迷宮城の冴えない男《ラビュリンス・イッパンジン》   作:入江末吉

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お久しぶりです(2枚目)


第十四話:白銀の城防衛戦 -夏の陣-

 

 不思議な陽光煌めく精霊世界に、荘厳に佇む白銀城。

 その綺羅びやかだが重厚感のある扉の前に一人の騎士が立っていた。

 

 彼女は今日もまた、この迷宮城を攻略しに来た。

 既に何度も挑戦しているのだが、場内に滞在できる時間はごく僅かに限られておりたった一度の踏破では全ての部屋を探索出来ないようになっている。

 

 騎士が一歩を踏み出すと大扉は一人でに開く。既に訪問を把握されているのだろう、手に握った剣をより一層強く握り一歩を踏み込んだ。

 

 

「「――ようこそおいでくださいました、騎士様」」

 

 

 エントランスホールでは二人の姉妹――【白銀の城の召使いアリアンナ】と【白銀の城の召使いアリアーヌ】が恭しくカーテシーで出迎えた。

 もはや見慣れた二人組だが、今回はどのような罠を張り巡らせているのか。

 

「それじゃあ早速、先手必勝!」

 

 アリアーヌがそう叫ぶなり、エントランスの床に真四角の切れ込みが現れた。

 かと思えば突然床が開き騎士は巨大な落とし穴のような空間に飲み込まれる、この城に突入した時いつも挟まれる毎度お決まりのランダム転移だ。

 

 

【ダストシュート】によって騎士が送り込まれたのは城の地下水路。

 しかしこうやって侵入者を招き入れる――という表現が正しいかはさておき――ためか、イメージしている地下水路よりは遥かに小綺麗だ。例えるのなら趣の変わった流れるプールにさえ感じる。

 

 水路を進んでいくと、上階へ通じる階段を発見した。

 だが当然ながらここはダンジョンの一画、待ち受けている守衛がいないわけもなく。

 

『さぁ出番だよ! いけー"バージェストマ"&"スプライト"軍団!!』

 

 どこからか響くアリアーヌのアナウンスと共に、水路の中から勢いよく飛び出してくるのは古代の海洋生物を模したトラップモンスターと、色鮮やかなエネルギー生命体たち。

 先陣を切ってきたのは【バージェストマ・アノマロカリス】と【スプライト・エルフ】、凶悪な形の鋏を利用しての近接攻撃。それを手持ちの剣で一閃、弾くと一旦後退する。直後、今まで立っていた場所に紅色をした放電攻撃が突き刺さった。

 

「新手か」

 

 今まではいなかったタイプの尖兵だ。しかしこの城の守りを任されるモンスター、なにかあると感じていた。

 迫りくる【スプライト・キャロット】と【スプライト・レッド】を切り捨てながら水路の奥を睨む。

 

 階段前を塞ぐように立つ巨大なエネルギー体によって繋ぎ止められている巨大な鎧、【ギガンティック・スプライト】だ。

 彼の放電現象に続けて、どこからともなく新たなモンスターたちが呼ばれ出てくる。そして現れた二体のモンスターが輪を描いて巨大な渦の中へ飛び込み、その渦から溢れ降り注ぐ光の中には別のモンスターの姿。

 

「【神隠し鬼火丸】」

 

 厄介な効果を持つモンスターだった、以前どこかで斬った覚えがある。

 そうして無尽蔵に現れるのは、レベル2、ランク2、リンク2のモンスターたち。

 

 なるほど、一筋縄ではいかなさそうだ。

 そう思いながら水路を駆け抜け、【ギガンティック・スプライト】を一刀の元に斬り伏せた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「え、水路突破された? マジ?」

 

 数分後、命からがら逃げ帰ってきた斥候の【八咫烏】がそう告げた。アリアーヌは持っていた軽食を落としそうになった。

 地下水路には銀臣に無理言って組み込んでもらった『何かしら2(アリアーヌ命名)』のメンツを充てがっていたはずで、ランダムダンジョンの中では比較的攻略難度が高かったはずである。

