迷宮城の冴えない男《ラビュリンス・イッパンジン》 作:入江末吉
昼食が終わると、氷雨先輩以外の三人で校舎裏のドームに向かった。普段の授業で使っている場所は今日点検があって使用できないとかで、場所が変更になったと猿渡先生が言っていた。
ドームの中心までやってくると、授業に熱心なクラスメイトが既に集まっていた。各々が決闘盤の調整やら、お試し五枚ドローで初手の回転率なんかを確かめていた。
「相変わらずデケーな、
「あれも明日点検するらしいよ、エンタメコースがどうのって氷雨先輩がぼやいてた」
「うへー、クラブごとの予算分配とか俺の仕事なんだよな、面倒だな」
音喜多くんが頭上にぶら下がる質量立体幻像機を眺めてぼやいた。
ちなみに音喜多くんの学生会での役職は会計。本人曰く向いてないらしく、風舞さんと一緒に書記をやっているボクには応援することしか出来ない。
程無くして、始業のチャイムと共に少し気怠げな猿渡先生が入場して授業が始まる。
「え~、事前に言っとったように今日は戦士族を主軸に据えたテーマデッキでローテーションデュエルしてもらうでの。勝ち負けの戦績もじゃが、どういった構築をしたかも評価になるからレポートの提出を忘れんように!」
その一言にレポートの作成を忘れてたらしい何人から悲鳴が上がった。ちなみにボクはアンナが言ってくれなかったら完全に忘れてた。
ちらりと左側を見る。今にも決闘したいと顔に書いてある音喜多くん、今回のレギュレーションでは恐らくボクの友達の中で一番影響が少ないだろう。
そして反対側、そこには風舞さんが立っているはずで、今日のローテーションでは確実に彼女に当たる。
思えば風舞さんはどんなデッキを組んだのか聞きそびれた。もちろん、これから戦うと分かってて事前に聞き出すのは無粋かとも思ったけど、やはり気になる。
右側を見た。すると風舞さんは、後方にいるボクの方を見ていた。翡翠の瞳と、バッチリ目が合う。
思わぬ視線のバッティングについうっかり目を逸らしてしまう。ここに姫やアリアがいたら、きっと誂われただろうな。
今は決闘盤ではなく、腰のデッキケースに収まっている【ラビュリンス】のデッキに触れる。
感覚的な話になるけど、今は彼女たちが
心霊的に言えば、肩がやたら軽いとか、身体がちょっと寒いみたいな、そんな感じ。
彼女たちがいないことがボクはやっぱりどこか寂しくて、我ながら女々しいというか情けない。
一人でセンチメンタルに浸ってると、猿渡先生の合図で各々いつもの列を組むと少し離れて決闘盤を構えた。
ボクの正面には風舞さんがいる。彼女はボクを見上げながら言った。
「本気で来て」
「も、もちろん。負けないよ」
そうして二人で距離を開けてPDAを決闘盤に装填して構える。カードプレートが展開、この場の立体現像機と決闘盤がリンクして静かに起動音が響く。
オートシャッフルでデッキが混ぜられる音、他のクラスメイトたちの声はもう届かない。張り詰めた、ピンとした空気がボクと風舞さんの間を支配する。
「
銀臣 LP:4000
アズミ LP:4000
「先攻はボクだ。ボクは────」
手札を見る。配られた最初の五枚は──よし、悪くない。
「ボクは永続魔法【一点着地】を発動! お互いの手札から、ボクの場にモンスターが一体のみ特殊召喚された場合に一枚ドロー出来る!」
このカードは、この【イダテン】デッキにおけるメインエンジンの役割を持つ。
なぜなら止められさえしなければ理論上毎ターン、ドローフェイズ含めて二枚のドローが可能になるからだ。
「そして、手札の【ジョーカーズ・ナイト】の効果を発動! デッキから【
「────っ」
【ジョーカーズ・ナイト】の姿が揺らめき、【ジャックス・ナイト】の姿を取る。そしてこのワイルドカードこそが、このデッキのエンジンそのものなんだ。
