少々忙しかったりでなかなか書く時間が取れなかったもので。
多少急ピッチで書いたのでちょっと短めですが、今回もごゆるりとどうぞ。
夏休みが終わり、学校が始まってもまた、咲良雪道の平穏な日常は続いていく。しかし、以前とまったく変わりがないのかと言われれば、実はちょっと違っていたりする。
夏が過ぎ去って冬が顔を覗かせ始めた秋のとある日。今回はその彼の日常のうちの1日と少しをご覧いただこう。
016 彼らのとある日々
日の出が遅くなり始めて、まだ暗い早朝4時。雪道の部屋にけたたましいアラームの音が鳴り響く。探るようににして手を動かし、耳障りなアラーム音を黙らせるために目覚まし時計のスイッチを押す。
まだ睡眠を恋いしがる体を強引に動かし、ベッドから這い出る。
「くぁ……」
「おはようございます」
「おう、おはよ」
エリシュオンに挨拶を返し、雪道の1日が始まる。前より起床する時間が早くなっているが、ちゃんとした理由がある。
服を着替え顔を洗い、朝食をすぐに取れるようにだけ準備をしてから、必要最低限の持ち物だけを持ち家を出る。目的地は桜台の登山道、その途中の休憩場。そこに行くまでは軽いランニングも兼ねる。
午前5時。目的地の場所に到着し少し待っていると、先ほど雪道が走ってきた道から別の人影―――高町なのはが現れる。
「雪くん、おはよー」
「おはよ」
軽い挨拶をしたのち、彼らはそれぞれ準備運度をしてから魔法の訓練へと入る。朝の野外での魔法の訓練。雪道の起床時間が早まったのは、なのはと共にこの訓練をするためだった。
事の始まりはフェイトとの別れの数日後のこと。なのはは雪道がいままでどのようにして魔法を訓練していたのかが気になり、学校の帰り道の途中でそれを聞いてみた。
「雪くんはいままでどこで魔法の訓練をしてたの?」
「家の庭でやってるんだ。魔力と視界遮断の結界が張ってるからご近所に気兼ねなくできる」
「へぇ~、そうだったんだ」
「朝、それと夜に数時間ってとこだな」
「なるほど……ねえ、私も一緒に訓練していいかな?」
「なのはも?」
なのはの提案に少し考える雪道。彼女と一緒に魔法の訓練をするというのは、雪道も考えなかったわけではない。アースラでの訓練以来、家で1人でするのはいまいち微妙な気がしていたからだ。それに2人の方が訓練にも身が入るというもの。
だが問題が1つ。雪道の家の庭では、2人で訓練するには狭すぎるのだ。そのことをなのはに伝えると、彼女も雪道と同じように頭を捻らせ始める。
「困ったね」
「そうだな」
それなりに広い場所、かつ魔法を使っても周りに迷惑をかけない結界か何かが必要。2人で考えてもいい案は出なかったので、雪道はなのはの家に寄り、ユーノに相談してみることにした。
「それなら、結界は僕がなんとかするよ」
「いいのか?」
「うん、2人にはいろいろお世話になってるからね。それくらいならお安い御用だよ」
「ユーノ君、ありがとう!」
という感じであっさり結界は問題なくなり、場所もユーノの結界さえあれば最悪どこでも訓練ができるということで、場所の問題もクリア。晴れて雪道となのはの魔法の訓練は開始されることとなった。朝に関しては体力作りも兼ねて桜台の登山道にしようと決め、今日までに至る。
今日はなのはは広域防御魔法の練習、雪道は魔法の発動速度などの確認をここのところずっと行っている。と言うのも、この間のプレシアとの戦いで雪道に若干変化があったからだ。
「うん、やっぱり魔法が発動するまでの時間が大幅に短くなってるな」
「はい。お母様の見解が正しいと思います」
プレシアとの戦いの後、雪道は魔法が発動するまでの速度が大幅に短くなった。雪道の母、春美が調べてみたところ、これは
希少能力とは、希少と言う名が指す通り普通の人は持っていない能力の事である。管理局内でもごく限られた人にしか確認されていないらしい。雪道の希少能力はどうやらこの間の戦いで開花したようだ。
ではどんな能力が開花したかと言うと、春美が調べた限りでは魔力の結合速度の大幅上昇。名付けるならば『高速魔力結合』と言ったところか。
魔法とは、己の魔力を結合させることにより初めて魔法として発動することができる。他にも要因はあるが、簡単に言えば魔法が発動するまでの時間は、結合させるまでの時間と言ってもいいだろう。結合速度が早ければ早いほど発動までの時間が短縮されることになる。
