呪いのベルトでやれるわけねぇだろ!   作:かかむりょう

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みなさん、お待たせしました。いよいよ例のライブ回です。

この回で雅人は、決定的な転機を迎えます。

ちなみに今回は10000文字近い文章量ですので、時間があるときにどうぞ!


いつだって崩壊は突然訪れる

「ここがライブ会場か……」

 

 俺は今、ある会場の前にいる。今日この会場で何があるのかというと、最近爆発的な人気を誇るアイドルユニット『ツヴァイウィング』のライブが行われる。そう……俺がこの間街のテレビで見たあの女性二人組だ。その人気故にチケットの争奪戦は凄まじく、一部ではネットショッピングでとんでもない高価で取引されているらしい。

 

 そんな大人気アイドルのライブが行われるこの会場に何故俺がいるのか。それは数日前、響に『一緒に行きませんか?』とメールで誘われたからだ。響曰く、くじ引きで偶然ライブのペアチケットが当たったらしい。そしてそのライブがツヴァイウィングのライブだったというわけである。

 

 正直俺はそこまでツヴァイウィングに興味はなかったが、響がメールでツヴァイウィングの魅力をこれでもかと書き連ねてるのを見て、試しに一度彼女たちの曲を聞いてみたところ、これがなかなかにいい曲でハマってしまい、是非生で聞いてみたいとなって誘いを受けた。

 

 響とは会場前で待ち合わせることになっており、ついさっきメールを確認したところ、もうすぐで会場に着くとのことなのでこうして待っているというわけだ。

 

(もうそろそろ来るか……?)

 

 ライブの開始時間までもう少しということもあり、会場に集まる客の足も増えてきている。少し場所を移動しようかと考えていたその時。

 

「雅人さぁ~ん!」

 

 元気な声が俺の耳に聞こえてきた。声のした方に顔を向けると、私服姿の響がこちらに走ってくるのが見えた。

 

「すみません、待たせてしまいましたか?」

「いや、俺も今来たところだ」

「そうなんですね……あ、これチケットです!」

 

 響に手渡されたのは、ツヴァイウィングの二人が描かれたチケットだった。これを見て改めて思う。よくこのチケット手に入ったな。

 

「ありがとう。それにしてもくじ引きでよく当てたな」

「えへへ……私も驚いてます。まさか当たるなんて思ってませんでしたから」

 

 それからしばらく響とたわいない会話をしていたが、気づけばライブの開始時間がすぐそこまで迫っており、俺と響は急いで会場の入り口に向かった。

 

 指定の席に着くと同時に、照明が落ちる。しばらくするとステージのど真ん中から、ツヴァイウィングが飛び出してきた。

 

「みんな! 今日は集まってくれて、本当にありがとう!」

「今日は最高の時間をみんなに届けられるよう、私たちも飛ばしていくぞ!」

「みんな、盛り上がる準備はいい!?」

 

 二人の力強い声が会場に響き渡り、会場にいる観客たちは大いに盛り上がる。かくいう俺と響も、会場内の熱気にあてられてすっかり熱くなっていた。

 

 それからの二人のライブは、圧巻の一言しかなかった。歌がすごいのはもちろんだが、会場内を縦横無尽に飛び回り、一人一人の観客にエネルギーを与えるかのようなパフォーマンスは、観客たちをさらに興奮させた。

 

「すごいなこれ! 生で二人の声を聞くのは初めてだけど、こんなに興奮するなんて思わなかった!」

「本当にすごいですよね! 私もずっとあの人たちの生の声が聞きたかったんですけど、CDで聞いている時とは比べ物にならないぐらい盛り上がってます!」

 

 今や会場内のボルテージは限界以上に上がっている。しかもライブの序盤でこれだから、ここからさらに盛り上がるとなると、もはや言葉では表せなくなるだろう。

 

「私、今日ここに雅人さんと一緒に来れて本当に良かったです」

「そうか? そう言ってくれるのは嬉しいけど、別に他の人と一緒でも……」

「雅人さんだからですよ。ライブのペアチケットが当たった時、真っ先に雅人さんにお礼を言いたかったんですけど、どうせなら雅人さんと一緒にライブで盛り上がりたくて」

 

