それはともかくンゴ編です。
セレじょのイメージデッキは全員分ニューロンで作ってるんですが、一番難しかったのはンゴでした。皆さんのデッキ作成の一助になれればいいな~ってノリで書きました。
なんか思いのほか読まれててめちゃくちゃ嬉しくなりました。感想とかあると喜びのあまり相手フィールドのモンスターを全て破壊するのでよかったらどうぞ。
誤字とかあったらこっそり教えてください。ンゴの口調の「もいた!」とかは大丈夫なはずですが。
※8/30改稿 行頭に空白を追加。他にも微細な変更。
サンゴが講師役のコハクと共に向かった先は、『虹闘の間』のフリースペースとして用意されている場所。ソロ配信にてリスナー参加型企画などにも使われたり、有識者によるデッキ相談会が行われたりする場所。この配信枠『#おうとう デッキつくる!〜挑戦編 #セレじょのデュエルトレーニング』もその例に漏れず、ゲストを招いてのデッキ構築が行われる。
「ってことで、改めてね! みなさま〜〜〜! “おうとう”の“おう”こと周央サンゴと〜〜〜!」
「“おうとう”の“とう”こと東堂コハクで〜〜〜す!」
サンゴとコハク、固い絆で繋がれた二人合わせて“おうとう”の恒例挨拶。訓練されたコメント欄が盛り上がっている。簡単なイントロダクションののち、
「それでは! 今回ンゴのデッキを作る相談に乗ってくれた、ちょ〜〜〜素敵な先輩を紹介します!」
「ンゴちゃ〜〜〜ん!」
「すこや先輩〜〜〜! では、自己紹介お願いします!」
登場したのは、ピンクの可愛らしい刺繍がなされたナース姿の女性。“すこや”と呼ばれた彼女はサンゴからしてにじさんじにおける先輩であり、サンゴが特に親しくしているライバーのうちの一人。すうっと息を吸って。
「みなしゃま~!」
──誰?
──似てない
──みなさま〜(被害甚大)
「先輩、似てないですね〜!」
「これ皆さん聞きました!? マジで似てないですねこれ! ハイハイこんなんンゴ蠱毒最後まで残るの確定です〜!」
「ゔっ」
おそらくサンゴのモノマネであろう挨拶。しかしそれは歯の抜けた幼児、あるいはアニメなどに見られる人の言葉を真似しようとする異形の生命体のような声、モノマネとしてはいささかクオリティの低いそれに微妙な空気が広がる。配信コメントはボロカスな評価を下し、コハクの無邪気な言葉のナイフとサンゴの怒涛のボディブローに苦悶の声を漏らすのだった。もちろんこういうエンタメである。
しばらくして気を取り直した女性は、今度こそしっかりした挨拶を繰り出した。
「はーい、皆さんお加減はいかがでしょうか! にじさんじ所属バーチャルライバーの
花那と合流した二人は、さっそくサンゴの組みたいデッキを確認していく。卓上に並べられたカードは自信満々な少女《プリンセス・コロン》を中心に、その関連カード《おもちゃ箱》《デメット爺さん》《人形の幸福》など。
《おもちゃ箱》
LEVEL1 ATK0/DEF0 光属性・機械族
このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから攻撃力か守備力が0の通常モンスター2体を守備表示で特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。
この効果で特殊召喚したモンスターはS素材にできず、次の自分エンドフェイズに破壊される。
《プリンセス・コロン》
RANK4 ATK500/DEF2200 光属性・天使族 エクシーズ
レベル4モンスター×2
①:このカードがX召喚に成功した時、自分の墓地の「おもちゃ箱」1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
②:自分フィールドに他のモンスターが存在する限り、相手はこのカードを攻撃対象に選択できず、効果の対象にもできない。
③:自分フィールドの表側表示の通常モンスターが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
自分のデッキ・墓地から通常モンスター1体を選んで守備表示で特殊召喚する。
「ま、要するに【コロン】デッキってことだね」
「そうなんです〜! コロンちゃんがかわいいから、デッキにしたいなーって思ったんだけど……」
「それがなかなか難しかった、ってことだね……」
そう、サンゴを悩ませている問題は単純に構築が難しいということ。
