いろはくん短編置き場   作:放浪するモキュ侍X

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またの名を好感度上げちゃいけないヒロイン
瀬奈みことのキャラについて注釈すると、書いたの実装前11章の頃+魔女化した人格想定だからご注意を


トキシックアート

「つまりフールガールはエロ漫画家にジョブチェンジしたワケ?」

「なんてことを言うの」

 

 ソウとしか思えないワケ。断定の意を込めてアリナは言い切った。当然ながらかりんは悲しんだ。

 朝か昼か夕か、夜以外は代わり映えしない入院生活のある一幕の出来事である。

 病室に本格的な画材を持ち込めるわけもなく、当たり前のようにアリナは暇を持て余していた。

 置いてあった輪ゴムで髪を束ねたり解いたりを繰り返して慰みにしてみるが、それもすぐに虚しくなる。

 暇つぶしを求めて、同室になったかりんに何か刺激的なことはないのかと聞いてみたら――両手の指より多い女と付き合っている中学生など信じられるわけがない。芸術が関わらなければそこそこの良識を備えているアリナからすれば当然の言い分であった。

 目の前のぷんすかした“コウハイ”でなかったら即座にナースコールを使って変質者扱いにして追い出していたところだ。

 

 

「だーかーらー、これは現実に起きてることで私の妄想じゃないの!」

「魔法少女ってのよりアンビリーバボー、そいつなに?」

「環いろは、マギアユニオンの男の子なの。とんでもねえハーレム野郎だけど、決して悪い人じゃないの」

 

 それくらいかりんの様子を見れば分かる、これは自分を信じてもらえないことを怒っているのではない。いろはをけなされた気分になって不愉快そうにしているだけだ。

 ここで「惚れてるの? 趣味悪いネエ」と煽ってやることも考えたが、自分から聞かせろと言った話題だ。

 なにより、他の女たちならまだしもかりんにそういう態度を取るのは本意ではない。

 

「環いろはねえ」

「いろはのことも覚えてないの?」

「ン-……ノン」

 

 目を閉じて生え際を擦ってみても何も浮かばない。かりんに聞いても「悪の魔法少女だった先輩と対峙してたの」とか、要領を得ないアンサーばかりが帰ってくる。

 顔は少し前に見舞いに来ていたのだから知っている。しかしどんなプライバシーの人間だったかを聞かれても答えようがない。消え失せた記憶の中にはあったのだろうか。

 面識はあったのだろう。だが、そのカレとどういう話をしたか、カレはCoCo壱番屋が好きか、好きな絵は? カレーは何が好きか?

 関係ないが退院したら真っ先にカレー屋に向かうと決めたアリナの耳に病院食を運ぶブザーの音が飛び込む。

 良い病院だけあって健康的な旨味に満ちたメニューを思い出し、アリナはヴァアと呻くしかなかった。

 暇つぶしはそれで終わり、今日はいろはは来なかった。

 

 

 

 その夜アリナは夢を見た。全く覚えのない夢だから、これがかりんの言う“魔法少女”の自分の記憶であるとすぐに理解できた。

 ドリームは空中で始まった。

 落ちている。

 落ちる夢なら見たことがある、しかしこれは現実にあったことだ。

 魔法少女として、アリナ・グレイはまず死のうとしたらしい。

 落ちる、落ちていく。地面というキャンバスに自分という画材がぶちまけられてまた一つ芸術が出来上がる。

 夢の中、死を目前に歓喜する自分を他人事のように幽体離脱者の目線で見据えながら思考する。

 我が事なのでキモチは痛いほど理解できるが、本当に碌でもない奴が居たものだ。かりんの言う通り、自分はとんでもないヴィランであったらしい。

 自己嫌悪さえ沸かない冷めきった心のままに、自らの作り上げた額縁へ飛び込む己を見つめる。風景が線のように伸びて虹のような重層が完成する。

 しかしこれはこれで美しいものだと、重力が塗りたくった世界に包まれたアリナは自らの死を見届けようと目を見開いた。

 

