迷宮城の冴えない男《ラビュリンス・イッパンジン》 作:入江末吉
「それじゃあ、昼食時にまた」
「はい、お疲れ様でした」
学生会室に施錠する氷雨を見送り、一年生三人組は踵を返す。もう学生会としての仕事にも慣れたもので、分からない仕事も減っていった。
書記のポジションに収まった銀臣は各クラブが申請した備品の量や金額などおかしな部分が無いかを確認し現在の責任者である氷雨に捺印してもらうのが主な仕事である。
「はー、眠い……結局、日付変わるまで授業用のデッキを組んでたら睡眠時間が減っちゃったよ」
欠伸を零す銀臣。対する陽彩はと言うと、元より戦士族を扱う【HERO】デッキを使っているため授業用にデッキを用意する必要がなく快眠のようだった。
「今日の授業、銀臣とは当たらなそうだな。どんなデッキを組んだか楽しみだったけど」
「【イダテン】だよ。ただまぁ、純構築ではないとだけ」
それを聞いた陽彩が「ますます気になるじゃんよ」と唸る。彼のデュエル好きは度を越しており、かれこれ最初の決闘から一週間経ったのだが授業でのデュエルも含めれば両手両足の指の数は軽く超える回数付き合ったはずだ。
戦績は銀臣が先攻を取れた場合七割、後攻の場合は四割程度とまずまずであった。【HERO】特有の怒涛の展開力で敷いた妨害を軽々と超えてくる。その上妨害を吐き切った後の【ラビュリンス】はリソース不足故に失速しがちで、そのまま押し切られることも多いのだ。
唸る陽彩の隣で同じく欠伸を零すのがもう一人。同じくして学生会入りを果たしたアズミだ。
寝ぼけ眼を擦り、頭をかくかくと揺らしている姿は身長も相まってかやや愛らしい。
「風舞さんも夜更かし? 遅くまでデッキ構築?」
「……寝たけど、眠い」
低血糖ゆえか朝に弱いアズミはなんとか朝の学生会活動に顔を出すものの、作業を始めて暫くすると寝息を立ててしまうのだ。
その分放課後の活動はしっかりとしているため、氷雨も対して何も言わない。むしろ無理して朝に顔を出すことはないとまで言っているぐらいだ。
「だけど、五限目の実習を楽しみにしてた」
そういうアズミを銀臣と陽彩は物珍しい目で見ていた。というのも、アズミは基本大好きなご飯時でさえ無感動気味である。
さらに氷雨さえ一目置く彼女のデュエルは、普段の彼女からは想像もできない苛烈さを誇る。
常に無表情で相手を追い立てるデュエルをするアズミにとって、デュエル実習の授業は退屈なだけだと二人は思っていたのだ。
「そういえば、ローテーション的に今日は風舞さんとデュエル出来るね」
銀臣が思い出しながら口にする。するとアズミはコクリとうなずいた後、彼を見上げながら言った。
「だから、楽しみにしてた」
言われた瞬間、銀臣は一瞬ドキリとした。後ろで話を聞いていたアリアーヌが「わーお!」と盛り上がっているが、無視である。
銀臣としてもアズミとデュエルしたことは無かったため、楽しみであることに違いはないのだが自分とのデュエルを楽しみにしていたと言われれば照れもする。
「銀臣には本気で、私とデュエルしてほしい」
「もちろん、やるからには負けないよ!」
それが聞けて満足したのか、アズミはふらふらとした足取りながら教室に入り、自分の席に着席した。
銀臣と陽彩も各々の席につき、程なくしてホームルームが始まった。
そうして四時間ほど一般的な五教科の授業を受けている最中、後少しで昼休みがやってくるというところで銀臣は教科書を立て、前や周りから見えないようにしながらこの後の授業で使うデッキの吟味を始めていた。
『やっぱり、罠が少ないですわね……』
肩口から顔を覗かせ広げたカードを見るのはラビュリンス、アリアンナとアリアーヌもどれどれと覗き込み橙と緑のカードが半々のデッキを見つめて眉を寄せていた。
『ご主人たま、具合でも悪いのですか?』
『こんなに罠カードが少ないなんて絶対病気だよ!』
「別にこのデッキには姫もアリアもアンナも入ってないんだから良いじゃない、罠が少なくても」
口々に銀臣の頭を心配する三人をじっとりとした目で睨みながらも「しょうがないなぁ」と小声で呟くと、別のケースから取り出した罠カードを何枚かデッキに入れる。
「これでいい?」
