迷宮城の冴えない男《ラビュリンス・イッパンジン》   作:入江末吉

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まだデュエルしないの!?


第三話:決闘者として

 

「──つまりこの時特殊召喚されたモンスターは、別のカードの効果処理の最中であるため、()()()()()()()()に発動できる効果を発動できない。これを"タイミングを逃す"という。他にもタイミングを逃す瞬間はあり──」

 

 電子ボード上に幾つか表示されるカードを例に先生が丁寧に説明を行う。

 ボクは"時と場合"と電子ボードの上の内容を要約して適当に板書を済ませる。なぜなら、あともう数十秒でチャイムが鳴り授業が終わるからだ。

 

「む、もう時間か。では次回までに各々のデッキで"タイミングを逃す"が発生するカードの組み合わせをレポートに纏めてくるように、次の授業の後回収するからな」

 

 これまた面倒な課題が出てしまった。融通の効くデッキや強制効果が多いデッキの人はテキストと睨めっこだろうな、ご愁傷さまである。

 授業が終わったのもあり、かつ今は昼休みなので各々が学食へ向かったり購買で予め買ったパンなどをテーブルに広げていた。

 

「銀臣」

 

 その時だ、真左から声をかけられた。翡翠色の髪と瞳を持つ女子生徒がボクの顔を覗き込んでいた。

 今朝あったばかりの風舞アズミさん、アカデミアまで案内したり職員室に連れて行ったりしたのもあってかボクは彼女の案内役を仰せつかってしまった。

 

 まぁ同じクラス、加えて席が隣になったという縁もあるしそれくらいはお安い御用だけども。

 

「とりあえず学食に行こうか、風舞さん」

「わかった」

 

 ボクと風舞さんは一階のテラスの端でカレーを頼んで軽めに済ませた。特別カレーが好きということは無いけど、お腹が空いていたのもあってライフポイントが200回復したような気がするな。

 驚いたのは風舞さんだった。彼女の小さい体のどこに入るんだろうってくらいのカレー皿が積み上げられている。人は見た目に寄らないけど、意外な健啖家だった。

 

「そ、そろそろ行こうか」

「……ごちそうさま」

 

 最後のお皿の、最後の一粒まできっちり食べきった風舞さんに惜しみない拍手を。

 ちらりと後ろを見る。うず高く積み上げられたカレー皿のバベル・タワーを見てうちの姫様とメイド二人が青い顔をしていた。前者は単に量で、後者はエンゲル係数的な観点からだろうか。

 

「これだけ食べるとなると、風舞さんは特待生になった方が良いかもね」

「特待生?」

「うん、所謂成績上位者は寮の自室を広い部屋に変えられたり、学食の利用費を負担してもらえるんだ。お小遣いだと大変じゃない?」

 

 風舞さんは少し迷うような仕草をしてから頷いた。一応大食いの自覚はあるんだ、彼女のご両親にも敬礼。

 ボクは次に校舎横にある施設にやってきた。天井には雨天用のドームがあって、国立の競技場のようにあらゆる陸上競技やサッカークラブのフィールドが真ん中にある。

 

 だけど一番目を引くのはドームの中心、ボクらの頭上にある巨大な球体の塊。

 投影機のように見えるが、あれはただの投影機ではない。これだけ広大な地を一息に覆えるほどの巨大な立体幻像投影機、それも──

 

「あれ、質量立体幻像機(リアルソリッドヴィジョン)?」

「そうだよ、このスタジアムは"エンターテイメントコース"履修者が主に使うんだ。まぁコース選択はニ年生からになるんだけどね」

 

 ボクらが通うデュエルアカデミアはニ年生以降は単位制に変わり、「将来どういうデュエリストになりたいか」に対しどの科目を受けるのかを自分で選ぶことが出来る。

 そしてエンターテイメントコースを選んだ生徒は"アクションデュエリスト"となり、フィールド内をモンスターと共に駆け巡る。

 

「風舞さんはアクションデュエルやったことある?」

「片手で数えるくらい、あまり得意じゃない」

「ボクもだよ、アクションカードの場所を覚えられないんだよね」

 

 アクションカードとは、アクションフィールドに散らばるフィールドの特色を引き継いだ特別な魔法カードで、1ターンに1枚だけ発動できる。

 従ってアクションカードを発動された側は手札に加えることすら出来なくなる。そしてボクはどちらかと言えば後者側の人間だからだ。

 

「もしかして、"ライディングデュエル"のコースもある?」

「校舎の裏にサーキットがあるよ。と言っても授業内容には無いから、単純にクラブ活動用のだけどね」

 

