迷宮城の冴えない男《ラビュリンス・イッパンジン》 作:入江末吉
仮眠という名の構築世界から戻ってきたボクは昼休みを利用して一度家に戻った。アルバムに保存しているカードたちの中から構築世界で仲間にしたカードを連れてくるためだ。
だけど一枚一枚探していたのでは効率が悪い、ここはアルバムごと持って一度学校に戻る方が良いかな。
『ご主人たま~、アリアが必要なカードを先にピックアップしておこっか?』
「そうだね、助かるよ」
小走りで学校に戻る最中、アリアがボクからアルバムを受け取るとまるでタブレットでも操作するようにアルバムから素早く該当するカードたちを必要枚数分抜き取って渡してくれる。
さすが、迷宮城ツアーの際率先して新顔を引率していただけのことはある。
『アリアはアンナと違って外の友達作るの超得意だからね~』
『いちいち一言多いのです。アリアだって私の世話が無かったらピン刺し重役出勤の出番なし子なのです』
『なんだと~!? ピン刺しはそっちも同じじゃん!』
『ふっ、それはどうかな? なのです』
今日も背後で仲良く喧嘩している、平和だ。いつもだったら姫がこの辺で出てきて宥めてくれるところなんだけど、今日はなかなか止めないな。
そんなことを思っているとあっという間にアカデミアの敷地内に戻ってこれた。時計を見ると五限の始まりまでまだ全然余裕がある。
教室に向かってもいいんだけど、せっかくなら学生会室の静かなところでデッキの再構築をしたいな。
思い立ったが即日、ボクは早速学生会室へ向かおうとして昇降口で奇妙な光景を目撃した。
「うん……?」
そこにいたのは長めの銀髪を一つ縛りにした男子生徒と、その生徒の半分くらいしかなさそうな背丈で蛍光色の髪色をした女の子だ。
女の子の方を女子生徒じゃない、そう確信したのは彼女が制服ではなく闇色の和装にこれまた髪色のような蛍光色のペイントを施した服装をしていたからだ。
何より、彼女には見覚えがあった。それもこの学校の生徒としてではなく、
「【
彼女の姿形は間違いなく【P.U.N.K】に属するモンスター、セアミンそのものだった。
もしかしたらセアミンの、とんでもなく高クオリティなコスプレかとも思ったけどボクには分かった。あの子は精霊で、隣の男子生徒は間違いなく彼女の主だ。
風舞さんとクリアウィングを見た時に薄っすらと感じた、主とモンスターを繋ぐ雰囲気というものが彼らの間にも感じられたんだ。
「あら……?」
と、その時だ。ボクのついうっかり口を吐いて出た独り言を捉えられてしまったのか、長身の男子生徒が振り返る。
切れ長のアメジストの双眸がボクを真っ直ぐ射抜いていた。纏う雰囲気は優しげだが彼から感じる圧のようなものに思わずたじろいでしまった。
「ごめんなさいね、学生会室はどこだったかしら? 久々に登校したものだから、ど忘れしてしまって」
そう言って彼──いや彼女? 話し方は完全に女性のものだけど──ひとまず彼は苦笑いを浮かべた。
怖い人では無さそうだけれど、胸ポケットの刺繍は青色で二年生であることを示していた。
「学生会室ですか? 良ければ案内しますよ、ボク役員なので」
「まぁそうなの!? これはラッキーだわ、ぜひお願いしようかしら!」
ボクは電子生徒手帳を提示する。ボクのプロフィールには学生会メンバーにのみ表示が許される校章バッジがある、嘘をついていないということと身分が簡単に証明できるんだ。
「小鳥遊銀臣ちゃんね、可愛らしいお名前だわ。私は……あら、生徒手帳を忘れてしまったみたい……てへ」
謎の先輩は可愛らしく舌を出して見せた。なんだか凄い茶目っ気とキャラを持つ先輩だなぁ。
ひとまず青色の刺繍ってことは、氷雨先輩が同級生のはず。彼女が学生会室にいれば身分の証明をしてくれそうだ。
「それじゃ行きましょう」
「案内よろしく~! 久しぶりに友達にも会えるかしら……ワクワク」
