ここからどんどん話が動いていく・・・といいなぁ
「んーと、忘れ物はないかな」
「ええ、大丈夫ですね」
ざっと自分の持ち物を確認し、問題はないことを確かめる。
あの木の暴走をしたジュエルシード騒動から約1週間。新たにジュエルシードを発見することもなく、平穏な日々が続いている。
頑張って探さないといけないとは思うのだが、やはりなのはの体調なんかを考えると少しは休暇は必要だと思ったのだ。
ユーノには悪いが、ジュエルシード探しのペースを緩めさせてもらっていた。ユーノ自身も納得していたので今はこれでいいだろう。
とは言ってもなんとなくじっとしていられず、おれは1人夜にランニングがてら探していたりする。2人には内緒だ。
ばれたら怒られるだろうなぁとは思うのだが、ちゃんと自分の体調はコントロールしているので今のところは問題なしとさせてもらう。
それはさておき、なんで自分の持ち物を確認しているかと言うと、今日はすずかに誘われて彼女の家へ行くことになっている。
あのでかい屋敷、それにお嬢様の家へ行くとなると下手な真似はできない。しっかりと準備していかないとな。
「よし、後はバスの時間だけど……まだ余裕ありそうだな」
「あの、マスター」
「なんだ?」
「その、大変言いにくいのですが……」
「んだよ勿体ぶって。あ、何か変か?」
「いえそうではなく……あの時計………さっきから進んでないと思うのですが」
「―――――え゛?」
それって、かなりまずいんでは? いやそんなはずはないエリスの気のせいだうんそうに違いないしかし確認のために一応携帯の時計を確認…て……
全然進んでる。そりゃもう予定していたバスの時間なんてとうの昔に過ぎ去っている。
全身から嫌な汗が噴き出て、顔が引きつっていく。
「な!? 大遅刻じゃねぇか! なんでもっと早く言わないんだよ!!」
「いえその、あまりにも楽しそうに準備していたので声をかけ辛くて………」
「そんなの窺ってんなよ! ああもう出るぞ!」
荷物を引っ掴んで慌てて家を飛び出す。
全力で走って遅刻するかしないか、微妙なとこだな………はぁ。
005 遭遇するはライバルという名の魔法少女
テレビでしか見ないような大きな屋敷の扉の前に立つ。いやテレビそんなに見ないけど。
インターホンが小さく感じるね。ともかくピンポーンっと。
ほどなくしてガチャリという音と共に扉が開き、中から薄紫色の髪の女性が出てくる。
この人は確か……そうだ、メイド長のノエルさんだったかな? おれもだいぶ人の名前を覚えれるようになってきた。
少ししかあったことのない人なのに良く覚えていたな。えらいぞおれ。
「雪道様ですね。お待ちしておりました、大丈夫ですか?」
「ぜぇ……ぜぇ……大丈…夫です………」
遅刻していることに気付いたおれは全力疾走でバス停へ、バスに乗って降りて再び疾走して今に至る。
魔法をほんのちょっと使って追い風を吹かせ、スピードアップを図ったのはご愛嬌だ。
「時間遅刻しそうだったので。ふぅ」
「さようでございましたか、ともかく中へどうぞ。お飲み物もお持ちいたしますので」
「ありがとう、ございます」
中へ通してもらい、テラスのような場所へ出る。既に今日招かれているなのは達は到着していて、お茶を飲んでいる。
んー、いい香りだ。相当いい茶葉を使っているな。さすがというかなんというか。
