六花、欠けることなく   作:ふみどり

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蛇足 柊木旭という男

 むかしむかし、それはそれはかわいらしい少年がおりました。

 少年のかぞくはおとうさんひとりだけでしたが、少年はおとうさんのことがだいすきだったので、まいにちしあわせにたのしくくらしておりました。

 あるひ、少年はおとうさんにたずねました。

「おとうさんは、まいにちなにをしているの?」

 おとうさんはまいにちあさはやくでかけて、よるおそくにかえってきます。

「おとうさんは、おしごとをしているんだよ。けいさつかんなんだ」

「けいさつかん?」

「ひとをまもるおしごとだよ。せいぎのみかただ」

「わあ、かっこいい!」

 ぼくのおとうさんは、ヒーローなんだ!

 少年は、うれしそうにわらいました。

 そしてまいにち、こういっておとうさんをみおくるようになりました。

「いってらっしゃい、きょうもせいぎのみかたがんばってね!」

 おとうさんは、少年のじまんでした。

 

 ところが、少年がすこしおとなになったころ、じけんがおこりました。

 少年があまりにかわいかったので、おんなのひとにつれさられてしまったのです!

 おとうさんはひっしにさがしまわりました。

 おとうさんのなかまもいっしょにさがしてくれました。

 すぎしたさんというとてもあたまのいいけいさつかんが、さがしだしてくれました。

 少年は、やっぱりけいさつかんはせいぎのみかたなんだ、とおもいました。

 

 しかし、少年がいえにかえっても、おとうさんはないています。

 ないて、少年にくりかえしくりかえしあやまります。

「どうしておとうさんがあやまるの?」

「おとうさんがけいさつかんだからだよ」

 少年がおとうさんのなみだをみたのは、あとにもさきにもこのときだけでした。

 そして、すぎしたさんもまた少年にあいにきて、あたまをさげました。

「どうしてすぎしたさんがあやまるの?」

「ぼくがむりょくだからです」

 すぎしたさんは、とってもくやしそうなかおをしていました。

 

 少年はたくさんかんがえました。

 かんがえてかんがえて、ようやくふたりがあやまったりゆうがわかりました。

 でも、やっぱりわかりませんでした。

「どうしてせいぎのみかたなのに、ただしいことができないんだろう」

 そうかんがえて少年は、いや、なんかちがうな、とおもいなおしました。そもそも。

「せいぎって、なんなんだろう」

 わからない。わからないけど、わかるようになりたい。

 そうおもった少年は、とりあえずけいさつかんになることにしました。

 すくなくともまわりのおとなは、けいさつをせいぎだといったからです。

「よし、たくさんべんきょうしてからだをきたえよう」

 どんなりふじんにもまけないような、つよいひとにならなくちゃ。

 

 少年は、たくさんべんきょうしました。たくさんからだをきたえました。

 おんなのひととかかわるのはこわかったけれど、なんとかがっこうにもいきました。

 うまくともだちもつくれなくてさみしかったけれど、それでもがんばりました。

 がっこうというせかいにいると、たくさんのるーるをおそわります。

 るーるはまもらなければならないもので、やぶってはいけないもの。

 じゃあ、るーるをまもっていればせいぎなのかな?

 少年は、よくわからないなりにるーるをまもることにしました。

 けいさつかんになるには、ぜったいにほうりつをまもらなければなりません。

 これはそのれんしゅうだと、少年はすべてのるーるをまもりました。

 

 少年は、けいさつかんになるためのがっこうにいきました。

 うまれてはじめて、ともだちができました。それも、ごにんも。

 とてもとてもうれしくて、ずっとなかよしでいたいなぁとおもいました。

 みんなといるときだけは、せいぎのことをかんがえませんでした。

 みんなといるときだけは、むかしじゃなくていまをいきていられました。

 

 少年は、けいさつかんになりました。  

 たくさん、たくさんいろんなことがありました。

 たくさん、たくさんいろんなひとにであいました。

 たくさん、たくさんせいぎのかたちをみたのです。

 

