魔法少女リリカルなのはFH   作:ワンダバ

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原作アニメ2話終了までは毎日投稿でっす!(僅かながらストックがあるからできる)


001 出会いと始まり

あれから数年が経ち、あの女の子とも再び会うことも無くおれは私立聖祥大学付属小学校に入学した。

その間には変化というか、ちょっとした出来事があった。

母さんが一身上の都合で家を離れなくてはいけなくなったのだ。一身上の都合というのは、単に理由は教えてもらえなかっただけだ。

ちなみに父さんは物心ついたときには既にいなかった。おれが生まれてしばらくは一緒に暮らしていたと母さんからは聞いている。

どうしていないのかと聞いたことがあったが、それとなく話を逸らされ教えてはもらえなかった。単身赴任とかだろうか?

どういうわけか母さん経由で連絡が来るのであまり心配はしていない。

 

「それじゃしばらくは帰って来れないから、お家の事は頼んだわね」

「大丈夫だよ、母さんがいるかいないかの違いだから、心配ないよ」

「そうですよお母様。マスターは非常に、いえ異常なまでにしっかりしているのでなんの心配もありません」

「しっかりしていて嬉しいのは嬉しいのだけれど、なんか複雑・・・」

「異常にって部分は全力で否定して欲しかったんだけど」

「なにを言っているのですかマスター。その精神年齢のおかげで友達といえる人が一人もいないじゃないですか。異常ですよ、異常」

「それを言われると耳が痛いな・・・」

「家よりも雪ちゃんの人間関係が心配ね・・・」

 

そんな会話を交わし、母さんが出発したのが小学2年の夏。あれから約半年が経とうとしていた。

最初はちょっと寂しくもあったがエリスもいたし、たまに母さんから電話も入ってきていたためそこまで寂しさは感じなかった。

こんな出来事があったため、あの日の女の子のことは記憶から徐々にフェードアウトしていった。

そして3年生になり、始業式も終えたある日。

その日も何事も無く、いつも通りの1日が始まろうとしていた。

 

 

001 出会いと始まり

 

「マスター、おはようございます」

「おう、おはよう。エリス」

 

相棒のデバイスであるエリシュオン、エリスに挨拶をしベッドから出る。朝の五時半。かなり早い時間だが、これがおれのいつも起きる時間だった。

寝巻きを脱いでジャージに着替え、顔を洗いタオルを持って庭に出る。母さんから教わった魔法、その鍛錬をするために。

 

「ふぅ・・・」

 

目を閉じて精神を集中、十分集中できたところで体の隅々に魔力を流していく。見た目は地味だが魔力のコントロールは重要とのことなので気を抜かずにする。

これが魔法を教わることになった日からの日課だ。雨でも降らない限りは毎日続けている。

別に体を動かしてるわけじゃないが、これでも集中力がいるので疲れるし、汗も出てくる。

 

「マスター、そろそろ切り上げないとバスの時間に間に合いませんよ」

「お、もうそんな時間か。サンキュ、エリス」

「いえ、しかし随分とスムーズに魔力を流せるようになりましたね」

「そうか?」

「ええ、これならとっさに魔法を使う場面になっても問題ないでしょう」

「そんな時が来るとは思えないけどなぁ」

 

苦笑いで返し、タオルで汗を拭いながら洗面台へ。

ジャージなどを脱ぎ、軽くシャワーを浴びて使用したタオルや昨日出た洗濯物を洗濯機へ。洗剤を入れたらスイッチを押し、あらかじめ用意しておいた学校の制服に着替える。

余談だがこの制服を着た当初、母さんとエリスから

 

「雪ちゃん・・・似合ってるわよ・・・ふふっ」

「マスターが白い・・・ぶふっ」

 

などと散々な評価を受けた。それについての報復も行ったのだがそれはまた別の話。

着替え終わったら次は朝食の準備。弁当の都合もあるので朝は食パンと適当な付け合せ。

弁当はついでに用意できるのでもっぱらサンドウィッチ。夕飯の残りがあればそれで済ます。かなり簡単にはしているが、それでも1つだけこだわっている物があった。

 

