鳴り響く目覚まし。必死に手を伸ばして止めようとするが、誤って倒してしまい布団に入ったままでは止めれなくなってしまった。
身体を引きずるようにしてベッドから這い出て、止める。
「くぁ、眠い……」
「おはようございます、マスター」
「あぁ……」
「今日は珍しく眠そうですね」
「しゃーないだろ、昨日はいろいろありすぎだ」
「ですねぇ」
本当に昨日はいろいろと出来事が圧縮されすぎだと思う。いままで一番濃い一日だったろう。いままでっつてもそんなに生きてないんですがね。
ともかくいつも通りの朝を過ごし、家を出てバスに乗る。今日が休みだったらよかったのに……
「ダ、ダメだ……今日は(ガクッ)」
《あらら……》
バスに乗って速攻寝てしまった。しょうがないじゃない。
003 友達と事情と2度目の戦闘
《…マ……スタ……マ…ター………マスター!》
「っんお!?」
頭の中に急に大きな声が響き飛び起きる。なにごと!?
《起きられましたか? とうに学校に到着して、皆さん降りてしまわれましたよ?》
《あ、そうだったのか。すまん、サンキュ》
そうだ、バスに乗って席に座った途端睡魔に襲われて眠ってしまったのだ。カバンを背負い慌ててバスを降りる。
自分と同じバスに乗ってるであろう人たちの背中が見える。そこまで時間は立っていないようで安心だな。
《教室に向かうとすっか》
《ええ》
靴箱で上履きに履き替え階段を上り教室へ。扉を開け、挨拶を交わしながら席へ向かう。
「咲良おーす」
「おう、おはよ」
友達と言える仲の人はいないが挨拶くらいはするので、皆にはクラスメイトとしてカウントされてはいるだろう。
席へ向かう途中、なのはの姿を見かける。どうやら席はおれの隣の隣らしい。
金色の髪と紫色の髪の女の子と会話している。おそらくアリサとすずかって子だろう、昨日の病院に連れて行くときに一緒にいたのを覚えている。
声をかけるべきか迷うが、おれは基本的に自分から誰かに話しかけることはしてこなかったのでやめておくことにする。下手に荒波を立てることもなかろうて。
《へたれですね》
《人の考え読むんじゃないよ》
変につっこみを入れてくるエリスをあしらいつつ自分の席へ向かう。しかし、話しかけないといっても一度意識にいれてしまうと自然と会話は聞こえてきてしまうもので
「なのは、昨夜の話聞いた?」
「ふぇ? 昨夜って?」
うん、すっげぇ嫌な予感するんですが。やべ、変な汗流れてきた。お、落ち着いて席に……
「昨日行った病院で車の事故か何かあったらしくて、壁が壊れちゃったんだって」
「あのフェレットが無事かどうか心配で……」
「うん……」
「ぶっ!ってうぉ!?」
座ろうとして、ガターン!と大きな音を立ててすっ転んでしまった。動揺するなってのが無理な話です。
「っつ~」
「雪道君!? だ、大丈夫!?」
そういいながらなのはが駆け寄ってくる。くそぅ、何が波風立てないだそんなものクソ食らえ!