《おもちゃ箱》は破壊されるとデッキから特定条件のモンスターを召喚し、同じレベルのモンスターを並べることでできる“エクシーズ召喚”によって盤面を作る準備となる。《人形の幸福》が一枚あればおもちゃ箱をデッキから手札に加えてそのまま破壊できるためまず最初の盤面は作りやすいが、その後に繋がりにくいのが難点だった。
《デメット爺さん》はコロンがいると墓地のモンスターをレベル8にして蘇生でき、そこから大型のエクシーズモンスターを召喚できる。レベル8モンスターを使うランク8のエクシーズモンスターは強力な効果を持つものが非常に多いため積極的に狙っていきたいが、そのためには場に《プリンセス・コロン》と《デメット爺さん》の両方がいなければいけないので、準備することが多い。デッキに三枚しか入れられないデメット爺さんに重きを置きすぎてしまえば最悪手札事故によって何もできない可能性すらある。
これらから、【コロン】デッキは非常に難易度が高いとされていた。構築の上で少なくとも他のテーマのカードは採用したいところ。
「それで今は“混ぜ物”の相手を探してるってことだね!」
「はい! ……まあそれが一番難しいんですけど」
「うーん、サンプルデッキで見た気がするんだよね……【星杯】だっけ?」
「そう! です! 最初はンゴもそれを使おうと思ったんです!」
『虹闘の間』は、デュエルの敷居を下げられるようにという製作チームの気遣いもあってサンプルデッキがいくつか用意されている。その中の一つが攻撃力や守備力が0の通常モンスター三種類を擁する【星杯】というテーマと混合した【コロン】デッキ。特に《星杯に誘われしもの》はレベル4で攻撃力1900と、コロンの召喚に繋げられるモンスターの中ではかなり優秀なモンスター。
では、なぜ使われていないのかといえば。
「【星杯】はリンク召喚が強いけど、《人形の幸福》を使うとエクシーズ召喚しかできなくなっちゃうからうまくデッキが回らなくって」
「はいはい! それで考えなくちゃいけないことが多かったのかー……確かに【星杯】のリンクモンスターは結構クセがあるし出すのも難しめだからね」
「他にも試したんですよね~。ほら、なんか違うってなっちゃったやつ、なんだっけ?」
「えっと……お寿司! あとなんか光と闇のやつとか!」
コハクが指摘した通り、サンゴは今までも様々な可能性を模索していた。メインエンジンの《おもちゃ箱》が指定する“攻撃力か守備力が0の通常モンスター”は対応カードこそ四十種類以上。《人形の幸福》の効果に指定された“ドール・モンスター”二体を合わせたレベル4モンスターは十八種類。同じくランク4エクシーズを使用する【
「こんなこと言ったら変かもしれないんですけど、やっぱンゴ的には“解釈違い”になることが多くって……最後はコロンちゃんに決めてほしいなーって……」
それはともすれば傲慢かもしれない。多種多様な強いカードを見てもなお悩むというのは、子供らしいわがままかもしれない。中学一年生と幼いながらにそれを理解しているサンゴは、恐る恐るといった感じで口にした。
だが、花那とコハクが返す答えは彼女らがサンゴを理解しているからこそ違うもので。
「いいじゃん! デッキって好きなカードで組むものだから!」
「そうだよー、ンゴのそういうところ素敵だと思うな」
「私も好きなカードでデッキ作る、ってなった時はすごい大変だったんだよ!」
「先輩の、好きなカード?」
今まで『虹闘の間』を訪れていなかったサンゴが初めて聞く、花那のデッキのコンセプト。気恥ずかしそうにしながら語る花那の言葉は、確かな実感が伴うアドバイスとして突き刺さる。
「私がイラストが良くって好きになったカード、まあ使いづらい子だったの。出すのも難しいし、出してから活躍させるも難しい。どうしようってもうすっごい悩んだ」
「そんなことが……」
「いろんな人に協力してもらったねー。……本当にありがたかったな」
頭によぎるは、かけてもらった言葉の数々。“無茶かもしれないけどこの子で戦いたい”という熱意が伝わった時の思い出。
――ご相談ありがとうございます。健屋様の情熱にお答えできますよう、わたくし頑張らせていただきます!
――俺は詳しくないけど、こういうカードがあるみたいだからよければ。
――要するにその子でバトルして勝ちたいのね! 健屋さんの頼みとあっちゃあお姉さん頑張るしかないわねぇ!
