迷宮城の冴えない男《ラビュリンス・イッパンジン》 作:入江末吉
あれから数日、ご主人たま──銀臣さんの生活はかなり激変しました。
学生会の仕事があるにも関わらず夜はお風呂の時間以外は必ずデュエルの研究に当て、食事の際もスマートフォンに向き合っていることが多くなりました。
責任感はある人なので、学生会の仕事で外回りをすることがあればキッチリ業務を行います。
ですが授業中の居眠りが増えた……というよりは教科を選んで仮眠の時間にしているのではないかと思われます。
睡眠時間の減少に伴って、食も少し細くなったような気がします。姫様もアリアも気づいてるかは不明ですが、彼の食事を用意し配膳しているのは
そして食欲の減退によって栄養失調の兆候も見られます。
何より姫様が罠を考案される時のような、目の下の隈がくっきりと目立つようになりました。
姫様とアベックとして見るならそれなりにお似合いだとは思うのですが、健康面を管理する侍従としては看過出来ません。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ふぁ~あ……」
一週間、実はあれから一度も風舞さんとデュエルをしていない。
理由は二つ、そもそも風舞さんがそこまで切羽詰まっていたわけではないことと、単純にボクの準備不足だ。
ボクとの決闘を最後の希望にしていた風舞さんの気持ちを考えれば、すぐにボクと決闘するというのは人間心理として避けたいはずだ。
一番好物は最後に食べたいように、風舞さんはボクが美味しくなるのを待っているとも言えた。
授業の間、ホワイトボードの板書をしながら風舞さんの方をちらりと見やる。彼女は授業そっちのけで窓の外を眺めていた。
窓の隙間からそよ風が入り込み、心地よい風が教室の中をいくばくか清涼的にしてくれる。
もうすぐデュエルアカデミアに入学してから最初の夏休みがやってくる。
そうなると、寮暮らしのみんなは実家に戻って過ごすか寮に残ってクラブ活動に専念したりのどちらかに振り分けられる。
ボクは実家からの通学なので、あまり関係無い。家でゴロゴロしてるもよし、街に繰り出してカードショップを巡っても良い。
────と、思っていたんだけど。
「学生会メンバーは基本的に午前中だけ学生会の仕事があるぞ」
「聞いてないよそれぇぇぇぇ……事実上の夏休み返上じゃんかそれぇぇぇ……」
のんびり夏休み計画はものの見事に白紙。なんなら敷地内にある寮から通うボク以外の学生会メンバーと違って家からの通学を強いられる分ボクの方がディスアドじゃないか。
だけどまぁ、引き受けちゃったものは仕方ない。ボクにも一応、既に役員としての矜持がある。学生会割で学食を利用させてもらっているわけだし。
「まぁそう言うなって。姉ちゃんが言ってたけど、夏休み中はクラブ活動以外で学生が校舎にいないから学生会メンバーは施設点検も兼ねて色々使い放題なんだぜ」
「ってことは……水泳部のプールとか?」
「そうだな、流石にクラブ活動中は遠慮しといた方が良いだろうけど、空いてる時間に水浴びしにいっても文句は言われないはずだぜ。ただまぁ、姉ちゃんは去年暇な時間水泳部に入り浸っていたら部費の増額を企む水泳部員に決闘を挑まれまくったらしいけどな」
それはそれで嫌だな……尤も、今も学生会役員を続けてるってことは氷雨先輩は全勝したか負けても取り返したかのどっちかだろう、強すぎる。
ただ、考えようによってはこれはチャンスかもしれない。
夏休み、午前中の学生会の仕事が終われば基本的に寮に戻るだけのはず。本人たちの談なら風舞さんは氷雨先輩にも勝っている。
だけど氷雨先輩に頼んで特訓に付き合ってもらえば、夏休みの間に少しはボクもステップアップ出来るはず……!
