書こうと思っているうちにいつの間にやら月日が経っていて……今後も更新が途絶えることがあるかもしれませんが、頑張って書いていく所存ですのでどうかよろしくお願いいたします。
では今回も張り切ってどうぞ。
雪道がはやてと会ってから数日後の学校の放課後。雪道達5人は家には帰らずに教室で話をしている。
ここ最近は騎士達が出たという話は聞かないため、ひとまずは彼らはいつも通りの日常を送っていた。だが雪道は、騎士達との再開する日は近いとそれとなく感じていた。
まだ彼女達とどう関わっていけばいいか、答えは見つかっていない。
023 ためらい
話している途中、アリサはそうだと言いながら思い出したようにカバンに手をやる。するとそこからいくつかの冊子が出てくる。
「アリサ、それは?」
「携帯のパンフレットよ。フェイトってまだ携帯持ってないんでしょ? 折角友達になったんだから、もっとやり取りしたくって」
「うんうん、いいね! 携帯持ってるといろいろ便利だし!」
すずかの同意の声に頷きながら、アリサはフェイトへパンフレットを渡す。はらりと捲ってみると、そこには色とりどりの携帯が所狭しと紹介されている。
そのあまりの数にフェイトと、同じく携帯を持っておらずなんとなく覗き込んでいた雪道は目を丸くする。
「なんだか、いっぱいあるね……」
「ああ、驚いた……」
「まあ最近はどれも似たような性能だし、見た目で選んでいいんじゃない?」
「でもメール性能の良い奴がいいよね」
「カメラが綺麗だと、いろいろ楽しいんだよ?」
三者三様の意見を聞きながら真剣な表情でパンフレットを見つめるフェイト。携帯を持つ気のない雪道はすぐに興味をなくして、なのは達の意見を適当に聞いて過ごすことにした。
「でもやっぱ色とデザインが大事でしょう」
「操作性も大事だよ」
「外部メモリが付いてるといろいろ便利でいいんだけど」
「へぇ、そうなの?」
「うん、写真とか音楽とかたくさん入れておけるし」
すずかの言葉に同意を示すなのはとアリサ。よく分からないがひとまず頷いておくフェイト。音楽はともかく、写真のやり取りが出来るの大きい。
フェイトにあれこれアドバイスをしている3人だったが、興味なさそうに聞いている雪道に声をかける。
「ていうか、これ雪道のためでもあるんだからね?」
「え? おれ?」
「雪道君も携帯持ってないもんねぇ」
「雪くんも持ったらいいの! 便利だよ?」
言われて少し考え込む雪道。連絡はなのはに念話で済むし、フェイトとは現在同じ家で住んでいる。アリサやすずかとはそんなに放課後にやり取りすることはない。
一通り考えてみたが、結論としてはやはりいらないという事になる。
「うーん、やっぱいらな―――」
「いろいろ、便利だよ?」
「いやだから」
「無いと、困るよね?」
「そ、その……」
「こ・ま・る・よ・ね?」
「……は、はひ……困るかもしれないです」
「強いわね、なのは」
「ここまで押せ押せななのはちゃん、初めて見るかも……」
笑顔で一文字ずつ区切って言ってくるなのはの剣幕に押し負け、つい頷いてしまう雪道。有無を言わせぬ雰囲気は圧巻で、アリサ達もさすがに驚きを隠せなかった。
しぶしぶといった感じで、雪道はフェイトと共にパンフレットを覗き込む。
「雪はどれは良いと思う?」
「こういうのは本当に分かんないからなぁ。帰って母さんやリンディさんに聞いてみようぜ」
「そうだね」
アリサにパンフレットをもらい、その後もいくつかアドバイスを受けて今日のところは解散という流れとなる。
帰宅後、雪道とフェイトは早速春美たちに相談を持ちかけてみることにした。
「母さんにリンディさん、ちょっと相談があるんだけど」
「あら、どうしたの?」
「私達、携帯が欲しくて」
「携帯? フェイトちゃんはともかく、雪ちゃんも? 熱はない?」
「さらっと失礼だな」
「実は―――」
フェイトは今日の放課後の話を二人に話す。聞き終わった後、春美たちは顔を見合わせお互いに頷く。
