魔法少女リリカルなのはFH   作:ワンダバ

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まさかの短い間隔での投稿。
お盆が終わるまでになんとか1期本編の話は終わらせておきたかったので気合入れました。

それではどうぞ!



014 私の名前とあなたの名前

《お願いみんな! 脱出急いで!》

 

 エイミィさんの念話での通信を聞きながら、おれ達はまだプレシアさんが落ちて行った穴を見続けていた。もっと違う結末もあったんじゃないか、どうにかできたんじゃないか。そういった考えがどうしても頭から離れない。

 だがいつまでもこうしているわけにもいかない。揺れは大きくなり続けているし、今おれ達がいる足場だっていつ壊れるか分からないんだ。そう思ってフェイトに声をかけようとしたその時、おれ達の足場のひびが大きくなり、傾く。

 このままじゃ……落ちる!

 

「フェイト! 気持ちは分かるけど今脱出が先だ!」

「……………」

「ほら! 行くぞ!」

 

 なかなか動かないフェイトを抱え、クワイエットウィングを広げてここへと降りてきた穴へと飛ぶ。だが崩れ落ちてくる瓦礫が多い。躱しながら飛んではいるがなかなか上へと辿り着けない。

 

「くそ……!」

 

 崩壊に巻き込まれる、その最悪の結末だけはなんとしても避けないと……!

 

 

 014 私の名前とあなたの名前

 

 瓦礫を避けながら進む。おれに抱えられている間にもフェイトはプレシアさんが落ちて行った穴の方をずっと見続けている。先ほどから脱出のために上へと飛び続けているが、遅々として進まない。

 焦ってはいけないと頭では理解していても、どうしても急いてしまう。嫌なイメージが頭の中をよぎりそうになり、それを追い出そうよりスピードを上げる。しかし、それがまずかった。

 スピードを上げて回避をしたその先に、大きな瓦礫が迫って来ていた。どう考えても今から回避していたのでは間に合わない距離。

 

「くっ!」

 

 慌てて空いている左手を前に突き出してラウンドシールドを展開する。しかしそれはそこで足を止めることを意味している。これを受け止めている間にも崩落は進み、脱出のための時間が少なくなっていく。

 まだおれの強化は続いているからシールドが壊れることはなさそうだが、この瓦礫をどうにかするには時間がかかるか……仕方がない!

 

「フェイト、お前は先に行け!」

「え? あなたは……?」

「いいから行け! 時間がない!」

 

 瓦礫はおれが受け止めているだけなのでフェイトは問題なくこの先に進める。今はこの手しかない。

 

「早く!」

「でも……!」

「崩落に巻き込まれたいのか!! なんでもいいからさっさと―――くっ!?」

 

 フェイトに早く脱出するように促している最中、急激にシールドが不安定になり、瓦礫が重くなったような感じを受ける。さらには体がだるくなったような感覚……まさか!?

 

「この状況は!?」

「いままでしゃべらないと思っていたらお前、もしかしてまた意識が飛んでたのか!?」

「え、ええ。ということはまたあの現象が?」

「まあな……って悠長に話してる場合じゃ……!!」

 

 強化が終わってしまったことでシールドは今にも壊れてしまいそうなほどに明滅する。前回の様に意識が飛ばないのは助かるが、このままではシールドがもたずに壊れるのは時間の問題だ。フェイトにさっさと行くように再度言おうとするが、さらにシールドが揺らぎそれどころではなくなる。

 ダメだ……もう持たない!!

 

「ディバイン―――バスター!」

 

 もうダメかと思った瞬間、桜色の閃光がシールドで受け止めていた瓦礫を吹き飛ばし視界が開ける。この砲撃と声は―――!

