通常弾ぺちぺちマン   作:三流二式

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クック先生は素直に通常速射を受けてくれるから好きよ。(4から先は知らん。ダンゴムシを飛ばしてくるな!)


VSイャンクック

 乗っていた船から降りるとじめっとした生ぬるい風が顔にかかった。

 顔を顰め、舌打ちを一つすると連れて来たオトモアイルーの『ヨシツネ』がこちらを怪訝そうな顔で見上げてきた。

 

 

「何だよ」

「まぁ~た眉間に皺が寄ってるニャ。旦那さん顔が良いらしいからあんまそういう顔しない方が良いニャ」

「余計なお世話だこの猫」

「あ? 何ニャソレ? アイルー差別ニャ? 喧嘩売ってるニャ? そうなんニャろ? ん?」

 

 

 不良みたいな絡み方してくるオトモの横を通り過ぎ、既に建てられていたキャンプの方へ向かう。

 

 

「あぁ? これはもう完全に僕に喧嘩売ってるニャ! この野郎上等ニャ! ぶっ殺してやるニャ!」

「オトモ」

「あ゛ぁ゛!?」

「キャンプで準備完了次第すぐに出発するぞ。早くしろ」

「うん」

 

 

 俺らはそろってキャンプに入り、装備の点検、荷物のチェック、体調に問題がないか素早く確認し、特に問題がない事を確認すると装備を身に着け、キャンプから出た。

 さあクエスト開始だ。

 

 

「えぇ……とあいつは今どのあたりにいるかなっと」

 

 

 俺は支給された地図を広げながら、奴が居そうなところをいくつかピックアップして、近い順に向かうことにする。この時なら4か3あたりだろうか? 

 

 

「モンスターごとに好んで行く場所の目星は大体付けられてるんだから便利なもんだな」

「技術の進歩とはかくの如しニャ」

「違いない」

 

 

 俺たちは軽口を叩きながら歩を進める。

 今回の依頼はギルドからの物で、『密林の大怪鳥』というクエストだ。依頼内容は時折人を襲うから狩猟よろしくという、まあよくあるものだった。

 

 

 このクエストはポッケ村の集会所から出された所謂集会所クエストで、ランクは下位の星2といったところ。記憶では密林なら亜種の方が出てきたような気がするが、まあイャンクック亜種だろうが原種だろうが行動に差異は無いからどうでもいいか。

 

 

 俺とヨシツネはエリア4の波打ち際の砂を踏みしめ、途中絡んできたクソッタレカスゴミうんこ、通称『ヤオザミ』を散弾で穴だらけにしながら、イャンクックの影を探した。

 

 

 いなかった。まあいい。時間はまだある。

 ヤオザミからとったザザミソを啜りながら、俺たちは大怪鳥を探すために密林の中を彷徨った。

 

 

 それにしてもどうだ? 体の芯から凍らせるような雪山から一転して、密林のじめじめとしたこの気候ときたら! 

 藪をかき分け、垂れ下がるつる草をハンターナイフで切り分けて進みながら俺は思う。

 

 

「こんな所で狩猟しようとする奴なんて正気じゃないな」

「ボウガン一丁でモンスターを狩るような人間の台詞じゃ無いニャ。恥を知れニャ」

「爆弾担いで特攻する馬鹿に言われたくはない」

「あ? 旦那さんがやれっていうからやってやってるニャ? 自分で言った事すら忘れてるニャ? もしかして僕喧嘩売られてるニャ? 買うぞおらかかって来いニャ」

「オトモ」

「あ゛ぁ゛!? ニャに気安く話しかけてきてるニャ!? ぶっ殺すニャよ!」

「奴が居た。準備しろ」

「分かったニャ」

 

 

 エリア3と4は外れ、その次にエリア8と6を経由してエリア5へと行ったが、ここで俺たちは当たりを引いた。

 密林のエリア5は開けた空間で、そこのど真ん中にそいつはいた。

 

 

 桃色の外殻としゃくれた大きな嘴、扇状に開くこれまた大きな耳をぴくぴくと動かしながら、そいつ、『大怪鳥イャンクック』はのんびりと佇んでいた。

 

 

 俺はヨシツネに素早く目配せした。ヨシツネは頷くと、しめやかに駆け出し、バレない様にイャンクックの後方に移動した。

 ヨシツネのポジション確保が無事に終わるのを見届けながら、こちらも準備を進める。

 