「そういうことなら、大丈夫よ」
「本当ですか?」
「ノープログレムよ。明日早速行きましょうか」
「そうね。フェイトさんと雪道君、今日の間にひとまず候補を決めておいてね?」
「分かりました」
翌日の放課後、雪道とフェイトはそれぞれの保護者と連れだって携帯ショップへと足を運んだ。フェイトはまる一晩考えた、雪道は適当に選んだ携帯を買ってもらう。
「フェイトさん、はい」
「雪ちゃんもどうぞ」
「ありがとうございます、リンディ提督」
「ありがとう」
お互いにそれぞれ礼を言い、付き添いで来ていたなのは達の元へと駆け寄る。春美とリンディはその様子を微笑みながら見ている。
「お待たせ」
「ううん。2人とも、どんなの買ったの?」
「私はこれだよ」
「おれはこれだ」
フェイトは黒を基調としたもの、雪道は淡く光る赤い携帯を選んだ。お互いに番号やメールアドレスなどを教えて交換を始める。
フェイトはもちろんだが、雪道もこういった機器にはてんで疎いため3人に教わりながら苦労して登録を進めていく。
「これでフェイト達とも連絡が取りやすくなったわね」
「今日早速メール送るね?」
「うん。楽しみにしてる」
「違うよ雪くん、そっちの項目じゃないよ」
「え、マジで? どれだ?」
携帯の話しに花を咲かせながら、穏やかな時間が流れていく……
数日後の12月11日。今日はなのはが雪道の家に遊びに来ていた。雪道の部屋で雑談をしていると、買い出しに出ていたエイミィが帰ってくる。
「たっだいまー」
「エイミィさん、おかえりなさーい」
「お疲れ様です。どうでした?」
「雪道君に教えてもらった通り、ばっちりだよ」
そう言いながらビニール袋の中身を出していくエイミィ。中身を確認しながら、雪道は手早く冷蔵庫の中へと入れていく。
高速、かつ綺麗で丁寧に収納する雪道の手際の良さになのはは目を丸くする。
「すごい手際なの」
「前からやってればこのくらいできるようになる。マルチタスク覚えてからは効率が上がってるしな」
「魔法の使い方を盛大に間違えている気がするのですが……」
「いいんだよ、便利なものは使っとけば」
エリシュオンのつっこみをひらりと躱しながら作業を続ける雪道。それを横目に見ながら、エイミィは部屋をぐるりと見渡してから3人に質問を投げかける。
「艦長、もう本局に出かけちゃった?」
「うん、アースラの武装追加が終わったから試験航行だって。他の局員さんや春美さんも一緒に」
「武装って言うと……アルカンシェルかぁ。あんな物騒なもの、最後まで使わずに済めばいいんだけど……」
アルカンシェルは大型艦船に取り付けられる魔導砲で、管理局の中でも屈指の威力を誇る。過去にも闇の書の事件の時に持ち出された記録もある。
今回の闇の書の件を受けて、リンディが艦長を務めるアースラへと搭載が決定された。
「ユーノも、クロノの依頼で無限書庫だっけ? そこに調べ物をしに行ってるな」
「そのクロノ君も今いないですし、戻るまではエイミィさんが指揮代行だそうですよ?」
「責任重大だぁね」
なのはとアルフの言葉にそれもまた物騒な話だと肩を竦めるエイミィ。それぞれの予定が重なって、今現場には前線で指揮を取ってくれる人物が完全に不足していた。
「しばらくはエイミィさんの気苦労が取れそうな晩飯にしておくかなぁ」
「ありがと。とはいえ、そうそう非常事態なんて起こるわけが―――」
エイミィがそう言って冷蔵庫から飲み物を取ろうとした瞬間、けたたましいアラーム音が鳴り響く。と同時に空中にモニターが表示され、そこにはエマージェンシーの文字が躍る。
「エイミィさんが余計な事言うから……」
「私知ってますよ。これフラグって言うんですよね」
「私のせい!? ともかく、現状確認に行くよ!」
4人は素早くモニター室へと変わっている部屋へと入り、現状の確認を急ぐ。モニターにはやはりというべきか、闇の書の騎士達の姿が映し出されていた。