 

「確か【夢幻崩界(デストロイメア)イヴリース】もいなかった? え、騎士様がイヴリースを盾にしながら突っ込んできた? イヴリースは友軍からの攻撃で爆散? んなアホな」

 

 哀れ、強力な制圧効果を持ちながら攻撃力と防御力を持ち合わせなかった故の末路である。

 言っていたところで仕方が無い、アリアーヌは嘆息しながら城内マップを見やる。

 

「地下水路を突破してきた、ということはもう一回城門前の噴水広場に出てるはずだからエントランスから正面突破してくる可能性が高い、はず」

「だよね、時間を稼ぐなら大回廊に回ってもらおっか」

 

 アリアンナの言葉に頷くアリアーヌ。

 

「よし、大回廊組聞こえる? そっちに騎士様を誘導するから迎撃用意しておいて」

『全く……なんでボクが……』

 

 連絡用の通信端末に呼びかけると通話先からボヤキが聞こえてきた。

 確か新顔で、名前は【デスピアの導化アルベル】だったはずだ。彼は大回廊で【白銀の城の魔神像】や【魔サイの戦士】と同じ場所を守護させていた。

 

「新人くん、魔サイの戦士は悪魔族なら守ってくれるけど天使族はサービス対象外だから早いとこ変身しておいた方がいいよ」

『はい、力が至らずすみません……精進します』

『キミその見た目でめちゃくちゃ殊勝だな……ってうわっ! 本当に来た! やるしかないか……!』

 

 通話の向こう側で竜の咆哮が轟く。どうやらアリアーヌのアドバイス通りに【赫灼竜マスカレイド】へと変身を遂げたようだった。

 続けて聞こえてくる爆発音やら剣戟音、大回廊で騎士が足止めを食っているのは間違いないようだった。

 

「どうですの、アンナ。首尾は上々?」

「大回廊チームは魔神像がタンク役を引き受け、魔サイくんの加護でチーム全体に破壊耐性をつけ、新人のピエロドラゴンが着実に相手を消耗させます。いくら騎士様と言えど突破は容易ではないかと」

「ピエロドラゴンて……」

 

 思いの外辛辣なアリアンナに、着替え中の姫はたじろいだ。

 しかしながらどうしても不安は拭いきれない。数々の戦いを経て、騎士の評価は化け物級だとこの城の誰もが認めているからだ。

 

「狂時計、タイムリミットは?」

 

 姫が尋ねると狂時計は特殊なデジタル模様の時間を浮かび上がらせる。残り40分ほどとなっていた。

 制限時間を1時間とするなら、地下水路をたったの20分近くで踏破してきたことになる。地下水路のチームも急造ながらシナジーの厚いチームだったが故にやはり油断ならない。

 

「まぁ大回廊がやばそうなら(ワタクシ)自ら出向きますわ!」

「姫様、そう言って自分が行きたいだけなのでは」

 

 図星を突かれて何も言えなくなる姫なのであった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「(くそっ、なんだってボクがこんな……!)」

 

 アルベルは毒づく。眼の前の騎士は涼しい顔をしながらこちら側の間隙を縫うように攻撃を繰り出してくる。

 

「(スタチュー(デーモン)のおかげでこちらへの攻撃頻度はほぼ皆無に等しいが、これだけの戦力差があってなお戦局は拮抗、何か一手でも向こうに決め手があれば瓦解する……!)」

 

 魔神像が繰り出した大剣の一撃をバックステップで回避する騎士。ちらりと横目で魔サイの戦士を見やる、この戦いの要が呪いを唱えこの場の全員を守っている魔サイであると即座に見抜いたようだった。

 だが踏み込んでの一閃は魔神像が割り込ませた大剣を盾にすることで攻撃の直撃さえも防ぐ。

 

「(流石に戦い慣れているということか、二体のコンビネーションは大したものだが……)」

 