 せいぎを、ぶきにつかうひともいました。

 せいぎを、たてにするひともいました。

 せいぎを、こわだかにさけぶひともいました。

 せいぎを、ふみにじってでもまもろうとするひともいました。

 少年も、いつしかせいぎを「つかう」ことをおぼえました。

 かたちのないそれを、ふりかざしました。

 かたちのないそれを、たてにしました。

 かたちのないそれを、ふみにじりました。

 しょうじき少年は、あまりふかくかんがえていませんでした。

 ただ、みんなのことをまもるのにつかえそうだからつかっただけなのです。

 それをわるいことだともおもえなかったのです。

 

 ほかのひとがつかっていたせいぎもそうでした。

 だってぜんぶ、なにかをまもろうとしたのでしょう?

 だってぜんぶ、なにかをすくおうとしたのでしょう?

 そのきもちをひていすることは、きっとかみさまにだってできません。

 そもそも、かみさまがさきにせいぎをつくっておかなかったのがわるいのです。

 しごとをさぼったかみさまに、もんくをいわれるすじあいはありません。

 

 ぜんぶただしくてまちがっていて、それがせいぎなのだとおもうことにしました。

 ただかんがえるのがめんどくさくなっただけなのかもしれません。

 だってきっと、こたえなんてずっとでないのです。

 たったひとつのせいぎがあるのなら、きっとこんなになやんだりはしないのでしょう。

 おとなになってけいさつかんになった少年は、おもいました。

 せいぎとかけいさつとかけっきょくよくわからない。

 そんなもののせいでとってもめんどくさいせかいにとびこんでしまった。

 そんなもののせいでとってもめんどくさいじけんにもまきこまれてしまった。

 けれど、それでもやっぱり、けいさつかんになってよかったなぁと。

 よなかだというのにさわがしいみんなのこえがあると、そうおもうのです。

 

 *

 

「ビールも小麦粉も豚肉もタコもなくなったので今日はここまで!」

「うっそだろまだまだ足りねえぞ俺ァ!」

「文句があるなら材料買ってこい」

「よしハギ、スーパー行け。近くのは二十四時間営業してる」

「え、俺なの?」

「全く、仕方ないな……」

「そういってスマホを取り出すなよゼロまさか風見さん使う気じゃないよな?」

「……わかったわかった、俺が行ってきてやるよ」

「ヒュー!さすが班長!」

「あ、つまみの追加もよろしく。俺チータラ」

「へいへい、家主様が言うんじゃ仕方ねえ。他は?」

「さきいか!」

「ナッツ!」

「洋酒も適当に頼む」

「あ、俺からあげ食べたい」

「ひとりで持てるわけねえだろうがせめてもうひとり来い!」

「じゃあハギ」

「ハギだな」

「何かごめんな」

「よろしく萩原」

「だから何で俺。ジャンケンしよ?」

「家主様の言うことは?」

「旭ちゃん酔ってるね? んも~はいはい行ってきますよ~」

「ったく、大人しく待ってろよ」

 

 

彼は、万が一にも殉職してほしくなかったから友達を叱りました。

彼は、殉職の危険を冒していた友達を止めなかったその上司を叱りました。

彼は、私欲から情報を流して友達を窮地に追い込んだ警察官を締め上げました。

彼は、友達が妄執から解放されるよう、ルールを無視して好きなようにさせました。

彼は、友達を処罰なんかしたくなかったので、その原因たちに説教をしました。

彼は、友達に頼られたのが嬉しくて、いやいや言いながらもその案件に挑みました。

彼は、友達に頼られたその案件を完璧に解決したくて、関係者に釘を刺しました。

彼は、友達を危険に晒すその組織も、横やりをいれてくる奴らも許せませんでした。

彼は、また六人で笑うために、組織を潰し、他国に喧嘩を売り、勝利しました。

そこには正義感も使命感もありません。一から十まで完璧に「私情」でした。

全て開き直った彼は、平気な顔でこう宣います。

「公私混同の何が悪いんだ? それらしい建前をつくるだけの能力と権力があるかどうか、結局のところそれだけだろ?」

 

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