映っている騎士はシグナムとザフィーラ。現れた場所は砂漠で文化レベルが0―――つまりは人の住んでいない世界。場所が場所だけに結界を張れる魔導師の集合までかなり時間が掛かってしまう。
その様子を見ていたフェイトとアルフはお互いに頷き合い、エイミィに提案を申し出る。
「エイミィ、私が行く」
「私もだ」
「うん、分かった。なのはちゃんと雪道君はここで待機してて」
「はい」「分かりました」
フェイトはバルディッシュを取りに戻り、そのままシグナムのところへジャンプする。モニターを見ていると、ちょうどシグナムがその世界の原生生物に捉まってしまっているところだった。
原生生物の攻撃がシグナムに迫り、直撃するかと思われた寸前。金色の雷撃がその攻撃を跳ね除け、立て続けに金色の刃が原生生物に降り注ぎ沈黙させる。
「フェイトちゃん! 助けてどうするの! 捕まえなきゃ!」
《ごめんなさい、つい……》
「フェイトらしいけどな」
「そうだね」
「笑い事じゃないってば……」
エイミィががっくりと肩を落とすのと同じタイミングで、再びアラーム音とエマージェンシーの文字が浮かぶ。慌ててキーボードを叩きモニターを映させる。
そこに映し出されたのは、闇の書を抱えたヴィータだった。
「こっちが本命……なのはちゃん! 雪道君!」
「「はい!」」
エイミィの言葉に頷き、2人は部屋を出る。バリアジャケットを素早く纏うとエイミィによってヴィータのいる世界までの転送が開始される。
一瞬の浮遊感の後、部屋の中では感じなかった外の空気を感じる。転送が完了し広大な森林の上空へと移動した2人は、素早く互いの飛行魔法を展開させる。ほどなくして遠目にヴィータがこちらへ来るのが分かった。
ヴィータの方も雪道達に気付いたようで、一旦その場で停止する。
「お前ら、咲良雪道……」
「よう、久々だな」
「それと……高町なんとか!」
「なっ!? なのはだってばぁ! な・の・は!」
「あははっ! 高町な、までは合ってるな」
「なに笑ってるの! もう!」
出会い頭からなんとも緊張感のない感じではあるが、ヴィータは警戒を解いていない。雪道達はと言うと、まだデバイスを構えておらず、戦いの意思はまだ見せていない。雪道はライオットバタフライを腰に吊るしたままだし、なのははレイジングハートを宝石の状態のまま首から下げている。
これはここに転送される前になのはがしてきた提案だった。最初はひとまず話してみたい。そう言われて、雪道も賛同し今の状態にいたる。
「ヴィータちゃん……やっぱり、お話聞かせてもらうわけにはいかない? もしかしたらだけど、何か手伝えることとか……あるかもしれないよ?」
「うるせぇ! 管理局の言うことなんか信用できるか!」
「おれ達は一応は現地の民間協力者ってことになってるんだ。つまり、管理局員ってわけじゃない」
雪道達の説得の間にヴィータは考えを巡らせる。闇の書の魔力蒐集は魔導師1人につき1回。雪道は倒したところでページにはならないが、なのははまだのため蒐集が可能。彼女の魔力量は非常に多いためできれば回収をしたいが、さすがに2人を相手にするは分が悪い。
今ここで倒そうとするとカートリッジの無駄遣いにも繋がるし、なによりも今は消耗しているシグナムの救援に向かうのが先か。そう結論付けたヴィータは撤退を選ぶことにした。
「ヴィータちゃん……」
「お前らをぶっ倒すのは……また今度だ!」
「なっ!?」
「吼えろ! グラーフ・アイゼン!」
「
ヴィータの足元にベルカ式の魔方陣が展開、手のひらに浮かばせていた赤い魔力弾をグラーフ・アイゼンで叩くと同時に大きな音と光が辺りに広がる。思わず目を閉じて耳を塞いでしまう2人。その間にヴィータはこの場からの離脱を図る。
光が収まる頃には、ヴィータは雪道達がギリギリ目視できるどうかというくらいの距離まで飛び去っていた。ヴィータは足を止めると再び魔方陣を展開、今度は転送魔法の準備に入る。
「くっ……しまったな」