 

 背負っていたエビィーガンを下ろし、水冷弾が入っていることを確認する。それからポジション確保するためにちょこちょこ場所の微調整をした。

 長年遠距離武器で戦って来て分かった事なのだが、この武器種で一番重要なのは初めの不意打ちの時にどれだけ相手を削れるかだ。

 

 

 そのまま押し切って殺せるのが一番いいが、それが出来ない場合はどれだけ機動力を奪えるかとか、どれだけその後の行動に支障が出るように傷つけられるかどうかで戦いの流れが決まる。

 ババコンガなら尻尾をちぎり取れればキノコをストックすることが出来なくなるからブレスを弱体化させられるし、ダイミョウザザミなら背中の殻を破壊できればタックルの威力が落ちるからよい。

 

 

 イャンクックの様な飛べる奴なら翼膜をズタズタにしてやることが出来ればもう二度と飛行できなくなってとても良い。サマーソルトが出来なくなったリオレイアを見るのはとても愉快だった。

 

 

 俺はイャンクックの前方右斜めあたりに陣取り、ひたすら奴が隙を見せるまで待った。

 こっちが苦労してあっちゃこっちゃ移動している間にも、奴の動きはのんびりとしたものだった。

 

 

 イャンクックは時々きょろきょろしたり、足元の地面を引っかいたり、鼻をすんすん鳴らしてはくしゃみをしたりしていた。

 俺は奴の仕草から不意打ちするのに最適な動作を確認するまで微動だにせず、血眼になって観察していた。

 

 

 そしてイャンクックはあくびをするみたいに大口を開けて翼を広げる動作をした。

 

 

 ここが仕掛け時と見た俺は身を隠していた木から飛び出し、奴の顔面から翼にかけて斜めに貫き通すように水冷弾を連射した。

 

 

「クェエ~!?」

 

 

 奴は面食らってもんどりうって倒れた。その好機を逃すなんて余程の馬鹿かハンターを始めたばかりの素人だけだ。

 俺はすかさずリロードし、奴が体勢を立て直すまで撃って撃って撃ちまくった。

 

 

 やがて体勢を立て直し、自分の状況を理解したイャンクックは目をクワッと見開き、翼を広げてぴょんぴょんと跳ねた。

 荒げた呼気に炎が見え隠れしている。怒り状態へと移行した証拠だ。

 

 

 俺は撃つのを止めて後ろに跳んで距離を取り、起き上がった奴の姿を観察した。

 

 

 先ほどののんびりとした雰囲気は消え失せ、外敵を排除しようという明確な敵意と殺意がイャンクックから漲っていた。

 しかし、怒って体を大きく見せるように翼を広げて威嚇する奴の体はボロボロだった。

 

 自慢の耳は両耳とも千切れており、翼膜にいたっては穴だらけで、これではとてもじゃないが飛ぶことなんて不可能だった。

 つまるところ、もうこいつは逃げ出すために空を飛んでエリア移動なんていうふざけた事が出来なくなったという事だ。

 

 

 これは良い。こいつは俺の事ばかりに気を取られていて、後ろにいるヨシツネなんかさっぱり眼中に無かった。これがとても良い。

 足で地面を掻き、今まさに突進しようとする背後から大タル爆弾を持って突っ込んでくるヨシツネにさっぱり気づいていないなんて、今日はとても良い日だと思わずにはいられない。

 

 

「ニ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

「クエッ!?」

 

 

 大和魂を籠めた気合の叫びで奴はようやくヨシツネの存在に気がついたようだが、もう遅い。俺に散々練習させられたヨシツネの爆弾特攻は完璧で、ぎりぎりまで近づいてから放り投げられた大タル爆弾はイャンクックに避ける間など与えなかった。

 

 

 ヨシツネは素晴らしい前転で距離を取った。爆弾は放物線を描いてイャンクックへと迫る。イャンクックは今まさに死が迫っているというのに、それでも彼の目に諦めの色は一切無かった。

 

 

 生きようと藻掻く大怪鳥に、死神が迫る。大怪鳥は少しでも長く生きようと回避動作をとった。

 大怪鳥は吠えた。死神を追い払うために。死神は哀れな犠牲者に向かって憐みたっぷりに首を振った。

 

 

 次の瞬間、爆音が世界を引き裂き、天を揺るがせた。

 紅蓮の炎が吹き上がり、天に上りゆく龍の如く空へと立ち昇った。

 

