さらに地文を三人称視点へと変えています。
ではどうぞ。
照りつける太陽、きらめく水面。周囲の林から聞こえる蝉の声を聞きながら、雪道は暑いプールサイドのタイルの上で柔軟体操を行っている。雪道は今、なのはとアリサと共にすずかの家のプールへと遊びに来ていた。先に着替え終えた雪道はプールサイドで暇を持て余していた。なので柔軟体操を始めたわけだ。
さて、この暑い夏にプールで泳げるといえば、普通は早く入りたいと願いウズウズするというものだ。だが彼の顔からはそんな感情は欠片も見受けられず、忌々しそうに水面を睨んでいる。
「どうしてこうなったのやら……」
柔軟体操をしながら、雪道はここに至るまでの経緯を思い返した。
015 夏休みの一幕
フェイト達と別れてから数ヶ月。別段変わったことのない毎日を過ごし、雪道達の小学校は夏休みへと突入した。何気なく流れていく日々の中の8月のある日。その日は皆で集まって夏休みの宿題をしようという約束をしていた。場所はどういう訳か雪道の家。ちなみにすずかの家のプールに行く日の2日前になる。
クーラーの効いた涼しいリビングに集まり、お互いに分からないところを教え合いながら宿題を消化していく。宿題を始めてしばらく、アリサがぽつりと呟く。
「外は暑そうねぇ」
「うん、ここ数日は猛暑が続いてかなり暑いらしいし」
「ま、家の中に居れば関係ないんだけどな」
「雪くん、身も蓋もないね」
リビングの窓から見える外は太陽の光がさんさんと射し、いかにも暑そうな雰囲気を漂わせている。子どもは元気に外で遊ぶものだと言うが、あの中へ飛び込んでいけるかと聞かれると、さすがに尻込みしてしまう。なお、なのはが雪道の呼び方を変えた事について一悶着あったのだが、割愛させていただく。
それはともかくとして、アリサはうんざりした感じで外を見続けている。
「アリサさ。別にそういう風に見てるんじゃないって分かってはいるんだけど、そんな目で人の庭を睨むのはちょっとやめてくれ」
「悪かったわね……」
「でも、本当に暑いよねぇ」
「そうだねぇ」
アリサの言葉につられてか、なのはとすずかも外へと視線を向ける。時刻を見ると3時を過ぎた辺り。少し集中力も切れてきていたしちょうどいいからと休憩に入ることにした。
雪道は冷蔵庫からとある飲み物を取り出し、コップに注いで皆に渡していく。
「休憩のお供にどうぞ」
「わぁ、ありがとう」
「これってレモネード?」
「そそ。初めて作ったからあんま自信ないけどな」
「これ雪くんが作ったんだ」
「ほんと、無駄に万能よねあんた」
とりあえず一口飲んでみる。レモン特有の爽やかな酸っぱさと、ほのかな甘みが口の中に広がる。まあ美味しくできているし及第点だろう。
自分自身はともかくとして、雪道は3人の反応が気になるため、感想を聞いてみることにする。
「どうだ?」
「うん、美味しいよ!」
「まあ飲みやすいんじゃない?」
「すごいなぁ……ねえ雪くん、今度このレモネードの作り方教えてもらっていい?」
「ああ、いいぞ」
ひとまず評価は上々なようでなによりだと胸をなでおろす雪道。適当に雑談をし、休憩が終われば再び宿題と向き合う。
そうこうしているうちに日が傾き夕暮れとなった。帰りの支度をしている途中、すずかが何かを思い出したようで話し始める。
「そうそう。うちのプールがようやく使えるようになったんだけど、みんな今度遊びに来ない?」
「え!? 本当!?」
「いいわね! この時期だと近くの海やプールは人でいっぱいだけど、すずかの家のプールなら思いっきり泳げるし!」
すずかの思わぬ提案に盛り上がる2人。この暑い夏にプールに入れるとなればいやでも盛り上がるというものだろう。それ以前に家にプールがあるという時点でもういろいろとつっこみ所満載なのだが。
しかしこういう時普通はそのつっこみ担当になる雪道はやけに静かだ。さすがに気になったのか、3人は彼に声をかける。
「雪道君、どうかしたの?」
「うぇ!?」
「いや『うぇ!?』ってあんた、どこからそんな声がでるのよ」
「雪くん、どこか調子悪かったりする?」
「い、いやいや? 全然普通だぞ?」
「そう? それにしてはなんかやけに挙動不審だけど……」
「き、気のせいだって!」
誰がどう見てもおかしいのだが、雪道は適当にはぐらかすばかりで、聞いても教えてくれなさそうだった。気になりはするが、3人はそれ以上はつっこんで聞くことをやめ、改めてプールでの計画を立ていく。
「一応明後日は日曜日だし、その日でどうかな?」
「うん、私は大丈夫なの」
「私も。雪道は?」
「お、おれも?」
「それはもちろんだけど……もしかして何か予定がもうあった?」
「特に何もないけど……」
「何渋ってるのよ、プールよプール! すずかの家の結構大きいし、伸び伸び泳げるのよ?」
