六花、欠けることなく   作:ふみどり

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 風見さんに案内されてやってきたのは、ハンサムな顔立ちの男性だった。屈強でいかにもエージェントという風の男性を二人引き連れ、その人はにこやかに笑って自己紹介をする。日本語も堪能らしい。俺も笑顔で挨拶を返し、右手で軽く握手をした。とても感じの良い人だ。

 こんな状況でなければ、きっと俺もこの人の腹の内を探ろうなんて思わないだろう。

 

「彼女―――こちらではキールと呼んだ方が通りが良いでしょうか。キールとは長く連絡が取れていません。彼女も我々CIAにとって非常に大切な仲間の一人です。どうか救出にご助力願いたい」

「ご心痛、お察しいたします。もちろん、でき得る限りの協力は惜しみません」

「有難い」

 

 お互いに笑顔で会話を進めていく。

 正直なところ、Mr.ブラックのようなベテランが来るものと思っていたが、大きく外れた。おそらく歳はさほど変わらないのではないだろうか、年上ではあるだろうが赤井さんくらい? それでも握手した掌はタコやマメで硬くなっていたし、身のこなしに隙もなく、会話も淀みない。

 何というか、これは―――こんな言い方は非常に癪だが、おそらく彼は「同類」だ。

 

「ここ最近の日本警察の活躍ぶりは伺っていますよ、何でも例の組織の幹部を逮捕されたとか」

「お恥ずかしながら運が良かった結果です。あれは我々の功績とは言い難いので、どうかそんな風に持ち上げないでください」

「なるほど、日本の方は謙遜がお得意だと聞いていますが、これですね?」

 

 ははははは、と表面上和やかに会話を続ける。ああめんどくさい、本来俺は言葉遊びを楽しむタイプではない。にこにこと顔に笑顔を貼り付けながら、内心で毒づいた。

 

「しかし、その日本警察で指揮を執っておられたのがこんなに若い方だとは。ああすみません、嫌味とかではなく受け取って頂きたいのですが。若くしてそれだけの功績を上げられるのは、それだけ優秀だという証拠ですから」

「恐れ入ります。ご期待にそえられると良いのですが」

「その辣腕を拝見できるのが楽しみですよ。では、この後ほかの方にもご挨拶しなくてはならないので」

「これは引き留めて申し訳ありませんでした。ではまた、明日から」

「ええ、よろしくお願いいたします」

 

 そしてまた、風見さんに案内を任せて彼らを見送った。扉が閉まって数秒、部屋に沈黙が流れる。彼らの足音が遠く離れていったのを確認し、同じ部屋で会話を聞いていた中のうちの一人に声をかけた。

 

「赤井さん、貴方が一番正直そうだからお伺いしますけど」

「何だ?」

「俺、いくつに見えます?」

 

 また部屋に沈黙が流れる。赤井さんは数秒黙った後に、いつもと変わらない声を装って口を開いた。この人は基本的に人を気遣うのが下手だが、下手なりに何とかしようとしているのは知っている。

 

「正直そうだという俺を選んだからには、正直に言った方がいいんだな?」

「ええ。正直に、です」

「……着ているスーツと指揮官と言う地位を加算して二十五、六あたりかな。知っているだろうが東洋人は基本的に若く見えるんだ」

「なるほど。では、スーツと地位を差し引いたら?」

 

 たとえば俺が適当な私服を着て、指揮官だということを言わなかったらどうでしょう?

 俺がそう言うと、赤井さんはまた数秒黙った後に、真剣な顔で改めて確認した。

 

「……正直にと、言ったな?」

「言いましたよ」

「……二十そこそこ。ティーンでも通じるかもしれん」

 

 赤井さんの言葉に、両手で顔を覆って天を仰いだ。黙って聞いていた諸伏がドン引いた顔で言葉を漏らす。

 

「何でお前そう自分から地雷を踏みに行くの……? 馬鹿なの……?」

「うるっせえわ現実は現実として知っておきたかったんだよ! けど絶対お前らよりマシだからな! 赤井さん、諸伏と降谷はいくつに見える!?」

「やめろ巻き込むな聞きたくない!」

「俺は童顔じゃない!」

 