まるで子供のようにはしゃぎながら歩く謎の先輩、身長はボクより高いけど童心を忘れてないって感じだ。
そんな彼を他所に、ボクは彼の後ろをちょこんと着いて歩くセアミンの方が気になっていた。彼女に視線を送ると、セアミンはボクの視線に気づいた。
普段自分に視線を送ってくる相手に縁がないのか、セアミンは一瞬ギョッとした後に後ろを振り返る。が、当然ボクが視線を送ってるのはセアミン自身なので彼女は振り返ると自分を指差した、なんだその仕草可愛いな。
『──見える人、初めて』
やっぱりそうだったんだ。姫たちから聞いたことがあるけど、精霊が主と見定めても主となったデュエリストに精霊が見えるまで相応の時間が必要らしい。
ボクが姫に認めてもらったのは彼女たちのカードを手に入れた日だから爆速ということになるけど、そうじゃないデュエリストも多いと聞く。
今までも、頻繁ではないけれどカードショップでモンスターの精霊にちょっかいを出されても無反応なデュエリストを見たことがある。
きっとセアミンと彼もそういう感じなのかもしれない。
あんまりセアミンに構いっぱなしでも場が無言になって気まずいので、謎の先輩に適当に話を振ってみることにした。
「ところで、先輩久しぶりに登校したって言ってましたけど、そんなに久しぶりなんですか?」
「そうなの、なんなら昨年の夏の終わり頃から海外の姉妹校へ交換留学に出ていたのよ。今日は期間が終わって復学することになったから、挨拶がてら来てみたの」
そういうことだったのか、それにしても交換留学か……となると学校の代表として選ばれたわけだから、もしかしてこの人って実はとても優秀な人なんじゃ……
あれこれ話している内、学生会室はもう目の前。そこまで来ると謎の先輩も「そういえばここにあったわねぇ」などと感慨深そうにしていた。
「失礼します、って誰もいないのか……」
「あら残念、じゃあ待たせてもらおうかしら」
謎の先輩はそういうと学生会室に設えられている放送器具に歩み寄ると慣れた手付きで放送ボタンに指をかけた。
「生徒の呼び出しのお知らせです。学生会副会長、音喜多氷雨さん。学生会会計、音喜多陽彩くん。至急学生会室まで来るように」
「ちょちょちょ、勝手に放送器具使っちゃ不味いですよ!」
ただまぁ、ボクが呼び出すか彼が呼び出すかの違いしか無いから騒ぎ立てるほどでもないか。
ボクは所定の席につくとアリアが予め用意してくれたカードをデッキに組み込み始めた。
「へぇ、【ラビュリンス】。いいわね、今まで私の周りにいなかったタイプだわ」
「罠ビートはもはや希少種でしょうからね」
構築世界でEM五虹の魔術師も言ってたけど、今どき罠ガン伏せするようなデッキは絶滅危惧種だ。
いいんだ、例え今の主流が大量展開型ハイビートだったとしてもボクはボクのスタイルを崩さない。決して憧れがないわけではないけど……
「銀臣ちゃんはどんな決闘をするのか、見てみたい気もするわねぇ……二人を待ってる間私と決闘する?」
「いいですね、見ての通りちょうどデッキを調整した後なので試運転もしてみたかったところなんですよ」
謎の先輩はそういうと腰のデッキケースに指をかけた。瞬間、学生会室の扉が爆砕したんじゃないかと思うほどの勢いで蹴破られる。
驚いてそちらに目を向けると、氷雨先輩が珍しく額に汗を浮かべ肩で呼吸しながら、謎の先輩の方を見ていた。
「まさかとは思ったが……いつ戻ったんだ?」
「今朝よ~ん、連絡しようとも思ったんだけど……サプライズって大事にしたいじゃない?」
「お前のサプライズは心臓に悪いから、次は事前に連絡をくれ」
いつになく氷雨先輩の様子がおかしい。飄々とした態度を取れずにいるようで、それだけでこの先輩が只者じゃないということが伝わってくる。
先輩に遅れて音喜多くんと風舞さんも学生会室にやってきた。
「"ミヤ兄ちゃん"! 姉ちゃんが血相変えて走り出すからどうしたのかと思ったけど、あの放送ミヤ兄ちゃんだったのか!」