つまり、雪道の高速魔力結合があれば本来はかなり発動の時間がかかる魔法―――雪道で言うなら、時間が掛かっていた砲撃系の魔法でも、なのはと同じかそれ以上に早く撃つことができるようになるというわけだ。普通の射撃魔法ならばほぼノータイムで使用できるだろう。
「おれ自身の魔力量もまあ多少は増えてるか」
「そうですね……っとマスター。時間がそろそろいい頃合いですよ」
「よし、じゃあ朝はこの辺にしとくか。なのは、ユーノ! そろそろ切り上げるぞー」
「あ、はーい」
「分かったよ」
途中まで一緒に帰り、分かれ道でまた後でと言いあってそれぞれの家へ。帰宅後は軽くシャワーを浴び、家事と朝食を済ませる。弁当は昨日のうちに予め作っているので、そのまま学校へ行く準備を始める。
さて、ここまでで雪道はかなり平然と朝の用事を済ませているが、実はこの間にも魔法の訓練は続いている。
なのはもやっていることなのだが、それぞれ身につけているデバイスが彼らの魔力に大きな負荷をかけている。これによりどんな行動をするにも魔力を消費することになり、言うなれば『魔導師養成ギプス』。効果としては魔力量の上昇などだ。
2人にはどれほどの負荷がかかっているのかというと、並みの魔導師なら指一本動かすことができないほどの負荷がかかっている。今の彼らは平然と生活を送っているが、最初はそうでもなかった。その時の2人の反応を一部抜粋する。
「
「うーん、確かにちょっとつらいね」
「ちょっと!? これがちょっと!!?」
「雪くん、つらかったら別に合わせなくてもいいけど……」
「なっ!? バ、バカ言えこれくらい……! ぬおおおおお!」
「あ、あはは……」
2人の間で随分と違いがあったようだ。なんだかんだで合わせる雪道も雪道なのだが。通学や体育などの時間は大体はこの状態で過ごしている。
バスに乗って学校へ行き、合流したなのはとともに雪道達のクラスへと歩く。
「おはよー」
「おーっす」
「なのはちゃん! 雪道君! おはよう!」
「おはよ」
教室でアリサ、すずかと少し喋りそのままホームルーム、授業へと入る。これまた普通に授業を受けているように見える雪道となのはだが、この間も魔法の訓練を欠かしていない。
と言っても別に授業そっちのけと言う訳ではない。今彼らがやっているのは『マルチタスク』と言う魔法の訓練。この魔法は2つ以上の物事を同時に思考・進行させる。戦闘魔導師には必須のスキルとなる。
実際にどのように使用するのかというと、彼らは空戦で戦うことが主なので高速で移動・回避をしつつ行う飛翔、相手やその相手が放った攻撃がどの辺りにあるのか把握する索敵、さらにはそれに対する攻撃や防御、果ては戦略などなど。
高速で状況が動いていく魔導師同士の戦いでは、1つ1つの物事を悠長に考えている暇がない。そのため、マルチタスクは戦闘魔導師には必須となるのだ。だが、いくら物事を平行に考えれたとしても、その判断が正しくなければ意味がない。
瞬時に正しい判断が下せるかどうか。その戦闘センスは訓練をこなして身につけるしかない訳だが、学校に通っているのではその暇はない。そこで雪道達はとある方法を取っている。
《エリス、仮想戦闘を頼む》
《了解です》
デバイスから送られてくる仮想データでのイメージファイト。これならば授業を受けながらにして、限りなく実戦に近い戦闘経験を積むことが可能になる。マルチタスクの併用で授業もばっちり。さらに言えば雪道はマルチタスクを扱いが取分け上手いため、戦闘訓練しつつ授業を受け、さらには今晩の献立なんかも考えてたり。
イメージでできる事と、マルチタスクのおかげでどんな行動をしているときでもできるという手軽さゆえに、2人とも暇さえあればこの訓練を行っている。
学校が終わり夕方。なのはは塾や家の手伝いが無いときはこの時間も訓練に当てているが、雪道は家事をしないといけないため基本的には参加していない。
夕食や宿題を終えたら、再び2人は合流ののち夜間訓練。なのはが塾で雪道1人になるときもあれば、逆に雪道が家事に追われてなのは1人の時もある。
夜間訓練では基本的に高速機動の訓練を行い、雪道はそこに砲撃の実射も交える。今日はさらに改良したウィングの調整を兼ねている。
「いい感じに仕上がったな」
「ええ、もう実践に出しても問題ないでしょう」
「あ、新しいウィングできたんだ?」
「おう、まぁな」
興味深そうに近くに来たなのはに、ライオットトリガーの持っていない腕を出して見せる。手首のあたりに、見た目機械的なエネルギーウィングがついている。もちろん、武器を握っている方の腕にもついている。
