Cityの外よりも隠された場所   作:イエローケーキ兵器設計局

7 / 15
 固定気流は時に通行者の背中を押し、時にバラバラにする。私達は固定気流から離れることはできない。


エピローグ

 

 あのあと、沈静化したファーゴ(MiG-9)と私は和解した上で、赤色十月同盟学連の領地を後にした。たどり着いたのは一隻の大きな……大きすぎてもはや建造物どころか島のようにすら見える空母だった。少佐はこの船を紹介するときにナロードナヤ級重航空戦艦一番艦と呼んでいたけれど……どこからどう見ても砲塔の付いた空母か、飛行甲板の付いた戦艦です。ありがとうございました。こんななりでも水中翼船だというからびっくりである。

 

少佐『ファーゴ、ファング、君達はこれから赤色十月同盟学連のエリートたちが在籍する学院に転校生として入学する。ちなみにPo-2教官は専属の教官となる。』

少佐『その上で……ファーゴ、君はファゴット(MiG-15)として。』

少佐『ファング、君は本名こそ変わらないがARMSが変わってLa-200(ファング)として。』

少佐『以後、君達は所属することになる。拒否権は認められない。』

 

 この人、今なんて言いました?災獣を人類の生存圏に留め置くというのですか?ま、まあ……黄昏石とか居ましたけれど……

????『少佐〜ってあれ?新顔?』

 ……この顔は。

9『レックス……?』

レックス『うん〜そうだよ〜鹵獲されちゃってねー』

少佐『私を半殺しにしておいてよく抜かせるな。』

レックス『しょうがないじゃないですか〜私は災獣、時には戦わないといけません〜』

????『ほう?捻り潰されたいようだな?』

レックス『あわわ……!お許しを〜!命だけはどうか〜!』

Ⅷ号『ふむ……お主らが新人だな?妾はⅧ号戦車マウス。此奴の姉だ。』

 少佐の頭を撫でようとして背伸びをするも背が全く足りておらず、しまいには少佐がわざわざしゃがむ始末。

Ⅷ号『La-11、MiG-9。妾達は君たちを歓迎する。短い間だがまあ……楽しんでいってくれ。』

 少佐が彼女の立ち去った後に小さい声で付け足す。

少佐『鬼教官四天王の一人だけれどまあ……頑張ってね。』

 赤色十月の別の学院に転入する手続きが終わるまでの地獄の一ヶ月、その幕開けであった。

9『そういや、四天王のうちの3人って誰なんだろう。』

少佐『君たちとともに赴くPo-2教官と……A-26X、サイクロプスかな。』

9『聞かれちゃってた。』

 (*ノω・*)テヘじゃないよ。まったく……

少佐『あ、そうそう。一ヶ月の間は志願兵として来たことにしておくね。そのうち、任務に赴く名目で赤色十月に送り返すけれど。』

 徴兵ではなく志願という扱いらしい。なんというか……なんというか……

少佐『明日から訓練開始だから、それはよろしく。』

 少佐が甲板のエレベーターに乗って待っている。こちらを手招きしているから、来いということなのだろう。

私『そういえば黄昏石は……?』

黄昏『お呼びですか?』

 すぐ隣から声が聞こえて、後ろから大きな影が私達を隠す。

9『はえー……』

 ファーゴの泣き腫らした顔に少しだけ笑みが戻ったような気がする。クラゲオタクだったのか……?そうでなければ少し悔しいぞ?

 

 艦内は意外と広くて狭い。主砲の揚弾筒、弾薬庫エリアはかなり強固な装甲で保護されていたし、甲板、弦側、底部、至る所に装甲が貼られている。内装は質素で生活感を感じない。居住区は一人一部屋お風呂トイレ付き、食堂と購買部、娯楽室(ここは内装における素材の制限を受けていないのか木製の壁で出来ていた。)等もあった。それにしても隔壁が多い。防水区画がとても多くて行き来が少し面倒ではある。まあ、こればかりは防御力の関係上、しょうがないのだろうけれど……

私『主砲、副砲は自動装填、自動操砲……無人化が進んでる……』

 前方と限られた範囲の左右しか撃てないとはいえここまで凝った兵装はなかなか高価なのではないだろうか。

 

