六花、欠けることなく   作:ふみどり

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 あまり呆けて硬直することなどないやつらだけに、この反応はちょっと面白かった。

 年も明けて何とかそれぞれの仕事を調整し、材料という材料を買い込んで集まったその日。早く焼けとうるさい欠食児童どもに「待て」と言い聞かせ、そろそろかなと時計を見ていたそのとき。

 控えめなノックのあとに返事を待たずに開いたリビングのドア。鍵は開いているから勝手に入ってこいと伝えていたふたりは、さすがに少々気まずげに見える。

 

「……えーと、久し振り?」

「……相変わらずみたいだな、みんな」

 

 誤魔化すようにへらっと笑った諸伏と、少し硬い笑顔ながらも嬉しそうな声音を隠しきれていない降谷。

 驚きが許容量を超えたらしい三人はしばらく無言で目を瞠っていたが、いち早く我に返ったのは伊達だった。ふたりから目をそらさないまま、横にいた俺にぼそりと言う。

 

「……柊木」

「うん?」

「この部屋の両隣、それに上下に住人はいるか?」

 

 伊達の意図がわかった俺は、にんまりと笑う。騒音問題まで気にしてくれるあたり、伊達はどこまでも「班長」だなとこっそりと思った。

 

「いないこともないけど、ここ防音しっかりしてるから気にしなくていいよ」

「そうか、なら良かった。……確保ォ!!」

 

 その言葉には頭より身体が先に反応してしまう刑事の性。

 伊達の言葉に即座に反応した松田と萩原は、瞬時に降谷と諸伏(ひぎしゃ)に飛びかかった。

 

 

 *

 

 

「で、どういうことか説明してもらおうじゃねえか」

 

 一悶着どころか三悶着ほどあったあと、被疑者ふたりは床に正座。その正面に伊達が仁王立ちをし、松田は隣で面白そうにふたりを眺め、萩原は降谷の前にしゃがんでその頬をつんつんとつついていた。降谷が苛立ちで震えているのでそろそろやめた方がいいと思う。

 ちなみに俺は少し離れたソファで騒動を眺めながらビールを飲んでいた。同期の馬鹿騒ぎを肴に飲む酒が美味い。

 

「……いや、何で俺たち正座……?」

「説教聞くときは正座するもんだって旭ちゃんもよく言ってたっしょ?」

 

 いや、俺のせいにしないでほしいけれど。確かに警察学校時代にそんなことを言った覚えはあるが、そのときに正座をしていたのはおもに萩原(おまえ)と松田だ。

 諸伏はすでに足に来たらしく、ぷるぷると震え始めている。

 

「く……! 柊木、お前は何で他人事みたいな顔でビール空けてるんだ!」

「いや他人事だろうよ。俺何年も連絡無視したりしてないし」

 

 ぎくっとふたりは肩を震わせる。だらだらと冷や汗を流すふたりにため息をついて、伊達は言い聞かせるように言った。

 

「この際、お前の所属だとか今まで何してたとかは聞かねえよ。俺たちも警察だ、察するもんもあるしな」

 

 ばっとふたりが顔を上げる。

 その顔を見ながら、だけどな、と伊達は言葉を続ける。

 

「だがな、このタイミングで俺たちに顔を見せた理由は説明してもらうぜ。柊木、俺の勘じゃ、それにお前が関わってる気がしてならねーんだが?」

「へえ、刑事の勘ってやつ?」

「あ、捜査一課への異動おめでと班長」

「ありがとうだが今じゃねえんだわ諸伏」

 

 柊木、と松田にも疑り深い視線を向けられ、ビールをテーブルに置いて両手を開く。別に隠すつもりはない。今日はそのつもりで皆を集めたのだから。

 

「せめて俺たちが今後の対応に困らねえ程度の事情説明はしてくれるんだろーな。この感じだと柊木の()()()()()、まじで関係してんだろ」

「うんうん、れーくんひろくん、ちゃんとお話しような~」

 

 真面目な話なんだろと声色を変えた萩原に、降谷と諸伏も表情を改め、しっかりと頷いた。

 

 