『完成度が増したのです』
「手札事故の可能性が増えただけじゃない……? でもまぁ、汎用罠だし構わないか」
入れた分だけ手札誘発カードやテーマ外の補助カードからサイドデッキに移して枚数のバランスを保つと銀臣は【イダテン】デッキを腰のケースにしまう。
そして取り出した【ラビュリンス】のデッキを新たに広げる。
『こっちのデッキも弄るのですか? 昨日も一昨日も弄ったじゃありませんか』
「違うよ、ほぼモンスターと罠の二色のデッキを見てると心が落ち着くんだよ……」
どうやら銀臣はかなり無理をして【イダテン】デッキを弄っていたらしい。デュエルモンスターズを始めてこの方、罠ビート以外のデッキは殆ど回したことがない彼にとって今回のデッキ構築はかなりの冒険であった。
そうして授業中にデッキ調整を済ませていると、一コマなどはあっという間で気がつけば昼休みになっていた。
しかし、昼休みといえば銀臣と陽彩には共通の悩みがあった。
チャイムが鳴り響き、ほとんどの生徒が学食へ移動しようと立ち上がった時、徐ろに教室中の男子が決闘盤をセッティングしだした。
「今日こそは奴らから勝利をもぎ取り、学生会入りを果たして見せる!」
「小鳥遊、覚悟ォ!!」
学生会入りしてからというもの、銀臣と陽彩は大きな休み時間の度にクラスメイト──どころか隣のクラス、早い話が同学年の生徒に勝負を挑まれ続けていた。
陽彩は嘆息しながらも、決闘そのものは避けるつもりが無いらしい。同じように決闘盤を備えると廊下に飛び出していった。
「さぁ小鳥遊! お前も構えろ!」
「いいけど、ボクのデッキはこの後の授業で使うヤツだけど構わない? 本当の意味で勝った、とはいえないと思うけど」
「う……その場合、どうなるんだ……?」
対戦相手の男子──御堂はうんうん唸っていたが、やがて顔を持ち上げ決闘盤に電子生徒手帳を装填した。
「構わん! ひとまずお前と倒すだけの力があるとアズミちゃんに証明してみせる!!」
そう言いながら、御堂は鼻息強めにそそくさと学食へ向かうアズミに視線を送っていた。名前を呼ばれたからか、振り返ったアズミが銀臣に耳打ちする。
「席、取ってるから」
「ごめんね、お願いします」
銀臣が片手を上げて謝意を示すと、アズミは頷いてから踵を返した。彼女が振り返る度に左右にぴょんと揺れる碧色の髪。
うっとりとそんな彼女の姿を見つめていた対戦相手がハッとしてから憎々しげな視線を銀臣に向けた。
「貴様小鳥遊!! アズミちゃんと親しそうに話しやがって……許せん!!」
「えぇ……」
半ば責任転嫁のような気もする、銀臣は内心そんなことを思いながらもげんなりとした態度を隠せない。
決闘盤を構え、オートシャッフルにてデッキがかき混ぜられる。デッキトップから五枚捲って確認する中、姫が手札を覗き込みながら言った。
『あなた、ここ最近男子にはモテモテですわねぇ』
「嬉しくないよ」
『女の子にモテるよりかは、こちらも些か気が楽というものですわ』
ありすぎる胸を張りながら姫が言い捨てる。PDAの機能で先行後攻が自動的に割り振られる。銀臣は後攻、先攻を相手に取られてしまったが特に気にすることはない。
これがもし学生会のメンバーとしての存続をかけた決闘で、【ラビュリンス】を使っていたなら歯噛みもしようが【イダテン】デッキはどちらかといえば後攻からひと捲りにしてしまうデッキだからだ。
「お前が授業用デッキである以上、同じ土俵で戦うのが筋!!」
御堂はというと、変なところで義理堅かった。
「「
銀臣 LP:8000
御堂 LP:8000
「俺は【フォトン・スラッシャー】を特殊召喚! 【焔聖騎士-オジエ】を通常召喚!」
【フォトン・スラッシャー】 ATK/2100 DEF/0
【焔聖騎士-オジエ】 ATK/1500 DEF/2000
『チューナーとチューナー以外のモンスター、二体のレベルの合計は8……来ますわね』
銀臣の横で眉を潜めながら、姫が言った。銀臣も、相手のデッキが【戦士族】を主軸にしたデッキなら思い当たるモンスターが一体存在する。
「行くぞ小鳥遊! レベル4の【フォトン・スラッシャー】に同じくレベル4の【焔聖騎士-オジエ】をチューニング!!