助言と発見の末、完成した時の感動はひとしお。今度は私の番だ、と決意した花那がかける言葉は、おそらくこの場にいる誰よりも説得力と自信を持っていて。
「視点を広げて、時には変えて、いろんな方向からそのカードを見ればいいデッキが作れる! ンゴちゃんのカードも、絶対にいいデッキを作れるから!」
「……! ありがとう、ございます!」
どんなカードも使いようがある。誰かのストレージに眠るそれが違う誰かの切り札になっているかもしれない。一万種を超えたカードがある遊戯王はまさに可能性のカードゲームと言えるだろう。実際どんなデッキかは見えていないものの、口ぶりからするに花那も“好きなカード”でデッキを組むことができたのだろう。
そんな花那の激励が、うつむきそうになっていたサンゴを奮い立たせた。“視点を広げて”……その発言が、今までの固定観点を改めるきっかけになった。今まで自分が見ていたのはおもちゃ箱で特殊召喚できる通常モンスターばかりで、最終的に戦うエクシーズモンスターは後回しになっていた。そちらに、ヒントが隠れているかもしれない。
「エクシーズモンスター、めちゃ見ていこうと思うんだけどどうかな?」
「いいよ~やっちゃえ~!」
配信者らしく行動に移すのは非常に速い。データベースをさっと操作し、ランク8のエクシーズモンスターを少しずつ確認していく。とはいえそれらは非常にバリエーションが広い。除去・妨害・攻撃力……様々な要素が秀でておりどれもエースレベル。最上級モンスターを二体以上用意するのにふさわしい性能ばかりで、逆に難しいというのも珍しい話だ。特定の条件が必要なものなどを除いても二十種類以上は検討されるだろう。一撃のパワーを求めるもよし、テクニカルな動きで翻弄するもよし、じっくりと確認する。
とはいえ今回はデッキのコンセプトが明確で、相性のいいモンスターというのもわかりやすい。やみくもに探すよりよっぽど効率的だ。キーワードは“通常モンスター”。【コロン】デッキの展開に役立ち、フィニッシャーとしての十分なパワーも持つカード。
そうやってある程度絞り込んで考えていたからか、
「あ、ひょっとして……?」
「わーかっこいいー! え、いいんじゃない!」
「ほうほう……うんうん、強いじゃん! このテーマが相性良かったりするかもね!」
「今見てみます! …………これ! あるかもしれもはん!」
通常モンスターを絡めて展開する【コロン】デッキとまさに奇跡のマッチ。展開力もパワーもあり、デメット爺さんだけでは足りないと課題だったレベル8モンスターの用意も手助けしてくれる革命児。調べていくほどに見えてくる相性は最高の一言、テーマとしての動きやすさは《人形の幸福》などにアクセスできなかった時でも十分戦えるようになり、【コロン】デッキを押しのけすぎずに両立する。やがて非常に母数が多く後回しになっていたランク4エクシーズモンスターもおおよそ決まり《コロン》を支えるモンスターたちが勢ぞろいしていった。
“人は誰しも可能性に満ち満ちる”、そんな文言に導かれたサンゴのデッキ作りが急加速を迎え……そして彼女らの歓喜の声がフリースペースに響くのに、そう時間はかからないのだった。
「できたーーーっ!」
それから細かい調整を終えた後。デッキを作ったからには多少なりとも試運転は必要だろう、という前置きと共に花那がサンゴにデュエルを申し込む。
配信開始から二時間以上が経過しており、今日の締めにふさわしいとしてその申し出を受け入れるのだった。配信も非常に盛り上がりを見せ、サンゴの初陣はプレッシャーにも成りえる現状を真正面から受け止めそのうえでデッキを信じた。この胆力こそサンゴの持つ強み。
「さて、ンゴちゃんとデュエルするのは初めてだなー!」
「すこや先輩が使うデッキ、何だろう……よろしくお願いします!」
「よろしくね!」
「それじゃー、ンゴと健屋先輩のデュエル、始めまーす!」
電子音が相対する二人にファンファーレを送る。ここは戦場、誇りと熱意をぶつけ合う遊戯の場。
-- SANGO VS KANA --
-- DUEL --
「「デュエル!」」
TURN1 KANA LP:8000 HAND:5
「早速エースに来てもらおうかな! 私は手札の《地霊媒師アウス》の効果発動! このカードと手札の《
