六花、欠けることなく   作:ふみどり

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 彼は、俺が尊敬する年下の上司の同期で、友人で、最大のライバルだ。その能力は確かに桁違いで、次々と作戦を立てては成功させていく。降谷さんからの指示がなくとも、彼の言葉には従うべきだと疑い無く動けるほど、優れた人だった。

 そんな人が、俺に、任せてくれた。

 

「よろしくお願いします、風見さん」

「……はい」

「あれ、不安そうですね」

 

 思わず歯切れが悪くなってしまった返事に、柊木さんは苦笑した。いえそんなことは、と言葉を続けるが、その先が出てこない。

 この人や、俺の上司は、有能だ。俺なんかより、ずっとずっと。そして、いま俺に任されたことは、本当に失敗が許されることではなく。

 もし俺が、失敗すれば。―――裏切れば、あるいは怖気付けば。

 

「……柊木さん」

「何でしょう」

「貴方は、」

 

 どうしてそんなにも俺を信じてくれるんですか。

 口にしてから、言うべきではなかったと後悔した。これはただのコンプレックスだ。俺だってそれなりに仕事ができる自負はある。ただ、どうしたって彼らには敵わない。劣等感がないと言ったら嘘になる。

 柊木さんと共に働いた数ヶ月、ひたすらサポートに徹したこともあって手柄のひとつも立てられてはいない。俺が柊木さんの信頼を勝ち得ているとは思えなかった。

 俯きかけた視界の端で、柊木さんがふうんと首を傾けたのが見える。

 

「……風見さん」

「、はい」

「公安警察としての、日本を守る一人としての貴方に問います」

 

 降谷零は、この国に必要な人間ですか?

 は、と息が出た。そんなもの、考えるまでもなく決まっている。

 

「必要です。間違いなく」

 

 これまでずっと、その背中を追ってきた。その働きを、その覚悟を、その誇りを、ずっと見てきたのだ。

 知っている。あの人がどれだけ恐ろしくて、どれだけこの国を愛しているのか。そればかりはきっと、柊木さんだって敵いやしない。

 柊木さんは、俺の答えを聞いてにっこりと微笑んだ。

 

「俺もそう思います」

 

 そして、彼は言葉を続けた。

 

「それ以外に、貴方を信頼する理由が必要ですか?」

 

 その言葉に、息を詰まらせる。

 柊木さんは俺の様子など気にもせず、俺はいらないと思うんですけどねと朗らかに宣った。壮麗な顔に、作り笑いでない楽しそうな笑みを乗せて彼は言う。

 

「貴方は降谷の右腕でしょう。降谷は、信頼できない人間を傍には置かないし、使えない人間を補佐にはしません」

 

 その笑顔が、言いたいことはわかるでしょうと語りかけてくる。そんな顔をされては頷く以外の選択肢がない。

 俺は、降谷さんの右腕なのだから。

 

「……弱音を吐きました。申し訳ありません」

「いえ。それで?」

「必ず、遂行してみせます」

 

 守ってみせる。その両肩にこの国を背負う、彼を。

 ジンが倒れ伏すと同時に、CIAのひとりが持っていた拳銃の銃口が降谷さんを捉える。彼が引き金を引こうとしたその瞬間、俺は彼に全力で当て身を食らわせた。

 

 

 ***

 

 

 銃声と同時に、顔の横を弾丸が通り過ぎる。いくらか髪が散ったのか、わずかに焦げ臭い。―――何が起こった。当て身を食らわせた風見はすぐに体勢を整え、彼に麻酔弾を撃ち込む。それを見たもうひとりのCIAも即座に俺に向けて銃を構えるが、引き金を引くことは叶わない。窓の外から飛んできた弾丸によって弾き飛ばされた。

 

『……どういうことだ』

 

 彼には珍しい、焦りと困惑を含んだ声がイヤホンから聞こえてくる。

 

『なぜCIAが降谷君を狙う?』

 

 俺が、狙われている。何故、 疑問がぐるぐると脳を巡る。何より、先ほどの銃声。確かに俺は両耳でその音を捉えた。素のままの左耳からだけでなく、イヤホンをつけている右耳からも。それの、意味することは―――まさか。