しかし猫だらけだなここ。椅子占領されちゃってるじゃん。
「あ、雪道君。いらっしゃい」
「おう、お邪魔してます」
すずかに言われ返事を返す。息はもう整えた。
「初めまして、雪道様ですね? すずかお嬢様の専属メイドをさせていただいています。ファリン・K・エーアリヒカイトです」
「あ、これはご丁寧にどうも。咲良雪道です」
初めて見るメイドさん、ファリンさんから自己紹介をされる。こんなかしこまった挨拶はあまりされないので微妙に緊張する。
名前からしてノエルさんの妹さんだろう。
「お飲み物をお持ちいたしますね。なにがよろしいですか?」
「あ、じゃあ紅茶をお願いします。種類は任せます」
「紅茶ですね、かしこまりました。ファリン」
「はい!」
ノエルさんとファリンさんが連れだって出ていく。
ともかく座らせてもらうか。猫を抱え上げて下におろす。ちょっとごめんよーっと。
「おはようなの、雪道君」
「ああ、おはよう」
「遅かったじゃない」
「すまん、家の時計が止まってて時間を勘違いしてな」
「まあまあ、時間通りではあるし」
「すずかかそういうならいいわ。感謝しなさい?」
「ご厚意痛み入るよ」
軽く雑談を交わしつつのんびりと過ごす。ここは居心地がいいな。眠くなってきそうだ。
「そういえば、今日は誘ってくれてありがとね」
「ううん、こっちこそ来てくれてありがとう」
「今日は、元気そうね」
「え?」
「なのはちゃん、最近少し元気なかったから。もし何か心配事があるなら話してくれないかなって、2人で話してたんだけど」
「すずかちゃん……アリサちゃん……」
なるほど、そうだったのか。なんとも泣かせる話だ。
ただちょっとハブられ感。実質友達になってから2週間くらいだし、呼ばれてるだけマシってもんか。
「雪道君も心配してたんだよ?」
「え? おれも?」
「いつもよりピリピリしてるって言うか、まあなのはのついでよ」
「あー……まあ、サンキュ」
「雪道君、照れてる?」
「うっせ」
まさかの展開だ。これは心に来るものがあるな。顔が熱い。
照れ隠しに飲み物……しまった、まだファリンさんが帰ってきてない。
女性陣はニヤニヤしている。ううう、何か誤魔化せるものは―――
「キュー!」
「っ!?」
「な、なんだ!?」
突然の声に少し後ろを見てみると、猫の1匹にユーノが追い回されてる。
「あぁ、ユーノ君!?」
「アイン、ダメだよ!」
へー、あの猫アインっていうのか。
グッジョブだアイン。これはいい誤魔化しができる、じゃなくて止めないとユーノが危ない。
「はーいお待たせしましたー。雪道様ご注文の紅茶と、クリームチーズクッキーでーす!」
ファリンさんってばなんていい、ああいや悪いタイミングで帰ってくるんだ……
狙ったかの様にファリンさんの足元で走り回る2匹。あいつらわざとじゃないよな!?
おかげで足元がおぼつかなくなりフラフラしだすファリンさん。展開読めるわーってなわけで素早く近づき最悪の事態を回避しようと試みる。
「わわっ!」
「ファリン危ない!」
「へっ!?」
おれと同じく危険を察知したのか走ってくるなのはとすずか。こんな大人数で押しかけたらまずいって!!
2人とぶつからない様にスピードを下げる。なのはとすずかはファリンさんの後ろに回り込んで支えて転倒を防止するが、手に持っているお盆が投げ出される。
あ、これ……と思った瞬間に足からスライディングで滑りこむ!