「やっぱこいつを飲まないとなぁ」

 

そう一人呟き、それを用意する。心なしかテンションも上がっている。

 

「紅茶をインスタントじゃなくて茶葉から淹れる小3って、どんな小学生ですか」

「いいだろ別に、好きなんだから」

 

そう、おれの生きる活力とも言えるのがこの紅茶だ。インスタントが初めてだったがそれ以来惚れ込み、今では茶葉から淹れるまでになってしまった。

 

「そんなことしてるから精神年齢が高くなって周りから浮いてしまうんですよ」

「ぐっ・・・」

「お母様があんな感じでそうならざる終えないのは仕方がないとしても、自ら進んで発達させることないでしょうに」

「あーもううっさいうっさい! んなグチグチ言うんならメンテしてやらねぇぞ!」

「うぇ!? そそそそれだけはご勘弁を! それを取り上げられたら私は一体なにを楽しみに生きていけば・・・」

「・・・冗談だよ、そんな慌てんなって」

 

さすがにここまでうろたえるとは思っていなかったので、逆にこっちが申し訳ない気分になる。メンテと言っても母さんが残していったマニュアル通りのことをするだけなんだが。

ちなみにエリスは普段ペンダントで会話も念話が基本だが、家では人目を気にする必要はないので浮いているし普通にしゃべる。

そんでもっておれの人間関係だが、学校に行けば挨拶はするし話しぐらいはするクラスメイトはいるが、友達と呼べる人はいなかった。

家事音痴の母さんの面倒を見ているうちに精神年齢が随分と育ってしまったようで、どうしても同年代の人たちは子どもっぽく感じてしまう。いや、おれも十分子どもなんだが。

そんな訳でおれはクラスの空気に馴染めず浮いてしまっていた。放課後は家のことをしないといけないので、遊んでいる時間もないというのも友達がいないことに一役買っているのかもしれない。

あれこれ考えているうちに朝食ができ、弁当のサンドウィッチも弁当箱に入れ終えた。

朝食を手早く(ただし紅茶はゆっくりと飲んだ)食べ、食器を片付ける。丁度洗濯の終わった洗濯物を庭に干して、今度は学校へ行く準備をする。

そうこうしてるうちに時間はあっという間に過ぎ、家を出る時間になる。

カバンを持ち、エリスをペンダントにして首にさげる。もちろん先生に見つかれば没収されかねないので服の内側に入れる。

 

「あぁ・・・この瞬間が私の幸福・・・」

 

紐を引きちぎって放り投げたい気持ちを必死に抑え、家を出て鍵を閉める。家を見上げていってきますと呟き、門を出てバスが来る場所まで歩く。

ほどなくしてバスが来たので乗り込んで運転手の人に挨拶をし、一番後ろの一つ手前の席、その左端に座る。なんとなくここがおれの定位置になっていた。

あとは学校に着くまで外をぼんやり眺めて過ごす。

バスが進み、一人の学生が乗り込んで一番後ろの席に座る。綺麗な金髪の女の子だった。

またバスが進み再び学生が乗ってくる。紫色の髪の女の子だ。先ほどの女の子の隣に腰を下ろして話し始める。おそらく友達なのだろう。

他人の話を盗み聞きする趣味はないので意識からはずしてまた外眺める。

春の暖かい日差しと、早朝の鍛錬のおかげで睡魔が襲ってくる。

むぅ、まぶたが・・・

 

「おはよーございまーす」

 

そういってまた誰かがバスに乗り込んできたが、そのときにはもう意識を手放しておれは夢の世界へ旅立っていた。

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン・・・

 

学校の定番のチャイムがなり昼休みとなる。今日は暖かいので屋上にでも出てそこでお昼としゃれ込もうか。

ドアを開け外に出る。予想通り気持ち良い日差しと程よい風が頬をなでる。

適当に空いているベンチへ腰を下ろし弁当を食べ始める。

 