 数日経った。あいも変わらず私とファーゴは慣れない機体で空を飛び、この船はなぜか同じところへ砲撃している。

9『固定気流にはもう慣れた?』

私『慣れたと思う?』

9『ですよねー』

私『そういうファーゴは?』

9『コツは掴めてきた。』

私『早いなー……』

9『災獣が隣に居る現実をどう思う?』

私『変わらないなと。ファーゴがDOLLSでも人間でもない災獣だからといって何か変わるわけでもないし。』

9『そっか……私の考えすぎか。』

私『今更なんだというのです?親友は親友。……まあ、銃剣は痛かったけれどさ。』

9『……ごめん。』

私『ああ、これがファーゴなんだなと思いながら落ちてった。』

9『……。』

私『これも喧嘩の一つだろうね。誰も死ななかった。それだけ。』

9『そっか。』

 

9『あ、あそこ!何あれ!』

私『マウス教官が12.8cm砲よりも更に大きい17.3cm砲の装備を検討しているとか聞いたな。』

9『あんなの何に向けるんだろう……?』

私『後で少佐に聞いてみようか。答えてくれそうだし。』

9『聞いたら教えてね。』

私『了解。』

9『よろしく〜』

 やることがあるというのでファーゴと別行動に移る。親友が自分の数倍、数十倍は強くてそもそもDOLLSや人間ではないとわかったときは少しだけ複雑な心境になった。だけれど話を聞いていた感じは本人も気が付いていなかったらしい。容姿を模倣した際、記憶も引き継がれるのだろうか?きっと引き継がれるのだろうな。人間臭さがあるということは。

 

 

 突如、サイレンが鳴り響く。

副官『緊急事態発生!緊急事態発生!隊長が訓練中に濃霧に呑まれ消息不明!隊長が消息不明だ!これは訓練ではない!繰り返す!これは訓練ではない!』

Ⅷ号『Go!Go!Go!探せ探せ探せ!』

 館内に響く少佐の副官のアナウンスと、Ⅷ号戦車マウス教官の発艦指示。大量の偵察機、哨戒機、戦闘機が飛び立っていく。

9『よっ……と。』

私『少佐が行方不明だって。』

 飛行甲板から退避して居住区のベンチに邪魔にならないよう小さく並んで座る。

9『誤解を避けるために言っておくけれど……全く無関係だよ?』

私『わかってる。』

9『アリバイもある。少佐の部下のA-26X教官と黄昏石の3人で釣りしてた。』

私『釣り?』

9『釣り。』

 話しているうちに当たりが少し白んできたような気がする。まるで雲の中、いや、霧の中?

9『嫌な予感がする。』

私『同じく……。』

『来い、新兵!』

 鋭い声とともに勢い良く抱えられていく私と親友。

9『……少佐?』

少佐『話は後だ。急いで逃げるぞ。』

私『何が起こっているんですか?』

少佐『わからん。』

9『……前方。20m……人影が3人。武装してる。』

少佐『見えるのか?』

9『……。』

 銃剣で刺されたときの眼だった。

少佐『武器庫に向かうぞ。もし敵襲なら奪取されては困る。』

私『了解。』

 ファーゴは小さく頷いた。

 降ろされてからは足音は小さく、私達は人影の居た方向とは逆方向に進む。ファーゴは時々、小さく口を開けてはカチカチと音を鳴らしている。もしかして災獣ならできるのだろうか?

少佐『……。』

 少佐が手を小さく挙げて合図をするとファーゴは音を鳴らすのを止める。

少佐『ファング、言いたいことは伝わったな?』

 ファーゴ、少し申し訳なさそうな顔をされても困るのだが。少佐、伝わりましたとも。

私『了解。』

 足を止め、息を止め、心拍数も少し抑える。声を出さず、身体を大きく動かすこともせず目で会話する。ファーゴを除いて。

9『捜索中の少数部隊、おそらく3体。私の見たことのない兵装。』

少佐『……。』

 少佐が手渡してきたのは近距離用のサブマシンガン。広くて狭い艦内にはもってこいだと言える……重い。小銃くらいはある……。少佐は少佐でサブマシンガンを構えている。片手で。

