通常弾ぺちぺちマン   作:三流二式

3 / 34
自分が思っている印象と、他者から見た印象は大体違うものなのよねん。


ソロハンター〝白雪鬼〟(しらゆき)

 さくりさくり。足元の雪を踏み鳴らし、男たちは今日も今日とて畑仕事に勤しんでいた。

 厚着の子供らが白い息を吐きながら、寒さなんてへっちゃらだぞ、とばかりにはしゃぎながら通りを走り去ってゆく。女たちはその様を穏やかに見つめながら、井戸端会議に花を咲かせている。

 

 

 ここはポッケ村。フラヒヤ山脈近くの雪山の懐に抱かれた村。雪に閉ざされた静寂の村。

 物流や人手も乏しい。モンスターの脅威に晒されることも多いこの村だが、しかしそこに生きる人々は生命力に満ちていた。

 

 

 寒さなんて何するものぞ。誰も彼もが胸の内にそんな思いを滾らせて、今日も自然の脅威に引かず臆せず真っ向から立ち向かっていた。

 

 

 さてさてそんな平和な村の一角に控える小屋から、一人の男がふらりと現れた。男はゆったりとした足取りで通りに向かって、正しくはその先にある村の出口へと歩を進めた。

 男の姿を認識するや、村人たちにビリリと緊張が走った。男女子供アイルー問わずそろいもそろって纏う空気が一変した。

 

 

 先ほどまでの喧騒が一転して静寂へと変わった。彼らは黙って男に道を開けた。神に道を譲る信徒の様に。

 

 

 この男を言い表すならば、白銀の太陽。あるいは雪。

 

 

 年の頃は20代半ばといったところ。流れるような銀の髪を首元まで伸ばし、女と見まがう顔は眉目麗しく、白い肌はまるで雪の精霊の様。本人曰く父譲りだという黒紫の瞳は妖しく、偶々夜に彼の瞳を見た男曰く、まるで夜に閃く星のようだったと興奮気味に語っていた。

 

 

 すらりとした手足は、しかし今回は白い怪しげな衣服に包まれて残念ながら拝むことはできなかった。

 この防具、名を『フルフルシリーズ』と言い、目の無い不気味な飛竜『フルフル』から作られた防具である。

 

 

 男は相変わらず眠たげな眼で彼らを一瞥し、すぐにぷいっと目を背けた。まるで興味など無いとばかりに淡々と。彼が横切った後、男女問わずほうっとうっとりとしたため息を吐いた。辛抱堪らずその背に駆けだそうとする女がいたが、隣にいた友人の女が首根っこを引っ掴んで止めた。

 

 

 男の背には海老を模した軽弩が背負われていた。その名の通り『エビィーガン』という名のこのボウガンは水属性の弾を撃つことに長けており、村人たちはこの後イャンクックを狩りに行くという彼の言葉を思い出していた。

 

 

 となると場所は密林か。ならそこそこ長い時間彼は村からいなくなってしまうだろう。

 ゲート近くで佇んでいる村長と『ネコートさん』に声をかけて出ていく男の背を見つめながら、村人は心底残念がった。

 

 

 最早語りつくしたと言っていい程だが、彼はとてつもなく美しい。それに腕っぷしもたつ上に話を合わせるのも上手いときた。

 半分竜人の血が流れているから左耳がとがっており、左手の指が4本しかない。普通は気味悪がる要素なのだが、神話で英雄が半分人外であることなど鉄板中の鉄板だ。

 

 

 眉目の美しさとそれらの要素が相まって、むしろ彼の神秘性を高めている要因となっていた。

 

 

 思えば彼は小さなころから我々とは何処か隔絶した雰囲気をしていた。

 村人はしみじみ思い返す。

 

 

 もう20年前の事になるが、それは雪山で救難要請の信号弾が打ち上げられたのをギルドの気球が発見した時の事だ。

 偶々ポッケ村に滞在していたハンターが急いで駆け付けはしたが、信号弾を打ち上げたハンターは見当たらなかった。

 

 

 駆け付けたハンターもティガレックスを追い払う事には成功したものの、当のハンターは終ぞ見つけられなかった。

 仕方なく諦めて帰ろうとした矢先、連れてきていたアイルーが鼻をすんすんさせ、急に走り出した。そしてアイルーが止まった所に彼はいた。

 

 

 駆け付けたハンターたちが言うには目にした瞬間、まるで雷に打たれたみたいな衝撃を受けたという。雪の上で倒れ伏し、浅く呼吸する幼子はまさに雪の精霊の様であり、一時自分たちが幻覚でも見ているのかと錯覚したと語っていた。

 

 

 その後村で保護された彼は、村長にこの村に住ませてほしいと嘆願したとのことだが、村長曰く『幼子とは思えない程精神が熟していた。話している最中に何度大人と話していると思ったことか』とのことだ。

 

 

 村長の言う事が正しいと分かるのは、そう時間はかからなかった。

 彼は村で暮らし始めてからすぐに自分から仕事を求めて村中をあっちこっち駆けずり回っていた。

 

 

 病み上がりだからとか、子供なのだからという言葉にまるで耳を貸すことなく、彼は大人に混じってひたすら畑仕事に精を出した。その仕事ぶりや仕草は成熟した大人のそれであり、なるほど、確かにこれは子供とは思えないと誰もが納得した。

 

 

 そして男の印象を決定付ける決定的な瞬間が訪れた。

 それは彼が村に住み着いてから数年がたったある日の事。雪山で山菜取りに出かけていた村の男が肉食モンスターの群れに襲われるという事件があった。

 

 