 その時は来なかった。激突したのは地面ではなかった。

 

「あいたた、怪我はありませんか……まずい、救急車呼ばないと!」

 

 地面と自分に挟まれた少年の心配そうな眼差しが自分を見つめている。

 その日アリナの芸術は、花と廃棄芸術のコラージュに差し込んだ桃色の汚点に傷つけられたのだ。

 

 

 次の日、朝早くから窓の外を眺めているアリナを見てかりんは違和感を覚えた。

 昨日とは服の色と髪型も違う。その外観以上に、透明な窓に自らを塗装するアリナの姿は、目に見えない何かが昨日までとは何かが決定的に違ってしまったような、そういう恐怖に似た感覚だった。

 首をすくめるかりんの様子も意に介さず、アリナは昨日の続きを聞いた。

 

「ところでフールガール、いろはとはどうして知り合ったワケ? アンタの三流コミックのネタにもなりそうにないジャン」

「そういえば魔法少女について忘れてるならこれも忘れてて当然だったの……私がいろはに会ったのは元々は先輩の頼みだったの」

「ファァァット?」

「先輩が急にいろはを監視しろって言ってきたの、何なら味方のふりをしてチームに出来るだけ混ざれとか、コネクトまでなら許すとか。あれは友達が少ない漫画家に頼むことじゃなかったの、無茶振りにもほどがあるの」

 

 あれがみゃーこさんの言ってたリア充ってやつかと分からされたのと思い出を振り返っているかりんの姿が鏡の端に映る。

 目をそらすと、真っ直ぐに見つめた鏡には自分が居た。

 似合いもしない軍帽をかぶり、敬礼はしそうにない気の抜けた顔が自分を見つめている。

 ふっとそいつは、重力を思い出したかのように地面に向けて落ちていった。

 かりんが声をかけるまで、アリナは白昼の自殺をじっと見つめていた。

 今日もいろはは来ない、かりん以外の女のところにいるのだろうか。

 

 

 早送りでメモリーが流れていく。

 かりんの涙、アポトーシスの目覚め、デストルドーの自覚、魔女という名の絵の具達。

 自分を助けて怪我した馬鹿な男、うろちょろしていたチビども、いちご牛乳、いろはの妹、結界の中のイヴ、マギウスの結成。

 極彩色のキュビズムが支配する美術館で、額縁に収まった鏡が忘れた記憶を見たままに映し出している。

 奇妙な経験だ、こうやって見ることはできても、何も思い出すことが出来ない。

 例えばアルバムを眺めれば思い出は蘇るが、この鏡は自分に何も思い出させようとしていない。

 時間の流れが変わる。ウワサの領域、ウワサに匿われた透明人間、おせっかい焼きの環いろは。

 自己が崩壊する。まるで脱皮をするように、魔法少女の自分からカラフルなカビが解き放たれる。

 一度目は振り子が浮かぶ電脳空間に、二度目は桜の樹の下で。

 桜の木を守るようにいろはがこちらを見据える。持ち主が倒れ打ち捨てられた盾を拾い、ボウガンを構えこちらへと突撃する。

 憎しみではない、ただ祈るようにすがるように、今まさに怪物に走り出す。

 過程は語るまでもなく、終にボロボロに傷つき倒れたいろはを抱え上げ、自分は楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 今日はいろはが来た。記憶のない自分はなんとも思えないが、かりんが嬉しそうに抱きついている。

 

「ハロー、オスカー・ワイルド(同性愛者)」

 

 女のような外見を揶揄してやるが、婉曲がすぎるのだろう。意図を理解できたのはいろはにひっついてきた七海やちよという女だけだった。

 