先行は花那。手札に引いていたモンスターはそのまま手札から相方となる他のモンスターと共に捨てることで、自分自身か相方と同じ種族の地属性モンスターを手札に加えるサーチカード。捨てたモンスターは魔法使い族のアウスと昆虫族の天道虫、サーチするモンスターは宣言通り花那のエース、彼女とどこか近しい――
「魔法使い族、《お注射天使リリー》を手札に加える!」
「あれが、先輩のエースモンスター……!?」
「天道虫が墓地に送られたから1000
戦場がたちまち花咲き乱れる野原に化粧された。薫風が運ぶ芳香、機械によって再現されたものだとわかっていても本当に大自然に身を投じているかのような錯覚に陥ってしまうのも無理はない。
「《苗と霞の春化精》の効果! 手札のこのカードとリリーを墓地に送って、デッキから《丘と芽吹の春化精》を手札に加えてから墓地の《苗と霞》を特殊召喚!」
「おー、なんか効果がたくさん! 何起きてるか全然わかんない!」
「【春化精】は手札から捨てるとそれぞれの効果を使いながら墓地の地属性を特殊召喚できるよ。私はエリーちゃんに教えてもらったんだ。花盛の効果で墓地からリリーを手札に戻して……続けて《丘と芽吹》の効果! 手札の自分とリリーを墓地に送って《春化精の暦替》を手札に加え、墓地からアウスを特殊召喚!」
「どんどんモンスターが並んで……!」
手札の消耗は激しい。それでも息切れしているようには見えないのが、カードがカードに繋がっていく展開力に長けた【春化精】の強さだろう。観戦しているコハクはついてこれていないようだが。地属性モンスター全般を墓地から特殊召喚できるというのは彼女のエースであるリリーをいつでも呼び戻せるという強み。リリーをサーチできる《地霊媒師アウス》と合わせ、素晴らしい完成度を誇っていた。
「続けて、自分フィールドのアウスと《苗と霞》を墓地に送ってデッキから特殊召喚! 《憑依覚醒-デーモン・リーパー》!」
「デッキから直接召喚!?」
「デーモンリーパーの効果で墓地から天道虫を特殊召喚! さらに地属性モンスター二体で《Gゴーレム・スタバン・メンヒル》をリンク召喚! 墓地に送られた二体の効果でLPをさらに1000回復しながらデッキの《地霊術-『
止まらない、止まらない。そして先ほどからたびたび見える天道虫によって何度も何度もLPを回復しているのも気になるところだった。二回の効果発動で今や10000LP、削り切るのは相当難しいだろう。
その後花那は手札のカード二枚をセット。おそらく手札に加えていた《春化精の暦替》と《地霊術-『鉄』》だろうそれらを構え、手札1枚とフィールドに攻撃力1500の《スタバン・メンヒル》を残してターンを終了した。
TURN1 KANA LP:10000 HAND:1
FIELD 《Gゴーレム・スタバン・メンヒル》ATK1500
《春化精の花盛》〈SET〉〈SET〉
一見すれば頼りない盤面ではあるが、しかし準備は整っていると言えるだろう。
フィールド魔法《春化精の花盛》は春化精モンスターの特殊召喚に成功した時に、お互いのフィールドや墓地のモンスターを手札に戻す効果を備える。先ほどは自分のリリーを回収し《丘と芽吹》に繋げたが、今度は相手のモンスターを除去する役割を果たすことだろう。
自分場の地属性を墓地に送って別の地属性を蘇生する『鉄』と墓地の春化精を手札か場に戻す暦替によってそれがいつでも可能となっており、考えなければいけないポイント。先行プレイヤーとして後攻をけん制する十分な動きだろう。次の自分のターンからが本領発揮、サンゴの攻めに備えるような盤面を作ったのだった。
そんな、ある意味期待されながら迎えたサンゴのターン。
「……」
最初に見えた手札五枚は悪くない。最低限の動きはできるだろう。このドローによってどれだけ展開できるかが決まる。
「……行けるよね。うん。ンゴならできる!」
「ドローっ!」
TURN2 SANGO LP:8000 HAND:5→6
「!」
果たして、ドローしたカードは……どうやら悪いものではなかったらしい。頼りになるカードを携え、意気揚々と戦場を彩り始める。花盛りの庭園に異質なおもちゃの城が建つ。