「Master」
「レイジングハート……そうだね。雪くん、ここは任せて!」
「……分かった」
今から追いかけてもヴィータの転送魔法を中断させることができるかは微妙だった。ならばここはなのはの長距離砲撃に任せた方が無難。そう雪道は判断してなのはから少し距離を取る。
レイジングハートは宝石の状態から長距離射撃のバスターモードへと変化。桜色の羽を広げる。
「いくよ! 久しぶりの長距離砲撃!」
「Load cartridge」
レイジングハートから薬莢が2つ排出され、なのはの足元にミッド式の魔方陣が展開すると同時に、レイジングハートの先端に魔力が集約していく!
「Divine buster.
「ディバィィィィン……バスタァアアアアアアア!!!」
集約された魔力が解き放たれ、桜色の砲撃がヴィータに向かって一直線に走る。転送魔法を展開してその場から動くことができないヴィータにディバインバスターが直撃、爆煙が周囲に上がる。
レイジングハートが放熱を終えるのを見届け、雪道はなのはへと近寄る。
「直撃ですね」
「相変わらず、えげつない威力だな……」
「ちょっと、やりすぎた?」
「いいんじゃないでしょうか」
「なかなか辛辣ですね、レイジングハート」
そんな話をしていると、徐々に爆煙が晴れていく。そこから見える影はどういうわけか2人。ヴィータともう一人、仮面をつけた男。
ヴィータの前に立ち、シールドを展開して先ほどのなのはのディバインバスターを防いだようだった。
「あんたは……」
「あの白い服の魔導師からは、まだ蒐集していないのだろう?」
「え?」
「手を貸してやる」
ヴィータと話をした後、雪道達へと仮面の男は向き直る。なのははもう一度ディバインバスターを放とうとチャージを開始するが、男はカードのようなものを取り出すとそれを放り投げる。
次の瞬間、なのはの周囲に黒い輪が出現し、あっという間になのはの動きを縛り封じてしまう。
「あっ……バインド……!」
「なのは! 待ってろ、今解除して―――くっ!?」
なのはのバインドを解除しようと近づく雪道だったが、再び男がカードを投げるのが視界の端に映ったため、即座に回避行動に移る。先ほどまで雪道がいた場所に黒い輪が出現するが、対象を逃したため消滅する。
男は滑るような動きでこちらへと接近してくる。なのはのバインドを解きたいのはやまやまだが、まずは仮面の男を抑えるの先だと判断する。
雪道はライオットバタフライを抜き、ブレードを起動させつつ距離を詰める。なのはも自分でバインドを解こうとするが、男がバインドを緩める気配がなく振りほどけない。
距離が無くなって雪道と男は交差、何度かの衝突の後鍔迫り合いへと移行する。
「お前! 一体何が目的なんだ!」
「答える理由はない。そこをどけ」
「それは……こっちのセリフだ!」
「Magnum cartridge load」
マグナムカートリッジをロードしてブレードの出力を上げ、強引に男を突き放す。と同時に雪道は魔法を使うべく魔方陣を展開する。円形に展開したそれは一見ミッド式に見えるが、書かれている模様がミッド式とは大きく異なっている。
円形の魔方陣の中には、ベルカ式の特徴である逆三角形の魔方陣も浮かび上がっていた。それを見た仮面の男は―――いや仮面の男だけでなく、なのはやヴィータも驚きをあらわにする。
これが雪道がかねてより開発をしていた、ミッドとベルカの複合式魔方陣。近、中、遠距離をすべて程よくこなす雪道が、自分の扱いやすいようにミッドとベルカの魔法を改造した結果、生まれたのがこの複合式魔方陣だった。
ミッド式の遠距離や範囲攻撃、ベルカ式の爆発的な近接攻撃の両方をバランスよく使うことができる。その分扱いが非常に複雑で、扱えるのはこれを作った本人である雪道と、それをサポートするエリシュオンくらいだろう。
「やるぞ! エリス!」
「
雪道は体を左に捻り、勢いをつけてライオットバタフライを右へと振りぬく!