彼の召喚に反応し、ボクの場にある永続魔法【一点着地】が反応する。
「【一点着地】の条件を満たしたことで、カードを一枚ドロー! さらに【絵札融合】を発動! ボクの場に【絵札の三銃士】のどれかが存在する時、融合素材を一体だけデッキから墓地へ送って融合召喚出来る!」
ボクの場には【
「デッキから【フォトン・スレイヤー】を融合素材として墓地に送って融合! レベル10、【覇勝星イダテン】推参!」
【覇勝星イダテン】 ATK/3000 DEF/2200
制圧効果を持つモンスターではないから、風舞さんの後攻の動きを妨害することは出来ない。
けれどレベルを持つモンスターなら、凡そ彼には敵わないはずだ。
「【覇勝星イダテン】の融合召喚に成功した時、デッキからレベル5の戦士族一体を手札に加える。ボクは【オーバーレイ・ブースター】を選択!」
この【オーバーレイ・ブースター】もまた、手札から単体で特殊召喚出来る効果を持つ。つまり【一点着地】の効果を満たせるモンスターというわけだ。
まだボクの手札は4枚残っているし、展開は止まらない。
「【覇勝星イダテン】の効果! 1ターンに1度、手札を任意の枚数捨てて1枚につき200ポイント攻撃力をアップする。ボクは【焔聖騎士-オジエ】を墓地に捨て、攻撃力を200ポイントアップさせる」
【覇勝星イダテン】ATK/3000→3200
「さらに、手札から【セリオンズ"ブルズ"アイン】の効果を発動! このカードを特殊召喚し、墓地の戦士族を装備する! 装備するのは今墓地に送った【焔聖騎士-オジエ】!」
【セリオンズ"ブルズ"アイン】 ATK/2100 DEF/1600
手札から雄牛を模した戦士が飛び出し、オジエの魂を身に纏う。これにより、【セリオンズ"ブルズ"アイン】は1ターンに1度、自身含むセリオンズカードと相手カードを対象にして破壊することが出来るが、オジエの加護によって効果破壊を免れる。
つまりは、相手のカードだけが破壊される除去効果を手に入れた。
まずまず、盤石だ。
「最後にカードを一枚伏せて、ターン終了! このエンドフェイズ、墓地の【ジョーカーズ・ナイト】の効果で、墓地の【ジャックス・ナイト】をデッキに戻し自身を手札に戻すよ」
TRUN1→2 銀臣→アズミ
銀臣 モンスター:【覇勝星イダテン(攻3200)】 【セリオンズ"ブルズ"アイン】
魔法・罠:【一点着地】 【焔聖騎士-オジエ(ブルズアインに装備)】【伏せカード】
手札:2枚
「私のターン」
風舞さんがデッキトップに指を掛け、短く引く。手札に加えたカードを一瞥し、手札と比べて吟味する。
しかし動きを止めていた時間はたったの一秒にも満たなかったのではないか。風舞さんは手札にカードを加えると、別のカードに指を掛けた。
「【ラビュリンス】じゃないのなら、いい」
「え……?」
その時だ、風舞さんの瞳は確実にボクの目を射抜いていた。まるで貫通するみたいに、真っすぐで、尖すぎる眼光だった。
「このデュエルに、意味は無い。すぐ終わらせる」
あまりにも冷ややかな物言い、普段の風舞さんとは違う圧力にボクは何も言い返すことが出来なかった。
構わず、風舞さんは手札から引き抜いたカードをプレイする。
「【SRスクラッチ】発動。手札の【
ッ、
その大半が機械族で構成されたテーマ、確かに今日の授業は戦士族を主軸にしたデッキ構築であれば展開に使用するカードまで戦士族である必要はない。
だけど、本当にあのデッキは……
ボクの疑問には、すぐ答えが帰ってきた。
「手札に加えた【SRタケトンボーグ】は自分の場に風属性がいれば特殊召喚出来る。さらに風属性モンスターが二体場にいるため、【
さらに
間違いない、あれは普段から風舞さんが使っている風属性をメインに据えたデッキだ!