「行きます! 永続魔法、《人形の幸福》! デッキから《おもちゃ箱》を手札に加えます!」
「ちゃんと持ってるねー。ここからどうするのかなー?」
「こうします! さらに永続魔法《切り裂かれし闇》を発動! そして《
《予想GUY》、自分の場にモンスターがいなければデッキからレベル4以下の通常モンスターを場に呼び出すことができるカード。ドールモンスターももちろん呼び出せるが、ここで出てくるのはまさに
「行っておいで……《
「魔鍵……?」
「通常モンスターの特殊召喚に成功したので《切り裂かれし闇》で一枚ドローします! フィールド魔法《魔鍵
「おぉ……」
「《魔鍵-マフテア》を発動! 手札・フィールド・デッキの通常モンスターを墓地に送って手札から魔鍵モンスターを儀式召喚します! デッキの《ライドロン》を墓地に送ってバトスバスターを召喚! デッキの《大魔鍵-マフテアル》ちゃんを手札に加えます! 手札のマフテアルちゃんを見せて効果発動! このターン中ンゴは手札の魔鍵モンスターをさらに召喚できます!」
少年が持つ銃はその砲身を自在に変える。拳銃が大筒のガトリングへ転じ、さらなる力を導く。サンゴがたどり着いたコロンを支えるデッキパートナーこそがこの【魔鍵】たちだった。展開はまだ続く。手札の魔法カードが、高らかな宣言と共にフィールドをさらに鉄格子で分断した。
「ま、ここで環境保全させていただきましょうかね! 《超自然警戒区域》!」
「げ、やっべ」
「マフテアルちゃんを召喚! 墓地からゾンビーノくんを特殊召喚して《超自然警戒区域》の効果発動! すこや先輩の《春化精の花盛》を破壊します!」
「じゃあチェーンして《春化精の暦替》を発動! 花盛がなくなっちゃうし……ここは次のターンに備えるか! 墓地の《丘と芽吹の春化精》を手札に戻す! さらに《地霊術-『鉄』》でスタバンメンヒルを墓地に送って天道虫を特殊召喚!」
「よし、ここでさらにモンスター召喚しちゃおうかな! 《デメット爺さん》!」
環境保護、と言いながら大自然のフィールドがどんどん鉄格子に侵食されていく痛々しい姿に、しかしツッコミを入れる者はいない。サンゴと花那は集中しているしコハクは「やるね~」とつぶやくくらいでサンゴのノリには慣れてしまっているがために。
少なくともこのターンでは負けない、と考えた花那は返しのターンでの捲りを意識した動きに切り替える。天道虫が墓地に送られた際の1000回復を加味できればLPは11000。大型モンスターを召喚しようと削り切るのは限りなく不可能に近いだろう。
であれば、盤面を整えておくべきだろう。そう思いサンゴは次々にモンスターを繰り出していく。眼鏡の老父の横、並んだ
「おいでませ~! 《魔鍵変鬼-トランスフルミネ》! 《魔鍵憑霊-ウェパルトゥ》!」
「やるじゃ~んンゴ! ……まだ続くみたいですよみなさま~?」
「ウェパルトゥ
「ウェパルトゥはランク4、1200ダメージってことかー!」
KANA LP10000-1200+1000=9800
「ここでバーン効果……! 破壊される天道虫の効果も発動するけど最終的にマイナス200……でも流石にこれ以上モンスターは並べられないんじゃないかな……?」
「先輩もそう思いますよね~いくらンゴちゃんの魔鍵モンスターが強くてももう何もないんじゃないかな~?」
あからさまなフリだが、こういうところで明るい空気を作れるのは芝居を好む彼女ららしいか。それはそれとして今はサンゴのデッキのアイデンティティとも言える、《人形の幸福》一枚から繋がる動きを見せるこれとないチャンスである。
「あ、へへっ……実はンゴの《人形の幸福》、まだ効果がありまして……使っちゃおっかな! 手札の《おもちゃ箱》を破壊してデッキから《ドール・モンスター 熊っち》を墓地に送っちゃいます!」
「ええ!? 《おもちゃ箱》を、破壊ぃ!?」
「すると~どうなるんでしょうか~?」
「なんと! 今ならデッキから攻撃力か守備力が0の通常モンスターを二体! 特殊召喚できるんです!」
「す、すご~い! 手札に加えたモンスターを破壊して効果を使えるなんて~!」
「ということでンゴは《火炎木人18》と《メガロスマッシャーX》を特殊召喚させていただきますわよ!」
――草
――すげぇ! お得!