「音喜多くんもデュエルバカだし、夏休みの間も相手には困らなさそう!」
「急にどうした、誉めてるのか貶してるのか」
決めたぞ、この夏休みはボクのステップアップ期間にする。
そして夏休みが明けたら、風舞さんに挑戦するんだ。
夏に向けて決心を新たにする、音喜多くんとはこの後の選択授業が違うため一度分かれる。
『銀臣』
と、その時だ。ボクが一人になるタイミングを探していたのか、姫が隣に現れた。彼女に倣ってアリアとアンナも同時に出現する。
『ご主人たま、少しお休みになられてはいかがでしょう』
「え、特に体調は悪くないよ。むしろ今すごいやる気に満ち溢れてるんだけど」
アンナの提案、ボクは訝しんだ。実際問題、ボクは今までに無いくらいモチベーションまみれだ。
だけど今度はアリアがボクの頬を抓ってきた。
「いででででで」
『自分がどんな顔してるか分かってるご主人たま!? 酷い顔だよ』
「せめて酷い顔色って言ってくれない!? ちょっと傷つくんだけど」
アリアに抓られた頬を擦りながら言うと、姫が仏頂面のままコンパクトミラーを取り出してボクに向けた。
「っていうか、姫も化粧するんだ」
『当たり前でしょう、引っ叩きますわよ。他にも隈が酷いときにファンデーションで無理矢理誤魔化しますわ。ともかく保健室に行きますわよ』
グイグイと引っ張られ、やってきたのはお馴染み保健室。ドアを開けると保険医の先生がこちらを見ていた。
「おぉ小鳥遊、今日もサボりか?」
「最近はサボってないですよ、ちょっと寝不足でフラっと来ちゃったので」
「そうか、ベッドは開いてるから好きに使え」
我が校が誇る不良保険医、名を有川。銀縁のフレームメガネに本人が不養生だろと思うほどのクッキリした隈。
極めつけは咥えタバコと学校側はなぜ彼を保険医として雇い続けているのか不思議に思ってしまう。
まぁボクとしては対して理由も聞かずに保健室を使わせてもらっていたこともあり、彼のことは悪く思っていない。というか学生会入りしてから知ったことだけど、有川先生は生徒に割と人気らしい。
『相変わらず煙い保健室ですわねぇ』
といっても姫はここに来るたび鼻を摘んでカードに逃げたりするけど、今日はどうやら違うみたいだ。
保健室の中で小分けされている個室に入って上着を脱いでワイシャツのボタンを緩めると個室の中で姫たちにどうするのかというジェスチャー。
三人は顔を見合わせると拳を突き出す。そして何をするのかと思えば、
『──じゃんけん、ポン!!』
ジャンケンだった。ちょっとシリアスな顔で拳突きつけてるから何事かと思った。
初手、姫はパーでアリアとアンナはグー。つまり姫の勝ちだった。
『やったー! 勝ちましたわー!!』
両手を上げてぴょんぴょん跳ねる姫を横目に、アリアとアンナは特別悔しそうな素振りを見せずに『白銀の迷宮城』のカードを取り出す。
『では先に準備して待ってます』
『また後でね、ご主人たま~』
「え?」
問いかけに答える間もなく二人は光の粒子になってカードへ吸い込まれていった。
首を傾げていると姫がわざとらしく「ごほん」と咳払いをした。
『それじゃベッドに横になりなさい。あ、眼鏡はキチンと外しておくのよ。壊しても私弁償出来ませんからね』
言われるがまま、普段寝る時のようにメガネを外してテーブルに置いておく。枕に頭を預けようとした瞬間、姫に枕を放り投げられてしまった。
床にボトッと落ちた哀愁漂う枕を見て一言。
「床で寝ろと?」
『違いますぅ! えー……っと、説明するのも野暮ですからさっさと寝なさい、ほら』
ぽんぽん、姫が自分の膝を叩いて言う。それはもしかして俗にいう────
「膝枕……なぜ?」
『理由は
おいおい、恥ずかしいのが姫だけだと思うなよ。ボクだって恥ずかしいから、現に今心臓がバックバクで眠気とか吹っ飛んじゃったから。
恐る恐る姫の膝に頭を乗せる。すると並の枕じゃ味わえない感触が後頭部から伝わってきた。
『だ、大丈夫かしら』
「めっちゃ高い……く、首が」
『腿が太いと言いたいのかしら?』
いえ、何も。顔を見上げると、姫の顔──との間に挟まるデッカイものが嫌でも視界に入ってきたので、彼女たちの真意は分からないけど早いところ寝入ってしまった方が良さそうだった。
目を瞑ると顔を左右からそっと手で覆われる。ひんやりとした彼女の身体の奥から伝わってくるじわじわとした熱が心地よい。