ガシャーン!!という音が鳴り響くがそれはお盆が落っこちた音だ。
クッキーとティーポットの中身はぶちまけてしまわれているが、高そうな皿やカップは守りきる。
しかし思いっきり紅茶を体にかぶってしまった。熱くないかと思われるが、魔法でうっすら体にバリア的なものを張っているので全然大丈夫だったりする。濡れて気持ち悪いのはまあいいだろう。
「雪道!? 大丈夫!!?」
「はわわ!! すみません!! そのっあのっ」
「いえ、大丈夫です。ただその……着替えとか用意してもらっても?」
「はい今すぐに!」
「あっちょっと! せめてお盆と皿を!!」
ファリンさんは慌てて飛び出して行ってしまったため止める暇もなかった。どーすんのこれ。
「雪道君ごめんね……大丈夫?」
「すずかが謝ることじゃないさ。おれが勝手に飛び出したんだし」
「やけどとかしてない?」
「ん? えーと、問題ない。平気だ」
「そっかぁ、よかった」
まさか魔法でオールオッケー!って言う訳にもいかずにとぼけて見せるしかないおれ。
ともかく皆怪我なくてよかったってことで。
ほどなくしてファリンさんがノエルさんを連れて帰ってきて、着替えを用意してもらったのだが―――
「あの、用意してもらっておいてあれなんですけど、他になかったので?」
「はい……申し訳ございません」
「ああいえ、別にいいんですけど………」
何故執事服なんだ。そもそもなんでおれのサイズに合う執事服があるんだ。これしかないのなら仕方がないが、落ち着かない。
「このたびはファリンが粗相をしてしまって本当に申し訳ありませんでした」
「申し訳ございません……」
「いやいや、誰も怪我がなくてよかったです。あ、服はいつでも返してもらって構わないので」
「はい。私共が責任を持ってお洗濯させていただきます」
「じゃあ、なのは達のところいきますんで」
そう言って部屋から出る。くっそぉ落ち着かない。あと絶対アリサにからかわれる。
《なかなか似合ってますね》
《嬉しくないんだが》
《いいじゃないですか。執事服なんてめったに着られませんよ?》
《一生着なくてもいいよ》
エリスの念話に適当に返しつつなのは達がいる場所へ移動する。
テラスは先ほどの騒動で掃除中のため、今は玄関先の庭にテーブルを出しているはずだ。
えーと確かここを曲がってっと。
…………
………………
……………………
「迷った」
うん、盛大に迷った。広すぎるよこの家。
おかしい、確かに案内された道の逆を辿っていたはずなんだけど……
どこかで間違えたか? ともかくその辺りにいるメイドさんに道を―――
っ!?
体を駆け抜けるような違和感。これは間違いない、魔力反応だ。
《ジュエルシードか?》
《おそらく。急いだ方がいいかもしれません》
《そうだな。さすがに友達の家で暴走されるのは困る》
感じた方向に早歩きで向かう。走りたいのはやまやまだがさすがに憚られる。
《なのは! 雪道!》
《うん、私たちのすぐ近くだ。雪道君は今どこに?》
《悪い、ちょっと道に迷ってな。ただ魔力は感じたからそっちに向かえると思う》
《2人とも、どうする?》
なのはのすぐ近くってことは、すずかやアリサも近くにいるってことか。
そんな場所でドンパチするわけにはいかない。うん、多少迷っていたのが功を奏しそうだ。
《おれが向かうまで少し待っててもらっていいか?》
《どうするの?》
《すずか達にばれないように回り込んでおれが回収する。なのはは2人が下手に動かないようになんとか時間を稼いでくれ》
《僕も向かって結界を作るよ》
《結界?》
《最初にあった時と同じ空間。魔法効果の生じている空間と通常空間の時間進行をずらすんだ》
《えーと、つまり?》
《どんなに騒いでも周りにはばれないってことだな?》
《そういうことだね》
《よし、じゃあおれとユーノで行ってくる。すずか達は任せたぜ》
《うん、分かった。でも》
《分かってる。やばくなったら呼ぶ。その時の方法も話しておこう》
軽くなのはたちと打ち合わせ、魔力の感じた方へ急いだ。
魔力を感じた森に入り、ほどなくしてユーノと合流する。
結構奥深くまで入った気がするけど、ここもすずかの家の敷地内なのだろうか? 広さパネェ。
「どうしたのその恰好?」
「着替えがこれしかなかったんだよ! 今はいいだろ。それよりもこの辺りのはずだよな」
「うん、今から結界を張るよ」
「頼む」
ユーノが目を瞑ると足元に緑色の魔方陣が輝きだす。
「あまり広い空間は切り取れないけど、この家の付近くらいならなんとか」
ユーノを中心に世界が薄めの灰色に包まれる。どうやら結界は張り終わったらしい。
ここからが問題だ。あの小さなジュエルシードをどうやって探すか……
いろいろと考えを張り巡らせていると、少し右の方で強い光が上がる。魔力も感じるしどうやらあれみたいだ。
暴走してしまったらしいが探す手間が省け……て?