《マスターっていつも決まったところで寝てしまいますよね》

 

念話で話しかけてくるエリス。

 

《バスでの話か?》

《もちろん。多少の誤差はあるにしろいつも同じところで寝てますね。狙ってるんじゃないかと思うくらいの正確さですよ》

《いつも寝ないように死闘を繰り広げているんだがな・・・》

 

念話の便利なところの1つは口に物を入れて咀嚼しながらでも会話できる点だろう。

話を戻すが、バスに乗るとどうしても眠くなってしまうので睡魔と格闘するのだが、今のところ全戦全敗である。

 

《そういえば先のほどの授業で言っていましたけど、マスターはなにか将来の夢とかあるのですか?》

 

昼休みの前の授業は仕事についての授業だった。将来の夢ね・・・

 

《んーそうだなぁ、今のところ特になにもないな》

《まぁ今のままじゃ主夫の道まっしぐらですものね》

《だなぁ》

 

適当に返事をしているとサンドウィッチを食べ終えたので、持ってきた水筒をとりだして中の飲み物を注ぐ。

 

「んー、うまい・・・」

《紅茶・・・》

 

朝、多めにお湯を沸かして紅茶を入れたのでこうして水筒に入れて持ってきたのだ。もちろん、魔法ビンなので保温性もバツグンである。

 

「バカチン! 自分からそういうこと言うんじゃないの!」

 

少し離れたところで大き目の声が聞こえる。ちらりとそちらに目を向けると女子が数人集まって何か話しているようだ。

つか食べ物を投げつけんじゃないの。罰があたるぞ?

いつの間にか、一人の女子が隣に座っていた女子にマウントポシションを取り、口を引っ張っている。本気ではなさそうなので特に止める必要はないだろう。

少々騒がしくなってきたので、おれはすごすごと弁当を片付けて屋上を後にするのだった。

 

 

 

 

お昼の後の授業は体育ドッジボールらしい。

個人的に体育はあまり好きではない。おれにとって学校の授業とは、勉強すると同時に席に座って日頃の家事の疲れを癒す大事な時間だ。体育では体を動かす必要があるため疲れがとれないばかりか逆に疲労がたまってしまう。

 

《小学生らしからぬ発想・・・マスターが在学中に友達を作るのは絶望的ですね》

 

前にエリスに体育が好きではない理由を話したらすごく呆れられた声で言われてしまった。その時はしかめっ面だけで済ましたが、実は結構傷ついたのは内緒である。

 

「よーし、それじゃドッジボールをするぞー。そうだな、今日は男女に分かれて対抗戦だ」

 

えー!と不満の声が上がる。普通ならば男子が女子相手では物足らないという意味合いの不満なのだが・・・

 

「先生! それじゃ不公平です!」

「そうです! 僕たち勝てるわけないじゃないですか!」

 

この場合は男子が女子に勝てないという意味での不満だ。

ここ、聖祥大付属小学校は偏差値が高めの学校で、周りの人も学力が高い子が集まっている。そうなると普段は勉強で運動をあまりしていないという子が集まりやすい・・・とおれは勝手に思っている。

 

この考えはうちのクラスには適応されており、基本的には運動はそこまで得意じゃない人が多いのだが、女子にはどういう訳か運動神経の高い子が多かった。

 

「まあそう言わずに頑張れ! 女子に負けるようでは男子は名乗れんぞ!」

 

そう言って取りつく島もない体育教諭。少し時代錯誤な気がするがこういう熱血は嫌いじゃない、でも面倒だなぁ。

ドッジボールが始まった。最初はそれなりにワイワイしていたが次第に男子の数が女子より減ってくる。

あれよあれよという間に残っていた他の男子が全員討ち取られ、残るはおれのみとなった。

ん? それまでおれは何してたかって? つっ立ってただけだよ。当ててくれないかなーって思っていたが何故か誰も狙ってくれなかったのだ。

 

