通常弾ぺちぺちマン   作:三流二式

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何だか年々リオレウスがハンマーで狩づらくなっているのは気のせいでしょうか?


王者の風に夢を託して ~あの溝を越えて~

 春と聞かれて思い浮かべる単語とは何だろうかと聞かれたら、俺は出会いと別れと返すだろう。

 

 

 セリアが俺の家に転がり込んできてもう一ヶ月が経とうとしていた。その間にポッケ村にも春が来た。

 で、春と言えば俺からすれば出会いと別れの季節であり、今日が過ぎればセリアはドンドルマに帰る事になっていた。

 

 

 俺は今セリアが受けた依頼である森丘に出現したイャンクックの狩猟に同行していた。

 セリアの奴はこれが俺との最後の依頼になるからっていうんで、自分がどれだけこのクエストに力を入れているか興奮気味に熱弁していた。

 

 

「いいですか白雪鬼さん! そりゃあ私は貴方と一緒にいて活躍できた事なんて全くと言っていいほどありませんでしたけど、この世には有終の美という言葉だってあるんです! 最後くらいバシッっと決めたいじゃあありませんか!」

 

 

 アプトノス車の中で食い終えたこんがり肉の骨を振り回しながら野郎は捲し立てた。

 俺は彼女の熱気に圧倒され、口を開くタイミングを見失っていた。だから目の前ででかい声を張り上げるこいつの唾が時折飛んでくる事への文句も言えやしない。

 

 

「ダラダラダラダラとさっきから何なのニャおみゃーは?」

 

 

 俺の膝の上を我が物顔で独占するヨシツネが、いい加減うんざりしたように対面で大声を張り上げる馬鹿を睨みつけた。

 

 

「だって最後ですよ最後! 1ヶ月間一緒にクエストを受けてきて良い所が一つも無かったなりに私だって成長してるんです! そこを! このクエストで! お見せして! ほんの少しでも好感度を上げておこうと思いまして!」

「ぶっちゃけやがったニャこいつ! とうとう取り繕う事すらしなくなったニャ! なんちゅう奴ニャ! とんだ厚かましさ! 親がいたら見てみたいもんだニャ!」

「な、な、な、何でそこまで言うんですか~! 気になってる人の好感度を上げたいと思う事は悪い事じゃないでしょー!」

 

 

 売り言葉に買い言葉で、ヨシツネとセリアはお互いの事を罵り合いながら延々ヒートアップしてゆく。

 それを目の前で聞かされるこっちは堪ったもんじゃない。耳を塞ごうにもモノブロSは頭を完全に覆うタイプの頭防具だから、音を遮断するにはこいつを外さなくてはならない。

 

 

 そこで俺はある妙案を思いついた。最近常々思っていたことだし、ちょうどいい切っ掛けを探していたところだったから、これはチャンスだと思った。

 

「あ、良い事思いついた」

「「ニャ? (へ?)」」

 

 

 俺の呟きに、バカ二人は示し合わせでもしたかのように罵り合いを中断して揃ってこっちに顔を向けた。

 

 

「いやなに、お前の熱意は十分伝わった。で、この一ヶ月確かにお前は良いとこなかったけど頑張ってるとこは十分見せてもらった」

「え? あ、ありがとうございます……?」

「だからこのクエストの成否如何でお前に()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「面白いもの、ですか?」

 

 

 いまいち要領を得ない顔で俺の言った事を復唱するセリアに、俺はただそうだと返した。

 

 

「ご褒美と思ってくれて構わん。だからクエストに向けて精々集中力を高めるためにその口を閉じてろ、このボケ」

「……分かりました」

 

 

 俺の言うことに素直に従い、セリアは本当に目的地である森丘につくまで口を利かなかった。

 

 

「なんだか知らニャいけど……あまり変なことしてチョーシに乗らせちゃダメニャよ? この手の手合いは隙を見せたら延々絡んで来るに決まってるニャ」

 

 

