今日までに1個は仕上げたかったので・・・
それではごゆるりとどうぞ!
「はぁ……! はぁ……!」
冷たい夜風を切りながら、雪道は人通りが少なくなりつつある街を駆け抜けていた。
すれ違う人たちが何事かと振り返って見てくるが、その視線に一切構うことなくただひたすらに走り続ける。
《次の交差点を右です!》
エリシュオンのナビゲートに従い、なるべくスピードを落とさない様に右へと曲がる。酸素と休息を求める体に鞭を打って足を動かす。
止まっている暇はない……今はこの1分1秒が惜しい。ユーノからフェイト達も一緒に来ているとは聞いているが、相手の強さは未知数だ。戦力は多いほうがいい。
(持ちこたえてくれよ!!)
窮地に陥っている友達を助けるために、雪道はユーノが指定している結界内部へのジャンプポイントへ急いだ。
018 戦いの幕開け
自分の攻撃を弾いた少女―――フェイトと少し距離を取ったヴィータは、相棒のグラーフアイゼンを担ぎ直し、いつでも動ける状態をとる。
フェイトはサイスフォームへと変えたバルディッシュを構えたまま、警戒を続けている。
「民間人への魔法攻撃……軽犯罪では済まない罪だ」
「あんだてめぇ、管理局の魔導師か?」
「時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサ。抵抗しなければ弁護の機会が君にはある。同意するなら武装を解除して」
「誰がするかよ!」
そう言うと、ヴィータは飛行魔法でビルの窓から滑るようにして外へと飛んでいく。
逃げるのかそれとも罠か……どちらにせよ追わないわけには行かない。フェイトは後ろを少し後ろを振り向いて、頷く。
「ユーノ、なのはをお願い」
「うん!」
地面を蹴り、フェイトも飛行魔法を発動させビルの外へと出る。
ユーノはそれを見届けると、弱っているなのはに治癒魔法をかけながらここに来るまでの経緯を話すことにした。
「フェイトの裁判が終わって、みんなでなのはや雪道に連絡しようとしたんだ。でもなのはには通信が繋がらなくて、それで局の方で調べたら広域結界ができてるのが確認できたんだ」
「それで、フェイトちゃんと一緒に来てくれたんだね」
「うん。雪道にも連絡を入れてあるから、多分もうじき来てくれるよ」
ユーノからその話を聞くと、なのはは安心すると同時に申し訳なさでいっぱいになる。昨日届いたビデオメッセージでフェイトともうじき会えると聞いていたのだが、再会がこんな形になってしまった。
気にしないでとユーノは首を振ってくれるが、それでも心はなかなか晴れない。
「それで、あれは誰?」
「分かんない……急に襲ってきたの」
「そう……でも大丈夫。フェイトもいるし、アルフも来てくれてるから」
「アルフさんも?」
「うん。それにさっきも言ったけど、雪道だって来てくれるから」
だから今は休んでと言われ、なのはは頷きひとまず目を閉じて回復に専念する。
一方フェイトはヴィータを追って街の上空へと出ている。ヴィータは魔方陣を展開して空で留まっていた。
逃げたわけではない。では罠? 様子を見るために、フェイトは牽制で攻撃を繰り出す。
「バルディッシュ」
「Arc Saber」
「グラーフアイゼン!」
「Schwalbe fliegen」
フェイトが金色の刃―――アークセイバーを放つと同時に、ヴィータはシュヴァルベフリーゲンを放つ。互いの魔法がすれ違い、相手に向かって飛翔していく。
「障壁!」
「Panzer hindernis」
グラーフアイゼンから赤い障壁―――パンツァーヒンダネスが展開され、フェイトのアークセイバーを受け止める。激しい衝突の後、アークセイバーは障壁を突き破ることはなくそのまま消滅してしまう。
フェイトはシュヴァルベフリーゲンを身をひるがえして躱すが、誘導弾であるそれはそのままフェイトを追跡し始める。大きく移動するが、振り切ることはできない。しかし、これはヴィータの注意を引きつける陽動だ。
「っ!」
「バリア―――ブレイク!」
ヴィータの後ろ斜め下の死角からアルフが一気に接近し、パンツァーヒンダーニスへと拳を叩きこむ。打ち込んだ拳は少し障壁と拮抗するが、バリアブレイクの効果で障壁は粉々に砕け散る。
フェイトはそれを確認すると、誘導弾をギリギリまで引きつけ回避。誘導弾はお互いに衝突し合って爆発、消滅する。