 脳裏でまた彼の声が蘇る。この数か月、言われ続けてきたこと。先走るな、焦るな、冷静になれ。俺が今、すべきことはなんだ。なすべきことをなせと、そう言われたじゃないか。

 ほとんど反射的に隠し持っていた麻酔銃を取り出し、赤井に拳銃を弾き飛ばされた彼に弾を打ち込んだ。ほぼ同時に、ベルモットが驚愕した顔のキールに麻酔弾を撃ち込む。

 

「……そういうことね」

 

 嫌悪に顔を歪ませた彼女に構うことなく、俺は立ち上がった風見に叫んだ。

 

「風見、ジンとウォッカは予定通り拘束し連行! そしてCIA捜査官二名は殺人未遂容疑で緊急逮捕だ! キールもその共犯の疑いがある、同様に拘束しろ! 確実に監視のもとに置き、一瞬たりとも目を離すな!」

「はい! 連行するために待機させていた人員を増員し手配します!」

 

 取り急ぎジンとウォッカには俺と風見が持っていた手錠を後ろ手にかける。ガムテープでもあればCIAの拘束もしたかったところだが、手持ちがない以上はしばらく目を覚まさないことに賭けるしかない。後は、連行するための追加の人員が到着するのを待つだけ。

これで、いいんだよな? 焦る気持ちを押さえながら、マイクに向かって叫ぶ。

 

「柊木、追加の指示はあるか? 応答しろ!」

 

 とにかく声が聞きたかった。さっき聞こえた銃声は気のせいだと、無事だと言ってほしい。祈りに似た気持ちでイヤホンを耳に押し付けた。

 

「柊木!」

『……そんなに叫ばなくても聞こえてるよ、降谷』

 

 穏やかな声が、鼓膜を揺らした。

 

 

 ***

 

 

 ジンとウォッカが、ビル内部に入ったことを確認した。各所に仕掛けられた監視カメラの映像が、ビルから少し離れた場所に停められた車内のモニターに映る。

 

「映像、音声ともにクリア。ジン、ウォッカ、まもなく対象の部屋に到着します。キールはまだのようですね」

「ええ」

 

 モニター車には俺とミスターの二人だけ。先程まで諸伏がいたが、作戦中は車の周囲を警戒してもらうため、外に出ていった。その諸伏から、キール到着、と無線が入った。その数秒後、監視カメラに彼女が映り込む。

 

「キール……!」

「とりあえずは元気そうですね」

「ありがとうございます、Mr.柊木」

 

 仲間の無事を喜ぶ彼に笑顔を返して、目線をモニターに戻した。

 ここからはもう、俺にできることはない。できることは、全てした。本当に、全て。人事を尽くしたのなら、あとは―――天命を待つのみ。

 

「キール、接触しました」

「始まりましたね」

 

 これで、ようやく終わる。そう時間のかかる作戦ではない、決着まで数分だろう。

 同時に、俺にとっての戦いは()()からだ。高鳴る鼓動を呼吸でおさえ、成り行きを見守った。

 

「……Mr.柊木」

「はい」

 

 モニターからは目を逸らさない。隣にいた彼が少し身を引き、俺の背後に立ったことがわかる。彼の静かな声には何の感情も乗っておらず、ただただ無機質に響いた。

 

「貴方は本当に優れた方だ。貴方と共に任務にあたったこの数ヶ月は、私にとって非常に有意義な時間でした。貴方から学び得ることもとても多かった」

「……お互い様ですよ、ミスター。貴方はとても良い仕事相手で、いいライバルでもありました」

「光栄です」

 

 モニターに映る、ほぼ一瞬の銃撃戦。―――片が付いた。ジンすら騙し通したベルモットの変装は見事で、風見さんの冷静な対応も素晴らしい。

 ジンとウォッカが、倒れ伏した。

 

「……とても……残念です。Mr.柊木」

 

 貴方は、優秀すぎた。

 後頭部の近くで、かちりと金属の音が聞こえる。それが何を意味するのか、彼が何をしようとしているのか、俺にはわかっていた。そっと目を閉じ、口元を緩める。

 ただ、その銃声を受け入れた。

 

 

 *

 

 

