▼ヒロアカのキャラクターが出ます。ヒロアカをご存じの方向けです
▼コナンのキャラクターは一切出ません
▼どの世界でも柊木さんは警察官なのです
▼息をするように捏造を含みます
▼ホークスと降谷さんって似てるところあるなぁ、と思ったのがきっかけです
俺の事情を知るひとに、よく正気を保っていられるな、と言われたことがある。普通なら精神が崩壊しててもおかしくないぞ、と。
メンタルケアに携わるひとの言葉だっただけに、重みはあった。が、そのときにはすでに《柊木旭》を受け入れていた俺の口は、そうですかねえという呑気な言葉が漏れるだけだ。
結局のところ、これが《個性》だろうが《妄想》だろうが、もっと違う超常現象的な何かだろうが、俺は結局《柊木旭》として生きるしかないのだ。俺のスーツの内ポケットには、いつだって警察手帳が仕舞われている。
「お、柊木クンやん!」
「ファットか。遠路はるばるご苦労さん」
今日は捜査協力のためにサー・ナイトアイの事務所に訪れていた。どうも好き勝手始めているらしい死穢八斎會、当然その捜査には俺たち警察も関わっている。
過去、このプロヒーロー《ファットガム》とともに違法薬物関わりの案件を潰しまわった経験を買われ、今は部署的に畑違いの俺もこうして捜査に駆り出されていた。ファットガムとはその捜査以来の付き合いで、齢が同じということもあり、それなりに親しく話す仲だ。
「ホンマ大阪から東京は遠いわ~。見てこのスリム具合、移動だけで痩せてもうた」
「どこが痩せたってんだよBMIヒーロー。どうせ移動中も駅弁山ほど食ってんだろ、プラマイゼロどころかむしろプラスだわ」
「いやっ柊木クンたらノリ悪い! そこは《痩せて綺麗になったな》くらい言うてくれんとファットさん泣くで!?」
「相変わらず口の回るやつだな……死穢八斎會の件で来たんだろ?」
その名を出すと、ぴたりとファットは動きを止める。すっと真剣な目を向けられ、俺もひとつ頷いた。
「俺もその関係で今日は来たんだよ。今はクスリ関係の担当じゃないんだが、そのときの経験を買われてな。警察の方の指揮を執ってる」
「せやったんか。柊木クンの指揮があるなら捜査の進展も早そうやな」
「だといいけどな。……ファット」
「なん?」
死穢八斎會に、個性を消すクスリ、そこに関わるひとりの少女。そして、そこにちらつく敵連合の影。サー・ナイトアイや警察としての見解では、死穢八斎會と敵連合の結託の線は薄いとみているが、さて。どうも俺の目には死穢八斎會を潰して終わりの案件には見えなかったが、とはいえ証拠も何もない状態で前線にたつヒーローを振り回すこともない。
相変わらずトトロか最高級クッションかと思えるような腹に軽く拳をいれて、俺は誤魔化すように笑った。
「しっかりメシ食っとけよ」
ひとが聞けば、それは何の変哲もない、ただの挨拶のような言葉。けれど、ファットにはそれで十分に通じる。それなりに危ない案件に、ともに立ち向かってきた経験があるからこそ。
俺の《警告》に一瞬目を見開いたファットは、委細承知という様子でいつものように笑う。
「ほな東京でも食い倒れしてこかな! ところで柊木クン今日の夜時間ある?」
「今日は無理。仕事が詰まっててな」
「えええタイミング悪ぅ…東京で食い倒れるならまず柊木クンの粉もん食べな始まらんのに。何で関西出身やないくせにあんなに美味いねんやっぱキミ関西人やろ」
「残念ながら東京生まれの東京育ちだな。この案件片付いて時間が取れたら作ってやるよ」
腕壊れるまで焼いてもらうわ、と楽しそうに言うファットに、洒落にならねえよと苦笑する。
今では
それじゃあ俺はサー・ナイトアイに会って来るから、とその横を通り過ぎようとすると、ほな、とまんまるトトロも手を挙げた。
