魔法少女リリカルなのはFH   作:ワンダバ

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1週間と少し振りです、ワタクシです。
多少オリジナルを入れたら結構な時間が掛かってしまいました。

では今回もごゆるりとどうぞ。


022 フェイト達のいる日常

 騎士達との2度目の戦闘があった翌日の朝。雪道達は咲良家に集まり、今回の闇の書の事件についての説明と今後の方針を話し合っていた。

 少し話し合いは進み、クロノとリンディは騎士達について話し始める。

 

「やはり問題は彼らの目的よね」

「ええ、どうも腑に落ちません。彼らはまるで……自分の意思で、闇の書の完成を目指してるようにも感じますし」

「ん? それってなんかおかしいの? 闇の書ってのも、要はジュエルシードみたくすっごい力が欲しい人が集めるもんなんでしょ?」

 

 アルフの言う通り、闇の書の完成を目指す理由は分からないにしても、力が手に入るとなればそれを成そうとするのはある意味当然と言える。闇の書を手に入れた人物が騎士達に命令して、それを騎士達が遂行する。そこになんら矛盾点は見当たらない。

 だが、クロノとリンディはその言葉に首を振る。

 

「第一に、闇の書の力はジュエルシードみたいに自由な制御の利くものじゃないんだ」

「完成前も完成後も、純粋な破壊にしか使えない。少なくともそれ以外に使われたという記録は、一度もないわ」

「そっかぁ……」

 

 ジュエルシードみたいになんでも願いがかなうというわけではない。確かにそれなら、騎士があそこまで必死に完成を目指す理由はいまいち見えてこなくなってくる。破壊にしか使えないのら、そこまで有用性があるようにも感じないからだ。

 さらにクロノはその他にも、気になる点が一つあると言う。

 

「あの騎士達。彼らは人間でも使い魔でもない……闇の書に合わせて作られた疑似人格。主の命令を受けて行動する、ただそれだけのプログラムにすぎないはずなんだ」

「プログラム……だって?」

 

 

 022 フェイト達のいる日常

 

「あの……使い魔でも人間でもない疑似生命って言うと、私みたいな―――」

「違うわ!」

 

 ぽつりと呟いたフェイトに対して、リンディは声を大きくしてそれを否定する。生まれ方は確かに特殊かもしれないが、きちんとこの世に生をもらって生きている人間なのだと。

 少し前に行われた検査でも、フェイトは雪道やなのはと変わりない人間だという結果が出ている。その言葉を受けてフェイトは申し訳なさそうな表情になる。

 

「はい、ごめんなさい……」

「それじゃ、モニターで説明しましょうか。エイミィちゃん、お願いできる?」

「はいはーい」

 

 春美の提案で一旦部屋を暗くし、空中にモニターを表示させる。雪道達はリビングのソファに腰をかけ、クロノがモニターの前へと出て説明を始める。

 守護者たちは、闇の書に内蔵されたプログラムが人の形を取らせ具現化したもの。闇の書は色々な世界で転生と再生を繰り返すが、騎士達4人は闇の書と共に様々な主の元を渡り歩いている。

 意思疎通のための言語能力は管理局の方でも過去の事件から確認はされているが、感情を見せたという例は今までにはないらしい。闇の書の収集と主の護衛。その役割から出たことはないということだった。

 

「でも、あの帽子の子……ヴィータちゃんは怒ったり悲しんだりしてたし」

「シグナムからもはっきり人格を感じました。なすべきことがある、仲間と主のためだって」

「主のため……か……」

 

 フェイトの言葉に反応し、クロノの顔に少し影が差す。なのはとフェイトはそれに気づきはするが、特に追求はしない。

 春美はちらりと、先ほどから静かな雪道の方を見る。雪道はモニターをじっと見たまま動かないでいた。

 

「雪ちゃん、さっきから随分と静かだけどどうかした?」

「え? いや、どうかしたって訳でもないんだけど……」

「何か気づいたことでもあったか?」

「気付いたというか、少し突拍子もない事というか」

「折角の話し合いの場だ。何かあったら言ってくれた方がいい。もしかしたらそこから何か新しい発見に繋がるかもしれない」

 

 先ほどから雪道が考えていたことは本当に確証も何もないことで、言うべきかどうか迷っていた。だがクロノにそう促されて、雪道はしぶしぶながらも頷き話すことにした。

 

「今までの管理局が知りうる闇の書の事件で、闇の書は破壊にしか使われておらず、シグナム達も感情を見せたことはない……そうだったよな?」

「ああ、そうだな」

「もしもだ、それが間違っていたら?」

「え?」

「闇の書は破壊にしか使えない。シグナム達はプログラムで感情はない。この二つの前提がそもそも間違いだったとしたら……どうだ?」

「雪くん、どういうこと?」

 