「やっぱ男ではあるんだ……」
首から上はどう見ても女の人にしか見えないくらいの美形だから自分の感覚が信じられなかったけど、音喜多姉弟はどうやら彼の知人らしい。
謎の先輩ことミヤ兄ちゃんさんは、音喜多くんを見るとこれまた女の子のような仕草で手を振った。
「はぁい陽彩ちゃん、元気してた? 二人で仲良く学生会を続けていてくれて助かったわ~!」
三人だけの空間、ボクと風舞さんは新入り特有の居辛さを感じてしまい二人で仲良く学生会室の隅で小さくなっている。
しかしそうは問屋が卸さない、ミヤ兄ちゃんさんは「それで」とこちらに目を向けてきた。
「あなたが氷雨ちゃんを倒して学生会入りしたっていう期待の大新人、風舞アズミさんね?」
「……どうも」
「手ちっちゃいわねぇ、お人形さんみたい。ちゃんと食べてる? お兄さん心配だわ」
「飯に関しちゃ俺と姉ちゃんと銀臣足しても半分に満たないくらい食ってるよ」
それは本当にそう、今年の学食は食材不足に陥ってないだろうか見てて心配になる。
というか、まだ昼食を摂ってないからお腹が空いてきた。姫たちのおかげでゆっくり出来て英気も養えた分、抗いがたい空腹感が……
ぐぎゅうううううううううう…………
噂をすれば、風舞さんのお腹が催促を始めた。ボクも音喜多くんも苦笑いしながら彼女の方を見ると彼女は無表情にお腹を擦って腹の虫を宥めた。
それを見てミヤ兄ちゃんさんは手をポンと打って提案した。
「じゃあせっかくだし、続きは学食でしましょ! アズミさんや銀臣ちゃんのお話も聞きたいわ」
異論はないのか、風舞さんもコクリと頷いて全員で学食へ向かうことになった。
しかしやっぱり旧知の仲が揃ってしまうと、ボクらが口を挟む機会は減ってしまう。
「ところでミヤ、海外留学はどうだった?」
「最高だったわ~! いろんなところに観光行っちゃったもの」
「いや観光かよ! 姉妹校の連中はやっぱ決闘強かった?」
「そうでもなかったわねぇ、氷雨ちゃんほど私を追い詰めてくる子もいなかったし……でもみんな、この学校の子みたいに目がギラギラしててそこは姉妹校ねぇ、って思ったわ」
この三人はどういった関係なんだろう、ミヤ兄ちゃんさんが現れてから言葉数がいつもに比べ激減している氷雨先輩に耳打ちするように尋ねてみた。
「ところで、彼はいったい? 頼まれたから学生会室連れてきましたけど……」
「あぁ、彼は"
「────見つけたぞ、白藤ィ!」
その時だ、廊下中に反響するような大きな声で後ろからミヤ兄ちゃんさん改め白藤先輩を呼び止める人物が。
振り返るとそこには廊下の天井に届きそうな程の長身が目に入った。さらに全身バキバキの筋肉とそれに押し上げられ悲鳴を上げる制服の生地が。
「あら~、確か料理研究部の部長さん!」
「え、あれで!?」
どう見ても柔道部とかの類なんだけど……! 人は見かけによらないな、と今日は常々思う。
『筋肉の無駄遣いではなくて……?』
いつの間にか隣にいた姫が料理部長さんを見てジト目で言った。いや、でもプロに言わせればきっと料理マッスルも必要だろう、あそこまでいるかって言われるとちょっと……制服が今にもはち切れそうになってるし。
「うちのモンがお前を見かけたって言っちょったが、まさかマジとはのう……男、花見坂! 一日千秋、この日を待ちわびた! 今日こそ学生会長たるお前をぶっ倒し、料理部の部費を上げてもらう!」
花見坂部長が決闘盤に電子生徒手帳を装填しプレートを起動させる。ボクがつけたらちょっと大きすぎるくらいの決闘盤が、花見坂部長がデカすぎてまるで玩具みたいなサイズになってる。
「っていうか、えぇ!? 白藤先輩って学生会長だったんですか!?」
「言ってなかったかしら? …………言ってなかったかもしれないわね」
「絶対わざとだろ」
氷雨先輩がため息を吐くが、ボクは驚きを隠せない。このほんわかぱっぱな陽気なオネエ先輩が、この学校の、学生の長……?