「あなた本当に記憶がないの? 今あなたから感じる悪意は私が最後に見たアリナ・グレイそのものだわ」

「アハッ、メモリーをロストしてるのは魔法少女についてダケなワケ、マリスがワタシ由来なら消えるはずもないデショ」

 

 夢を見るようになってからというもの、段々と調子が戻ってきている。困っているやつにはしないが、背伸びをしながら人をからかってやると気分がいい。

 プロミスドブラッド、マギウス、自分には心当たりのない単語を話し合っているいろはとかりんを部屋に残して、やちよとアリナは自販機のある休憩室に動いた。

 

「フールガールから色々聞いたケド、あんたもいろはに抱かれてるクチ?」

 

 いちご牛乳とストレートティーを挟み、アリナは無面目なことをやちよに問うた。

 釣りだすのに魔法少女のテレパスというものを使ってみたが、なるほどこれは面白い。

 やちよは面白くない真顔のまま、気軽にええ、と返答した。

 

「そうね、毎日ではないけど、そういう日もあるわ」

「アハッ」

 

 アリナは何が面白いのか、人を不愉快にするかん高い声を上げた。

 

「ワンダフル、フールガールのナンセンスジョークがマジ? こいつはメモリーロストして正解だったカモ?」

「そんなことを聞くために呼びつけたの?」

「ノン、まだクエスチョンはあるワケ」

「こっちはこれ以上何も答える義理がないわね、魔法少女の記憶があるならまだしも、今のあなたは記憶喪失なんでしょう?」

「メモリならバックアップが見つかったんですケド」

 

 立ち上がろうとしたやちよの動きが止まる。魔法少女なら、やはり自分のような危険人物は見過ごせないと踏んでいた。

 

「……話す気はあるんでしょうね」

「イエス、そっちの態度次第だけどネ」

「下種な質問なら答えないわよ」

「アハッ、ワタシも濡れ場の詳細なんてアンインタレステッドよ」

 

 聞く内容はなんでもいいのだが、アリナが気になることは別にある。まず一番は自分のコトだ。

 魔法少女としての自分、アーティストとしての自分、それ以外の自分。

 なくしてしまった自分と残された自分を、アリナは自分を知るものから探そうとしていた。

 やちよとしては、それを聞かれても実のところあまり答えられることがない。

 元から面識はなく、アリナの芸術は広告で見たことはあるが趣味ではないので触れたことはない。魔法少女としてなら、実は数えるほどしか相対したことが無かった。

 急にウワサをまとった時を含め、ビームを撃ってきたことくらいしか知らないのだ。

 

「ビーム……?」

「ビームよ、ルービックキューブからビームを撃ってきたの」

 

 思いもよらぬ衝撃で自分を見失いそうになっていると、一拍おいてやちよが質問してきた。それで記憶はどうなったのだと。

 信じないカモしれないケドと前置きして、アリナは見たままを伝えた。まさしく「美術館に展示されている」ようだと。

 

「夢の中で見たミュージアムなんだけど、どうもミラーに入れられてメモリが展示されてるみたいなんだよネ」

「鏡……」

 

 やちよの表情が変わる。アリナの夢、鏡の美術館には心当たりがある、しかし何故、どのようにして?

 ただ困惑するしかなかったやちよの顔を、アリナは笑うこと無くじっと見つめていた。

 

「ア、何か知ってるんだ?」

「……ええ、いろはもかりんも、鏡と魔法少女といえばあそこしか浮かばないでしょうね」

 

 鏡の迷宮、果てなしのミラーズ。やちよはそれきり黙ってしまう。

 ボトル半分の紅茶と底の見えたいちご牛乳を捨てて、二人は無言で病室に帰っていった。

 

 

 

「あ、おかえりなさいやちよさん。迎えに行こうかと思ってたんですけど……」

「平気よ、待たせて悪かったわね」

「いえいえ、こっちもかりんちゃんと遊んでいましたから」

「充電できたの!」

 

 二人が挟んでいた机には多様な絵が描かれた紙が散らばっている。どちらがどちらを描いたか、クレヨンをよく使っているのはいろはで、書き込みが細かいのがかりんだろうか。

 魔法少女というのは体以上に心が大切な器官だ。一層元気を取り戻しているかりんの様子を見て、やちよはとっさにテレパスを使ってしまった。

 

(……驚いた。あなたまさか、いろはとかりんを二人きりにしてあげたいから引き止めていたの?)