 お礼? 俺なにか響にしたっけ? ふとそんな疑問が浮かんできたが、その答えはすぐに分かった。

 

「ずっと呪われたままなんてありえない……本当にそのとおりでした。雅人さんに会えなかったら、私はずっと呪われたままだったかもしれません」

「いや、何もそこまで……。俺はただ、自分が思っていることを素直に喋っただけだし」

「それでもです。きっかけはどうあれ、私が雅人さんに元気をもらったのは本当なんですよ? それに……」

「それに?」

「……な、なんでもありません! と、とにかく!」

 

 響は顔をほんのり赤く染めながら、俺に向かって笑顔を向けてくる。

 

「今日は一緒に来てくれてありがとうございます! 雅人さんとライブを楽しめて、私は嬉しいです!」

 

 いろいろ気になるところはあったが、響の笑顔を見たらもうどうでもよくなった。こうして俺を誘ってくれて、そのうえ一緒に楽しめて嬉しいとまで言ってくれた。それで俺は十分だった。

 

「さぁみんな! まだまだ飛ばしていくぞー!」

 

 その頃、ステージではなにやらさらなるパフォーマンスが始まろうとしていた。よく見ると、二人がステージ上で背中合わせになっている。

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()ような予感に、会場内はさらに期待と興奮の熱気に包まれていく。

 

 そしてそれがステージ上で形になろうとした、その時だった。

 

 ピシッ。

 

(…………?)

 

 突然、俺はおかしな音を耳にする。何かにひびが入ったような音を。

 

(今のは……?)

 

 俺はハッとステージを見てみる。そこでは今まさにパフォーマンスを披露しようとするツヴァイウィングがいる。そこに特におかしなところはない。隣にいる響を見てみると、ツヴァイウィングに夢中で違和感に気が付いている様子はなかった。それは周りの観客も同じ。

 

 ……何かが変だ。

 

(気が付いてるのは俺だけか……?)

 

 得体のしれないその何かに猛烈に嫌な予感を感じ、俺は咄嗟に響の腕を取ろうとした。しかし響の腕を取りかけた次の瞬間、

 

 ドカァァァァァァァン!! 

 

 という派手な音と共に、彼女たちがいるステージの一部が爆発する。突然の出来事に俺を含めた会場内のすべての人間は混乱に陥って静まり返る。それと同時に、俺は何かの気配を感じてふと空を見上げる。

 

「…………はっ?」

 

 そこには、いつの間にか割れていた次元の裂け目から現れた、無数の災厄(ノイズ)がいた。

 

「ノ、ノイズだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「きゃあああああああああ!!」

「逃げろぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 誰かが叫んだのをきっかけに、会場内はたちまちパニックに陥る。

 

 空から降りてくるノイズに襲われて次々と炭素の塊となって消えていく人々を見て、自分だけは何が何でも助かろうと逃げまどう人々でたちまち会場は溢れかえる。さっきまであれほど盛り上がっていた会場が阿鼻叫喚の地獄と化すのに、そんなに時間はかからなかった。

 

「くそっ! 邪魔だ! どけ!」

「おいやめろ! 押すな!」

「助けて! 死ぬのは嫌ぁぁぁ!」

 

 我先にと出口に殺到する人達。中には他の人を蹴ったりする人や、無理やり割り込まれて押しつぶされる人までいた。このままではまずい。俺はかつてないほどの危機に、頭がどうにかなってしまいそうだった。

 

(くそっ! まさかこんなところでノイズに襲われるなんて! とにかく何とかして逃げないと!)

 

「雅人さん! どこにいるんですか雅人さん!?」

「っ!? 響!」

 

 ふと、かすかに聞き覚えのある声が聞こえてきた。声がした方を見てみると、今まさに人ごみに押しつぶされそうになっている響がいた。

 

「響! 無事か!?」

「雅人さん!? 無事でよかったです!」

「響! 待ってろ! 今助けに行く!」

 

 俺はなだれ込んでくる人ごみに負けないよう、何とかして響を助け出そうとする。しかし響が伸ばした手にもう少しで俺の手が届きそうになった時、人の数が一気に増えて俺と響は引き離されてしまった。

 