「はぁああああああ!!」
「
振りぬかれたライオットバタフライから、三日月状の刃が風を巻き込み回転しながら飛んでいく。仮面の男は冷静にシールドで受け止めるが、受け止めた瞬間に仮面の下の顔をしかめる。
複合式魔法のシンフォニックシュナイデン。斬撃属性の刃を飛ばす魔法だが、最大の特徴は相手の魔法に『噛む』という性質。今回の様に相手がシールドで受け止めればしばらくはその場に残り、相手を強制的に拘束することが可能。
砲撃魔法も強力なものでなければ僅かにその勢いを止めることも不可能ではなく、斬撃であるので射撃魔法を切り裂きながら飛ばすこともできる。
シンフォニックシュナイデンが仮面の男の動きを止めている間に雪道はその背後へと移動、仮面の男へと斬りかかろうとする。だが、雪道の攻撃が当たる直前にその攻撃は弾かれてしまう。いつの間にか移動してきていたヴィータが割り込んだのだ。
「ヴィータ、お前……!」
「……………」
仮面の男の素性は分からないが、今は協力してくれている。ならば、ここはそれを利用させてもらうのが一番だとヴィータは判断を下した。すべては闇の書を1秒でも早く完成させるため。
雪道としてはこの状況は非常にまずい。なのははバインドで拘束されているため戦闘はできない。仮面の男とヴィータ、2人を相手にするには雪道では少しばかり荷が重かった。
(やっぱり……あの『力』を使うしかないか……)
雪道の魔力等を増大してくれるあの謎の力。危険ではあるが、この場を切り抜けるにはそれしかない。雪道はライオットバタフライを握る手に力が籠る。
前回シグナム達にやられてから見たあの夢の後。雪道は、ボイスコマンドさえ唱えればあの力を使えるという確信があった。もちろん雪道自身に何か変化があったわけではない。だが使えると理屈抜きで感じていた。
雪道はボイスコマンドを唱えるべく息を吸い、そして言葉を発しようと口を開きかけて―――女性に言われた言葉がちらつき、ためらいが生まれる。
『あなたが次に力を使うとき、きっとあなたは逃れられない…過酷な運命に囚われることになります』
『それでもあなたは、先へと進むことを望みますか?』
夢の中で出会った謎の女性との会話。そこで言われた言葉が、雪道に二の足を踏ませる。本当にこの力を使うべきなのかという考えが脳裏をよぎる。
夢の中では躊躇いなく使うといった雪道。だがもしもその運命と言うものが、雪道の手に余るようなものだったら? 周りの皆に被害を及ぼすようなものだったら? あの時には考えもしなかった思考に取りつかれ、恐怖がこみ上げる。
時間にしてみればほんの数秒。そのわずかなためらいが、雪道に決定的な隙を生む。
「マスター! 何をぼーっとしているんですか!」
「っ!?」
「ふんっ!!」
「うあ!?」
エリシュオンに言われて我に返って瞬間には仮面の男は眼前に迫っており、硬い拳がアッパーで繰り出されている。反射的に体を反らしてスウェーで回避するが、無理な回避に姿勢が崩れ、体がおよぐ。
仮面の男はすかさず足を振り上げ、踵落としで雪道の体を打つ。
「はあ!!」
「ぐあああああ!!!」
「雪くんっ!」
凄まじい勢いで地面へと落下していく雪道。エリシュオンは必死に彼の姿勢を制御して、途中でどうにか勢いを殺して木との衝突を回避する。だが雪道は受けたダメージが抜けきらず、その場から動くことができない。
その様子を見つつ、仮面の男は三度カードを取り出して投げる。雪道の周りに出現した黒い輪は瞬く間に彼を拘束、動けなくした。
「しまった……!」