 俺の膝の上でふんぞり返りながらヨシツネがこれ見よがしにセリアをせせら笑ったが、当のセリアは言いつけを忠実に守る犬みたいに口をつぐんでいたから、ヨシツネは拍子抜けしたように俺の腹を背もたれに脱力した。

 

 

 うるさいのが両方とも口を閉じたから馬車の中がようやく静かになった。俺たち3人は森丘のベースキャンプにつくまで自分の世界に引っ込んでいた。

 

 

 車を引くアプトノスは文句ひとつ言うことなく淡々と進み続け、太陽が昇り切る前に森丘のベースキャンプに到着した。

 ベースキャンプに着くなりセリアは真っ先テントの中へ入り込み、俺ら2人がテントに入るころにはテントから飛び出して支給品箱をあさっていた。

 

 

「随分とまぁ気合入ってんのな」

「最後ですからね!」

「チッ!」

 

 

 力強く頷くセリアに対し、ヨシツネはデカい舌打ちを一つ零した。

 

 

「……」

 

 

 俺は親の仇を見るかのような目でセリアの後姿を睨みつけるヨシツネの後頭部を見ながら、何故この二人はこんなにも互いを憎み合っているのか不思議でしょうがなかった。

 

 

 俺はセリアの事が嫌いではない。確かに実力不足の癖に周りをちょろちょろする姿は足手まとい以外の何物でも無いが、たかがハンターを始めて数年そこらのガキに何を期待すると言うのか? 

 むしろこいつは年の割には十分以上にやっていると思う。何より面が良いし、話していて気持ちのいい奴だから不快感もそこまでじゃない。対するヨシツネは誰にも彼にも愛想の悪い獣畜生だが、セリアに対しては特にあたりが強い。

 

 

 なぜだ? この一ヶ月で彼女の人となりは大体わかったはずだ。彼女は嘘が下手で、どうも腹の内はあまり隠さない人間で、こちらに対して悪感情は持っていない事くらい俺にだって分かった。

 それでもなお初対面の時と態度が変わらない、それどころか日が経つにつれてどんどんあたりがキツくなっていくのは、おそらくセリアの何かしらが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それが意識的にしろ無意識的にしろ、何にせよ魂が出てきてしまったのなら俺から言える事は何もない。魂の問題はその人自身でしか解決できない事なのだから。

 人と人。馬が合わない奴は何処にだっている物で、まあ結局の所そういう事なのだろう。

 

 

 俺はそこで思考を取りやめ、ヨシツネの後頭部からイャンクックを相手に死闘を繰り広げる若き女ハンターに目を移した。

 

 

「はあ……! はあ……!」

「クェエエ!!!」

 

 

 場所は草原地帯のエリア1。何でそこになったかというと、俺が飛んでいたこいつをヘビィボウガンで叩き落としたからだ。

 

 

 セリアがイャンクックと戦い始めて10分経過といったところ。彼女は熱弁していただけあって今のところ無被弾。しかし回避に専念していたことによりスタミナの消費が激しい。いったん距離を取ってスタミナを回復したいところだ。

 対するイャンクックは振り向きに合わせて抜刀大剣を食らい続けたために顔中傷だらけだった。

 

 

 俺はよほどの事がない限り手出しするつもりがなかった。ヨシツネも俺と同じように距離を置いてつまらなそうに二人に戦いを見つめていた。こいつには手出し無用とか何も言ってはいないが、こいつにはそもそもからして彼女のために何かしようという気が無いらしい。

 

 

「クェエ!」

 

 

 完全にプッツンきたイャンクックは口から火炎を漏らしながら、4連続で突いてきた。

 

 

「はあ!」

 

 

 怒り時のイャンクックの行動は尋常じゃなく素早くなるが、さすがにチームでリオレイアを倒せるだけあってセリアはこれを回避し、嘴が地面に突き刺さって抜くのに手間取っている間に翼に重い一撃を食らわせた。

 

 

「クェ~!!!」

 

 

 嘴を引っこ抜いたイャンクックは今度は尻尾を振り回して接近を拒絶してきたが、セリアは上手い事これをかいくぐり、胴体に抜刀しながらの振り下ろしで切り付けた。

 