(オーバーシンキングにも程がある、ワタシがキルタイムしたかったダケ)

 

 アリナとしては少しでも部屋が臭っていたらそのことでやちよの面前でいろはをからかってやるつもりだったのだが、何事もなく、思った以上に健全な遊びをしていたらしい。

 同時に中学生にしては自分の後輩は幼すぎやしないかとまた別の危惧を抱いたが、何故か微笑ましくこっちを見るやちよの顔に腹が立ったので、癇癪のふりをしていろはとやちよを追い出した。

 今日は夢を見なかった。しかし、薄気味悪い満足感が後ろ髪を引き続けていた。

 

 

 

 次の日、かりんは着々と退院の準備を始めていた。とはいっても重症がすぐさま治ったことになると不審がられるのであと少しは同室のままだが、それでも昨日までと比べると顔色に雲泥の差があった。

 院内図書館で漫画ばかりを借りてきては嬉々として楽しんでいる様子は一昨日までと同じだというのに、いろはに会うだけでここまで元気になるものか。

 アリナは興味が湧いた――かりんにとっていろははどういう人なんだろうかと。

 

「ううん、実を言うとよく分からないの」

 

「ハー? そんなのアイ・ラブ・ユーってコトにしておけばオーケーじゃないの?」

 

 もしかりんがいろはを独占したいなら、それこそ夢で見た自分のマジックで手伝ってやっても良い。そうすればやちよって奴の鼻を明かしてやれるのだし、アリナとしてはジョークではなく本心からそう考えていた。

 うんうんとかりんは思い悩んでいた。語彙が少ないのか、頭が悪いのか。

 ただスケッチする分には面白い顔をしていたので、アリナは筆を運びながらそれ自体を暇つぶしにして次の言葉を待った。

 

「えーっとね、いろはを好きなのは本当なの。キッカケは先輩の指示だったけど、もっと一緒に居たいと思うようになったし、それで先輩を裏切ったの事もあったの」

「ウェイト、そこベリーベリー気になるんですケド」

「いろはを好きな人はたくさん居て、自分がその中の一人で終わるのは嫌なの。でも皆のためじゃなく自分の横にだけいろはが居てくれても、それはそれでいろはを幸せにしてあげられないの」

 

 ――聞いてねえ。

 恐らく心に尋常ではないダメージを負ったであろう過去の自分に同情しながらも、アリナは憮然としてかりんの話を聞くしか無かった。仕方ないが無視されたことが悲しかった。

 

「きっと自分はまだ漫画の方が大好きなの。恋人になりたいかっていうとハイだけど、ワタシには今の漫画っていう恋人とアリナ・グレイっていう先輩がいて満足しちゃってるの。たぶん、いろはがくれたものと同じだけのものを今の自分じゃ返せないの。だからいろはのためにも今は皆と同じでいいの」

「フーン」

「それでもいつかミリオンヒット叩き出してみかづき荘から絶対に奪ってやるの。やちよさんだけに正妻ヅラはさせないの」

「ナイス、その意気よかりん」

 

 かりんはふと顔を上げる。鏡にもたれかかるアリナは満足げな顔をしていた。しかし、自分をフールガールと呼ばなかったアリナから、かりんは別の感情を読み取っていた。

 

「……アリナ先輩、すっごく安心してるみたいだけど、一体なにを心配していたの?」

「え?」

 

 虚をつかれたアリナは頬を撫でる。思わず振り向いた鏡の中、安堵する自分をアリナは目撃した。

 

