東方 傘の季節が来るころに(前編)の続きです。一話はたまたまあった小傘と婆さんが知り合いである可能性がでてきて、そのことを知らせようとした文茂。しかし婆さんは倒れていた・・・。内容としては秘封倶楽部要素が多めです。



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東方 傘の季節が来るころに(後編)

 薄暗く、静寂の時が流れる夜の病院の廊下。そこに文茂はひっそりと廊下の薄汚れた緑の椅子にあまり物を考えず頭を空白にして座っていた。病院の先生がいうには婆さんは重度のガンだそうだ。今は昏睡状態に入ったまま。先生はそれ以上のことは言わなかったが、おそらく長くはないのだろうと文茂は悟った。

「・・・・」

頭の中を整理するのになかなかの時間がかかった。頭の中の整理が終わらぬまま、文茂達の家族は一旦家に帰った。家に帰ってからすぐ母は病院へ戻り、婆さんに付き添うこととなった。父は重要な仕事があるとかで都会の方に向かうそうだ。家で一人ぼっちとなった。一人でインスタントのラーメンを食べた。時計の針は夜の11時を回っていた。麺が伸び始める頃小傘の写真を思い出した。無性に小傘にあってみたくなった。この空虚感を小傘が癒してくれるかもしれないと思ったみたいだ。それに婆さんのことを知っているかもしれないからだ。ラーメンを食い終わり、風呂に入り、少しテレビを見ていたら時計は1時を回っていた。文茂はそのまま寝床についた。

 朝方、文茂は小傘がいる店がある商店街へと向かった。今日の目覚めはあまりいい気分ではなかった。なぜなら例の気味の悪い夢を見たからだ。なぜあの夢を見るのだろう・・・と思いながら商店街の中を歩いていった。すぐに小傘の店が見つかると思った。ところが1時間近く探してもない。

「なぜだ。なぜこの通りがないのだ。」

小傘の店があるはずの通りが跡形もなくなっていた。文茂は肩を落としてため息を出した。どうやらいつも行けるわけではないようだ。道がないのは不思議だったが、見つからないのでは仕方がない。いつも会えるわけではなかったようだ・・・。文茂はそのまま学校へと向かった。

「えー、木星の衛星エウロパは…」

理科の授業を受けていた。あまり頭に入ってこない。婆さんのこと、小傘のことがどうしても頭から離れようとしても離す事ができなかった。普段より集中できないまま学校での授業を終えた。学校から帰り、すぐ婆さんのいる病院へと向かった。婆さんの容態はあまり変化がなかった。1時間ほど婆さんの顔をみて家に帰った。また小傘の店を探した・・・が見つからなかった。こんな日々が1週間続いた。

1週間後のある曇り空の日。文茂は学校から帰る途中のことだった。突然雨が降ってきたので傘を取り出し、傘をさしながら帰っていった。遠くから泣き声がした。その方向へと向かうと、小学生ぐらいの子供がいた。急な雨で濡れて震えているようだった。文茂はその姿を見てかわいそうに思い、すかさず傘をその子供渡した。

「この傘あげるから、この傘で家に帰りな」

子供は最初こそ戸惑ったものの、素直に傘を受け取り、お礼を残し、家へと帰っていった。子供を見送ったあと、文茂は空を見上げた。梅雨の季節。灰色の曇った空から振り落ちる江透明の液体。「雨は涙」ともいう。「墨染の君が袂は雲なれや、絶えず涙の雨とのみ降る」古今和歌集にのっている和歌だが、黒い雲のから絶えず雨が降る。という意味合いがある。そして黒染というのは「喪服」なのであろう。今降っている雨は誰かの涙なのであろうか。顔が涙で濡れる。人との永遠の別れはかなり悲しいものなのであろう。自分もそろそろその時が来るのだろうと文茂は思った。そう思うと文茂は涙がでそうだった。涙をこらえようと目をつぶり、次にかっと見開いた。見開いた風景は紫色の傘で覆われていた。

となりを見るといつの間にか小傘がいた。

「あんたも結構優しいところあるんだね」

母親の優しい笑顔に似た顔をした小傘を見て、文茂は余計に泣きたくなったが、自分は男だと言い聞かせ、こらえることにした。

「子供には優しくしないと。かなり震えてかわいそうだった」

「へぇ、あんたにそういうところがあるとはね。見直した。まぁ傘の中に入りな、わちきの店で1本だけ傘無償で提供するから」

小傘と愛々傘をしながら雨の道を歩いて行った。こうして愛々傘をするのは初めてのことだった。少々恥ずかしかった。頬が赤くなるのを必死に抑えながら急ぎ足で傘屋に向かった。 