 

「フェイトちゃん! 雪道君!」

「なのは!」

「こっちに!」

 

 言われた通りにおれはなのはの傍まで行く。どうしてここまで来たんだとか、少し文句もあるが来てくれなかったらやばかったので正直助かる。感謝をしつつ、おれはフェイトへと言葉をかける。

 

「1人で飛べるか?」

「大丈夫」

「………なあフェイト。さっきも言ったけど気持ちは分かる。でも今はまず生きることを考えよう」

「生きることを……」

「ああ。ここで死んでしまったら元も子もないからさ」

「そう……だね……」

「それじゃ、行こう?」

 

 おれ達は頷き合い、なのはの先導で脱出のために飛翔した。

 

 

 

 

 崩壊直前になんとか脱出に成功したおれ達は今、アースラの医務室で手当てを受けている。なのはは足を、クロノは頭部を少し怪我するくらいで済んだようだ。だがおれは無茶が過ぎたのか体中に包帯を巻く羽目になり、ユーノに手当てをしてもらっている。全身が痛くて泣きそうだ。

 

「いってて!」

「雪道君、大丈夫?」

「ま、まあ……ユーノ、もう少し優しく……」

「贅沢言わないでよ。1人で無茶してこうなったんだから、少しは我慢してよ」

「それはそうなんだけどさ……」

「痛いとこをつかれましたね、いろんな意味で」

 

 エリスの言う通り、無茶したことを言われるとこちらとしてもつらい。みんなには結構心配かけただろうし、ここは甘んじてこの痛みを受けておくべきか………あっ、でもやっぱ痛いです優しくお願いしますぅ!

 

「あれ? そういえばフェイトちゃんは?」

「アルフもいないな」

 

 なのはの疑問におれも首をめぐらせてみるが、確かにどこにも見当たらない。おかしいな、さっきアースラに戻ってくるときまでは一緒だったのだけど。

 

「2人なら護送室だよ。彼女たちはこの事件の重要参考人だからね。申し訳ないが、しばらく隔離になる」

「そんな……! あいたた!」

「なのは、手当てはしたけどあんまり動いたらダメだよ」

「うん………」

 

 なのはの気持ちはわからないでもない。すっきりとはいかなかったけど、ようやくいろんなことが解決してこれからという時に隔離とは……納得できないものはある。

 

「今回の事件は1歩間違えれば、次元断層さえ引き起こしかねなかった重大な事件なんだ。時空管理局としては、関係者の処遇については慎重にならざる負えない」

「なんとかならないのか?」

「残念ながらね」

「そうか……」

 

 クロノの言い分を聞いてある程度は納得はした。だけどやっぱりもっとなんとかできないものかと言う考えは、なかなか消えてはくれなかった。

 

 

 

 ようやく様々な事柄が終わった。ユーノと出会ってなのは達と友達になって。時間にしてみれば1ヶ月ちょっとなのだが、ものすごく濃い毎日だったと思う。本当にあっという間というかなんというか。

 あれからおれ達は次元震の余波が収まるまで数日をアースラで過ごし、そして今はブリーフィングルームへと来ていた。なんでも今回の事件解決に助力したおれ達を表彰してくれるらしい。やりたくてやっていたので、いざ感謝をされるとなるとなんだか照れくさい。

 リンディさんの前まで出て表彰状を受け取らないといけないのだが……なのはがこれでもかというほどガチガチに緊張してる。小声で話しかけてなんとかリラックスを図ってみるか。

 

「なのは、緊張しすぎだって」

「だ、だってこんなの慣れてないし……」

「そんなのおれもユーノも一緒だって。表彰状を受け取るだけじゃないか」

「そうそう、肩の力を抜いて」

「やっぱり無理ぃ! 雪道君受け取って!」

「え!? おれ!?」

 

 いきなり抜擢されてさすがに戸惑うが、このまま緊張しきってるなのはが出るよりもいいか……それと涙目で懇願するのはなんかやめてほしい。悪い事してるみたいな気持ちになるから。

 

「もういいかしら?」

「あ、はい。すいません」

「んん! それでは……今回の事件解決に大きな功績があったものとして、ここに略式ではありますがその功績を称え、表彰します。高町なのはさん、咲良雪道君、ユーノ・スクライア君。ありがとう」

 