障壁を砕いたアルフに向かって、ヴィータはグラーフアイゼンを叩きこむ。とっさにラウンドシールドを展開するも、アルフはそのままシールドごと吹き飛ばされてしまう。
「はぁああ!」
「Pferde」
フェイトはバルディッシュで攻撃を仕掛けるが、移動力を上げるフィーアデによってその攻撃が空振りと終わる。
だが態勢を立て直したアルフが魔法解除を発動し、フィーアデの効果は無効化。フェイトは追いかけて右斜め下からすくい上げる様にバルディッシュを振り、ヴィータはそれを今度はグラーフアイゼンで受け止める。
鍔迫り合いのような状態になりながら、ヴィータは心の中で舌打ちをする。ただ相手を潰すだけなら話は簡単なのだが、ヴィータの目的はそこにはない。相手の魔力を持って帰ること……それこそがヴィータが今戦っている理由なのだから。
戦いの場所から少し離れた先ほどのビルの屋上。そこで治癒魔法で歩ける程度まで回復したなのはは、ユーノに支えられながらフェイト達の戦いを見ていた。
「アルフさん、本当に来てくれたんだ」
「クロノ達も、アースラの整備を一旦保留にして動いてくれてるよ」
その言葉は嬉しくもあると同時に、やはり申し訳なさが先に立ってしまう。ユーノから今の状況を教えられながら、フェイトの戦いを歯がゆい気持ちで見守る。
空中を駆け巡りながら、何度もバルディッシュとグラーフアイゼンが交錯し合う。何度目かの打ち合いの後、フェイトはヴィータから少し距離を離すように移動する。
これを好機と見たヴィータは、そのまま距離をつめて一気に畳み掛けようとする………が、途中で急に体が何かに縫い付けられたように動かなくなる。それにワンテンポ遅れるようにして、ヴィータの両手両足にオレンジの輪―――バインドが現れる。
フェイトが下がったのは、アルフの仕掛けたバインドにヴィータを誘い込むためだったのだ。フェイトはバルディッシュを突きつける様に前に出す。
「ぐぅぅ!」
「終わりだね。名前と出身世界、目的を教えてもらうよ」
ヴィータは答えずにこちらを睨みつけてくるのみ。さて、どうするかを考えて―――
「フェイト! なんかやばいよ!」
「っ!?」
アルフが言葉を放った瞬間。フェイトの目の前に誰かが現れ、何かを横に振ってくる。反射的にバルディッシュを縦に構えて防御するが、攻撃の勢いでフェイトは吹き飛ばされる。
アルフはすぐさまフェイトを追いかけようとするが、今度は別の誰かが雄たけびを上げながら近づいてくる。振り向いた時にはすでに目の前……右から来る蹴りを左腕でガードするが、アルフもまたそのまま飛ばされてしまう。
「シグナム……ザフィーラ……」
「レヴァンティン、カートリッジリロード」
「Explosion!」
ガシュゥ!と機械的な音がし、フェイトを吹き飛ばした女性―――シグナムの剣型のアームドデバイス、レヴァンティンから薬莢が一つ排出。するとレヴァンティンから炎が噴き出し始める。
「紫電一閃! はああああ!」
「くぅ!」
炎を纏ったレヴァンティンが上段から振り下ろされる。先ほど吹き飛ばされて態勢が整ってない状態で、フェイトはなんとかバルディッシュを横にして受け止めようとするが……まるで紙を切るかのようにシャフト部分が真っ二つに斬られてしまう。
シグナムは腕を引き、再び上段からフェイトを切り裂かんとレヴァンティンを振るう。
「くっ!!」
「Defensor」
バルディッシュがオートでディフェンサーを発動する。だがそれさえも砕かれ、フェイトはそのまま真下のビルの屋上へと叩き付けられる。
アルフは慌ててフェイトの元へ行こうとするが、それは目の前に立ちふさがった男性―――ザフィーラに阻まれ思うように動けない。
「フェイトちゃん……アルフさん……!」
「まずい、助けなきゃ!」
ビルの屋上から見ていたユーノは、素早く詠唱を始める。
「妙なる響き、光となれ。癒しの円のその内に、鋼の守りを与えたまえ」
詠唱が終わるとなのはの足元に緑の魔方陣が輝き、さらにその円を覆うように半球状のドームが展開される。
「防御と回復の結界魔法。なのはは絶対にここから出ないでね」
「うん」
なのはもフェイトを助けに行きたがったが、消耗している自分が行ってもできることはない。ユーノの言葉に従って頷く。