 1週間ずっと探してもなかった傘屋がなぜかすんなり見つかった。小傘は鍵を開けて中へと入った。

「まぁ、雨で濡れて寒いだろう。温かいお茶でも飲んでいきな」

言われるがままに文茂は小傘の入れた温かいお茶を飲んだ。小傘も温かいお茶を飲んで落ち着いた様子で外の景色を眺めていた。文茂は小傘にいろいろ聞きたいことがあった。

「1週間、小傘さんの店を探したけど見つからなかった。どうして?」

「外の人間・・・。じゃなくてここに住んでいる人間はこの店を見つけることはなかなか難しいの。稀にこの店につながる通路がこの世界につながるの」

「え、この傘屋ってどこか別次元に存在しているのですか」

「別次元じゃないけど、変な空間にあるの。わちきの意思であればあなたのいる世界に行くのは容易なのだけど、あなたからこの傘屋に行くのはほぼ運でしかこれないの」

4月にこの傘屋に行けたのは、ほぼ奇跡だということだ。よく、見つけられたものだ。さて、この話より聞きたいこと。婆さんのことだ・・・。

「あ、あの・・・」

小傘はゆっくりと文茂のいる方向へ顔を向けた。

「あの、『れんこ』という方ご存知ないでしょうか」

「れんこ・・・。宇佐見蓮子さんのことかな」

そう言いながら小傘はたんすの中から1枚の写真を取り出した。そこに写っていたのは黒い帽子をかぶり、肩に黒いショールらしきものを身にまとった若い女性。それは宇佐見蓮子、文茂の婆さんの若い頃の姿である。

「蓮子さんがどうしたの?あなたにとってなんの知り合いかしら」

「わ、私の婆さんです。つい最近、家で倒れて、今は昏睡状態・・・です。」

小傘はさみしそうな顔をした。

「そう、あなたはやっぱりわちきと全く関係のないわけではなかったのね。蓮子さん。もう60年も前の話。」

小傘はゆっくりと蓮子のことを話し始めた。

「そりゃあ、明るい人で前向きで結構熱血な人だったね。わちきと蓮子さんは偶然幻想郷で出会ったのよ」

「幻想郷で?でも婆さんは東京出身だと言っていた。おかしいな。婆さん何者なんだ・・・」

「東京出身とかいうのは間違いじゃないわ。ここにいる人間でも時々迷い込んでくるのよ。蓮子さんもそのうちの一人。偶然出会ってなぜか息があったのよね。幻想郷での付き合いはほんの1日ぐらいだけど、ここに来てからの付き合いの方が長いかな・・・」

「何故、婆さんは幻想郷へ迷い込んできたのですか・・・」

「うーん・・・大学のオカルトサークルとかでなんか幻想郷を探すみたいな話がでたらしいのよ。それでどういう道で来たのかはわからないけど、偶然幻想入りができたみたいなの」

その後も小傘と文茂は蓮子について話題を交わした。仲が良くなったのはここに来てからみたいだ。蓮子の若い頃の話を聞けて文茂は満足した。

「お見舞いに来ないのですか?」

「ええ、私は来ない方が好都合よ」

小傘は蓮子の見舞いはしないことにした。理由は教えてくれなかったが・・・。

「それでは、そろそろ婆さんの所に行ってきます。今日はありがとうございました」

「いろいろ大変だと思うけど、元気に過ごすんだよ」

妙に婆さんくさい口調で小傘は文茂にそう言った。雨はやんでいた。文茂はダッシュして病院へと向かった。

病院では文茂の母がベッド近くの椅子に座り、婆さんの手をさすっていた。文茂も母がさすっていない方の手をゆっくりとやさしくさすった。婆さんの顔は穏やかな寝顔に近い感じだった。なんだかそろそろ死期が近づいているのではと文茂は悟った。文茂はそうであっては欲しくないと思った。絶対に目を覚ましてくれると信じた。

