迷宮城の冴えない男《ラビュリンス・イッパンジン》   作:入江末吉

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お久しぶりです


第十六話:戦いの殿堂 前編

 

「いらっしゃ~い、待ってたわよぉ~」

「遅れました、あっつい……」

 

 海への突発旅行から3日、今日も今日とて学生会の面々は暑い中冷房の効ききっていない学生会室へ集まっていた。

 といっても姿が見えているのは音喜多姉弟とミヤビ会長だけ。風舞さんだけがいないように見える。

 

「アズミちゃんなら、ほら」

「あぁ~、普段から朝は弱々でしたからね」

 

 風舞さんはエアコンの風とそれを循環させる扇風機の両方がちょうど当たるポジションに設置されているソファの上で寝息を立てていた。

 なんとなく予想通りで、いつもの午前中の風景を感じさせる。

 

「ほらよ」

「ありがとう音喜多くん」

 

 ボクが席につくと同時に、音喜多くんが冷蔵庫から取り出したピッチャーから麦茶を淹れてくれた。氷入りで、灼熱の中コンクリートの上を焼かれながら通学したのもありとても美味しく感じた。

 

「ぷは、息を吹き返したァ……」

「死んでたのかよ」

 

 苦笑する音喜多くんと笑いあって、改めてボク専用のデスクにある書類とにらめっこする。

 夏休みが始まって一週間ほどだけど、その間のボクの仕事はというと夏休みが終わった後の各クラス、各クラブの"アカデミアフェス"での展示や出店などの要望を確認することだった。

 

 アカデミアフェス。それは一週間近くかけて行われる近隣の住民や入学希望者などを外部客とした、言わばデュエルアカデミアの学園祭だ。

 その出店の内容が風紀的に大丈夫かどうか、割り振られた予算内で機材の調達など出来そうかどうか──これは会計の音喜多くんと合同だけど──を審議するのがボクの主な仕事内容。

 各クラスがどのような話し合いをしたかの議事録なんかも提出されており、どんな出し物にするか白熱した議論、果ては代表者による決闘(デュエル)で申請書の内容を決めたところもあり目を通していてなかなか楽しい。

 

「そういやうちのクラスは……」

 

 ボクと音喜多くんは学生会に所属しているからクラスの出し物には参加出来ない。だからクラス会議にも参加出来なかったし、どんな出し物にする予定なのか全く知らないんだ。

 

 

【ドラゴンメイド喫茶】

【女性モンスター限定コスプレ野球拳】

【音喜多&小鳥遊危機一髪】

【アズミちゃんのソロライブ】

 

 

 頭を抱えた。うちのクラスの連中ってもしかして駄目なのか。百歩譲って通せそうなのがドラゴンメイド喫茶か風舞さんのソロライブしかないが、ドラゴンメイド喫茶は何をするところなのだよ。

 ボクの様子を見た音喜多くんが近くに来て企画書を見た。だいたい同じ反応だった。

 

「良いんじゃないか、危機一髪」

「ちょっと、マジで刺し殺されそうなんで却下でお願いします」

 

 氷雨さんがケラケラ笑いながら言ってくるが、笑い事じゃない。夏休みに入って決闘を挑んでくるクラスメイトがいなくなってようやく平穏を取り戻したところなのに、こんな地雷が潜んでいたとは。

 そして氷雨さんとミヤビ会長だが、仕事のスピードがあまりにも早い。

 

「次、2-A。ロシアンルーレットドローパン」

「面白そうね、承認」

「次、2-B。白藤ミヤビの百人決闘勝ち抜きタイムアタック」

「二日目と四日目なら時間が取れそう……ってあら、場所の申請がされてないわね、承認見送り。でも申請が通ったら承認していいわ」

「じゃあ後で私の方で確認しておく。次──」

 

 承認スタンプを押すまでの判断が凄まじく早い、あまりに卓越している。

 

「どうしたの銀臣ちゃん、手が止まってるわよ」

「二人の作業が速すぎて唖然としてました」

 

 そう言うと氷雨さんが「慣れもあるが」と1つ付け加えた。

 

「この後、実は来客の予定がある。だから仕事は早めに切り上げておきたいのさ」

「あら初耳ね、氷雨ちゃんのお友達?」

 

 どうやらミヤビ会長も知らないみたいだ。首を傾げていると、コンコンとノックされるドア。

 

「来たかな、入ってくれ」

「失礼します」

 

 氷雨さんが促すと、入室してきたのは明るい髪の男子生徒だった。学生会の活動の関係で顔に見覚えがあった。

 