 

 

 おそらく夢はここが終着点だろう。案内図のない不親切なミュージアムの中で、アリナは勝手に納得していた。

 はじまりのいろは、さくらのいろは、そして最後のいろは。夢が自分に見せたかったのはたぶんこれなのだ。

 背後に柊ねむをかばい、横に七海やちよを携え、桜の時のように自分へ歯向かおうとするその姿。

 生意気だ、心が躍る。

 お前は覚えていないのか、腹が立つ。

 クソ女連れの気色の悪いオカマ野郎め、そんなのではなくワタシを見ろ。

 ここでお前を八つ裂き(芸術)にしてやる、きっと最高傑作だ。

 相反する感情、破滅という最大欲求に囚われた心の全てが環いろはに向いていく。

 

 ――見ろ

 

 なんとも身勝手な男だ。人の事情も考えず勝手にズカズカと踏み込んできて、消えない傷を付けて飛び立とうとする。

 ただ一人この街の魔法少年として今も戦い、もし自分が消えたらどうなるか分かりやしないのに、それでも魔法少女を身勝手に救う。

 かりんを見ろ、ああ言って遠慮してるのに、本心はベタぼれじゃないか。そんな女を増やしてどうするのだ、身勝手な。それで手懐けた女にエサを遣るのだからたちが悪い。

 こうして自分にも、一番欲しいものをくれるのだから、本当に、なんて悪い男なんだ。

 

 ――私を見ろ!

 

 そんな悪い男なら、自分のような悪党に付きまとわれても文句をいうルールはないネ?

 羊の生首の下、桜の時とは真逆の立場、淫蕩な顔を浮かべ彼にへりくだる自分の本性があらわになる。

 後輩の恋を応援して、こんな顔をするなんて、自分は実に――最高のヴィランではないか。

 

 

 

 果てなしの果て、ミラーズの最下層。悠々と姿見の前に立つアリナの横に、美術館の館長が姿を表した。

 鏡の魔女、瀬奈みことという娘。自分の記憶の番人を気取る赤の他人。

 軍帽をかぶった自分が気にするべきではないが、ナースキャップと黒いメイド服をゴシックロリータでアレンジしたような、非常に個性的な服装だ。

 

「それじゃ、環いろはを殺しましょうか」

 

 全てを見終え、全てを思い出したアリナに、その女はこう言った。

 

「機は熟した。彼は私の予想通り、あらゆる魔法少女の心に根を張った」

「後は桜を枯らしてしまおう。いま彼という希望を失ってしまえば、神浜の崩壊なんてお手の物。七海やちよがいくら遺志を受け継ごうが、誰が残ろうが、もはや敵ではない」

「彼のもたらした愛、彼に向けられた愛など偽りでしかないの。だって魔法少女という化け物がいくら少女のふりをしたって、一皮剥けばおぞましい魔女なんだから」

 

 宿主を変え続け、厄災を振りまき、その度にいろはのおせっかいに焼き尽くされた女は、ある時一計を案じた。彼が救うというのなら、彼を失えばすべてが終わる。

 簡単な考えだった。まずは魔法少女たちに素敵な彼氏をプレゼントして、それから奪ってしまえばいい。その悲劇は神浜を滅ぼすに足るものだ。だからずっとアリナのスキを伺っていた。みことから見た彼女は、間違いなくいろはを憎んでいたから。

 全て自分の掌だと、そう考えているのだろう。ニヤリと笑ったアリナは躊躇いなくみことの手を握る。

 そして彼女の体は微塵に引き裂かれた。

 

「……――アギィっ!?」

「ハア? ただのペイント(絵の具)が、どうしてアーティストに偉そうなクチきいてるワケ? 意味ワカンナイんですケド-?」

 

 異変を感じ取った使用人たちが部屋の外からドアを叩く。しかし全てはもう遅い。

 一切の記憶(悪意)を取り戻したその時から、ここはアリナのアトリエなのだから。

 