だ、ダメだ……脳がバグって機能してくれない。
「そうねぇ、久しぶりに決闘してあげてもいいんだけど……」
白藤先輩はそういうとチラリとこちらを見た。そしてボクと風舞さんとで視線を順繰りに送ると、これまたポンと手を打って提案する。
「それじゃあ私の代理で、この子たちのどちらかを出すわ。それで勝てたら部費も増やすし、なんなら会長職を譲ってあげてもいいわ。そうしたらあらゆる権限が手に入るわよ~?」
「なっ……!?」
氷雨先輩が度肝を抜かれていた、いや抜かれていたのはボクも一緒だ。いくらなんでも無茶苦茶過ぎるよこの人!
それを聞いた花見坂部長は一瞬舐められたと思ったか、カチンと来ていたようだけど破格の提案にニヤリと口元を歪めた。
「男に二言は無いじゃろうな!」
「えぇ、オネエに二言はないわ!」
「やかましい! 対戦相手はワシが選ぶがええんじゃな?」
コクリ、頷く白藤先輩。花見坂先輩は学生らしからぬ豪快なヒゲを撫でながらボクと風見さんを見て、ギョッと目を剥いた。
その視線は隣の風舞さんに向けられていた。見れば、風舞さんは無言で花見坂部長を見ていた。いやよく見たら軽く睨んでいる気さえした。
だけどその圧力たるや、空腹時に待てを言い渡された狂犬のそれ。学食へ向かうのを妨げられた風舞さんは無言で決闘盤を構えようとしていた。
ボクは察した。風舞さんが出るなら瞬殺だろうな、と。
「よし、ワシの相手はお前じゃ男のチビっこいの!」
「ですよねー」
この風舞さんを見て戦おうとするのなら、相手を見極められないバカくらいのもの。消去法でボクが相手に指名された。
しかしボクが指名されたのを見て風舞さんがボクを見る。
「変わろうか?」
「ううん、大丈夫」
彼女の気遣いを感じる。だけど、ボクは深呼吸するとゆっくりと目を開く。
手のひらにあるデッキから、強い熱を感じる。早く出せ、戦わせろと言ってるみたいだった。
隣を見上げる、姫がボクを見て小さく頷きデッキに手を重ねてくれる。
待ちわびていたんだ、白銀の新たな客卿たちが城に迷い込んでくる獲物を。
もちろん凄いプレッシャーはある。ボクが負けたら、白藤先輩は会長職を剥奪されて、このムサい花見坂先輩が上司になる。
だけど不安はなかった。
「このデュエルは、ただの通過点だよ」
風舞さんを見て呟いた。彼女に至るまでの、最初の一歩だ。
決闘盤に電子生徒手帳をセット、カードプレートが起き上がり廊下に立体幻像システムが立ち上がったとき特有の音が響く。
「決闘!」 「決闘ゥ!!」
銀臣 LP:8000
花見坂 LP:8000
「先攻はワシじゃのぉ! ついちょるわ!」
花見坂部長が手札を眺める。そして直後にボクを見る。なるほど、ボクが手札誘発の類を持っているか警戒しているみたいだ。
ただ【灰流うらら】も【増殖するG】も引き込むことは出来なかった。このまま花見坂部長の展開を眺めているしか出来ない。
「まずくないか、銀臣のデッキは先攻を取れなきゃ場合によっちゃ何もさせてもらえないぞ!」
音喜多くんの言う通りだ、罠を仕掛けて相手を待ち受けるのがコンセプトのデッキなのにゲストが来てから罠の準備をする城主がどこにいる。
ただ、隣を見やる。
『全く、舐められたモノですわね』
姫は不敵に笑みを浮かべ、花見坂部長を睨みつけていた。
そうだね、君の言う通りだ。ボクたち【新生ラビュリンス】は後手を取らされたとしても、ゲストを待たせることなんてしない。
「わしは【しゃりの軍貫】と【しらうおの軍貫】ニ体でオーバーレイ!! 二体の寿司でオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! ヘイお待ち! 【空母軍貫-しらうお型特務艦】抜錨ォ!」
【空母軍貫-しらうお型特務艦】
どうやら期待通り、花見坂部長のデッキは【軍貫】デッキ。料理研の部長らしいデッキチョイスだと思った。