 

 

「クオッ!?」

 

 

 今のはかなり深い一撃だった。流れ出る血で足元の草を汚しながら、イャンクックはたたらを踏んだ。

 

 

「んんんんんんでやあああああああ!!!」

 

 

 これで決めると踏んだセリアは大剣を上段で構え、力を溜めてからの溜め切りを繰り出した。

 

 

「クエ~!!!」

 

 

 その一撃は先ほど胴体に付けた切り傷をさらに深くえぐり、体が殆ど裂けるくらいの切り傷というより亀裂のような傷をつけた。

 

 

「グエ~……」

 

 

 流石にモンスターといえどもそれだけ大きな傷をつけられたらお終いだった。イャンクックは力無く倒れると、最後に一つ大きく身動ぎし、それっきり動かなくなった。

 

 

「はあ……はあ……やった……やった! ソロで討伐できた!!! あはは!」

 

 

 あれだけ息を切らしていたにもかかわらず、ソロ討伐に成功できた喜びから疲れなど吹っ飛んでしまったかのようにぴょんぴょん跳ねて体全体で喜びを表現していた。

 強い感情というものは伝染し、周囲の人にも影響を与える物だ。セリアの喜びにつられ、俺は意味も無く笑ってしまった。

 

 

「ちぇ、無乙かニャ。つまんねーの」

 

 

 一体何を期待したのか、ヨシツネはかーぺっ! と唾を吐き捨てた。

 大方ヨシツネはセリアが無様に3乙してクエスト失敗を期待したのだろうが、そもそも彼女の実力はドスイーオスの群れを相手にできるくらいはある。したがって余程油断しない限り、イャンクック相手に後れを取る事などまずあり得ない。

 

 

 尤もそんな事を懇切丁寧にこいつに言い聞かせたところで無駄だという事は長年の付き合いで知っているから、俺は何も言わなかった。

 

 

「へっへ~ん残念でした! 見ての通り私は五体満足だもんねぇ~だ! お生憎様、見たかったものが見れなくって可哀そ~」

「ハァッ!? 何ふざけたこと抜かしてるニャ! お前さては喧嘩売って来てるニャ? 上等だこの野郎! ぶっ殺してやるニャ~!!!」

「何を~!!!」

 

 

 うにゃうにゃと程度の低い喧嘩をおっぱじめたバカ二人を尻目に、俺はクエスト完了の信号弾を打ち上げようと地面にしゃがみこんだ。

 

 

 そんな時だった。

 

 

 ぶわっと強烈な風が吹きすさんだ。

 

 

「ッ!?」

 

 

 体の発した危険信号に従い、俺は咄嗟に前転回避を行った。

 

 

 回避姿勢からすぐに体勢を立て直し、背中のヘビィボウガンを手に取りながら反転する。セリアの姿が無かった。

 

 

「!? おいヨシツネ! セリアは!?」

「あそこニャー!」

 

 

 ヨシツネが指を指す方向に目をやると、そこにはホバリングする天空の王者の姿があった。

 

 

 紅い甲殻に身を包み、リオレイアに酷似したフォルムは彼女に比べて刺々しい甲殻が目立つ。翼膜は炎を思わせる黒い模様があり、力強く羽ばたく姿はまさに王を思わせる威風堂々としたもの。

 火竜『リオレウス』が、片足でセリアを鷲掴みしながらこちらを睥睨していた。

 

 

 俺は一も二も無く氷結弾を発砲していた。出し抜けに放たれた弾丸を、しかしリオレウスは回り込むような動きで簡単に回避してしまった。

 これが下位個体なら面食らって食らったものなのだが、回避してきたとなると……。

 

 

「糞ったれ、乱入制度は3からだろうが!」

 

 

 毒づきながら俺は照準を合わせ、再度発砲。自動装填のおかげで装填の手間が無いから、残弾が許す限り俺は好きに撃てるという訳だ。

 

 

「グォオッ!?」

 

 

