六花、欠けることなく   作:ふみどり

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閑話 夏の六花

 暑い夏にはやっぱりビールがいい。

 個人的には枝豆とちくわキュウリがあればつまみはOK。でもそれだけではこの大食らいたちは満足しないので、今日は唐揚げも添えて。

 

「やっぱ夏はビールだねー!」

「俺たちは年がら年中ビールだけどな」

 

 上機嫌にビール缶を空にする萩原と、やっぱり機嫌よく唐揚げを口に放る松田。同じく諸伏も唐揚げをぱくりと口に入れ、美味い、と笑顔になった。

 

「やっぱり柊木の料理は美味いな。自分で作ったのより美味く感じる」

「お前俺に胃袋掴まれてどうすんの」

 

 そう言うと諸伏ははっとして、これはもう柊木と結婚して飯を作ってもらうしかないと真剣な顔で宣うので思わず吹き出した。

 

「いや待て、そういうことなら俺がもらう。柊木のたこ焼きは俺のもんだ」

「え~ちょっと待ってよ、俺だって旭ちゃんのお好み焼き大好物なんだけど~?」

「はは、相変わらずモテモテじゃねえか柊木」

「俺は自分より稼いでないやつと結婚する気はねえけど?」

 

 けらけら笑う伊達の言葉をそう切り捨てると、三人はがっくりと肩を落として見せた。すると黙ってビールを呷っていた降谷が不敵に笑う。

 

「つまり僕しか無理だな、柊木」

「え、降谷のとこってそんなに儲かるの……? 階級同じなのに……?」

 

 特殊な部署にはいろいろあるんだよと降谷が言うと、三人は世の中金かと嘆いてみせた。お前らそろそろその茶番やめろ、おもしろいだろーが。

 

「まあお前ら柊木は諦めていい相手探せ?」

「うっせーお前は黙っとけ!」

「さりげに指輪見せつけんな腹立つ!」

「伊達にも婚約者がいるのになんで俺には……!」

 

 何と言われようと伊達は揺るがない。余裕ではっはっは、と笑って見せるそいつに苦笑を漏らす。結婚こそ延びてしまったが、順調に交際を続けているようで何よりだ。

 

「でも悪いな柊木、いつも料理作らせて。集まるのもいつもお前の部屋だし」

「いいよ別に。料理は苦じゃないし、場所的にもここが一番集まりやすいだろ」

 

 俺の家は警察庁、警視庁からもそう遠くなく、皆の家からもほぼほぼ等距離だ。帰るにしろ呼び出されて出動するにしろ、ちょうどいい場所にある。

 

「何よりいつも綺麗だしな!」

「お前は部屋を掃除しろ」

 

 掃除が苦手だという萩原の部屋は結構に酷いらしい。

 顔に似合わず綺麗好きの松田が「あいつの部屋で酒飲むのは無理」と真顔で言いきった。確かに捜査一課の萩原のデスクも、ものが多くて綺麗とは言い難い。たまに見かねて松田が軽く整理しているそうだ。お前ら本当に仲良いな。

 

「萩原は松田と結婚した方がいいんじゃ……?」

「やだよ、口うるさいし尻に敷かれる」

「いい度胸だハギィ……!」

 

 お前がちゃんとしてりゃ俺だって言わねえよと、そう言いながら松田はぎりぎりと萩原を締め上げる。ギブギブと萩原は叫ぶが松田は意にも介さず、俺たちも面白いので放置。松田の言っていることは九割九分間違ってないので止める気にもならない。

 

「萩原、あんまり松田の手を焼かせるなよ。お前の面倒見続けて松田が一生独身貫いたらどうするんだ」

「何それやめて、ないと言えないあたりが怖いから」

「だからお前がちゃんとすりゃ済む話なんだっつーの!」

「いでででででごめんって!」

 

 その時はきっと萩原も一生独身だな、と諸伏が言うと、萩原は嘘と叫ぶ。

 そんな軽口に笑っていると、ふと降谷が外に目をやった。

 

「どうかした?」

「いや、向かいのマンションの部屋、まだ七夕飾り出してるんだなと」

「ああ、あの部屋は旧暦の七夕まで出してるみたいだ。去年もそうだったよ」

 

 なるほど、と降谷は頷く。

 もう八月に入ったが、地方によっては旧暦で数えて八月に七夕祭りをするところもあるらしい。そこの住人ももしかしたらそういうところの出身なのかもしれない。

 

「七夕ねえ。昔短冊書いたな~」

「彼女ができますようにって?」

「何でわかんの?」

 

 図星かよ。今も同じことを書くだろう萩原はへらっと笑った。

 

「伊達が書くなら『安全第一』『無病息災』か?」

「少なくとも三年は怪我できねえからな」

 

 からかうように松田が言うと、伊達は苦笑して返した。諸伏ならなんて書くんだと伊達が降ると、諸伏は少し考えて答えた。

 

「気軽に外を歩きたい」

「何かすまん」

「いや、違うわ、ゼロの暴走癖が治りますように、だな」

 

 俺昨日まで三徹してたんだ、おもにゼロの尻ぬぐいで!