 

 手で顔を覆って爆風から身を守る。俺より近くで爆風をもろに受けたヨシツネは悲鳴を上げてころころと転がっていった。

 

 

「ニャ~しびれるニャー!?」

 

 

 余裕そうなので無視。それよりイャンクックの状態の方がはるかに気になる。だが爆煙は濃く、向こう側の彼の状態はようとしてつかめなかった。

 どうなっているか分からぬ状態で迂闊に動くとどうなるか、駆け出しのころに嫌ってほど味わった。迂闊に近づいて突っ込んできたリオレウスの姿は未だに夢に出る。

 

 

 無駄弾を撃つのが嫌だから煙に向かって乱射するのも憚られる。俺は煙が自然に消えるまでただひたすら待ちの姿勢だった。体勢を立て直したヨシツネの奴もいつでも爆破できるように両手に小タル爆弾を抱えながら煙の先を凝視していた。

 

 

 風が吹いた。死神だって吹き飛ばすような強い風が、俺たちの横っ面に叩きつけられた。思わず腕で目を覆う。

 風はたっぷり10秒間ほど吹きすさび、風がやんで腕を下げると、爆心地の真ん中に横たわって動かないイャンクックが目に入った。

 

 

「はぁー……」

 

 

 俺は構えていたエビィーガンを下ろし、息を吐いた。緊張が解かれ、精神的な疲れがどっと襲い掛かってきた。思わず尻もちをつく。

 

 

 狩りの後はいつもこうだった。未だに命のやり取りに慣れることは無く、弾丸越しならマシになったとはいえ、終わった後はこの様だ。

 こんな有様でよく20何年もハンターを続けられたものだと、感心せずにはいられない。いい加減慣れてもいい頃だろうに。

 

 

 クエスト終了を知らせる信号弾を打ち上げ、ギルドの連中が来るまでの間、俺はしばらく腰を下ろしたまま空を見上げた。

 やはり遠距離武器だけでしか狩猟してこなかったからだろうか? 勇気を出してハンマーや双剣に手を出してみるべきだったのか? 

 

 

 でもさ、良く考えてみろよ? イャンクックでさえ怒り状態になれば小型モンスターとは一線を画すほどの威圧感になるんだぜ? あれを至近距離から浴びながら、尻尾攻撃や火炎液を、鳥竜種特有のノーモーションタックルを避けきる自信があるか? 近接武器を担いだまま? 冗談じゃない。

 

 

 ゲームと違って痛みがあるし、回復薬で傷が治るとはいえ、常に死の危険が迫ってくるんだぞ。ネコタクのおかげで死ぬ前にキャンプに連れていってもらえるとはいえ、誰が好き好んで痛みを受けようなどと思う? 

 

 

 誰かと一緒にクエストを受けざるを得ないときがあるが、一緒になるハンターはどいつもこいつも近接武器ばかりだった。ガンナーの奴とコンビを組んだことなんて一度だってありはしない。

 なぜ彼らはあんな怪物たちと切った張ったが出来るのだろうか? 

 

 

 やはり俺が軟弱だからか? もしかしたら自分自身を愛しきれていないのかもしれない。自分自身を愛しているのならば、信頼できるならばハンマーや双剣を手に取り、モンスターと戦えているのかも。

 

 

 ギルドの連中がダバダバとやって来た。俺は頭だけ剣士仕様にしたフルフルヘルムのフードを被り直し、剥ぎ取りを行った後に引継ぎをしてからキャンプへと向かった。

 

 

「平気ニャ?」

 

 

 いつもの様に心配そうに見上げてくるヨシツネに、俺は肩を竦めた。

 

 

「平気もくそも」

 

 

 俺はいったん言葉を切って、乗り込んだ船の上から流れゆく雲を見上げながら言った。

 

 

「やるしかないのさ」

「そうかニャ」

 

 それから俺たちは黙って空を見上げた。

 

 

 思う事は多々あるけれど、何にせよ、終わり良ければ総て良し。生きてクエストを達成できたことを、今は喜ぼうではないか。

 

 

 死神がこちらに振り向いて、にやりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 




展開の都合上弾が切れたり切れなかったりします。回復薬とかの効果も効き目が良かったり良くなかったりとまちまちです。
リアル寄りの描写を期待した読者の皆様には申し訳ありません。

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