その日の夜。静寂に包まれた夜空に大きく白い月がでていた。蓮子は久しぶりに目を覚ました。1週間ぶりであった。自分が病で倒れたことを今更ながらに蓮子は知った。

「なんだ・・・。長い夢を見てたと思ったらなんかの病気で倒れたのか。綺麗な月・・・。メリーに出会えたと思ったのに。メリーはもう夢でしか会えないのかしら・・・。夜中にお墓掘り起こしたりしたことあったなぁ。夢の内容すべて、メリーオンリーだった」

近くの椅子に自分の娘が座っていた。ゆっくりと寝息が聞こえる。疲れて寝てしまったようだ。娘の手に自分の手を伸ばそうとしたが体が動かなかった。

「なんだろう・・・。もう疲れて動けない。体が痛い。あれ・・・。目が見えなくなってきた・・・」

蓮子は自分の死を悟った。もう、喋れず、動けないのだと思った。もう、娘も孫にも会えないのだと。そう思うと胸が苦しかった。でも、もう体がついていかない。

「ああ・・・こうやって死んでいくのか・・・」

「・・・」

一気に自分の一生が映画のフィルムのように流れていった。小さい頃の私。中学の頃の私。親になった日。孫ができた日・・・。

「・・・・メリーとの思い出・・・」

静寂に包まれた病室にひっそりと大きな影が見えた。蓮子はその姿が誰なのかがわかった。あまり見えない目でその姿はわかったのだ。

「・・・八雲紫さんですか・・・やっぱりもう近いのですね。いつぐらいでしたっけ」

幽かな声だった。最後の力を振り絞って聞いたのだろう。

「お久しぶりです。もう60年も前です。この60年あなたは立派に生きられたと思います」

「はは、そうだといいのですが・・・。ねぇ・・・。メリーはどこかしら」

「・・・」

「私、メリーが近くにいるような気がするの。もしかしたらあなたがメリーなのかなぁ」

「・・・いいえ、私は八雲紫ですよ・・・蓮子さん」

「あはは、そうよね・・・。メリーごめんね。あの時私が無我夢中になりすぎてメリーと離れ離れになったのが悪かった。私、謝る。ごめんメリー」

時は新しい日付を越す前だった。蓮子のこの世界での生涯を終えた。

「・・・。ごめんね、蓮子。あれは私も悪かったのよ。貴方に会えて本当に良かったわ。最後まで素直じゃなくてごめんね。蓮子・・・」

八雲紫はそう言い残した。自分の素直じゃない心に苛立ちを覚えた。そしてとても大切な人をこうして亡くしたことに悲しみを覚える。

「妖怪になって、生きるのが長くなった分、死と遭遇することも増えてしまった」

最後に紫は蓮子によく似た蓮子の娘にそっと肩を叩いて病室をあとにした。蓮子の娘はそれで目が覚めた。

「寝てしまっていたわ・・・。あれ、お母さん・・・?蓮子母さん・・・」

外は涙雨だった。

 

 文茂の家に電話がかかる。時計は深夜0時を回ったところ。テレビを見ていた文茂は電話の受話器をとった。

「そうか・・・。ばあちゃん亡くなったのか・・・。ああ、わかった準備しとく」

文茂は婆ちゃんが死んだことを電話という形で知った。今は深夜で危ないので、明日の朝一番に病院の霊安室へと向かうこととなった。今すぐ行きたかったが仕方ないと思った。

「素直になれなかった。最後まで」

婆さんにもっと優しく接することができなかった。今までの自分の行動を振り返れば、迷惑しかかけてなかった。そのことの後悔がにじみ溢れ、涙が溢れてきた。

「素直になれなかった最後まで」

「藍さまぁ~。紫さまはどうして落ち込んでいるのですか~」

「橙。今はそっとしておきましょう。落ち込んでいる理由は後で話てあげるから・・・」

紫は縁側で月を眺めていた。あの日の月も同じだっただろうか。

「思えば、私は蓮子に対して迷惑だったかしら。私のせいで、蓮子の人生台無しにしたのかしら・・・」

紫は思い返した。全てはあの出来事から始まったストーリー。

「私は日本の大学へとやってきた。生まれとかはよく覚えてないけど、日本人じゃない。まぁ、とりあえず今は京都よ。日本の京都よ!」

そう言って、京都の街を駆け巡る少女がいた。マエリベリー・ハーン。生まれがよくわからない、京都の大学生。小さい頃の記憶はよく覚えてなかった。小学生から高校生までは島根とか北海道に住んでいたような記憶もある。独特の田舎で生まれ育った。