 こんなに早く撃ってくるとは思わなかったようで、反応が間に合わず胴体に思い切り氷結弾が着弾したリオレウスは体勢を崩して空中で仰け反った。しかし反応と言えばそれだけで未だ空中に奴はあり、肝心のセリアは掴んだままだ。

 

 

「ニャー当たらないニャー!?」

 

 

 ヨシツネも援護射撃ならぬ援護投擲で小タル爆弾を投げまくるが、機動力が高すぎてさっぱり当たらず、逆に炎ブレスを吐かれて吹き飛ばされていた。

 

 

「ニャイエエエエエエ!?」

 

 

 ころころと転がってゆくヨシツネを尻目に、俺は次の一手をどうするか考えた。

 

 

 リオレウスに飛ばれたら閃光玉でとっとと叩き落すべきなのだが、セリアがいる以上そんな事をしたら潰れて面白おかしい死体の出来上がりだ。

 なら徹甲榴弾? 残念ながら持ってきた分しか無ぇから外す心配を考慮すると使えない。散弾なんて以ての外だ。

 

 

 奴は俺の事をそれなりの外敵とみなしたらしく迂闊に攻めてこず、ホバリングしながら俺の周りをぐるぐる回った。

 どうする? このまま考えこんでいても状況は良くならないどころか離脱される危険性を考えると悪くなる一方だ。

 

 

 俺とリオレウス。どちらも攻めあぐねていた。互いに隙が無さ過ぎた。にらみ合いばかりで時間だけが無意味に過ぎて行く。

 

 

 睥睨する王。晴れ渡る空。我関せずにただ揺られている草花。膠着状態の中で、彼らはただ静かに囁き合う。いったいどちらが死神に連れていかれるのだろうか、と。

 

 

 額から汗が流れ落ちる。打開策がさっぱり見えてこなかった。こんなにももどかしい気分になったのはずいぶんと久しぶりだった。思わず舌打ちが出る。

 

 

 延々と続くかと思われた膠着状態は、しかし唐突に終わりを告げた。

 膠着状態が破られるのはいつだって膠着している両者以外の者によるもので、今回もまた、膠着を打ち破ったのは全くの予想外の者だった。

 

 

 唐突にリオレウスが悲鳴を上げた。あまりにも唐突すぎてきょとんとした状態で棒立ちする俺をよそに、状況はどんどん進展していく。

 リオレウスは足をばたつかせた。特にセリアを掴んでいる方の足をだ。

 

 

 すかさずそちらに目をやると、何とセリアの奴はあの体勢で強引に大剣を持ち上げ、のこぎりを引く要領でリオレウスの足をぎこぎこと切り裂いていたのだ。

 

 

「このっ! このぉー!!!」

「グオオ!?」

 

 

 リオレウスは堪らず悲鳴を上げ、セリアを放り投げてどこかへ飛んで行ってしまった。

 呆気にとられた俺はその姿を追撃もしないで、ただ呆然と目で追う事しかできなかった。

 

 

 〝覚えてろ! 〟

 

 

 王の去り際に、ふと頭の中にそんな声が聞こえた。

 

 

「きゃあああああ!」

 

 

 空の彼方へと飛び去って行くリオレウスの姿を見ていた俺は、空中に放り出されたセリアの悲鳴で我に返り、急いで彼女の真下まで走る。

 

 

「ふぎゃ!?」

「ぐふっ!?」

 

 

 勢いのままスライディングしてぎりぎり地面に落ちる前に回収することが出来たものの、上手く抱えきれずセリアの背中が腹に直撃し、お互いに悶絶したまましばらくそのまま仰向けで悶えた。

 

 

「ぐふ……よくもまあごほっ……無事だったもんだ」

「痛たた……ありがとうございま痛っ」

 

 

 俺たち互いを支え合いながら、何とか立ち上がった。

 

 

「ありゃ完全にお前の事を根に持ったぞ」

 

 

 息を整え、リオレウスが飛んでいった方角の空を見上げながら俺はセリアに言った。

 

 

