すずかの家で出会った彼女との戦いから数日が経過した。あれからジュエルシードはまったく見つかっておらず、状況は停滞気味だ。
おれはというと、いままでのやり方ではどうやっても彼女には勝てないと思い、ユーノにコーチを頼んで魔法の訓練を本格化させることにした。ユーノはなのはの家にいるので、念話でのコーチングになる。それでも専門の人なしでやるよりは遥かに効率はいい。
ちなみにこの訓練はなのはには内緒で行っている。最近何かと抱え込んで気苦労が絶えない彼女に、さらに無理をさせるわけにはいかないと思ったからだ。もちろんおれもいろいろしんどくはあるが、才能の塊であるなのはやあの子ほど強くないのでそうも言ってられない。
魔法を使うことで魔力を感じ取られてばれるのではないか?と思われるかもしれないが、その辺は大丈夫だ。なにしろ家の敷地には魔法を使用しても魔力反応が外に漏れない結界が張られているのだ。母さんの置き土産だが、ほんとあの人は何者なのか。
それはともかく、純粋な魔力の行使と近接での戦闘の訓練を中心に、今どうしても身につけておかなければならないものがある。それは―――
006 おいでませ海鳴温泉
「いだっ! くっそ、ダメか……」
「大丈夫ですか?」
「なんとか」
今必死に身につけようとしているのは飛行魔法だ。すずかの家での戦闘で2人とも思いっきり空を飛んでいた。しかしおれは空を飛ぶことなんてできない。
空中戦になりでもしたら置いてけぼりをくらいかねないので、なんとかしようと思っているのだが………
「上手くいかないもんだな」
「そうですねぇ。やはりマスターの想像力の問題ですかね?」
「そう言われてもなかなかなぁ」
まったく上手くいかずに落下を繰り返していた。ユーノが言うにはイメージ不足とのこと。
どうしても、何も飛ぶ仕組みがない人間が空に浮かぶというイメージができないのだ。頭が固いと言われればそうなのだろうが。
「なんかこう、いい方法ないかな」
「うーん……あ、マスター」
「お、なんか思いついた?」
「なのはさんが空を飛ぶときって、足に何か羽を伸ばして飛んでませんでした?」
「確かフライアーフィンだっけ? 一応試してみるか」
というわけで見様見真似、足になのはそっくりの羽を伸ばして飛んでみるが―――
「うお!?っとと!」
「ダメでしたか」
バランスがとれずにふらついて、結局庭にほとんど落下するように着陸するはめとなった。しかし収穫はあった。何もなしよりも明らかに空を飛べていたのだ。方向性は間違っていないと思う。
「これなら……よし、いろいろ試してみよう」
「はい」
その後数時間、ひたすら飛行訓練をするのだった。
翌日の学校の昼休み。
もはや恒例となったおれ達4人での食事。今日の昼飯はおにぎりだけと少々豪華さがない。というのも昨日は訓練に気合を入れすぎて朝起きるのが遅かったのだ。
「ふわぁ……」
「雪道君、なんだか眠そうなの」
「授業中もなんかぼーっとしてたけど、大丈夫?」
「んー。ちょっと今日は睡眠不足でな」
「あんまり夜更かしは体に悪いわよ?」
「分かってる、たまたまだ」
その後も雑談を交えつつ、つつがなく昼飯は進んでいく。
さっきから3人とも何かを言い出すタイミングを計ってる気がするんだが、気のせいかな……そう思っていたら、なのはが口を開いた。