「さーて、あなたで最後ね!」

 

金髪の女子がそういってボールを持ちながらこちらに狙いを定めている。逃げるふりをして適当に当たってもいいがそこはおれも男、ここまで来たのなら当たってやる気にはさらさらなれない。

 

「そぉれ!」

「おっと」

 

甲高い声でボールを投げる金髪女子。それを体を少し引いてかわす。

外野にボールが渡り、一度パスを挟んで再び飛んでくるがそれもかわす。内野と外野をボールが忙しなく移動するが、おれはひらりひらりとかわす。

 

「くっ! なんで当たらないの!」

「やけにかわすのうまいね、咲良君」

「まあな」

 

金髪女子が地団太を踏み、紫色の髪の女子が褒めてるのかよく分からない感想を言ってくる。

そりゃ母さんの魔法弾に比べりゃ遅すぎるのでかわすくらいなんてことない。あれを真正面からかわしていた昔のおれに敬意を表する・・・

ちなみにおれはクラスメイトの名前を覚えていない。人の名前を覚えるのは昔から苦手だ。

永遠とかわし続け、そのまま体育の授業が終わる。

受け止めて投げ返してもいいが、なんとなくはばかられたのでしなかった。だって女子にボールをぶつけるって・・・なんかねぇ。

 

《紳士なんだかヘタレなんだか分かりませんね。十中八九後者でしょうけど》

 

そんな風にエリスに言われ、学校での時間は過ぎていく。

 

 

 

 

放課後、家に帰る前に少し用事があったので商店街のほうへ来ていた。

むろん、夕飯の買い出しである。小学校に入るまではスーパーだったが、こっちの商店街のほうが帰りに寄るには便利だったためこちらを使うようにしている。商店街の人達とはすっかり顔なじみだ。

 

「うっす、おっちゃん」

「おう! 咲良の坊主じゃねぇか! 今日はどうしたよ?」

「冷蔵庫の中身がなくなってきてね、それで今日は魚にしようと思ったんだ」

「よし来た、新鮮な奴用意してやっから待ってな!」

 

魚屋のおっちゃんに新鮮な鰹を用意してもらったのでそいつを購入。

 

「うん、今日は叩きしかないな」

「まったく、咲良の坊主はその辺の主婦より主婦してんねぇ」

「自覚はあるけど実際言われると結構複雑だ・・・とりあえずあんがと」

「おうよ、また来てくれ!」

 

次は野菜を買いに八百屋へ。

 

「ども、おばさん」

「あら咲良ちゃん、いらっしゃい」

「毎度言ってるけど、咲良ちゃんっていうのは勘弁してほしいな」

 

そう言葉を交わしつついくつか野菜を買っていく。うん、どれも新鮮で瑞々しいし美味しそうだ。

 

「今日はこんなもんかな。ありがと、おばちゃん」

「はい毎度、また来てね」

 

他にもいくつか店に寄っていたら、少し遅くなってしまった。

 

「しゃーね、ちょいと近道するか」

《いつもの道ですね、マスター》

《ああ、ここの道にはお世話になるよ》

 

商店街では結構話し込んでしまうため、よく舗装された道から外れた森林のような場所を通っている。道は良くないが雰囲気は好きだ。

ビニール袋を両手に下げ、夕焼けに彩られた道を歩く。

 

《・・・助けて・・・・》

 

「ん?」

 

ふいに、頭の中に響くような声。思わず足を止めてあたりを見渡す。

 

《エリス、今なんかいった?》

《いいえ何も。どうかしましたか?》

 

「気のせいか・・・?」

 

そう思いながらも目を閉じ、少し集中して見る。

 

《・・助けて・・・!》

 

今度ははっきり聞こえた。エリスではない別の声、これは念話か?