「スヤァ……」
そうして抵抗し難い眠気に身を委ねてボクの意識は微睡みに溶けていく。
『やっぱり、最近禄に寝てないせいですわよ。尤も、寝させるために膝枕してあげたわけではないのですけど』
意識が途切れる前、そんな呟きが聞こえてきた気がした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
パチリ、意識が覚醒する。ボクは保健室のベッドの上ではなく、天蓋付きのベッドで横になっていた。
左右を見渡す。基本的に白を基調とした調度品の数々。そして枕元の上には騎士をデフォルメされたぬいぐるみがこちらを見ていた。
「なるほど、夢か」
デカい枕にもう一度頭を預けて寝直そう、いや夢の中で寝るってどういうことなどという野暮なツッコミは出てこなかった。
「ご主人たま、起きてください」
「夢だけど、夢じゃないんだから」
その時、布団を引っ剥がされる。意識がハッキリしているボクは寝ぼけ眼を擦ることなく身体を起こし──
「ぎゃッ!」
「痛った~~~~~~~!!」
ボクの顔を覗き込もうとしていたアリアに盛大に頭突きをかましてしまい、気を失いそうになった。
ぶつけた箇所を擦りながら身体を起こしてベッドから出る。というかベッドが大きすぎて降りるまでに移動が必要なんだけど……
「おはようございます、ご主人たま。ようこそ【
「歓迎するよご主人たま! あっ、でもはぐれないでね。城の中、罠だらけだから!」
サラッと怖いこと言わないでほしい。だけどアンナから離れなければ基本大丈夫だろう、アリアについていくのはなんか……不安だ。
窓の外を見る。するとこの部屋の中と同じく外観が全て白銀一色でひと目で心を奪われてしまった。
そうか、これがいつも君が見ている景色なんだ。
部屋を出ると、すぐに大回廊がある。
大回廊前には魔神像がスタチューのように佇んでいた。だけど横目でちらりとボクを見つけると硬質化を解いてボクに手を振ってきた、可愛いな。
そのままちょっと歩くとアンナとアリアに引きつられてエントランスに出る。確か、エントランスには普段彼らがいるはずだ。
「竜飾灯、火吹炉、狂時計がここの担当だったよね」
「……正解です」
名前を呼ばれたと思ったのか、クロたちが近づいてくる。というか振り返るとどうやら大回廊からこっそり魔神像もついてきていた。
そしてエントランスを抜けると、外の世界を臨むように彼女は城に背を向けていた。というよりは、城を背負っているのだろう。
「ようこそ銀臣、歓迎致しますわ! っていっぱい連れてきたわね……」
「ただ城の中を歩いてただけなんだけどね……」
振り返るとラビュリンスの下級家具たちが勢揃いだ。だけどきっと、ボクの知らない家具もきっといるはずだ。
「他の子たちはいずれ紹介しますわ」
「中姉様たちは都合が合わなかったのです」
ボクの心の中を読んだかのように姫とアンナが言った。大庭園の護りを任されてる
「それでボクはどうして【白銀の迷宮城】に?」
「厳密にはここは私達の本当の城ではなく、言わば貴方のデッキの
さらっと超原理が働いている。明晰夢みたいなものだろうか、それなら納得だ。
だって彼女は悪魔だからね。
「そうそう、他の精霊仲間にも確認を取っておりますのでご心配なく」
姫、他の精霊の友達いたんだ……って言うと睨まれそうなので言わないでおく。
彼女がどうやってボクをここへ連れてきたのかはだいたい分かった。けれどどうして連れてきたのか、はまだ説明されていない。
「あなた、あのアズミって娘と戦うにあたってどんな準備をしていたかしら?」
「えっと……【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】は魔法・罠には効果が対応していないから罠を厚めにしようかと思ってた」
ボクが言うとみんながうんうん、と頷いた。概ね好意的な反応、のはず。
「確かに一理あります。でも【次元障壁】他、シンクロ召喚を阻害する罠は採用しない、と言っていたわね」
「うん、これに関しては理由があるんだ。
「聞かせてもらっても?」
「恥ずかしいから嫌だ! 絶対言わないよ!」
本人を前に言えるわけないだろ、ましてや彼女のテリトリーでそんなこと白状したらボクは恥ずかしさで蒸発して死ぬ!