 銃声は背後からではなく、モニター車の入口付近と、イヤホンから響く。

 そっと目を開けると、目の前の画面に映っているのは困惑した表情の降谷に、やり切った顔の風見さん。直後に響いた銃声と赤井さんの焦った声は、彼が迷うことなく降谷を守ってくれたことを証明している。

 

「、ぐ……!」

「……動かないでくれよ。次は当てる」

 

 俺の背後には右手を押さえるミスター、モニター車の入口近くには拳銃を構えた諸伏が立っていた。その顔は冷静に見えて確かな怒りが宿っており、その言葉が脅しでないことを物語っている。

 

『柊木!』

 

 必死な顔で降谷が俺を呼んでいる。この状況でもちゃんと冷静に動いて指示を出せるなんて降谷も成長したものだ。そんなことを思う自分に、笑った。

 さあ、ここから先は俺の舞台。勝者は俺で、今起きている全ては俺の思惑通りでなければならない。この先の全ても、俺が描いたままに進む。()()()()()()()()()()()()

 不安を殺せ、安堵を殺せ。このうるさい鼓動を、掌の汗を、決して悟られてはならない。ひたすら余裕に、傲慢に、全てはお見通しだと笑ってみせろ。俺に弱みなど存在しない、俺に勝てるわけがないのだと思い込ませろ。

 俺は何事も無かったかのように、マイクに顔を近づけて話しかけた。

 

「……そんなに叫ばなくても聞こえてるよ、降谷」

『! 柊木!』

「増援が来るまでその場に待機、赤井さんも万が一彼らが早く目を覚ましてしまったときのために警戒を続けて下さい。ベルモット、もう少しお付き合いを」

『……了解した』

『仕方ないわね。それで? そちらからも銃声が聞こえたような気がしたのだけれど?』

「ああ、聞こえましたか」

 

 

 マイクの感度を高めて、この場の会話がすべて伝わるように設定をいじる。ゆっくりと立ち上がり、いまだ右手をおさえる彼に向き合った。

 

「……俺の杞憂であればいいと思っていましたよ、ミスター」

「……ここまで読まれているとは思っていませんでした」

 

 さすが貴方は優秀だ、そう言った彼はうっすらと冷や汗をかきつつも笑っていた。そしてさらに言葉を続ける。いったいいつから気づいていたのかと問われ、さていつからだったかな、と考える。

 

「最初から違和感はありました。どう考えても貴方たちの目的は『宮野志保』であるはずなのに、捜査の指揮権を奪いに来る様子も、彼女に接触しようとする様子もありませんでしたから」

 

 いくら合衆国からの圧力があろうとも、ただ彼女を寄越せと言われて頷く日本警察ではない。何事にも体裁と道理は必要で、合衆国とてそれくらい弁えている。だからこそ、うやむやのうちにこの捜査の指揮権を奪われ、事後処理の主導権まで握られることを恐れていた。しかし、その様子が全くない。

 

「こちらを見定めているのは感じていましたが、手は出してこない。しかし、このまま大人しくキールの身柄だけを救出して帰ってくれるとは到底思えない。だから、考えました。指揮権を奪う以外の、この案件の主導権を握る方法を」

 

 彼らはCIAだと、そう口にしたときに気づいた。そう、彼らはCIA、合衆国の国益を第一とする組織。彼らの詳細な活動内容は明かされていないが、かつて暗殺禁止という大統領令を出され、しかも今はそれを撤回された事実がある。合衆国のために、職務として人を殺すことがあり得る組織なのだ。

 その発想に至ったとき、俺は背筋に冷たいものを感じた。日本警察でこの案件に深くかかわっているのは、俺を含めて四人と少ない。特例で指揮を執っている俺と、潜入任務に就いている降谷を「排除」してしまえば、残るのは風見さんと諸伏の二人。サポートメインで動いている彼らが中心になって捜査を続けられるとは考えにくい。かといって、今から他の指揮官を連れてきて何とかなる案件でもない。

 彼らが「暗殺」という選択肢をとることは十分にあり得る。だが確証があるわけではなかったし、ただ暗殺を失敗させるだけでは意味がなかった。二度目三度目と狙われることがないよう、暗殺を完璧に防いだ上でCIAに「暗殺は不可能」あるいは「メリットよりデメリットが大きい」と思わせる必要がある。端的に言えば、とりあえずミスターの心はへし折らなければならない。正直、不可能だと思った。