風舞さんが授業の前に言っていた、本気で来てっていうのはボクに
それなら普通にフリーで勝負しようって言ってくれれば受けるのに……今言っても始まらないか。
手札の消費こそ激しいけれど、風舞さんの本気の展開はここからだ。
「────銀臣には、あの子の声が聞こえるかな」
「声……?」
小さく、ぽつりと呟いた風舞さん。その一言がボクに届いてるかどうかは、瑣末事みたいだ。
風舞さんは右手を空高く掲げ、それに従って【フリーズ・ベル】、【スノウ・ベル】、【タケトンボーグ】の三体が高く飛び上がる。
「私は、レベル3の【フリーズ・ベル】と【タケトンボーグ】に、レベル1の【スノウ・ベル】をチューニング」
=
「──シンクロ召喚、【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】」
【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】✪7 ATK/2500 DEF/2000
フィールドに迸る、光の柱。その中から、その竜は旋風を伴って現れた。
まるでナイフが空を切るときのような風切り音が耳元を通り抜ける。
『────グラァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
水晶のように美しい翼を広げ、その竜は咆えた。
空に向かって、猛々しく。だけど、まるで慟哭するようだった。
空間をビリビリと揺する、この感覚。
目の前に立っているだけで、膝を屈してしまいそうなプレッシャー……!
「このモンスター、まさか……」
とある仮説が頭の中によぎる。だけど風舞さんは特別気にしていないようにプレイを続けた。
「最後、通常召喚【SRダブルヨーヨー】。その効果で、墓地の【SR三つ目のダイス】を復活させる」
ここまで怒涛の展開をしてきた風舞さんだけど、その実まだ通常召喚を行っていなかった。
そして、蘇生された【三つ目のダイス】は……チューナーモンスター! まだ仕掛けてくるつもりだ。
「レベル4【ダブルヨーヨー】とレベル3【ベイゴマックス】に、レベル3【三つ目のダイス】をチューニング」
=
「シンクロ召喚、レベル10【フルール・ド・バロネス】」
【フルール・ド・バロネス】✪10 ATK/3000 DEF/2400
咲き乱れる白百合の花。現れる、駿馬に跨る気高き女男爵。
鎧を纏ったチャリオットがその身を持ち上げ強く嘶く。
だけど、こちらには何も感じない。
カードの効果で言えば【フルール・ド・バロネス】の方が遥かに厄介なはずなのに、ボクが脅威に思ったのは【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】の方だった。
彼から目を離せない。恐ろしささえ感じる美しさのせいではない、彼の咆哮が耳にこびり着いて離れない。
「【フルール・ド・バロネス】の効果、1ターンに1度、フィールドのカード1枚を破壊することが出来る。【覇勝星イダテン】を破壊する」
「くっ……」
【覇勝星イダテン】は戦闘に持ち込めば無類の強さを誇る。だけど戦闘に頼らない除去に対しては滅法弱い。そこを突かれた……!
「バトル、【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】で【セリオンズ"ブルズ"アイン】を攻撃」
「それは通せない! 罠カード【奇策】発動! ボクの手札の
このカードは【覇勝星イダテン】が攻撃力をゼロに出来ない
さらに【クリアウィング】はモンスター効果に対しては恐ろしい制圧効果を持つものの、魔法や罠カードはその制圧の範囲外だ。
だけど、
「相手が発動した魔法、罠、モンスターの効果を【フルール・ド・バロネス】は表側でいる間一度だけ無効にし、破壊する。よって【奇策】を無効にして破壊する」
「ッ、しまった!!」
白百合の嵐が起き上がった【奇策】のカードをそのまま粉砕する。そのため【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】の攻撃力増減は行われず、そのまま戦闘が続行される。
風舞さんが空を指差し、クリアウィングが空高く舞い上がる。その天上から咆哮を響かせ、風を纏い出す。
そのまま急降下し、"ブルズ"アイン目掛けて体当たりを行う。攻撃力で劣るブルズ"アイン"はあえなく爆散した。
────だけではなかった。
「うぉっ、ぁああああ!?」
銀臣 LP4000-400=3600
たった、400のダメージ。だけど、そのダメージは大きな風圧となってボクの身体をその場から吹き飛ばす。