「・・・うーんなかなかオカルトサークルのある喫茶店が見つからない・・・」

メリーは白く少し茶色く汚れた紙を持ち、喫茶店を探していた。たまたま見つけ興味を持った、オカルトサークルの部長らしきものを探していた。

たどり着いた喫茶店の中に部長がいた。コーヒーを飲み本に目を通す女性がいた。京都の午後の昼下がりの喫茶店でふたりは出会った。全てはこの日から始まったストーリー。紫色の服にあまり見られない帽子をかぶった少女と白いシャツに黒いスカートの少女。この二人のサークルは秘封倶楽部と呼ばれる。二人はすぐに仲がよくなる。

「私は宇佐見蓮子。よろしく」

「私はマエリベリー・ハーン。こちらこそよろしく」

「読みにくいからメリーで。私は蓮子とでも言ってね」

この二人は、墓を掘り起こしたり、電車で遠くに出かけたり、謎の神社に入ったりとやってきた。いつも二人で。喫茶店で未来の科学のことを語り合うこともあった。

「ねぇ、月には不老不死の薬があるらしいのよ」

ある日暮れの頃、こんな話が出た。

「不老不死ねぇ。物理の終焉を迎えて虚無に支配されている蓮子には不要でしょ?」

「誰が虚無主義よ。私は生きる力でいっぱいよ。今は宇宙の事で興奮して夜もグッスリなんだから」

「じゃ、不老不死の薬が手に入ったら、蓮子は使うの?」

「不老不死の薬? 勿論、使うわよ。物語なんかでは不老不死は辛い物だとされているのは何故だか判る? アレはみんな欲深さへの戒めと権力者への反抗を謳っているだけよ。でもそれが反対に、不老不死の薬の実存性の裏付けの証拠になっているわ。不老不死は、死が無くなるんじゃなくて、生と死の境界が無くなって生きても死んでも居ない状態になるだけよ。まさに『顕界でも冥界でもある世界』(ネクロファンタジア)の実現だわ」

 

目の前が急に現実の世界へと戻った。紫の濃い瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「・・・そんなこともあったね・・・。顕界でも冥界でもある世界・・・ネクロファンタジア。貴方はもう冥界へ行ったのかしら・・・。私が行くのにはまだまだ時間がかかるわ」

紫はかなり昔のことを思い出していた。それはまだ自分が自分であった頃の話だ。

「蓮子・・・。私はメリーでした・・・。それが伝えられなくてごめん」

落ちる涙を拳に染み込ませながら、紫は蓮子との思い出を振り返った。

 

蓮子の死から1週間。文茂は葬式も終わり、少しほっとしていた。もう、婆さんはいない。そんな日々に少しずつではあるがなれ始めている頃。なんとなく商店街の道を歩いていた。寂れた商店街。ここ何年変わらない風景である。その文茂の目の前に壊れた傘が落ちていた。薄いピンク、桜色に近いだろうか、現代の傘ではなく、山のような形の変わった傘だった。なんのためらいもなく拾った。小傘にものを大切にしろみたいなこと言われてから落ちてるものは拾うことが多くなった。誰の傘かわからない。そうすると、前の方から誰かが近づいてくるのがわかった。紫の服を着た・・・

「え、あれ、八雲紫・・様・・・?」

「あ、あら・・・あの時の坊やじゃない。お久しぶりね。元気にしてた?」

「え、ま、まぁ・・・それなりに」

「傘拾ってくれたの?ありがとう。お礼言うわ」

突然の出来後に少し戸惑う文茂。前回会ったときは失礼なことを言って、怒らせてしまった。今日の紫は少し悲しそうな微笑みを浮かべていた。少し気になった。

「そうだ、ちょっと話さない?いいところ知っているのよー」

突然の誘い。この誘いにのるべきかのらないべきか・・。勇気を持って誘いにのることにした。

  二人は紫によって作り出されるスキマの世界に入った。スキマの中はいろいろなものが見えていたが、あえて気にしないことにした。スキマから出たところに小さな古風的な喫茶店がある。周りは霧に包まれている。紫がドアを開ける。ドアの向こうから見えた風景。二つの椅子にひとつ木で出来た丸い机。二人が向かい合う感じに仕向けられている。誰が、何のために作ったのかはわからないが、部屋にあるのはその椅子と机のみ。喫茶店という感じではない。むしろだれかの部屋の中にいる。

