通常弾ぺちぺちマン   作:三流二式

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日常②

『ポッケ村 雪山に潜む影』

 

 

 ポッケ村の若い女がモンスターが活発に動いているという報告を受けているにも拘らず雪山に入り込んだというのは、まあ、取り立てて騒ぎ立てるような事ではない。度胸試しで雪山に上ってゆき、コテンパンにぶっ飛ばされる流れのハンターや村人の若い衆に比べれば、彼女が雪山に入っていった理由が実に健全であったのも拍車をかけた

 

 

 問題なのは、彼女が風邪を引いたの母親のためにとって来ようとしていた薬の素材の自生地が、報告されたモンスターの縄張りと被っているという事だ。

 

 

 

「──────という訳なんです」

「はあ……?」

 

 

 一頻り語り終えた村人の話を聞き終えた銀の髪を肩まで伸ばした女のような男、トチノキは、呆れともため息ともいえないような、曖昧な生返事を返した。

 

 

 トチノキは返答を返す前にキセルを咥えて深々と息を吸い込み、肺の中に煙を十分にため込むと、ため息とともに吐き出した。

 村人、瓶底眼鏡をかけた黒く長い髪を編み込んだ女『クイラ』は、その様を半ば呆けながら、固唾を飲んで見守る。

 

 

「てえことはあれか?」

 

 

 トチノキは残った煙を一息に吐き出しながら、言った。

 

 

「お前のお友達の『イカルア嬢』はギルドから今の雪山の現状を聞いているのにもかかわらず、のこのこと入っていったわけだ」

「は、はい……」

 

 

 クイラ嬢は地の底から湧き出てきたかのような沈みこんだ小声で肯定した。

 

 

「何で俺に言わなかった? 風邪用の薬くらいはいて捨てるほどあるっていうのによ」

「その、あの娘曰く『そんなささいな事で白鬼様を煩わせたくない』の一点張りで」

「はー……」

 

 

 トチノキは話にもならんとばかりに首を振った。

 

 

「でもあの娘、閃光玉とこやし玉はしっかり持っていったみたいだぜ」

 

 

 通りがかりの村人がイカルアを庇うように口を挟んできた。

 

 

「くそっ」

 

 

 トチノキはうんざりと天を仰ぎ、それからキセルを控えていたヨシツネに押し付けた。そして背を向けて歩き出した。キセルを受け取ったヨシツネは素早く懐の中へと入れた。その動作の間、彼はずっとクイラと村人を睨み続けていた。

 

 

 しばらくすると、トチノキは防具を着込み、軽弩『蒼穹桜花の対弩』を背負ってやって来た。

 

 

「行くのニャ?」

「お供は結構。一人で十分。お前はもう少し他人とコミュニケートしろ。いちいち突っかかろうとするな。このボケ」

 

 

 ヨシツネは限界まで目をかっぴらき、話しかけてくる村人に適当に返事をしながら雪山へと向かってゆくトチノキの背を見つめていた。

 

 

「あぁやっぱりなんとお優しいお方でしょうていうかやっぱ顔良すぎですよねあの方はていうか何ですかこんなに人を近づけちゃって誘ってるんですかそうですよねじゃなきゃあんなスメルムンムンのドスケベオーラ放ちませんものあーいけませんいけませんよもうぶち犯しかくてーかくて―ですだって白鬼様が悪いんですからね私は普通だったのに今大変なんですからアーッ!」

「こいつが雪山に行って生贄になれば良かったのにニャ」

「可哀そうに。親友の安否が心配で気がふれてしまったんだな」

 

 

 ヨシツネは吐き捨て、村人は心の底から憐れみ、胸を痛めた。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 凍える空気をかき分け、蔓草を上り、霜ついた地面で転ばない様に注意しながら歩き続け、ついに雪山の上層部。世間一般ではエリア6と呼ばれる場所にたどり着いた。

 そしてそこで彼が見たのは、ぶよぶよとした皮に覆われた盲目の飛竜『フルフル』と、白い毛皮の大狒狒『ドドブランゴ』が取っ組み合っている光景であった。

 

 

「なにこれ」

 

 

 トチノキは目をしばたたき、2匹の猛獣が織りなす死闘を茫然と見つめていた。

 

 

「こっちですこっち!」

 

 

 激闘が発する轟音を縫って、背後から小さな声が聞こえた。振り返ると、岩陰の向こうに、赤髪の快活そうな少女が顔を出して手を振っていた。

 トチノキは一度背後を振り返り、モンスター同士の死闘を見つめた。両者ともにも傷だらけで、何時どっちかが倒れてもおかしくない程に疲弊していた。

 

 

 その様子に一人得心し、トチノキは悠々とした足取りで岩陰へと歩いていった。

 

 

「凄いですねあれ」

 

 

 開口一番、イカルア嬢はそう言った。そこに悪びれた様子も、反省の色も一切ない。

 あるのは無限の好奇心と探求心。そして興奮だった。

 

 

「あのな」

「特に凄いのはあれです!」

 

 

 トチノキの言葉を遮って、イカルア嬢は死闘を繰り広げるドドブランゴを指さした。

 

 

「な、なんて?」

「見てくださいよアレ!!」

 

 

 不承不承。トチノキは彼女が指さす方向を見た。

 

 

「ウギャーッ!」

「ホワアアアアアアアア!」

 

 

 互いの突進がかち合い、再び取っ組み合いの姿勢となったドドブランゴの下半身。その中心に垂れ下がるもの。彼女が指さしているものはそれだった。

 

 

「──────」

 

 

 トチノキは目を丸くしてそれを見つめた。

 

 

 その巨体に相応しい()()が、興奮と命の危機にさらされて高々と屹立していた。

 その大きさときたら! まるでランスめいていた。

 

 

 二人は互いに顔を見合わせ、それから腹を抱えて大笑いした。

 

 

 

 声を張り上げて笑う彼らに、気を向ける者はいない。それが分かっていたからこそ、彼らは思う存分に笑いこけた。

 古今東西。突き抜けた下ネタというものはいつだって笑いへと昇華されるものだ。例えそれが呆れと怒りに支配された大人だって、それはきっと変わらない。

 

 

 トチノキは兜を脱いで目の端の涙を払うと、イカルア嬢の脳天に拳を振り下ろした。それから悶絶する彼女に背を向け、勝利の雄たけびを上げる満身創痍のドドブランゴに、まるで長い年月を分かたれていた友を出迎えるように微笑むと、引き金を引いてレベル3通常弾を叩き込み、脳天を吹き飛ばした。

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