これでボクの場はがら空き、風舞さんの場にはまだ攻撃できるモンスターがいる。
「【フルール・ド・バロネス】で、プレイヤーにダイレクトアタック」
「────っ!」
銀臣 LP3600-3000=600
突進からサーベルでの一閃、一撃でLPを3000も削られてしまった。
だけど3000も削られた攻撃より、400しか削られていないさっきの攻撃の方が衝撃があった。
直感が告げている、
「メインフェイズ2、カードを一枚伏せてターンエンド」
「このエンドフェイズに、【奇策】で墓地に送った【ジョーカーズ・ナイト】の効果を発動! 【絵札融合】で融合素材とした【フォトン・スレイヤー】をデッキに戻して、自身を手札に戻す!」
TRUN2→3 アズミ→銀臣
アズミ モンスター:【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】 【フルール・ド・バロネス】
魔法・罠:【伏せカード】
手札:0枚
「ボクのターン! ドロー!」
これでボクの手札は、ドローカードとイダテンの効果で加えた【オーバーレイ・ブースター】、【ジョーカーズ・ナイト】の三枚になった。
ライフは崖っぷち、ボクの場は空っぽ。だけどこのターンでなんらかの手を講じないと次のターンでボクの負けだ。
だけど悲観するには早い。なぜなら万能の妨害を持つ風舞さんの【フルール・ド・バロネス】は既にその無効効果を使った。
1ターンに1度、カードを破壊する効果はあるもののそれは起動効果、つまりこのターンに妨害を受けることはない……!
手札を見る、幸い動ける手札だ。ここから上振れるかどうかは、ボクの運次第だ!
「【ジョーカーズ・ストレート】を発動! 手札を一枚捨て、デッキから【クィーンズ・ナイト】を特殊召喚し、【キングス・ナイト】を手札に加えさらに召喚! キングの効果でデッキより【ジャックス・ナイト】を派兵!」
風舞さんに負けず劣らずの展開力を発揮するボクのデッキ。だけどこれでは壁を用意しただけ、それに【キングス・ナイト】は攻撃表示なため、攻撃されればライフは削りきられボクは負ける。
ここからだ、デッキの一番の上のカードを見やる。
これが【ラビュリンス】だったなら、君たちの声が聞こえるはず。
今は城に戻って、騎士ちゃんの相手をしているからボクの傍にはいないけれど。
ボクだけの勝負だ、泣き言はこれ以上言わない。
「さらにデッキの【ジャックス・ナイト(2枚目)】を墓地へ送り、手札の【ジョーカーズ・ナイト】を特殊召喚! この瞬間、手札からモンスターが一体のみ特殊召喚されたことによりボクの場の【一点着地】の効果が発動、一枚ドロー!」
気を引き締め、ドローカードを見やる。幸い、デッキはボクに応えた。
「ボクはレベル5の【ジャックス・ナイト】と【ジョーカーズ・ナイト】でオーバーレイネットワークを構築!」
光の螺旋の中に道化の騎士と、絵札の騎士が飛び込む。その渦は大きな力の奔流となって青空を穿ち刹那の銀河を生み出した。
「ランク5【セイクリッド・プレアデス】をエクシーズ召喚!!」
【セイクリッド・プレアデス】✪5 ATK/2500 DEF/1500
煌々とした甲冑を身に纏う星々の騎士がフィールドに降り立つ。このモンスターはフリーチェーンでカードをバウンスする強力な効果を持つ。
だけど風舞さんのモンスターを対象にした場合、【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】の②の効果を誘発させてしまう。
だから、まだ足りない!
「現れろ!
召喚条件は、戦士族モンスター二体!
神々しい召喚演出から現れたのは二人の女性。
「【聖騎士の追想 イゾルデ】をリンク召喚! イゾルデの召喚時効果! デッキから【地葬星カイザ】を手札に加える!」
「でも、その効果で手札に加えたモンスターはこのターン、場には出せず効果も発動できない」
風舞さんの言う通り、だけどイゾルデの効果はそれだけじゃない。
「さらにイゾルデは、デッキから装備カードを任意の枚数墓地へ送り、その送った枚数と同じレベルの戦士族モンスターを特殊召喚出来る! ボクはデッキから【再融合】を墓地へ送り、【焔聖騎士-リナルド】を特殊召喚!」
そしてリナルドの特殊召喚時効果で墓地または除外されている戦士族・炎属性モンスターか装備魔法を一枚手札に加えるサルベージ効果がある。
これで今しがた墓地に送った【再融合】を手札に加えれば、墓地に存在する融合モンスター、即ち【覇勝星イダテン】を蘇生出来る……!