 流石に"Dホイール"に乗って行う決闘疾走(ライディングデュエル)には専用のライセンスが必要で、それを取得している生徒の数から単位には数えられてない。

 それでも中等部やそれ以前からライセンスを持っている生徒のためにクラブ活動用にサーキットが用意されている。アクションデュエルとは別ベクトルに人気だから、よくレースを見に行くファンの生徒も多いみたい。

 

「好きなの、決闘疾走?」

「見るのは」

 

 風舞さんもライセンスまでは持ってないらしかった。Dホイールに乗る風舞さんは確かに想像できない。

 それから校舎の中で移動教室の授業で使ういろんな教室を案内して回るうち、五限目の授業の予鈴がなってしまった。

 

「ちょうどいいね、今日の五限はスタジアムだから」

 

 周りを見れば同じクラスの生徒が急げ急げとばかりに早足で向かっていく。スタジアム前まで風舞さんを送るとボクは踵を返した。

 

「……?」

「あぁ、ボクはちょっと保健室に──」

 

 

 ドンッ☆

 

 

「クォラ! どこを見とるか小鳥遊ィ!!」

「げぇ、怒れる類人猿!!」

「誰がバーサーク・ゴリラじゃあ!!」

 

 その鼻の下伸びた猿面を指してだよ! とは口が裂けても言えない。

 筋骨隆々の身体に赤い袖まくりしたジャージ、これ以上無いくらいテンプレートな体育教師像だった。

 

猿渡(えんどう)先生、ちょうどよかった。次の授業欠席します。体調が優れないので──」

「待たんかい! お前、どういうつもりじゃ。最初の一回以来、全部わしの授業を欠席しとるがバレてないとでも思っとったんかい!!」

 

 ガッシリと襟首を掴まれてしまった。このゴリラ膂力の前には逃げられない。

 助けを求めるが、姫もアンナもアリアもそっぽを向いている。そりゃそうだ、ボクにしか姿が見えない三人に助けてもらったら先生や風舞さんからしたらとんだオカルトだろう。

 

 っていうか、アリアに関していえば笑ってるじゃないか。面白がってるだろ、他人事だと思って!! 

 

「来い! 灸を据えたる!」

「え、ちょっと……そんな! 強引に!」

 

 ものすごい力で引っ張られてボクはそのまま先刻のスタジアムの真ん中に連れてこられてしまった。

 暫くするとサッカー用の芝生が消える。このスタジアムの芝生は質量立体幻像で映し出されているもので、抉れてもすぐに元通りに出来るのだ。

 

「ほれ」

 

 戻ってきた猿渡が無造作に持ち物を放ってきた。ボクはそれを受け止めて、げんなりした。展開が読めたからだ。

 放られたそれは決闘盤(デュエルディスク)、ボクたちデュエリストの信念を収める、いわば盾だ。

 

「チャンスをやろう。やる気のない落ちこぼれに、今までの欠席を帳消しにするチャンスをなぁ」

「今のうちに聞いておきたいんですけど、もしボクが負けたら?」

「当然、今までのサボりはチャラにはならんし、実技成績が伴わんお前を在校させておく意味が無いじゃろう」

 

 猿渡は言いながら、不敵に笑っていた。顔でわかる、あの人はボクが嫌いだし好く思ってない。

 それはある意味ボクも同じだ、嫌いとまでは言わないけれど苦手だし。

 

 だけど、この学園でやっていくからにはこれとも付き合っていかなくちゃならないんだろう。

 ボクと猿渡がスタジアムの真ん中で睨み合っているとゾロゾロと他の生徒たちが集まってくる。

 

 同じクラスだけなら良かったんだけど、この猿渡が受け持つ授業は学年の全クラスで行う合同授業だ。

 従ってゆうに100人は超えるギャラリーが集まって来ていた。

 

「猿渡先生がデュエルだってよ! 相手は誰だ?」

「さぁ、あんな人いたかしら……? どこのクラスの人?」

 

 既に引き下がれない状況になってきた。ここで決闘を受けません、なんて言ったら腰抜け負け犬呼ばわりでまともな学生生活なんて送れないだろう。

 かと言ってボクが負けたときにボクの退学を免除するよう嘆願してくれるほど仲の良い友達もいないし────

 

 

『あら、戦う前から負け前提ですの?』

 

 

 その時だ、ボクの思考を読んだ姫がいつの間にかボクの前に立っていた。その姿はいつものジャージ姿じゃない、戦うための戦装束(バトルドレス)だ。

 手に持ったラブリュスは眩い光を放ち、配下のアンナもアリアも彼女同様強い眼差しでボクを見ていた。

 