 *

 

 

 ことの経緯を聞いた三人は、揃って両手で目を覆った。

 

「……柊木が上機嫌で大掃除した理由はよーくわかった」

「むしろナイスというか。懲戒免職まで行ったんだっけ?」

「俺が懲戒程度で許すかよ。逮捕送検までこぎ着けた」

 

 ただの身内の不正として処理されかねなかったのを阻止して刑事事件として立件。我が身に火の粉が飛ぶことを恐れてか立件を阻もうとしたやつもいたようだが、そうはなるものかと手を回した。傷害までやっといて立件なしはない。

 そんな俺に松田と萩原は拍手。当たり前だろうと言いたい。

 

「……それについては本当に助かったよ柊木。ほとんど柊木ひとりで証拠を集めたんだろう? それもあんな短期間で」

 

 必要なら自分が動かせる捜査員も使って欲しいと降谷も申し出てくれたが、本当に必要になったら頼らせてもらうからと断った。引き続き潜入任務にあたっている捜査官やそのサポートに余計な仕事を増やすわけにはいかない。

 

「それが俺の仕事だから。監察官って肩書きは意外と動きやすいんだよ」

「けど、下手をすれば握りつぶされてもおかしくないくらいの案件だっただろ。さすが、上手くやったんだな」

「ああ、握りつぶそうとしたやつらのぶんも証拠握ったからな」

 

 感心したような諸伏の言葉ににこりと笑うと、部屋の空気が音を立てて凍ったような気がしたが別に気にはしない。今後を考えるとついつい顔がにやけた。

 

「ひとりあぶり出したら他の不正の証拠も出るわ出るわ、あとは査問会開くだけのやつらが順番待ちしてるよ。さすがに上層何人も一斉に首すげかえるのはまずいってんで上司に止められたけど、数年掛けて全員入れ替える。いやあ気の毒に、みんないつ俺に呼び出されるんじゃないかと戦々恐々してんじゃないかな」

 

 今後が楽しみだな、と言葉を締める。何か全員顔が青いような。

 降谷までドン引いた顔をしていることには驚いた。お前も同類だと思っていたのに。

 

「知ってた……俺実は旭ちゃんのお腹ん中がまじで真っ黒だって知ってた……」

「柊木お前、そこまで楽しそうにひと苛めるやつだったか……?」

「監察官って怖いんだな……」

「違うぞヒロ、怖いのは監察官じゃない。柊木だ」

「いや、ああ……俺の同期は心強ェわ……」

 

 めそめそしたふりしながら松田の後ろに隠れるな萩原。松田、俺は別に心は病んでないので心配そうに言わないで欲しい。それにしみじみと頷く諸伏はともかく、生真面目に訂正する降谷、お前は後で殴る。伊達、お前にドン引かれるのは一番心に来るからやめてくれ。

 いや、俺別にもうお前ら相手に猫被っていたつもりはなかったんだけど。

 

「……俺が不正の類い嫌いなのも、まして優秀なのも、今に始まったことじゃないだろ」

「それをいっそ不思議そうに言えるお前はすげえよ」

「うん、さすがゼロと渡り合う男」

「それはどういう意味だヒロ」

 

 頬を引きつらせた降谷ががっしりと諸伏の足を掴む。正座が限界にきていたらしい諸伏は無言のまま倒れ伏した。しびれきった足にそれは辛い。合掌。

 

「で、話戻すけどよ。諸伏の身の安全は保障されたのか?」

「現状はとりあえずな」

「情報漏洩の程度は? 本当に顔だけか?」

「ああ、本名も流れてない。死亡偽装も上手くいった。これ以上調べられることはないだろう」

「どんだけ危険なとこに潜り込んでんだよ……」

 

 うわあという顔で言う松田に、悶絶していた諸伏はかろうじて苦笑を浮かべた。

 流出したのは顔と、警察官である事実のみ。思ったより被害は少なく済んだと考えるべきだろう。本名や経歴が流れなかったのは本当に運が良かった。

 