 ブリーフィングルームにいる皆さんから拍手を受けて、表彰状を受け取る。拍手が起こった時はさすがに緊張したけど、この表彰式も無事終わる。

 部屋から出てクロノを先頭にして歩く。この表彰状……受け取ったのはいいけどどうしようかと考えながら歩いていると、ふとなのはが足を止める。つられる様にしておれ達も歩みを止める。

 

「クロノ君……フェイトちゃんはこれからどうなるの?」

「そういえば詳しく聞いたことはなかったっけか」

「………事情はどうあれ、彼女が次元干渉犯罪の一端を担っていたのは紛れもない事実だ。重罪だからね……数百年以上の幽閉が普通なんだが―――」

「数百年!?」

「そんな!」

「なんだが!!」

 

 重罪だっていうのは聞いていたから何かしら刑があるとは予想はしていたが、まさかそこまでとは思わず口から驚きの声が漏れてしまう。だがクロノはまだ何か言うことがありそうなので、黙って続きを促す。

 

「状況が特殊だし、彼女が自らの意思で次元犯罪に加担していたこともはっきりしている」

「まあ……」

「あとはその事実をどう偉い人たちに理解してもらうかなんだけど、その辺にはちょっと自信がある。心配しなくていいよ」

「クロノ君……」

「何も知らされず、ただ母親の願いを叶えるために一生懸命だけだった子を罪に問うほど、時空管理局は冷徹な集団じゃないから」

「そっか……それを聞いて安心したよ」

 

 今日まで過ごしてきた中で、フェイトの処遇が一番気がかりだった。それが何となると聞いて、ようやく肩の荷が下りたような気分になる。本当によかった……

 

「クロノ君って、もしかしてすごく優しい?」

「なっ!? し、執務官として当然の発言だ! 私情は別に入ってない!」

「あはは! 別に照れなくていいのに!」

「そうそう、素直に言葉を受け取っておけって。なあ? お優しい執務官様?」

「あっはは! そうだね」

「別に照れてないんかいない! なんだよ笑うなよ! あと腕を回してくるな!」

 

 珍しくからかうタイミングができたと、ここぞとばかりにからかうおれ達。腕を回してどうからかおうかと思案してると、クロノは軽くおれの体を押して腕を解こうとする。向こうからしてみれば本当に軽くだったのだろう。だがおれは体中に包帯を巻く怪我をしているわけで………

 

「はぐっ!!?」

「雪道君!? 大丈夫!?」

「クロノ……お前な……」

「す、すまない……だけどそっちも悪いんだからそこまで心配はしないぞ」

「まあ、今のはマスターの自業自得ですね」

「はは………」

 

 とかなんとかバカやりながら笑いあう。やっとおれ達は、心の底から笑顔になることができた気がした。

 そこから時間は少し飛んで食堂での夕食時、なのはとユーノとで食べていると途中でリンディさんと母さんがやってきた。なんでもようやくおれ達の世界に帰れる目途がついたとか。

 

「次元震の余波はもうすぐ収まるわ。ここからなのはさんと雪道君の世界になら、明日には戻れると思う」

「本当ですか!? よかったぁ」

「ただねぇ、まだミッドチルダ方面の航路は空間が安定していなくってね。しばらく時間がかかりそうなのよねぇ」

「あれ、そうなんだ」

「数ヶ月か半年か……それくらいはかかるかしらね」

「そうですか……」

 

 おれとなのはは自分の世界に帰ればそれでいいのだが、ユーノはおれ達の世界出身じゃない。折角元の世界に帰れるチャンスだったわけか。

 

「まあうちの部族は遺跡をさがして流浪している人ばっかりですから、急いで帰る必要もないと言えばないんですが……でもその間、ここにお世話になるわけにもいかないし―――」

「じゃあうちに居ればいいよ! 今まで通りに!」

「なのは……いいの?」

「うん! ユーノ君さえよければ」

 

 どうしよう、といった感じでおれを見てくるユーノ。多少、いやほんと多少不満があるけど、まあいいんじゃないかと目だけで答える。他意はない。全然他意はない。

 