アリサは大きさを伝えるように両手を大きく広げてアピールをする。大きなプールで、しかも他に客なども気にせずに泳げるなんていう好条件を掲げてみても、雪道の表情は一向に晴れない。
なのははどうしたんだろうと考えていたが、1つ思い当たったことがあったのでそれを口に出してみる。
「雪くん以外男の子いないから、それで渋ってる?」
「「あー……」」
なのはの言葉になるほどと頷く2人。確かに今の男女比率は3:1で圧倒的に女性陣の方が多い。いつもは学校、放課後も雪道と遊ぶということもそれほど多いわけではない。今も宿題のために集まったので、あまりそこを意識していなかった。
3人はそれぞれ雪道の今の状況を想像してみる。普段通りならともかく、プールに行くとなると雪道が渋る理由もなんとなく分かった気がした。
「その辺りのことをあんまり考慮してなかったね……」
「そうね……」
「別にそういう訳じゃ……」
「まあプールはともかくとして、何か別の予定を―――」
「分かった! 変に渋って悪かったよ! おれも行くよ!」
プールが取り止めになりそうになった時、雪道はそう声を出していた。さきほどまではあれほど楽しみにしていたプールを、自分1人のために止めにしてしまうのはさすがに申し訳なさすぎる。そんなことになるくらいなら行った方がいいだろう。
慌てて言う雪道に当然というか当たり前というか、なのは達は心配そうな顔で問いかける。
「雪くん、大丈夫? 無理してない?」
「大丈夫だって! なんだかんだですずかの家のプール興味あったしな」
「……うん、分かった。雪道君がそういうなら」
その後軽く予定を話し合い、なのは達3人は雪道の家を後にしたのだった。
そして時間は今に戻り、再びプールサイド。
柔軟体操を終えた雪道はぼーっとしたままなのは達を待つ。これは後で決まったことなのだが、監督役としてすずかの家のメイドであるノエルとファリンも一緒することになっている。今回なのはの兄である恭也がいないので、さらに男女比がひどいことになっているが雪道はまったく気にしていない。
それよりも問題なのは―――
「雪くーん! お待たせー!」
「おっ?」
聞こえてきたなのはの声に振り向くと、着替え終えて色取り取りの水着姿となった5人の姿が雪道の目に飛び込んでくる。
先頭のなのはは水着は彼女の魔力光と同じ桜色のセパレート。その右隣りのアリサはオレンジのビキニ、反対のすずかは紫のワンピースだ。小学生らしい健康的な肌色が眩しい。
3人の後ろにはファリンとノエル。それぞれ黒と白のビキニタイプの水着を着ている。ファリンはまだなんとか大丈夫だが、ノエルに至っては体の一部分の強調が激しい。雪道は目のやり場に困り、極力見ない様にしようと決めた。おそらくエリスがこの場に居たら
「まったくマスターはヘタレですね」
と言われることは想像に難くないだろう。
それはともかく、これでようやく全員が揃ったことになる。
「ごめんね、待たせちゃって」
「いいよ、柔軟体操して適当に時間潰してたから」
「それで? 私たちに何か言うことがあるんじゃない?」
「ん? あ、ああ……その……みんなよく似合ってる」
若干顔を赤らめて言う雪道。その姿を見てなのは達はハイタッチを交わす。その様子を眺めている雪道にいつの間に近寄ってきていたのか、ノエルが声をかける。
「ふむ。そのお歳にしては雪道様の体は随分と引き締まっておいでですね」
「そうですか?」
「あ、本当ですね。たくましいです」
珍しいのか近くに来てまじまじと見つめるファリン。雪道はトランクスタイプの水着を穿いているので上半身は当然裸。いつもは服で隠れている部分が白日の下にさらされているわけだ。雪道は魔法の他に近接での戦闘もこなせる様にと訓練を積んでいるため、体は引き締まってる。
ファリンの様子に気づいたのか、なのは達3人も雪道に近づき体を見始める。
「わあ、本当だね。すごい」
「運動神経はいいとは思ってたけど、想像以上なの」
「ふーん、面白いわね」
囲まれて完全に珍獣扱いの雪道。先ほど男女比は気にしていないと言ったが、さすがにここまで来ると雪道も意識せざる負えない。離れてくれと言おうと口を開きかけた瞬間、ペタッという音と共に腹部にひんやりとした感覚が走る。
「ひあぁ!?」
「わっ!変な声出さないでよ!」
「び、びっくりしたの」
「そりゃこっちのセリフだ! アリサ何触ってんだ!」
「ちょ、ちょっと気になって……」
「気になってじゃない。冷たいだろうが―――ってなのはにすずかも続いて触ろうとすんな!」
何気なしに触ったアリサに続いて密かに触ろうとして近づく2人を振り払う。そりゃ彼女たちにとっては男の体は興味深いのかもしれないが、雪道としては恥ずかしいやらなんやらで堪ったものじゃない。
残念そうにするなのはとすずかにそんな目をしてもダメだと念を押す。というかここに来た本来の目的を忘れてないだろうか?