 そう諸伏が元気よく答えると、さっと降谷は目をそらした。オイお前今度は何壊して誰を怒らせたんだ。

 

「俺ホント諸伏尊敬する……」

「ああ、このバーサーカーの後始末なんて仕事、続けられるだけすげえわ」

「よせよ照れるだろ~」

 

 にこにこと笑う諸伏と、だらだらと冷や汗を流す降谷。

 この幼馴染ズは、基本的に降谷が優勢なように見えるが、やっぱり最終的には諸伏に軍配が上がる。というか諸伏じゃないともう降谷のコントロールなんてできないのだろう。

 

「松田の願い事は?」

「ん? ……たこ焼き食いたい」

「それは柊木に直接言えよ」

 

 彦星も織姫も多分困るぞそんな願い事。

 伊達がそういうと、松田はくるりと俺の方を向いた。

 

「たこ焼き食いたい」

「繰り返すな面白いから。はいはいそのうちな」

「いつもそう言って流すだろうが」

「じゃあ次回な」

「よし」

「えっ旭ちゃんそれはたこ焼きだけじゃなくてお好み焼きも焼いてくれるよね?」

 

 ばっとこっちを向いた萩原にはいはい、と適当に頷くとやったーと萩原は両手をあげた。ああ、こいつもだいぶ酒が回ってきている。

 

「松田の食い意地も相当だな」

「機動隊のときに胃袋拡張してから戻んねえんだよ。食っても食っても足りねえ」

「それで太らないんだからさすがというか……」

「運動はしてるからな」

 

 そう言ってまた松田は唐揚げをつまむ。いや待てよ、ちょっと見ない間に唐揚げ減りすぎでは。松田この野郎。

 

「降谷と柊木は何て書くんだよ、短冊」

 

 松田にそう言われ、ふと降谷と目を見合わせた。そのまま数秒考え、口を開く。

 

「降谷にエアホッケーでリベンジできますように」

 

 俺がそういうと降谷以外はそろって噴き出し、降谷は呆れた顔で俺を見た。

 

「……それ警察学校時代の話だろ……お前実は根に持ってたのか……?」

「いや、そういえばリベンジしてないなって」

「いつでも受けて立つぞ。次も僕の勝ちだがな」

「いや、次は俺が勝つ」

 

 実は結構悔しかったのね旭ちゃん、と笑う萩原をよそに、俺はビールを呷った。

 降谷ほど度を越した負けず嫌いなつもりはないが、楽しかったのでもう一度やりたいし、そりゃ負けるよりは勝ちたい。

 

「で、降谷は?」

「……そうだな」

 

 何やらと考えながら、降谷はぐるりと俺たちを見まわした。それからひとつ、うんと頷く。

 

「自分で叶えるから短冊はいい」

 

 またこいつはそういうこと言う。

 全員で一斉にため息をつくと、降谷は何だよと驚いたように言った。何だよってそりゃ、お前は本当にそういうところあるよなという話だ。

 

「降谷ってばまたそうやってかっこつけるんだから~」

「今抱えてる案件を無事終える、に一票」

「いや降谷だからもっとこう、日本平和的な」

「待てよ伊達、それだと俺たちを見まわした理由が説明できない」

「お前ら本気で当てにかかるな」

 

 苦笑する降谷をよそに、諸伏がしれっと爆弾を落とした。

 

「甘いな皆、ゼロの願いなんて『外でも俺たちに名前を呼んでもらいたい』に決まってるだろ~?」

「ヒロ!」

「あれ、違う? じゃあ『気兼ねなく一緒に出掛けたい』? それとも『十年後も二十年後も一緒に酒飲みたい』?」

「それ以上言わなくて良いから!」

 

 顔を赤くした降谷に俺たちは三秒ほど固まってにやりと笑った。そんな俺たちを見て、降谷はひくりと頬を引きつらせる。

 

「そーかそーか、察してやれなくてごめんなれーくん」

「うんうん、俺たちも一緒に気兼ねなくお出かけしたいよれーくん」

「三十年後も一緒に酒飲もうなれーくん」

「早く外でも名前呼べるように頑張ってくれよれーくん」

「うるさい!」

 

 そんな可愛い願い事、俺らが叶えてやるに決まってるだろうが。

 褐色の肌を赤く染めた同期を全力でからかいながら、また皆でビールを呷った。

 

 




個人的に萩原さんズボラの松田さん几帳面説を推してるんですが、どうなんでしょうね。でもきっと実際はふたりともちゃんとしてるんだろうなと思います。
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