9『……いつになったら離してくれるんです?』

 ファーゴ、まだ降ろしてもらってなかったのね。

少佐『ファーゴ、降ろしますね。』

 抱えられていたファーゴがゆっくりと降ろされる。

 

少佐『私が盾になる。合図したら……撃って。』

私『えっ……でも……。』

9『了解。』

 混乱する私を置いて二人は進む。

少佐『お主らは何者だ?』

????『コンタクト!』

少佐『撃て!』

9『……。』

 撃てずにいる私の銃を奪い取ってバースト射撃するファーゴ。正気じゃないにしても限度がある。

 装甲が硬いのかお互いがお互いを攻撃するも倒れる前兆は見られない。

 

????『クソっ!硬すぎる!』

少佐『……。』

 少佐が黒ずくめの女兵士(?)の手を取って……引きつけて背負投げ。フードを被ってる女兵士(?)も足払いからの叩きつけ。残っていた女兵士(?)は逃げようとしたけれど追いつかれて首を絞められながら引きずられてきた。

 

少佐『へー……君達は私達を殺しに来たわけだ。』

レ級「離セ!」

少佐『離すわけにはいかないんでね。特に捕虜ではない君たちの場合は余計に。』

??級「捕虜デハナイ……?」

少佐『予定では君達は解剖の上、処刑器具に放り込まれる予定になっている。』

??級「人ノ血ガ流レテイナイノカ!」

少佐『悪いけれど、私は人間ではないんでね。』

??級「……。」

少佐『えーと……レ級さん、君についてはさっきの尋問の内容に間違いはないね?』

レ級「殺シテヤル!」

少佐『答えてくれたら離すことも検討するかも。』

レ級「ソウダ!間違イハナイ!離セ!」

少佐『まあ、検討は後で。』

レ級「話ガ違ウ!」

少佐『話は後で、わかるね?』

 感情の無い目。生気を感じられない表情。流石のレ級もこれには黙る。

少佐『ご協力感謝します。』

少佐『それで……君達は……誰?』

ヲ級「……ヲ級。」

空姫「空母棲姫ダ。」

少佐『ふむふむ……敵対する意志がもし無ければ、彼女のような扱いはしない。』

レ級「ヒッドーイ!」

少佐『尻尾を振り回すから危ないんだよ。』

 確かにあの尻尾は当たったら痛いでは済まなさそう。

少佐『その上で。どうされます?ここで死ぬか、大人しく連行されるか。』

空姫「我々ハ屈しない。外ニハ十二ノ仲間ガ……」

少佐『おや?電話だ。』

少佐『はい、ニューマコーニオシス少佐です。はい。はい……了解です。ありがとうございます。』

少佐『君の部下たちは降伏したって。チェックメイト……といったところかな?』

空姫「クソッ……」

 電話の相手はPo-2教官だった。書類を届けるために近くに寄ろうとして今回の霧に包まれた状態の船を発見、捜索隊と交戦していた空姫の部下を対戦車ライフルで叩きのめし、副官から電話を借りて話していたという。

少佐『どうする?』

ヲ級「……降伏スル。」

空姫「ヲ級……!?」

ヲ級「狭イ空間デハ不利。」

空姫「沈ムゾ!?」

レ級「ドッチニシタッテ沈ム。」

空姫「我々ナラ勝テル!イツモソウダッタダロ!」

少佐『今降伏するなら……処遇を考えないでもない。まさか捕虜扱いされないとわかっていて降伏するとは思わなかったし。』

レ級「……悔シイガ降伏スル。」

少佐『空母棲姫さん、降伏したほうがいいんじゃないかな?』

空姫「私ダケデモ……!」

 突然、大きな音が響いたと思った。その刹那、空母棲姫とやらの身体が壁に勢いよく叩き付けられ、頑丈な壁のせいでほぼ瀕死の状態になっていた。

少佐『……嘘だろ……教官!なんてことを!』

 20〜30cmくらいの穴が壁に開いていた。

教官『あ、ごめん!流れ弾が!』

 流れ弾でこんなことになるか……?