急に大声を出したから、姫もアリアリ姉妹も家具のみんなもギョッとして引いていた。
「と、とにかく……確かに私たち【ラビュリンス】は罠を扱うことに長けたテーマですが、重要なのはそれとは別に悪魔族をサポートし、逆に悪魔族サポートの恩恵を受けられる、ということですわ」
「なるほど……」
確かに忘れていた。彼女たちだけでも完結したデッキを作ることは出来る。それだけ【ラビュリンス】はテーマ単位で機能する強さを持つ。
だけど彼女たちから他の悪魔族に歩み寄ることだって不可能じゃない。
「というわけで本日は私たちと共に戦うべき、いわばラビュリンスの客卿を採用するための面接会を開催致しますわ!!」
「なるほど分からない!! 面接って?」
「えぇ!」
そうして【白銀の迷宮城】メインゲート前に設えられた長机と椅子。ボクの席の前には『マスター 小鳥遊銀臣』と書かれたプレートがあり、姫の前には『城主』とだけ書かれたプレートがある、シュールすぎる。
ちなみにアリアとアンナの二人はというと並んでいる候補者たちの列を整理していた、なにこれ?
「それでは、お名前と特技を上げてもらいますわ。最初の方、どうぞ」
「【魔サイの戦士】と申します。特技は場にいると悪魔族を戦闘・効果破壊から守ることが出来、墓地へ送られた際には他の悪魔族の方をデッキから墓地へ送ることが出来ます」
一番最初、ずんぐりとした身体に強そうな入れ墨とまるでそぐわない丁寧な口調で自己紹介された。
「なるほど、魔神像と同じ職場であればかなり場持ちが良いですわね、通勤手段などは?」
「【魔界発現世行きデスガイド】さんなどを考えております。ランク3やリンク2など幅広い仕事が出来ると自負しております」
すごい堅実的に自分を売り込んでる……あの魔サイの戦士が。なんという絵面だ、精霊と仲良くなるとこんな光景を見れるのか。
「銀臣のデッキには私やアリアたちが1枚しか入っていない以上、疑似サーチとして②の効果は有用ですわね。ありがとう、結果は追って知らせますわ」
深々と一礼して面接の列を離れる魔サイの戦士。そうして次のモンスターがやってくると、姫が手で自己紹介を促した。
「【トリック・デーモン】でーす、今日はよろしくお願いしまーす!」
「元気が良いですわね、その調子で特技をお願いしますわ」
「効果で墓地に送られた時か戦闘で破壊された時に、【デーモン】カードをサーチ出来まーす! お宅────じゃなくて御社であれば【白銀の城の魔神像】さんや【悪魔の技】が該当します!」
御社って言い出しちゃったよ、もう完全な就職面接だよこれ。
ともかくトリック・デーモンの効果は面白い、例えば【悪魔の技】で墓地に送るのがトリック・デーモンならその効果で2枚目の【悪魔の技】をサーチできる。
そして彼女も通勤方法が【デスガイド】だった。魔界発現世行きバスのルートの中に白銀の迷宮城前停留所が出来てもおかしくない。
「既にありますよ、ほら」
「あるんだ!?」
アンナが指す方、城のゲートから少しだけ離れたところにバス停があった。そういえば竜飾灯もレベル3だから、あのバス使えるんだ。
デュエルモンスターズの精霊界、思ったよりも変なところなんだな。
「──はい! 私は今、面接会場となっている白銀城前に来ており、城の前には長蛇の列が出来ています!」
その時だ、カメラに向かってマイクを手に持って喋ってるモンスターが目についた。列に並ぶモンスターたちに片っ端から声を掛けてインタビューを行っている。
「あのー、ここで何を?」
「あっ関係者の方ですね!? 私、【魔界特派員デスキャスター】と申します! 本日はどういった経緯でこのようなイベントを催されたのでしょうか?」
「えっと、デッキに採用する悪魔族の人を決めようと思ってて……」
ボクが言うとキャスターの人はうんうん唸り始めてから、カメラに向かって色々捲し立てていた。
っていうかこれキャスターじゃなくてリポーターっていうんじゃ……?