「あの……雪道君」
「うん?」
「今週末は連休なのは知ってる?」
「そりゃまあ」
「実はね、この連休に皆でちょっとした旅行にでかけるの」
「なのはの家族と、すずかとそのお姉さんとメイドさん、それからあたしでね」
「うん、それでね? 雪道君もよかったらどうかなぁって」
「おれも? うーん、それは嬉しい誘いだけど……」
「何か予定あった?」
「いや別に何もないけど」
嬉しいのは嬉しい。そんな団体旅行に誘ってもらえるのはいいのだが……
「じゃあ何が問題なのよ」
「えーと、まず他の方々はなんと?」
「いいって言ってなかったらお誘いはしないの」
「た、確かに。みんな的には「問題ないの(よ)(わよ)」―――あ、はい」
退路を断たれてしまった。連休は訓練に当てようと思っていたが、そこは押しに弱いおれである。
「じゃあ、参加させていただきます……」
となるのだった。
時は流れて週末の連休。やってきましたここ海鳴温泉。
高町家ご一行とすずかとその姉&メイド姉妹、それにアリサとおれとついでにユーノ。何故だろう。女性の比率がやたら高い。ユーノをカウントに入れても4:8、倍じゃねぇか。
そして訓練もこんな場所じゃできないわけなんだが……まあいい。こうして来てしまった以上、この2日間は楽しませていただくとしよう。
目的地について早々、温泉に入ることとなる。女性陣とはここで別れてってちょっと待とうな。
「おいバカてめーはこっちだろが」
「キュ!?」
なのはの肩に乗りっぱなしのユーノを引っ掴んでおれの肩に乗せる。まったくもって油断も隙もねぇな。
「別にユーノくらいいいんじゃ……」
「いいやダメだ! これは絶対に譲らねぇ!」
「そ、そこまでなんだ……」
なんだか周りの方々からはちょっと白い目で見られている。
こいつは見た目フェレットだが正真正銘の男だ。覗きは断じて許されない。皆にはむしろ覗きを止めたことに感謝してほしいくらいだ。
「よかったら雪道君も一緒にどう?」
「あ、いいですねそれ」
「は!? いえいえお構いなく!」
「まあそう言わずにさっ」
なのはとすずかのお姉さん方がとんでもないことおっしゃり始める。体を確保されそうになったので慌ててバックステップし逃れる。
こ、このままじゃ危険だ! いろいろ!
「それじゃまたあとでさいなら!」
早口で言いながら迅速に男湯に引っ込んでおさらば!
《いや、危なかったね》
《それはそうなんだが。お前……もしかして合法的に行けるからって行く気満々だったか?》
《ちちち違うよ! むしろ助かったっていうか!》
《まあ信じてやるがお前には前科があるからな。多少は疑わせてもらおう》
《あの時のこと今引っ張ってくる!?》
ユーノの反論をあしらいつつ、いざ男湯へ。
《そういやユーノってさ、温泉は入ったことあんの?》
《公衆浴場ならあるけど》
《へぇ、聞いたことなかったけどユーノの世界にもお風呂ってあるのな》
《それはもちろん》
《温泉はいいぜぇっつってもおれもこれが初めてだがな》
《あれ? そうなんだ》
《こんな場所に出かける機会なんてなかったしな》
ユーノと適当に念話しつつ、服を脱いで浴場へ入る。おお! 広い! こいつが大浴場ってやつか!!