「雅人さん! 助けて! 雅人さぁぁぁぁん!」

「響! 響ぃぃぃぃぃぃ!」

 

 必死の叫びもむなしく、俺はそのまま会場の外へ押し出される。

 

「くそっ!」

 

 俺はすぐさま懐からカイザフォンを取り出して、『9821』のテンキーを入力してエンターキーを押した。

 

『Side Basshar. Come Closer』

 

 俺はカイザフォンで愛車のサイドバッシャーを呼び出すと、一度会場の駐車場に向かう。

 

 幸い、程なくしてサイドバッシャーが到着し、俺はサイドカーからカイザギア一式が入ったジュラルミンケースを取り出した。これで少しは奴らに対抗できる。

 

「無事でいてくれ……響!」

 

 俺は祈るように再び会場に向けて走り出した。ただひたすら、間に合ってくれと強く願いながら。

 

 

 

 ~~~~~~~

 

 

 

 私は今、悲鳴と怒号が飛び交う会場の中を必死に逃げ回っていた。

 

「助けてくれぇぇぇ!」

「嫌だぁぁぁ!」

 

 そこら中から聞こえてくる悲鳴に耳を抑えたくなるのを必死に我慢して、私は出られそうな場所を探す。

 

 さっきまでライブであんなに盛り上がっていた会場は、今はもうノイズで溢れかえっている。必死に逃げていた人たちも、無数のノイズに襲われてほとんどが消えてしまった。

 

(雅人さん……無事かな)

 

 頭の中で、私はさっきまで一緒にいたあの人のことを考える。人ごみの中を必死にかぎ分けて伸ばしてくれた手を、私はつかめなかった。それから私は人ごみに押しつぶされそうになるのを何とか回避したけど、あの人がどうなったかまではわからない。

 

 もしかしたら、もう……。

 

(……そんなことない! あの人はっ……雅人さんは!)

 

 そんな最悪の考えが頭に浮かびそうになって、私は必死に頭を振って否定する。雅人さんならきっと無事に抜け出して、避難できているに違いない。なら私も早く逃げないと! 

 

「うわぁぁぁぁん! おかあさぁぁぁぁん!」

「…………っ!?」

 

 突然声が聞こえて、私は声のした方を向く。そこには今まさに、ノイズに飲み込まれようとしている女の子がいた。

 

「危ないっ!」

 

 急いでその子のもとに走って、すんでのところで女の子を助け出す。私は女の子が怪我一つないのを見て安心すると、親はどこにいるのか尋ねる。

 

「ねぇ、お母さんはどこにいるかわかる?」

「ひぐっ……ぐすっ……おかあさん、変なのに襲われて……消えちゃった……」

「……っ!!」

 

 この状況で変なのに襲われて消えるという言葉が出るってことは……つまりはそういうこと。この子は、お母さんをノイズによって奪われたんだ。泣き続ける女の子を見て、私も泣きそうになる。本当ならライブを一緒に盛り上がって、楽しい思い出になるはずだったのに……。

 

「おいっ! 大丈夫か!」

 

 そこになにか鎧のようなものを身に纏ってる女の人が駆け寄ってきた。手には槍のような武器を持っている。でもよく見るとその人は、さっきまでステージの上で歌っていたあの人にそっくりで……。

 

「もしかして……天羽奏さん……?」

「……くわしい事情は後で話す! とにかく今はその子を連れて早く逃げろ! ……もう生き残ってるのは、私たちだけなんだ……」

「え……」

 

 そう言われて、私は会場内を見渡す。周りはノイズしかおらず、さっきまで聞こえていた悲鳴も今は聞こえない。この人の言う通り、もうこの会場で生き残っているのは私たちしかいなかった。

 

「奏!」

 

 絶望的な現実に気持ちを沈めていると、私たちのもとに刀を持った女の人が駆け寄ってくる。青色の長い髪の毛に奏さんとはまた違った鎧。これはもしかしなくても、あの人しかいない。

 

「風鳴……翼さん?」

「奏、その子たちは?」

「あぁ……今この会場内に残ってる唯一の生き残りだ」

「奏! ノイズの数が多すぎる! わたしたちだけじゃ、とても……!」

「わかってる! けどこの子たちだけでも、何とかして助け出さないと! おい君! まだ動けるかっ!?」

「は、はい……!」

「ならその子を連れてあの出口まで死ぬ気で走れ! ノイズは私たちが何とかする!」

「わ、分かりました!」

 