「あっ、ちなみに! 私は場のモンスターの破壊を、悪魔族をリリースして防ぐことが出来ます! あとあと、手札を1枚頂きますが墓地の悪魔族の方々を特殊召喚出来ます!」
「ふむふむ……じゃあキャスターさんも悪魔族だから他のカードの代わりにキャスターさんをリリースしてもいいんだ?」
「酷いッ!? ま、まぁ出来ますけど……」
「さらにEXデッキの人だからメインデッキを圧迫せずに済むし、【強欲で金満な壺】や【金満で謙虚な壺】のコストにしてドローも出来るね」
「さらに酷いッ!?」
ラビュリンスの弱点として、罠を厚めに構築するとその中だけで対応しなければならないという点がある。
本来相手の展開を阻害しあらゆる行動を封殺すればそれだけで事足りるのだけど、ボクのデッキは封殺系の罠が殆ど入っていない。
【迷宮城の白銀姫】でいざという時はアクセス出来るけど、
だからEXデッキのモンスターや、罠カードに頼らないラビュリンスらしさの無さで相手を迎え撃つことも視野に入れなければならない。
「銀臣」
ボクが立ち尽くして思案していると、長机から離れて姫がやってきた。ボクと姫の席にはいつの間にかアリアとアンナが座っていて面接の役割を変わってくれていた。
「ごめん、すぐ戻るよ」
「そうではなくて、この世界で一人で考え込むのはやめなさい。みんな、あなたのカードなのだから」
その言葉に、ボクは面接の列を見やった。そしてそれらのモンスターには全て見覚えがあった。
「ボクが家のアルバムに保存してるカードがここにいるんだ」
「そう、白銀の城の客卿として優秀なカードは彼らだけじゃない。中にはもっと有能な者もいる。だけど彼らが率先してこの場所に来たのは、あなたの知るカードたちだからですわ」
それを聞いて、ボクはほんの少しだけ姫が意地悪に思えた。
「採用を見送るカードたちに、なんだか申し訳ないな」
「はぁ……精霊と話が出来るデュエリストって、難儀ですわねぇ」
「難儀の種がよく言うよ」
けれど、それがデュエリストにとって必要な葛藤なんだろうな。
数万種類あるカードの中から、自らの臣たるカードを選び抜いてデッキを作り上げる。
ここにいるモンスターですらそもそもが、ボクの持っているカードの中で【ラビュリンス】でサポートできる、または【ラビュリンス】をサポートできるカードたち、その上澄みだ。
「もっとちゃんと向き合わなきゃな」
頬をピシャリと打って、気合を入れる。
アリアが偉ぶって座っている席に戻ると、面接を再開することにした。
「それではお名前をお願いします」
尋ねてこそ見てみるけど、彼らがボクの持つカードの中から選ばれた存在だと聞いた後では彼らひとりひとりのことを思い出してきた。
「
なるほど、悪くない効果だ。このデッキは【ウェルカム・ラビュリンス】のように墓地からセットし直せるカードがある以上、継続的にセットカードを用意しやすいため彼の制約を受け辛い。
さらに言えば攻撃力倍加効果も優秀だ。ライフカットに少々難のあったこのデッキにおいて、とても有用な効果だと思う。
相手のカードの効果を受けない等の、俗に言う完全耐性を持つモンスターは攻撃力が3000近辺であることが多く、その多くを上から戦闘で処理出来るようになるのはカード効果による除去をメインに据えたラビュリンスにとって追い風だ。
「アリアが【
「ぴよ?」
「あぁ、ごめん。そこら辺の藪から飛び出してくるからさ、君」
「でも、五虹の効果って最悪ボクにも及ぶし相手がセットカード4枚用意してきたら相手の攻撃力が倍になるってことだよね」
「そこは大丈夫かと。今どきセットカード4枚をキープ出来る陰湿なデッキを使ってるようなのはそういませんから」