「それならむしろ、下手に隠れるよりも普通に過ごしてたほうが良さそうだな」

「柊木?」

「本名がバレてないなら偽名を使う必要もないし、諸伏の情報流した元凶も檻の中。だったら現状対策を考えなきゃいけないのは素顔だけだろ。よっぽど訓練受けた人間でもない限りひとの顔なんて曖昧なもんだし、髭でも剃れば十分に誤魔化せるんじゃないか。変装を重ねた方が違和感が出て怪しまれる可能性がある」

「おお、逆転の発想」

 

 同意見、と頷いた降谷の横で、おそるおそるといったふうに手が上がる。ようやく復活した諸伏はこれ以上なく真剣な顔で言った。

 

「髭……そらなきゃだめか?」

 

 そこかよ、と。

 全員の呆れた顔を受け、俺は仕方なく立ち上がる。洗面所に繋がるドアを開け、持ち帰ってきたのはごくごく一般的な髭そり。灯りを受けてきらりと光ったそれに、諸伏はさっと顔色を変えた。

 

「……ちょっと待って、まさか」

「はい、マル対確保」

 

 それだけですべてを察した刑事たちが即座に諸伏を拘束する。さすがに公安で鍛えられただろう諸伏も、ゴリラ三人の前では無力だったらしい。

 

「ちょ、本当に待って、冗談だろ?」

「往生際が悪いな。じゃあ皆、『諸伏景光は自身の安全確保のために髭を剃るべき』について決議をとる。賛成者挙手を」

 

 さっと三人分の手が上がった。それでも少しも拘束が緩む様子がないのはさすがと言っておこう。

 絶望的な顔をした諸伏は、縋るような視線を降谷に向ける。いつもならこの視線に負けてしまう降谷も、今回は静かな目をしていた。ひとつ呼吸をおき、意を決したように手をあげる。同時に諸伏は驚愕に目を見開いた。いや何でこんな真剣な顔してるんだろうこいつら、端で見ている分には完全な茶番である。

 すまない、と降谷は絞り出すように言った。

 

「気の毒には思うが、ヒロのためだ。このところの腑抜けっぷりもひどかったし、気分転換にもなるだろう。……それに、ヒロ、ずっと言えなかったが……僕も個人的にその髭はないほうがいいと思う……!」

「え、……ええ!? 勧めたの皆なのに!?」

「はい、では全会一致で判決が出ました。剃ります」

「ま、待って! まずは本人の意志を聞こう!?」

「却下。動くなよ、怪我するぞ」

 

 勧めたのは松田だけだし普通に悪ふざけだったんだよなあと内心で呟きつつ、俺は手の中のソレを握り直す。髭そりが低く唸り始めたと同時に、諸伏の哀れな叫び声が部屋に響いた。

 ゴリラたちの拘束のおかげもあり、刑の執行はすぐに完了した。

 しくしくしくと純潔を奪われた乙女のごとくすすり泣く諸伏を余所に、俺たちは夕飯の支度を再開する。慰めるように降谷がその肩を叩いているが、髭とかどうでもいいから手伝えと心底思う。

 全員分の取り皿を運びながら、それにしても、と伊達はしみじみと言った。

 

「随分と若返ったな、諸伏」

「悪かったな童顔で!」

「え、実は気にしてたの?」

「は、ンな気にすんなよヒロの旦那ァ、お前以上の童顔がふたりもいるだろ?」

「殴るぞ」

 

 いや誰も降谷のこととは言ってない、と口に出そうとした瞬間にハッとする。

 今松田は童顔がふたりと言った。当然諸伏のことでもなければ松田(じぶん)のことではないだろうし、伊達はどちらかというと老け顔で、萩原はまあ年相応。実年齢より下に見られるという雰囲気ではない。そしてふたりの童顔のうち、ひとりは降谷。

 ということは、だ。

 

「……え、もうひとりの童顔ってもしかして俺? 嘘だろ俺年相応だと思ってるんだけど!」

「お前は勤務中こそ年相応だがプライベートは雰囲気がガキ」

「顔関係ねえし! 松田こそサングラスで童顔隠してるくせによくひとのこと言えるな!」

「よーしその喧嘩買ったァ!」

 