「──だけど、今の銀臣に【再融合】を発動するためのライフポイントは残っていない」
その言葉に、ボクはハッとして今まさにディスクに挿入しようとしていた【再融合】のテキストを見やった。
【800LPを払い、自分の墓地の融合モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、このカードを装備する。このカードが破壊された時にそのモンスターは除外される】
今のボクのライフは600、通常のLPの決闘であればまだ発動できたけれどこれは特別なレギュレーションの決闘。
さらに言えば、ボクのデッキに入っている装備魔法はこの他に【アサルト・アーマー】しかない。だけどそのカードも場に戦士族が一体のみでなければ発動出来ない。
明らかなプレイングミス、ボクはこのターン【セイクリッド・プレアデス】をエクシーズ召喚しているんだ。
EXデッキには
だけど、決闘に待ったはない。ボクは【一点着地】の効果でドローしたカードに指をかけた。
「魔法カード【置換融合】を発動! 場のイゾルデとリナルドを素材に【鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード】融合召喚!」
【鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード】✪8 ATK/2700 DEF/1600
なんとか用意出来たサブプラン、だけどギルティギア・フリードの効果もクリアウィングの効果を誘発させてしまう。
ということは、またしてもこのデッキトップのカードにすべてが掛かってる。
「墓地の【置換融合】の効果、このカードを除外し墓地の
祈るように、ボクはカードを引いた。そして視界に飛び込んできたのは赤紫のカード、即ち罠カード。
それも超汎用的な強力罠カード、【無限泡影】!
このカードがあれば、まだボクにもチャンスはある。
次のターン、【フルール・ド・バロネス】が起動効果でこちらのモンスターを破壊しに来るはずだ。だけどギルティギアフリードには自身を対象とするあらゆる効果を無効にし、場のカードを一枚対象を取らずに破壊する効果がある。つまりバロネスがこのモンスターを対象に取ったら返り討ちになる。風舞さんは恐らくそこまで織り込み済み。
従って、バロネスが破壊しにくるのは間違いなく【セイクリッド・プレアデス】だ。その効果にチェーンして【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】を対象にプレアデスの効果を発動すればクリアウィングの効果で無効にするはず。
そこを上から【無限泡影】で無効にすれば、
残った【フルール・ド・バロネス】に【セイクリッド・プレアデス】を戦闘破壊されても、ボクのライフは100だけ残る。
その次のターンでギルティギア・フリードが自身の効果で攻撃力を上げ3500になる。そのままバロネスを戦闘破壊。さらに場のモンスターを融合素材にしたこのモンスターは二回攻撃が可能、500と3500の戦闘ダメージでワンショットキルが成立する!
風舞さんの場には伏せカードが1枚存在する。ボクのターンで発動する素振りを見せなかった……少なくとも、ボクが見ていた限りでは。
フリーチェーンのカードではない、発動タイミングを選ぶカードか……?
であれば、同じ縦列に【無限泡影】を伏せることで後顧の憂いを断つ!
「ボクはカードを1枚伏せ、ターンエンド!」
TRUN3→4 銀臣→アズミ
銀臣 モンスター:【セイクリッド・プレアデス(ORU:2)】 【鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード】
魔法・罠:【一点着地】【伏せカード】
手札:2枚
「私のターン、ドロー」
風舞さんがカードを引く。これで手札は1枚、風舞さんはドローカードを確認するとそのまま決闘盤に挿入する。
「【貪欲な壺】発動、墓地のモンスターカードを五枚選択し、デッキに戻した後2枚ドローする。私が選択するのはこの五枚」
【SRダブルヨーヨー】
【SRタケトンボーグ】
【WW-スノウ・ベル】
【SRベイゴマックス】
【フリーズ・ベル】
墓地から出てきたカードをデッキに加え、風舞さんがオートシャッフルを待つ。僅かな静寂の後、カードをドローした。
ドローカードを一瞥、続けてボクの場を一瞥。
そして風舞さんは、ドローしたカードに指をかけることなく宣言した。
「【フルール・ド・バロネス】の効果発動、1ターンに1度フィールドのカード1枚を対象にし破壊する。【セイクリッド・プレアデス】を破壊する」
────来た!