 ただ見ているだけでは芸が無い。竜化し【赫灼竜マスカレイド】として場にいるアルベルは口腔から名に恥じない灼熱を吐き出す。

 光線もかくやという出力の炎が騎士へ直撃する――かに見えた瞬間。

 

 騎士はすぐさま魔神像との打ち合いをやめて、その手に持ったなんの変哲もない剣で炎のブレスを両断した。

 

「(デタラメすぎる……! なんだあのバカ突破力は!)」

 

 力もそうだが、対応力が並ではない。あんなにも涼しい顔でどれだけのダンジョンを踏破してくればあそこまでやれるというのか。

 半ば辟易していると、大回廊の後ろからバタバタと足音が連なる。

 

「加勢する」

「私も前に出ます!」

 

 そう言って現れたのは、輝く甲冑に全身を包んだ騎士。声音で辛うじて女性型モンスターだと分かる一方と、身にまとう鎧は同じく白銀で金の髪を結った言うなれば"聖女"。

 

「(【教導の騎士フルルドリス】と【教導の聖女エクレシア】だと!? ここの城主はゲテモノなのか、見境が無さすぎる!)」

 

 フルルドリスは魔神像と切り結ぶ騎士目掛けて突撃し、右手の剣を振り下ろす。騎士はそれをするりと回避すると、回転の勢いを乗せた斬撃を繰り出す。

 

 が、その一撃はフルルドリスの左前腕に装備された盾によって防がれる。

 

「なんでもいいか……魔神像! 【教導(ドラグマ)】の二人に任せて一度下がれ! この大回廊を支える上でエースはお前だ。ボクと魔サイで後方援護する」

 

 アルベルが叫ぶと、魔神像は一度面食らったようにモノアイをパチクリさせてやがて指示通りに一旦後退する。

 少し距離を取るとなおのこと騎士の規格外さが分かる。教導国家を代表する騎士であるフルルドリス相手に全くといっていいほど引けを取らない。前に残してきたエクレシアが助太刀しようにも、自身が切り込んだ瞬間にそれがフルルドリスの隙になりかねないと二の足を踏むほどに、二人の戦いは切迫していた。

 

 

「ハァッ!」

「――――ッ」

 

 

 その時、勝負が動いた。フルルドリスの甲冑、剣、盾の全てが閃く。騎士が一瞬目を見開いたのと同時、フルルドリスが裂帛の気合いと共に雷を伴う斬撃を繰り出した。

 胴に一閃、確かに入った。フルルドリスの手には確かに斬撃の手応えがあった。

 

 降り注ぐ雷光が騎士の矮躯を撃つ。フルルドリスが持つ殲滅の権能、【ドラグマ・パニッシュメント】が炸裂する。

 未だかつて、これを受けてなお膝を折らなかったものを知らないほどの必殺技。

 

 だが、

 

「お姉様、まだです!!」

 

 エクレシアが悲鳴のように叫んだ。フルルドリスは振り返ると同時、兜を叩き割られる勢いの斬撃を直撃させられてしまう。

 砕けた甲冑から菖蒲色の髪が飛び出し、その奥の眼光は騎士を捉えていた。

 

 そして見た。騎士の身体を包み込む、半透明の衣装。そして消える背後の魔法カードの幻影。

 

【禁じられた聖衣】、対象の攻撃力を下げることで対象耐性と効果破壊耐性を付与する神器だ。

 一瞬の隙を突かれたフルルドリスが今度は一転して防戦を強いられていた。

 

「お姉様、助太刀に――」

「全く見ていられないな!」

 

 エクレシアが飛び込もうとした瞬間だった。背後から飛び出した巨大な影が一つ。

 マスカレイド――アルベルだ。騎士が振り下ろした剣とフルルドリスの間に自身の身体を滑らせる。

 

 直後、赫灼竜の身体は切り裂かれ巨大な憤怨を炎として撒き散らしながら消散した。

 その噴煙からアルベルが再び道化の姿をして現れた。

 

「やれやれ、本当に効果無効になるのかヤツは。期待はしない方が良さそうだ」

 