「じゃあその……お世話になります」

「うん!」

 

 その後、適当に雑談を交えながら和気あいあいと食事をしていると、クロノとエイミィさんも合流してくる。話している途中、おれはずっと気になった疑問をぶつけてみることにした。

 

「あの、ちょっといいですかね」

「雪ちゃん、どうかした?」

「その……プレシアさんが言ってたアルハザードって何なのかなって」

「ああ……」

 

 プレシアさんが口にしていたその名称がずっと気になっていた。話の感じからしてどこかの場所だって言うのは想像はついたけど、それ以上は何も分からず仕舞いだった。折角の機会だし聞いてみたくなったのだ。

 

「ユーノ君は知ってるわよね?」

「そうなのか?」

「うん、聞いたことがある。旧暦以前、前世紀に存在していた空間で、今は失われた秘術がいくつも眠る土地だって」

「だけど、とっくの昔に次元断層に落ちて滅んだって言われている」

 

 あらゆる魔法がその究極の姿に辿り着き、その力をもってすれば叶わぬ望みはないとまで言われているらしい。時間と空間を遡り、過去さえ書き換えることができる魔法。失われた命をもう一度蘇らせる魔法。そういう魔法もあったとされている。プレシアさんはそれを求めたということか。

 なんだかぶっとんだ話でいまいちピンとこないが、ともかくすごかったのだろうということは想像できた。

 

「でも魔法を学ぶものなら誰もが知っている。過去を遡ることも、死者を蘇らせることも、決してできないって」

「だから、そのおとぎ話のような伝承にしか頼れなかった……?」

「というよりも、頼るしかなかったんだろうね」

「でも、彼女ほどの大魔導師が自分の命さえ懸けて探していたのだから……彼女は本当に見つけたのかもしれないわ。アルハザードへの道を」

「まあ、今となっては分からないけど」

 

 母さんの言葉でそう締めくくられる。さっきまでの柔らかい雰囲気は完全になくなってしまっていた。なんだか非常に申し訳ない気持ちになる。

 

「すいません……なんだか重苦しい雰囲気にしてしまって。食事中に聞く話じゃありませんでしたね……」

「いいのよ。私もなんだかんだで長話しちゃったし。さて、冷めないうちにいただきましょうか」

「はい、そうですね」

 

 リンディさんにフォローしてもらって食事を再開する。そういえば何気なく食べていたけど、これはおれ達にとってはアースラでの最後の食事か……そう思うとなんだか感慨深い。

 

「雪道君、どうかしたの?」

「ん、いや。これがアースラでの最後の食事になるんだと思うとな」

「ああ、そっか」

 

 表情に出ていたのか聞いてくるなのはにそう答えると、なのはもなんだか少し寂しそうな顔になる―――ってしまったな。折角さっきリンディさんにフォローしてもらったのに今度はしんみりとした空気を振りまいてしまった。軽く自己嫌悪。

 

「そうだな、まあ味わって食べてくれ」

「お別れが寂しいならそう素直に言えばいいのにな~。クロノ君ってば照れ屋さんっ」

「な!? なにを!」

「なのはちゃんに雪道君、ここにはいつでも遊びに来ていいんだからね?」

「はい! ありがとうございますっ」

「はは……遊びに来るっていうのもなんかおかしいと思いますけど」

「エイミィ! 雪道の言う通りアースラは遊び場じゃないんだぞ!」

「まあまあいいじゃない。巡航任務中は暇を持て余しているんだし」

「そうねぇ、それに雪ちゃんが来てくれるなら私の部屋も片付くしねぇ」

「艦長に春美さんまで……!」

「おれはホームヘルパーか何かか……」

「あはは!」

 

 そうしてアースラでの最後の1日が過ぎていく。

 

 

 

 次の日の朝。おれとなのは、それにユーノが帰る日がやってきた。ゲートの前にはクロノやリンディさん達が見送りに来てくれている。

 

「それじゃ、今回は本当にありがとう」

「協力に感謝する」

「こっちこそ。いろいろとお世話になった」

「フェイトの処遇は決まり次第連絡する。大丈夫さ、決して悪いようにはしない」

「うん、ありがとう」

「その辺は信頼してるよ」

 

 言葉を交わしておれとクロノは握手をする。なんだかんだでクロノはおれの希少な男友達だ。今後とも仲良くしていきたい。隣のなのははやけにニコニコしてみているが、おれ達の握手はそんなに面白いだろうか?