――まさかあのモンスターが!?
コメントも流石のノリの良さ。おおよそ宣伝の様相を呈してきたが、試運転とはいえ勝負は勝負。
よって、準備が整った舞台に主役が現れるのも必然。掲げた手のひらに握る黒いカードこそ、満を持して参上するサンゴのエースモンスター。
「レベル4の18とメガロスマッシャーXで、エクシーズ召喚!」
「みなさまにお届け! 天真爛漫のかわいい子!」
「《プリンセス・コロン》ちゃん!」
攻撃力500、その小さな手で何を掴もうとしているのか――決まっている、勝利だ。足元から墓地に送られていた《おもちゃ箱》を引っ張り上げると、サンゴに向かって元気に手を振る。答えるようにしてさらなる指令が下された。
エースを守るにふさわしい、このデッキの
「爺さんゴの効果発動! コロンちゃんの素材を使って、墓地の攻撃力か守備力が0の通常モンスターを
「レベル8のモンスターが二体……来るぞー! 知らんけど!」
「やっばいかもな……!」
「二体のモンスターでエクシーズ召喚ゴ! 重ねた絆で天下無双の銃弾を放て!」
白き羽と黒き翼がその襲来を告げる。迸る光、銃口を向けるその姿はどことなく金髪の青年にも近いように見え、しかし比べ物にならないほど強い覇気を放つ男がいた。
「《魔鍵憑神-アシュタルトゥ》!」
それこそ、デッキを飾る最強のモンスター。コロンの仲間たちの展開力と魔鍵テーマの手数を合わせることで魔鍵だけでは狙うのが難しい大型モンスター《魔鍵憑神-アシュタルトゥ》を《トランスフルミネ》《ウェパルトゥ》などと並べて召喚することができる。
『純魔鍵でよくないか』とは言わせない。『コロンでは戦えない』とは言わせない。この盤面を作れるのはコロンと魔鍵が力を合わせるから。
「すごいよ、ここまでやってくるなんて……!」
「へへーん! ま、先輩にもこはたんにも協力してもらいましたし~? あ、忘れないうちにフルミネンゴの効果でデッキから《魔鍵錠-
SANGO LP:8000 HAND:1(クラヴィス)
FIELD
《プリンセス・コロン》(火炎木人18)ATK500
《おもちゃ箱》DEF0
《デメット爺さん》DEF0
《魔鍵憑神-アシュタルトゥ》(メガロスマッシャーX、ドール・モンスター 熊っち)ATK3000
《魔鍵変鬼-トランスフルミネ》ATK2800
《魔鍵憑霊-ウェパルトゥ》(ウェパルトゥ)ATK2000
《人形の幸福》
《切り裂かれし闇》
《超自然警戒区域》
〈SET〉(魔鍵錠-解-)
「バトルフェイズ! 全員でダイレクトアタック!」
がら空きになった花那のフィールドに、異世界の力を従えたコロンたちの軍勢が襲撃を仕掛けた。防ぐ術なく花那のLPの大半が消し飛ぶ。天道虫の効果で回復していなければ決着がついていただけにサンゴのデッキの凄まじい展開力を理解させられる。
KANA LP9800-3000-2800-2000-500=1500
「あっぶねぇ……!」
「ンゴはもうすることがないので、これでターンエンドです!」
「……なるほど、ンゴらしいねぇ」
コハクのつぶやきもそのはず。この盤面、サンゴは後少しでも攻撃モンスターを増やしていればほとんど勝っていた。EXデッキにはまだ召喚できるモンスターもいて、それらを合わせれば残り1500LP分は確保できた。それをしない理由にコハクは心当たりがある。盤面に残ったカード群、それらを見るに――
思考を巡らせているコハクの眼前では花那のターンが始まっている。《丘と芽吹の春化精》の効果で手札の自身と《春化精の女神ヴェーラ》を捨てて《春化精の花冠》をサーチ、そのまま女神ヴェーラを特殊召喚。巻き返しを図ろうとする花那を、整えたフィールドを駆使して全力で抑え込みに行っているサンゴ。プレイ一つが勝敗に直結しかねない緊迫した状況に二人の空気感もいつの間にか張りつめて……
「そのヴェーラさん、めちゃくちゃ強いみたいなのでどかします! フルミネンゴの効果で破壊!」
「じゃあ次に永続魔法《春化精の花冠》を発動! 自分の全ての地属性を春化精にして、手札の春化精の効果コストを軽減する!」
「ん~~~ここしかない気がする! カウンター罠《魔鍵錠-解-》! それを無効にしもいた! ……? なんか出てきたけどわからんから闇属性宣言します!」
「じゃあ《森と目覚めの春化精》を召喚して……それ後からでも属性変えられるの!?」
「あ、なんか行けるみたい……ですね……?」
「やばいんだけどンゴちゃん!?」
「あ!