『貴方が決闘を好まない理由は分かりますわ。()()()()()()()()、ですわね』

 

 そうだ、ボクが授業をサボっていた理由の一つが「負けたくないから」だ。

 ボクのデュエルは、トラップが主体のデッキを用いることが多かった。姫と出会う前から、ボクはそういうデュエルをしてきた。

 

 だけどいつしか、罠カードは便利な手札誘発系モンスターカードの台頭によって廃れて今やデッキに一枚も入れないというデュエリストさえいるほどだ。

 

 いつだったかに言われた、心無い一言。

 

「お前のデュエルは遅すぎる、時代遅れだ」

 

 その一言がボクの心に重い影を落とし、楔を打ち込んだ。

 デュエルが楽しくなくなったのはそれからだ。そいつの指摘は正しく、ボクのデュエルは動き出す前に負ける。

 

 だから、ボクは極力姫たちともデュエルをしていない。

 もし負けてしまったら、姫たちとでさえこの環境を覆せないのなら。

 

 ボクはデュエリストとして生きていくことは出来ないだろう、そう思って戦うことから極力逃げ続けてきた。

 

『ですが、分かるのと理解は別ですわ。戦わねばならない瞬間は必ずやってくる。その度に逃げる醜態を私に晒すことは許しません』

 

 戦斧をボクの両肩に翳す、儀礼(アコレード)。こんなにも真剣な顔の姫を見たのは初めてだった。

 それまで沈黙を保っていたアンナとアリアが彼女に同調する。

 

『それにさー、ゴリのやつ絶対勝てるって顔してるじゃん。ああいうのを罠にかけるのが一番楽しいんだよね~』

『目にもの見せてやるのです。仕掛けはいつも完璧、ですね姫様』

 

 コクリ、姫は頷いた。

 

『それに──負けたくないから戦いたくないなんて、私には理解できなくてよ! 私がどれだけ負け続けたか、負け続けているか。あなたにはイヤというほど聞かせたつもりなのだけど?』

 

 ッ。

 

 そうだ、姫の話にいつも出てくる()()は涼しい顔で彼女の迷宮要塞を攻略してくる。

 どんな罠を用意しても、必ずその上を超えてくる。

 

 完璧さえ、どこかの誰かは上回ってくる。

 

たとえ、ここで万が一負けてしまったとしても。

彼女たちと戦えたことを誇ろう。そして、誇り続けるために。

 

 

絶対に、勝つ。

 

 

 ボクはデュエルディスクを左腕に装着、デッキを装填した。

 デュエルの衝撃で壊れてしまわないよう、メガネを外して深呼吸。だるい前髪を掻き上げて、準備完了。

 

「ファイト」

 

 その時、風舞さんがそばでボソリと呟いた。短い応援の言葉に、少しだけやる気が湧いてきた。

 ギャラリーの中へ戻っていく風舞さんを見送り、デュエルディスクを展開する。

 

「授業の時間が惜しいからのぉ、初期LPは4000点じゃあ」

「構いません、勝つので」

「言いよるのぉ! そいじゃ、始めるとするか!」

 

 

 瞬間、スタジアム上空の質量立体幻像機が稼働し巨大な機械城を作り上げる。猿渡がいるフィールドがどんどん上にせり上がっていき、ボクはそれを見上げる城門前にいる。

 ギャラリーのみんなは少し離れた、別の城のバルコニーから見ている風に演出されていた。

 

 深く息を吸い込んだ。吸い込んで、吸い込みきって。

 ボクと猿渡は同時に叫んだ。

 

 

「────決闘(デュエル)ッ!」

 

 

 

 

 





簡単な世界観説明

デュエルモンスターズが普及し、カードゲームが世界の物差しになってるアニメに近い世界。しかし原作などで力のあるカード(三幻神や三幻魔など)もレアカードとして存在している。

ので、いずれブラマジ使いとか青眼使いが出る可能性があるます。


・デュエルアカデミア

GXのものとは違う。どちらかと言えば5D'sやARC-VのLDSの方に近い。
プロデュエリスト養成校であり、科目の中にアクションデュエルコースがある。
また部活動のような感じでライディングデュエルチームを有してもいる。


本作におけるアクションデュエルの設定。

基本的にARC-Vの漫画に寄せ、アクションカードはフィールドに4枚のみ。従って一度のデュエル中最大4枚までしか発動できない。
どちらかのプレイヤーがアクションカードを取得したターン、相手はアクションカードを手札に加える事は出来ない。
アクションカードへの出待ちを防ぐため、ターンごとに一定のポイントへアクションカードはテレポートする。

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