他にお客は見当たらず完全に貸切状態だ。体を流して浸かる。ちなみにユーノには深すぎるので桶にお湯をついでやった。
「んー、気持ちいいなぁ」
「うん」
特に何を話すわけでもなく、2人でのんびりと浸かる。たまにはこういうのもいいかな。
「ジュエルシード探しが滞って悪いな」
「ううん。なのはにも言ったけど最近無理しすぎだよ。たまにはゆっくり休まなきゃ」
「そうだな」
「特に君はね。ここのところ毎日訓練してるんでしょ? いくらなんでも飛ばしすぎだよ」
「分かってる。でも必要なことなんだ」
「まったく……でも」
「今日明日くらいは……だろ? 言われなくてもそうするって」
「うん、そうして」
ゆっくり浸かって体洗って、もう一度浸かって上がる。体を拭いて用意していた浴衣を着て外へ。
「なのは達はまだか」
ここで待たせてもらうとするか。ちょうどよく待合スペースあるし。
そう思い、ベンチに座ってなのは達が出てくるのを待った。
しばらくして出てきたなのは達と旅館内を歩く。風呂上がりのため皆肌が上気していてちょっと色っぽい。
なのはやアリサは普段結んだりツインテにしてる髪を下ろして、随分と雰囲気が変わった感じがする。若干ドギマギしてしまうが悟られないように平静を保つ。
《こういう不意の事態に弱いですよね》
《う、うるさいよ》
エリスにはバレバレだった。ほとんどの時間を一緒に過ごしているので完全に見透かされている。恥ずかしい……
その辺は置いておくとして、こういう旅館などの場所に来ると探索とかしたくなるのが性ってもんで。そうして探検がてら歩いていると、声をかけられた。
「ハァイ、おチビちゃんたち」
4人でそちらを向くと、一人の女性が立っている。
オレンジっぽい色の髪を腰まで伸ばした浴衣の女性。ここに来てるお客さんだろうか。胸の谷間が見えている。男として見てしまうのは大目に見てほしい。
ゆっくりとこちらに歩いてくると、腰を折ってなのはの顔を覗き見る。
「ふんふん、君かね? うちの子をあれしてくれちゃってるのは」
「え?」
「あんま賢そうでも強そうでもないし、ただのガキンチョに見えるだけどなぁ」
「なんなんですか、あんた」
なのはを後ろに下がらせながら前に出る。おれ達の中でも強気な性格のアリサも、敵意むき出しにしてなのはをかばうように立つ。
「へぇ……あんたもそうなのかね。ふぅん、少しはやりそうだけど」
「なんのことやらさっぱりですね」
「なのは、お知り合い?」
「う、ううん」
「この子、あなたを知らないそうですがどちら様ですか?」
アリサがそう言うと腰に手を当て不敵に笑ってくる。
多分、いや間違いない。おれとなのはの共通のことで突っかかってくる人なんて、あの子がらみしか考えられない。どうする? ここじゃアリサとすずかがいるし、魔法を使うってわけには―――
「アーハッハッハッハ!」
「っ!?」
急に笑い出す女性。な、なんだぁ?
「ごめんごめん、人違いだったかなぁ? 知ってる子によく似てたからさぁ」
「な、なんだ・・・そうだったんですか」
「アハハ! 可愛いフェレットだねぇ」
「あ、はい」
うやむやにしているけど、嘘だろう。ここでは仕掛けてくるつもりがないのか、その魂胆は分からないが用心しておくに越したことはない。
《今のところは、挨拶だけね》
念話……おれの読みは外れてなかったってことだな。
《忠告しとくよ、子どもはいい子にしてお家で遊んでなさいね? おいたがすぎるとガブっと行くわよ》
《言ってろ。こっちにも引けない理由があるんだ》
《ほぉ……私にいち早く気付いてるみたいだったし、そこまであんたは間抜けじゃないってわけね》
《子どもっていうならあんたのとこのあの子もだろ。黙ってやられるつもりはないってことだけ覚えとけ》
《………後悔しないことね》
過ぎ去っていく彼女。これは面倒なことになりそうだな。あの金髪の子だけですら手に負えないっていうのに、さらに1人追加とは。
「なのはちゃん、雪道君」
「あ、うん」
「なぁにあれ! 昼間っから酔っぱらってるんじゃないの!?」
「ア、アリサちゃん」
「まあまあ落ち着けって。変わってる人だったけどさ」
「くつろぎ空間だしいろんな人がいるよ」
おれとなのは、すずかでいきり立つアリサをなだめながら、再び館内を歩く。
《雪道君、さっき言ってたのって》
《ああ、多分あの人は金髪の子の関係者だ》
《じゃああの子もこの近くにいるのかな》
《かもしれねぇな。たく、こんな場所に来てまでなぁ》
今晩あたりになにかありそうだと思いつつ、おれ達はひとまずこの旅行を楽しむことにした。
高町 なのはSide
皆と楽しく過ごして、夜がやってくる。