 この無数のノイズの中をうまく潜り抜けられるの? 無事に出口にたどり着けるの? そんな疑問が私の頭の中に流れたけど、もう迷っている暇なんてなかった。どのみち動かなきゃ死ぬのを待つしかないんだ。

 

「お、おねぇちゃん……」

「……大丈夫! 平気、へっちゃら……だよ!」

 

 慰めにもならない言葉をこの子だけでなく、自分にも言い聞かせながら、必死に走る。もう一度、生きて雅人さんに会うために。

 

 だけどそんな私をあざ笑うように、ノイズは立ちふさがってくる。私はノイズを何とか躱しながら女の子と走っていたけど、出口まであと少しというところでノイズに邪魔され、立ち止まってしまった。

 

「くそっ! いくらなんでも多すぎだろこいつら!」

「くっ……! 奏、これ以上はもう……!」

「駄目だ! この子たちが無事に脱出できるまで、なんとしても……!」

「奏! 危ない!」

「……っ!」

 

 無数のノイズの絶え間ない攻撃に対応しきれず、奏さんは後ろから迫ってくるノイズに気づけなかった。そのままノイズの攻撃を背に受けて、奏さんは大きく吹き飛ばされる。

 

「がぁぁぁぁぁぁ!」

 

 奏さんは瓦礫に体を大きく打ち付ける。すると身に纏っていた鎧が消えてしまい、そこには裸になった奏さんが倒れていた。

 

「くそっ……こんな、ところで……私は……」

 

 悔しそうな声を出しながら、奏さんはそのまま意識を失ってしまった。すぐ近くには、粉々になったペンダントらしきものがある。ここまで相当無理をしていたんだろうか? 

 

「奏ぇぇぇぇぇ!」

 

 それを見た翼さんは、怒り狂ったように刀を振り回す。しかしノイズたちの数の前には焼け石に水であり、翼さんも動きが鈍くなった隙をノイズにやられて、奏さんのすぐ近くまで吹き飛ばされる。

 

「ごふっ……!」

 

 それによって翼さんもまた、変身が解けてしまう。かろうじて意識は保ってたけど、今や無防備となった二人が殺されるまで時間の問題だった。

 

「ごめん、なさい……あなたたち、だけでも……逃げて……」

「あ、あぁ……そんな……」

 

 そしてそれは、私たちも同じだった。ノイズにじりじりと寄られ、私と女の子は二人の近くまで追い詰められる。周りはノイズに囲まれ、もう逃げる場所はどこにもなかった。助けが来る様子も……ない。

 

「……っ……ぐすっ」

 

(嫌だ……こんなところで、死にたくないっ……)

 

 ゆっくりと近づいてくる死の恐怖に、私はついにこらえきれず、涙を流してしまった。女の子を不安にさせないために止めようとしても、一向に溢れてくる涙を止めることができなかった。だけど、いくら泣いたところでノイズは許してくれない。私たちが迎える結末が変わるわけがないんだ。

 

 もうどうしようもない。私はここで死んじゃうんだ。そう思うと、途端に生きようとする気持ちがなくなってしまい、私は生きることを諦めてしまった。手を繋いでる女の子もそれを感じとったのか、ぎゅっと手を握ってくる。女の子の方を見ると、その子もまた私と同じように泣いていた。

 

「おねぇちゃん……」

 

 私は何をしてるんだろう……。生きることを諦めているのは私なのに、それに女の子も巻き込もうとしてる。今の私を雅人さんが見たらどう思うんだろう。怒るかな。幻滅しちゃうかな。どっちにしても、もう二度と雅人さんに顔向けできない気がした。

 

(……神様、お願いします。もう私はどうなっても構いません。だから、せめてこの子だけでもっ……!)

 

「お願いしますっ……誰か……だれかっ……」

 

 私は恐怖に声を震わせながら、大きな声で思いっきり叫んだ。

 

「誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 ~~~~~~~

 

 

 

「嘘だろ……」

 

 再び会場にやってきた俺が見たのは、絶望としか言いようがなかった。

 

(数が多すぎるっ! これじゃ響を探すことすらできない!)

 

 会場内には、俺が会場の外に出る前よりもさらに多くのノイズが蔓延っていた。その数はもはや、カイザフォンやブレイガンだけでは到底対処できる数ではない。それどころか、まともに生存者を探すことすら困難だった。

 

