吉良吉陰は東京に暮らしている   作:餅羊羹

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──生まれつきの性はどうしようもないものだ


表裏な日常

 朝六時、太陽の日差しを浴びて目が覚めた。目にはまだ少し重みが残っており眠気を感じるが、十分に寝たはずだと思いながら、ベットから降りた。

 

 

「ああ、やはり昨日の仕事が響いたな。くそ、やはり十時以降の仕事は受けるべきじゃなかった」

 

 

 愚痴をこぼしながら洗面所に向かう。顔を洗う時に目の前の鏡を見た。

 

 そこには、いつもと変わらない黒髮黒目、凡庸とした空気の漂う、相貌があった。目に光が無いのが少し冷たい雰囲気を感じさせるが、それ以外はこれといった特徴はない。

 

 それから朝食を用意し、いつもの黒い学生服を着てリビングの椅子に座れば、ただの学生が無表情でいるだけだ。

 

 テレビを付ければ、いつもと変わらない日常だ。

 

 

『本日の天気は晴れのち曇り。夜には雨が降るかもしれません。帰りの傘を忘れずお出かけ下さい』

 

 

「傘か」

 

 

 テレビに映るお天気キャスターを見ながら、今日の予定を考える。

 

 

「帰りに店に寄っても、雨が降る前には帰れるか」

 

 

 そう考えながら、支度を済ませると玄関の前に立つ。

 

 

「行って来ます」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 部活にも入っていないため、学校を早々に出て例の店に向かう。

 

 店の名前は喫茶LycoReco。SNSで色々と宣伝も行なっており、昼間はそれを見た客で賑わっているらしい。

 

 店に入ると、着物を着た黒肌の男性がいた。

 

 

「いらっしゃい、吉陰(よしかげ)君」

 

「こんにちは、ミカさん」

 

 

 ミカさん、この喫茶店の管理人だ。他にも一人女性がいるが、だめだ、名前が思い出せない。

 

 

「いつもの羊羹をお願いします」

 

「はい、いつものな」

 

 

 この喫茶店限定の羊羹。映えるとかいう承認欲求高めの騒々しい連中の感覚はよく理解できないが、単純に味が好みなのでよく通っている。

 

 羊羹の包みを受け取ると、気分が少し高揚して呟く。

 

 

「ああ、この包みからでも漂う程よい甘み。落ち着いていて本当に素晴らしいです」

 

「はは、相変わらず好きだな、それ」

 

「ええ、これの為にわざわざ寄り道してますので」

 

「そこまで褒めてくれると嬉しいよ」

 

 

 本当に素晴らしい。これさえなければ、こんな場所絶対に来ないに決まっている。それほど、この味は格別だ。

 

 

「それでは僕はこれで」

 

「もう帰るのかい?あと少ししたら千束も帰ってくるし、今は人もいない。折角だからここで食べていかないかい?」

 

「いえ、遠慮しておきます。家の方がやっぱり落ち着くので」

 

 

 確かに今は昼も過ぎて、客は珍しく一人もいない。しかし、好物を食べるなら家が一番良い。それに他にも理由はある。

 

 

「あとは、ちさ、えーっと、千束さん。彼女はあまり僕のことが好きじゃないようですしね」

 

 

 そう言うと、ミカさんは困った顔をした。

 

 

「うーん、そうだな。嫌いな訳では無いはずだけど、距離感が難しいのかも。あの子にしては珍しいが」

 

「まあ、そういうことも異性だとあるんでしょうかね。わざわざそれで気を配ってくれてありがとうございます。そちらは時が経てば自然と上手くいくでしょうから、ご心配なく」

 

「そうか、わざわざ引き止めて悪かったね」

 

「お気になさらず。それでは失礼します」

 

「ああ、また来てね」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「うん、楽しみだ。毎度毎度長い距離を歩かされるのは不愉快だが、この甘味の為なら納得できる」

 

 

 住宅街を一人歩く。夕日が照らす道路は眩しくも少し寒い。しばらくしたら、予報どおり雨が降るのだろう。だが、それより前には家に着くはずだ。問題はない。

 

 

「学校からの距離は良好、少し遠いがお気に入りの喫茶店はある。治安はまあ、良い」

 

 

 それに趣味もしやすい。

 

 

「流石は日本、東京というべきか。他の国や県なんかに比べたらよっぽど素晴らしい場所だ」

 

 

 そう思いながら、早く家に帰ろうとした時、持っている使い捨てのスマホから電話がかかってきた。

 

 

「………」

 

 

 着信音からして、相手、というよりか要件は直ぐに察した。

 

 

「チッ」

 

 

 恐らく相当嫌な顔をしながら、電話に出た。

 

 

「何のようだ」

 

 

 相手側には声が変わって聞こえるよう細工をしてある。

 

 

『昨日の今日で悪いが、依頼だ』

 

 

 相手の声もどこか機械的で低い。細工をしているのは同じようだ。

 

 

「内容は?」

 

『こちらの方からある物を持ち出した奴が出てな。DAと合流するつもりらしい。そいつの始末を頼みたい』

 

 

 DA。日本の独立治安維持組織。どうやら思ったより面倒な背景がありそうだ。和菓子があるし、断ってしまおうか。

 

 

「私にわざわざ頼むことか?」

 

『その物が色々と面倒なものでな。確実にそれごと跡形もなく消したい。頼めるか?』

 

「跡形もなくだと、そっちも確認できなくならないか?」

 