少佐『いくらなんでも試作品を船に向けないでくださる!?』

 確かこの船は外板が2枚あったような……

教官『それにしてもこの試作品、貫通力が凄いね!』

 少佐……今回ばかりは同情します……あと……空母棲姫も。

少佐『教官!後でお話があります!』

教官『えー……?』

少佐『えー……じゃないです!』

 

少佐『えーと……君達は"深海棲艦"と呼ばれる深海から来た種族で、人類の滅亡とか色々考えていてたまたま目についたのがここだった、と。』

 大浴場に設けられた治療用のお風呂に浸かりながら質問に答える3人。奥にも多数の同じような服装のものが湯に浸かって並んでいる。彼女たちはこの行為を"入渠(にゅうきょ)"と称していた。

教官『うーん……この組成は治療法としては聞いたことないね。』

 ツナギ姿の女性が2人。ニューマ少佐とPo-2教官。少佐に関してはニューマコーニオシスと呼ぶと長いのでこの部隊内ではニューマ(おそらく親しい間柄の者のみ)、もしくは隊長と呼ばれることが多いのだとか。

 ……そういえばなぜ少佐はずっと入り口の方を向いているのだろう?

 

少佐『早く〜誰か代わってくれ〜……気まずい〜』

 ……なるほど?

 

 結局、Ⅷ号戦車マウス教官と少佐にある程度似た服装の教官、サイクロプス教官(本名不詳)が到着し、少佐と教官は別室へ移動することに。途中、Po-2教官がサイクロプス教官に睨まれていて、挑発で返すような仕草が見えたような気がするが……気のせいだろうか?

 

 

 少佐視点(防音室にて)

教官『Cityの人間は面白いですね。』

私『そうですね。』

私『……だからといって初対面の人を銃身で殴りつけていい理由にはなりませんが?』

教官『うぐっ……すいません……つい、うっかり……。』

私『もう……悪癖は直してくださいよ。』

教官『気をつけよう。』

私『どのようなお方でした?渡邉大尉は。』

教官『うーん……面白い。出逢った頃の君程ではないがね。』

私『コーヒーでも飲まれます?』

教官『辞めておこう。また医務室のベッド送りは嫌だからな。』

 教官にはいつも睡眠薬入りのコーヒーを勧めることにしている。基本的には話のオチを無理やりつけたいとき。

教官『君も相変わらずだね……シトルム(Шторм)君。』

私『ミャスィーシチェヴァ(Мясищева)先生も変わらないですね。』

教官『渡邉大尉はどうやら極東のジャックに恋煩い中らしい。』

私『そうなんですか。』

 あの若造も恋をするのだな。まあ、DOLLSだが。

教官『第三次世界大戦がどうとか特殊部隊がどうとか言っていたな。』

私『第三次世界大戦……特殊部隊……ふむふむ……。』

教官『ついでに私の墓場まで教えておいた。』

私『……はぁ……?』

教官『不味かったか?』

私『不味くないと思います?』

教官『すまない……。』

私『うーん……参りましたね。』

教官『口が堅いとは言っていたけれど……。』

私『自己評価を鵜呑みにする人がいますか?』

 

????『失礼致します!』

 扉をノックすることなくバーン!と勢いよく開ける全身真っ白な人物。

私『えー…………と。黄昏石さん?』

黄昏『そうです!私は黄昏石です!』

私『とりあえず座ろうか。』

黄昏『それどころじゃないんです!』

私『というと?』

黄昏『小貝少佐の記憶を漁らせて頂きましたが!不埒な記憶がたっくさん!』

私『他には?』

黄昏『……第三次世界大戦に関するデータが。』

私『後で転送しておいてくれ。私のパソコンに、だ。頭に転送するんじゃないぞ?』

黄昏『不埒な記憶は……』

私『映像化してどこかに隔離しておこう。もしかしたらピッケルになるかもしれん。』

教官『後で渡邉大尉のデータも移しておくよ。』

私『了解。』

 