うん、あれは見間違いだ。執事服なんて着ててちょっと気が動転してるんだそうに違いない。
一度目を閉じ眉間をもみほぐす。よーし、OK落ち着いた。再びそこに目を向けごめんやっぱり見間違いじゃない!
「ニャーン」
「「「……………」」」
唖然として完全に言葉を失うおれ達。子猫、途方もなくでかい子猫。あれ?大きい子猫って日本語おかしくない? でも見たまんま伝えればそうなる。
「ユーノさん、あれもジュエルシードの暴走で?」
「た、多分。でも暴走はしてないのかな……?」
「なら正常にジュエルシードが発動した?」
「うん。あの猫の大きくなりたいって思いが正しく叶えられたんじゃないかなと……」
「限度ってもんがあるだろっ!」
「どちらにしてもこのままでは危険です。元に戻してあげないと」
「そうだね。雪道、頼むよ」
「お、おう、そうだな。エリス、スタートアップ」
「Start up」
毎度のごとく紅の光に包まれバリアジャケットを展開。念のためにライオットトリガーも準備し猫を追いかける。
おれ達のほうには気付いていないらしく歩いていく猫。あ、歩くたびに地面が揺れる。
特に暴れる様子もないしささっと封印を―――
だが次の瞬間、猫に何かが飛来しぶつかる。
「なっ!?」
飛んできた方向を見るとそこには一人の少女。
金色の髪に黒いバリアジャケット、その手にはデバイス。なのはじゃない、誰だ!?
「バルディッシュ。フォトンランサー、連撃」
「Photon lancer. Full auto fire」
彼女の持つ武器に金色の光が集まり、猫に向かって放たれる。
「何を!? エリス、シールド!」
「Round shield」
とっさに猫の前に割り込んで手を前に突出し円形の盾、ラウンドシールドを作り防ぐ。
ラウンドシールドは一方向しか防御できない分、プロテクションよりも防御力が高い。訓練の成果が出てるな。
しかし向こうの連射力が高い上、そもそも守る対象が大きすぎる。何発かは防ぎきれず猫に当たってしまった。
「魔法の光!? そんなっ」
「くっ、何もんだ!」
彼女は応えずに魔法を絶えず放ってくる。
ラウンドシールドでは防ぎきれず、広域防御のワイドエリアプロテクションに切り替える。
ダメだ、防げてもこっちから反撃できない! あまり気は進まないがなのはを呼ぶ必要が出てきてしまった。
《なのは! 聞こえるか!?》
《雪道君? どうかしたの?》
《ちょっとしたハプニングだ、悪いけど話した通りの手順で手伝いに……うおっ!?》
《雪道君!? わ、分かったの! すぐ行くから!》
なおも激しい攻撃を加えてくる金髪の彼女。
なのはが来るまでなんとか守り通さないと!!
高町 なのは Side
雪道君と合流しに行ったユーノ君を見送って、アリサちゃんとすずかちゃんとお話を続ける。
なるべくユーノ君がいなくなったことを悟られないようにしないと。
途中ユーノ君の魔力を感じたので、多分結界って言うものを張ったのだろう。何事もなければいいのだけど・・・
ほどなくして、雪道君から念話が入ってくる。
《なのは! 聞こえるか!?》
《雪道君? どうかしたの?》
《ちょっとしたハプニングだ、悪いけど話した通りの手順で手伝いに・・・うおっ!?》
《雪道君!? わ、分かったの! すぐ行くから!》
念話の様子からただ事ではないと感じ、手伝いに向かうために雪道君と打ち合わせた通りのセリフを言う。
「あれ? ユーノ君がいない」
「へ? そういえばそうね」
「どこ行っちゃったんだろう?」
一緒になって周りを見渡しだす2人。うぅ、騙すのは気が引けるけど早くしないと雪道君が・・・!