 

「あっちのほうだな」

「マスター?」

 

おそらく誰もいないからだろう、普通に声を出して聞いてくるエリス。一応エリスを服の内側から出して、声のした方へ行ってみることにする。

歩くこと数分、そこには何かの動物とうちの学校の制服を着た女の子が3人。動物は怪我をしているらしく、栗色の髪の女の子の腕の中でうずくまっている。

 

「どうかしたのか?」

「「「え?」」」

 

全員がこちらを振り返る。うーん、見覚えがある・・・というよりもクラスメイトの3人じゃないか。名前は覚えてないけど。

 

「咲良君?」

「おう、どうしたんだ? そいつ」

「うん、怪我してるみたいで・・・病院に連れて行きたいんだけど」

「ねぇあんた、この辺に動物病院のある場所知らない?」

 

どうやらそういうことらしい。動物か・・・母さんの怪我ならよく応急処置していたが、さすがに動物の応急処置はやったことがない。

なので手早くこの町にそういった場所があるかどうか記憶を探すが・・・残念ながらヒットはしない。

 

《マスター、近くに病院があります。そこまで道をナビゲートします》

《助かる》

 

こういう時にエリスの存在はありがたい。念話で軽く会話をしておれは口を開く。

 

「近くにある動物病院まで案内するよ、ついて来てくれ」

 

「うん! ありがとう」

 

そういってにっこり笑う栗色の髪の女の子。はて、前にどっかでこの顔を見た気がするが・・・小学校に入る前だったような?

まじまじと女の子の顔を見てしまう。うーん、どこだったか・・・

 

「どうかした?」

「ああ、いやなんでもない。とりあえず行こうぜ」

 

こんなこと考えてる場合じゃなかった。ともかく、病院に急ごう。

 

 

 

 

槙原動物病院、それがエリスの案内してくれた病院だった。

怪我は深くないが随分と衰弱しているらしい。ゆっくりと休ませれば大丈夫そうだ。

 

「医院長先生、ありがとうございます!」

「「ありがとうございます!」」

「いいえ、どういたしまして」

「これ、フェレットですよね?」

「フェレット・・・なのかな? 珍しい種類だけど、それに首についてるこれは・・・宝石なのかな?」

 

そう言いながら手を伸ばす医院長先生。するとパチリと目を覚ますフェレット(仮)。

 

「あ、起きた!」

 

頭を起こし、周りをキョロキョロと見渡し始めるフェレット(仮)。すると栗色の髪の女の子をじっと見上げ始めた。

 

「?」

「なのは、見られてる」

「う、うん・・・えっと、えっと・・・」

 

そういいながらこちらを見てくる。なぜおれを見るんだ?

 

「指、出してやったらいいんじゃないか?」

「うん・・・!」

 

そういいながら恐る恐るといった感じで指を出す。するとフェレット(仮)は・・・もういいや、フェレットは指をペロリと舐めあげる。

 

「わぁ・・・!」

 

顔を明るくしてはしゃぐ女子3人。しかしそれで今の力を使い果たしたのか、ころりと丸くなって寝てしまった。

 

「しばらくは安静にしたほうがよさそうだから、とりあえず明日まで預かっておこうか?」

「「「はい、お願いします!」」」

 

そういって頭を下げる三人。どうやら塾があるらしく慌てるように病院を後にする。

 

「じゃあ医院長先生、また明日来ます」

 

ちょっと出遅れたがおれも病院を後にする・・・前に確認しておくことがあるな。

 

「医院長先生、その・・・お金は?」

「あら、なかなかしっかりしてるのね」

「はは・・・」

「別にいいのよ、これは私の個人的なボランティア精神でやったってことにするから」

「そうですか、ありがとうございます」

「ふふっ、いいのよ。あなたもよかったら明日、来てね」

「ええ、分かりました」

 

そうして、おれも病院を後にするのだった。

 

 

 

 

高町なのは Side

 

「アリサちゃん、すずかちゃん。あの子はうちで預かれることになりました。明日、学校帰りに一緒に迎えに行こうね。なのはっと・・・送信!」

 