「大丈夫だ……羞恥心以外は」
「そ、そうなの。よかった」
立ち上がり椅子を起こし、なのは〝達〟のほうへ向き直る。
こうなっては話に参加せざる負えまい。
「えーと、咲良君?」
「一応聞きたいんだけど、なのはとそんなに仲良かったっけ?」
「ああ、事情は話すよ。フェレットのことも含めて」
かくかくしかじかってな感じで事情説明中
「そっかぁ、無事でなのはの家にいるんだぁ」
「でもすごい偶然だったねぇ。たまたま逃げ出してたあの子と咲良君が会って、さらに逃げたほうになのはちゃんがいて捕まえるなんて」
「「ねー♪」」
「まーな」
「あ、あはは……」
伝えた内容は概ね昨日高町一家に言ったのと同じだ。
思いっきり嘘をついているのだが、信じてくれたようで何より。心は痛むが。
なのはなんて思いっきり笑顔が引きつっている。気持ちは分かるけど、もう少し普通にしてくれないと怪しまれる。
「で? そこでなのはと友達になったと?」
「そんな感じだ」
「なるほどー」
「それでね、私は二人も雪道君と友達になってほしいなぁって」
「「え?」」
あまりの唐突の言いだしにきょとんとする二人。そりゃそうでしょう。友達の友達は友達って言っても、実際はそんなに簡単じゃない。
「えと、ダメかな?」
「ダメって言うか……ねえ?」
「んー、咲良君はどうなの?」
「え? おれ?」
「それ以外に誰がいるのよ」
「いやそうだけど……おれは全然かまわないぞ?」
「あれ? そうなの?」
「そうなのって、なんでそんな意外そうなんだ?」
「咲良君いつも一人でいるから、誰とも関わりたくないのかなって」
「あぁー」
確かにおれは基本的に一人でいたから、そんなイメージを持たれていても不思議じゃない。
「別にそんなことはないよ。そのなんというか……口下手?」
「なんで疑問形なのよ」
「と、ともかく、雪道君は問題ないんだよね? 二人は?」
「私は全然いいよ」
「まあ、なのはとすずかがいいなら」
「うん! じゃあ自己紹介だね!」
なんだかとんとん拍子に話が進んでいく。というかまた自己紹介ですか……
先ほどは疑問形になってしまったが実際あまり話すのは得意じゃない。だがやるしかない。
「咲良雪道だ」
「私は月村すずかです」
「アリサ・バニングスよ。なのはとは名前で呼び合ってるみたいだし、私もそうするけどいい?」
「あ、じゃあ私もそうしたいな。どうかな?」
「いいぞ。それじゃよろしく、アリサ、すずか」
「よろしくね、雪道君」
「よろしく、雪道」
少々むず痒かったがなんとか乗り切った。しばらくは自己紹介は勘弁したい。
なのはのほうを見るとニコニコしながらうんうんと頷いている。何が嬉しいのやら……
自己紹介で随分と話がそれてしまったが、フェレットの話に戻る。
「あ、それからね? 飼いフェレットじゃないみたいで、当分の間うちで預かることになったよ」
「そうなんだぁ」
「名前付けてあげなきゃ。もう決めてる?」
「うん、ユーノ君って名前」
「ユーノ君?」
「うん! ユーノ君」
「「へぇ~」」
ふふ、哀れユーノ。完全にペット扱いである。昨日おれの挨拶する機会を奪った報いだ……
「雪道、なに邪悪な顔してるの?」
「き、気のせいだ」
そんなこんなで朝の時間は過ぎてゆく……
国語の授業中、暖かい日差しに包まれて若干眠たくなってくる。
窓際の席はこれだからやっかいだ。夏は暑くてたまらない、冬は窓を閉めていれば暖かいが開ければ極寒だ。
一番後ろってわけでもなく実に中途半端な位置のために寝るにも寝れない。そもそも寝てはいけないが。
昨日は疲れ切って予習をしてないし、授業は聞いておかなければいけないのだが、まぶたが……落ちて………
《ちょっといいかな》
「っ!?」
不意に聞こえてきた声にビクッとしてしまい。椅子が音を立てる。しまったな……
「咲良君、どうかしましたか?」
「い、いえ。なんでもないです」
「そうですか? 眠たくても頑張って起きていてくださいね」
「す、すみません」
どうやらうつらうつらしていたのはもろばれだったようだ。
若干周りからは笑い声が聞こえる。恥ずかしいったらありゃしない。ユーノの奴、覚えてやがれ……おかげで目は思いっきり覚めたが。
念話で話しかけてきたってことはなにか重要な話か?その割には落ち着き払っているが。
おそらくなのはにも聞こえているだろう、エリスに頼んでなのはとも念話を繋いでもらう。
《ユーノてめぇ、いきなり念話で話しかけてくるんじゃねぇよ》
《ご、ごめん。こちらの事情を話してないからと思ったんだけど、今はまずかったかな?》
《授業中だっての。話なら後にだな》
《ま、まあまあ。一応聞いてあげようよ。というか雪道君も念話できたんだ?》
《あぁ。外でエリスと話すときは基本的にこれでやってる》
《そういうことです》
《あ、エリス。えと…おはよう?》
《はい。おはようございます、なのはさん。レイジングハートさんに繋いでいただいたので、これでいつでも話できます》
《へぇ~》
念話での会話が展開される。エリスと母さんとしかやったことがなかったのでかなり新鮮だが、授業中にやることじゃない。
でもまあユーノの事情は気になっていたし、いい機会ではあるかもしれない。ここはなのはに乗っておくとする。
《知りたいことではあったし、もうこの際だから聞かせてくれ》
《うん、私も知りたい》
《じゃあ話すね》
ジュエルシード。
それはユーノの世界では古代遺産であり、手にしたものの願いを叶えてくれる魔法の石だそうだ。一見ものすごく便利そうに聞こえるが、その力の発現は不安定であり、昨夜のように単体で使用者を求めて暴走することがあるらしい。
なんとも迷惑な話だ。しかし使用者を求めるにしては昨日のあれはどうなのだろう。あんな化け物の姿で暴れては使用者も何もないと思うのだが………
さらに、たまたま見つけた人や動物が間違って使用してしまって、それを取り込んで暴走することもあると。聞いてると願いを叶えるファンシーなものというより、かなり物騒で危険な代物だ。つか暴走しかしないのか?