「えぇと……私、ちょっと探してくるね!」
「私たちも行こうか?」
「ううん。もしかしたら戻ってくるかもしれないし、1人で行ってくるの」
「そう? じゃあ気を付けてね?」
「うん!」
2人に背を向けて走り出す。待ってて雪道君、ユーノ君!
「そういえば、雪道君は?」
「……さあ?」
ユーノ君に念話をし、結界内に入れてもらう。
音がする方へ走っていくとそこには大きくなった猫さんと、そこの上に乗りバリアを張っている雪道君。
そして、攻撃をしている金髪の女の子。あの子はいったい?
「もう1人魔導師? バルディッシュ」
「Yes sir」
女の子が何か言い、猫さんの足元に攻撃が集中するし、爆発する。
「うわ!」
「雪道っ!」
バランスを崩した猫さんはそのまま木を倒しながら転倒してしまう。状況はよく分からないけど、なんとかしなきゃ!
「レイジングハート! お願い!」
「Stanby ready. Set up」
バリアジャケットを身に纏い、雪道君の方へ行く。
「いってぇ……」
「雪道君! 大丈夫!?」
「ああ、なんとか」
雪道君に手を差し出して立ち上がらせ、金髪の女の子の方へレイジングハートを構えながら向き直る。
いつの間にかすぐ近くの木の上に立っている。よく見ると可愛い子だな。
「同系の魔導師。ロストロギアの探索者か」
「…………」
「間違いない、僕と同じ世界の住人……そしてこの子、ジュエルシードの正体を?」
よく分かんないけど、この子もジュエルシードを探しているってことなのかな。
「バルディッシュと同系のインテリジェントデバイス」
「バル…ディッシュ……?」
「それがあんたのデバイスの名前か」
「ロストロギア、ジュエルシード」
「Scythe form. Set up」
雪道君の言葉には反応せずにそう呟くと、彼女のデバイス――バルディッシュの形状が変化する。
金色の刃のようなものが出てる。あれはまるで
「文字通り、鎌ってわけか」
「申し訳ないけど、いただいていきます」
そう言って滑るようにこちらへ向かってくる! ど、どうしよ!?
「エリス!」
「はい!」
叫びつつ飛び出していく雪道君。2人の武器が交錯し、そのまま激しい近距離戦が始まる。
「なのは! ユーノと一緒にあの猫のとこへ行け! こいつはおれが抑えておく!」
「うん、分かったの!」
彼女の目的はジュエルシード。なんで集めようとしているかは分からないけど、ユーノ君のためにも渡すわけにはいかない。
後ろから武器を打ち合う音が聞こえてくる。早くしないと!
「レイジングハート!」
「Flier fin」
両足に桜色の小さな羽の、フライアーフィンが伸びてそのまま体を浮かす。
走るのはそんなに速くないけど、空を飛ぶのなら!
「ぐぅ!? マズった! なのは!」
「え!?」
「Arc Saber」
後ろを振り向く。押し負けてしまったのか地面に倒れている雪道君と、こちらへ向かってくる彼女が視界に入る。
バルディッシュの声と共に回転する刃が私に向かって飛ぶ。
レイジングハートがプロテクションを発動してくれて防御、そのまま上へ逃れようとするが、回避する方向を読まれていたのかすぐ近くまで来ていた彼女がバルディッシュを振り下ろしてくる。
とっさにレイジングハートを構えて防ぎ、そのまま鍔迫り合いとなる。
「なんで……なんで急にこんな……」
「応えても……多分、意味はない」
「でやぁ!」
「っ!」
押し切られそうになった瞬間、横から雪道君がライオットトリガーを振りながら割り込み、一旦離れる。
彼女は再び木の上へ、私たちは猫さんの近くへ着地する。
「悪い、抑えておくって言いながら」
「ううん。全然大丈夫だよ」
雪道君に笑いかけながら、レイジングハートをシューティングモードへ移行し構える。
向こうのデバイスも変形し、こちらへ構えてくる。
「Divine buster. Stand by」
「Photon lancer. Get set」
隣の雪道君は構えながらも少し距離を置く。おそらく、何が起きてもいいようにと警戒しているのだろう。
きっと、私や雪道君と同い年くらい。綺麗な瞳と綺麗な髪。
だけど……この子は………
緊迫する状況の中、後ろで倒れていた猫さんが状態を起こす。そちらに一瞬、気を取られる。
「バカ! よそ見してる場合か!!」
「あっ!」
振り向いた時にはもう遅かった。
目の前は金色の輝きで埋まり、私の意識はそこで途切れた。
Side out...