炎の騎士が剣に祈りを捧げると、その身が四つの光の輪へと変化する。その輪が光の剣士を包み込むと、光の柱が立ち上る。
決闘盤のEXデッキゾーンから吐き出されたカードを、対戦相手の男子が決闘盤のEXモンスターゾーンを展開するとそこへ叩きつけた。
=
「ブッ潰せ、【ギガンテック・ファイター】!!」
立ち上った光の柱の上から教室の床を叩き割るような勢いで着地する、巨人の剛腕戦士。
このモンスターは銀臣も知っている。使いやすさに加え継戦能力が郡を抜いて使いやすいため、このカードを主軸に授業用のデッキを組もうか一度考えたほどだ。
「墓地に存在する【焔聖騎士-オジエ】の効果発動! 自身を場の戦士族モンスターに装備カード扱いで装備する! オジエを装備したモンスターは相手の効果で破壊されず、さらに【ギガンテック・ファイター】は墓地の戦士族一枚につき攻撃力が100アップする!」
【ギガンテック・ファイター】 ATK/2800→2900
「俺はこれでターンエンド! どうだ小鳥遊、対象に取れないギガンテック・ファイターは戦闘以外での除去が非常に困難! だが、ギガンテック・ファイターは戦闘で破壊されれば自身を復活させることができる!」
御堂はそう言いながらターンを終える。実際、戦闘以外で除去できないギガンテック・ファイターはかなり厄介な壁として立ちはだかる。
さらにギガンテック・ファイターの攻撃力は
だが、相手が悪かった。銀臣は促されるまま、デッキトップに指をかけた。
「ボクのターン、ドロー!!」
六枚になった手札を確認し、銀臣は即座に勝利へのルートを頭の中で弾き出した。
そして相手の場に伏せカードが無いことを確認すると、迷いなく一枚のカードに手をかける。
「ボクは手札から魔法カード【融合】を発動! 手札の【ターレット・ウォリアー】と【オーバーレイ・ブースター】の二体で融合召喚! 来い、【覇勝星イダテン】!!」
城塞を思わせる機動戦士と推進装置を身に着けた戦士が混ざり合い、現れるのは銀臣のデッキのテーマモンスターにして切り札、【覇勝星イダテン】。
【覇勝星イダテン】 ATK/3000 DEF/2200
「融合召喚だと!? だ、だが! お前が融合素材にした二体のモンスターも戦士族! 従って、【ギガンテック・ファイター】の攻撃力はさらに200ポイントアップし攻撃力3100! お前の【覇勝星イダテン】の攻撃力を上回った!」
「まぁそう慌てないでよ、イダテンの融合召喚に成功した瞬間、効果発動! デッキからレベル5の戦士族モンスターを手札に加える事が出来る! ボクが加えるのは【地翔星ハヤテ】!」
銀臣は手札に加えたカードを一旦保持したまま、もう一枚の手札に手をつけた。
「装備魔法【アサルト・アーマー】! ボクの場に戦士族モンスターが一体の場合のみ発動可能、このカードを装備し攻撃力が300アップ! そしてこのカードを墓地へ送ることで、このターン【アサルト・アーマー】を装備したモンスターは一度のバトルフェイズに二回の攻撃が出来る!」
身に纏った黄金の闘気を霧散させ紅のオーラに換えることで、イダテンが輝きを放つ。
「さらに、ボクの場にモンスターがいない場合もしくは光属性モンスターが存在する場合【ハヤテ】はリリースなしで召喚出来る!」
【地翔星ハヤテ】 ATK/2100 DEF/0
「たとえ2回攻撃が付与されようと、【ギガンテック・ファイター】は何度でも蘇るぞ」
「戦闘で破壊されたら、ね! バトルフェイズに入って速攻魔法【ハーフ・シャット】発動! 【ギガンティック・ファイター】を対象に発動、このターン対象にしたモンスターは攻撃力が半分になり、戦闘で破壊されなくなる!」
「なにー!? 戦闘破壊されない効果を防御ではなく攻撃に転用だとぉ!?」