願いを叶えるなんて都合のいい話はないという訳なのか。ちょっと世知辛い。
《そんなに危ないものなんだ……》
《しかし、そんな危険な物がどうしてこの海鳴市へ?》
本題はそこだ。
ユーノの世界の物であるはずのジュエルシード、それがどうして魔法とは無縁のこの世界にやってきたのか。
ここまで聞いていればそれとなく予想はつくが……
《僕のせいなんだ……》
《というと?》
ユーノは元いた世界、故郷では遺跡発掘の仕事をしているという。
ある日、その仕事で訪れた古い遺跡の中でそれを発見し、調査団に依頼して保管してもらった。
ここまではいい。だが次が問題だ。
それを運ぶ時空間船が事故、あるいは人為的災害にあってしまった。そこに乗っていた人は……いや、それを考えるのは止そう。
ともかく、散らばったジュエルシード21個はこの海鳴市に散らばった。
なるほど、大体の事情は理解した。時空間船とか突っ込みたい部分はあるがそこは今は置いておくとする。
《ジュエルシードは21個もあるのですね。今ユーノさんはいくつ持っているのですか?》
《今手元にあるのはたった2つ……》
《あと19個かぁ》
《そりゃ骨が折れるな》
海鳴市、おれたちの住んでいる周辺といっても、おれ達からすればかなりの範囲だ。
昨日見たが、ジュエルシード自体はかなり小さい。普通に見つけるのはなかなか厳しいだろう。
暴走してくれれば発見は容易いだろうが、周囲に被害が出た後となる可能性が高い。できればそうなるのは避けたいところだ。
《根気がいるな》
《うん》
長い話なので授業をまたいでの話となっている。ここまで深いとは正直思っていなかった。
《あれ、でもちょっと待って。話を聞く限りでは、ジュエルシードが散らばっちゃったのって、別に全然ユーノ君のせいじゃないんじゃ?》
《ええ、確かにそうですね》
《だけど、あれを見つけてしまったのは僕だから。見つけなければこんな事にはならなかった。だから全部見つけて、ちゃんとあるべき場所に返さないとダメなんだ……》
なのはの言う通りではある。
原因は不明ではあるが、輸送中のアクシデントのせいで散らばったのであって、ユーノに非はない。運、もしくはその輸送船を襲ったやつが悪いのだ。
だがユーノの言い分も分からないでもない。
自分がこんな物見つけてなければ、あるいは輸送船で送るように言わなければ。そんな風に考えてしまっても致し方ないだろう。なかなかフォローを入れづらい事ではあるのは確かだ。
どう言ったものか考えているとなのはが口を……いや念話なので口は開かないが、話し始める。
《なんとなく……なんとなくだけどユーノ君の気持ち、分かるかもしれない。真面目なんだね、ユーノ君は》
《だな、超をつけてもいいぜ?》
《ふふ、そうだね》
《え?》
訳が分からないといった感じのユーノ。本来はそこまで気負う必要はないのに、こうして別世界に来てまで目的を成し遂げようとするのだ。超真面目と言っていいだろう。
《ええと……昨夜は巻き込んじゃって、助けてもらって本当に申し訳なかったけど、この後は僕の魔力が戻るまでの間、ほんの少しの間休ませてほしいだけなんだ。1週間、いや5日もあれば力が戻るからそれまで……》
《戻ったらどうするの?》
ユーノの言葉は最後まで続かず、なのはに遮られる。
念話で話してるとついその人のほうを向く癖がおれにはあるらしく、なのはを見ていたが今一瞬、ツインテがぴくっと動かなかっただろうか? いや見間違いではあるとは思う。髪がうさぎの耳のように動くわけがないと分かってはいるのだ。