「チェーンして、【セイクリッド・プレアデス】の効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、場のカード1枚を手札に戻す! ボクが選ぶのは【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】!」
プレアデスがオーバーレイユニットを掌で受け止め、その力を全身に漲らせる。その輝きを一点に収束し、クリアウィング目掛けて撃ち放つ。
「【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】の効果、1ターンに1度、レベル5以上のモンスター一体のみを対象とする効果を無効にし、破壊する」
対して、クリアウィングの全身にある結晶の翼が光筋を立てて輝き出す。プレアデスの放った光線を、その翼の輝きで相殺する。
まさにこのタイミングだ、この瞬間を待っていた!
「その効果は通さない!
「トラップカード、【無限泡影】発動。相手モンスター一体の効果をこのターン中無効にし、さらにこのカードと同じ縦列の魔法・罠カードの効果は無効化される。対象はプレアデス」
ボクが【無限泡影】を発動したタイミングで、風舞さんが発動したのも【無限泡影】だった。
「──銀臣は、きっとこのクラスの誰よりも罠カードに精通した決闘者だと思う」
風舞さんが言った。その間にも、ボクのプレアデスは効果を無効にされ、続けてボクの発動した【無限泡影】は風舞さんの【無限泡影】と同じ縦列であるため、効果が無効化される。
「だから、私が伏せたカードを警戒して同じ縦列に伏せた時点で【無限泡影】だと思った」
効果を無効にされなかったクリアウィングがプレアデスの放った光線を跳ね返し光に飲み込まれたプレアデスが消滅する。
そしてプレアデスを飲み込んだ光を結晶の翼が吸収し、クリアウィングの攻撃力が上昇。
【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】 ATK2500→5000
「バトル、【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】で【ギルティギア・フリード】を攻撃」
クリアウィングが勢いよく上昇し、その場に旋風を巻き起こす。その風圧はさっきの攻撃、その比じゃない。あまりの風圧に、ボクは思わず地面に膝を突いた。
「なんだ!? 台風!?」
「これは、
「きゃああああああああっ!」
「ちょっと男子! 見てんじゃないわよ!!」
その旋風は、立体幻像のそれじゃない。間違いなく、この世界に吹き荒れている。
まるで流星のように、【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】が急降下を始め、ギルティギア・フリード目掛けて突進してくる。
攻撃を止める術はない、ギルティギア・フリードの攻撃力を上げる効果を使えば火に油を注ぐ結果になる……!
大上段から振り下ろした斬鉄剣がまるで暴力に煽られた木の枝のように容易くへし折れ、鉄の魔導騎士は
そのまま勢いを殺さないまま、ボクに迫ってくる。
『────銀臣ッ!!』
その時だ、横からボクとクリアウィングの間に割って入る影があった。その人物は手に持った大斧を振りかざし、クリアウィングに正面から打って出た。
ボクは弾かれるように腰の【ラビュリンス】のデッキが入ったケースの蓋を弾き、光を放つ一枚を取り出して決闘盤へ叩きつけた。
「ラビ……っ!!」
『ぐぅぅっぅぅぅう──────ッッ!! こん、のぉぉぉぉぉ!!!』
決闘盤が本来デッキに入っていないカードを使用したことに対し、けたたましいエラー音を鳴らすが知ったことではない。
姫がクリアウィングを正面から抑えてくれているけど、彼女たちの攻撃力の差は歴然。このままじゃあと数秒も保たないはずだ。
だったら……!