「確か、アクションデュエルクラブの副部長さん……?」

「俺のこと知ってるの? 光栄だなぁ」

 

 副部長さんは照れくさそうに笑った。物腰柔らかで、見るからに異性にモテるタイプの人だ。

 彼を見たのは確か終業式の日、表彰されていた生徒の中にいた気がする。

 

「彼の名前は縦上烈士(たてがみ れつし)、ジュニアの頃からアクションデュエルの世界ではちょっとした有名人だ」

「長いことやってるだけさ。それより音喜多さん、例の返事は考えてくれたかい?」

 

 ピクリ、仕事をしていた音喜多くんの耳が反応した。

 その問いに対して氷雨さんは髪をかき上げながら飄々と答える。

 

「言っただろう? 私は私より弱い男に興味がない、今まで一度として私に勝てたことのない君を恋人として見るのは少し、苦しいものがあるかな」

「アンタ、姉ちゃんに告白したのか? やめとけやめとけ、尻に敷かれて絞られるだけ絞られて一生を不意にするのがオチだぞ!」

 

 信じられないものを見る目で音喜多くんが縦上先輩に詰め寄った。肩を掴んで激しく揺さぶって縦上先輩を正気に戻そうとしていた。

 その後ろで氷雨さんがものすごい冷ややかな笑顔で弟を眺めていた、彼の明日はどっちだ。

 

「だから今日も、君に挑みに来たんだよ」

「加えて言うとしつこい男も、あまり好きではないかな」

『それに関しては概ね同意しますわね』

 

 でも姫はしつこい男に言い寄られた経験無いよね? そういう意図の視線を送ると睨まれた。

 しかしながら縦上先輩はめげなかった。こうもあっさりフラれ続けてるのに怯まない姿勢は正直ちょっとカッコいい、かも。

 

「さらに、こう言ってはなんだけど私は結構モテる。毎度毎度、勝ったら付き合えると(さか)って勝負を挑んでくる輩が後を絶たないのも正直困りものだ」

『それに関しても同意ですわね』

 

 でも姫は──もう一度視線を送った段階で苦虫を噛み潰した顔で睨まれたので気にしないようにしておく。

 

「ので、今後私に勝負を挑みたければまず私が指定した者と決闘してもらう。今日君のアポに応じたのはそれを伝えるためさ」

「いいよ。俺は誰が相手でも構わない。音喜多さんへの熱意の証明になるならいくらでも相手しよう」

Good(グッド)、それが聞きたかったんだ」

 

 なんとなく展開が見えてきた、同時にちょっと嫌な予感がしてきた。

 夏休み前にもこんなことがあったような気がする────

 

「私の代理は彼だ。学生会書記小鳥遊銀臣、彼を倒せたなら相手をしよう。いや、そうだな……1回くらいデートしてもいい、腕を組むオプションもつけよう」

「へぇ、よっぽど後輩に自信があるんだね」

 

 やっぱりこうなってしまうのか~~~~~~!! 

 縦上先輩は物腰柔らかだけどやる気なのか、柔和ながら鋭い視線をボクに向けていた。

 

「銀臣! 頼む、縦上先輩を倒して目を覚まさせてやってくれ!」

「なんだ陽彩、お姉ちゃんに彼氏が出来るのがそんなにイヤか? 可愛いやつめ」

「うっせぇ!! この世に不幸な人間が生まれるかどうかの瀬戸際に黙ってられるか!!」

 

 直後、音喜多くんの顔の中心にクレーターが出来る。

 

『なんてキレの良いマッハパンチ、拳先が見えませんでしたわ……!』

 

 姫が戦々恐々とする。こんな彼女を見るのは騎士ちゃんがやってきたっていう知らせを受けた時くらいのものだ。

 ともかくボクもボクで、なんだかんだ決闘から逃げるつもりはない。

 

「じゃあ、スタジアムに行きましょう。先輩のホームで勝負を受けてたちます」

「そうかい? じゃあ移動するとしよう」

 

 風舞さんはどうしようか、置いていこうかな。

 そう思っていた瞬間、まるで軍人さんがラッパの音を聞いた瞬間に飛び起きる瞬間のように風舞さんが意識を覚醒させた。

 

「銀臣が決闘するなら、私も行くよ」

 

 ずい、と身を乗り出して意気込む風舞さん。彼女が見に来るなら負けないだけじゃなくて、楽しい決闘を見せられるよう頑張ろう。

 

 

 

 

 

 




前回、夏の話書いてるのに現実は冬みたいな話してませんでした???
してたかもしれない。

夏の話を夏に書くオタクになってしまった。
続きの決闘パートは明日です。
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