でも……いや今はそんなこと考えている場合じゃない。アホなのかおれは。
《また一人でジュエルシードを探しに出るよ》
《………それはダーメ》
《ダ、ダメって》
《私、学校と塾の時間は無理だけど、それ以外の時間なら手伝えるから》
《そうな、ここまで聞かされておいて、一人で動けるようになったらはいさようならって、んなもの納得できるか》
《だけど、昨日みたいに危ないことだってあるんだよ?》
《あははは……でも雪道君の言うとおりだよ?もう知り合っちゃたし、話も聞いちゃったもの。ほっとけないよ》
《それに、昨夜みたいなことが身の回りで起きてるって知ってるのに放置はできねぇよ。おれ達には幸いなんとかする力がある。後な、ユーノは自分ばっか責めて、追い詰めすぎだ。見つけなければ……なんて結果論にすぎない。人数だって多いほうが良いに決まってる》
《ユーノ君、ひとりぼっちで助けてくれる人いないんでしょ?ひとりぼっちは寂しいもん。私達にもお手伝いさせて?》
このセリフはなのはが言うと効果抜群だな。ちょいとうるっと来たぜ。
なのはと言葉をリレーで繋ぎ、ユーノを説得しにかかるが、考える時間がほしいとユーノと念話が一旦途絶える。
ゆっくり考えさせてやろうとなのはに言い、今は授業に集中することにする。ま、ほっておくつもりなんざさらさらないがな。
昼休みを過ぎて放課後となり、なのはは伸びをしながら席を立つ。
昼休みにおれの弁当と紅茶についてちょっとあったが、それはまあいいだろう。
《………本当にいいの?》
ようやくユーノからの念話が返ってくる。待ってましたと言わんばかりに、なのはは話の続きを始める。
《困っている人がいて、助けてあげられる力が自分にあるなら、その時は迷っちゃいけないって。これうちのお父さんの教え》
《なのはさんのお父様はいいことを言いますね》
確かにいいことを言う。だがアリサにツインテ引っ張られながらじゃ格好はつかないな。そのまま3人と一緒に帰ることとなる。
《でね。ユーノ君は困ってて、私たちは助けてあげられるんだよね? 魔法の力で》
《・・・・・うん》
《私、ちゃんと魔法使いになれるかどうかあんまり自信ないんだけど……雪道君みたいに強くもないし》
《いやいや、なのははもう魔法使いだろ? 昨日の戦いであれだけできれば十分すぎるよ》
《そうですね。マスターの存在意義が薄まるくらいには立派ですよ》
《お前おれの味方ですよね?》
《もちろん》
こいつ……悪びれる様子がまったくないな。
帰りの途中すずかと別れ、アリサとも別れる。すずかの家はでかかった。アリサはリムジンで帰って行った。お金持ちの家だとは聞いていたが、まざまざと見せつけれてしまった……別に羨ましくなんかない。
ちょっと貧富ってどうして生まれるんだろうとか考えてしまいながらも、ユーノとの会話を再開する。
《それはともかく、なのはの魔法の才能はすごいものがある。だろ? ユーノ》
《うん。少なくとも僕なんかよりずっと才能がある》
《そ、そうなの? 自分ではよく分からないんだけど……》
《私も保証しますよ。さらに言えばマスターよりも才があります。すぐにマスターなんか超えてしまいますよ》
《いい加減泣くぞ》
《あ、あはは……とりあえず、いろいろ教えて? あたし、頑張るから!》
《うん……ありがとう》
《さて、もうすぐ家に着くよー。とりあえず、一緒におやつを食べようか!》
《今日はおれもお邪魔させてもらうよ。昨日の今日でちょっと図々しかもしれんが》
《んーん、みんな喜んでくれると思うよ?》
《だといいがね》
《今日のおやつは何かなー?》