 

「ユーノ君も帰りたくなったら連絡してね? ゲートを使わせてあげる」

「はい、ありがとうございます」

「それで母さんは帰らないんだな?」

「ええ。こっちでの仕事はまだまだ残っているし」

「そう、分かった」

「じゃあ、そろそろいいかな?」

 

 どうやらゲートの準備ができたみたいだ。おれ達は揃って返事をすると、エイミィさんがゲートを起動させる。

 

「それじゃあ」

「ああ」

「またね。クロノ君、エイミィさん、リンディさん、春美さん」

 

 4人に手を振って、ゲートをくぐる。視界が真っ白に染まり、再び視界に色が戻って来たときには、おれ達は臨海公園へと降り立っていた。

 帰って……来たんだな。

 

「さて、帰るとしますか」

「うん、そうだね!」

 

 ゆっくりと歩いて公園を出て、分かれ道でなのはと別れる。そしておれの家へと到着、鍵を開けて中へ。

 

「ただいま」

「おかえりなさい、マスター」

「おう。お疲れさん、エリス」

「お疲れ様です」

 

 荷物はとりあえず適当において、まず学校へ行く準備、そしてまだ何も食べてないから朝飯の準備を―――

 

「冷蔵庫が空……」

「買って来てませんからね。朝は抜きですかね」

「あれちょっと待って。おれもしかして昼も抜きなんじゃない?」

「え? そんなことはってそうですね、お弁当作れませんもんね」

「はあぁぁぁぁ………」

 

 盛大にミスりながらもとりあえず学校へと向かう。なのはと再び合流して教室へ行き、すでに来ていたアリサとすずかに声をかける。

 

「よお、2人とも」

「なのはちゃん! 雪道君!」

「えへへ、帰って来たよ」

「雪道、ちょっとこっち来なさい」

「ん?」

「せいっ!」

「ぐっ!!?」

 

 アリサに呼ばれて何かと思えばいきなり鳩尾を殴られた。グーパンである。普段ならさほど痛くないんだろうけど、まだ若干体の痛みを引きずっている今のおれには少々応える。あー、ちょっと涙出てきた。

 

「ちょっとアリサちゃん!」

「心配したんだからね! これくらいで許しといてあげる―――って別に泣かなくてもいいじゃない!……ごめん、痛かった?」

「いや……いいんだ……全然大丈夫だから」

 

 こんなやり取りでさえすごく楽しく感じる。家には誰もいないし、ここに来てようやくいつものというにはいろいろ状況が変わってるとは思うけど、日常が戻ってきたんだと……そう実感できた。

 授業を受けながらこれまでのことを思い返す。フェイトとのことに夢中になっている間はかなり長く感じたものだけど、こうして過ぎ去ってみればなんだか一瞬のことだったような気がする。もうずっと前の様な感じもする。でもおれの中にはそれまでの事がちゃんと残っている。楽しい事、辛い事、嬉しい事、悲しい事……何一つとして忘れることができない、確かな出来事が。この胸に。

 基本的にはすべて丸く収まった。しかしどうしても気がかりになってしまうものがある。クロノは大丈夫だと言ってくれたけど……気になるものは気なるのだ。それはもちろん、フェイトの事で。

 教室の窓から空を見上げて、何事もないことを祈った。

 

 

 

 

 あれから数日、特に何もない穏やかな時間が流れていた。おれは朝いつも通りに起き、日課になっていた早朝訓練を再開させていた。今はそれは終え、しっかりと買ってきていた食材で弁当を作り、朝食を食べている。

 