「久々に
「誰が顔面国宝だ。この顔は個性だけど《個性》じゃねえっつの」
相変わらず口の回るこの男は、余計な一言を残すのを忘れない。いつも通りの俺の返しを聞いて、陽気な関西人はからからと笑った。
*
「もうその顔は《個性》でしょ。魅了とか催眠とかそういう」
「しばくぞ」
サー・ナイトアイとの話を終え仕事場に戻ってみれば、何故か俺の執務室のソファでごろごろしている赤い羽。もう長い付き合いになる彼は、いつも通りの顔でへらりと笑う。
「いやーモテますもんねえ旭さん。会うひと会うひとみーんな目がハート。よっ世界一のイケメン! 国宝級の男前!」
「俺で遊びにきたならとっとと帰れクソガキ」
「あれ、今日機嫌悪い?」
仕事が山積みなんだよ、と赤い羽をもつプロヒーロー《ホークス》に構わずデスクに鞄を投げ置いた。今日得た情報を資料にまとめ、明日以降の捜査計画も組みなおさなくてはならない。年端もいかない少女を虐待して違法薬物を精製している可能性がある以上、一刻も早くその娘を保護してあげなくては。
パソコンを立ち上げた俺を見て、ホークスは他人事のように口を開く。
「相変わらず仕事熱心ですねえ旭さん。もう定時過ぎてんでしょ?」
「昼夜問わず働いてるプロヒーローに言われたくねーよ。というかホークス、お前東京まで仕事か?」
「協会に呼ばれましてね。まあもう終わったんで、先生の顔でも見てこうかと。あわよくば夕飯でもたかろうかと」
「少しは本音を隠せ」
あと先生はやめろ、と言うとだって先生ですし、とかつて面倒を見ていた優秀な生徒はいつもの笑顔を崩さない。
「旭さんは俺の先生ですよ」
腹の内が見えないその笑顔に、俺の教育が間違っていたのだろうか、と小さくため息をつく。俺の真似だとホークスは言うが、そんなところ真似すんなと思う。
何故か生まれたときから《柊木旭》という《誰か》の一生分の記憶をもって生まれた俺は、この
しかもこの顔、その《柊木旭》と同じくとんでもなく整っていて、しかも両親には全く似ていないというおまけつき。魔性と表現するしかないこの顔は、それはそれは多くのひとを犯罪へと導いた。
決してそれは俺のせいじゃない。俺のせいじゃないが、一般人でしかなかった両親は惑った。苦しんで、俺を手放す選択をした。当然だと思うし、同情こそすれ恨む気にもならない。
あのふたりは、決して俺を傷つけたり疎んだりはしなかった。ただ、受け入れられなかっただけ。それは決して、罪ではない。俺が《柊木旭》なんて《個性》をもって生まれたせいだ。
結果として俺は公的機関が管理する施設に預けられ、《柊木旭》と名乗って生きていくことになったわけである。そして、一生を警察官として生き抜いた記憶を買われ、何故だか公安が面倒を見ていたヒーローの卵の世話まで任せられた。
俺のあとをついてまわっていたちまちました小鳥が、いつのまにやら大きくふてぶてしく育ち、今やこの国でも有数のプロヒーロー。とっくに巣立ちして生まれ故郷の福岡でヒーロー活動に勤しんでいるくせに、東京に来るときには必ず俺のところに顔を出すのだから、変なところで律儀なやつである。
「ホークス、そこにいるのは勝手だけど俺しばらく仕事するぞ」
「旭さんは晩飯どうすんです?」
「一時間で片付けてそのあと食べる。作る気力はないから何か買うよ」
「久しぶりの旭さんのメシ……」
「今日は諦めろ。事前に連絡しなかった方が悪い」
ちぇー、とちっとも残念がっているように見えない鷹は口をとがらせる。いつ福岡に帰るんだと聞けば、明日の昼には東京を出るという。さすがは忙しいプロヒーロー、と思いながら、家の冷蔵庫の中身を思い浮かべた。確か、鶏肉はまだ残っていた。