何はともあれ今後も協力していく約束は取れた。一度関わったしまったことだ、きっちり最後まで完遂したいな。
そう思いながらなのはと帰路を歩く、その瞬間だった。
一瞬、世界が止まったかのように錯覚する。周りの景色が変わり、非常に異質な感じがした。なかなか言葉で表すのは難しいが、昨夜と同じく魔力を感じたのだ。
一度魔法に触れたからだろう、なのはも感じ取っているっぽい。初めての事で気を取られているのか、通行人とぶつかりそうになっていたので腕を引っ張り脇に避けさせる。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
《ユーノ君、雪道君。今のって》
《新しいジュエルシードが発動している……!》
《やっぱか。感じ的にすぐ近くか?》
《どうすれば!?》
《一緒に向かおう。二人とも、手伝って!》
《《うん!(おう!)》》
おれとなのはは連れだってその場所へと走り出した。
途中でユーノと合流し、現場へ急ぐ。
発動したところは神社らしく、長い階段をひたすらに上る。
「だぁ! なんでこんな場所に!」
「文句を言っていても始まりませんよ」
「ともかく急ごう!」
ただひたすらに階段を上る、上る、上る!
だいぶ魔力の感じが近くなる。もうすぐだろう。
「なのは! レイジングハートを!」
「うん!」
「エリス、準備いいな!」
「ばっちこいです!」
なのはは首から下げた赤い宝石、おれはマリンブルーの宝石を手に取る。
ゥォォォォォォという低いうなり声のようなものが聞こえた。どうやら今回も戦闘は避けられないらしいな。
ようやく階段登り切りそいつを視界にとらえる。目は4つあり、口からは鋭い歯が出ている。見た目は角が2本生えておりまさしく獣といた風貌だ。見るからに凶悪そうだ。
「原住生物を取り込んでる……」
「ど、どうなるの?」
「実体がある分手強くなってる!」
「そりゃまた面倒なことで」
見た目的にも昨日のよりは遥かに強そうだ。ああもうめっさこっち睨んでるし唸って威嚇してきてるし敵意丸出しだよ、怖ぇ。
「大丈夫!……多分」
そう言いつつ一歩前に踏み出すなのは。相変わらず肝は座ってるけど、その自信いったいどこから?
おれも呆けてるわけにもいかないので同じように踏み出し構える。だがデバイスを起動しないことには何も始まらない、というよりこっちが始められないのだが。
「なのは! レイジングハートの起動を!」
「へ!? 起動ってなんだっけ!?」
「「えっ?」」
ユーノと二人揃ってなのはを見てしまう。
まさか起動できないのか!? 本当にさっきの自信はなんだったんだよ!!!
ていうかあいつこっちに走ってきてるし!
「お、おい? 冗談だよな?」
「『我、使命を』から始まる起動パスワードを!」
「ええ!? あんな長いの覚えてないよぉ!!」
「なんでそんな面倒なパスにしたんだよ!!!」
「もう1回言うから繰り返して!」
「わ、分かった!」
やいのやいの言ってる間にかなり近いとこまで走ってきてる。詠唱時間なんざありゃしねぇぞ!!ったくもう!!!
「時間稼いどくからさっさと頼むぞ!」
「あ!? 雪道君!?」
「スタートアップ!」
その言葉と共に紅い光に包まれ、一瞬でバリアジャケットを身にまとう。
直後、右手に魔方陣が展開しライオットトリガーを出す。
「ウォォォォォ!!」
「くっそ! 盾だ!」
ライオットトリガーを振って進行を止めるつもりでいたが、向こうのスピードが思いのほか速く間に合わないと悟る。
空いている左手を前に突出し盾をイメージして作り出す!