既にバトルフェイズに移行し、【覇勝星イダテン】が高く跳躍する。そのまま空中で螺旋を描くように移動しながら自身さえも回転させる。
そうして発せられる回転エネルギーが生み出す風の刃が【ギガンテック・ファイター】の身体に傷をつけ始める。
「さぁバトルだ! 【覇勝星イダテン】で【ギガンテック・ファイター】を攻撃! この攻撃宣言時に速攻魔法【コンセントレイト】を【イダテン】を対象に発動し、その守備力をこのターンのみ攻撃力に加える!」
【覇勝星イダテン】 ATK/3000+DEF/2200→ATK/5500
「さらにダメージステップ! 【覇勝星イダテン】が戦闘を行うダメージ計算時、イダテンよりもレベルが低いモンスターと戦闘する場合その攻撃力を0にする!」
【ギガンテック・ファイター】 ATK/3100→ATK/1550→ATK/0
「そ、そんな馬鹿な! 戦闘で無敵の【ギガンテック・ファイター】がッ! サンドバッグにされるなんて……!」
「【アサルト・アーマー】の効果を受けたことで、【覇勝星イダテン】でもう一度【ギガンテック・ファイター】を攻撃! 《韋駄天突風衝》!」
「ぢぐじょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! アズミちゃぁぁぁぁああん!!」
御堂 降参
銀臣 Win
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『まずまずでしたわね』
「1キル成立してまずまずって、目標高くない?」
マインドクラッシュされ、意気消沈中の御堂を放って銀臣は決闘盤のプレートを収納する。PDAでは今の決闘がしっかり記録されており、フリー対戦だろうと成績に反映されるらしい。
幸いというか、今のところ銀臣が学生会入りしてからは陽彩とのフリー対戦以外で負けたことはないため、今学期はそれなりに点数を稼げそうだと銀臣は睨んでいた。
「けどやっぱり、ビートダウンデッキは苦手だな。デュエルスピードが早いから、相手のスピード以前に自分のスピードに振り回されそう」
『私達と戦っている時はカード伏せるだけでターン渡しますものね』
「失礼だな、ちゃんとマストカウンターを考えて発動してるよ。でもあんまり特殊召喚の回数が多いと一度使った効果を、使ってないと思って場に出しちゃうことが多いんだよ」
例えば陽彩の【E・HERO エアーマン】などは、場に出た回数だけデッキからE・HEROをサーチすることが出来るが、最近登場したカードはそのカードの名称の効果は一度しか使えないことが殆どであるため、効果を使用したかもしっかり把握して展開しなければならない。
「加えて、リンクマーカーの先とか【
『我慢なさいな、今はもうそういう時代。相手の場ががら空きなら一番攻撃力の高いモンスターから攻撃する時代ですのよ』
「……【冥府の使者ゴーズ】か、悪魔族だしラビたちとシナジーが──」
『無理、とまでは言いませんがオススメはしませんわ。私達は城が無ければ本領を発揮できない、城があったら彼は手札から特殊召喚出来ませんもの。類似カードなら【トラゴエディア】の方が使い勝手が良くってよ』
ああでもないこうでもないと取り留めのない会話を交わしながら銀臣とラビは学食へ歩を進めた。
途中で決闘中の陽彩を見かけたが、あともう何人か捌かないと動けそうになかったため先を急ぐことにした。銀臣はアズミほど食べるわけではないが、それはそれとして昼食を抜きにして午後の猿渡の授業を凌げるとは思っていなかった。
受付で適当な惣菜パンとカレーのセットを頼むと、プレートを持ったまま周囲を見渡す。すると周囲に男子の