「ここ喫茶店じゃないのですね」

「あら、もともと喫茶店だとは言ってないわよ」

どうやら文茂の思い違いだったみたいだ。「いいところ」という言葉で喫茶店だと思い込んでしまった。文茂にとっては喫茶店が好きな場所。

「座って座って。いまなにか出してあげるから」

そうやって紫は文茂のことを気にもせずにスキマをだし、その中に白い手袋をした手を突っ込む。手に掴んでいたのは、ポット。そのポットに液体は入っているようだ。そのポットにいつの間にか出してあった白と黒が縞模様にプリントされているマグカップに注いだ。

「はい、紅茶よ。」

か細い腕と白い手袋。マグカップの中にはこげた茶色の液体と気分を落ち着かせる葉っぱの匂い。液体の真上には自分の顔が映る。紫は自分の紅茶を淹れていた。

「あなた、最近あの小傘さんとはどうなの?」

「いえ・・・あまりあっていません。というか会えないです。」

「そう・・・」

紅茶を飲む紫。外は霧に包まれている。何も見えない。思えば高校に入学した時もそうだった。自分の心は霧に包まれていた。その状況と少し似ているような気がした。その霧の中で思った。

「なぜ悲しいのだろう」

文茂は霧の中は不安に満ち、悲しいと感じた。

「悲しいからでしょ」

紫は何一つ変わらない落ち着いた顔をしてそう答えた。

「悲しいことがあるから悲しい。そのまますぎるけど、そういうことになるのでしょうか」

「悲しい。そう思うのなら悲しいのです。楽しいと思えば楽しい。悔しいと思えば悔しい。感情は素直です。私も悲しいと思うときは泣くこともありました。最近では大切な人を亡くして悲しさに浸っていましたね」

「大切な人」

「ええ、私が日本の京都に住んでいた頃の友人かな」

「え、紫さんは京都に住んでいたことがあるのですか」

「私が大学生の頃かな」

文茂は目の前にいる女性が大学生だった頃を想像できない。1000年以上も生きている妖怪がどうして大学生になれたのか不思議だった。

「私、小・中・高といろいろなところに住んでいて街に長居できないこともあって、友達がそんなにできなかった。友達がいないことは不安だった。京都の大学に通ってた時、光となる友達が現れた。私はその友達が大好きだった。そんな大切な友達に最期まで嘘ついていた」

「嘘?」

「そうね。嘘をついていたの。私は大学生活の途中、ある事故が原因で幻想入りしたの。大学の時にオカルトサークルに入っていてね、そのサークル活動は色々な場所で不思議なモノを探していたの。そのモノを探すヒントがある場所としてその友達はある神社の場所を見つけた」

そう言いながら紫は事故の原因となる二人の会話を思い出していた。

 

「ねぇねぇ、メリーメリー!ここに行ってみようよ!」

その友人はメリーにある1枚の古い写真を渡した。

「え、神社の鳥居じゃない」

「ここなんかね、博麗神社とか言うみたいなの。絶対なにかいるよ!」

「うーん・・・」

 

活動はこの会話の2日後に決行された。

 

「その神社を探す時ね。私はその友達と離れ離れになったの。離れ離れになってとても怖かった。そして不安だった。ちょうど今の霧のようにね。周りの風景はよく分からず、頼みの友達もいない。どこへ向かっているのかわからないままにとにかく進んだ。進んでいないと不安で仕方がなかった。歩いている途中。足元に急に隙間が現れた。私は抵抗することもできずそのまま落ちていった。何が起こったのかわからなく、ただ落ちていることだけがわかった。私は全てを悟った。こうして命を終えるのだ。私はもう生きることもできず大好きな友人にももう会えないのだと」

 

「でも私は生きていたの。意識が覚めた時にはだれかの顔が見えたの。その顔が一瞬だけその友達に見えた。でも違った。」

 

「お目覚めですか。」

「・・・・え、ここはどこなの?」

 