「さっきわからんって言ってたよね!?」
……張りつめていたのだが、サンゴのカードの想定外の効果によってほんわかとし始めてしまった。地属性モンスターを並べることが重要な春化精にとって、属性変更は天敵と呼んで差し支えない存在。コメントも『そんなことある???』『鬼畜の所業』『セレじょで一番怒らせてはいけないのはンゴ』などある意味恐れを含んだ視線を向け始めた。そうしている決闘者は一応現役中学一年女児なのだが、年齢や性別など所業の前ではちり芥に等しいのだろう。
「あーもうどうにでもなれー!! 手札0枚だから墓地の《暦替》の効果で墓地の春化精を全員特殊召喚できる! 《苗と霞》《丘と芽吹》《女神ヴェーラ》を特殊召喚!」
「えっと、今どんな感じですか……?」
「《丘と芽吹》がいると春化精が効果破壊されなくて、《苗と霞》で春化精以外は攻撃力が600下がって、《女神ヴェーラ》は相手モンスターを地属性扱いで奪うことができる! 終わり!」
普段なら非常に強固な盤面だ。
「ちなみにンゴちゃん、今できることある?」
「えっと……アシュタルトゥ
「ん? ちょっといったん待とう??」
一条の光線が、あまりにあっけなく春化精の女神を打ち抜いた。およそ自然界で見られることのないだろう爆炎と強風が巻き上がる。
「わー爆発したー! 面白いー!」
「面白いじゃないよコハクちゃん!?」
「こはたんゲラってて草! んですみません爺さんゴの効果で……あれ、発動しない?」
「あーそれね、アシュタルトゥは“取り除いて発動”じゃなくて“発動して取り除く”からデメット爺さんの条件とギリギリ合わないんだよね~」
「そうなの!? これ違ったんだ……」
「い、生き延びた……えっとなんかしないと……闇属性になってるからリンク召喚も全然できないんだけどぉ!! これやるしかない、残った三体で《電影の騎士ガイアセイバー》をリンク召喚して……攻撃もできないのでターンエンドです……」
TURN3 KANA LP:1500
HAND:0
FIELD
《電影の騎士ガイアセイバー》ATK2600
デュエル経験者であれば誰もが陥る“こんな状況にはなりたくない”シチュエーション。花那を襲うのは今まさにそれであり、《魔鍵錠-解-》によって完全に不意を突かれてしまった形となる。サンゴに悪気があったわけではなかったのだがこれまた勝負の世界の無常さといったところか。どこかしょんぼりしたサンゴをコロンらモンスターたちが励ましているように見える。
TURN4 SANGO LP:8000
HAND:1→2
「なんかほんとすみませんクソガキで……」
「いやこれはしょうがない! かかってこーい!」
「恐れ入ります……。フィールド魔法《エクシーズ・テリトリー》を発動して、レベル1のおもちゃ箱と爺さんゴでエクシーズ召喚! 《LL-リサイト・スターリング》! その効果でコロンちゃんの攻撃力を600アップ!」
ここまで展開を支えてきたおもちゃ箱とデメット爺さんは、今度はコロンをフィニッシャーにするべくその力を振るう。召喚された鳥人の歌声が幼い姫を鼓舞し、魔鍵の使徒たちの励ましを受け少女はこぶしを握り締めた。そしてここに、《プリンセス・コロン》はフィニッシャーになる。
《プリンセス・コロン》ATK+500+600=1100
「バトルフェイズ! コロンちゃんで、ガイアセイバーを攻撃!」
力がみなぎったコロンと目を合わせ、送り出す。コロンの攻撃力は500、対するガイアセイバーは攻撃力2600。どうあがいても勝てるはずが……否、勝てるからやっている。
ガイアセイバーが突き出した槍をその小さな体で巧みにかわし、大きくジャンプすると日の光を背負いそれを纏う。どんな逆境も覆せる希望の光。魂に宿した“勝ちたい”の思い。
