迷宮城の冴えない男《ラビュリンス・イッパンジン》 作:入江末吉
銀臣とアズミが学生会入りしてから早一週間が経過した。
氷雨の指示の元、着々と学生会の仕事に放課後を費やし一般生徒のために身を粉にして働く日々にようやく充実感を覚え始めた頃。
『休日だからってダラダラしすぎですわ』
「いいだろ~、休日なんだから。休みの日と書いて、休日なんだから」
パジャマ代わりのジャージから着替えないまま土曜日の昼までベッドの上でゴロゴロしている銀臣と、そんな彼を同じくジャージ姿のまま叱咤するラビュリンス。
部屋の隅ではアリアンナとアリアーヌがトランプタワーに勤しんでいるなど、割と各々が自由に休日を満喫しているのであった。
「かといって、日課のデッキ調整は昨日の夜済ませたしなぁ。新弾の発売日は来週だから出かける用事も無い……なにをしろと」
『そう言われると思いつきませんわね、かと言って寝休日はよろしくありませんわ』
「寝正月の休日バージョンかな?」
さすがの銀臣もそこまで言われると弱い、と寝癖でボサボサの頭をゆらりと持ち上げた。
『ご主人たまの寝癖スゴ、昇天ユニコールMIX盛り?』
「人の寝癖を笑うな!」
手櫛で乱雑に髪を整えるとひとまず外に出られるよう普段着に着替える銀臣。ラビュリンスもそれに倣いジャージからいつものドレス姿に変化する。
慣れた話だが、この早着替えにも出会った当初はドギマギしたものだ。
「あー、そうだ……明後日の授業で確か戦士族を活かしたデッキを使うから、それを組まなきゃいけないんだった」
そう言いながら銀臣はアルバムを取り出す。モンスター、魔法、罠がそれぞれ収められてるアルバムなのだが罠カードに比べてほか二つのアルバムがやたらと薄いのは、彼が今までどんなデッキを組んできたか想像するに余りある。
モンスターのアルバムを捲りながら戦士族の欄を見る四人。
『なんというか、ろくなのが揃ってませんわね』
「よし、【ベン・ケイ】でワンキルするか……」
『身も蓋もないのです』
半眼で溜息を吐くアリアンナに銀臣が唸る。しかしそうも言いたくなるほどに、銀臣のモンスターアルバムは薄かった。
無いことはないのだ、デュエルモンスターズのカード数も1万種類を有に超え今なお増え続けている現状むしろ大方持っている方が珍しいと言える。
だが、ことカード間におけるシナジーを加味できるほどカードを持ち合わせていないのも事実だ。
『しかし、こうなっては"ストレージ"に頼る他無いんじゃありませんの?』
「ならカドショに行くぜ!」
先程までベッドの上で丸くなっていたとは思えないほどの行動力を発揮し、銀臣は簡単なものを腹に詰め込むと家を出た。
最寄りかつ行きつけのカードショップのストレージからこれというカードを発掘してデッキを組む、今日の予定が決まった瞬間だった。
カランコロン、なかなかにレトロな音を発して引き戸を開ける。ゲームショップを兼業で行っているため、デュエルモンスターズにスペースを全振りしているわけではない。
カードショップオンリーな店も近所にあるにはあるが、銀臣は子供時代から馴染みにこの店を先に訪れることが多かった。
店内を見渡すと中古のゲームを買うかどうか迷っている若者などが屯している中、店の一角にあるデュエルモンスターズのコーナーへ到達する。
「まるでテーマパークに来たみたいだ、ワクワクするなぁ」
『真顔で言うのやめてくださいな』
実際問題、こういった穴場的スポットを発見するといつになってもワクワクするのだが、どうやら三人娘にはまだ理解しがたいようだった。
『それで、ある程度目当てのカードはありますの?』
「【イダテン】でも組もうかな、って」
銀臣が提案すると、三人娘が「あぁ~」という納得のリアクションを取った。
それならば比較的安価に構築でき、授業内でのデュエル──即ちライフポイント4000のデュエルでもかなりの勝率を叩き出せるデッキと判断したのだ。
そうしてストレージの中から関連カードを選び出し、一通り見終わった頃にはすっかり夕方になってしまっていた。
あとは会計を済ませるだけなのだが、銀臣は選んだカードの中から1枚【覇勝星イダテン】を手に取った。