ユーノはそれに頷き返すと飛び上がり、フェイト達を助けるために飛翔する。
シグナムはフェイトを叩き落とした後、バインドで拘束されたままのヴィータへと近づいていた。
「どうしたヴィータ? 油断でもしたか?」
「うるせぇよ、こっから逆転するとこだったんだ」
「そうか、それは邪魔したな。すまなかった」
シグナムは左手を前に出して目を閉じる。するとヴィータを拘束していたバインドが解かれ、自由になる。
「あんまり無茶はするな。お前が怪我でもしたら、我らが主も心配する」
「わーってるよ、もう」
「それから落し物だ。破損は直しておいたぞ」
そう言いながらシグナムはヴィータにウサギ付きの帽子をかぶせてやる。こちらに合流する前に拾い、魔法で直しておいたものだ。
「ありがと、シグナム」
「状況は実質3対3……1対1なら、我らベルカの騎士に―――」
「負けはねぇ!!」
その言葉と共に2人は戦いを再開すべく、降下を始めた。
「大丈夫?」
「うん。ありがとう、ユーノ」
ビルに叩き落され、その内部にまで落ちていたフェイトだったが、ユーノが合流して治癒魔法をかけてもらったおかげ今は動けるようになっている。
フェイトは脇に落としてしまったバルディッシュを手に取る。シャフト部分は真っ二つになり、ボロボロとなってしまっている。
「バルディッシュが……」
「大丈夫、本体は無事」
「Recovery」
バルディッシュが光ったと思ったその時には、もう元通りの姿に戻っていた。
さて、これで再び戦えるようになったわけだが、正直に言って勝算はほぼない。雪道もこちらへ向かっていると聞いているが、それでも厳しいだろう。それほどまでに彼らは強いのだ。ここは撤退をするのが一番だと判断する。
「ユーノ、この結界内から全員同時に転送……できる?」
「アルフと協力できれば……なんとか」
「私が前に出るから、その間にやってみてくれる?」
「分かった」
《アルフもいい?》
《ちょいときついけど、なんとかするよ》
作戦は決まった。フェイトはユーノと頷き合い、時間を稼ぐために飛んで前へと出る。
再び戦場へと戻ったフェイトは一番近い場所にいたシグナムへと狙いを定め、バルディッシュを振るう。シグナムもそれに反応してレヴァンティンを構え打ち合う。
どんなに攻撃しても押すことができず、近接は不利と判断。一度距離を取って遠距離からの攻撃にシフトする。
「Photon lancer」
「撃ちぬけ! ファイア!」
「レヴァンティン、私の甲冑を」
「Panzer geist」
バルディッシュを振るい雷を纏ったフォトンランサーがシグナムを襲うが、シグナムはその場から一切動かず防御魔法―――パンツァーガイストを発動させる。
フォトンランサーはシグナムを覆う紫のオーラに弾かれ、一切のダメージを与えることは叶わない。
「魔導師にしては悪くない。だがベルカの騎士に1対1を挑むには……まだ足りん!」
レヴァンティンを構えこちらに向かってくる。途中シグナムの体がぶれる様に消え、気付いた時にはすでに目の前に。
ギリギリで反応しディフェンサーを発動して彼女の剣を受け止めるが、ディフェンサーは先ほどと同じくあっさりと破られ、そのままバルディッシュで受け止めることになる。
「レヴァンティン! 叩き斬れ!」
「
レヴァンティンに再び炎が吹き上がり、バルディッシュに罅を入れると同時にフェイトを吹き飛ばしてビルへと叩き付ける。
「フェイトちゃん!」
「くっ……」
なんとか体を起こそうとするが、思うように体が動かない。体が動かないながらも、フェイトは冷静に今の状況を分析する。
彼女たちが使っているデバイス。そこから排出される弾丸で一時的に魔力を増幅させてる? そのせいでパワーに差がついているのか。
《ユーノ、転送魔法は?》
《転送の準備はできてるけど、空間結界が破れない! アルフ?》
《こっちもやってんだけど、この結界……めちゃくちゃ堅いんだよ!》
「みんな……!」
なのははユーノの作ってくれた結界魔法の中で、自分にも何かできないことがないかと考える。しかしそんな妙案はすぐには浮かばない。
こんな状態でも戦いに出れば時間稼ぎくらいはできるか……? そう考えて結界の外へと足を踏み出した、その時だった。
体に違和感を感じた。足元がふらついて倒れそうになる。一体何が……?