 一人ごちるアルベル、ちらりとフルルドリスを見やると嘆息して渡された通信端末を起動する。

 

「城主様、やれるだけやってみるけど城が壊れても文句言うなよ」

『な、なんですってぇーーーっ!? だいたい貴方変身が解けてるじゃないの! 無謀ですわ!』

 

 通信機の向こう側の姫が喚いている。アルベルは内心非常に不服だが、このチームの一員として責務は果たすという腹積もりだった。

 

「道化の竜を斃した程度でいい気になるなよ、ここからがボクの奥の手だ――――ッ!」

 

 アルベルの肉体を紫電が包み込む。彼の背後に現れた巨大な"ホール"。そこから降り注ぐ闇色の稲妻が彼の肉体を包み込み、巨大化。

 そして闇色のオーブから出現したのは翼だった。銀の鱗を携えた大翼はためかせ、その竜は顕現する。

 

「【深淵の獣(ザ・ビーステッド)ルベリオン】!」

 

 先程までとは違う竜の姿へと変身したアルベルはその手で幾つものホールをこじ開け、中から現れたのは鎖に繋がれた数体の【深淵の獣(ビーステッド)】たち。

 

 

【深淵の獣マグナムート】、【深淵の獣ドルイドヴルム】、【深淵の獣バルドレイク】、【深淵の獣サロニール】。

 これらが一斉に騎士へと殺到する。しかしながらルベリオン――アルベルはこれでさえも、なんならこれから行おうとしてる秘策さえも時間稼ぎにしかならないだろうと考えていた。

 

 だがそれでいい、白銀の城陣営(こちらがわ)の勝利条件は騎士の進行を時間目いっぱいまで食い止め時間を稼ぐことなのだから。

 

「教導の騎士、ボクに力を貸せ!」

「なに? どういうつもりだ」

「ボクとお前は同じレベル8のモンスターだ、どういうわけかここの城主ひいては銀臣(マスター)は変わり物だからE()X()()()()()()()()()()らしい」

 

 話している時間さえ惜しい。このたった数秒でけしかけた深淵の獣4種が撃破された。

 再びフルルドリスとルベリオンへと突撃する騎士。だがその進行を食い止めるものがいた。

 

「お姉様! 彼を信じましょう!」

「アルベルさん! ここは我々で食い止めます!」

 

 エクレシアと魔神像、さらには魔サイの戦士が束となって騎士の攻撃を防ぐ。魔サイへの攻撃は魔神像が守ることが出来ても、エクレシアはそうはいかない。だが、フルルドリスが事前に施した攻撃力増加の加護が効いているのか奇跡的に持ちこたえている。

 

「よし、やるぞ」

「聞き分けが良くて助かる!」

 

 親愛なる義妹であり弟子であるエクレシアの危機に、フルルドリスは決断する。差し出した手を、ルベリオンが取る。

 瞬間、大回廊に出現する巨大な渦(オーバーレイネットワーク)。フルルドリスとルベリオンが光の粒子となってその渦に飛び込み、新たな力となって回廊へ爆誕する。

 

 

 その肉体は、機械で構成されていた。

 右腕には全てを穿つ円錐槍(ランス)、そして左腕にはあらゆる攻撃から全てを守る防壁盾(デュエリング・シールド)

 

 一番特徴的なのは下半身だ、人間のように二足ではなくまるで馬を思わせる四駆。

 

 それは半人半馬を模した最終機動兵器が1つ――――

 

 

『【宵星の機神(シーオルフェゴール)ディンギルス】を持ち出したの!? っていうかサイズが回廊ギリギリじゃないの! 下手に暴れたら崩れますわ!! 修繕費バカになんないのよ!! アリア、アンナ! 私達も出ますわよ!』 

 

 

「悪いが、四の五の言ってる場合では無くてな!」

「現場の判断に任せてもらうよ!」

 