教官『ところで少佐、あの捕虜たちの処遇は?』

私『抵抗する意志がなく、従うようなら戦力化を目指したいけれど……まあ、そう簡単には行かないよね。』

教官『では、私におまかせください。』

私『任せましたよ。ミャスィーシチェヴァ先生。』

教官『君と私の関係だ。これくらいはやってのけてみせるさ。』

 

 ……不審な物音。

私『そこにいるのはわかっている。入れ。』

教官『……。』

 教官はコートの中のソードオフ・ライフルに、私はマチェーテに手を伸ばしつつ入るよう促す。誰だ。

 敵か、味方か……。

『私です、La-11……じゃなくてLa-200"ファング"です。失礼致します。』

 身長ほどの大きなスナイパーライフルを手に入ってきたファング。

La『試作品の手入れを手伝っていただきたくて。』

私『了解した。貸してみなさい。』

教官『私は離席しようか?』

私『居てもらっても大丈夫ですよ?この技術自体は確かに機密情報ではありますが、教官に使っていただいた対戦車ライフルはこの銃の試作品の一つですし。』

 弾頭に絶縁層を発生させ銃身内で完全燃焼する多段燃焼ロケット推進を行い、射線上のすべてを貫通する。

教官『あの若造二人は今頃何をしているんだろうね。』

私『さあ……赤色十月で何を話してきたんです?』

教官『えーとね……』

 

 Po-2教官はかく語りき。

 

 私ことPo-2の記録をちょっとだけ紹介しよう。

 格納庫内は勿論みんな知っての通り、火気厳禁だ。

『ここは火気厳禁だよ坊や。』

 注意喚起……してどうにかなるようなやつならここで葉巻なんて吸わないだろう。

「ん?は?」

 とりあえず一回薙ぎ払う。これを避けられないのはただの愚か者。避けてみせろ。

「チッ…いつの間に…」

『おぉ!人間の割には素早いな!』

 感心、感心。ただの愚か者ではないことは証明された。

「どうも…」

 距離を離して工具箱からハンマーをこちらの警戒をしながら奪い取る男。ほーう?

『おやおや……そんな危ない物は取ってはいけないって、親に教えてもらわなかったのかい?』

 PTRS1941を回しながら近づく。

「ほざけくそぼけ」

『口が悪いねぇ……そんな子にはお仕置きしないと……ね。』

「ふぅ……」

 

『……む?』

 近づいて寄ってみるに知らない顔。まあ、火気厳禁を守ってくれるならそれで良し。まだ消えてないが。

『見ない顔だねぇ……あんた、どこの差し金だい?』

 反乱者にしては装備がおかしい。近代的すぎる。

「かねはもらっていない……それに俺は正規軍の者だ。」

『正規軍?ハッハッハッ!それは愉快な事だ!』

『まさか、正規軍でもここまで骨のある子が居るなんてな!』

 棍棒は一旦下ろすか。相手もそれをみてハンマーを戻したし。

『とは言え、正規軍が火気厳禁な格納庫で葉巻を吸うとは!面白い者だなぁ!』

「それは申し訳ないと思います……ところで貴女は?」

 葉巻の火を消して箱にしまったのを見届けると、名を聞かれたので名乗ることにする。

『Po-2……みんなからは教官や先生と呼ばれているよ。』

「教官ですか……。」

『ああ、流石に前線は張れないけどね!ハハッ!』

 朗らかな方が威勢が良く見える……まあ、これは持論だが。

 対する相手は何かを考えている様子。

『で、君は誰だい?出来れば所属と階級を言ってくれないか?』

「渡邉 勇翔、整備協会傘下飛行船猟兵隊員、階級は大尉です。」

『ほう!大尉とな!その身でその階級とは……一体何をしたらそうなるんだい?』

「……色々あるので。」

『ほぉ……』

 許しを請う者の表情……といった感想を覚える。

「……何か?」

『うーん……何か、許しを請う者の表情だな。』

「……。」

『ふむ……まあいい、とりあえず飯でも食うかい?お腹が空いているだろう?』

「ええ……いただきます。」

 食堂に行くことにした。

 