少し顔を下ろして見ると、そこには――――
「え………?」
「なの……は………?」
腕が生えていた。もちろん、なのは自身の物ではない。誰かの腕。
「あぁ……あ………」
「なのはあああああああああ!!!」
動かなかった体を強引に動かしてなのはの所へと行こうとするフェイトだが、その前にはシグナムが立ちはだかり進めなくなる。
なのはのいるビルから少し離れた、別のビルの屋上。そこになのはの体の異変を起こしている人物、シャマルがいた。
「しまった、外しちゃった」
シャマルの前には彼女のデバイスであるクラールヴィントが作った円状の魔法『旅の鏡』が展開されており、そこに左腕を通している。なのはの体から出ている腕は、彼女の物だった。
シャマルはなのはが結界外へと出るのをずっと待っていた。そしてなのはが出た瞬間にこの魔法を発動したので、本来の狙いであるリンカーコアを外してしまったのだ。
今度こそリンカーコアを捕捉するために、引いた腕をもう一度旅の鏡の中へと―――
「シャマル! 今すぐそこから離れろ!」
「っ!!」
切羽詰まったシグナムの声を聞いて、シャマルは魔法を中断してその場から離れる。すると先ほどまでシャマルがいた場所を、風を纏った紅の砲撃が抉る。
さらに砲撃が来た方向から、白銀に光る魔力弾が6つ飛んでくる。それらはそれぞれ複雑な軌道を描きながら、シグナム達ベルカの騎士へと向かう。シグナム達は未知の攻撃に一旦攻撃をやめ、なのは達から離れる。
この魔法をなのは達は知っている。この魔力光の色と魔法。それは………その人物は………
なのはが窮地に落ちいる少し前の結界の外。ポイントに辿り着いた雪道は辺りに誰もいなくなるタイミングを計っていたため、なかなか結界内にジャンプできずにいた。
もちろんユーノは気を利かせて路地裏にポイントを設置してくれていた。だが運が悪いのかその道は抜け道に使われているようで、簡単に人目が無くならなかった。
雪道は左右に素早く視線を動かし、今度こそ人がいないことを確認する。
「ようやく誰もいなくなったか……よし!」
頷いて右手を地面へと当てる。すると緑色の魔方陣が展開され、雪道はそこに魔力を流し込んでいく。
より魔方陣の輝きが強くなり、準備が完了する。
「これで……結界内へ!」
「Jump!」
視界が一瞬真っ白になり、それが終わった時には雪道は結界内へと侵入していた。
雪道がいる場所から右の方に先ほどまで感じれなかった魔力反応が複数。それと何かが爆発するような音が聞こえる。
「くそっ、エリス! スタートアップ! その後にウィングを!」
「Start up! Inertia wing!」
雪道の体が輝き、彼のバリアジャケットが展開。同時に両腕にイナーシャルウィングが広がる。それを確認すると地面を強く蹴って空へと飛びあがり、なのはたちのもとへと急ぐ。
飛行を始めて少しすると、彼女たちが戦っているであろう場所が見えてくる。一番最初に見えたのは……体に何かされようとしているなのはと、それを仕掛けている緑色の服の女性。
「まずい! 武器を!」
「Riot trigger」
雪道は一旦足を止め、彼の右に現れた魔方陣に手を入れて自身の武器であるライオットトリガーを取り出す。そしてすぐさま正面へと向ける。足元に魔方陣が出現し、ライオットトリガーの先端に紅い光の球体が膨らんでいく。
前までは撃つまでに時間が掛かってとっさに撃つには向かなかったけど、今は違う。雪道の希少能力の『高速魔力結合』によってその時間の遅さは解消されている!
「駆け抜けろ旋風ぅ!」
「Cyclone punisher」
以前使っていた時よりもはるかに早く撃ちだされたそれは、風を纏いながら緑色の女性―――シャマルへと迫って行く。だが撃ちだしたことに気付かれて回避されてしまい、サイクロンパニッシャーはビルの屋上を抉るだけに終わる。
雪道はその後すぐに空圧弾を6つ生成し、プラズマシュートへと派生させて撃ちだす。複雑な軌道を取らせながら、正体不明の敵であるシグナム達をフェイト達から遠ざけるように動かす。
シグナム達は一度同じ場所へと集まり、シャマルは防御結界を展開させてプラズマシュートをすべて弾く。雪道はなのはとフェイトの前に立ちふさがるように移動する。
「これは一応……ギリギリセーフってことでいいのか?」
「おそらくは」
「雪くん!」「雪!」
「悪い2人とも、それにユーノにアルフ。遅れた」
雪道の登場に表情を明るくする4人。シグナム達は警戒しながら、現れた彼の様子をうかがっており、その間に雪道は自分の周りに魔法弾を生成しながら素早く今の状況を確認していく。