ファリンさんにお話をしてもらいながら、アリサちゃんとすずかちゃんと一緒に布団で横になる。雪道君はいつの間にかふらっといなくなっていて、どこへいったのか分からない。
2人が眠った後も、昼間に会った人のことが気になって眠れずにいた。少しお話をしたくなったので、ユーノ君に念話で話しかけることにする。
《ユーノ君、起きてる?》
《う、うん》
ユーノ君がこちらに来るのを確認して体を起こす。
《昼間の人、あの子の関係者ってことは今夜も……何かあるのかな?》
《雪道も言ってたけど、多分ね》
《また、この間みたいなことになっちゃうのかな》
あの時のことを思い出すと悲しい気分になる。有無を言わさずに戦いを仕掛けてきたあの子。話で解決ってできないのだろうか……
そう考えていると、顔を伏せた後にこちらに向き直り、ユーノ君がしゃべりだす。
《なのは。あれから考えたんだけど、やっぱりここからは僕が―――》
《ストップ! そこから先言ったら、怒るよ?》
ユーノ君が何を言おうとしているのかが分かり、停止をかける。こればかりは言わないといけないの。ユーノ君の頭に手をやり撫でながら言う。
《ここからは、僕が一人でやるよ。これ以上なのはや雪道を巻き込めないから……とか言うつもりだったでしょ》
《う……》
おそらく図星だったのか、再び顔を伏せてしまうユーノ君。そんなこの子を諭すように、語りかける。
《ジュエルシード集め。最初はユーノ君のお手伝いだったけど、今はもう違う。私が自分でやりたいと思ってやっていることだから。それは雪道君も同じだよ?》
ジュエルシードを見逃して失敗してしまったあの日。雪道君に怒られて、それからお互いの意思を確認し合ったあの日。
あの時から私はもうお手伝いじゃない、ちゃんと自分の意思でやるんだって誓った。だからユーノ君の申し出は、怒るに値するものだった。
ユーノ君を抱え上げて、目線の高さを合わして言う。私の意思をしっかりと伝えるために。
《私や雪道君を置いて一人でやりたいなんて言ったら、怒るよ》
《………うん》
《ふふっ。雪道君がいたらもっと怒られてるところなの。お前にそんな風に思われるためにやってるんじゃない!なんて》
《ははっそうだね……もう言わないようにするよ》
彼の口調を真似て言うと、笑ってそう言ってくれる。うん、もう大丈夫そうなの。
《少し眠っておこう? また今夜にも何かあるかもしれないからね》
《うん》
ユーノ君を下ろして布団をかぶり直し目を閉じる。それにしても雪道君はどこへ行ったのだろう。1人で無茶してないといいのだけれど……
Side out...
夜。おれは1人外を歩いていた。なのは達はもう寝てしまっているだろう。
昼間に会ったあの人のことが頭から離れずに、なんとなく外を歩きたくなったのだ。1人と言っても、エリスは持って来ているのだが。
「静かですねぇ」
「町中と違って、森しかねぇしな」
川沿いに歩いていると、川の先の方で魔力を感じた。
「マスター!」
「分かってる! マジであるとはね! スタートアップだ!」
バリアジャケットを展開しながら魔力を感じた場所へ急ぐ、すると池のような場所にでる。
少し離れた場所にはすでにあの時の金髪の子と、昼間のあの人。耳とか生えてていろいろ言いたいことはあるが、それは置いておこう。
彼女の手にはジュエルシード。どうやら一歩遅かったようだ。
「あらら、来ちゃったのね」
「まあな。ちょっと遅かったみたいだが」
「そうねぇ……あら」
彼女が視線を向けた先にはなのはがいる。どうやら魔力を感じ取って来たみたいだ。2人を警戒しつつなのはの隣へと移動する。
「揃いもそろって」
「それを、ジュエルシードをどうするつもりだ! それは……危険なものなんだ!」
「さあねぇ、答える理由が見当たらないよ? それにさぁ、あたし親切に言ったよねぇ? いい子でないとがぶっといくよって!」
そう言った次の瞬間、彼女の姿が変わりオオカミのような見た目になる。あの耳はそういうことか。
「やっぱり、あいつ……あの子の使い魔だ!」
「使い魔?」
「そうさ、私はこの子に作ってもらった魔法生命。製作者の魔力で生きる代わりに、命と力のすべてを懸けて守ってあげるんだ。先に帰ってて。すぐに追いつくから」
「うん、無茶しないでね」
「オーケー!」
一気に跳躍してこちらに跳びかかってくる使い魔。しかし、それはユーノの作るバリアに阻まれる。
「なのは、雪道! あの子をお願い!」
「させると思ってんのぉ!」
「させてみせるさぁ!!」
ユーノと使い魔の衝突で周囲の空気が震える。
そして足元に輝く魔方陣がよりいっそう大きくなり輝く!