「【しらうお型特務艦】は自身の効果で守備力分攻撃力がアップし、効果を発動! X召喚に成功した時、X素材にした軍貫の種類によって効果を適用する! X素材は【しゃり】と【しらうお】! よってデッキから────」
「この瞬間、手札から罠カード【無限泡影】発動! 相手のモンスター一体を対象に、その効果をターン終了時まで無効にする!」
【しらうお型特務艦】を取り囲む白波から浮かび上がる泡沫がその効果をせき止める。
まだ花見坂部長には手札が三枚あるし、通常召喚権はまだ切っていない。だけどどうやら展開はここで打ち止めらしい。
「ちぃ、カードを1枚伏せて、ターン終了じゃあ!」
「そのエンドフェイズ、手札から【
ボクの背後から現れた白銀の扉から鎧装束を身に纏った姫が飛び出し、レイピアの切っ先を花見坂部長へと突きつけた。そしてくるりと舞うように居住まいを正すと相手の攻撃に備える守備表示の構えを取る。
「さらに! 手札から【白銀の城の火吹炉】の効果を発動! このカードと手札1枚をコストに、場に【ラビュリンス】カードを一枚セットできる! ボクは【ウェルカム・ラビュリンス】をセットします!」
「わ、ワシのターンに無理くり動きおって……! じゃが、おどれのターン前に手札が1枚じゃあ、対して動けまいよ!」
花見坂部長が言う。確かに、ボクの手札は1枚。ドローフェイズにカードが1枚増えたとしても2枚。場にはモンスターと罠が1枚ずつ。
だけど、まだ自分の最初のターン前にこれほど準備出来たのはこれ以上無いアドバンテージだ。
TRUN1→2 花見坂→銀臣
花見坂 モンスター:【空母軍貫-しらうお型特務艦(ORU:2)】 【軍貫処 『海せん』】
魔法・罠:伏せカード1枚
手札:1枚
「ボクのターン!」
ドローフェイズ、これで手札は2枚。さっそく確認すると、繋がるライン。
「ボクは手札から【白銀の城の狂時計】の効果を発動! このターン、【ラビュリンス】モンスターがいる時、罠カード1枚をセットしたターンに発動できるようになります! そしてカードをセットし、【ウェルカム・ラビュリンス】を発動!」
ボクはカードの発動を宣言し、花見坂部長に優先権を一度譲渡する。
なぜなら、最初のターン手札にあり今伏せたカードは強力な効果を持つ反面、いわゆる"時の任意効果"であるため、相手にチェーンを許すと発動自体が出来ない。
だけど花見坂部長がチェーンする様子はない。なら、遠慮なくいかせてもらう。
「──ダブルトラップ! 【ラビュリンス・バラージュ】! このカードの効果は、直前に発動した罠カードと同じになる! コピーするのは【ウェルカム・ラビュリンス】!」
「ッ、本来は同名ターン1の制限がついている【ウェルカム・ラビュリンス】を実質2枚にするカードか!」
音喜多くんが適切な解説をくれる。彼とはもう幾度も決闘しているから、ボクの使うカードの効果は熟知してくれている。
さらにそれだけでは終わらない。
「さらに【迷宮城の白銀姫】の効果! 通常罠カードが発動した時、同名カード以外の通常罠をデッキからセットする! ボクはデッキから【メタバース】をセット!」
「くぅ~! まどろっこしい奴じゃあ! さっさと掛かってこんかい!」
花見坂部長がボクのチェーン処理に目を回している。どうやら相手の展開を見極めて、カウンターするというのは性に合わないタイプみたい。
「【ラビュリンス・バラージュ】と【ウェルカム・ラビュリンス】の効果を処理! ボクはデッキから【白銀の城の魔神像】と【白銀の城の召使いアリアンナ】を特殊召喚! 特殊召喚した魔神像の効果でデッキから攻撃宣言時に発動できる罠をセットする! ボクは【フェアーウェルカム・ラビュリンス】をセット!」
『ふふん、アリアよりも先に場に出てやったのです。どうだ、なのです』
『ムッカ~! ご主人たまなんでアリアが先じゃないの!?