なのはとフェイトは戦闘不能一歩手前。デバイスがひどく損傷しているため今のままでは戦えないだろう。ユーノとアルフはまだ余裕はありそうだ。
この状況で選べる選択肢はそう多くない。少し厳しいかもしれないが、雪道はある作戦を取ることにした。
《みんな、聞いてくれ。これから一つ作戦を言う》
《作戦?》
《おれもただ遅刻してきたわけじゃない。クロノから分かる分だけだけど、この結界の事とか聞いたからな》
雪道は結界内に入れない間、ただぼーっとしていたわけではない。クロノ達に連絡を入れて、いろいろと情報を聞いていた。その情報を聞いている間にも、いくつかの作戦をあらかじめ立てておいたのだった。
《今この状況はおれが考えていた中でも最悪の方だ。撤退しか取れる選択はないと思う》
《うん。だけどこの結界、かなり強力で破ることができないんだ。それで転送魔法も使えなくて……》
《分かってる。そこでだ。ユーノ、アルフ……なのはとフェイトを連れてこの場から離れるんだ》
《《え!?》》
それを聞いて驚きをあらわにするなのは達。それはそうだろう。ユーノとアルフがなのはとフェイトを連れて行くということは、ここに残るのは雪道だけになる。
それはつまり、彼は1人でシグナム達4人を相手にするということに他ならない。
《それは無茶だよ! 雪!》
《そうなの! たった1人でなんて……!》
《そう言うと思ったよ。まあ聞けって。なのは、お前のスターライトブレイカー……確か結界破壊効果があったよな?》
《え? う…うん》
《ここから離れたらなんとかスターライトブレイカーを撃つんだ。集束魔法だからフェイト達も手伝えばなんとかなるはずだ》
ユーノ達ではこの結界は破れない。だが高威力のなのはのスターライトブレイカーならばこの結界も貫けるはずだ。
フェイト達はその発射の手伝いと万が一のための護衛。雪道の仕事はそれまでの時間稼ぎ。
《………任せていいんだね?》
《任せろ。遅れてきた分ばっちり仕事してやるぜ》
《分かった》
《ユーノ君!?》
《雪道の覚悟は固い。ここは任せよう》
《でも……》
《フェイト、ここは雪道に任せよう? あたしたちはあたし達にできることをするんだ》
かなりしぶしぶと言った感じではあるが、なのはとフェイトの了承を得る。あとは4人を逃がすタイミングだが……
《俺が合図したらユーノはなのはを、アルフはフェイトを担いで離脱するんだ。いいな?》
《《了解》》
《それから―――》
大まかな内容を伝え終わり、雪道は少し前へ出る。トリガーガードに指をかけてクルリとライオットトリガーを回し構える。シグナム達も自分のデバイスなどを構え、まさに一触即発の状態になる。そして………
「行けぇええええええええ!!!」
言葉と共に待機させておいた白銀に輝く魔力弾を一斉に撃ちだす。それと同時にユーノとアルフは動き、なのは達を抱えて離脱していく。
すぐに追いかけたいが、目の前に迫っている魔力弾をどうにかする方が先か。シグナム達はそれぞれ雪道の撃ちだした魔力弾に対処するために動く。だが対処するということは、魔力弾を見ているということ。それこそが雪道の狙い……!
「そこだ!」
「Flash bullet」
「なに!?」
飛んでいた魔力弾は突如として炸裂、辺りを眩い光が埋め尽くす。その光をまともに見てしまったシグナム達は、そのまま視界を奪われてしまう。
雪道が今撃ったのは最初に放ったプラズマシュートではなく、強い光で相手の視界を奪う
術者である雪道自身はもちろん、なのは達にも伝えてあるためこちら側で視界を奪われた人はいない。4人の離脱時間を稼ぐために、雪道はイナーシャルウィングを震わせ一気に距離を詰め、まずはザフィーラに向かって蹴りを入れる。
「らぁ!!」
「ぐっ……!!」
「次っ!」
蹴りがザフィーラの鳩尾にもろに入り、そのまま後ろへと下がって行く。それを確認して、すぐさま次はシグナムへと斬りかかる。
上段からライオットトリガーを振り下ろすが、シグナムはそれをレヴァンティンを横に構えて受け止める。金属同士の甲高い音が鳴り響き、そのまま鍔迫り合う。
「あいつら……逃がすかぁ!」
上手く目が見えないながらも、逃げるなのは達を追いかけるために飛び始めるヴィータ。それを見て雪道は心の中で舌打ちをする。
「あいつ……! エリス!!」
「Aerial burst!」
「なっ!?」
エリシュオンが言葉を発した瞬間、空気が弾けるような音がする。同時に雪道の体が勢いも何もつけてないにも関わらず後ろに回転、サマーソルトで横に構えられていたレヴァンティンを蹴り上げる。