「根に……ですか?」

「あぁ、モンスターっていうのは執念深い。恨みつらみも日が経つにつれてどんどん膨らんでく」

 

 

 まあそれは人も獣も変わらないか。口には出さず、心の中で一人ごちる。

 

 

「いつかまたお前は奴と戦うことになるだろう。その時に俺はきっといない。あの傷ついたリオレウスはお前と仲間たちだけで倒す必要があるんだが……そんな無様で果たして奴を仕留めきれるかな?」

「……」

 

 

 セリアは答えない。彼女は唇を噛みしめてただ王の飛び去っていった空の彼方を無言で睨みつけていた。

 いつか迎えるであろう運命の日に向けて挑戦するかのような。そんな表情を、あの空に向けて。

 

 

 紅蓮の王者が吹かした風が、一人の少女を運命の戦争へと駆り立てた。少女は王者の風に夢を託す。これからの日々を夢想しながら、来るべき日に備えて牙を整え、仲間たちと共に歩みながら、運命の戦争へ向けて真っすぐに。

 

 

 前哨戦はすでに始まっているのだ。俺はそれを、彼女のその表情から読み取った。

 風に揺られる草花の擦れる音が、運命に挑む少女へ笑いかけているように聞こえた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 ポッケ村に着くまでの間、アプトノス車の中で俺はセリアに恨みつらみで恐ろしい程の被害を出したモンスターについて、例を挙げながら講釈をたっぷり聞かせてやった。片目を失った黒狼、角をへし折られた魔王とかそういうのだ。

 

 

 ポッケ村に着くと、いつものように村人総出で出迎えられた。群がるガキやらなんやらを捌きながら、俺は集まった村人たちの姿を改めて眺めまわしてみた。

 男、女、子供、老人、アイルー、可能な限り自分というフィルターを取り外して一人一人の顔を注視する。

 

 

 今までこうして他人の顔をじっくり眺める事なんてまずなかったから、見知っていた村人の顔が何だかやけに新鮮に映った。

 目尻が下がった目元。大笑いする口元。手の動き。足運び。あらゆる仕草、身振り手振りを注視してみるも、そこに俺をどうのこうのしようとする意図は終ぞ発見できなかった。

 

 

 この世界を人間が認識する場合、常に自分というフィルターを通して脳に情報が取り込まれる。そのフィルターのかかり方は経験や育っていった環境やらによっていくらでも変化する

 俺の場合は前世の世界の一般常識、そこで育ち、培われた価値観が分厚い曇りガラスみたいにこの世界の姿をぼやけせさせていた。

 

 

 で、腹の内はともかく、表向きに俺を害そうとする奴はどうもこの村には存在しないらしい。

 その事に気が付くことが出来たのは、1ヶ月の間全く面識のない奴と生活をしたからだ。それが良い事かどうかは分からないが、少なくともこれで多少はマシに生きていけるんじゃないかと思う。

 

 

 そう思うと、過去の自分の行いが酷く馬鹿らしくなっていた。無意識の内に張り詰めていた気が急速に緩んでいくのが手に取るように分かった。

 体から力が抜けて倒れ込みそうになる。びっくりしたヨシツネが俺の足を支えてくる。

 

 

「あ、白雪鬼さ~ん!」

 

 

 こっちの気を知りもしないで、天真爛漫なお姫様が上機嫌でこちらに駆け寄ってくる。

 

 

「はぁ、うるせぇ黙れ……なんだよ」

「あのですね、行きに約束していただいたご褒美の件の事なんですけどね」

 

 

 指をつんつんしながら恥ずかしそうに上目遣いで聞いてくるセリアをしげしげと見下ろし、それから視線を感じてそちらを見やる。

 彼女の後ろにずらずらと追従した村人共が、何だ何だと興味津々にこちらを見つめていた。

 

 

 男、女、子供、老人、アイルー。見知った顔、顔、顔。

 再び視線を目の前のよそ者に戻す。恥ずかしさと不安がないまぜになった顔。

 

 

 受けたクエストの結果を見れば上々、その後の対応は及第点もいいとこだが、ま、良しとしとくか。どうせこれで最後なんだし。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。終わり良ければ総て良し。一期一会。よぅし。