「辛辣~! えぇ、耳痛……」
でも確かにその場合は最悪、五虹の魔術師自体をこちらのカードで破壊してしまうか相手のセットカードを除去してしまえば実質的なコンバットトリックに繋がるから悪くはないか。
「採用、これからよろしくね」
「ありがとうございます」
立ち上がった五虹は一礼すると城の門を潜る。アリアと魔神像がどこから持ち出したのか、クラッカーで盛大に出迎える。
それからも数人、その場で採用を決めたり保留にしたモンスターたちが城の門に招かれていく。
それでもやっぱり、デッキのコンセプトに合わせきれないモンスターたちは出てしまって。
彼らが肩を落としてバス停の方へトボトボと歩いていくのを見て少しだけ心がキュッとなった。
ボクなんかに、いらないって言われてしまった彼らの気持ちはきっとボクの想像以上だろう。
「ご主人たま」
バス停を眺めてずっと黙っていたボクの横にアンナがやってきた。姫やアリアたちは客卿として迎えたモンスターたちを持て成していた。
特に今回採用を決めたモンスターの多くはアリアが自身の効果で連れてくることが出来るモンスターたちだ。彼女はこうしてテーマの外の悪魔族と友達になることに長けたコミュ力お化けなのだ。
「あまり気になさらないでください、姫様もご主人たまにそんな顔をさせたくてここに呼んだわけじゃないのです」
「……うん」
気の利いた返事も出てこないくらいには、ボクは深く考えすぎていたみたいだ。
「ボクがもっとすごいデュエリストだったらさ、今回採用を見送った子を活かしたコンボを思いついたり出来たのかもなって思うとどうしてもね」
願わくば、ボク以外の誰かが彼らを拾い上げてくれることを切に願ってやまない。
だけどそんなボクを見て、アンナは深い溜め息を吐いた。
「ご主人たま、申し訳ないのですがそれは思い上がりだとアンナは考えます」
予想外のバッシングに面食らっていると、アンナは袖に隠れたままの手でボクの手を取った。
「例えご主人たまがすごいデュエリストだったとしても、彼らを活かしたコンボを思いついたとしても、
自分の力量、というか身の丈にあったところで頑張れ。アンナは遠回しにそう言っていた。
彼女はボクがデッキを調整するたびに今回のように思い悩んでいたら、きっといつか壊れて使い物にならなくなることを危惧してくれているのだ。
「ですが、もしもアンナが彼らと同じ立場だったなら……」
アンナはそう言ってバス停の方を見やった。するとバス待ちで立ち尽くしていた彼らは一同、ボクの方を向くと一礼したり軽く手を上げて挨拶していた。
「そうやって心を痛めるほど真剣に考えてくれて、最後に見送ってくれるだけでもきっと嬉しいはずです。そしてそんなご主人たまをアンナは誇りに思います、自慢の主です」
アリアに比べて慣れてないように胸を張るアンナ。厳しいようで徹頭徹尾、ボクを気遣ってくれた彼女に頭が上がらない。
せめて彼女が胸張っていられるようなデュエリストであることを心がけよう。
「ところでご主人たま、なぜ【次元障壁】のような召喚に制限を掛けるカードを採用しないのですか?」
「い、言わないって……」
「まぁまぁ、姫様やアリアには黙ってますので」
チラリと横目で姫たちを見る。どうやら白銀の迷宮城ツアーが始まりそうで、確かに彼女たちはボクの呟きなど意にも留めないだろう。
それでも彼女たちの誰かに言うのはすごい恥ずかしいけど、言わなきゃ逃がしてくれそうもない。
「……【ラビュリンス】はさ、城にやってきた相手を罠で手厚くおもてなしするテーマだって前に言っていたから、そういうカードで相手のデッキの可能性を潰すのはきっと姫も望まないんじゃないかって思って……」