(考えろっ……! 考えるんだ村上雅人! この状況で響を助けるには、どうすればいいのかを!)

 

 こうしている間にも、響はノイズに殺されるかもしれない。会場内をパッと見た感じ、響の姿は見当たらない。もしかしたら既に……。

 

「そんなわけがあるか! あいつはきっと生きてる。俺が信じないでどうするんだ!」

 

 一瞬でも馬鹿なことを考えた自分を恥じ、俺は再び会場内を見渡す。

 

(……ん? あれはっ!)

 

 すると別の出口の一歩手前のところで、女の子の手を握る響と、裸の女性二人がノイズに囲まれているのを見た。ひとまず響が無事だったことに、俺は安堵する。しかし響の周りは無数のノイズたちが囲んでおり、いつ殺されてもおかしくない状況だった。

 

(どうする。ここからあそこまではかなりの距離がある。とてもじゃないが、武器だけで突破するのは無理だ)

 

 しかもカイザギアに備わっている武器は、弾を打ち尽くした後は一度コードを入力してリロードを挟まなければいけない。このノイズの群れの中でそんなことをいちいちしていたら、あっという間にノイズにやられる。かと言って接近戦を挑むのは危険極まりなく、生身の状態で響の元にたどり着くのは到底無理だと思えた。

 

 しかしそこまで考えて、俺の頭の中にある考えが思い浮かぶ。

 

(……いや、一つだけある。響を救うために、限りなくうまくいく可能性が高い方法が)

 

 そう、それは……()()()()()()()()()()()()()()。俺が文字通り生身じゃなくなれば、ノイズの群れを強行突破することも可能だろう。しかしそれは同時に……。

 

(……俺の命を、捨てることになる)

 

 俺は、自らの命と引き換えに、響を救うことになる。響を守るために、自分の全てを捨てる。今の俺に、その覚悟があるのだろうか? 

 

(……いや! もう迷っている暇なんてない! たとえ俺の命がなくなるとしても!)

 

 俺は決意を固め、ケースからカイザドライバーを取り出して腰に装着する。そしてカイザの変身コードである『913』のテンキーを打ち込んでエンターキーを押した。

 

『Standing by』

 

 入力が完了すると同時に音声が流れ、続いてカイザフォンから重苦しい待機音が流れ始める。

 

「……変身!」

 

 そして俺は、カイザフォンをドライバーに装填する。

 

『Error』

 

「……え?」

 

 しかし装填すると同時に、ドライバーから『Error』という音声が流れる。その直後、俺の体から青い炎が燃え盛る。

 

「嘘だろっ!? なんで!?」

 

 俺が驚いている間にも、炎はどんどん大きくなっていき、やがて俺の体から灰が流れ始める。

 

「なんでだよ!? 変身自体はできるんじゃなかったのか!? あぁ、くそっ! 嫌だ! 俺はまだ死にたくない! 嫌だぁぁぁ!!」

 

 余りにも理不尽な出来事に、俺は意味もなく叫ぶ。しかしそんな俺をもてあそぶように青い炎は俺の全身を包み込み、やがて俺は完全に灰に還った──

 

 

 

「……はっ!?」

 

 その直後、俺の意識は急激に現実に呼び戻される。何が起こったのかと、俺は自分の体を見る。手にはカイザフォン、腰には装着されたカイザドライバー。どうやら俺は、無意識に自分に待ち受ける結末を妄想してしまったみたいだ。俺が灰化消滅する末路を。これが意味することは……。

 

「……俺は、変身したくないのか?」

 

 自分に問いかけるように、俺は浮かび上がった疑問を言葉に出す。そんな疑問を口に出している間にも、刻一刻と響たちが死に近づいているというのに。

 

(……くそっ! もう一回!)

 

 俺は再び変身コードを打ち込もうと、カイザフォンを開けようとする。しかしその直後、再び俺は妄想に囚われる。

 

「変身!」

 

『Error』

 

(……っ)

 

 妄想の中で何とか変身しようと試みる俺。

 

「変身!」

 

『Error』

 

 しかし何度変身を試みても、俺は変身できずにカイザドライバーによって灰化させられる。

 

『Error』

 

(うっ……)

 

 何度も。

 

『Error』

 