 ロストロギアと言うのは滅びてしまった世界の遺産。世界が滅びる前は、ロストロギアはその世界で普通に使われていたと考えられなくもない。管理局では、そういった遥か過去の記録まではさすがにないだろう。

 つまり、闇の書には記録にはないが破壊以外にも何か別の力があるのではないか……と雪道は考えたのだ。

 

「それに、シグナム達に感情がないなんてどうしても思えないんだ。戦った時に感じたあの覚悟……単なるプログラムじゃ、絶対に出せない」

「なるほどな……」

「いい参考になるわ。管理局の記録前提で動いてしまっていたけど、そういうのも視野に入れたほうがいいじゃない?」

「そうね、捜査に当たっている局員にも伝えておきましょう」

「はい。でもそうなるともう少し闇の書について詳しいデータが欲しいな……」

 

 クロノは少しあごに手を当てて考えた後、思いついたように頷き、なのはの肩に乗っているフェレット状態のユーノに近づく。

 

「ユーノ、明日から少し頼みたいことがある」

「いいけど、何?」

「少し話したい。来てくれるか?」

「分かった」

 

 ユーノはなのは肩から降り、クロノについてリンディ達の元へと行く。ひとまず話が一段落したので、雪道達は気分転換もかねて庭へと出る。

 なのははここまでの話で疑問に思っていたことを、雪道とフェイトに聞いてみることにした。

 

「ねえ雪くん、フェイトちゃん。闇の書の主ってどんな人なのかな?」

「さてなぁ。さっきの話の中だと、闇の書は資質を持った人をランダムに選ぶらしいが」

「魔力を持ってるのは確実だろうけど、どうかな……」

 

 3人で腕を組んで考えてみるが、当然分かるはずもない。雪道は考えるのを早々に放棄して、ひらひらと手を振って見せる。

 

「実際あって見ないことにはなんとも言えないな。シグナム達が教えてくれればいいけど」

「多分、無理だろうね」

「だよな」

「うーん、案外私達と同い年くらいかもしれないね」

「「いやいや……」」

 

 なのはの意外すぎる言葉に、雪道とフェイトは苦笑いをしながら同時に首を振る。そんな2人の様子になのはは少し頬を膨らませて不満気にする。

 家の中へ戻った後も少し話し合い話続き、今後の方針が大体固まったところで終了。時計を見ればもうお昼近くになっている。

 

「もうこんな時間……なのはちゃん、折角だから家でお昼食べていく?」

「え? いいんですか?」

「もちろん、雪ちゃん?」

「大丈夫だ。これから1人……と1匹で帰るのもあれだろう? 食べて行ってくれ」

「うん、ありがとう。雪くん、春美さん」

 

 全員で昼食を取り、ひとまず今日は騎士達も現れていないので思い思いに過ごすことになる。なのはとフェイトは雪道が庭で少しとある練習をするというので、それを見学することにした。

 

「一体なんの練習をするの?」

「それはな、こいつさ」

「それって……雪の武器の?」

 

 雪道が取り出したのは、彼の武器であるライオットバタフライ。それのグリップの方だ。トリガーガードに指をかけてくるくると回して弄んだあと、トリガーを引いてブレードを出す。

 

「エリス、カートリッジを」

「はい」

 

 エリシュオンは雪道の指示で空いている左手にカートリッジの弾丸を5つ出現させる。続いて雪道は、右手に持っているライオットバタフライを手首をスナップさせて左へと振るう。ライオットバタフライは弾倉振出式(スイングアウト)となっているので、弾倉が左へと飛び出してくる。

 そのまま刃先が上を向くように向けると装填されている弾丸が下へと落ちて行き、それはエリシュオンが自動で回収する。マグナムカートリッジは他のカートリッジと違い、消費した弾丸は排出されないので再利用が可能だ。

 

「よし、ここまではいい。問題は次だな」

「マスター、集中を」

「分かってるよっと!」

「わっ!」

「すごい……」

 

 雪道が左手に持っている弾丸を前へと投げる。すると、バラバラに飛んでいたはずの弾丸は途中でピタリと止まる。先端を左に向き直し、弾倉に綺麗収まるような円を描いた状態で空中で綺麗に整列する。

 雪道は整列している弾丸に向かって、持っているライオットバタフライを左から右へとぶつける様に払う。払い終えた後、ちらりと弾倉を見てみる―――が、5発装填されていなければならないはずの弾倉には、3発しか入っていない。残りの2発は地面に転がってしまっていた。