いや、そういうわけにもいかないんだよ、アリアがアンナを呼んだ場合は守備表示になっちゃうからね。
ともかくアリアが早く呼び出せとゴネるので、プレイを進めることにした。
「【アリアンナ】の効果でデッキから【白銀の城の召使いアリアーヌ】を手札に加え、通常召喚! さらに【アリアーヌ】の効果を発動! 今伏せた【フェアーウェルカム・ラビュリンス】を墓地に送り、デッキから【白銀の城の竜飾灯】を守備表示で特殊召喚!」
これで白銀の臣下が勢揃いだ。姫も戦闘装束を身に纏って仕掛けと準備は万端。
「【白銀の城の魔神像】は墓地の通常罠カードの種類1枚につき、攻撃力が400ポイントアップ! 今、ボクの墓地には通常罠カードが5種類! よって攻撃力は2000ポイントアップ!」
【白銀の城の魔神像】 ATK2000→ATK4000
「攻撃力、4000じゃとぉ!?」
「5種類……? 【無限泡影】、【ウェルカム・ラビュリンス】、【ラビュリンス・バラージュ】、【フェアーウェルカム・ラビュリンス】の4種類じゃないのか?」
「いえ、恐らく【白銀の城の火吹炉】の効果でコストにしたカードが通常罠だったのよ。なんのカードかは花見坂部長と銀臣ちゃんのみぞ知る、ってワケね」
ミヤビ会長の言う通り、ボクがコストにしたのは通常罠カード。さっきのターンでは必要なカードではなかった上、どちらかといえば
ちらりとフィールドの姫を見やる。ちなみにボクの場に二人の姫がいるけど、精霊の姫は最初に場に出た白銀姫の方に宿っている。彼女はボクの方を見ると小さく頷いた。
彼女も同じ考えだったらしい。このターンでケリをつける、という合図だ。
「【迷宮城の白銀姫】を攻撃表示に変更し、バトルフェイズ! 【白銀の城の魔神像】で【空母軍貫-しらうお型特務艦】を攻撃! 《大回廊魔神剣》!」
「ぐぅ!」
大剣を大上段に構えた魔神像が勢いよく地を蹴り、空母軍貫を対艦刀でバッサリと両断する。
花見坂 LP8000→6450
「【アリアーヌ】と【アリアンナ】でプレイヤーにダイレクトアタック! 《デーモン・グリッチ》!!」
『えいやー』
『往生せいやー!!』
アリアとアンナは各々が持つ燭台スピアと鍵付きウィップを巧みに振るい、確実に花見坂部長のライフを削り取った。
「ぐぅぅぅっぅ!!! まさかこのチビがここまでやりおるとはッ!」
花見坂 LP6450→3050
「【迷宮城の白銀姫】でトドメだ! 《ミノス・タイラントセイバー》!!」
「笑ォ止! 怒涛の展開は大したもんじゃったが、ライフ計算をミスっちょるようだな! ワシのライフは辛うじて50残るわ!」
どうやら花見坂部長はわざわざ墓地には通常罠が5種類あるって言ったにも関わらず確認を怠ったらしい。
「いいえ、墓地からトラップ【スキル・サクセサー】を発動! 【白銀姫】の攻撃力をターン終了時まで800ポイントアップさせる!」
「墓地からトラップじゃとぉ!?」
【迷宮城の白銀姫】 ATK3000→ATK3800
『これで
闘気を得て強化された姫の繰り出すフルーレの神速の一閃。
切り裂かれた花見坂部長は、立体幻像ではなく本当に一撃をもらったかのようにその場に立ち尽くして口をあんぐりと開けていた。
花見坂 LP0
Win 銀臣
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「わ、ワシが、一年坊主に……負ける、じゃとぉ……」
思いの外ショックを受けている花見坂部長。立体幻像の解除と同時に精霊化した白銀の城の面子が親指を立ててくれる。
『なかなかナイスな采配でしたわね、でも相手の伏せを警戒せずリソースを使い切ったのは少々いただけませんわね』