(くそっ……)

 

 何度も。

 

『Error』

 

(なんで……っ!)

 

 何度も何度も何度も。

 

『Error』

 

 何度変身しようとしても、俺は変身できずに灰化してしまう。やがて俺は気づいた。

 

(……駄目だ)

 

 俺は……死にたくないのだ。俺自身が、カイザになることを拒絶している。俺はいままでずっと、カイザに変身することなく生き残れるよう過ごしていた。それはひとえに、カイザギアが変身者を死に至らしめる呪いのベルトだからだ。よほどの命知らずでもない限り、誰がこんなものを好き好んで使うのか。当然俺も、これから先の人生で変身することはないと思っていたのだ。

 

 しかし今、その力を使わなければどうにかできない状況に、俺は立たされている。使わなければ、響は無数のノイズによって確実に炭素の塊になって消えるだろう。

 

 だというのに俺は……肝心なところで自分が可愛くなった。死にたくないのだ。ただ単純に。その恐怖が無意識に被害妄想として俺の脳裏に浮かんでくる。しかもそれは決して妄想の話ではなく、俺が変身すれば確実に訪れる末路なのだ。

 

(駄目だっ……)

 

『Error』

 

 変身すれば、死ぬ。必ず。あっけなく。理不尽に。その絶対の恐怖が、俺の心を蝕んでいく。

 

『Error』

 

(駄目だぁ……)

 

『Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error.Error……』

 

「駄目だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 とうとう俺は、恐怖に負けた。死にたくないという気持ちが、響を救いたいという気持ちを超えてしまったのだ。

 

(……ごめんな響。俺、死にたくないんだ。俺はまだ生きたい。やりたいことがいっぱいあるんだ)

 

 だから、どうにかしてそこから逃げ出してくれ。そんなあまりにも無責任で自分勝手な要求をつけ、俺はその場を離れようとする。

 

「誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「……っ!?」

 

 しかしその直後、俺の耳に響の震えたような、しかし確かに大きな声が聞こえてきた。思わず俺は、離れようとした足を止める。

 

(響……)

 

 それは、響の心からの叫びだった。生きることを諦めたくない。でも自分の力ではどうしようもないから諦めるしかない。それでも誰かに助けてほしい。そんな思いが、今の叫びから感じた。響も俺と同じなんだ。死にたくないんだ……あいつも。

 

(ちくしょうっ……)

 

 何をしているんだ俺は。俺は何をしにここに来た。響を救うためじゃないのか。心から助けてと泣きながら叫んだ少女を助けるために戻って来たんじゃないのか。

 

「……っ!」

 

 俺は気が付けば涙を流していた。ここから逃げ出そうとした自分が情けなかった。死にたくないから、響を犠牲にしようとした。そして今も、俺は死にたくないと思っている。

 

「くそっ……くそぉ!」

 

 でも……それでも俺は、響を救いたい。たとえ死んでしまうのだとしても、この気持ちからだけは逃げたくない! 

 

 覚悟を決めた俺はカイザフォンを取り出し、『913』のテンキーを打ち込んで、エンターキーを押す。

 

『Standing by』

 

 入力すると同時に、カイザフォンから重苦しい待機音が流れ始める。一瞬、また俺の頭の中で灰化の末路が流れかける。でも、もう迷わない。俺はこの命を懸けて、助けを求めた少女のために戦う。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 俺は、最後に残った恐怖心を全力の叫びで押し殺しながら、カイザフォンをドライバーのソケット部分に装填する。そして装填したカイザフォンを押し倒し、完全にドライバーにセットした瞬間──

 

『Complete』

 

 俺の全身を眩い光が包み込んだ。




次回、村上雅人、最初で最後のカイザでの戦い。
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