 

「失敗か」

「雪くん、今のは?」

「リロードの練習だよ。レイジングハートやバルディッシュみたいに手早くリロードする方法がないからな」

「そうなんだ……難しそうだね?」

「それはもちろん。正直私は無理があるのではと言ったのですが……」

「手でいちいち1発ずつなんてやってられるかよ。練習あるのみだ」

 

 マグナムカートリッジにはスピードローダーのような素早くリロードするための道具がないため、基本的には手で1発ずつ弾倉に入れるしかない。しかし、魔導師同士の空中の高速戦闘ではそんな悠長なことをしている暇はない。

 そこで雪道は弾丸を空中にばらまき、風の力で停止・整列。そこへ弾倉を振って入れるという曲芸めいたリロード方法を思いついた。名付けるならば『空中(エアリアル)リロード』といったところか。

 雪道が地面に落ちてしまった弾丸を拾っていると、なのはの携帯が鳴り始める。来たのはメールのようで、なのはは携帯を開いて内容を確認。その内容に頬を緩ませ、雪道とフェイトにも見える様に画面を向ける。

 

「すずかちゃん、昨日友達がお泊りに来たんだって」

「そうなのか?」

「うん、ほら。八神はやてちゃん。今度紹介してくれるって!」

「へぇ、友達になれるかな?」

「すずかの友達なんだ。きっとなれるさ」

「うん、そうだよ!」

 

 雪道となのはの言葉にフェイトは微笑んで頷く。

 その後も騎士達が現れることもなく、休日の平穏な時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 翌日の学校、4時限目の授業終わりのお昼休み。雪道達は机を合わせ、もはや恒例となった5人での昼食の準備をする。ご飯を取りつつ雑談、今日は主に勉強方面に花が咲く。

 

「そういえばフェイトちゃん、宿題ってちゃんとやってる?」

「外国出身だからって、国語は特別な宿題が出されてたわよね」

「うん。ちょっと難しいけどなんとかやってるよ。分からないところは雪が教えてくれるし」

「ああ、そうなんだ?」

「ちょっとヒントを出すくらいだけど」

 

 アリサの言う通り、外国どころか世界が違うフェイトには、国語に関しては雪道達とは違う特別な宿題を出されいる。少し簡単ではあるが、恐ろしいほどのスピードで吸収しているので雪道も毎回目を丸くしている。

 

「でもアリサはすごいよね。日本語も英語も完璧なんて」

「えっへん! パーフェクトバイリンガル!」

「「「おー!」」」

「アリサ、ミートボール掴んだままポーズ取ってると落っことすぞ」

「分かってるわよ……」

 

 余計なつっこみをしつつも、雪道もアリサの頭の良さには脱帽している。なんといっても彼女はテストでは全科目で満点を取り、文字通りの学年トップ。聖祥小学校の偏差値は高めで、なかなか百点は取れないものなのだが……

 だがそんな彼女にも微妙に納得が言ってない部分があるようで、フェイトとなのは、雪道に目を向ける。

 

「なのはとフェイト、それから雪道の理数系の成績には納得がいかないのよね」

「何がだ?」

「なんで3人ともそこだけ抜群に成績がいいの!?」

「ええと……」

「なんでだろうねぇ……?」

 

 そう。全体的な成績で見ればアリサがトップなのは確かなのだが、理数系においては雪道達3人もそこに肩を並べられるほどに成績がいい。

 というのも、魔法の構築や制御には実は理数系を使う。でもって物理や数学は地球もミッドチルダもさほど差がなく、意外とそのまま流用が効く。そのため魔法に関わっている雪道達は、理数系の成績が飛び抜けて良かった。

 ちなみに成績を順で表すならば、すずか<雪道=なのは=フェイト=アリサとなる。文系はフェイト<<なのは<すずか<雪道<アリサといった具合だ。フェイトの文系の成績については察してほしい。

 

「あ・と! 雪道あんた、なんで全体的にこんなに成績いいのよ!」

「いやなんでと言われても」

「確かに雪くん、塾に行ってるわけでもないのに成績いいよね」

「そういえばそうだね。フェイトちゃん何か知ってる?」

「うーん。宿題の事で聞きに行ったときは、結構な確率で勉強とかしてるような気がするかな?」

 

 フェイトの言葉に偽りはなく、雪道は自分の部屋にいるときはそれなりに勉強をしていたりする。マルチタスクを覚えてから、いろいろと片手間でできる様になったため最近より成績が伸びていた。