 くわっと問いを投げかけるとさすがに赤井さんも若干眉間にしわを寄せ始めた。俺に聞くなと言いたいんだろうがアンタの事情なんぞ知ったことか。かつて童顔を顎髭で隠していた諸伏は耳をふさぎ、全力で認めない降谷は叫ぶ。降谷お前はいい加減認めろ、俺から見てもお前は相当な童顔だから。

 

「……スーツと地位から来る印象は偉大だという言葉で許してくれ」

「ほれ見ろ! ほれ見ろ! 絶対俺だけじゃねえからな!」

「赤井ィィィィイイ!」

 

 少し顔をそむけた赤井さんがそう言うと、ばっと降谷が飛び掛かりに行こうとしたので羽交い絞めでおさえる。興奮してじたばたしているが、徹夜後の降谷の勢いくらいなら俺でも十分に止められる。

 ちなみに俺は今日のファーストコンタクトに向けて隈を消せという厳命が下ったので、久しぶりに八時間寝た。

 

「言わなくていいって……言ったのに……」

 

 そして諸伏はさめざめと泣いていた。本気で気にしているのは知っているが、もう顎髭を蓄えることは絶対に許さない。俺の部下なら身なりはちゃんと整えろという名目のもと、徹夜明けだろうと毎日ちゃんと髭をそらせていた。本音? ご想像にお任せする。

 

「ねえ、ここまで来たら聞くけど、貴方たち一体いくつなの?」

 

 好奇心に負けたらしい勇者ジョディがおそるおそるそう尋ねると、大人しくなった降谷とまだ泣いている諸伏がピクリと震えた。代表して俺が答える。

 

「二十九ですよ。三人とも同じ」

 

 そう言ったときのFBI勢の反応ときたら。

 さすがのMr.ブラックはそっと目を閉じただけに見えたが、それでもぴくりと肩が震えたのが見えたし、赤井さんからは「……ホォー」といっそ感心したような言葉が漏れた。ジョディ捜査官の口が小さく「嘘、年上……?」と動き、キャメル捜査官は「これが東洋の神秘……」と頷いていた。キャメル捜査官、多分それ違う。

 俺たちの立場的にそれほど若いとは思っていなかったが、いざちゃんと年齢を言われると何となく信じがたいと言ったところだろうか。身分証の生年月日でも見せてやろうかこの野郎。

 

「お二方聞こえてますからね。……俺に至っては春には三十路になるのに……」

「その顔で三十か。詐欺だな」

「いくら正直にったって殴りますよ赤井さん」

 

 反射的に叫ぶと赤井さんは肩をすくめた。そのまま数秒沈黙が続き、俺たちは三人そろってため息をつく。

 

「柊木、俺やっぱ髭伸ばしたいんだけど」

「却下」

「パワハラだ!」

「うるさい潜入時代とは違えんだよ、登庁するなら身なりを整えろ」

「俺は……童顔じゃない……!」

「降谷、お前は気にしすぎな」

 

 ―――ああ、少し気がまぎれた。たまにはこういう会話をしておかないと、精神の方が先にやられる。よし、と気合を入れ直して手を打った。

 

「気を取り直して仕事もどるぞー」

「おー」

「柊木、俺は組織のほうに行ってくる。手筈変更なし」

「了解、気を付けてな」

 

 さっさと仕事にとりかかろうと俺と諸伏はデスクに戻り、降谷は「バーボン」となって外に出て行った。切り替えについてこれないのかジョディ捜査官とキャメル捜査官はぽかんとし、Mr.ブラックは苦笑、赤井さんはわずかに口角をあげて煙草に火をつけた。

 くすりと笑ってMr.ブラックは口を開く。

 

「素晴らしい切り替えだね」

「たまにアホな会話もしておかないと頭おかしくなりますからね」

「ははは、挨拶代わりだよなぁ」

 

 俺のすることは何も変わらない。だったら気負いすぎる必要はない。こんな気の抜けた会話をするくらいの余裕は持っているべきだ。

 俺は肩をこきりと鳴らし、改めて端末に向かい合った。

 

 

 *

 

 

 それから、CIAも交えての捜査が始まる。

 挨拶をしてくれた「彼」が完全な主力で、他二人はサポートあるいは実働部隊というチームであるらしい。彼は今までの捜査の流れを把握したうえで、合衆国やそのほかの国における情報の提供も熱心に行ってくれた。