「私の目の前にいたのは狐の妖怪だった。現状を理解するには時間が掛かったわ。誰が引き寄せたのかは今でもわからない。私は幻想郷というところに着いていた。斯々然々(かくかくしかじか)でその幻想郷に着いてからもう1000年以上は越えたのよ。1000年もあればその友人のことだって忘れることができたかもしれない。でも私はそれができずにいた。周りには楽しい妖怪や人が多かったから楽しい生活は過ごせた。でもどこか楽しめないでいた。離れ離れになった友達がどうしているかがとても気になった」

文茂は紫の話を一つ一つの言葉を噛むように聞いていた。とてもミステリアスで普段の日常ではありえない話だった。いままでの自分の人生を語ると恥ずかしく思えた。

「ところで、小傘。あの小傘がどうしてあなたたちの街にいるのか知ってる?」

唐突の問いである。

「いえ、本人の口からそのような話がでたことはありません」

「ふふふ・・・あれは私のせいなのよ」

「え」

幽かな笑を浮かべる紫と口を少し開けて、息を吸っているのか、すってないのかわからないような顔をする文茂。

「ある静寂の月が出る頃よ」

そう言って紫は紅茶を飲んだ。

 「ある静寂の月が出る頃、私は本来友達と向かうはずだった神社にいた。その神社にはね、変わった巫女がいてね。普段やる気ないのに、戦う時はどの妖怪よりも強さを発揮する、ある意味優秀な巫女がいたの。私は月を眺めていた。幻想郷で見る月は綺麗でね。時々月を眺めるの。月にはね、ウサギがいるのよ。嘘だと思うかもしれないけど、私は月に行ったことがある。月に行った話はまた別の時に。月を見ていた、そしたら足音が聞こえてきた。足音は鳥居の方からだった。それは小傘と・・・」

紫の記憶が蘇る・・・辛さと驚き。そして後悔。いろいろなものが頭によぎりながらも出てきた二人の顔。

 

「あら、小傘じゃない。どうしたの」

 小傘は大きな鳥居のある神社の階段から登ってきた。小傘と紫は顔を知っている程度の関係だった。

「なんか神社に興味がある人がいるのでちょっと連れてきたの」

小傘の後ろに誰かが隠れている。紫は小傘の後ろをそっと覗いた。

「へえー、誰かしら・・・」

紫はその顔を見た瞬間頭が真っ白になった。

「・・・メ、メリー!心配したじゃない。途中でいなくなるから!」

白いシャツと黒いスカート。夜の黒の景色に、月のあかりが差し込む。薄暗いが、お互いに誰なのかはわかっていた。

(・・・う、うそ。なんで蓮子がきたの・・。来てはならない・・・あなたは来てはならない。この世界に)

「メ、メリー?なんか答えてよ」

紫は口を鈍いながらも開けて、重い言葉をこぼしていった。

「私は八雲紫。メリーと言う人ではありませんよ」

蓮子はその言葉に納得ができない。

「違うメリーはメリーだ!途中で離れ離れになったことは謝るよ!」

(・・・だめ、来てはダメ。耐えられない)

「見るな来るな知るなわかるな・・・」

蓮子に背を向けそうしゃべる紫。ただその言葉を連呼し続けた。それでも構わず近づこうとする蓮子。

「こないで!」

そう発言した時にはもう蓮子の姿はいなかった。紫が隙間を発動させ、蓮子は何処かに行ってしまった。

 

「突然のその親友が、これないはずのところにやってきて、いきなり現れた。その事で動揺した。そして、現実を受け止めることができなかった。誰もいなくなった風景を見たとき、私は大変なことをしてしまったことに気づいた。親友を裏切り、どこか彼方へと捨ててしまった。私は泣いた。これでもう2度と会えないのだと。会えるにしても気が遠くなるほど待たないといけないということ。泣かずにはいられなかった」

 紫の目の暗さが増していくのを文茂はじっと見つめた。

 「それで・・・どうなったのですか」

 「死に物狂いで探した。それはもう鬼みたいね」

 

 スキマを次から次へと開け、その中へ顔を突っ込む。尋常じゃない姿に藍は紫を止めにはいる。

 

 「紫様落ち着いてください!」

 「うるさい!見つける、蓮子・・・私の大切な蓮子を・・・」

  

 「少し時間かかったけど、見つけ出すことができた。ほっとして、すぐ会いに行って謝ろうと思った。でも・・・どうやって謝ればいいのかわからなかった。無視されたり軽蔑されることも怖くて会いにいくのをやめちゃったの」