 

 

「あぁ、その話ね。いいぞ。ほれ」

 

 

 そう言って、俺はモノブロSを外した。世界と俺とを隔てていた壁は、驚くほど呆気なく外れた。ヘルムが外され、肩口まで伸びた髪が解放されてはらりと垂れた。

 

 

「こんな伸びてたっけ?」

 

 

 肩にかかる髪を一つまみしながら、俺は一人ごちた。

 今度またヨシツネに切ってもらおうと思いながら、明瞭になった視界で改めて前を見る。世界から音が消えていた。この場に居た誰も彼もが馬鹿みたいに口を大きく開けて固まっていた。ネコートまでもが普段の仏頂面を大いに崩して固まっていた。

 

 

「( ゚д゚ )」

 

 

 目の前に居たセリアなんか、ボロカスにやられてクエストを終えた後に報酬画面で天鱗でも見つけたみたいな顔をしていた

 それがなんだかおかしくて、ついくすりと笑いを一つ。

 

 

「おう、改めて()()()()()。俺がこの村の専属のハンターをやっている白雪鬼だ。おっと本名は聞くなよ。何せ俺も知らんからな」

「( ゚д゚ )」

 

 

 ……反応がない。試しに近寄って目の前で手を振ってみるが、うんともすんとも言いやしない。

 

 

「あ……だ、旦那さん……な、何で?」

 

 

 不思議に思って首をかしげていると、足元のヨシツネがこの世の終わりみたいな顔をしてプルプルと震えていた。

 

 

「別に。ただ意味も無く肩ひじ張る事の無意味さに気づいたってだけさ」

 

 

 懇切丁寧に教えてやったというのに、ヨシツネの反応といえばわなわなと震えるばかりだった。

 

 

 それなりの年月を共に生きてきたけれど、時折こうやってヨシツネの事が分からなくなることがままある。まあ自分の事すら分からない事が多いのだ。なら自分以外の事で分からない事があったって、それはちっとも不思議な事じゃないはずだ。

 

 

 俺は肩を竦めて見せ、もう一度俺の世界を見回した。別にいつもより輝いて見えるとか、何か見え方が変わったとかそういう物は無かったけれど、重ぐるしい気配のような物が雲散した様な気がする。

 

 

 軽くなった体で、新しくなった世界に一歩を歩進める。次に二歩目。三歩、四歩。足取りも軽く。生まれたての子馬の様に。俺の歩みに応えるように、人の波が割れる。言いようのない全能感が胸に満ちる。

 

 

 歩を進める俺の後ろにヨシツネとセリアが、それを追って村人共が追従する。

 

 

 村の中心あたりで歩みを止め、空を仰ぎ見る。空は満天の星空で、いつか見た空がそっくりそのまま出てきたかのようだった。

 あの時の俺と、今この瞬間の俺。果たしてあの頃より俺はマシになれているのだろうか? 

 

 

 俺は願う。どうかこれより先の未来が、かつてよりマシでありますように、と。せっかく意識を改めてやったのだから、それ位の融通は聞かせて欲しいものだ。

 俺の願いに応えるように、流れ星が星の海を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 




これで2ndGの一つの節目が終わりました。後は古龍やら白い神やらをヨシツネと一緒にダラダラと狩っていく小説になります。


~大まかな登場人物紹介~

白雪鬼…転生者にして真正のヘタレ。中身は糞だが見た目は絶世の美女にも美男子にも見える。投稿者のイメージとしてはFateの蘭陵王をさらに女寄りにしたようなイメージ。多分作中で一番偏見と差別意識にまみれてる。

ヨシツネ…年少の頃に一族もろともモンスターに全滅させられた悲しい過去を持つ。主人が主人なので多分作中で二番目に差別と偏見にまみれてる。

セリア…弱冠15歳の若き女ハンター。幼馴染2人とともにハンターを始めて半年くらいでレイアを討伐した凄い子だったりする。今後登場するかは知らない。
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