数日かけ夜なべして作った罠を侵入者に披露することを生きがいにしている彼女にとって、侵入者の存在そのものを寄せ付けないような罠は極力入れないようにしたかった。
だからこそ、ボクが風舞さんに挑む上で必要だと思ったから【次元障壁】を始めとするシンクロ召喚を阻害する罠を採用しろって、恐らく姫も断腸の思いで提案してくれたんだ。
今まで一緒に戦ってきて、彼女たちにも気に入る罠とそうじゃない罠があることは分かっていたから。
「そしてどうせなら、クリアウィングだけじゃなく風舞さんにも楽しんでほしいんだ。ボクと、みんなで作り上げた白銀の城を」
白銀城を見上げて言う。ボクたちが全力でもてなすんだ、絶対に楽しんでもらう。
決意を新たにしていると、アンナはまたしても小さくため息を吐いた。
「……姫様がご主人たまを選んだ理由が分かりました。そして、アンナが貴方を
アンナはそう言うと胸の前で手を重ねると、手のひらの上に淡い光が集まっていきそれが1枚のカードを生成した。
差し出されたそれを受け取ると、暖かな熱を放つ【白銀の城の召使いアリアンナ】のカードだった。
「こ、これがソシャゲ式のカード生成……」
「茶化さないでほしいのですが」
先程以上の大きなため息を吐かれてしまう。だけどその後にアンナは薄く微笑んだ。
「新たな客卿の方々はアリアが纏めあげてくれますが、そのアリアにアクセスするにはアンナの力が必要かと思われましたので」
「うん、ありがとうアンナ。大事に使わせてもらうね」
「貴方たち────ー!! 置いていきますわよ~!!」
その時だ、入り口の方から姫が手を振ってくる。他のみんなも待ってくれている。
アンナはボクの手を取って振り返る。
「行きましょうご主人たま、他にも案内していない場所がたくさんあるのです」
「……罠がある部屋は事前に教えてね」
「それは出来ません、ネタバレしたらつまらないのです」
「いや命に関わるって!」
そんな軽口を叩きながら、ボクはアンナに手を引かれるまま城の中へと戻っていく。
数部屋紹介されたところで、集中力の持続が途切れたのかボクは微睡みの中に戻ってきていた。
薄く目を開けると、ぐっすり眠った後の心地よいぼんやり感が全身を満たしていた。
感覚としては夢を見ていたような気分だ。今までのはもしかしたらボクの妄想だったんじゃないか、と思ってしまうほど。
だけど、決してそうじゃないと言い切れるのは手の中にアリアンナのカードがあったから。
ボクは枕元のデッキケースを開くと、その中に彼女のカードをしまった。
まぁ、私は積むんですけどね! 次元障壁!!
なんならトラップトリックと合わせてガン積みですよ。
ただ物語にする上で個人的に「毎度同じ展開にしない(初動のテンプレの動きなどを除いて)」や「シーソーゲームを成り立たせる」を目標に書いている部分があるので、銀臣がこういった展開阻害の罠を使う機会は少ないと思います(無いとは言ってない)
以前、ちょろっと話題になった話ですが【ラビュリンス】がEXデッキに触るのは強いのかどうか。
言ってしまえばEXデッキは強金のコストで吹っ飛ばしてさっさとドローしてメインデッキのみで戦う方が強いと思います。
だけど、面白さなら間違いなく保証できます。
なのでEXデッキ使うラビュリンスとかラビュリンス失格だぜって方にはこのテーマが持つ無限の可能性を見せてしまうかもしれません。
銀臣のラビュリンスですが、融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム・リンク召喚に触れるように構築してあるのでこれから先お見せできたら良いなぁと思っています、ので応援よろしくお願いします。