 案の定、食堂は無人。皆、避難し終えたところか。厨房を拝借しよう。ボルシチくらいは私でも作れる。

「え、どうやって大尉まで昇進したのかって?」

 私は味見を兼ねたつまみ食いで腹が膨れたので、ボルシチは大尉に食べてもらおう。

『うむ。DOLLSでありながら将校クラスにのし上がる事なんてあまり前例が無いからな。』

「そうですか……うーん……自分はこれと言って、特に活躍したわけではないのですが……。」

『はは!そう言わず思い当たったこと、言ってみなさい!』

 語れ。大尉よ。お主の経歴をこの死体に教えてくれ。

「そうですねぇ……まぁ、第三次世界大戦前に、色々と学んで中尉になって……そんで、大戦の後空軍に入ってそのまま内戦を戦い抜いたら……いつの間にか、特殊部隊に入って、そこで大尉になったんですよねー」

『第三次世界大戦?内戦……特殊部隊……ふむ。』

 聞いたことがないわけではない。死ぬ前も今も勤勉なつもりだ。

『……もしかして君って人間の記憶を?』

「まあ、元人間ですからね。今は人間の脳みそが入った……」

『なんと!まさか、少佐絡みではないパターンがあるとは……世界は広いな……』

 少佐絡みというのは私である。

「……まさか教官も?」

『……私も元は人間……いや、今も人間でね。』

「……人間なら、どうやってあの動きを?」

 まあ、もう遅いか。

『まあ、色々とあってね……勇翔大尉。』

「……何でしょうか?」

 今日は自分の命日に近い。どうせ離れることになるなら、今日のうちに参っておこう。

『付いてきてくれるかい?』

「……分かりました。」

 

 

 自分の墓参りをするのも今年で最後かもしれない。

『……着いたぞ。』

「……墓?いや……無名の戦士か……全然整備されていないな。」

 白い小さな十字架が雑木林の一歩手前のような草原にぽつんと取り残されている。これが私の墓だ。

『私しか知らない墓さ……勇翔大尉これを。』

「彼岸花……これを?」

 私の自室から持ち出した彼岸花。青い彼岸花もあったが、これは持っていかない。

『あぁ…真ん中にある墓に置いてくれ。』

「……俺が置いていいのか?」

『……私はまだ置けない……だから、代わりに置いてくれ。』

「……分かった。」

 私の代わりに大尉が墓に彼岸花を置く。

「……一つ聞いてよろしいですか?」

『なんだい?』

「……銃を立てているこの墓……貴方の家族ですか?」

『ハハ!いいや!ちがうよ!』

 この墓には誰も埋まっちゃいない。

「なら……この銃は……。」

『この墓はな……農家を夢見た私の墓だよ。』

 哀れな哀れな若き日の私。まあ、あの日からもう歳を取れなくなってしまったが。

『限られた命が善意で死なない身体にさせられたときに立てた墓さ……。』

 

 私が"死んだ"のはナロードナヤ山の麓。公的な死者は私を除いて2名……まあ、死体はまだ見つかっていないから行方不明者扱いだが。コックピット部分はどこへ消えたのか誰にも分からない。墜落前で覚えているのは乱気流に揺れる機体を制御しようとコックピットで奮闘する機長と副機長の声、不安がるファーゴ(MiG-9)、緊張の表情を浮かべる機外の少佐。少佐という護衛機の随伴があったとはいえ気候ばかりはどうしようもない。最終的に機体は山肌に叩きつけられた。切り離された胴体が山肌を滑り、転がって、止まった。ファーゴは機体の外で転がっている。様子はおかしい。何かしらで死んでしまったにしては震えている。助けなくては。

 

 ……っ!何なんだ……!どうなっている!

「くそっ!この!」

 座席に機体の細い構造材で磔にされた私は、教え子が記録に存在しない人型災獣に話しかけられるところを見てしまった。そして彼女は頷いた。その瞬間、まるで災獣に吸い込まれるように融け、消えてしまった。

「……っ!」

 周囲を見渡せば頭から雪に埋まってピクリとも動かない少佐。彼女の白刃戦用の兵装が転がっていた。私は人間であってDOLLSではない。だが……掛ける価値はあるだろう。……この構造材さえなければ。