「大体、おれ達は泳ぎに来たんだろう? こんなことしてる場合じゃないだろ」
「あ、それもそっか」
「それでは私達もしっかりと柔軟体操をしましょうか」
ノエルの声で体操を始める5人。雪道は先ほど済ませたのでやる必要はない。待っている間手持無沙汰なので、なんとなくプールを眺めることにした。
しかし大きい。学校に備え付けられているプールとそう変わらない大きさで、アリサが伸び伸びと泳げるといったのもよく分かる。さすがお金持ちのお嬢様というかなんというか。
ゆっくりと歩みを進め、プールに張られている水を覗きこんでみる。透き通った綺麗な水が揺れ、太陽を反射してキラキラと輝いている。そして思った感想は―――
(結構深い……)
雪道が今覗き込んでいる場所はちょうどプールの真ん中。一番深くなっている場所だ。水が張っているので正確な深さはよく分からないが、雪道やなのはといった小学生の身長ではまず足はつかないだろう。
さて、柔軟体操が終わったなのは達5人。振り返れば雪道はプールを覗きこんだままでこちらには気付いていない。なのはは彼に声をかけようとするが、それをアリサが口を塞いでストップをかける。
「ふぁりしゃちゃん?(アリサちゃん?)」
「ちょっといい考えがあるんだけど……」
「「?」」
アリサは2人を呼び寄せ耳打ちする。アリサの提案に驚き目を見合わせるなのはとすずか。悪いことをするみたいでなんだかと少し渋る2人だが、まあ大丈夫だと言って笑うアリサ。
雪道も含め基本的に精神年齢が高めの彼女たちだが、もちろん基本的には小学生。いたずらの一つや二つはしてみたくなるものだろう。さっきは体を触らせてもらえなかったということもあり、なんだかんだで折れるなのはとすずか。多少理不尽だがこの際そんな事情は関係ない。あと雪道なら笑って許してくれるだろうという打算もある。
3人は頷き合うとそろりそろりと雪道に近づいていく。監督役であるノエルたちは仕方がないといった表情で苦笑いを浮かべている。このくらいのいたずらなら可愛いものだ。
気付かれるか気付かれないかのギリギリの位置で一旦止まり、タイミングを合わせる。
(((せーのっ)))
「雪くん!」「雪道君!」「雪道!」
「おうわっ!!?」
3人一緒に叫ぶと同時にドンッ!という音がして雪道の体は宙へと投げ出される。普段の雪道なら3人が近寄って来た時点で気付けたはずだが、いかんせん彼はその時考え事をしていた。そのためなのは達の接近に気付くことができず、いたずらの餌食となってしまった。
雪道の体は水面の上。魔法なんて代物を使う訳にはもちろんいかない。この状態ではどうあがいてもプールサイドには戻れないし、後は重力に引っ張られそのまま水中へとダイブするしかない。
ザッパーン!と大きな水しぶきが上がり、雪道の体は水の中へと消える。
「あっはは! 大成功!」
「雪くんごめんね!」
「大丈夫ー?」
アリサはもちろん、いけないと分かりつつも大笑いしてしまうなのはとすずか。ノエルとファリンも微笑ましくその光景を見ている。
急に水中へと投げ出され慌てているのか、バシャバシャと水面を叩く雪道。それがさらに笑いを誘う。だが―――
「あれ?」
いち早くそれに気が付いたのはなのは。最初は慌てて水面を叩いているだけだと思って笑っていたが、いくらなんでも長すぎるのではないだろうか? それなりに時間が経ち、さすがに気付いたのかアリサとすずかの表情も次第に強張っていく。
まさか? いやそんなはずはない。雪道はかなり運動神経がいい。この中ではなのはしか知らないが、フェイトと刃を切り結び、プレシアの時は兵士を次々と倒していたのだ。それなのに?