「Protection」
左手の先から半球状の盾、プロテクションが発動し鋭い爪を防御する……が
「ぐっ……重いっ」
こいつの一撃を甘く見ていたわけではないが、予想よりもはるかに重くプロテクションが揺らぐ。元々こういった純粋な魔力の行使は得意ではない。さらになのはほど出力も大きくないので強固とも言い難い。
あんまり長くは持たないと判断し、プロテクションを若干斜めにして思念体の爪を地面に当たるように滑らし逸らす。思惑道理に爪は地面を穿つ、と同時に石畳が砕け散る。昨日の思念体からなんとなくは分かっていたが、やばいなこれ。なのはのあのプロテクションがいかに強固かを思い知らされる。
が、今はそんなこと言っている場合でもなく追撃してくる爪や牙を冷静に躱し続ける。一撃もらえば吹っ飛びかねないのでスリリングだ。
「雪道君!」
その言葉とともになのはがレイジングハートを強く握りしめると同時に、手の中から桜色の光があふれ出し始める。それに気を取られたのか、思念体の動きが一瞬止まる。
「もらった! 空圧散弾!」
「Air shotgun」
近距離でがら空きの横っ腹にライオットトリガーを突出し、一気にぶっ放す!
低いうなり声を上げながら思念体は最初に立っていた場所よりも奥に吹き飛んでいく。
小さめの空圧弾を複数作りそれを放射状に放つ。この世界での散弾と同じで射程は短いものの、近距離では爆発的な威力を発揮する。何も考えずにその場凌ぎで回避していたわけでなく、空圧弾を作りつつ躱し、機会を窺っていたのだ。
ちゃんと起動できたか気になったので一度なのはのほうへ戻ると、その手にはレイジングハートが握られていた。
よしよし、ばっちり起動してるな。
ユーノは随分と驚いた顔をしている。おそらくパスワード無しで起動させたからだろう。
「グゥゥ、オォォォォ!」
そうこうしてる間に態勢を整えなおしたのか、再び思念体が襲い掛かってくる。
思っていたより立て直しが早い……そこまで効いてなかったか? このまま棒立ちはまずい!
「なのは! バリアジャケットを展開しろ! 昨日の白いあの服だ!」
「は、はい!」
「Barrier jacket」
ぎゅっとレイジングハートを握ると、それに応えるようにして魔法が発動し、なのはは昨日のあの白いバリアジャケットを身に纏う。
と同時に思念体の突進もこちらに届きそうだ。魔法を展開する暇はない。ちょっとばかり失礼だがなのはの腰に手を回し、バックステップする。魔法とおれの風の力を利用してるため一気に距離を稼ぎ、鳥居を出てすぐ、階段先の踊り場で着地する。
だが向こうも黙って躱されるのではなく、一度着地したのちにこちらへ跳びかかってくる。着地直後でなのはの腰からも手を放ししまったのでもう一度飛ぶには時間がない。
身体ごと叩き付けるような攻撃なので、先ほどのように盾を傾け攻撃を逸らすことは難しい。多少のダメージは覚悟して回避するか? しかしそれではなのはがダメージを受ける……どうする!?
「グォ!」
「ひぅ……!」
跳びかかってるく思念体、しかしそれは展開された桜色の盾に阻まれ止まる。
先ほどのおれのプロテクションとは違い、揺らぐようなことも一切ない。すごい堅さだ。
「Protective condition,all green」
「頼もしい限りだな……ユーノ! 危ないからちょっと退いてろ! なのはとレイジングハートはそのまま維持を頼む!」
「分かった!」
「よく分かんないけど、任せて!」
ユーノが階段の隅に退避したのを確認し、一旦横へずれてプロテクションの外へ出る。その後風の力でジャンプし、プロテクションに阻まれ動きを止めている思念体に一気に近づく。
ライオットトリガーを振るい、顎あたりを刃の無い峰のほうでアッパーをする様に殴り飛ばす!
「りゃぁ!」
「ォゥ……!」
殴り飛ばされ少し離れたところへ倒れ伏す思念体。動かなくなったのでとりあえずは無力化できたろうか?
動物ってのは、顎を殴られれば脳が揺らされてしばらく動けなくなる……と母さんに聞いた。母さんとの特訓で散々魔力弾でアッパーされていた経験がこんなとこで役立つとは。
ちなみに峰で殴ったのは念のためだ。原住生物、つまりこの世界に元からいる動物を取り込んでこいつは動いているってことになる。こいつらの仕組みなんて分からないが、下手に傷つけない方がいいと思ったのだ。
「大丈夫か?」
「うん、全然怪我してないよ?でもこんなのを殴り飛ばしちゃうなんて、さすが雪道君だね」
「う? うん、まぁな」
それよりもなのはの盾の方がすごいんだが……あの攻撃を受けてノーダメってどんだけ強固なんだか。
「えとぉ、封印ってのをすればいいんだよね?」
「ああ、よろしく頼む」
「うん。じゃあレイジングハート、お願いね」
「All right. Sealing mode. Set up」
レイジングハートから桜色の翼が展開し、ロープで思念体を縛り上げる。額に現れた数字はⅩⅥ。16番目ってことか?