 案自体は浮かばないわけではなかったが、どう考えても俺には手札が足りず、何より降谷を危険に晒すことになる。それを策に数えたくなかった。

 

「……正直なところ、本当に降谷と俺の暗殺を狙いに来るかは可能性でしかありませんでした」

 

 確証をもったのは今朝のことだ。あいつらのおかげでそれがはっきりした。まさか()()助けられるなんて、と頼もしくなりすぎた彼らを思う。

 たくさんのひとに手を借りた。使えるものは全部使った。だからこそ俺は、絶対に負けられない。この自信満々な笑顔を、崩すことは許されない。

 

「しかし、可能性があることだけでもわかっていれば十分。おかげで、俺たちは今も生きている」

「……それはどうでしょう」

 

 彼はそっと左手をポケットに入れる。その様子に銃を構えなおした諸伏を片手で制した。彼の切り札はとっくにわかっている。

 

「このモニター車にひとつ、そして彼らがいるビルにふたつ」

 

 ぴたり、と彼の動きが止まる。まさか、とその顔は物語っていた。ポケットから覗く左手に握られていたのは、赤いボタンのついたいかにもなスイッチ。この反応からして数と配置に間違いはないらしい。

 つまり、何の問題もない。

 

「昨晩は見張りを代わっていただいてありがとうございました。その間に貴方の部下の方々が仕掛けてくれた爆弾は解除させていただきましたよ。わりと単純なつくりだったそうですね、解体には五分とかからなかったそうです。貴方が見張りをしていた短い時間で仕掛けたせいか、隠し場所も安直で見つけ出すのもそう難しくなかったと」

 

 彼と見張りを交代した、今日の早朝。俺がモニターを覗き込んでいるその間に、風見さんと諸伏、そしてあいつらが走ってくれた。裏の理事官に連絡をまわしてあいつらを動けるようにしてもらい、ただひとことだけメッセージを送って。

 

『たすけてくれ』

 

 すぐに既読がつき、メッセージが返ってきた。ずっとあいつらからのメッセージを無視し続け数か月ぶりに俺からメッセージを送ったというのに、そんなことを一切感じさせない返事だった。

 

『何すりゃいいんだよ。日時と場所と詳細教えろ。あと報酬もな』

『やっと研二くんの出番? 今度は除け者なしだからな!』

『お前の珍しいSOSに俺たちが動かないわけねえだろ?』

 

 改めて諸伏から連絡をしてもらい、指示を出した。俺が見張りをしていたその数時間のうちに、ビルとモニター車を徹底的に洗ってもらった。俺と降谷が死ななければ意味がないのだから、ある程度場所と威力の見当はつく。捜索されることを前提としていない以上、そう難しいトラップが仕掛けられているはずもない。

 優秀な警察官が五人もそろって本気で捜索を行えば、元爆処のエースが二人も揃っていれば、爆弾を見つけ出してばらばらにすることくらい造作もなかった。

 

『……口を挟んですまないが柊木くん、つまり彼らは自爆するつもりだったということか?』

 

 不意に赤井さんの声が届く。

 そう、この場を爆破すれば、俺たちだけではない、彼ら自身も巻き添えとなる。爆弾の威力を考えれば、生き残れたのはせいぜいスナイプのために距離をとっていた赤井さんくらいだっただろう。

 

「ええ。対外的にはその爆弾は組織の最後の抵抗とでも判断されるでしょう。そうなればむしろ、日本の捜査員だけが死んでいる状況は違和感が残る。だから彼らもまとめて死ぬつもりだった」

『だが、それでは』

「ええ、そうなれば生き残るのはFBIだけです」

 

 赤井さんが息をのむ。

 そう、鳥取にいる三人と赤井さんが生き残る。そうなれば当然指揮を執るのはMr.ブラック、つまり合衆国側になるだろう。まして彼は今ボスを捕まえるべく動いており、おそらく成功させる。そうなれば彼がこの案件の主導権を握るのは何らおかしいことではない。

 そしてMr.ブラックは当然、合衆国に逆らえない。

 

「彼らは合衆国のためにある。そのためなら少々の命が散っても構わない。日本警察の命も、……CIAの命もね」

 