「どうした? 早く彼女から魔力を回収しろ」
「あ、ああ……」
「ヴィータちゃん……」
仮面の男に促されるようにヴィータはなのはの前へと移動すると闇の書を開く。雪道は必死にバインドを解こうともがくが、当然と言うべきか強力に拘束してくる黒い輪は一向に緩まない。
闇の書の光が強くなり、いよいよ魔力の蒐集が始まろうとする。
「ヴィータ! よせぇ!」
「……蒐集開始」
「
闇の書のページが次々と捲れ、白紙だったページに文字が浮かび上がる。それと同時に、なのはの体から力が抜けていく。
「きゃあああああああ!!」
「なのはああああああああああ!!!」
蒐集が終わり、なのははゆっくりと地面へ向かって落ちていく。雪道はまだバインドに縛られているため、その場から動くことができない。仮に動くことができても、両腕が使えないため受け止めることもままならない。
なのはが地面へ叩き付けられてしまうのは何とか回避しなくてはならない。雪道は必死に考えを巡らせる。
「チェーン……バインド……!」
「Chain bind」
雪道は体の自由が効かないながらもどうにか魔法を発動させる。なのはが落下していく下にチェーンバインドを網目状に展開させ、即席のネットを形作る。展開されたネットになのはは落下し、ネットを揺らす。
何とかなのはをセーブすることができたことに安堵していると、雪道は自分を縛るバインドが緩くなっていることに気付いた。体に力を入れて、強引にバインドを打ち破る。
辺りを見回してみるが、既にヴィータと仮面の男の姿はない。どうやら雪道がなのはを助けている間に転送してしまったらしかった。
自分の情けなさに歯噛みしつつ、雪道はなのはの方へと移動して彼女を抱えると、エイミィに通信を繋いだ。
《エイミィさん、聞こえますか?》
《雪道君! なのはちゃんは大丈夫!?》
《多分、おれの時と同じだと思います。本局の方へ転送をお願いします……》
《了解! ちょっと待ってて!》
通信を終えた後、ほどなくして雪道達は本局へと転送される。ゲートを出て、待機していた医療スタッフへとなのはを預ける。
運ばれていくなのはを見ていると、エイミィから再び念話による通信が入る。
《雪道君、悪いんだけどまたもう1回出られる!?》
《どうかしたんですか?》
《それが……別の場所で戦っていたフェイトちゃんも魔力蒐集に……》
《そんな!? フェイトが!?》
エイミィの言葉を聞いた雪道の顔からさっと血の気が引く。なのはの魔力を蒐集した後、ヴィータと仮面の男はフェイト達の方へと転送。そこでシグナムと対峙していたフェイトから魔力を奪ったのだった。
雪道が2人と対峙した時ためらったばかりに、この結果を招いてしまった。その事実に、激しい後悔の念が雪道に押し寄せる。
《雪道君? どうかした?》
《いえ、なんでもありません。すぐに向かいます!》
《うん、よろしくね!》
雪道は踵を返しゲートへと走る。
「くそ……くそぉ……!」
自分の不甲斐無さに苛まれながらも、ひとまずそのことは脇に置いておこうと努めて考える。
今は一刻でも早くフェイトを助けるために、雪道はゲートへと急いだ。
A's編もいよいよ折り返し地点ですね。
雪道君の新魔法である複合式魔法は、魔法の名前の前半が英語、後半がドイツ語とミッドとベルカを合わせた感じになっております。
さて、気付けばなのはVividがアニメ化しましたね。動くヴィヴィオ達が可愛いです。
それを見て思ったことは、雪道君にも早く平穏をあげたい……。
それではまた次回! お疲れ様でした!