携帯を充電器に置きに行きながら、今日塾に行く途中の出来事のことを少し思い返す。

小さなフェレットさんに会った。頭に急に声が響いてきて、それでその声がする方へいったら倒れているフェレットさんを見つけたの。

フェレットさんは怪我をしてるみたいで、手当てしてあげたかったけどできないしどうしようかと、友達のアリサちゃんとすずかちゃんとで話していると別のほうから声がした。

 

「どうかしたのか?」

「「「え?」」」

 

3人で振り返ると、そこには両手にビニール袋を持って立っている男の子がいた。茶色っぽい黒髪に瞳、見覚えがある、というよりもこの子はクラスメイトの・・・

 

「咲良君?」

「おう、どうしたんだ? そいつ」

「うん、怪我してるみたいで・・・病院に連れて行きたいんだけど」

「ねぇあんた、この近くに動物病院のある場所知らない?」

 

そう、同じクラスの咲良雪道君。いつも一人でいる子で、みんなもあまり話そうとしたがらない子だった。

とりあえず3人で聞くと目を閉じて考え始める咲良君。うーん、やっぱり知らないのかな・・・

 

「近くにある動物病院まで案内するよ、ついて来てくれ」

「うん! ありがとう」

 

どうやら思い出したらしくそう言ってくれる。なのでお礼を言うと、咲良君は少し目を見開いてこちらを見る。

 

「どうかした?」

「ああ、いやなんでもない。とりあえず行こうぜ」

 

少し頭を振って歩き出す。それに私たちも続いて歩く。

しばらく歩いていくと動物病院に着いた。医院長先生に見せて、大丈夫だと分かった時はほっとしたの。

もう少し見ていたかったけど、塾の時間が近づいていたから今日はここまで。医院長先生も明日また来てほしいと言われたので3人で来ることにしたの。

塾であの子のことをどうするか二人と話して、飼えそうなのは自分だけってことでお母さんたちに相談。みんなオッケーしてくれたので嬉しかったの!

今日はいろいろあったけど、あの男の子、咲良君にはどこか見覚えがあるような・・・うーん、思い出せないの。明日会ったら聞いてみようかなぁ。

ってそうだ! 今日のこと咲良君も知ってるから咲良君も誘わないとなの。アリサちゃんたちに了解を取ろうと思い、一度置いた携帯を取ろうとした時だった。

何か体に響いてくるような感覚。なんとなく目を閉じて意識を集中してみる。

 

《聞こえますか? 僕の声が・・・聞こえますか!?》

「昨夜の声と、昼間の声と同じ声・・・!」

《聞いてください。僕の声が聞こえるあなた・・・! お願いです、僕に少しだけ力を貸してください!》

 

その声が途切れると、急に体がだるくなって思わずベッドに体を預けてしまう。

その正体は分からないけど、行かないといけない気がするの!

 

 

Side out...

 

 

 

 

 

「さて、夜の体術の鍛練・・・やりますか!」

「その響きだけだとなんだか卑猥ですね」

「黙らっしゃい」

 

病院を出た後、家に帰ってやることをあらかた済ませた夜。朝とは別の、母さんから教わっていた体術の鍛練をしようとジャージに着替え庭に出る。誓って言うが、エリスが言ったようなことではない。

目を閉じ精神集中、そして体を動かそうとしたとき。

 

「なんだ?」

 

不意に感じ取った違和感。これってまさか・・・

 

「エリス、分かるか?」

「ええ、魔力ですね。しかしおかしいです。私たち以外に魔法を使える人間はいないはずですが」

「んー、ともかく行ってみよう。詳しい場所までは分からないから、ナビゲートよろしく」

「はい、マスター」

 

ジャージ姿のままエリスを首から下げ、一応家に鍵を閉めてから出かける。

なんとなく嫌な予感がするため自然と走って目的の場所へ向かう。しばらく走っていると目的の場所が見えてきた。

 

「ここですね」

「おいおい、ここって」

 

たどり着いたのは、夕方訪れた槙原動物病院だった。

 