水面を叩く力は徐々に小さくなっていき、完全に止んでしまう。水中から頼りない水泡がわずかに上がってくるばかり。
「………え?」
それはつまり―――
「雪くん!?」
「くっ―――!!」
ノエルが駆け出し、少し遅れてファリンもそれを追う。プールへと飛び込んで潜り、雪道を抱えると浮上。青ざめた顔で駆けてきた3人も手伝いプールサイドへと引っ張り上げる。
幸いにしてすぐさま雪道は息をし、咳き込みながら水を吐き捨てる。周りでは心配そうに、そして何よりも申し訳なさそうになのは達が見ている。
「けほっ! 死ぬかと思った……」
「………ごめんなさい」
まずなのはが謝る。もちろんこんなことになるとは思っていなかったし、単なるいたずらだった。でもそれは言い訳にはならない。
「なのはは悪くないわ! 一番最初に言い出したのは私なんだから、悪いのは私よ……本当にごめんなさい」
「私も便乗しちゃったし同罪だよね……ごめんなさい」
「申し訳ありません……私がついていながらこんなことに」
「申し訳ありません!」
「そんなに謝らなくていいよ。ノエルさん達も顔を上げてください。」
「でも……」
「あんまり謝られても困る」
このままではいつまでも謝り続けてそうなので、起き上がりつつ笑いながらそう言って止める。
「はぁ……やっぱ変な見栄張らないで素直に言っておくべきだったなぁ」
「ということは、やはり?」
「はい……おれ、泳げないんですよね」
先ほどの様子からなんとなくは予想していたが、やはり驚きは隠せないなのは達。実は雪道はいわゆるカナヅチなのだ。
雪道は基本的にはかなりハイスペックで纏まっている。家事全般を難なくこなし、勉強もできる方だし運動神経もいい。魔法に関してはなのはがかなり規格外なので印象は薄いが、その辺の一般魔導師と比べれば全然上。だが、どういう訳か泳ぐことだけは昔から苦手だった。
「まあ、そういう訳なんだ」
「そうだったんだ……」
「それじゃあ、プールはやめにする?」
「さすがにそれは悪いよ。おれだけのためにこのプール使わないのはちょっともったいないし。なんで―――」
雪道はノエルの方を向くと、とあるものを注文した。
「なのはちゃん、いくよー!」
「はーい!」
なのは達はプールに入り、ビーチボールで遊んでいる。それまでも泳ぎで競争してみたり、どれだけ長い時間潜っていられるかを競ってみたりといろいろ楽しんでいる。
泳げない雪道はどうしているかというと、プールサイドで寂しく見学………というわけではなく、ノエルに持って来てもらった大き目の浮き輪に乗っかってプカプカとプールに浮かんでいた。浮かんでいるだけなので何をしているというわけではないが、なのは達が遊んでいる様子を見てそこそこ楽しんでいる。
プールサイドに近い位置で浮いているため、ノエルがそこに腰を掛けて付き添ってくれていた。さすがに見ているだけではちょっと手持無沙汰になって来たため、雪道は話を振ってみることにする。
「ノエルさんはいいんですか? 加わってこなくて」
「お気になさらないでください。監督役なのでこれでいいんですよ」
「でも……」
「それに雪道様が万が一、また溺れることのないようにしないといけないですから」
「それを言われると何も言い返せないですね……」
「ふふっ、冗談です」
そう言って微笑むノエル。からかわれたと理解して、苦笑いを返す。
しかし本当に暇してないんだろうかと気にはなってしまう。その雰囲気を感じてか、プールの真ん中あたりで遊ぶ4人の方を見ながら呟く。
「こうして4人の遊んでいる姿を見てるだけでも、十分楽しいですよ? 雪道様はどう思います?」
「それについては、同感ですね」
「枯れてますね」
「自覚はしてます」
お互いに少し笑いながら、2人は適当に雑談をしつつ4人の遊んでいる姿を眺める。雪道もノエルもその言葉に偽りはなく、確かに楽しそうだ。
それからしばらくして、全員一旦休憩を入れることにした。もっとも、雪道とノエルは特に動いてないので疲れてなどはいないのだが。その休憩の際、なのはからある提案が出される。
「雪くんに泳ぎを教えよう!」
「へ?」