 機動兵器――ディンギルスに搭乗したルベリオンとフルルドリスがそう言うなり、ディンギルスはその円錐槍で天を突き騎士目掛けて稲妻を食らわせる。

 対象を取らず、対象のモンスターを墓地へ送る効果。しかし騎士はこれを魔サイの戦士と魔神像を盾にすることで回避する。

 

 破壊を伴わない除去を利用されたのだ。魔サイと魔神像が倒れ伏す中、エクレシアが二人へと駆け寄った。

 

「大丈夫ですか? さぁ、こちらに……」

「エクレシア、後ろだ!」

 

 騎士に手加減などは存在しない。隙を見せたエクレシアに襲いかかるが、ディンギルスはその身の丈に合わない超速度で四足を稼働させ左腕の防壁を起動させる。

 "守護星雲盾(ネビュラ・シールド)"、しかしその防壁を起動させるにはオーバーレイユニットを一つ取り除く必要がある。

 

 フルルドリスはそのままディンギルスを飛び出しエクレシア諸共倒れた二体を抱えあげて一時離脱する。

 

「お姉様、彼に任せたままで良いのですか?」

「あぁ、アレを起動するのに私の力が必要だっただけのようだ。一度退いて、城主たちの合流を待つ」

 

 よく分かってるじゃないか、とアルベルは内心感心した。この城にはまだ使える兵器が残っている。

 それを動かすのに、まずこのディンギルスが必要だったのだ。

 

「行くよぉ、オーバーレイ・ネットワークを再構築!」

 

 アルベルは自身が乗り込んだディンギルスをも粒子に変換し、再度光の渦の中へ飛び込む。そして渦から飛び出した新たな光は回廊の天井を突き破り城の外へ飛び出すと再び稲妻を帯びて爆誕する。

 

 その兵器は、神の名を冠する。

 降り注ぐ(いかづち)は空を焼き、星を砕き、神を殺す。

 

 

天霆號(ネガロギア)アーゼウス】、人類が生み出した最終決戦兵器と謳われたその兵器の名だ。

 

 

「流石に城ぶっ壊したらリストラかなぁ」

 

 呑気なことを呟きながら、アーゼウスに搭乗するアルベルはその滅災のスイッチに指を掛ける。

 両翼のスラスターが七色の光を放ちながら、全エネルギーを両手のひらのリアクターへと収束させる。

 

 標的はただ一人、未だ涼し気な顔で見上げてくる騎士だ。これを以て全ての戦いを終息させるべく、アルベルは操縦桿を握る手に力を込めた。

 

 だが、

 

 

『こら~~~!! 流石にやり過ぎだよ新人くん!!』

 

 

 突如現れた漆黒の機体が突撃、アーゼウスに一撃を食らわせた。

 それはこのデッキに搭載されている()()()()()()()()とでも言うべき虎の子。

 

『まさか【厄災の星(ロギアステラ)ティ・フォン】まで持ち出すハメになるなんて!』

 

 アリアーヌだ、どうやらアルベルがアーゼウスを持ち出したことを察知し格納庫(EXデッキ)へ向かったようだった。

 ティ・フォンの力でアーゼウスが放とうとした極大の雷がみるみるうちに萎んで、やがて消滅する。

 

「ちっ、邪魔が入ったか」

 

 アルベルはアーゼウスを庭園に着陸させる。念のためアリアーヌがティ・フォンに搭乗したままアルベルの動向を監視する。

 騎士はというと一難去ったことを確認すると、回廊を進むべく振り返る。

 

 すると正面には終生のライバルとも呼べる【迷宮城の白銀姫】が立っていた。

 

「やり過ぎなところはあるけれど、あの新人がまさか持ちこたえるとは思わなかったですわ!」

「姫が来るのを待っていた。さぁ勝負しよう」

 

 騎士が再び剣を構える。それに伴い姫もまた細剣を突きつける。

 静寂が二人の間を支配する。遠くで固唾を飲んで見守る大回廊チームとアリアンナ。

 

「フッ――!」

 

 先に飛び出しのは姫だ。二刀流、さらには武器自体が速度に特化した細剣。高速の刺突撃で騎士を翻弄する。

 しかし騎士は流石の一言だった。最小限の動きで刺突を回避すると、返す刃で逆襲してくる。

 