 幸い肥やし玉を携帯していたから何とか逃げおおせたものの、依然雪山には男を襲ったモンスターの群れが住み着いており、これではとても山菜取りに出かけられる状況ではなくなってしまった。

 

 

 村人はそろいもそろって頭を抱えた。村長は村人たちと元専属ハンターとギルドマスターを集め、意見を出し合った。

 

 

 どうする、ハンターを雇うか? 無茶言うな、そんな金が何処にある、もっとよく考えて話せこの馬鹿。何をこのごく潰しが。黙れ耄碌ジジィじゃあどうすんだ。この村で戦える者などおらんぞ。あたしが若ければドスギアノスなんてちょちょいのチョイだったよ。ホラを吐くなデブ。残念ながら今このギルドで出せるハンターはおらんのう。なら私が行きます。お主は座っとれ等々。

 

 

 話し合いはようとして進まず、ギルドマスターが打診してハンターを呼び寄せようと席を立ったその時である、話し合いの会場として選ばれたギルドの入り口から彼が入ってきたのは。

 

 

 彼の体は酷く汚れていた。赤黒く生臭い汚れで。

 

 

 呆気に取られている大人たちに目もくれず、彼は右手に持っていたものを放り投げた。

 それは放物線を描いて大人たちが囲むテーブルのど真ん中にべしゃりと音を立てて落下した。

 

 

 初めはそれが何なのか、大人たちは理解できなかった。しかし凝視するにつれ、それが村の男を襲った肉食モンスターのリーダーの生首であったことに気が付き、わっと驚いた。あまりにも驚きすぎて、椅子から転げ落ちた者がいるくらいだった。

 

 

「ドスギアノス、狩っといたから」

 

 

 驚愕する大人などに目もくれずに彼は短くそういうと、固まっている村長にツカツカと近寄って、右手をずいっと突き出した。

 

 

「報酬くれよ報酬。討伐報酬な。900ゼニーで良いぜ」

 

 

 村長は突き出された手を凝視し、それからゆっくりと顔を上げて目の前の子供を見た。

 

 

 防具らしい防具は身に着けておらず、唯一の武装は背中に背負われた軽弩のみであった。その事実に村長は、その他の村の大人たちは再び驚愕に目を見開いた。

 とりわけギルドマスターと長きにわたり村を守ってきた元専属のハンターの驚愕は大きかった。

 

 

 その理由はライトボウガン、というよりボウガンや弓の役割と言ったら他の近接武器の支援が専らだったからだ。

 ライトボウガンは言わずもがな。ヘビィボウガンは火力が高いが動きは鈍く、この武器の運用方法はランスの様な近接要員に守られながら使うものなのだ。弓だって威力は高いが狙われてしまえば成す術がないものなのだ。

 

 

 何より遠距離武器は敵の弱点を正確に射貫く技術が必要だ。当然動き回りながらそんなことが出来る者はいない。だからこそ近接要員がモンスターを引き付け、どっしりと後方で構えながら隙を見て支援射撃をしたり、強力な砲撃を撃ち込む物なのだ。動き回りながら戦うことなど基本的にあり得ない事なのである。

 

 なのにこの少年はこの年で、こんな小さな体で村を悩ませていた怖ろしい怪物の親玉をたった一人で仕留めて見せたのだ。しかも信じられない事に軽弩で。

 

 

 それはつまり、激しく動き回るモンスターを自身も動き回りながら正確無比に弱点に当て続けるという途方も無い神業を行い続けた証左であり、良く見れば彼の体は返り血で汚れているだけで、傷らしきものは一つとして無かった。

 

 

 集った大人たちは再び彼を見た。全身は血糊や泥で汚れており、整えられていた銀の髪はあっちこっち乱れていた。しかし、室内に灯されている松明の炎を反射して妖しく光る黒紫の瞳は、銀の髪は、混じり気無しに美しかった。

 

 

 その事を理解した瞬間、実際に実行はしなかったものの、確かに彼らは傅いた。この少年に、彼らは神を見出した。

 

 

 この日、(せかい)が彼にひれ伏した。

 

 

 そこからである。村人たちが彼への態度を変えたのは。

 10になるかならないかの少年に、表向きは普段通りに接しはするが、内心ではただひたすら頭を下げて平伏していた。

 

 

 一部の者は変わらず異形の怪物とか、半端ものの人擬きと言いふらしていたが、それはそうでもしないとのめり込んでしまう事を恐れたが故の事であった。

 

 

 だが更に月日は流れ、十数年経った今では陰口を叩く者はいなくなっていた。そんな事をするには、男はあまりにも美しくなりすぎてしまった。

 

 

 銀の髪は太陽の具現であり、黒紫の瞳は夜の結晶。白い肌は雪を固めて作ったが如く、彼の体はまさしくポッケ村そのものであった。

 だからこそ、そんな彼を村人たちが神と崇め奉るのは、ちっとも不思議な事では無かった。

 

 

 神の噂を聞きつけて、この村にも少しずつハンターが訪れるようになった。そして彼の姿を一目見れば、男も女もたちまち虜になってしまった。

 誰が言い出したのか、いつしかポッケ村に白き鬼が住むという噂がまことしやかに囁かれることになった。

 

 

 今日もまた、白き鬼を求めて一組のハンターがやって来ては、不在のためギルドの前で嘆き悲しむ姿が見られた。しかしその光景はポッケ村では日常茶飯の出来事で、近くを通り過ぎたアイルーが肩を竦めた。

 

 

 ここはポッケ村。麗しき白き鬼が住みついている村。雪に閉ざされた、神の潜む秘境。

 

 

 

 




ドスギアノスよかドスジャギィ復活はどうなんですかい?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。