突然の提案に驚く雪道。聞いてみると、なんでも遊んでいる途中でそうしようと話をしていたとかなんとか。離れていたので雪道には聞こえていなかった。
雪道としても、このまま泳げないというのは嫌なのでその提案に乗らせてもらうことにする。泳げないと判明して以来、まともに練習などしていなかったのでちょうどいいだろうと思ったのだ。
そんな訳で始まった雪道の水泳特訓なのだが―――
「何というかこう……フィーリング?」
「泳げるようになるっていうイメージがきっと大切なの!」
「というかもう気合よ気合! 雪道には気合が足りないわ!」
「ガッツです! ファイトです!」
なのは、アリサ、すずか、ファリンの教え方は下手くそだった。もはや根性論である。雪道とて努力はしているが、まるで解決の糸口にすらなっていないアドバイスもどきではさすがに無理がある。
「心配なさらないでくださいな。私がちゃんと教えますので」
「ありがとうございます……」
ということで雪道は4人に早々に見限りをつけ、ノエルにしっかりと泳ぎ方の基本やコツを教えてもらう。ノエルの教え方は非常に丁寧で分かりやすく、プールサイドに捉まってバタ足すらままならなかった雪道が見る見る上達していく。
4人の応援兼アシスタントも手伝い、かなりマシになった。元々運動神経はいいので行けるんじゃないかとノエルは考え、実際に泳いでみることに。
「よ、よし……」
「ファイトなの!」
「これだけ頑張ったんだから行けるわよ!」
「うんうん! 雪道君なら大丈夫!」
「そうです! 大丈夫です!」
「緊張しないで、雪道様はちゃんと泳げます」
皆から声援を受け、頷く。ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。何、こんな泳ぐくらいなんてことないはずだ。魔法で空だって飛んでるんだし、遥かに簡単だ。ああそうさ!
しっかりと息を吸い込んで……参る!
「ぶくぶくぶく……」
「「「あら―……」」」
ダメでした。
雪道の特訓が終わってからまたプールで少し遊んで、上がったらすずかの家でお菓子などをいただいて、雪道達はすずかの家を後にする。なのはやすずかとは別れて雪道は1人帰路を歩く。
その途中、首からぶら下げているペンダント―――エリシュオンが念話で話しかけてきた。
《今日1日いかがでしたか?》
《ああ。楽しかったよ。泳げるようにはならなかったけど》
《マスターの数少ない弱点が皆さんに知れ渡ったわけですね》
《微妙に棘のあるいい方な》
まあそれについては仕方がないのかもしれない。一応すずかの家にエリシュオンも連れて行ってはいたが、ペンダントをしたままプールに入るわけにもいかなかったし。似たような理由で今回はユーノも留守番している。
雪道は謝罪を入れつつ、今日1日を振り返る。溺れかけたりなんなりとあったが、全体でみれば楽しい1日を過ごせたと思う。一時はアリサとすずかとは若干険悪ともいえない仲になったことも考えると、本当に今の関係に戻れてよかったと、雪道はしみじみ思う。
「よかったよ、本当に」
《はい》
なんとなしに呟いた一言。だがエリシュオンは反応して返事を返す。最初こそ言葉に棘があったが、今はそんなこともない。雪道はエリシュオンも同じような気持ちなんだろうと考え、自然と笑みがこぼれる。
そしてこうも思うのだ。
「ここにフェイトも居てくれれば、本当にいいんだけどな」
なのはと共に全力でぶつかって、ようやく友達になることができた彼女。ここに彼女がいてくれれば、まさに言うことはない。それと同時に、今よりきっともっと……楽しい毎日になると思った。
《裁判、上手くいくといいですね》
《ああ》
戻ることのできた日常。それを噛みしめる。
夏休みの1日が、ゆったりと過ぎて行った。
というわけでいかがだったでしょうか?
始めてオリジナルを書いてみたわけですが、不安しかなかったり・・・
三人称視点も今回初の試みです。読みにくかったりしたら、「読みにくいでっせ!!」などご感想をいただけると助かります。
さて次回ですが、漫画版のA'sの話の1つを予定しております。
それではまた次回お会いできたら!