エリアルバーストは小さな空気の爆発で体を回転させる魔法だ。一見地味に見えるが、これによりとっさの緊急回避や三次元的で不規則な動きなど、かなり戦い方に幅を持たすことができる。ただ体の限界を超えた動きになるため、連続で使えばかなりの負荷がかかってしまう。
サマーソルトでシグナムの態勢を崩した後、エリアルバーストで今度は体を前に出してタックル。シグナムを吹き飛ばし、今度はヴィータを追いかける。
「行かせない!」
「くそっ……どいてくれ!」
「Chain bind」
「きゃあっ」
雪道が左手を振るうと、立ち塞がったシャマルの下から魔法の鎖が二つ伸びてきて足に絡みつく。そして絡め取ったそのチェーンは、出現している魔方陣の中へ吸い込まれる様に巻き取られる。当然、シャマルもそれに引っ張られて下がっていく。
進行方向が開いたので再びヴィータを追いかけるが、距離がありこのままでは追いつけない。雪道は左手を前に出し、少し小さめの魔方陣を展開させる。
「行けっ、捕まえろ!」
「Claw shot」
魔方陣から勢いよく魔法の鎖が飛び出す。だが先ほどのチェーンバインドと違い、鎖の先端部分には掴むための鉤爪の様なものがついている。
クローショットは追尾型の捕獲系魔法で、ユーノから教わったチェーンバインドから派生させ作り上げた。チェーンバインドより出せる本数は圧倒的に少ないが、その分強度や速度が大幅に上がっている。先端のクロー部分は対象を掴んで拘束することが可能だ。
クローショットは風の力を借りてヴィータに一気に迫る。ヴィータも後ろからくるそれに気づき回避を試みるが、躱しきれずに左足を掴まれる。掴んだ瞬間、鎖は魔方陣の中へと吸い込まれていき、ヴィータは引っ張られて雪道との距離を狭めていく。
「くっ、このぉ!」
「はぁああああああ!!」
すれ違いざまに一太刀入れるが、ヴィータにパンツァーヒンダネスで防がれダメージは通らない。態勢を立て直したヴィータ達は一旦集まり、雪道はなのは達が退避していった方向を塞ぐ形で向き合う。
今の攻防は閃光弾のおかげでなんとか有利に立ち回れはしたが、なのはやフェイトをあそこまで追い詰めた相手だ。自分で言いだしておいてなんだが、雪道では真っ向からの勝負をしたのでは5分と持たないかもしれない。しかも1対4と状況も悪い。
雪道が今すべきことは、なのはのスターライトブレイカーが発射されるまでの時間稼ぎ。相手の情報を聞き出すことも兼ね、雪道はひとまず話をしてみることにする。
「あんたら、一体なんでこんな真似をする?」
「それを貴様に話す義理はない」
「まあそうなんだけど……襲われた方としては理由は気になるものなんだが?」
その言葉には答えず、それぞれの武器を構えるシグナム達。どうやらこれ以上質問に答える気はないようだ。少しの情報もくれないか……
雪道も仕方なしに武器を構える。お互いに睨み合う中で、雪道は相手の目を見て思うところがある。彼女たち4人の目……そこからはどんなことをしてでも成し遂げるという強い意志が感じ取れた。そこには一分の迷いもない。
何が彼女たちをそこまで駆り立てるのか……教えてくれない以上分からないが、雪道自身もそれ相応の気合を入れる必要がありそうだと感じる。が、それはそれとして、もう少しだけ時間は稼がせてもらう。
「雪道だ」
「何?」
「おれの名前だ。咲良雪道。一応敵同士だからな……咲良でいい。そんでこのブローチが相棒のエリュシオン。あんたらは?」
「我らはベルカの騎士。私はヴォルケンリッターが烈火の将……シグナム。そして我が剣、レヴァンティン」
「紅の鉄騎、ヴィータ。こいつはグラーフアイゼン」
「風の癒し手、シャマルです。この子はクラールヴィント」
「盾の守護獣、蒼き狼……ザフィーラ」
「オーケー、ちょっと多くて覚えられないけど」
「私が覚えておきますので」
それぞれ名乗りが終わり、さらにお互いの間の空気が張りつめていく。もういつ戦いが始まってもおかしくない。
雪道の後ろで大きな魔力が膨らんでいくのを感じる。おそらくなのはがスターライトブレイカーの発射態勢に入ったのだろう。あと、もう数分……
「いい気迫だ。咲良にエリシュオンだったな……たった1人で我らに挑むだけはある」
「全員まとめて面倒見てやるぜ……行くぞっ!!」
イナーシャルウィングを震わせ一気に前へと出る。数はもちろん、実力でも圧倒的にこちらが劣っているのは目に見えている。受け身に回ったらあっという間に押し切られてしまうだろう。そうなる前に少しでも攻める!