『そっちは問題ない』

 

 

 どうしても他には任せたくないのか。いつもより押しが強い。

 

 

「………はあ、分かった。報酬はいつもと同じ方法だ。金額については後で要相談だ」

 

『了解した。詳細はそっちに送る。それじゃあ、頼むぞ、キラークイーン』

 

 

 会話が終わり電話を切る。届いたメールを確認すれば、ターゲットの情報が載っていた。

 

 

「まったく、今日は早く帰れると思っていたんだがな」

 

 

 必要な情報を頭に入れると、持っているスマホを強く握り締めた。

 

 

「仕方ない」

 

 

 そのままスマホを小さく『爆発』させ、この世から消し去ると、ゆっくりと家とは反対方向に歩き出す。

 

 

「手早く終らせよう」

 

 

◆◆◆

 

 

 

 夜八時、結構な時間をかけて駅に着いた。

 

 やはり、駅のホームというのはダメだ。やはり騒々しい場所は好かない。モラルを守れない学生連中がぎゃあぎゃあと騒いでるかと思えば、周りに配慮できない中年のサラリーマンが小走りで動き回る。酔いそうだ。

 

 

「日本、東京。素晴らしいとは言ったが、これに関してはやはり許容できないな。確か、渋谷か新宿だったか?その辺りの通勤時間の人口は全世界の駅でも一位と聞いた気がする。酷いものだ」

 

 

 しかし、まあ、だからこそか。木を隠すなら森の中。人を隠すなら人の中。今回のターゲットがここに居るというのも納得だ。大方、ここで誰かと合流するつもりなのか。

 

 確かにこうも周りに大勢の人がいると、かえって始末しづらいのだろう。騒ぎを起こされたらあちらにとっても面倒だ。ターゲットもよく考えたことだ。感心するよ。

 

 しばらく歩くと、見えてきた。ホームの中央、柱に背を預けて、帽子を深く被りながら、注意深く周りを観察している。大事そうに抱えているケースもある。事前に確認した情報と一致する。

 

 なんとも若い男だ。外見からして二十歳になったばかりじゃないか。今回やらかした件も若さゆえの過ちか。

 

 

「まあ、僕には関係のないことだ」

 

 

 昨日やったばかりでストレスは溜まってないが、いいとしよう。

 

 こちらにまだ気付いていない男に近づく。人混みに紛れたまま、普通に歩きながら。特にこれといった特別なことはしない。

ただ、普通に歩くだけ。

 

 遂に、間に何人か一般人を挟みながら、男の半径二メートルに入った。そして───

 

 

「ッ!」

 

 

 男が何かに驚いたように辺りを一瞬見回したのを横目に見ながら、何もせずそのまま、人の流れに乗って、その場を去っていった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 エスカレーターに乗りながら、ふと考える。

 

 先ほどの男は何を考えて、DAに接触しようとしたのか。別にこれといってDAに恨みがある訳ではない。むしろ、自分が趣味の火遊びをしてる傍らその消火をしてくれる彼らには感謝している。是非とも、これから先も仕事を頑張って欲しいと、善良な市民として思う。

 

 DAに渡そうとしていたもの、それが気になる。もしかしたら、自分は何か大きなことをしたのではないか。重要な転換点となる何かを左右したのではないか。そんなことを思う。

 

 

「まあ、いいか。何かあっても、多分大丈夫だろう」

 

 

 隣の下りのエスカレーターに乗って下りていくベージュ色の制服の女子高校生二人を横目に見ながら、今日の夕飯を考える。

 

 

「確か、サスペンスドラマじゃあ、こういう日に犯人は赤いものを食べるのを偶に見るな」

 

 

 ミネストローネ。トマトはあったはずだ。よし、そうしよう。

 

 

「と、そろそろやっておかないとマズイな」

 

 

 先ほど見た女子高校生たち、いや、DAのエージェントであるリコリス。さすがにまだ合流はできていないはずだが、もういいだろう。

 

 

「最近の高校生は忙しいな。こんな時間まで御苦労様なことだ」

 

 

 軽い親切心だ。仕事を減らしてあげよう。エスカレーターを降り、一人普通に歩きながら、右手で握り拳を作る。そして、親指を立てそれをスイッチにする。

 

 

「キラークイーン『第一の爆弾』。無音で静かに、誰にも知られず、木っ端微塵に吹っ飛べ」

 

 

 親指のスイッチを押した。起爆したのだろう。僅かな解放感が脳を走る。

 

 

「ふう、実にいい気分だ。今日は昨日と違って熟睡できそうだ」

 

 

 そして、人混みの中で静かに呟くと、家に帰る。周りの一般人と同じように。同じ一般人として。

 

 

「ッ、雨が降り始めたか!ま、不味い!い、今は和菓子が!傘は………ああ、クソ、すっかり忘れてた!」

 

 

──日本、東京。この表裏激しい場所で、今日も僕は自分の性と上手く付き合いながら、平穏に生きている。

 

 

 

 

 

吉良吉陰(きらよしかげ)は東京に暮らしている』




『吉良吉陰/きらよしかげ』
吉良吉影によく似た名前を持つ青年。
その影響なのか、生れつきとある性を持っており、それと上手く付き合っている。
スタンド『キラークイーン』を持ち、
表向きは普通の高校生として暮らしながら、
裏ではスタンドを悪用してフリーの殺し屋をしている。
殺し屋としてのニックネームも『キラークイーン』で通している。
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