲリョスをどうにかしないといけないので、ギルドはその依頼を快諾。しかしあまりにも多い数に、ギルドも多くのハンターを募っており、そいつに俺も参加してほしいという話だった。
「……おいまさか。まさかとは思うんだが」
「あぁ、薬の調合依頼も件のお貴族様より承っておるぞ」
そう言って、ネコートの奴はコートの中から難儀して封蝋の施された手紙を差し出してきた。
俺はしげしげと差し出された手紙とネコートを見て、とりあえず受け取り、ついでにお高く留まっているネコートのコートをひん剥いてやった。
「な!? き、貴様! かえ、返せ、返せ!」
足元に縋りついて取り返そうとするネコートの手に届かないようにコートを高々と掲げ、それから手紙に目を通す。
長々とした貴族らしい尊大かつ回りくどい文章が書かれており、要約するとちんちんを何とかしてくれって事だ。
「うぅ返せ……かえせぇえええ」
とうとう泣きが入ったネコートに、面白くなってきたので近くでヨシツネで遊んでいたガキにコートを手渡すことにした。
「はなせえええええ!!! グニャ―ッ! グニャ―ッ! グンニャ―ッ!」
彼等は俺と縋りついて大泣きするネコートを見て、それから大笑いしながら手に持ったヨシツネを放り投げると嬉々としてコートを掻き抱きながら驚くほどの速さで走り去った。
「待てぇええええええええええええ!!!」
魂を込めた絶叫だった。ネコートはまるで半身を持ち逃げされたかのような鬼気迫る表情で、未だかつてないほど機敏な動きで走り去るガキの背を追いかけていった。
「ア、アバ……アババ……」
「はっはっは……」
寝そべってくつろぐアイルー、寒さを物ともせずに走り回る子供たちとそれを追いかけるアイルー、気にも留めずに行き交う人々。世は事も無し。平和そのものだった。
ばあさんはそんな彼らを見て、首を振った。それもまた人生。そういうかのように。
■
「面倒な事この上ないな」
アプトノス車に乗り込むなり、マサムネの奴は開口一番そう言った。
「権力者共が争うのは構わんが、こっちを巻き込まないでほしいぜ」
キセルを離し、紫煙を吐きながら、同じように俺もごちる。
「連中が下の事なんか考えるわけないニャ。これが終わったってまた別の奴が似たようなことするに決まってるニャ」
ヨシツネはうんざりと吐き捨てた。
窓の外を見る。沼地に近づいてきているためか、地面にぬかるみが所々に見え隠れしてきた。しかしアプトノスはそんな悪路も何のそのと進んでゆく。
流石はG級御用達のアプトノス車だ。座り心地も快適、揺れも無く快適、その上よく調教されたアプトノスは驚くほどの早さで進んでゆく。この分では目的地の沼地までそう長くはかからないだろう。
それからしばらくの間俺たちは武器を研いだり、話し合ったり、オトモ二人が殴り合う様を見つめたりしていた。
で、アプトノス車が止まり、外に出る頃には、陽は真上にまで来ていた。
ブランゴZキャップを被り、ヘビィボウガン『グラビドギガカノン』を背負い、オトモを引き連れて、設営されていたキャンプまで進む。
その時既に3組のハンターのグループがそこらでたむろしており、やって来た俺の方へ怪訝な視線を向けてきた。
「何だテメェ。仮装大会の場所はここじゃねぇぞ」
『キングロブスタシリーズ』で全身を固めた片手剣『ハイドラバイト』のハンターが、こちらを睨みつけながらずいと一歩近寄ってきた。
「よせよ、可哀そうだろ」
そう言いながら『アメザリシリーズ』の双剣『ピンクボンボン』のハンターはキングロブスタの肩に手を置いた。窘めるように聞こえるが、明らかにこちらを馬鹿にしているのが見え見えだった。
「はん! また狩猟を舐め腐った輩がやってきたもんだな。えぇ?」
「残念だけど派手なら強いっていうことは無いのよ坊や」
「姉さんの言う通りだぜ。とっとと帰んな。坊主」
と、今度は別のグループが絡んできた。上から『ハンターSシリーズ』で大剣『リュウノアギト』の強面。『ゲリョスUシリーズ』でヘビィボウガン『タンクメイジ改』の紅一点。『ランポスSシリーズ』でランス『ナイトランス』の腰巾着。
そして最後のグループだが、こいつらは全員ガキで、全員が汚れの無いハンターシリーズを着込んでおり、見るからについ最近ハンターを始めたばかりですと言わんばかりの奴らだった。
女2人男1人のグループで、その中でも年長そうな女のガキが2人に絶対にこちらに関わらない様に言って聞かせているようだ。
「聞いてんのか、こら!」
注意を目の前のガキ共へと移す。しかしまあ全員が全員かっちりと着込んでいるものだ。
彼等に言われて改めて自分の装備を検める。
頭と腰が『ブランゴZ』、胴と足が『ギザミZ』、腕が『クロオビX』で、装飾品に攻撃7スロット3のお守りで『自動装填』、『貫通強化』、『装填数+1』、『攻撃UP小』のスキル構成だ。
しかし色合いは点々バラバラ。見てくれは頭に蛆の湧いたロクデナシと取れても、まあ仕方がないと言えた。自分を恥じずにはいられない。
だから俺は甘んじて受け入れることにした。それでますます粋がったガキどもは好き勝手に言い立てたが、それもギルドの係員が来た事で終わりを告げた。
「おぉトチノキさん。来てくださいましたか」
そいつはへこへこと頭を下げながら握手してきた。応じてやり、二言三言言葉を交わし、それからハンター達へ向き直り、説明を始めた。
「はい、お集まりいただきありがとうございました。ではクエストの最終説明を行います」
話を要約すると確認できただけで10体の『ゲリョス』がいる事。それを全て狩猟してほしいこと。狩猟している最中のグループがいる際は救難信号が発せられない限り手出し禁止とのことだ。
「それでは各員、クエストを開始してください!」
合図とともに、ハンターたちは方々に散っていった。
「あ、トチノキさん、一つ伝えたいことが」
俺たちが行こうとした矢先、そいつは言った。
「どうも観測員から、小さなゲリョスが現れあちこち移動しているとのことです。異様な雰囲気が感じられたため、あなたに狩猟してほしいとたった今伝書鳩から」
どうやら今回も一波乱起きそうだ。
ため息を吐き、今度こそ沼地へ向けて歩を進めた。