方や【オルフェゴールバベル】もかくやという空の皿を積み上げたアズミと、昼食は適当に済ませ優雅にコーヒーの香りを堪能する美女が一人。
「お疲れ様です、氷雨先輩」
「あぁ、小鳥遊くん。お先にいただいてるよ、今日も大変だったそうだね」
『ま、軽くいなしてやりましたわ!』
なんでラビがえらそうなんだ、と思いながらも口にはせずテーブルにつくと両手を合わせ惣菜パンを頬張る。ソースと中に敷き詰められたキャベツが程よく甘い酸味を口の中に拡げていく。
パンを食べ終えると、パンに付属していた銀紙の封を破く。本校におけるパンは皆一様に【ドローパン】と呼ばれ、一つにつき一枚カードがランダムで付属している。
「以前はパンの中にそのままカードが入っていたんだよ」
氷雨の言葉が真実かどうかはさておき、銀臣は慎重に開封すると中のカードを確認する。
「【バスター・モード】……うーん」
『ご主人たまご主人たま、アリアが手札コストで使ってあげよっか!』
「それだけのためにこれ入れるのは……ちょっとなぁ」
ひとまずカードプールが増えただけ、という結果に落ち着き銀臣は手に入れたカードをケースに保管する。
程無くして、銀臣も昼食を滞りなく食べ終える──ちなみにアズミはまだ食べている──と、ようやく陽彩がやってきた。
「やっと終わった~! 最後に手札事故はツイてないぜ。姉ちゃん、なんか無い?」
「紙ナプキンがあるぞ」
「俺はヤギかよ」
冗談を言いながら、氷雨は陽彩にいくつかのパンを投げ渡した。キャッチしたそれを一瞬で胃の中に収めてしまう陽彩。どうやらよほど腹が減っていたのだろう、思えば今日の朝陽彩は学生会の仕事に遅刻スレスレで訪れたような気がする。もしかすると朝食を抜いていたのかもしれない、と銀臣は考えた。
「しかし、もう慣れたけど周囲の視線が凄い。刺さりそうなんだけど」
『隣にいる私までジッと見られている気分ですわ』
ラビが愚痴を零す。そう、氷雨とアズミを発見するための目印になった男子の輪は麗しい美少女たちの食事姿を楽しむと同時に、視界に入る害虫に対しものすごい殺意が飛んでくる。
本来なら他人の目に映らないはずのラビたち精霊でさえ、自分が見られているのではないかという緊張感が走るようだ。
ちらりと銀臣が横目で足元を見る。睨まれていると錯覚した
「小鳥遊くん」
「はい?」
「あ~ん」
氷雨に呼ばれてそちらに意識を向けると、小さく千切られたパンが口に放り込まれた。甘いクリームの味が口の中に広がり、デザートとしてはちょうどいいなぁなどと考えていた時だ。
『なぁっ!? ちょっと銀臣、ごっくんしちゃダメですわ!』
「ごめん、もう食べちゃった」
『くぅ~~~~~~~~~……! 抜かりましたわ、なんですのこの
相手に視えないことを良いことにラビが額に青筋を浮かべギャーギャー喚く。氷雨はというと、悪戯っぽい笑みを浮かべて楽しげにしていた。
「いやぁ、年下って可愛いなぁと思ってつい世話を焼いてしまうよ」
「姉ちゃん、そろそろ自分のツラの良さ認識してくれないと、世話を焼かれる年下男子が嫉妬の炎で物理的に燃やされかねないんだよ」
苦笑い、から笑いの部分が消えそうな顔で陽彩が氷雨に釘を差した。当の氷雨は年下なら男女は問わないのか、アズミが口元に残したままのカレーを紙ナプキンで拭ったりしていた。
微笑ましい光景ではあるのだが、これが銀臣や陽彩がやられようものなら本気で刺されかねない。
人柄はともかく、音喜多氷雨という女はそれだけ男子から人気がある。故に学生会メンバーの座を狙い、役員の男子は休み時間や放課後ごとに決闘を挑まれるのだが。
『ご主人たま、アンナもやります』
と、その時だった。いつの間にか現れたアリアンナが他の人間に見えない位置でどこから手に入れたのか分からないがパンの欠片を手に持っていた。