これが雪道の改良を重ねた新しいウィング、『
夜間訓練はそうして過ぎていき、満足するまで訓練したらそのまま家へと撤収。風呂に入り、明日の準備などをしてそのまま就寝。完全な休日にしている日曜日以外は毎日これの繰り返し。
前に少しクロノと通信した時にはやり過ぎだと言われたが、本人たちが楽しくしているので、まあ……いいだろう。
次の日の土曜の午後、なのはが試したいことがあるというため夕方に海上へと集まった雪道達。
実は今この時、クロノが雪道達に教導メニューを渡そうとしているため、クロノや春美と言ったアースラの面々からモニタリングされてたりする。
「で、試したいことって?」
「スターライトブレイカーの発射シークエンスを変えてみたの。試射して見たいんだけど、いいかな?」
「うん! でもブレイカーは目立つから、強い結界を用意するよ」
「それがいいですね」
「ああ……前に2回ほど失敗してるからな……」
あの時はご近所さんを誤魔化すのに苦労したと遠い目をする雪道。ユーノは同情の目線を送っておくことにした。お互い苦労する。
「それはともかくだ。発射方法変更ってどうしたんだ?」
「うん……あれって発射までが遅くって高速戦では使えないでしょ?」
「ではやはり高速化ですか?」
「ううん、逆! チャージタイムを伸ばして威力を大幅アップ! 最大威力の強化を最優先してみたの」
「そ…そう………」
(この脳筋め………)
最大出力が大きいなのはだからこそ取れる方法に、羨ましくもあるがどちらかというと呆れの感情が上回る。思うだけで口にはしないが。
ユーノが結界を張り、なのはが発射態勢に入りレイジングハートがカウントを始める。
次第に大きくなっていく魔力。確かにすごい、すごいが……なんかすごすぎないだろうか? 膨大な魔力量になのはや雪道のバリアジャケットが強風に煽られた様に激しくなびく。
「4」
「むむ…! これは結構スゴイかも! 雪くん、ユーノ君! がつんと来るから気を付けて!」
「3」
「う、うんっ!」
「2」
「いや、うんっ!……じゃねぇだろ! これがつんじゃ済まなさそうだって! 一旦中止してだな!!」
「スターライトォ!」
「1」
「あっ、ちょ!! 待っ―――!」
「ブレイカァー!!!」
ドゴォ!!!と言う音と共に結界内が桜色で満たされ、砲撃の衝撃に耐えかねた結界が内側から破裂……破壊される。砲撃が収まっても、発生した煙で3人の姿はまだよく見えない。
様子をうかがっていたアースラのクロノは慌てて3人に通信を入れる。
《なのは! 雪道! ユーノ! 大丈夫か? 生きてるか―?》
「ふぇぇ……なんとか~……」
「僕もとりあえずは……雪道がとっさにシールドで守ってくれたから」
《そうか……》
煙が晴れ、なのはとユーノの姿を確認する。なのはからは煙が上がっているが怪我はなく、ユーノはほぼ無傷……なのだが、1人足りない。
《で、ユーノ君を守った肝心の雪ちゃんは?》
「「え?」」
春美の声に左右を見渡してみるが、雪道の姿は見当たらない。が、その直後にドボンと言う音がなのは達の足元の方で聞こえる。
ここは海上、何かが落ちれば今のような音が聞こえるだろう。では何が落ちたのか? まあ言うまでもなくそれは―――
「きゃあああああ! ゆ、ゆゆ……雪くんが!!」
「うわわ! なのは! 早く助けてあげて!」
「う、うん!」
なのはに回収され雪道は事なきを得る。
その後なのはは自爆による魔力エンプティ、雪道は単純な魔力ダメージによって1日半の休みを余儀なくされるのだった………
雪道が休息している間、春美はエリスに通信を入れる。
「で、どう? 雪ちゃんの成長具合は」
《はい、順調ですね。魔力量や出力も上がってきていますし》
「そう……ありがとう。いつもごめんなさいね」
《いえ。それでは》
「ええ」
エリスとの通信を終えてふう……とため息をつく。雪道は春美が思っている以上のスピードで強くなっているようだ。それは〝あの力〟が原因かどうかは分からない。でも………
「完成を急がないといけないかもしれないわね」
背後にある『それ』をちらりと見ながら、そう呟いた。
ゆっくりと、運命の歯車は回り始める
新たな出会いと戦いの時は
もうすぐそこに
と言う訳で漫画版からの話でした。
次回からはA's編をやって行こうと思っていますのでよろしくお願いいたします。
書ける時間が取れるといいなぁ……
それでは、読んでくださりありがとうございました!
ご意見ご感想などもお待ちしております<(_ _)>