「なんでこんなとこから?」

「さあ・・・分かりませんが・・・っ!? マスター!!」

「!?」

 

急に叫んだエリスの声にとっさに体を横に投げ出す。するとさっきまでおれが立っていた場所を何かがすごいスピードで通り過ぎて行った。あのまま立っていたら突き飛ばされていただろう。

そのままその物体は病院の中へと入っていく。暗くて姿はよく確認できなかったが何かの生き物だろうか。

 

「お怪我はありませんか?」

「ああ、しかしなんだったんだ?」

 

少しした後、建物のなかから2つの影が飛びだしてくる。1体はもちろん先ほどの影、そしてもう1体は・・・

 

「んなろっ!」

 

考えるより先に体が動いていた。飛び出してきたもう1体のそいつを腕の中に確保して素早く飛び退く。すると飛び退く前にいた場所に影は体を叩きつけるように飛んできた。

 

「うお!?」

「あ、ありがとうございます。でも、早く逃げてください!」

「逃げるっていっても・・・ってしゃべってる!?」

《そんなこと言っている場合ではありませんよ》

 

エリスの言うとおりだ、ともかく今飛び出してきた影の正体を確かめる。

 

「なんだ・・・こいつは・・・」

 

なんだか分からないが一言で言うなら〝化け物〟・・・だった。

 

「なになに!? いったいなんなの!?」

 

その声に振り向くとそこには栗色の髪の女の子。クラスメイトの子がいた。

 

「な!? なんでここに!?」

「いいですか、あなたは早く避難を!」

「あ、おいっ」

「わっ!?」

 

その子が来たのを確認したかのように、フェレットがおれの腕から飛び女の子の腕に収まる。しかし女の子は受け止めきれずに尻餅をつく。

 

「来てくれてありがとうございます」

「しゃべった!?」

 

少し前のおれと同じように驚いく。なんだなんだこの状況は? まったくついていけない。

しかし、その子は一息つくと落ち着いたようだ。な、なんて肝が据わってんだ・・・

 

「グゥゥ・・・」

「ひっ!?」

 

おっと、完全にこいつの存在を忘れていたな。その化け物は木の残骸などに体を取られてうまく動けないでいるようだ。これはチャンスだろう。

 

「と、とりあえず逃げるぞ!」

「う、うん!」

 

2人で夜の町を走る。だが女の子の足が遅い。おれが幾分かペースを合せないと置いて行ってしまいそうだ。

 

「なんだかよく分かんないけど、なにが起きているの!?」

「そう言われてもおれもさっぱりなんだ!」

 

走りながら話す。体力の消耗も激しくなるがしょうがないだろう。

 

「君には資質がある。お願い、僕に少しだけ力を貸して!」

「資質?」

「僕はある世界から探しもののためにここに来ました。でも僕一人の力では成し遂げられないかもしれない」

「・・・・・・」

「お礼はします。必ずします! 僕の持っている力をあなたに使ってほしいんです。僕の力を・・・魔法の力を!」

「魔法・・・?」

 

会話を交わす女の子とフェレット。ていうか魔法っていったか? やっぱいろんな人が持ってるもんなんだな・・・いや人じゃないなこいつは。しかしある世界からって、別世界があるような言い方だな。

ていうかおれのこと、軽くスルーしてない?

 

「グォォォォォ!」

 

思考にふけっていると空からさっきのやつが降ってくる。ってやばいだろこれ!

 

「こっちだ!」

「ふぇ!?」

 

女の子の手を引っ張って電信柱の影に身を隠す。次の瞬間地響きとともにそいつは地面にぶつかる。なんつう衝撃だ・・・しゃれにならん!