雪道の動きに合わせてまずはヴィータが飛び出してくる。正面から縦に振られるグラーフアイゼンを躱し、ライオットトリガーを一直線に突き出す。それを彼女はベルカ式版ラウンドシールド―――パンツァーシルトを展開して防ぐ。
シールドに阻まれ動きが止まっているところに、シグナムが横からレヴァンティンを横薙ぎにしてくる。雪道はヴィータへの攻撃を中断し、後ろへ大きく飛び退く。
「おおおおおおお!!」
「こんのぉ!」
「Break impulse」
退いたところに追撃を仕掛けてきたザフィーラの拳に、雪道は左手を握りしめ魔力を乗せて、クロノ直伝のブレイクインパルスで打ち合わす。
ゴッ!と鈍い音がしてお互いに後ろへと退き合う。衝撃に顔をしかめていると、辺りに緑色の何かが見えた気がした。
「バック!!」
「Aerial burst」
空気の爆発で雪道の体はさらに後ろへと下がる。すると先ほどまで雪道がいた場所に緑の輪が現れ、対象を逃したのですぐさま消える。それはシャマルが仕掛けたバインド。あのまま何もしなければ捉えられていただろう。
雪道が左手を振るうと足元に魔方陣が現れ、彼の周囲に紅の空気の塊が複数現れる。
「
「Air bullet, ready...」
「ショット!」
周囲に展開されていた空圧弾が次々と射出されていく。空圧弾はプラズマシュートと違い直射タイプなので、数が用意できる。僅かでもこれで足止めをしようと考えるが、ザフィーラが前に出てくる。
「障壁展開!!」
「なっ!?」
ザフィーラが展開した大型の障壁によって、空圧弾はすべて弾かれてしまう。たった1人ですべて防がれるのは想定外だ。
ならばと次は砲撃魔法を放とうとライオットトリガーを正面に向ける………が、それよりも早くヴィータが動く。
「一気やるぞ! グラーフアイゼン!」
「Explosion!」
グラーフアイゼンがカートリッジをリロードし、先端のハンマーの形状が変化し再びラケーテンフォルムへと姿を変える。
推進剤噴射口から火が上がり、推進力を得たヴィータが一気に雪道へと迫ってくる!
「速い!? シールド!」
「だりゃああああああああああ!!!」
左手を突き出してラウンドシールドを展開するも、そのシールドはなのはの時と同じくしてあっさりと破られてしまう。
雪道個人の防御力はそう高くない。この一撃をもらうわけにはいかないとなんとかライオットトリガーの樋の部分でグラーフアイゼンのスパイク部分を受け止める。
「ぐぅううううう!!」
ガキィ!という甲高い音が鳴り響く。なんとか後ろに下がりながら受け止めることでなんを逃れることができた。だが、ライオットトリガーから鈍い音が聞こえた。握っている己の武器を見てみる。
「罅が……!」
先の攻撃を無理に受け止めたため、ライオットトリガーの刃に罅が入ってしまっていた。刃こぼれも起こしているし、かなり厳しい状態だ。
雪道はライオットトリガーに気を取られて周囲の警戒を怠ってしまう。今は戦闘中だ。それが何を意味するのかは……明白。
「マスター! 前を!!」
「おおおおおおおおお!!!」
「くっ……!?」
いつの間にか正面に来ていたザフィーラが拳をアッパーで繰り出してくる。スレスレでプロテクションを展開するが、ザフィーラのパワーに押されてプロテクションごと空中へと打ち上げられてしまう。
上へと飛ばされた雪道を追うように、今度はシグナムが雪道へと接近する。
「レヴァンティン!」
「Explosion」
レヴァンティンから炎が上がり、それを上段から振り下ろす!
「紫電一閃!」
「くっそぉ!!」
「storm enchant」
飛ばされた状態から態勢を立て直すことができず、雪道はライオットトリガーにストームエンチャントで風を纏わせて受け止めようとするが……
一瞬の拮抗の後、バキィ!!という音がし、とうとうライオットトリガーは中ほどから完全に折れてしまった。折れた刃と、金属の破片が宙を舞う。
「てぇえええええええええ!!」
「むっ……!」
雪道は折れて宙を回転して舞っていた刃を、シグナムへ向かって足で蹴り飛ばす。当然それは弾かれるのだが、折れた刃を飛ばすという意外な行動に、シグナムにほんの少しだけ隙が生まれる。
「Air shotgun!」
「くらえ!」
刃の部分が折れても魔法が使えなくなったわけではない。その隙へ、
なんとか生み出した猶予を使ってその場から離脱をしようとするが………足が動かない。
「捕まえた!」
「バインドか……!」
空圧散弾で足が止まった際に、シャマルが足にバインドを仕掛けていたのだった。このままでは不味い。すぐさまバインドブレイクをかけようと魔力を込めるが、もちろん向こうもこの隙を逃すはずもない。
三度ロケットから炎を吹かしたヴィータが、雪道へ一撃を食らわさんと距離を詰めてくる!