 その覚悟はいっそ立派だと言ってやろう。公安だって、状況によってはそれに近い判断をするかもしれない。決して肯定はしないが、それが彼らの職務で存在意義なのだから。

 

「……本当に、貴方は恐ろしい人だ。Mr.柊木」

 

 爆弾のスイッチを床に落としたミスターは、静かな声で言った。今までの温和な顔を投げ捨て、その瞳に鋭さを、その口元に酷薄な笑みを宿している。

 

「だからこそ、貴方だけでも手段を択ばず殺しておくべきでした」

 

 合衆国のために。

 彼にとってはこれ以上ない賞賛の言葉なのだろう、素直に受け取っておくことにする。そう考えて笑みを返した。彼は言葉を続ける。

 

「それで? 私たちをどうされるおつもりですか?」

 

 逮捕でも、何でも、どうぞお好きなように。

 彼は余裕を崩さないまま両腕を開いてみせた。まあ、どうするかって、逮捕はするのだけれど。その先の流れがどうなるかなんて、だいたい予想はつく。こちらにとってそれは決して悪い展開ではなかった。

 

「……まあこの映像も撮れてますし、殺人未遂の現行犯逮捕ですよね。キールについては微妙ですが、貴方の部下のお二人も同様に逮捕。CIAの捜査員が功を焦って暴走し、殺人を図るも失敗という筋書きがあてがわれて、CIAが日本警察に謝罪。まあ力関係考えたら表沙汰にすらならないかもしれませんが、とりあえず案件の主導権は渡さずに済みそうですね」

 

 今後の展開なんて、まあそんなもんだろう。宮野さん、新一くんの身柄を渡さずに済むのならとりあえず問題はない。ミスターは俺の言葉に満足そうに頷いた。

 

「ええ、仰る通りになるでしょうね。残念です、例の薬の研究者をこちらにもらえないのは」

「言葉と表情が一致してないんですけどねえ」

「おや、そう見えますか?」

 

 しらじらしい。任務の失敗をしておきながら呑気なものだ。まあ、その理由もわかる。この任務に失敗したところで、CIAにとっては少々日本警察に謝罪をするだけ。得るものこそなくても、失うものはほとんどない。

 宮野さんの身柄が得られずとも、薬のデータやそれ以外の怪しい研究のデータはまだ手に入れられる可能性はまだ残っている。彼自身は相応の処罰を受けるかもしれないが、彼ほど狂信的に任務に忠実な人間であれば合衆国に被害がなければそれでいいと考えているのだろう。

 

「ところでミスター、ひとつお伺いしたいことがあるのですが」

「ほう、なんでしょう?」

「貴方には協力者がいるはずだ。それも、日本警察の上層に」

 

 彼の笑顔は揺らがない。

 そう簡単に口を割ってくれないことを承知で、俺は構わず続けた。

 

「CIAがこの案件に参加しやすいように根回しを行い、暗殺が成功した際にはそれを『殉職』として処理することができるほどのお偉いさんと、繋がってますね?」

 

 その人の事、教えてくれませんか?

 笑顔のミスターは、なんの事だかわからないというように首を傾げてみせた。

 CIAが世界各国、それも要人に協力者を持っているのはもはや周知の事実だ。そうやって合衆国に都合のいいように他国を動かしていくのがCIAの常套手段。実際に過去、CIAと関係があったとされる日本の要人も多い。

 今回もその存在があるのは確信していた。何しろ、あまりにもCIAの行動が大胆すぎる。しかし、その正体を暴くことはできていない。どこでどう情報が漏れるかわからない状況で捜査員を動かし、こちらが暗殺に気づいていることを悟られるわけにはいかなかった。

 だからこそ、何としてもここで口を割らせる必要がある。上層に合衆国と繋がっている人間がいるのはこの際どうでもいい。ただし、合衆国と日本の国益を両立できるのであれば、だ。今回の件は明らかにやりすぎだ。

 彼は、口を開く気配を見せない。

 

「……ま、教えてくれませんよね」

 

 地位の高い協力者というものはいくらでも使い道がある。こんなところで失いたくはないだろう。ならばやはり、こちらも切り札を出さねばならない。妥協した勝利は決して完全勝利とは言えないのだから。

 俺はミスターから視線を外すことなく、ポケットの中のスマホに手を伸ばした。

 

 

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