「そうだね、そこはボクも反省点だと思うよ。でもほら……風舞さんアレ以上待たせたら乱入してきそうだったし……」
チラリと風舞さんの方を見る姫。決闘前と比べると幾らか圧力は弱まっているものの、それでも空腹によるストレスは耐え難いらしい。
小さく嘆息すると、風舞さんも小さく親指を立てて健闘を称えてくれた。
「ナイファイ銀臣! ワンキルなんてやるじゃん!」
音喜多くんが手を差し出してくるので勢いよくハイタッチを交わす。氷雨先輩も小さく手を出してくるので合わせるようにこっちはポンとタッチ。
しかしながらミヤビ会長はわなわなと拳を握りながら震えていた。
「あの、かいちょ────」
「凄いわ銀臣ちゃぁぁぁああああん!! 本来先攻取れないと厳しいラビュリンスで後攻、しかも1ターンキルなんて流石だわ~!」
ガッ!! と物凄い勢いで抱きつかれた。顔が女の人みたいだから脳みそがバグるけど、力はそれなりに男性のそれで何が言いたいかって全身がポッキリ逝きそう。
「期待の新人じゃない氷雨ちゃん!」
「あぁ、本当にな」
この学校のナンバー1とナンバー2に期待されているなんて、この決闘が始まる前のとはまた別のプレッシャーが掛かる。
だけどそれ以上に、大きなプレッシャーは…………
振り返る。小さく微笑む彼女の笑顔に込められた期待の眼差しが、何よりも一番強敵だと思った。
「ところで風舞さんお昼何食べる?」
「寿司、今日はこれ以外ありえない」
「流石に学食に寿司は無いよ……」
「そう……」
でも稲荷寿司くらいならもしかしたらあるかも? ボクもなんだか酢飯の気分になってきた。
項垂れる花見坂部長を置いてボクたちは学食への道を急いだ。
と、その時だ。視界の端に映った蛍光色の髪、さっきのデュエル中からずっと会長の隣にいたセアミンがボクの方を見ていた。
『おめでとう、良い決闘だった』
「あ、ありがとう……」
表情による感情表現がやや乏しいセアミンだったけど、よーく目を凝らしてみると口元が綻んでいる。
『立ち話していたら置いていかれますわよ』
姫がまんざらでも無さそうにしながら注意をしてくれる。ボクたちは風舞さんたちの少し後ろを歩きながら話すことにした。
といっても、あんまりペラペラ喋っていたら事情を知る風舞さん以外に怪しまれかねないので会話は最小限に留めないと。
「そういえば、今日会ってから一つだけ質問したいことがあったんだ」
『……?』
セアミンは小首を傾げて疑問符を浮かべる。その少女漫画チックな仕草に思わずキュンとしそうになる。
ボクは小さく咳払いをすると意を決して尋ねてみることにした。
「セアミンって、男の子なの? それとも女の子なの?」
『なーにを聞いてるんですの!? 我が主ながらバカなの愚かなんですの!?』
どこから取り出したのか、古き良きハリセンでボクの頭を思いっきり引っ叩く姫。
でも気になるじゃん! せっかくセアミン本人がいるんだから聞いてみないと一生後悔すると思ったんだよ!
そんなボクの質問にセアミンはほんの少し思案するような仕草をしてから口を開いた。
『……内緒』
薄く微笑みながら指先を口先に当てる彼あるいは彼女の仕草に、ボクは今日イチ心を揺さぶられることとなった。
コナミさんはお願いだからセアミンのテキストに「このカードはルール上男の娘としても扱う」って書き加えてほしい。
ちなみに私はセアミンが男の娘でも多分美味しくいただけます、むしろ男の娘だった方がお得かもしれんと思っています。でも女の子セアミンの方が読者のみんなもダメージが少ないと思うので、とりあえず拙作のセアミンは女の子です。