「しっかし、アースラでの訓練に慣れちまうとどうも今までの奴が温く感じちまうな」

「仕方がありませんね。いくら結界があるといっても所詮家の庭ですし。限界があります」

「だよなぁ」

 

 もそもそと食パンを食べつつエリスと会話する。アースラではかなり設備が整っていたから非常に充実した訓練ができていたのだが、家の庭ともなるとそうはいかない。さてはてどうしたものか……

 

「んー、やっぱこれがないと始まらないな」

「久々ですよね、紅茶」

「まあな」

 

 ここ数日は生活のリズムを整えたり、家の掃除やらなんやらでずっと離れていた紅茶を飲んでいる。ご無沙汰な分美味しさも一入だ。今日もなかなか美味しく淹れれてるなぁ。さて、もう一口―――

 

《雪道君!!!》

「ぶぅうううううううううう!!!!」

 

 急激に頭に響いてきた大音量に口に含んだ紅茶を盛大に噴き出してしまった。なんだ!? いったい何事で!!?

 

「げっほ! げほっげほっ!」

《あれ? 雪道君? 聞こえてる?》

《聞こえてるよ! なんなんだ朝っぱらから!》

《あ、なんだか不味かった……?》

《ああ不味かったよ! 急に頭に声が響くもんだから紅茶噴き出したよ! 紅茶は美味しかったけど!》

《ご、ごめんなさい……》

《はあ……んで? 一体どうした?》

《あ、えっとね! フェイトちゃんの無罪がほとんどだけど決まったの!》

《へえ! それはよかったな!》

 

 なるほど、なのはが大音量で念話をしてくるわけだ。でも本当によかった。おれもなのはもずっと気にしていたし、ようやく本当の意味で安心できる。裁判やらなんやらがあって時間はかかるらしいが、罪に問われることはないということも話してくれる。

 

《ああ、本当によかったよ》

《うん! それでね? フェイトちゃん、これから本局の方へ移動になるらしいんだけど、その前に少し会えるんだって》

《お、そうなのか?》

《私たちに会いたいって言ってくれてるんだって!》

《なるほど、分かった。準備するよ。場所は?》

《えっとね―――》

 

 なのはから場所を聞き、手早く学校の制服に着替えて家を出る。途中でなのはと合流。待ち合わせの場所まで急ぐ。

 数十分くらいで目的の場所が見えた。海沿いのとある小さめの橋の上。そこにクロノとアルフ、それにフェイトの姿が見える。

 

「フェイトちゃーん!」

 

 なのはが手を振りながら大声で名前を呼び、駆け寄って行く。少し遅れてからおれも追いつく。ユーノはなのはの肩から降りて、アルフへと移る。

 

「あんまり時間はないんだが、しばらく話すといい。僕たちは向こうにいるから」

「「ありがとう」」

 

 なのはとフェイトがそういうと、クロノ達は歩いて行ってしまった。これっておれも行った方がいいのかな……

 

「えーと……おれも向こうへ行った方がいいか?」

「ううん。あなたとも、話をしたかったから」

「そ、そう」

「でも一応、私は向こうへ行きますね」

「あ、おい!」

 

 静止を無視してエリスはさっさとクロノの方へ行ってしまう。特に周りに人がいないから大丈夫だと思うけど、飛ぶのはちょっと勘弁してほしかった。

 まあというわけでおれもこの場に参加することになったわけだが……特に会話がない。来たのはいいけどこんなことになるなんて思ってなかったから、何も話題を用意してなかった。海の波の音だけが聞こえている。

 

「あはは……話したいこといっぱいあったのに、変だね。フェイトちゃんの顔見たら忘れちゃった」

「私は……そうだね。私もうまく言葉にできない。だけど嬉しかった」

「嬉しかった?」

「あなた達が、真っ直ぐ向き合ってくれて」

「うん。友達になれたらいいなって思ったの。でも、今日はこれから出かけちゃうんだよね……」

「そうだね……少し長い旅になる」

 