 ついついヒートアップしてぎゃーぎゃーと言い合いを重ねていると、何かに堪えきれなくなったらしい諸伏が噴き出し、それにつられて皆が笑い始める。諸伏と降谷の目が少し潤んで見えたが、たぶん笑いすぎたせいだと思う。

 笑いがおさまった頃には警察学校時代とまったく変わらない、気の抜けた顔を見せていた。

 

 

 ***

 

 

 じゅうじゅうと焼ける音に、食欲をくすぐる香り。俺もずいぶんと久しぶりだ。

 そろそろかと景気よくひっくり返せば、綺麗に焼けた生地が顔を見せた。おお!と腹をすかせた大きなガキどもが歓声を上げる。

 

「よし。ソース取って」

「ほい!」

 

 さっと差し出されたソースを丁寧に塗って、マヨネーズ、そして鰹節と青のり。もういいだろと視線で訴えるそいつらに苦笑を返しつつ、ざっくりと格子に切り分けた。俺のお好み焼きは関西仕込みなので切り方も関西流です。

 

「もういいぞ」

「いただきますッ!」

 

 OKを出せば声を揃えると同時にのびてくる箸。熱い熱いと言いながらお好み焼きに食らいつくそいつらに、本当に俺は今日何枚焼くんだろう、と少し気が遠くなる。

 二枚目、三枚目と仕上げを終えると、松田が期待したまなざしを俺に向けた。はいはいお前はたこ焼きだったなと、温まったたこ焼き器にサラダ油を塗り、生地を流し込んだ。わざわざ業務用スーパーまで行ってカットしてあるタコの大袋を買ってきたが、はたして足りるだろうか。足りないとか抜かしやがったら自分で買いに行かせるけれど。

 

「そうか、それで処分も軽く済んだのか」

 

 もごもごと口を動かしながら降谷が言う。

 話していたのは松田が大暴走した例の爆弾事件、そしてその後の査問会のことだった。たいしたお咎めがなかったことくらいは連絡をしていたが、さすがに詳細を説明するには文字数が足りなかった。

 

「状況的に対応としては間違ってなかったと思うが、本来ならもう少し重い処分になっていてもおかしくなかっただろ」

「実際運が良かったよ。査問に馬鹿がいてくれて助かった」

「まあ見事に墓穴ほってたわな」

「ああ、例の柊木を目の敵にしてるって奴のこと?」

 

 ああいうのを無様って言うんだろうなとしみじみ言う松田に、思わず大きく頷いた。俺が気にくわないなんて限りなくアホらしい私情で動くからそういうことになる。

 ぽりぽりとセロリを咀嚼しながらたこ焼きの焼け具合をチェックした。よし、いい色だ。

 

「そっちも近いうちに鉄槌は下す」

「……ああいう場で柊木に締めあげられるとか絶対嫌だわ俺」

「お前そんなに査問会怖かったの?」

 

 俺らみてぇな現場の人間はお偉方と渡り合うのに慣れてねえんだよ、と松田は不貞腐れたように言う。確かに、現場メインはなかなか上層に会う機会はないか。

 

 「じゃあまあ、お疲れさんということで」

 

 ひょいっと松田の皿にたこ焼きを入れてやると、目が輝く。

 最近よく眠れるようになったというこのでっかいガキは、一時期落ちていたらしい食欲まで回復させ、今は周囲が引くくらいすさまじい量を食べているというのは晴れて同僚になった伊達情報。たくさん食べるのはいいことだが、これは冗談でなく買い足しが必要なんじゃないだろうか。

 

「それにしても、特命係だったか? よく協力してくれたよな」

「窓際部署だって聞いたけど、実際どうなんだ? 今の話じゃ相当優秀なように聞こえるけど」

 

 諸伏と降谷の言葉に、あー…とある程度「特命係」の現状を知っている刑事部三人は、遠い目をした。刑事部、特に捜査一課とは微妙な関係を築いているという話は聞いている。

 事件現場に乗り込んできて勝手に捜査をしているかと思えば、急に呼び出して「犯人がわかりましたので逮捕をお願いします」。一応自分たちの手柄にはなるが、気分的には相当複雑なのだろう。