「Divine buster. Stand by」
「Photon lancer. Get set」
緊迫した空気が辺り一帯に張りつめる。
お互いにデバイスを向けてけん制し合う。何か一瞬でも隙があれば、そこから一気に状況が動くだろう。
おれは何が起こっても対応できるように構えながら、なのはから少し距離を取る。
あいつの強さは正直、今のおれとなのはを合せた強さよりも上だ。さっきの打ち合いでも簡単になのはの方へ通してしまった。
2対1というこの数での有利さをどういかすか……そう考えているとき、後ろで倒れていた猫が少し動く。
なのはがそちらを向いてしまった。あいつ! この状況で!
「バカ! よそ見してる場合か!!」
「あっ!」
慌てて駆け出すが、どうするべきかを考えていた途中だったこともあり出だしが遅れる。間に合わない!!
「………ごめんね」
「Fire」
彼女の攻撃がなのはに着弾する。レイジングハートによるオートプロテクションで直撃はしていないが、衝撃で吹き飛ばされてしまう。
あれは気を失っている!? まずいとは思うが、爆風で身動きが取れない。
「うっ! ユーノ! なのはを!」
「分かった!!」
爆風の影響を受けない位置にいたユーノになのはのことは頼み、おれはあいつの相手を―――いない!?
先ほどまで木の上に立っていた彼女の姿が見えない。一体どこへ!?
「マスター! 後ろです!」
「っ!!」
いつの間に移動したのか、後ろに移動していた彼女は、再び鎌の状態にしたバルディッシュを振るう。
とっさに前に跳んで衝撃を減らそうとするが、遅すぎる。
「ぐはぁ!!」
もろに背中に一撃をもらい、何度か地面を転がって木に当たり止まる。
意識はあるが、残念ながら体は動かない。体の痛みに顔をしかめながら、なんとか首だけを動かし彼女の方を見る。
猫にデバイスを向けている。封印して回収するつもりか……?
「Sealing form. Set up」
バルディッシュの形状が変化し、金色の翼が展開する。
「捕獲」
その言葉と共に杖の先のエネルギーを地面に打ち付ける。
すると地面を盛り上がらせながら猫の方へエネルギーは走っていき、猫の動きを止める。
なのはの放つ桜色のロープの代わりといった感じか。
「Order」
「ロストロギア、ジュエルシードシリアル14。封印」
「Yes sir」
バルディッシュを空に向けると、猫の上空から光が降り注ぐ。
「Sealing」
さらに光が強くなり、収まった時には猫は通常サイズに戻っていた。ジュエルシードもその辺りに浮かんでいる。
歩いて近寄り、バルディッシュをジュエルシードに向ける。
「Captured」
バルディッシュの中にジュエルシードは取り込まれ、放熱により煙が噴き出す。
やられた……まんまとジュエルシードを横取りされてしまった。
彼女はその場から動かず視線を横に向ける。その先には……倒れているなのは。
ユーノは無事なのはを回収できたようだが、まだ何かするつもりなのか?