「なんで、なんで、どうして!? あなたはいつも環いろはに邪魔されていたじゃない! 人生をかけた傑作を汚された! 額縁にしようとした桜の前で立ちはだかった! 柊ねむを殺しそこねた! ぜんぶ! 全部あの子が邪魔したんじゃないの!」

 

 全身を微細な結界でバラバラに分割されてなお、もはや魔女でさえなかった女は生きていた。

 みことは吠えた。カビが全身を侵食し、残ったあちこちは結界に隠して穴だらけにされ、エキセントリックな色彩を全身から吹き出してなお彼女は諦めていなかった。

 アリナはそれを嘲笑った。鏡の中で己の心と向き合い、ウワサに加えドッペルと融合する条件を満たし、コアを潰すだけなら鏡の魔女さえ凌ぐ力を得た魔法少女は五月蝿いだけの画材を踏みにじった。

 

「決まってるデショ……オマエみたいなダッサいアートの思い通りなんて、いーーーや!!」

「嫌、嫌だ! 助けて! 帆奈、帆奈、はんなぁぁ!」

 

 結界の内と外、あらゆるところに在った鏡の魔女が侵食される。溶けて、絵の具と混ざっていく。

 殺すより酷い結末だった。神浜を憎む願いを押し付けられた魔女は、衝動で破滅をもたらすより狂った魔法少女のエサになった。

 

 鏡の魔女をドッペルに咀嚼させると、ドアの向こうは静かになった。こうしてまた一つ、アリナは最高のアトリエを手に入れたのだ。

 願えば出てくる。筆も、キャンバスも、絵の具(シャドウ)も。

 手始めにねむの影を潰す、次に灯花の影、やちよの影、さなの影、フェリシアの影、思いつく全て全て、鏡の中に映された魔法少女の複製をただの色に変えていく。

 

「アンタは勘違いしてたケド」

 

 炭を手に取り、無心にキャンバスに向かっていたアリナは出来上がった下書きに語りかけた。

 

「フールガールの愛は偽物なんかじゃないワケ。あの子はホンキ、ホンキであのつまらないコミックを面白くして、それで憧れのバッドボーイの横に立とうとしてた」

 

 下書きされた鏡の魔女のスケッチに色の暴力が叩きつけられる。偽りの魔女が輪郭を失う。

 

「だからワタシもホンキになろうって思ったの。それを分かってなかったアンタがイイ思いするなんて、許すわけ無いジャン」

 

 これから、自分は全てを滅ぼすために動く。過去、今、未来の全てを鏡の中から睥睨し、この地球の全てを自分のキャンバスにする。身勝手にそう決めた。

 

 ――だから早く止めに来てヨネ。アンタが立ち向かう最高のヴィランはワタシなんダ。

 

 招待状は二人に送った。この自分のアトリエに、立ち向かえるのはいろはとかりんだけでいい。世界中が芸術になって、その全てを展示するこのミュージアムに招かれるのはあの二人だけだ、他は要らない。

 或る救済の魔女のように自分勝手な滅びをもたらすもの、色彩の魔女へと変貌した少女は一人彼と彼女を待つ。いつも自分を見つめてきたあの瞳達を。

 

 

「待ってなヨ、かりん、ダーリン」




最初はいろはくんとかりんが画材屋行くお話だったはずがアリナの存在でオーバーレイネットワークが構築されて趣味のラスボス兼ヒロインに昇華された。アリナの口調難しすぎだろ、テンプレはどこだテンプレは。後拙者が書いたこいつただの『いろは×かりん過激派』じゃねえか。
最後の一言のトーンは「精神病院にブチ込まれたジョーカーがバットマン復活の知らせを聞いた時の一言」と同じ。
実は『かりんがみかづき荘入居』みたいなifを前提にしてあるのだが、後に公式と微妙にネタかぶりして困惑する
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