「移動魔法!? まずっ!」
輝きが収まった時には2匹の姿はなくなっていた。使い魔の彼女が移動魔法と呟いていたし、おそらくどこか別の場所に自分ごと移動させたのだろう。
ユーノの事は気になるが、今はあの子の方が先決だな。
「結界に強制転移魔法。いい使い魔を持っている」
「残念ながら、ユーノは使い魔ってやつじゃないぜ」
「うん。ユーノ君は私達の、大切な友達」
にらみ合うおれ達。この前のことがあるし、下手に戦闘になるってことは避けたい。ユーノは使い魔ごと転移してしまってフォローしてくれる人物もいない。
これでまたやられて気絶なんてことになったら、いい加減みんなへの言い訳がきつい。
「で、どうするの?」
「話し合いでなんとかできるってこと、ない?」
「私はロストロギアの欠片を、ジュエルシードを集めないといけない。そして、あなた達も同じ目的なら私たちはジュエルシードを懸けて戦う敵同士ってことになる」
「極論はそうかもしれないけどな。でもおれ達はまだ互いのことを全く知らないだろ?」
「そうだよ! だからそういうことを簡単に決めつけないために、話し合いって必要なんだと思う!」
「話し合うだけじゃ、言葉だけじゃきっと変わらない……伝わらない!」
「聞く耳持たないってわけな!」
彼女のデバイス、バルディッシュを向けてくると同時におれも、ライオットトリガーを取り出し構える。
「雪道君! 待って!」
「おれはそうしたいのはやまやまだけど、向こうは待っちゃくれないぞ!」
高速で後ろに回り込んでくる彼女。そいつは前回やられ済み、もうくらわねぇぞ!
横なぎに振るってくるのを、武器を縦に構えて受け止める。強引に押し返して一旦距離を取るようにバックステップ。なのははフライアーフィンで上空へ。
どちらを追うか一瞬迷い、どうやらなのはを追うことに決めたようだ。
「でも! だからって!」
「懸けて! それぞれのジュエルシードを一つずつ!」
彼女は一度なのはを追い越し、向き直って手をかざす。
「Thunder smasher」
「Divine buster」
手をかざした先から魔方陣が現れ金色のレーザーを放ち、なのはもレイジングハートを構えて桜色のレーザーを放ち応戦する。
互いの魔法がぶつかり合い拮抗する。
あれって砲撃魔法ってやつだよな? なのはの奴いつの間に……ていうか空でドンパチしやがって! 勘弁してくれ!
「レイジングハート、お願い!」
「All right」
なのはから放たれる魔法の勢いがより一層増し、相手の魔法を打ち消して進む。一瞬見えたが、彼女は寸のところで躱している。
なのははまだそれに気が付いていない。このままじゃ!
「エリス! あれ行くぞ!」
「大丈夫ですか!? まだイメージだけで戦闘はやったことなんてありませんよ!?」
「言ってる場合か! このままじゃなのはがやられちまう!」
「もう! 分かりました!」
おれは足に力を込めてジャンプ、そして背中に魔力を送りイメージする。
イメージするのは……翼!