しばしそのカードと見つめ合った後、デッキケースから取り出した【白銀の城のラビュリンス】、【白銀の城の召使いアリアンナ】、【白銀の城の召使いアリアーヌ】の三枚と見比べた。
レアリティの違いだけではない。銀臣にだけ分かる、カードの違いが気になった。
「この【覇勝星イダテン】は、
イダテンと三人娘のカードを見比べて、三人娘のカードは見つめるだけでカードの中の三人と
『実際のところ、人によるのですわ』
「人に?」
『あなたの持つその「世に無数あるイダテンのカード」のうち1枚が真に惹かれ合う決闘者の元に渡った時、
もうかなり長いこと三人娘を始めとするラビュリンスのメンバーと一緒にいる銀臣だが、それは初耳だった。
「じゃあ、逆にもう誰かがイダテンの精霊と心を通じ合わせてる、ってこともあるんだね」
『そうなりますわ。そうなっているなら、そのカードがイダテンの精霊を宿すことはもう無いのです』
おおよそ世の殆どの決闘者が知り得ない情報を得られたとして、銀臣はまた一つ賢くなった。
そして当然生じる疑問に当たった。
「もしボクがもう1枚ずつキミたちのカードを手に入れたとして、それを現界するためのパスには出来るの?」
『いいえ、ですが……』
ラビュリンスは言いながら胸元に手を寄せ、そこに淡い光を灯す。そしてその光を取り出すように手のひらの上に乗せた。
その掌には、半透明の枠組みだけ出来たカードが浮いていた。
『早い話が、これは私とあなたの信頼度のようなものですわ。満たされれば完璧なカードになり、既にデッキに入っている私のカードと同様私が現界するためのパスになりますわ』
「なんか急にソーシャルゲームみたいなシステムを提示されたね」
『茶化さないでくださいます!?』
ムキー、という擬音が聞こえそうな怒り方をするラビュリンスをよそ目に、銀臣はふと考えた。
現状銀臣はデッキに三人娘のカードをそれぞれ1枚ずつしか投入できていない。厳密に言えばラビュリンスは【白銀姫】モードのカードもあるため彼女に至って言えば2枚だが。
「デッキを強化するには、もっとみんなと仲良くならなくちゃいけないんだね」
『そういうこと~! じゃあご主人たま帰ったらお風呂掃除よろしくね!』
「仲良くつったよねぇ!? 好意がボクからの一方通行なんですけど!?」
ケラケラ笑うアリアーヌをジト目で睨む銀臣、だが大声を出したことで店内の視線が自分に集まっていることに気づくと慌てて縮こまった。
ひとまずデッキ作成に必要なカードは軒並みストレージとシングルで見つけることが出来たのでそれをカウンターへ持ち込みサクサク会計を済ませてしまう。
「ふぅ~、買った買った」
『それじゃあさっそく帰って構築開始ですわ』
珍しく浮かれ気分のラビュリンスを見て、銀臣はやや不思議に思っていたことを口にした。
「思ったんだけどさ、今回のデッキ作り……姫たちはどう頑張っても組み込んであげられないけど、楽しいの?」
自分が入らない、活躍しないデッキの構築作業など見てて楽しいのか。純粋な疑問だった。
しかしラビュリンスはというと家臣二人と顔を見合わせてあっけらかんと言い放った。
『あなたが楽しそうにデッキを組んでるところが見られるのなら、それが私たちのデッキじゃなくても構わなくってよ?』
「そ、そうなんだ……」
思わぬ直球に面食らった銀臣、ずれたメガネをズラしながら帰路につくのであった。
帰り道、黒猫にわざわざ道を譲ったりちょっとだけ良いことをしてしまうなど、柄にもなく緊張しっぱなしなのであった。
本来こういう何気ない日常のイチャイチャ書きたくて書き始めたはずだったんですが思いの外ガチデュエル書きまくってたので箸休めです。
こういう回なら趣味の合間にぽんぽん挙げられるのでいいですね。
なお、銀臣がイダテンデッキで戦う回は未定です。
未定ですとか言っておきながら平然と次回使うこともあるかもしれません。
あと過去のサブタイ、考えるの面倒くさかったので通常罠の効果クイズみたいにしてましたがサブタイの文字数を超えない罠を探すほうが逆に面倒くさいことに気づいてちゃんとつけることにしました、なんだったのか。