 「その後どうなったのですか」

 「私はただ、その親友の人生を見守った。結婚して子供産んで、孫も持つようになったわ。充実した人生歩んでいたと思うわ。そして最近亡くなった」

 「・・・」

 「死ぬ前に・・・本当最期になる時に私は親友の前に現れた」

 

 「あなたはメリーでしょ?」

 「いいえ、私は八雲紫です。蓮子さん」

 

 「結局最後まで素直になれなかった。自分でもわからなかったけど、自分の正体を現したくなかったのかもしれない」

 「・・・」

 文茂は声を出すことができなかった。自分にも思い当たることがあった。無意識のうちに婆さんに素直になれずに迷惑などをかけてしまったなと。

 「とまぁそんな話よ。暗い話だったと思うけど、これはもうどうしようもできない。だから諦めた。あの子のためにも生きられるうちは一生懸命に生きると決めたからね」

 「ポジティブですね・・・羨ましいです。それで・・・小傘はなぜ幻想郷ではなく私のいる世界にいるのですか」

「ああ、それは・・・」

紫は顔を斜め上に向けた。少し考えているような顔をしていた。

「小傘もスキマの中に入れちゃったの」

「え」

 

実はスキマを作り出して蓮子を捨てた(元の世界に戻した)ときに、近くにいた小傘も巻き添えをくらっていた。

 

「事故・・・ということですか」

「そうよ。事故よ。犯人は私だけどね。」

「でも、私が貴方に初めてお会いしたときはあなたからきましたよね。小傘がいる場所がわかったということですか。」

「場所はわかっていたわ。でもね・・・」

「?」

「せっかく別の世界に行けれたのだし、小傘にも別の世界を味わせようかなって」

そう言って小悪魔的に笑う紫。小傘自体の件に関してはあまり気にしてないようだ。

「それ知ったら怒ると思いますよ」

「まぁ別にいいじゃない。そのおかげで貴方と出会えたのよ。彼女は」

「・・・まぁそうですね。私は嬉しいのですが。小傘はどうでしょうかね」

「そのうちわかるわ」

「すぐにわかりたいです」

「焦らないの」

 

 その後も文茂は紫の話を聞いた。月の話も聞いて、人生論みたいなことも聞いた。

「さて、ここで閉めますかね」

そういって紫は椅子から立ち上がった。紫につられて、文茂も席を立った。建物から外に出てもなお、霧は立ち込めていた。

「じゃあ、あなたを元の世界にお返ししますか」

「ありがとうございました・・・」

「精一杯生きなさいよ。あなたの婆さんのためにも」

「はい・・・って?今なんて?」

紫は微笑んでいた。それは優しい顔だった。誰かに似ていて・・・。懐かしいものだった。

 急にスキマが現れ、文茂は吸い込まれていった。

 「・・・ここは紫さんと出会った場所か」

 文茂はいつもの寂れた商店街にたどり着いた。青年に冷たい風が突き抜けた。

 「なんで、知っていたのかな。婆さん死んだこと」

 文茂は立ち上がり、商店街を見渡した。穴のあいた天井、古い字体で描かれた錆び付いた看板。よく見れば見るほど寂れているのがよくわかった。

 「ふむ・・・この商店街自体忘れ去られそうだな」

 そう言葉を残し文茂は自分の家へと戻った。紫が自分の婆さんが死んでいたことを知っていたのには驚きは隠せないものの、あまり気にしないことにした。

 「また会えるといいな・・・」 

 

 しかし、青年が紫に会うことはそれきりなかった。でもきっとどこかでまた見ているのではないかとも思うと、そこまで悲しくはなかった。そのうちに秋が来て、秋が終わったらと思ったら冬が来て、暖かくなってきたと思えば春が来ていて、そして夏が来た。文茂が高校2年で体験する最初で最後の8月1日がやってきた。文茂の住む街もすっかり夏一色に染まっていた。山では蝉がしきりになき、向日葵が太陽に向けて一生懸命に咲いている。あれ以来写真撮影を趣味として頑張ってきた文茂。今日も地元の風景を撮りまくっていた。

 「来年からは受験。今のうちだろうな。大学はどこにいこうか・・・。というより何を学ぼうか・・・」

 そんなことを考えながらまた一枚写真を撮る。空一面真っ青に染まり、真っ白く浮かぶ雲。

 「れんこお婆さん。今頃なにしているのかな」

 