 姫からすれば、確実に直撃するコースに突いているのに騎士の体がすり抜けているように見えるのだから始末が悪い。

 

「トラップ! 【氷結界】発動ですわ!」

 

 瞬間、騎士が繰り出した剣が前腕ごと凍りつく。騎士は眉を持ち上げると、即座に結界から腕を引き抜いた。

 リカバリーが速い。回避不能になるまで凍りつかせるところまではいかなかった。姫は内心舌打つも不敵に笑う。

 

「なら、こっちは【邪神の大災害】」

「ななな、なんですって~~~~!?」

 

 騎士が掲げたカードからありとあらゆる災いが飛び出し、大回廊をめちゃくちゃに破壊する。

 今の一撃でこの回廊に仕掛けられているありとあらゆる罠が機能不全に陥ってしまった。

 

「ですが、破壊程度なら!」

 

 剣戟の最中、一際強い一撃で両者がノックバックした瞬間だった。姫の身体に纏う鎧が弾け、純白のドレスとなって再構築される。

【白銀の城のラビュリンス】そのものの姿、しかしながら戦闘用である【迷宮城の白銀姫】状態を戦闘中に解除するなどという豪胆な戦術。

 

 すぐさま姫の狙いを察知した騎士は地面を這うような超前傾姿勢で疾駆し、その剣を振るう。

 

「大回廊の広さが無ければ庭にしか設置できなかった最強の罠」

 

 巨大な戦斧(ラブリュス)で剣閃を全て防ぎ切り、自らの権能を持って大回廊に一つの兵器を復活させる。

 光が収束し、徐々に形を成していくそれを見て騎士はとんでもないものがこの大回廊に最初から隠されていたことに気づいた。

 

 

 それはダルマだった。正しくはモンスター【大砲だるま】なのだが、これはそれにチューンとアップデートを重ねたモノ。

【天霆號アーゼウス】や【厄災の星ティ・フォン】がEXモンスターとしての最終兵器なら、これは言わば罠としのて最終兵器。

 

 

「【魔砲戦機ダルマ・カルマ】充填完了! 撃てーーーーッ!!」

 

 

 全主砲に充填された緑色のエネルギーが暴発寸前まで膨れ上がり、ダルマカルマ自身が臨界を迎えた瞬間。

 壮大な爆裂音が轟き、翠の光線が全てを薙ぎ払った。

 

 

「へ――――?」

 

 

 結局、アルベルが【天霆號アーゼウス】を使おうと使うまいと、白銀の城の一区画が木っ端微塵に吹き飛んだのが今回のハイライトだった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「へぇ、じゃあ今回の防衛戦は比較的勝ちみたいなものなんだ」

 

 後日、夏休みを絶賛満喫中の銀臣がアイスをスプーンで掬いながら言った。しかしそれは自分の口ではなく、両膝を枕にして選挙している二人のだらけたメイドの口に落ちて消えていく。

 白銀の城の面々にとって今年の夏は初めての人間界の夏。銀臣も姫も、それから家具の全員が小鳥遊邸のリビングで涼んでいた。

 

『あづいのです……』

『ご主人たま、もっとぉ……』

 

 というのも銀臣の部屋のエアコンが壊れたため、涼もうと思ったらリビングしか無いのだ。

 しかしながら両膝を枕にされてもう長いこと経つ。膝から先の感覚が無くなってきたことに危機感を感じる。

 

 銀臣がこっそりアリアーヌのアイスを自分の口に運んでいると、もう一個のソファで頬杖を突いた姫がため息を吐く。

 

「どうしたの?」

『いえね、騎士様との勝負は……まぁ制限時間で撤退に追い込んで事実上勝ちではあるんですけれどね……』

 

 言い終えて更に深い溜め息を吐く。そしてテーブルの上の銀臣が弄った【ラビュリンス】デッキを見つめて呟いた。

 