 まあ実際には特に部屋にいるとやることがあまりないためなのだが、つっこまれそうだったので雪道はそれは言わないでおくことにした。

 

「まったく、全然泳げないくせして生意気よ!」

「おまっ、それは今一切関係ないだろ!?」

「え? 雪、泳げないんだ?」

「うぐ……それは……」

「そうよ! 夏の時プールで情けない姿をさらしてたんだから!」

「へぇ~……」

 

 雪道としては泳げないことは結構気にしているので、その時居合わせていなかったフェイトにはできる限り黙っておきたかった。まさかこんな形であっさりとばれてしまうとは、全くの予想外だった。

 フェイトはと言うと、その言葉を受けて泳げない雪道を想像してしまう。そして思い浮かんできたのは、足の着くような浅瀬で水面を必死に叩いている雪道の姿。普段の落ち着いた雰囲気とのギャップに思わず吹き出してしまう。

 

「きゅ、急に笑い出してなんだよ!?」

「ご、ごめんね……でも、あはははっ!」

「なになにどうしたの?」

 

 何事だとなのは達はフェイトに近寄る。フェイトは笑いを堪えながら、先ほど自分が想像してしまった雪道の姿を本人に聞こえないように伝える。するとなのは達もつい笑ってしまう。

 

「あっはは! それいいわね!」

「ダメだよそんなに笑っちゃ……うふふふっ」

「なんだよ! なんなんだよ!?」

「ごめんね雪く―――だめ、我慢できない! あははははっ!」

「……………」

 

 面白くない。非常に面白くない。先ほども言ったが、雪道は泳げないことを結構気にしている。それをこんな風に笑われるのはまったくもって面白くなかった。

 何か反撃できる手立てはないかと思考を巡らし、とある事を思いつく。思いついた瞬間何か変なスイッチが入った気がしたが、気にしている余裕はない。

 雪道はおもむろに立ち上がって自分のロッカーへと行き、あるものを持って席へと引き返す。そしてドン!という感じで自分の机の上へとそれ―――銀色の小さい保冷バッグを置く。

 ようやく笑いが収まったなのは達はそれを見て首を傾げるが、フェイトは少し思い当たったようだった。

 

「それ、雪が朝持って来てた?」

「そう。この中にはおれ手製のカスタードプリンが入っている。ちなみに5つな」

「プリン作って来たんだ!」

「へえ、いいわね。じゃあ食後のデザートで―――」

「おっと」

 

 好奇心からアリサは保冷バッグに手を伸ばす。だがその手がバッグへと触れる前に、雪道はバッグを持ち上げてその手をひらりと躱す。当然アリサからは抗議の声が上がるが、雪道はそれをものともせずに言い放つ。

 

「さっきまで散々人の気にしてることで笑っておいて、まさか何もなしにありつけると思ってんのか?」

「そ、それは……」

「雪…その……ごめんなさい……」

「謝るのは当然だな。だけどそれだけではおれの気が済まん」

「えっと、じゃあどうすればいいのかな?」

「そうだな……」

 

 雪道はあごに手を当てて考え始める。しかし今の彼は若干おかしなスイッチが入っており、まともな思考回路が働いていない。その状態で物事を考えれば必然的におかしな発言に繋がるわけで。

 

「にゃんと鳴け」

「……へ?」

「にゃんって、猫さんの?」

「あ、ああそうだ。ポーズ付きでな!」

 

 びしぃ!と指差して言う雪道だが、なのは達4人はぽかんとした顔をする。まさしく何言ってんだこいつはと言う感じだ。実際雪道自身も言ってから急に冷静な思考が働きだし、かなり後悔の念にかられる。

 だがもう言ってしまったものは仕方がないし、引っ込みもつかない。雪道はこのまま強引に話を進めることにした。

 

「さすがにおれも鬼じゃない。4人のうち誰か1人やってくれればそれでよしとしよう」

「どうする?」

「うーん……」

「しょうがないわね。なのは、GOよ」

「えぇ!? 私!?」

「ほら、プリンが待ってるわよ!」

「なのはちゃん、頑張って!」

「ぅぅぅぅ……」

 

 アリサとすずかに後押しされて、しぶしぶと言った感じで雪道の方を向くなのは。ちなみにフェイトも声には出してないが応援していた。

 妙な緊張感の中、顔を赤くしながらもなのはは手首を曲げて猫のポーズをする。そして―――

 

「にゃ……にゃん!」

「「「「―――っ!?」」」」

 

 言った本人である雪道はもちろん、それを見ていたフェイト達3人にも衝撃が走る。感想としてはやばいの一言に尽きる。何がと言われると説明はできないが、とにかくやばいのである。