 教え子、いや、ファーゴだった何か……いや、災獣だった何かか?がこちらに向かってくる。怖さなどはない。あるのは教え子を喪った怒りだけ。

 力を込めて、火事場の馬鹿力とでも言うべき力が出たからなのか……私は構造材の拘束を振り解くことができた。

 出血しながら、少佐の遺品に気が付かれないよう声を殺しつつ近づく。幸い、機体の影になって気が付かれることはなかった。

「ファーゴ……少佐……仇は…………私が討……つ……。あぁぁぁぁ!」

 白刃戦に用いる兵装は基本的に重い。火事場の馬鹿力がもし出ていなかったら、私は何もできなかっただろう。

 後ろから斬りかかるも、最小限の動きで回避される。

『……。』

 どんなに振り下ろして、薙ぎ払っても当たらない。

『……先生、それ以上は駄目です。』

 お前が……ファーゴを……騙るんじゃない……!

『先生、今は休んでください。私よりも今は……。』

 脳に酸素が回らない。四肢が重い。武器はもう手から離れてしまった。ぐったりと倒れる。私はここで斃れるのだな……仇も討てずに……。

『……!せんせ……れか!』

 視界が狭い。寒い。揺さぶられる感覚も薄くなる。さようなら。

 

『……!きょ……ん!』

『………………?』

9『教官!?少佐!少佐!教官が目を覚ましました!』

少佐『了解。良かった。本当に。』

私『……ここは?』

9『病院です。野戦病院……と表現しましょうか。』

私『どうしてこんなところに?』

少佐『Po-2教官、貴女は輸送機による移動中に事故に遭いました。生存者は2人。貴女と、彼女だけです。』

9『目を覚ましてくれてよかった……。』

 ファーゴは確かに死んだはずだ……なぜ生きている?

私『な……なぜ……』

少佐『記憶が混乱しているかもしれません。ファーゴさん、教官に一度検査を行いますのでご離席ください。』

9『分かりました。』

 テントから出ていくファーゴ……いや、災獣か?

少佐『……誰も居ませんね?』

 しん、と静まり返ったテント。

少佐『Po-2教官。本名、"ミャスィーシチェヴァ"大尉。』

私『最終階級は少尉だったはずだが……』

少佐『貴官は教え子と護衛の私を救った。その功績を称えての昇進です。……表向きは。』

少佐『……貴女は死にましたし、貴女の教え子は災獣に介錯されました。今、外にいるのは貴女の教え子の記憶を持つ災獣です。そして貴女にはDOLLSとして茶番をうってもらいます。』

 事態が読み込めない。教え子は災獣に記録を託し、その災獣は律儀にも教え子を模倣、そして私は既に死んでいると来た。

私『心臓が動いているのはなぜだ。』

少佐『……大尉。大変申し訳ありませんが……それについては説明できません。そして……貴女には拒否権がありません。今日付けで貴女は……人間由来のDOLLSとして複葉型ARMSを運用してもらいます。』

 

 その後に災獣から聞いた。少佐は禁じ手を、災獣の懇願に負けて私に打った。瀕死者の蘇生。それは死者ではないから確かに倫理的な問題は無いだろう。だが、私はあの時点で本当に瀕死だっただろうか?

 

 話は墓場まで戻る。

 たしか私が『限られた命が善意で死なない身体にさせられたときに立てた墓さ……。』といった辺りだろう。

「……受け入れられないのですか?」

 まだまだかかりそうだ。

『まぁね……そういう君は?』

「うーん……そうですねぇ……。」

 医療水準的には実質的、無限に等しい寿命。死んでもまたやり直せる安価で高価な兵士……まあ、ATLASの場合は戦士だが。

「最初はびっくりしましたが、すぐに受け入れましたよ。」

『……何故だい?』

「そういう運命と罪だと思ったからだよ。」

 君は割り切れるのか。

「それに、恋した人と一生過ごせるなんてロマンチックでしょう?」

 ……ほう?恋した人なぁ……。私にも居るが……。

『……んん?恋した人?』

「ええ、雷電って言いましてね?とってもかわいいんですよ。」

『……え?もしかして、君DOLLSに恋をしたのかい?』

 極東重鋼学連、軽戦闘機型DOLLS"J2M"……またの名を雷電。堀越技師の娘の一人だと聞いている。

「ええ、そうですけど……」

『…フフフ…ハハハハハハハ!!!!