 

「……まあ、上に嫌われて窓際にいるだけだから、優秀は優秀だ。特に杉下警部はな」

「あの人、一を知ったら十どころか百まで推理しそうだよな~」

「そういや何でお前が特命係と一緒だったのか聞いてねえ。知り合いなのか? 柊木」

 

 ごもっともな質問に、うーんと少し首を傾けた。まあ、いいか、下手に誤魔化すより言ってしまおう。もう警察学校にいたときとは違う。警察組織の現実くらい全員すでに飲み込んでいるところだろう。

 

「杉下さんは、俺の恩人なんだよ」

「恩人?」

「ああ。俺、誘拐されたことがあるんだ。俺のトラウマ人生のスタート」

 

 時が、止まった。

 

 

 *

 

 

 俺なりにかいつまんで事情を話せば、五人はそろって頭を抱えていた。それでもお好み焼きを食べる手を止めないのだから器用なものである。

 

「……女性苦手の本当の理由って、それか?」

「いや、ストーカーっていうのも本当だよ。正確に言うとその誘拐が大元で、立ち直ろうとしてたときにストーカーだのキャットファイトだのでトドメ刺されたというか」

「泣けてきた」

「たこ焼き食うか?」

「食べる……」

 

 目頭を押さえながらも諸伏は皿を出してきた。さすが、警察学校にいたときより数段強かになったと思う。俺はとても良いことだと思います。

 

「それに、……警察官僚の、不正」

「さすがに警察官になろうとしてるときにそんな話するのは気が引けてな。だから警察学校のときは言わなかったんだよ」

「それで、よく……」

 

 警察官になったな、と。降谷はそう言いたかったようだが、ぐっと口を閉じた。

 そういえば大河内さんにも同じことを尋ねられたことがある。おそらく、杉下さんも内心では同じことを考えているだろう。

 まあ俺が警察官になろうと思った理由はいろいろあるが、今この場で言えることがあるとするなら、それは。

 

「……俺の思う『警察』は、杉下さんだよ。そうあるべきだとも思ってる」

 

 かつての忌まわしい記憶。縛られて身動きも取れず、薄暗い部屋に閉じ込められた。そんな俺をじっと見つめる、おぞましい笑顔の女性。

 あの空間から救い出してくれたのは、優しくて力強い手。その手は、もう大丈夫ですよ、と頭を撫でてくれた。

 どうして忘れられるだろう、あのときの気持ちを。

 

「ま、実は俺の父親も警察関係者だし、今はお前らもいるからな」

 

 警察への恨みが全くないとは言わない。けど、「警察」に憧れをくれた存在もまた、強烈すぎた。

 だから俺は、―――だから。

 

「……あ、焼きすぎだ。お前ら早く食え」

 

 ホットプレートの温度を落とすと、さっと箸が飛んでくる。

 これ以上この話を続ける気がないことを理解してくれたのか、そのまま皆お好み焼きを口に詰め込んでいた。熱ッと猫舌の松田が悲鳴を上げる。馬鹿め。冷えたお茶を差しだしてやると、松田はいっきに飲み干した。

 そんな松田の様子に苦笑しながら、伊達が空気を変えるように明るい声で言う。

 

「柊木、お前も食べろよ。じゃないと食べつくしちまうぞ、俺たちが」

「お前らの食いっぷり見てるだけで胸焼けしそうなんだけど」

「食わなくてもいいんだぞ柊木、その分俺が食う」

「お前は少し遠慮しろ大食らい。機動隊の時並みに食べてたら太るぞ」

 

 そんなヘマはしねえ、と適温になったお好み焼きをまたばくばくと口に入れる。そんな松田に苦笑と溜息をひとつ漏らすと、俺も箸をとった。

 嗚呼、この空気は久しぶりだ。賑やか過ぎる夜が、ゆっくりと更けていく。

 




柊木さん、実はひげ剃りのあたりから結構酔ってます。
ちなみに作者はひろみつくんの顎髭とても好きです。なくても好きです。
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