 さすがは世界一の大国の諜報機関、入ってくる情報の量も精度も桁が違う。俺自身は日本国外のことまで面倒を見るつもりはなかったが、確かに海外にいる構成員にも必要ならば手を打たなければならない。そういう意味で彼の参入は非常に有益なものになりつつあった。

 

「―――なるほど! 素晴らしい策です、これならば被害もなく逮捕できるでしょう」

「恐れ入ります。風見さん、諸伏、この方向で用意を」

「了解しました」

「ああ、間に合わせる」

 

 いくつかの事案で俺が指揮を執る際も、意見は言うものの余計な手出しはせず、しかも素直に賞賛の姿勢を見せる。懸念があれば指摘もしてくれるし、彼自身の能力も相当であることが感じられるだけに、正直俺は拍子抜けしていた。もっとがつがつと指揮権を奪いに来るものと思っていたのに。

 足を引っ張られるとまでは思っていなかったが、隙を見せればすかさず突いてくるとは考えていた。あえて隙を作ってみせても不思議なほど乗ってこないし、乗る姿勢も見せやしない。最初は単純に警戒されているのかとも思ったが、さすがに悠長すぎる。腹の中が見えないその様子が、かえって気色悪かった。

 

「……Mr.柊木」

「何でしょう?」

「正直なところ、貴方ほど優秀な方が日本警察にいらっしゃるとは思っていませんでした」

 

 決して甘く見ていたつもりはないのですけれど。

 そう言って淡く微笑んだ彼は、瞬きをする俺を気にすることなく言葉を続けた。

 

「貴方も、彼―――Mr.降谷も、そして貴方がたの部下の方も。非常に有能で、勤勉で、意識も高い。もちろん正義感も強い。長く誰にも尻尾を掴ませなかった組織を追い込んでいる捜査官とはどんな方々なのだろうと思っていましたが、こうして目の当たりにすると納得するほかありません。共に捜査ができることを、心から嬉しく思います」

 

 この笑顔とこの言葉を受け、それでも彼を疑える人間ってどれだけいるのだろうか。そう思えるほど、彼の瞳には善意と尊敬しか見えなかった。

 しかしそれでも尚、疑い続けなくてはならないのが俺の立場と言うもので。

 

「……そこまで持ち上げられると、かえって恐縮してしまいますよ、ミスター」

 

 油断はしない。初対面で直感した、彼は俺と同類だと。今の彼の台詞は、ともすれば心からの想いなのかもしれない。だが、心からの想いと、職務は別だ。相手のことをどれだけ賞賛しようと、尊敬しようと、「やるべきことはやる」。おそらく彼はそれができる人間だ。発する言葉の端々から、彼のプライドの高さを感じている。

 

「ひとつひとつ、捜査を積み重ねているだけです。貴方だって同じ状況に立てば同じことをなさるでしょう」

「私に貴方ほどの作戦立案能力はありませんよ」

「おや、合衆国の方もご謙遜をなさるんですね?」

 

 二人して談笑しているこの光景は、傍から見れば仲良く見えるのかもしれない。が、俺としてはひどく消耗する会話だった。相手を警戒しているということを悟られてはいけない。「バーボン」ならこの状況をスリルがあるといって愉しむのかもしれないが、俺としては気疲れするだけだ。まったくめんどくさい。

 

「しかし、だいぶ作戦も終盤のように見えますが、とどめはいつ頃を想定されているのですか? 焦るつもりはありませんが、長引かせれば長引かせるほどキールの救出も遠ざかる」

 

 建前上バーボンやベルモットにキールの現状を探らせたが、どうも彼女は未だ監視が厳しい状況らしい。NOCの疑いを受けた点ではバーボンも同じはずだが、やはり一度FBIの手に落ちているというのは大きいのだろう。キャンティ・コルン逮捕の際に捏造した「鼠」はFBI関係者の可能性が高いとバーボンに報告させたので、それもあってのことかもしれない。

 キールが自由に動けない以上、こちらとしても接触のリスクは犯せない。さっさとキールを組織から連れ出してCIAが捜査に関わる理由をなくしてやろうかとも思ったが、まあ無意味だろう。上手くキールを連れ出せたとしても、おそらく適当な言い訳をつくって居座り続ける可能性のほうが高い。組織の壊滅前に合衆国に追い返そうなんてことは考えない方が良いだろう。確率の低い賭けに出て余計な仕事を増やすこともない。