 そう言ってお互いに顔を海へと向けるなのはとフェイト。折角会えたっていうのに、暗い顔は……してほしくないな。

 

「また会えるよな?」

「……うん。少し悲しいけど、やっとほんとの自分を始められるから。それと、来てもらったのは……返事をするため」

「え?」

 

 頬を少し赤く染め、恥ずかしがるように。フェイトは言葉を紡いでいく。

 

「君が言ってくれた言葉。友達になりたいって」

「あっ……うん! うん!」

「その、私にできるなら……私でいいならって! だけど私、どうしていいか分からない。だから教えてほしいんだ。どうしたら友達になれるのか……」

 

 そこまで言って再び海の方へと向いて視線を落とす。なんだ、そんなことで悩んでるのか。どうやったら友達になれるか……ね!

 

「ぷっ―――あっははははは!」

「っ?」

「雪道君?」

「友達になる方法は簡単だよ。なあ、なのは?」

「え?―――あ、うん! そうだね!」

 

 おれの言葉に少し困惑したようだけど、すぐに笑顔になって答えてくれる。そう、友達になる方法は簡単だ。いままで友達がいなかったおれが言えた義理じゃないが、でもそれはなのはが教えてくれたこと。それは―――

 

「名前を呼んで?」

「名前?」

「ああ。お互いの名前を呼ぶ。それだけでいいんだよ」

「君とかあなたとかじゃなくて、ちゃんと相手の目を見て、はっきり相手の名前を言うの」

 

 よく分からない、といった感じでこちらを見ているフェイト。ま、実践あるのみってな。順番に、まずはなのはから呼んでもらうことにするか。

 

「なのは、自己紹介」

「あ、うん! 私、高町なのは」

「………なのは」

「うん! そう!」

「なのは」

「うん!」

 

 目に涙を浮かべてフェイトの手をとる。見てるだけでおれも目に涙が浮かんできそうだ。感動的なシーン、でもなんか空気的に出て行けそうになくなってしまった。

 

「ありがとう、なのは。君の手は暖かいね」

「う……ん……!」

「少し分かったことがある。友達が泣いていると、自分も同じように悲しいんだ」

「フェイトちゃん!!」

 

 とうとう堪え切れずに、フェイトに抱き着いて泣き始める。やばい、このままじゃ忘れられる。でもここで声をかけるって………! ええい、ままよ!

 

「あの……やっぱ、向こう言ってた方がよかったです?」

「あ! ご、ごめんなさい! 別に忘れてたわけじゃ……」

「あ、いやいいんだ。ほれなのは、ハンカチ」

「ありがとう……」

 

 かなーり後味が悪いけど、これで会話に入って行けそうだ。なのはが泣き止むのを待ってから、再び話に戻る。

 

「ハンカチありがとう、雪道君」

「あいよ」

「それで、えっと……」

「ああ、自己紹介ね。咲良雪道だ。あー、なんだったらあだ名でも呼んでくれていいぞ?」

「あだ名?」

「あ、すまん。ちょっと気恥ずかしくて誤魔化し入れただけだから普通に―――」

「それいい! 何がいいかな?」

「あの……」

「うーん、フェイトちゃんは何がいい?」

「私、そういうのよく分からないから……」

 

 余計なこと言ったなぁ………若干の後悔があるけどとりあえず雰囲気は明るくなったし、まあいいか。少し悩んだ後、手を打ってこちらに笑顔を向けてくるなのは。どうやら決まったらしい。

 

「雪道君のお母さんが〝雪ちゃん〟って呼んでたから、それをもらうの」

「それで?」

「私は雪くんって呼ばせてもらいたいんだけど、いい?」

「ああ、いいぞ」

「本当!? ありがとう!」

「フェイトはどうする?」

「えっと、じゃあ……雪、でいいかな?」

「オッケ、いいぜ」

「うん」

 

 まあ妥当なラインだろう。変なあだ名つけられるより全然いい。ひとまずお互いに名前で呼び合う―――おれだけなんだか違う感じにまとまったけど―――はクリアだ。これでおれ達は、友達だ。