「これでえええええええええ!! ラケーテン―――ハンマァアアアアアアア!!!」
「プロテクション全力展開!!」
「Protection」
左から右へと猛烈な勢いで迫りくるハンマーを、雪道はプロテクションを全力で展開して防ぎにかかる。
しかしこの構図は奇しくもなのはがやられてしまった時と同じ構図で………
「ぶち抜けぇ! アイゼン!」
「Jawohl!」
「こ……の………!!」
炎の勢いを強めたグラーフアイゼンが、プロテクションにさらに食い込んでくる。赤と紅の激突はしばらく続き、そして―――ガラスが割れるかのような音と共に、雪道のプロテクションは崩れ去る。
「らあああああああああ!!」
「ぐああああああああああああああああああ!!!!」
グラーフアイゼンが雪道の体に直撃、そのまま雪道は斜め下へと叩き落される。攻撃を受けたときに着ていたローブをリアクターパージしいくらかダメージを相殺したが、ほとんど焼け石に水だった。
吹き飛ばされた雪道はビルの屋上に叩き付けられ、数度体をバウンドさせた後、転がって屋上のフェンスを歪ませながらぶつかって止まる。
「うっ……ごはっ……!」
「マスター!!」
堪らずに口から血を吐き出す。視界が明滅して平衡感覚が失われている。必死に立ち上がろうとするが、体に力がまるで入らない。
雪道の近くにシグナム達が下りてくる。何をするつもりかは分からないが、このままでは―――まだ……時間を稼がないと………
「シャマル」
「はい」
シグナムに促されてシャマルは一歩前に出ると、片手に持っていた闇の書を広げて前に突き出す。そのページには何も書かれておらず、白紙だ。
「蒐集開始」
「Sammlung」
「あ……ああ……がああ!!?」
闇の書が輝くと同時に、何も書かれていなかったはずのページに次々と文字が浮かび上がり、ページがめくれていく。それと同時に、雪道の体から魔力が抜けていく感覚が彼を襲う。
(一体……何が……!?)
「蒐集完了。結構ページが増えたわね」
「どうする? 逃げた奴らも追うか?」
「いや……」
ヴィータの言葉に首を横に振るシグナム。その直後、彼女たちがいる場所の先から桜色の凄まじい砲撃が空へと上がり結界に衝突。そのまま結界が消滅する。
《結界が抜かれたな……離れるぞ》
《心得た》
《みんなごめん、助かった》
《うん。一旦散って、いつもの場所でまた集合!》
シグナム達はそれぞれバラバラに散って飛び、夜の空へと消えていく。どうやら時間稼ぎには成功したらしい。
それを確認すると同時に雪道の気力は限界を迎えて、彼は意識を手放した。
なのはのスターライトブレイカーを撃つことに成功した4人は、すぐさまその足で雪道の元へと向かった。そこで彼女たちはビルの屋上で倒れている雪道を発見する。
「なのは、あれ……!」
「あっ……雪くん!!」
なのは達は素早く雪道の傍へと駆け寄り、なのはは倒れている雪道を抱き寄せる。
彼のバリアジャケットであるローブが無くなっているところを見るに、彼もなのはと同じくリアクターパージを使ったのだろう。
「雪くん、血が……!」
「治癒魔法をかけるよ! フェイト、手伝って!」
「うん!」
「アルフはリンディさん達に連絡を!」
「分かったよ!」
ユーノは手早く指示を出し、雪道に治癒魔法をかける。なのはは雪道が少しでも寒くない様に、でも怪我に障らないように強く優しく抱きかかえる。
口から血を流し、気を失っている雪道を見ていると涙がこみ上げてくる。だけどその涙は流さないように、ぐっと堪える。
完全な敗北を喫した彼女たちの間を、12月の冷たい夜風が………吹き抜けて行った。
とうとう雪道が主人公らしい活躍を!
まあ思いっきり敗北してますけど・・・
さて次回ですが、ちょっとばかし間隔が空くかもしれません。
なるべく早くしたいとは思いますが、気長に待っていただければと思います。
それでは、ここまで読んでいただいてありがとうございます!
よろしければまた次回!