「……鶏のから揚げ」
「!」
「今晩のうちに仕込んで明日の朝揚げてやるよ。好きだろ」
「やった! あ、今日旭さんとこ泊まっていいですよね?」
「はいはい。じゃあ俺仕事するから」
「じゃ、俺ちょっと外出てきますねー。一時間したら戻るんで!」
さっと羽ばたいた赤い翼に、珈琲、と投げかけると、了解、と楽しそうな声とともに一羽の鷹が窓から飛び立つ。一時間後に彼が戻ってくるときには、その手には珈琲とふたりぶんの夕飯が握られていることだろう。先の先まで読めと教え込んだ可愛い生徒は、抜け目なく俺の教えを実践してくれる。
「…個人的には生徒っつーか家族なんだが」
お互い家族に関してはデリケートなところがあるので本人の前で言わないが、俺の感覚としては生徒というより家族に近く、弟や息子のように思っているところがあった。甘やかしてはならないと思いつつも、ついつい甘くなってしまうのは反省している。まあそこは幼少から面倒を見ていたやつの欲目と、―――どこか
改めて時計を見る。やるべきことを頭の中で整理し、優先順位と効率を考慮して片付ける順序を決めた。こきりとひとつ肩をならして、パソコンに向かう。一時間と区切ったからには、時間通りに仕事を終わらせなくては。
なんだかんだで親しい顔によく出会う一日だったことを喜びながら、俺は集中してキーボードに指を走らせた。
***
本当は、わかっている。
柊木旭と名乗ってはいるが、俺の名前はちゃんと別にあることを。柊木旭は、俺とは別の《誰か》であるということを。
けれど、俺はそれでも《柊木旭》を名乗り続ける。
「いつまで《柊木旭》やるつもりや、自分。……ホンマはちゃんと、わかっとるんやろ。それで、ええんか」
いつのまにか付き合いが長くなりつつある悪友は、少し硬い口調でそう言う。本当に《俺》のことを心配してそう言ってくれているのはわかっているが、俺は苦笑を返すしかない。
だって、仕方がないんだ。《柊木旭》は俺の目から見ても有能な警察官で、とても頼りになる存在なのだ。俺が《柊木旭》でいる間は、きっと《俺》でいるよりもたくさんのものを守れるから。
「……いつか、教えてくださいよ。《旭さん》の、本当の名前」
幼少から面倒を見てきた、弟のような、息子のような彼は、そう言って少し切なげに笑う。俺だってお前の本当の名前は知らないんだが、とは言えなかった。彼に知識や振る舞いを教えてきたのは《柊木旭》の方なのに、どうして《柊木旭》じゃなくて《俺》を知ろうとするのだろう。
別に、知らなくていいと思うんだ。《柊木旭》がいなきゃ、何もできない《俺》のことなんて。
「素晴らしい《個性》だよ。僕でも見たことのない、非常にレアな《個性》だ」
目の前に立つ巨悪は嗤う。ニィ、と口角を上げ、芝居がかったように両手を広げた。
「おそらくはその遺伝子のどこかに刻まれた、過去の《誰か》の記憶と人格をそのまま受け継ぐ《個性》! あえて名前をつけるなら
転生や永久の命に限りなく近いものだ。
これを奪われるわけにはいかない、と一歩下がる。《個性》を失ってただの《俺》になるのも大打撃だが、それ以上に、こいつにだけはこの《個性》を渡してはいけない。この巨悪の思考と思想を、後世に遺させてはならない。
「さあ、 くん。僕から逃げ切れると思うかい?」
どこで知ったのか、久しぶりに《俺》の名を聞いた。暗に諦めろと言われて、思わず口角が上がる。残念ながら、《俺》にも《柊木旭》にも、諦めるという選択肢だけは存在しない。
まっすぐに、その存在を見据えた。
「
だから俺は、逃げもしないし負けもしない。
《柊木旭》の結末は、いつだって完全勝利しかありえないのだから。