 組織の弱体化はかなり進んだ。CIAからの情報もあり、さらに作戦の進みは加速している。今はもう年末だが、この分なら最後の作戦は―――。

 

「年が明けて、もう少し……あとひと月か、ふた月。それくらいでしょうか」

 

 ボスとラムの特定と、確保。ジンとウォッカの逮捕。最後の作戦でやるべきことはほとんどそれだけになるだろう。

 目下の脅威はジンだが、作戦の大枠はできている。幸いにも、ジンをおびき寄せる最大のカードは手元にあるのだ、キャンティやコルンの逮捕のように面倒なことを考える必要はない。逮捕の際にいかにこちらの被害をなくすかは考えなくてはならないが、逆に言えば考えるべきはそれだけだ。さほど気を揉む必要はない。

 だから本当に、警戒すべきは目の前で温和に笑う彼の腹の中だけなのだ。どう邪魔をしてくるか、それとも邪魔をしないのか、それすらもわからない。

 

「ひと月か、ふた月……そうですか。何とか彼女が、その間無事でいてくれればいいのですが」

「ええ、こちらとしてもできる限りのサポートをするように指示を出してあります」

「感謝します、Mr.柊木」

 

 アンタの目的は何なんだ。

 そんな本心をそっとしまい込み、俺はまた彼の握手に応えた。

 

 

 ***

 

 

 デスクに突っ伏す柊木の頭の横に、そっと珈琲を置いてやる。さんきゅ、とか細い声がぽつりと聞こえた。その声に苦笑しつつ、俺は柊木のデスクに寄りかかる。

 

「柊木って意外とああいうの苦手だよな」

「ああいうの?」

「腹の探り合い」

 

 俺がそう言うと、柊木は少しだけ顔を上げて、弱弱しく俺を睨んだ。眉間にくっきりとしわが寄っている。残念ながら怖くもなんともない。

 

「……自覚してるよ。ああいうのは降谷やお前の方が上手い。どうあがいても経験値には負ける」

「怒るなよ。苦手って言ったのは悪かったけど、できてないわけじゃない。慣れてないし言葉遊びを楽しむ性質でもない分、得意でもないってだけだろ?」

「怒ってない。……一番彼と接するのは俺だ、もっと上手く探りを入れられればいいんだけど、全然何企んでるのかわからねえ」

 

 頭の痛そうな顔をして、柊木はミルクたっぷりの珈琲に口を付けた。

 別に柊木は腹の探り合いが下手なわけじゃない。それこそ監察官時代だって似たようなことはやっていたはずだ。だが、本人がそういうやり方をあまり好まない上に、今回は相手が悪い。世界一の大国の諜報機関の中でもおそらく生え抜きの諜報員。そりゃあそう簡単に腹の内を読ませてはくれないだろう。

 

「どう考えても狙いは宮野さんなんだよなぁ……」

 

 ぶつぶつと柊木が言葉を漏らす。今ある情報から考えて、柊木の脳はやはり「CIAの目的はアポトキシン4869」だと弾き出しているらしい。それに異論はないし、おそらく間違いない。問題は、どうやって彼女を獲得するつもりなのかということだ。いくら日本の方が立場が弱いと言っても、合衆国も圧力をかけて宮野さんを奪うような真似はしないはずだ。何事にも建前や体裁というものがある。

 だからこそ柊木は、彼がこの案件の指揮権を奪い取り彼女の今後を決める権限を狙ってくると踏んでいた。

 

「確かに、傍から見てても指揮権奪いに来てる感じはしないな」

「隙作っても食いついてもこねえ」

 

 なら、どうやって。

 ゆらゆらと頭を揺らしていた柊木が、突然びくりと止まる。そして忘れてた、と慌てだした。

 

「どうした?」

「いや、念のため新一君に警戒しろって連絡しておこうと思ってたんだけど、なかなか時間作れなくて」

 

 さすがにCIAの彼がどこで聞いているともわからない状況で連絡などできなかったのだろう、今は彼もホテルに帰っているし、一般家庭なら夕飯前の時間だ。

 

「……ああ、新一くんか? 柊木だ」

 

 幾分か優しい声で、柊木は話し出した。なんやかんやで柊木はあの小さな探偵をわりと気に入っているらしい。未成年だし、守らなくてはという義務感のようなものもあるのだろうが、少しばかり珍しいと思わなくもない。