 

「お礼は必ずしますから!」

「お礼とかそんな場合じゃないでしょう!」

「まったくだな・・・ていうか結構余裕あるよな、お前ら」

 

電信柱の影から様子をうかがう。地面はえぐれ、その中心で奴はうごめいている。はっきり言ってキモいな。

 

《マスターも余裕ありますね》

《んなちゃちゃ入れはいいんだよ。この状況、どうするかな・・・》

 

おれの『力』を使ってもいいがこの子がいるし、はたして見せていいものかどうか。

あれこれ考えていると隣から声が聞こえる。

 

「我、使命を受けし者なり」

「我、使命を受けし者なり」

「契約の元、その力を解き放て」

「えと・・・契約の元、その力を解き放て」

「風は空に、星は天に」

「風は空に、星は天に」

「そして、不屈の心は」

「そして、不屈の心は」

 

「「この胸に! この手に魔法を! レイジングハート! セーットアーップ!」」

「stand by ready,set up」

 

次の瞬間、桜色の光が天に上る!

 

「なんて魔力だ・・・」

「マジかよ・・・これ・・・」

 

それを呆然と見つめるおれとフェレット。この光は魔力光、魔法を使うときに出る光だ。この輝きからして半端ない魔力だということがわかる。

これは、おれの魔力よりもはるかに高い・・・? 比較するのもバカらしい、それほどの差がある。

 

「落ち着いてイメージして! 君の魔法を制御する杖の姿を、そして君を守る強い衣服の姿を!」

「そんな・・・急に言われても・・・えーと、えーと・・・とりあえずこれで!」

 

そういうと桜色の光が彼女を包んでいく。黄色の先端に白の持ち手の魔法の杖、そして青のラインが入った白い服に赤のリボンのバリアジャケットを身にまとう彼女。

なんだか見えてはいけないものが見えた気が・・・

 

「成功だ!」

 

そういいながら満足そうなフェレット。おい? なんか見えたような気がしたが、あれはおれだけか? スルーしていいのか?

そして変身した本人はあたふたしている・・・初めて魔法に触れたんだ、当たり前か。

 

「グォォォォ」

 

うなり声を上げながらこちらに向き直る化け物。

 

「えええええ」

 

情けない声でへっぴり腰の彼女。これは・・・おれもやるっきゃなさそうだな・・・

完全に彼女も魔法の存在を知ったし、見せても問題ないだろう。そう思いながら首にぶら下げているエリスを握りしめる。

 

《いけるよな? エリス》

《もちのろんですよ、マスター。こんな形でお披露目となるとは思いませんでしたけどね》

《それにはまったくもって同感だが、ともかく・・・いくぜ!》

《はい!》

 

まだへっぴり腰の彼女の隣に立ち。化け物を睨みつける。

 

「ふぇ? ・・・咲良君?」

「なっ! 早く避難してと言ったはずです!」

「避難だって? バカ言うな、こんなへっぴり腰の女の子置いて逃げたんじゃ男が廃るだろう」

「へっぴり腰って・・・」

「そういう問題じゃない! 何も力がない君がいたら・・・」

「あのね、おれだって何も力がなけりゃ出しゃばったりしないっての。でも・・・おれにはそれがあるんだよ!」

「え・・・まさか・・・!」

 

「うし、いくぜエリス! スタートアップ!」

「Start up」

 

紅色の光がおれを包み、光が収まった時にはもうバリアジャケットを展開していた。

全体的に紅を基調としたローブのような服に白いライン、胸にはデバイスであるエリスと赤紫色の布があしらわれたブローチ。これがおれのバリアジャケットだ。

 

「君はいったい・・・」

「ふふふ、驚いたでしょう? あまりのマスターのカッコよさに惚れないで下さいよ?」

「バカ言ってないで集中しろっての。あんたもだ、えーと、名前は・・・」

「な、なのは。高町なのはなの」

「ああ、んじゃ高町。あ、おれは咲良雪道だ」

「うん、知ってるよ。同じクラスで今日も夕方あったよね?」

「おう・・・って言ってる場合じゃないな。とりあえずこいつなんとかするぞ」

「え、ええええ」

 

さて、魔法の存在をたった今知った高町と、どうやってこの化け物を倒すかな・・・

 

 

 




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