大事にしろよ……ジャックか……一度でいいから他の学連のDOLLSと剣を交えてみたかったなぁ……。』

 元人間がDOLLSに恋する。なるほど……君と私は意外と共通点があるようだ。

 

????「お、ここにいたか。」

大尉「ん?……!小貝!!無事だったのか!!」

 小貝という男に大尉が駆け寄る。

小貝「おう、何とかな……そっちはどうだった?」

大尉「久しぶりに死にかけたよ……。」

小貝「ハハハ!!お前も負けるんだな!」

大尉「当たり前だろ……なぁ、小貝?」

小貝「?なんだ?」

大尉「そのリセッターは?」

黄昏『……付いてきてしまいました。』

 ここに居る私にだけ聞こえる声でそう話す黄昏石。

小貝「あぁ……こいつか?んんー……敵ではないかな。」

 指指ししながら話す小貝という男。

大尉「曖昧だな」

小貝「仕方ねぇだろ?判断材料が少ないんでな。」

大尉「はぁ……」

私『……彼は誰だい?』

大尉「バカです。」

小貝「誰がバカじゃコラ。」

私「ハハ!面白い者だ!」

小貝「あぁん?なんだこのBBAh(ガッ!!)ほぺぇ!?」

 星屑連邦学連、空冷星型……その匂いがする。まあ、共闘していた時代に嗅いだガソリンエンジンの匂いだが。

教官『BBAじゃなくてお姉さんだぞ小僧♡』

小貝「ちぬぅ…首が締まってちぬぅ…」

 軽い。他所のパイロットというものはこんなにも軽いのか。

大尉「待った待った、彼は私の仲間ですからそれくらいに……。」

私「そうか……なら、これくらいにしておこう。」

小貝「あぁ……死ぬと思った……。」

私「女性にババイ(老人)なんて言っちゃ駄目よ」

小貝「ヘイヘイ……悪かったな。」

 大尉が頭を抱えている。

私「まぁ、段々と直せばいいさ……一応彼に対して悪口言わない様に気を付けるんだぞ。」

大尉「彼?」

私「ん?少佐に会っていないのか?」

大尉「少佐?……え、もしかして…ニューマコーニオシス少佐の事ですか?」

私「それ以外誰がいるんだい?」

 大尉がフリーズしている。そんなにショックだったかな?

小貝「その少佐に悪口言うとどうなんの。」

私「そうだねぇ……そんな人物は居なかったことにされるかな。」

 本人は笑って許すだろうけれど……その姉達を含む"家族"が許さないだろうね。

小貝「こわ。」

私「それほど、部下に信用されているのよ……理解したかい?」

小貝「おう、脳に焼きこむ程な。」

私「わかればよろしい痴れ者。」

小貝「ヘイヘイ。」

私「まぁ、段々と直せばいいさ……一応彼に対して悪口を言わない様に気を付けるんだぞ。」

小貝「分かってるっての。」

 面倒臭さそうに返事する小貝を置いて、大尉があることを聞く。

大尉「……そういえば、一つ聞きたいのですが。」

私「ん?なんだい?」

大尉「実は、機体を修理して急いで赤色十月同盟学連に向かいたいのですが……」

私「ほう……あれを修理か……応急修理なら明日でも飛べるが……真っ直ぐしか飛ばんぞ?」

大尉「構いません。」

 そんな状態で飛ぼうなんて少佐じゃないんだから……とは思いつつ、まあ、やるだけやってやるかとは思う。

私「ふむ……細かい話は応接室で聞こう……ついてきなさい。」

大尉「はい。」

小貝「はいはーい。」

 

私『……というのが赤色十月であの二人と話した事の、顛末。』

少佐『なるほど。』

La『何も知らなかった……』

私『まあ、本人もあの時だけ別人格のようだった。まるで…………模倣される前の本人みたいに。』

 

第一幕:固定気流-fin-

 

第二幕:空母に続く

 

 

 




第一幕:固定気流-fin-

第二幕:空母に続く
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。