「Quiet wing」
エリスの声の後、おれの背中に紅の羽が伸びる。イメージとしては、なのはの足のフライヤーフィンを背中に移して大きくした感じだ。
いろいろ試した結果、この方法ならおれも空を飛ぶというイメージを持ちやすく安定して飛行できる。唯一の欠点は少々恥ずかしいところだが、それは脇に置いておくとする。
空中戦はこれが初、ぶっつけ本番だがやるしかない!
「なのは! 頭を下げろ!」
「え!?」
なのはは砲撃を撃った後で状況が理解できていない。
頼む! 間に合え!
「Scythe slash」
「Storm enchant」
彼女は武器を鎌に、おれは風を付与し武器をぶつけ合う。ギィン!と甲高い音が響き、そのまま武器を打ち合う。
多少訓練を積んで前よりはなんとかなっているが、空中戦は初めてなので徐々に押され始める。
空中での戦闘がこんなに難しいなんて! 相手の立体的な動きについていけず行動がワンテンポ遅れ、防戦一方になる。
このまま打ち合うのは不利だ。相手の武器をはじき、距離を取りつつ―――
「エアーショットガン!」
牽制の意味も込めて放つがまるで当たらない。面での攻撃で躱しにくいはずの攻撃だが、空中では動ける範囲が広すぎてその性能を生かしきれない。
地上との勝手が違いすぎる……!
距離が近すぎるためエアーバレットなどは使えない。どうするか逡巡していると、背後に回られる。とっさに武器を構える―――が、いない!?
おれの背後に回ったのはフェイントで、狙いはなのはだったらしい。おれ達の戦いについていけずに止まっていたなのはに、鎌の切っ先が突きつけられる。
なのはも、おれも動けない。負け……か………
「Put out」
レイジングハートからジュエルシードが一つ輩出される。
「レイジングハート!? なにを……!?」
「きっと、主人思いのいい子なんだ」
彼女の手の中にジュエルシードが収まる。
「あっ!?」
「いいんだ、なのは」
「で、でも」
「いいんだ。おれ達は……負けたんだ………」
そう、負けた。一方的に決められたとはいえジュエルシードを懸けて戦い、負けた。
なのでレイジングハートの判断は正しい。あそこで強情に渡さなかったとしても、やられて全部持って行かれてしまうかもしれない。それを考えれば1つ渡すだけで引いてくれるのだ。そうしたほうがいいだろう。
お互いにゆっくりと地上へ降りる。
「帰ろう、アルフ」
「さっすがあたしのご主人様! んじゃねぇ!」
「待って!」
立ち去ろうとする2人を引き留めるなのは。彼女はこちらを振りむかず、言い放つ。
「できるなら、あたしたちの前にもう現れないで。もし次があったら、今度は止められないかもしれない」
「それは聞けない注文だな」
「そう。ならこちらも容赦はしない」
もっと何か別の言葉をかけるべきだと分かってはいる。だがその言葉は見つからずに、つい対立を深めるようなセリフを言ってしまう。
なんで、こんな!
「名前……あなたの名前は?」
「フェイト……フェイト・テスタロッサ」
「あの……私は!」
なのはが自分の名前を言う前に飛び去っていく彼女―――フェイトとアルフ。
今回も完全な敗北を喫してしまった。悔しいとか、悲しいとか、いろんな感情がないまぜになって爆発しそうだった。
それを必死に、歯を食いしばって耐える。
「私……」
「分かってる。何も言うな」
おれ達はしばらくそのまま立ち尽くしていた。フェイトとはどう向き合っていけばいいのか、その理由を見いだせずにただ、立ち尽くす。
おれは、おれ達はどうしたらいい?
そう思いながら見上げた空はひどく、澄み渡っていた。
ご意見、ご感想のほどお待ちしております。
近々リアルの方が少し多忙になるので投稿間隔が空くと思われます。
まだ多少ストックがあるので少しは耐えれますが・・・なるべく早く投稿できるように頑張って行きますのでよろしくお願いいたします。