 雪道は変に表情が崩れない様に細心の注意を払いながら、なのは達にプリンを配って行く。下手に言葉を発しようものなら表情が崩れそうなので無言だ。

 

「そのぉ……今のでよかった?」

「あ、ああ。問題ない。なんかすまん」

「ううん……」

 

 微妙に過ごし辛い空気が流れる。でも雪道はこんな毎日も悪くないと、そう思った。

 

 

 

 

 学校が終わってからの放課後。冷蔵庫の中の調味料がいくつか切れかけていたのを思い出した雪道は、一人スーパーへと来ていた。

 買い物かごを持って調味料の棚を見ている途中、進行方向の少し先で車椅子に乗った女の子が必死に手を伸ばしている姿を見かける。届きそうで届かないといった感じ。

 目当ての品がそこにあるのだろうが、見るからに危なっかしい。雪道は小走りで近寄った後、その女の子が欲しいであろうものを代わりに手に取って差し出す。

 

「これでいいのか?」

「あ……どうも、ありがとうございます」

 

 微笑みながらビンを受け取る女の子。言葉のイントネーションが少し聞きなれない。おそらく関西の方の出身なのだろう。初対面であるのは確かなのだが、雪道はこの女の子をどこかで見た気がしていた。一体どこだっただろうか……

 

「えーと、私の顔に何かついてます?」

「い、いや。ごめん、なんだかどこかで見たような気がして……」

「……口説いてる?」

「滅相もない」

 

 お互いの返しに少し笑い合う2人。と、そこで雪道は唐突に女の子の事を思い出す。見たのは昨日、なのはの携帯に送られてきていた画像だ。

 

「もしかして、八神はやてさん?」

「そうですけど……自己紹介してましたっけ?」

「そうじゃないんだ。実は―――」

 

 怪訝そうな顔をする女の子―――はやてに雪道はその事情を説明する。その話にはやても合点がいったようで、頷いてくれる。

 

「そっかぁ、すずかちゃんのお友達やったんやね」

「ああ。自己紹介してなかったな。咲良雪道だ」

「じゃあ私も改めまして。八神はやてです。はやてでええよ。そっちは?」

「おれも名前でいいぞ。さっき話したなのはって子には、略されて雪くんって言われてるけど」

「なるほど。じゃあゆっきーやね」

「ゆ、ゆっきー?」

「あれ、あかんかった?」

「いやまあ……もうそれでいいや」

 

 できれば否定したかったが、車椅子の関係上若干上目遣いで見られてどうにも反論しそこねてしまった。どんどん新しい呼び名が増えていくなと、もはや雪道は他人事のように考える。

 折角だからと一緒にスーパーを回り、外へと出る。外はもう既に暗くなり始めていて、思っていた以上に時間が経っていることに気付く。途中、同じく家事をする者同士として話に花を咲かせたのが不味かったか。

 

「しまった、結構時間経ってたな」

「急ぎやった? なら悪い事してもうたなぁ」

「いやいや、その辺は大丈夫だ。はやての方も大丈夫か?」

「家の人がもうすぐ迎えに来てくれると思うから」

「そっか。じゃあ先に帰らせてもらうな」

「うん、じゃあまた。すずかちゃんにもよろしく言っといて」

「おう。じゃあな」

 

 店の前ではやてに手を振り、少し走りながら雪道は帰路へとついた。

 

 

 

 

 さらにその日の夜。大体の用事を片付けた雪道は机に向かい、エリシュオンが空中に映し出しているモニターとにらめっこをしている。もちろんただ睨みつけているだけでなく手元にはキーボードがあり、それを叩いている。

 しばらくしてから雪道はキーボードから手を離し、体を後ろに反らして思いっきり伸びをする。

 

「んー! ようやく形になったな」

「なかなか上手くいかない部分がありましたけど、どうにか突破できましたね」

「ここまで長かったよ……」

 

 モニターを見ながら、雪道は思わず表情をほころばせる。これで今までよりさらにマシに戦えるはずだ。シグナム達の真意を聞くためにも、もうこれ以上は後れを取るわけにはいかない。

 ようやく完成に至った〝それ〟を見つめながら、どうやってこれから騎士達と係わって行けばいいのか。雪道は1人、思考を巡らせるのだった。

 

 

 




ようやく雪道とはやてを会わせることができましたが、短いですね。
まあなのは達も本編では最後の方まで会いませんでしたし・・・うん。

ともあれここまで読んでいただきありがとうございました!
次回は多分戦闘回の予定となっています。
よろしければまた次回!
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