「《切り裂かれし闇》の効果で、ガイアセイバーの攻撃力をコロンちゃんにそのまま加えます! さらに《エクシーズ・テリトリー》でランク×200アップ!」
繋いできた思いが結実する。このフィールドで最も攻撃力が高いのは紛れもなくコロンだ。サンゴは今、コロンで戦えている。
《プリンセス・コロン》ATK1100+2600+800=4500
「超過ダメージ1900、勝負ありだね」
「あの、ありがとうございました!」
「こっちこそ、ンゴちゃんの初陣を務められたなら満足だよ! 今度こそ負けないからね!」
「はい! コロンちゃん!」
小さな手のひらから放たれた光はガイアセイバーを、その先の花那を包んでいく。新米決闘者の初デュエルは、こうして幕を閉じたのだった。
KANA LP:1500-1900=0
DUEL END
勝負を終え、花那は消化不良ということで他の場所に対戦相手を探しに行くこととなる。今回最大の貢献者に感謝を述べ、サンゴとコハクは二人取り残される。昼過ぎに配信を始めて今は夕方過ぎて午後六時ごろ。そろそろ夕飯などの都合で一時休憩を取らなければならない。それまでしばしコメント欄を交えての雑談を挟んでいた。
「こはた~ん、ンゴもデュエルしちゃったね~」
「ふふ、そうだね~。いいデッキになったと思うよ~。……あー、ねえンゴちゃん?」
「な~に?」
コハクの目が輝く。その目にサンゴは覚えがある。FPSゲームなどで見せていた、敵を探す戦士の眼光。
「明日、私ともデュエルしようね」
「……えぇ? いいよ~?」
「ありがとう。楽しみにしてる~! 久しぶりだからうまく出来なかったらごめーん!」
「ンゴ、バリバリ初心者やが……? 東堂さん……?」
「そうじゃーん! あははー!」
酷くあっさりとした宣戦布告。いつも通りの
「……待っててね、君たちをお披露目できるの楽しみにしてたから」
その裏でつぶやいたコハクの腰にかかったデッキケースが奇妙な七色に輝いたのは、おそらく誰も気が付いていない。
特殊タグ機能、あまりにも楽しい。ネット小説ならではの強みって感じで個人的にものすごい好み。読みにくくならない程度に今後も使います。
以下、それぞれの使用デッキです。
周央サンゴ【みなさま~(魔鍵童姫)】
《プリンセス・コロン》関連カードをエンジンに、☆4通常モンスターの多さを【魔鍵】デッキと共有。《デメット爺さん》と上級魔鍵モンスターを駆使して★8エクシーズモンスター《No.22 不乱拳》や《宵星の機神ディンギルス》、《魔鍵憑神-アシュタルトゥ》の召喚を狙う。通常モンスターサポートとして《切り裂かれし闇》《超自然警戒区域》などを採用。
書いている途中でアシュタルトゥの除外効果が「エクシーズ素材を取り除いて発動」じゃなくて「効果処理でエクシーズ素材を取り除く」だって気が付いて相手ターンの2体除去2400バーンプランが崩れてしまい調整に苦労した。
健屋花那【チクッと!針化精】
地属性の《お注射天使リリー》をアタッカーとして最大限に運用するべく、【春化精】テーマによるサポートを充実させるデッキ。
《花盛》や春化精モンスターによる打点底上げと突破力上昇、リソース管理はお手のもの。魔法使い族であるため《地霊媒師アウス》で確定サーチできるのも強みのひとつ。
《メンタル・カウンセラー リリー》を採用しEXデッキのSモンスターを活用するサブプランあり。
元々フルミネのセットは《繋がれし魔鍵》の予定だったのに思い付きで《魔鍵錠-解-》を使ったらVFDレベルのガンメタで詰んでしまったので後々しっかりデュエルを見せたい。