それを銀臣の口の前にズイッと押し付けてくる。銀臣は慌ててテーブルの下に潜り込んだ。
『あ~ずるい! アリアも、アリアもやる!!』
アリアンナが動けば、当然アリアーヌも動く。気持ちアリアンナよりも近い位置にパンが配置されているのは対抗心の現れか。
とりあえず順番でアリアンナのパンから食べることにし、アリアーヌのパンも平らげる。二人共それで気を良くしたのが、第二撃が放たれることはなかった。
────のだが。
『見ましたかアリア、ご主人たまは先にアンナのパンを食べましたよ』
『え~? どっちが先とか関係無くない? アリアのパンの方が美味しそうに食べてたけどな~?』
二人の間に見えないが、熾烈な火花が散っていた。普段は仲の良い二人で、アリアンナがアリアーヌのブレーキとして作用するちょうど良さなのだが時折二人が対立するとブレーキが存在しないため、アクセルベタ踏みで加速し続けるのだ。
『わ、私はやりませんわよ……』
そうは言うものの、ラビの視線は左右に行ったり来たりしている。まるで彼に食べさせるモノを探しているかのような動きだった。
これ以上食べたら胃が凭れそうだな、と銀臣が恐々としていた時だった。
ぽんっ、とコミカルな音を立てて出現した
ラビもまた、不敵な笑みを零していた。
『
『おもてなしの時間なのです』
『姫様、
彼女、とは【ラビュリンス】というカテゴリを語る上で欠かせない──のだが、全貌は不明。銀臣も彼女の話を聞いたことはあるものの、詳しい話を聞いたことは無かった。
「行ってらっしゃい、騎士ちゃんによろしくね」
『承りましたわ!! 行きますわよ、二人とも!!』
意気揚々と三人は【白銀の迷宮城】のカードの中へ吸い込まれるようにして消えていった。
彼女たちを送り出してから、銀臣は小声とはいえ人前で精霊と話していたことに気づいた。だが、どうやら陽彩は氷雨となにかを話し合っており、銀臣の方に意識は向いていないようでホッと胸を撫で下ろす。
ただ一人、アズミだけは銀臣の方をジッと見つめていたことに誰も気づいていなかった。
なにっ!? 「迷宮城の冴えない男」というタイトルなら主人公はラビュリンスデッキを使うのではないのか!?
さておき、MDにラビュリンスが実装されて早幾年……ってほど経ってませんが。
親愛なる迷宮城の住民(とお見受けする)読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか。
私は30個しかない貴重なデッキ枠のうち7個をラビュリンスの派生に充てるなどする意味不明なMD生活をエンジョイしております。
というのも、勝負はガチガチのラビュリンスは彼女らが実装された時のデュエリストカップで燃え尽きちゃったからですね。2nd STAGEどこ見ても烙印と神碑しかいなくて私は泣いちゃった。
個人的なお気に入りは超魔神イドロックをキメつつ、地縛神ガチャピンで直接攻撃していくラビュリンスです。迷宮城の食客こと地縛超神官の仕事が光ります。
超官の効果で相手のLPが3000になり、超官とガチャピンが地縛神関連の中で唯一悪魔族であると気づいた時の気持ちよさ、プライスレス。
ってこのデッキ、ラビュリンスが展開補助役じゃねえか姫はどこだよ姫は!!
姫は相手に渡したイドが粗相をしてこないように威嚇する咆哮や覇者の一括などの攻撃抑制カードをサルベージして使い回すために頑張ってもらいます。
長くなりましたが、やはりラビュリンスはテーマ外の罠や悪魔族も纏めてサポート出来る、いわゆる「混ぜもの」としても優秀でそこが彼女らに惹かれる理由の一つだなって思いました。
一番は姫のおっぱいと腋ですけどね