 こういう言い方をすると語弊があるが、狭い世界で生きてきた柊木には実は「すきなもの」は少ないし、本人的にもあまり増やそうという意識はないらしい。そんな奴が探偵少年を「気に入った」なんて、何か通じるものでもあったのだろうか。

 

「……ああ、だから今まで以上に警戒をしてくれ。万が一CIAを名乗る人物が接触して来たらその場で俺に連絡を。今後どんな状況に陥ったとしても、俺は君たちとCIAが接触する際、絶対に公安の人間を同席させる。場合によってはFBIにも警戒が必要かもしれない。……ああ、何せ相手は、……」

 

 CIAだから。おそらくそう柊木の口が動こうとしたとき、その切れ長の目が見開いた。視線が忙しなく動き、また頭が揺れ始める。どうした、と声をかけようとしたとき、さっと柊木が片手でそれを制した。

 

「……あ、ああ、いや、何でもない。そういうことだからご両親や宮野さん、阿笠さんにも情報を共有して警戒を頼む。それじゃ、また」

 

 それだけ早口で言って、連絡を切った。その指が、少し震えている。まだ視線は忙しなく動いていて、顔はだんだんと青ざめてきた。

 

「柊木、どうした」

 

 少し強い口調でそう言うと、真っ青になったそいつがびくりと震えた。ようやく目が合う。こんなにひどい顔の柊木を見たのは、本当にいつぶりだろうか。

 

「……諸伏」

「ああ」

「……悪い、ちょっとまだ混乱してる。ちゃんと話すから、ちょっと時間くれ」

 

 考えて、もしそうなら、対策まで詰める。

 随分と思いつめた様子に、さすがに問い詰めることまではできなくて、わかった、と頷くほかなかった。こいつがここまで狼狽えるなんて、相当のことだ。こいつの出来のいい脳味噌は、いったいどんな「答え」を弾き出したのだろう。

 

「……今日はもう急ぎの案件もないだろ? 帰って休めよ、諸伏」

「露骨に追い出そうとするなよ。……わかった、でもお前もちゃんと休めよ?」

 

わかってる、と下手な笑い方をした柊木に溜息をつき、俺は荷物を取った。ちゃんと話すと言った以上、自分の言葉は守ってくれるだろう。思考をまとめてから話したいというのなら、今口を割らせるわけにもいかない。

 

「明日、聞くからな」

「……うん」

 

 それだけ宣言をして、俺は柊木に背を向けた。背中に聞こえたかすかな呟きには覇気がなく、―――不安しか、なかった。

 

 

 ***

 

 

「……どうしたんだろ、柊木さん」

 

 通話の切れたスマホを眺め、ひとりごちる。

 いつもの俺の無事確認の報告はメッセージで行っていたから、柊木さんの声を聞いたのはもう数か月ぶりだ。組織壊滅に向けて忙しくしているだろうことは予測していたが、それにしても今の会話の切り方は不自然だ。途中で何か、思いついたような。

 

「どうした? 新一」

 

 後ろから話しかけられ、振り向く。今日はスケボーの調整がてら工藤家に帰ってきている。変わらず俺は毛利探偵事務所で世話になっているが、お互いの無事確認も兼ねてちょくちょく両親がいる実家に顔を出すようにしていた。

 

「柊木さんから連絡があって」

「ほう? 何か進展でも?」

「CIAとも捜査協力することになったらしいんだ」

 

 CIAが、父さんは俺の言葉にかすかに眉間にしわを寄せた。俺は軽く頷き、柊木さんに言われたことをそのまま繰り返した。

 

「念のため、今まで以上に警戒をするようにって。CIAの出方がいまいちわからないから、もしCIAが接触を図ってきたらすぐに連絡してくれってさ」

「……なるほど」

「でも話の途中でやけに慌てだして、すぐ切れた」

 

 何か急用でもできたのか、それとも何か思いついたのか。柊木さんらしくない慌てぶりが少し気になる。いったいどうしたのだろう。

 

「……新一」

「ん?」

「柊木君にもう一度連絡を取ってくれないか」

 

 私の杞憂であればいいのだけどね。

 何が、とは聞けないほどに、その時の父さんは真剣な顔をしていた。

 

 

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