「Stand by ready」
「リリカルマジカル! ジュエルシード、シリアル16。封印!」
「Sealing」
ロープが思念体を貫き、そのまま白い粒子となって消えてゆく。
ジュエルシード本体がゆっくりと降下し、そのままレイジングハートに吸収される。
「Receipt numberⅩⅥ」
「ふぅ。これでいいのかな?」
「大丈夫だろう。ユーノ的にはどうだ?」
「うん、問題ないよ。これ以上……ないくらいに」
周りには被害らしい被害も出てないし、今回はなかなか穏便に済ますことができたな。石畳が砕かれたことに関しては極力考えないようにする、うん。
ってあれ? あそこに女の人が倒れてない? や、やばい……思念体に気を取られて全然気が付かなかった。
血の気が引いていくのを感じながら、慌てて駆け寄る。
「だ、だだだ大丈夫ですか!?!!?」
「え……? あっ!?」
なのはやユーノもようやく気づいたらしく、同じく駆け寄ってくる。手首を握りって脈は……ある。ぱっとみ怪我らしい怪我もなさそうだ。
「ぅぅ」
「気が付きました?」
「あれ? ここは……そうだ! あの化け物は!? うちの子が!」
「クゥーン」
「え?」
声がする足元を見てみると、そこには1匹の子犬が。この人のペットなのか。
ん? 待てよ? この人のセリフと、状況を考えて……まさかこの子犬がさっきの………?
いやいやいや冗談だろ!? でかさとか凶悪さとかありえないぐらい違うぞ!!?
引きつった顔のままなのはの方へ振り返ると、こちらも引きつった顔をしている。まあそうなるよなぁ……驚きのあまり声が出ないもん。
「なんだったのかしら……?」
「えとその! ゆ、夢でも見てたんじゃないんですかね!」
「そ、そうそう! 転んで頭打っちゃって、それで!」
「そう?」
「そりゃもちろん! 化け物なんているわけないじゃないですか! いやだなぁもう」
「ですです! あは、あははは……」
「そうよね……ともかく起こしてくれてありがと」
「いえいえ~……」
子犬とともに走り去っていくお姉さん。大事なくてよかった。
気付けばあたりは夕焼けになっている。思っていたよりも時間が経っていたらしい。
はぁ、なんか最後のでどっと疲れたな。
「お疲れ様……かな?」
「うん、そうだね」
「だな、お疲れさん」
「お疲れ様です、皆様」
戦闘後ですっかり疲れ切ってしまった。なのはの家へお邪魔させてもらうつもりだったが、今日はやめておこう。
「こんな時間だし、今日はまっすぐ帰るか」
「残念だけど、そうだね」
「冷蔵庫にまだ食材あったかな?」
「まだ少しは余裕があったと思いますよ」
「じゃあ買い出しは今度でいいや」
「ふふふ、本当に主夫してるんだね~。なんだかおなか減ってきちゃった」
「じゃ、帰ろうぜ」
「うん!」
おれ達は帰路につき、途中で別れる。ジュエルシードが集まるまではこんな日々が続くのだろう。
そして今日の戦闘で痛感したが、なのはとおれとでは魔法の才能が天と地だ。今はまだ経験値の差がありおれが引っ張っていけるが、それなりに回数をこなしてなのはが慣れてくれば、おれがお荷物になりかねない。
もっとしっかりと鍛練していく必要がありそうだ。まあ何はともあれ、今日も長い一日だったよ。
「なのはさんに抜かれないように頑張りましょうね」
「できればな」
ご意見、ご感想のほどお待ちしております。
ここから投稿ペースはゆっくりになると思います。どれくらいかかるかは分かりませんが、完結まで頑張っていこうと思うのでよろしければお付き合い下さい。