『罠の力で勝った、とは言い難いのですわ』

「あぁ~……結局、外付けモンスターが強いだけでは? ってなっちゃったんだ」

 

 攻防の一部始終の話を聞く限りでは確かにその通りかもしれない、銀臣はそう思った。

 決定打になった【魔砲戦機ダルマ・カルマ】も、最終的には姫を巻き込んでの砲撃。あれでは決定打だったとしても相打ちが関の山。

 

 要は姫はラビュリンスとして勝てたという実感が無いのが悩みのようだった。時間切れ(TOD)でなんとか勝ったというのもそれを加速させているのだろう。

 

『全く、勝ち方に拘るなんて贅沢な悩みだね』

 

 その声は突然室内に響く。姫は気怠げな視線を扉の方へと向けた。

 入り口付近に立っていたのは誰あろう、【デスピアの導化アルベル】だった。仮面を外している以上は【凶導者アルベル】と言った方が正しいかもしれない。

 

「いらっしゃいアルベル、聞いたよ。大活躍だったんだって?」

『まぁね。初陣にしてはそれはもうMVPをもらっても良いくらいの活躍だったと自負しているよ』

『どーでもいいけど、扉閉めてくださいます? 冷気が逃げるのよ』

 

 姫のどことなく棘のある言い回しに圧されたか、アルベルは無言で開きっぱなしの扉を閉めた。

 そして銀臣の隣へやってくるとドカっと腰を下ろした。当然銀臣が膝枕しているアリアーヌの腹の上に体重が掛かるため下から短い悲鳴が聞こえてきたがアルベルは意に介さない。

 

銀臣(マスター)、ボクを重用する気になったのは面白い判断だ。それを気に入ってボクはキミの家(ここ)にいる。だけどやるからには相手の出目を潰さなきゃ、このデッキ(ラビュリンス)はそういうテーマだろう?』

 

 勝ちに拘る姿勢を貫くのなら、アルベルの言い分が何より正しいだろう。

 だけどそれでも曲げられないものが銀臣にもあるのだ。

 

「キミが来た時にも言ったけど、罠だけがラビュリンスの全てじゃないとボクは思ってるんだ。だから面接までしてラビの臣下を増やしたわけだしね」

『ふぅん。まぁ、拾ってくれたことには感謝しているし与えられた仕事を全うするだけさ。それに、城主の仕掛けた罠で相手が策を講じれば講じるほどボクの効果でライフアドが取れるわけだから、それはそれで楽しそうだしね。

 

 アルベルはひとまず納得したようにソファと下に敷いていたアリアーヌから立ち上がる。アリアーヌはというと目を回していた。二人は同じ攻撃力だが、横になっている今はどうやら守備力で勝負したようだ。

 

『それじゃあもう行くよ、魔サイとババ抜きして遊ぶ約束だからね』

 

 そう言いながらアルベルはリビングから出ていく。

 

「……めちゃくちゃ馴染んでるな」

『ドアは開けたら閉める!!』

 

 姫が勢いよくドアを閉める。

 こうして白銀の城にまた新たな客卿が迎え入れられたのであった。




半年以上開けての更新、皆様覚えておいででしょうか?
今回は前々からやってみたかった白銀の城を攻略する騎士と迎え撃つ新生白銀の城という回でした。

タイトルに夏の陣とかあるけど投稿時期めっちゃ冬なんですよね、半年空いたからですね。

実のところ、今回の話は夏休みに入っている話ではなく銀臣とミヤビによるラビュリンス×P.U.N.K.の決闘の話になる予定でした。

ですがめちゃめちゃ上手く書けた時に限って執筆中のデータが吹き飛び、デュエル構成の全てが吹き飛び半年ふて寝したというのが真実です。
P.U.N.K.のめちゃ難解なライフ計算と手札枚数の記録が吹き飛んだあの絶望ったらありませんでしたわ。

ので、それは後日に回しやりたいことやってキチッと更新するか! という運びになりましたことをご報告致します。

楽しんでいただけたなら幸いです。
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