 

「ありがとう、なのは、雪。今は悲しいけど、きっとまた会える。そうしたら、またあなた達の名前を呼んでもいい?」

「………うん!」

「ああ」

 

 止まっていた涙が再び流れ始める。先ほどはなのはだけだったけど、今度はフェイトも……そしておれも、涙を流している。でもおれ達は笑っていて。

 

「会いたくなったら、きっと名前を呼ぶ。だから、2人も私を呼んで? 2人が困っていたら、今度はきっと……私が2人を助けるから」

「ああ……! おれ達も……きっと!」

 

 しばらくおれ達は泣き続けて、でもその時間も永遠じゃない。終わりの時が来る。

 

「そろそろ時間だ」

「うん」

「フェイトちゃん!」

 

 なのははフェイトの名前を呼んだ後、おもむろに自分の髪を結んでいるリボンを解き、フェイトへと差し出した。

 

「思い出にできるもの、こんなのしかないけど」

「じゃあ、私も」

 

 同じようにリボンを解き、差し出す。ピンクと黒のリボンをお互いに渡しあう。解かれた2人の髪が風に揺られて、なびく。

 

「マスターはなにか渡さなくていいんですか?」

「え? そうだな……」

 

 おれの近くまで来ていたエリスに囁かれて、ポケットなどをまさぐる。急いで出て来たし特に何も見当たらない……が、胸ポケットにメモ用にいつも入れている銀色のシャープペンシルがあることに気付いた。

 それを抜き取り、フェイトへと差し出す。

 

「おれはこれを。そっちじゃ無用の長物かもしれないけど」

「ううん。でも私、もうなにも持ってないけど……」

「いいさ。記念ってことで、プレゼントするよ」

「うん。大切にする」

 

 なのはの渡したピンクのリボンと共に、大切そうに胸へと抱く。なんだか微妙なものを渡して申し訳ない気がするけど、笑ってくれているから……まあいいか。

 

「ありがとう。なのは、雪」

「うん、フェイトちゃん」

「また……な」

「きっと、また」

「うん! きっとまた」

 

 笑いあって、再会の約束をする。

 きっとまた……会えるように。こちらへ歩いてきたクロノ達にも別れの挨拶をしていく。

 

「アルフさん、ユーノ君をありがとう」

「元気でな」

「ああ、いろいろありがとね。なのは、雪道、ユーノ」

「それじゃ、僕も」

「クロノ君もまたね」

「フェイトの事は、頼んだ」

「ああ、任せておいてくれ」

 

 おれとなのはは3人から少し離れる。するとフェイト達の足元に魔方陣が現れて輝き始める。フェイトが手を振り、なのはもそれにならって―――いや、フェイトよりも大きく手を振る。おれは親指を立てて、サムズアップで応える。

 魔方陣の輝きが増し、3人の姿が見えなくなって……光が収まった時にはもう、見えなくなっていた。

 

「なのは……」

「マスター……」

「行っちゃったな」

「うん」

 

 潮風がおれ達の間を駆け抜ける。

 

「おれ達も行こうか!」

「うん!」

 

 

 なのはと共に振り返り、歩き出す。

 

 

 今日からもまた、いつもの日常を始めるために。

 

 

 




というわけで1期本編、無事完!!です。
いやぁ勢いだけで始めたこのなのはFHですが、ここまで来てなんだか少し感慨深いものがありますね。
といってもまあ、まだ先は長いのですが。

さて次回からなのですが、A's編・・・ではなく、A'sが始まる12月までの日常の話を少し挿みたいと思っています。
漫画での話と、オリジナルを1つを予定しています。日常編はそこまで長くならないと思いますので、よろしければお付き合い下さい。
分類としてはこのまま無印編と同じで行きたいと思っております。

あ、あとそれから次回からは地文を三人称に変えようと思っております。変な部分がありましたら言っていただければと思います。

では長くなりましたが今回はこの辺で。
ご意見またはご感想のほどをお待ちしております<(_ _)>
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