俺が通り魔に襲われたと知るや駆けつけてくれる悪友たちには、申し訳なくもありがたいと感じる。いや本当にそう思うのだが。
「何だ、顔は無事か。不幸中の幸いだな」
「うんうん、とっさに腕でかばったって? 顔はキレーなままだね」
「しかし顔目掛けて劇物とは、本当に悪質だな」
心配されているはずなのになんとなく素直にうなずけない言葉に、じくじくと痛む腕の火傷に堪えながらため息をつく。同時に俺のスマホが通知を告げた。メッセージが二件、公安にいる悪友たちからだ。
『話は聞いた。顔は無事で何より』
『軽傷って聞いてとりあえず安心したよ。顔に傷がつかなくて良かったな』
いや、だから。
「何でお前ら基本顔の心配なわけ?」
「旭ちゃんの国宝級のイケメンに傷とか許されないじゃん?」
素で言い返してきた萩原に苦い顔をすると、まあまあと伊達が苦笑する。
「悪い悪い、これでも安心したんだよ。通り魔に襲われて病院に搬送されたっていうからどんな大怪我だと思ったのに、とりあえず腕の軽い火傷で済んだってんだから」
「にしてもお前、たるんでんじゃねえの? 視線だの殺気だの、普段ならすぐ気づくくせに」
松田にそう言われ、言い返せずに黙る。正直なところ、俺もそのあたりの察知能力にはそれなりの自信を持っていた。数々のストーカー被害によって磨かれたスキルだが、これのおかげで危険から逃れられたことも多い。それが今回は全く役に立たなかった。気が抜けていたと言われればそれまでだが、なんとなく腑に落ちない。
んー、と首をひねりながら萩原が口を開く。
「背後から声をかけられて、振り向いた瞬間を狙った犯行だったんだよね?」
「ああ、男の声だったと思う。一瞬だったし暗かったから相手の姿はあんまり見えなかったけど、いつのまにか背後に立ってて、振り向いた瞬間に瓶が目に入った」
「で、ぶっかけようとしてきたからとっさに瓶ごと振り払って、腕に少量かかる程度で済んだと」
このところは犯罪被害も落ち着いていただけに、久しぶりに被害者になってしまったことにうんざりした。慣れたなんて言葉は使いたくはないが、劇物かけられても「めんどくさい」という感想になるあたり俺もかなり毒されている。
とはいえ、ここまで殺傷能力のある被害は久しぶりだ。
「ま、傷害事件には違いねえからな、多分うちの班が担当することになる」
「松田のとこか。そりゃよろしく」
「おう」
部下が来たらまた詳しく話を聞くからな、と言われて頷く。俺のいろいろと面倒な事情を知っているやつ相手なら話もしやすい。そう思って少しほっとした。
対して松田は心底嫌そうな顔で、とりあえず、と盛大にため息をついて言った。
「ここしばらくしつこい女とすでに振った女の顔と名前、思い出しておけよ」
「……。……えっ俺それをお前や幸人の前で言うの……?」
「あのな、居たたまれねえのはこっちだわ馬鹿野郎。大人しく吐け」
背筋がぞっとした俺と即座に言い返した松田の様子に、伊達と萩原は盛大に肩をふるわせていた。