「カードを一枚伏せて、
場に現れたカードを狂時計が自身の針を進め、1ターン後の状態へ進ませる。
「罠カード【ハーフ・アンブレイク】発動!」
これで姫は戦闘で破壊されず、この戦闘で発生するダメージを半分にする。
本当なら【和睦の使者】がベストだけど、今は一秒を争う状態。無いものねだりしている場合じゃない。
長い鍔迫り合いの末、姫とその後ろにいたボクは大きく吹き飛ばされた。
スタジアムの上をまるでボールのように転がって、ようやく止まった頃には全身が鉛のように重く、ズキズキと痛んだ。
打撲の影響か、息が出来ない。吐き気がする。頭が痛い。
そんな独り言が頭の中を右から左へぐるぐる回る中、勝利の雄叫びとは思えないような悲しい声でクリアウィングは吠える。
彼はボクの反則負けによって決闘が終了すると、他の立体幻像に紛れて消えていった。
銀臣 LP600→イカサマによる反則負け
アズミ Win
『銀臣! 無事ですの!?』
「うぅ、頭を強く打ったからかな……ラビがとびきりの美少女に見える……」
『なんてこと、重症ですわ……じゃなくて、冗談を言ってる場合ではないでしょう!』
他の生徒が
すると城の門からアリアとアンナも飛び出してきて肩を貸してくれる。
「騎士ちゃんは、もう帰ったの……?」
『えぇ、今回もコテンパンにやられましたわ……やっぱり罠の増設が必要ですわねぇ』
見れば、アリアもアンナもちょっと服が破れたり煤けたりしていた。煤けてるのはもしかして火吹炉が吹いた火が原因なんだろうか。
どちらにせよ助かった。ダメージを軽減してこの有様だ、姫が間に割ってくれなければ間違いなく大怪我していたに違いない。
「銀臣」
その時だ、いつの間にかボクのところに風舞さんが来ていた。三人がムッとした顔で彼女を見るがボクはそれを制すると、彼女たちも立体幻像よろしくスッと姿を消した。
「ごめん、手加減出来なかった」
「あぁそれはもう、全然……プレミさえ無ければ、もう少しやれたんだろうけど」
それより聞きたいことがあるんだけど、脳裏で練習したその言葉は口から出ることが出来なかった。
風舞さんが差し出した右手に合わせようとした右手が、空を切る。
平衡感覚がバグる。
なんで、ボクの顔の横に芝生があるんだろう。あぁ、ボク倒れたのか……?
姫の声が、する……
何を言ってるのか、聞こえない……耳鳴りがする。
あれ、ちょっとほんとうにきもちわるい。
これってラビュリンスがメインの小説ではないのか!
そのはずだったんですけどねぇ……
まぁデュエルアカデミアを舞台にするなら、こういう授業パートやりたい!っていう欲望が炸裂してしまった結果なのでどうかお許しください、次からはラビュリンスで頑張ります!
今回の決闘はやりたかったけど泣く泣く諦めた展開があります、なにか分かりますか?
そうです、イダテンの効果をクリアウィングが無効にする展開です。
でもそれやっちゃ流石に銀臣がうっかりやさんすぎないか? 6話のあとがきで掲載した通り、本作の決闘盤は本体に接続する電子生徒手帳でモニタリング出来るので効果の確認等が容易に行えるって設定ですしね。
イダテンの効果!→クリアウィングの効果で無効→しまった!!
しまった!!じゃないのよ、ってなりそうで。
最初は精霊パワーでカードテキストが確認出来ないとかにしようかな、とも思ったんですよね。それか銀臣がクリアウィングのことをそもそも知らないとか。
だけどどれもあまり現実的じゃないかな、ということでお蔵入りに。
ただその代わりに、ライフ計算周りはかなり綺麗な決闘に仕上がったんじゃないかな、と思います。
銀臣の目論見通りならライフが100残り、アズミのライフは4000キッチリ削りきれる辺りが特に(自分でも気付いてない効果処理のミスが無い場合に限る)
さておき、皆様いつも感想ありがとうございます。
一話上げればいくつかの感想と評価をしてもらって、とても嬉しいです。
牛歩ではありますが、もっと楽しんでいただけるように頑張っていきたいです。
そういえばマスターデュエルでついにCR海物語が実装されてしまいましたね。
ラビュリンスは効果破壊がメインなので戻ってくる上にウェルカムを無効にしてくるルルカロスだの戻ってきて展開に繋げるカレイドハートだの、めちゃくちゃ相性悪いな、と思いながらも頑張ってダイヤまでは漕ぎ着けました。
因果切断と大火葬はいいぞ!