~博麗神社~

 

 「ちょっと、近寄らないで暑いんだけど」

 「別にいいじゃないー」

 「なんか甘えん坊になったよね紫。なにかあったの?」

 「うん・・・まぁね・・・でもそんなことどうでもいいじゃなーい」

 「うわぁっお茶がこぼれる」

  夏でも赤の巫女服を着た楽園の巫女と紫がそこにはいる。

 「少しでもあなたと居たいのよ」

 「やっぱりなにがあったの。気になるわ。まさか・・・異変?異変だったらいいのに」

 「違うわよ。これは私だけ抱えていればいいの」

 「そう?(そんなこと言われたら気になるに決まっているじゃないか!)」

 

 あの出来事以降、紫は霊夢によく寄り添うようになった。紫はとなりでお団子を食べ、お茶を飲む彼女が好きだ。その姿を見ると、あの頃を思い出す。

 

 「お菓子美味しいなーメリーありがとー」

 「どういたしまして」

 

 同じ、黒髪、似たような顔、本当に好きだった彼女似ている。紫は霊夢が蓮子に似ていると感じていた。紫は薄らと瞳に涙を浮かべた。

 

 「それより、階段から誰かが上がってくるわ」

 団子を音を立てて食べながら、霊夢は階段のほうへ指をさした。

 「お客さんかしら」

 階段から緑の服に白いショートヘアーの少女が見えた。

 「なんだ、妖夢か」

 「紫様。幽々子様より是非お会いさせたい人が・・・」

 「え、私?(さては前にお店のもの盗み食いしたのがばれたかな。だったらなぜ幽々子が?)わかりました。ついていきましょう」

 「いえ、もう来られているので。ちょっとそこで待っていてください」

 「そう言われても・・・」

 

  紫は鳥居の方に向かってゆっくりと歩き出した。階段の方からは幽々子とその合わせたい人が少しずつ登っていた。

 「もうすぐですよ。あなたがずっと会いたかった。親友に」

 「はい」

 階段を幽々子と白いシャツと黒いスカートを履いた少女がゆっくりとのぼってきた。

 

 「誰なの、幽々子。会わせたい人って」

 「紫にとってとても大切な方ですよ」

 すかさず紫は幽々子の後ろを覗き込んだ。黒の帽子を見て紫は衝撃を受けた。

見覚えがあった。遠い昔。大好きな友人がかぶっていたのと同じ。微かに見える黒の髪。ショートヘアだとわかる。少女はゆっくりと帽子をとる。胸の前で軽く片手で自分の胸に押さえつけた。 

 「れんこ?れんこなの?」

 「メリー、私よ。宇佐見蓮子よ」

 蓮子はにっこりと微笑んだ。その笑顔が見たかった。紫はその場で泣き崩れた。泣き崩れる紫に合わせ、蓮子もしゃがみ、ずっと紫を見つめた。

 「メリーでしょ。貴方がどんな姿になろうと、私はメリーだと確信していた」 

 「ごめん・・・ごめん・・・貴方に本当のことが言えなくて」

「私もごめん。あなたを一人にさせて」

 「いいよ、私はメリーがそこにいることだけで幸せだから」

「蓮子・・・メリーは嬉しいよ。あなたにはもう会えないと思っていたから。それなのに会えて嬉しい」

「私もよ。メリー。蓮子も嬉しい」

 紫の涙。それは何千年も溜め込んだ、悲しみの涙。それが喜びのものとなった。

 

 「え、雨。夕立かな」

 写真を撮っている文茂に急な雨が降ってきた。

 「でも、空は晴れている。狐の嫁入りかな」

 晴れた空から謎の雨が降る。その雨はあの葬式の時とは違った雨だった。妙に暖かさを感じた。 

 「傘をさすか」

 そう言って、文茂は紫の傘をさした。

 




・・・あとがき・・・
秘封倶楽部での蓮子とメリーの関連性についての解釈もいろいろありますね・・・。あまり鬱パターンは考えたくないのですが、どうしても鬱パターンにはいってしまいますね。やっぱりこの二人はずっといることはできない。私は今そのような考えでいます。この話の中では再会を果たし二人は幸せに過ごしましたとさ…という展開にでもいいかとは思います。

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