現在ジュエルシードはなのはのレイジングハートにすべて預けている。もし彼女がそれを知っているのだとしたら……
なかなか力の入らない体にムチを打ち、ライオットトリガーを杖代わりに立ち上がる。
体を引きずるようにして歩き、なのはの前へ立ちふさがる。
「………」
彼女は、動かない。睨むようなこともせずただ、こちらを見つめている。
荒い息を吐きながらも見つめ返す。今仕掛けられたら打つ手はない。
しかしあいつ、なんであんな目をしているんだ? 無表情ではあるものの、その綺麗な瞳は悲しみのようなものが見える。
特に何をするでもなく、背を向けて立ち去って行く。
見逃してもらったのか、こちらが他にジュエルシードを持っていることを知らないだけか。ともかく助かった。
緊張の糸が切れ、その場にどかりと腰を下ろす。バリアジャケットも解除する。
「雪道、大丈夫?」
「体中が痛いがとりあえずは大丈夫だ。なのはは?」
「うん、気を失っているだけだよ。怪我はしてない」
「そっか……サンキュな、ユーノ」
「ううん」
あいつは一体なんだったのか。気になりはするが、いくら考えても答えなんてでない。
それよりも今はこの状況をどうするかだ。アリサ達にはなんて言い訳したものか……
「レイジングハート、聞こえてるか?」
「Yes」
「なのはのバリアジャケットを解除してくれ。このままじゃ皆のところへ連れて行けない」
「All right」
なのはのバリアジャケットが解除され、元の服へと戻る。
いつまでもここで座り込んでいるわけにもいかない。おれはなのはを背負い、言い訳を考えながら屋敷の方へユーノと共に帰るのだった。
なのはが目を覚ましたのは夕方になってからだった。
皆には『ユーノを探している途中に転んで気を失った』ということにしておいた。少々苦しい言い訳だったが皆信じてくれた。
おれについては屋敷で道に迷い、途中にユーノを見かけて追いかけ、見失って途方に暮れていたところでなのはを見つけてってことにした。
全面的にユーノに罪をかぶってもらった形になったのがなんとも申し訳ない。
その後すずかの屋敷を後にして、帰宅。
夜に2人からの念話を受けた。話す内容はもちろん、金色の髪の彼女についてだ。
《あの杖や衣装、魔法の使い方。多分、ううん。間違いなく僕と同じ世界の住人だ》
《うん……ジュエルシード集めをしてるとまた、あの子とぶつかっちゃうのかな………》
《だろうな。ご勘弁こうむりたいが、そういう訳にはいかない……よな………》
《そうだね……》
おれ達の言葉数は少ない。
戦闘で負けたショックとか、ジュエルシードを持って行かれたこととか、その他にもいろいろと思うところはある。
だけど今占めている感情は、悲しさだ。何故かと問われても、はっきりとこうだと言葉にはできない。
しかし、その原因は分かっていた。あの目だ。
使命を宿しながらも、悲しい色をしたあの目。あれが脳裏に焼き付いて離れない。
次に彼女と会ったときは一体どうすればいいのか。
なのは達との念話が終わった後もおれはずっと、答えの出ない自問自答を繰り返していた。
??? Side
とあるビルのとある1室。そこに私は住んでいる。
大きな窓があり、夜景が見渡せるその近く。1人で座るには大きすぎるソファに腰を下ろす。
部屋の奥から1匹の赤いオオカミが近寄ってくる。私はそのオオカミの頭を撫でると、気持ちよさそうな声を出す。
「少し邪魔が入ったけど、大丈夫だったよ。ジュエルシード、シリアル14。いくつか、あの子たちが持ってるのかな?」
そう話しかけると心配そうに見上げてくる。さらに頭を撫でながら、声をかける。
「大丈夫だよ……迷わないから」
2階のそこに飾られているであろうそれを想像しながら、遠い場所にいるその人に思いを馳せる。
飾られているのは―――写真。黒髪の女性と金色の髪の女の子が、並んで立っている写真。
「待ってて、母さん。………すぐに、帰ります」
そう呟きながら目を閉じる。
こうして彼女の夜は過ぎていく。
ご意見、ご感想のほどお待ちしております