通常弾ぺちぺちマン   作:三流二式

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小話ですのでミヂカイヨ


日常①

『森丘 小鳥の囀る丘で』

 

 

「クエ~ッ!」

 

 

 鬱蒼とした森の只中で、甲高い叫び声をあげながら跳ね飛び回る小さな影があった。

 

 

「畜生がぁ!!!」

「ザッケンニャコラ―ッ!」

「スッゾコニャ―ッ!」

 

 

 そしてそれを追いかける、全身を鎧った三人組が遅れて小さな影を追う。

 

 

 ドスンバタン。ドタドタドタ。

 

 

 クエ~。ギャーッ。イヤーッ。アバーッ。ナンオラ―ッ。チャルワレッケオラ―ッ。ワドルナッケンアバーッ。ドシタンス。ダンナドシタンス。

 

 

 口汚い罵りが、一人と三匹立てる騒々しい音が、無限に連なる木々の葉擦れの音にかき消されて消えてゆく。

 ここは森丘のど真ん中。世間一般ではエリア9と呼ばれる場所だ。このエリアは視界が悪く、その上狭い。本来狩猟を行うには適さない場所である。

 

 

 しかし、どういう訳か森丘に住むモンスターの大半がこのエリアに高頻度で現れ、よほどの事が無い限りそれはもう長い間居座るのだ。

 ハンターたちは泣く泣く、あるいは怒り狂いながら人知を超えた理解不能な怪物たちに付き合い、避けきれずに弾き飛ばされたり、ブレスをまともに食らったりと、七転八倒するのだ。

 

 

 この者たちもまた、その不条理と苛立ちに沸き立っていた。

 

 

「アッコラーッ!」

 

 

 一人。ちぐはぐな防具を着込んだ軽弩を持つ男、トチノキ、またの名を白雪鬼の名で知られるハンター、は、ちょろちょろと動き回る大型犬ほどのサイズの大きな耳が特徴の赤い鳥めいたモンスター、特異個体のイャンクックに向けてレベル2散弾の速射を放った。

 

 

 ただでさえ避けるのが困難な散弾の、それも速射である。その密度は最早、壁。避ける事など不可能だ。本来ならば。

 

 

「クエーッ!」

 

 

 しかし、その小さなイャンクックは一瞬のための後、尋常ならざる瞬発力と跳躍力を持って瞬く間に範囲外に逃れたのだ。

 直後、弾丸の壁が一瞬前までイャンクックがいた地面を空しく抉った。

 

 

「クエ~ッ!」

「何がクエ~ッ! じゃっコラ―ッ!」

「クエ~ッ!?」

 

 

 着地し、イャンクックは背後を振り向いたが、そのタイミングを、狙いすましたブーメランが抉った。三日月飾りが特徴の兜をかぶった真っ黒い艶やかな毛皮が特徴のアイルー、マサムネが投げ放った、狙いすましたブーメランの一撃であった。

 

 

「ワメッコニャ―ッ!」

 

 

 たたらを踏んでよろける鳥竜に目を見据える彼女の背後から、特段に口汚い喚き声を発しながら跳躍するは、緑色の兜と茶色い皮鎧を纏ったアイルー、ヨシツネである。その両手には小タル爆弾が握られていた。

 

 

「バカハドッチニャーッ!」

 

 

 いかなる聖人も思わず目を瞑る程の悪罵を吐き散らし、ヨシツネは小タル爆弾を投擲した。

 

 

「クエッ──―」

 

 

 目前に迫る爆弾にイャンクックは咄嗟によけようとしたが、一歩遅かった。ボン、ボンと、腹に響く音と共に小タル爆弾がイャンクックの頭部に炸裂した。

 

 

 ダメージは無いだろう。黒煙に包まれたイャンクックの顔面を空中で確認したヨシツネはそれを確信していた。しかしそれで問題なかった。彼の目的は小タル爆弾でダメージを与えることでなく、それが持つ副次効果である。

 小タル爆弾には音爆弾に類似した周波数の高音をまき散らす効果があり、イャンクックは大きな耳を持つゆえに大きな音を聞くと、驚いて硬直してしまうのだ。

 

 

 そこからできる隙を作るのが、彼の目的であった。

 

 

 だが、どうやらそう上手く事は運ばないらしい。黒煙を突き破って、紅い影が閃光めいて閃いた。

 

 

「ニャ──―ッ!?」

 

 

 着地間際を狙った電撃的な突進であった。ヨシツネは咄嗟に横にステップを踏むことでそれをかわした。

 

 

 が。

 

 

「クエーッ!」

「グニャ―ッ!?」

 

 

 かわされたとみるや、イャンクックは即座に急停止。そしてその反動を使って跳躍。何と回し蹴りを繰り出してヨシツネを吹き飛ばしたのだ。

 

 

「アバーッ!」

「へえ……」

 

 

 吹き飛んできたヨシツネをかわし、マサムネは目を細めた。イャンクックは耳をぴったりとくっつけることにより、爆音を遮断していた。

 驚くほどの知能であった。彼は自らの弱点を完璧に把握していて、それを狙ってくるや否や、即座に反撃に打って出た。尋常ならざる状況判断力が備わっている証拠だ。

 

 

「道理で誰も手出しできんわけだ」

 

 

 軽弩『ジャングルアサルト』にレベル2散弾を装填し終えたトチノキは、地面に足を掻いて警戒する小さな巨獣を睨み据え、うんざりと言った。

 

 

「へっ、いつもの事だろ」

 

 

 横に並んだマサムネが吐き捨てた。

 

 

「クエーッ!」

 

 

 紅い影がふたたび閃いた。マサムネとトチノキは構え、迎え撃った。

 

 

 凄まじい激戦が繰り広げられた。しかし、遥か彼方まで広がるこの森からすれば、それはあまりにもちっぽけで、取るに足らない些末事であった。

 

 

 風が吹く。木々が枝を揺らし、葉擦れの音が、激戦の音をかき消してゆく。森に棲む鳥獣たちは、4つの命が繰り広げる戦いに我関せずに、日常を送る。

 

 

 小鳥の囀る、森の中。ある晴れた、抜けるような青空の下。眠たくなるような、昼下がりの出来事。

 

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