『たすけろください』
一斉に送られてきた日本語になっていない文章に、メールを受け取った五人は同時に同じことを思った。
──また、女絡みか。
*
「で、今回はどういう事案なんだ?」
「……偶然、ある警察上層のお偉いさんの家族に出くわしたんだよ」
例のごとく柊木の家に集まった僕たちは、すでに半泣き状態の本人を前にしていた。急なことでも全員集まれたのは奇跡的としか言いようがない。こればかりは柊木の日頃の行いか、それとも全員招集することは滅多にない柊木のために全員が時間をむしり取ってきたか。おそらくは両方だろう。
たいていのことは笑ってこなす柊木がここまで取り乱すのは女性関係だけ。しかも少々のことならいつもハギに相談して話を片付けているはずだ。わざわざ全員に連絡を飛ばしたからには、いつも以上の面倒な理由があるのだろう。
しかしこんな情けない顔をしていてもイケメンはイケメンだなと逆に感心する。つい口に出したらお前が言うなと松田に頭をはたかれた。後でやり返す。
それに一生懸命笑ってみせようとしたが表情を取り繕う余裕も残っていない柊木が零したところによると、たまに挨拶をかわすレベルに親しいお偉いさんの家族と仕事帰りに偶然鉢合わせ、そのご令嬢に一目惚れされてしまったとか。
「そのお偉いさん自身は普通にホワイトでいい人なんだよ……少々思い込みが激しくて娘さんを溺愛してるくらいで……俺のことも評価してくれてて……『君になら可愛い一人娘を任せられる』って……」
そう言葉を続ける柊木の長い睫毛に、そろそろ水滴が乗りそうだ。
柊木に目を付けたことについては見る目があると言ってやりたいが、本人の意向もちゃんと確認してやってほしい。まあ柊木も義理があった分はっきりとは言えなかったんだろうが。
やれやれと僕は口を開いた。
「それで、そのご令嬢は?」
「連絡先を交換させられてメールのやり取りしてる……返信しなくても一時間に一回くらいの頻度でメールが来てて」
「返信しなくても?」
「一時間に一回?」
「それでも我慢してる方らしい……一応仕事中にスマホ見れないことは伝えてるんだけど……」
全力で遠慮しても昼に弁当を作ろうとしてくるわ、帰りの時間や家の場所、休みの予定を聞き出そうとしてくるわ、果ては誰のとは言わないが結婚後の人生設計の話まで持ち出されているらしい。
これは完全に柊木の地雷案件、とふと隣に目をやれば、うわあと言う顔をしたヒロと目が合った。ふるふると首を振るヒロに思わず頷く。
とはいえ、警察という立場から考えるとこれは難しい。
「……だが、そのレベルだとストーカーで訴えるのはまだ難しいな。警察官僚の娘なら誰も手を出したくないだろうし、柊木の立場もある」
お前もあまり表沙汰にしたくないんだろうと言えば、柊木はこくりと頷いた。
「となると、そのご令嬢さんに柊木のこと諦めてもらうしかないってこと?」
「無理じゃねーの? 相手が相手だけに猫かぶりも外せないだろ」
松田の言葉に柊木の瞳がまた一層潤んだ。それに気づいた松田が慌てて頬杖を外し、身を乗り出した。
「おま、本気で泣きそうになんなよ!」
「せんせー、じんぺいちゃんがあさひちゃんを泣かせてま~す」
「俺は泣いてねえ!」
いろいろ我慢ができなくなってきたのであろう柊木がぴるぴると震えだした。いやしかしお前、何でそんな情けない顔になってもイケメンなんだ、おかしいだろ。
「い、一応言うけど、多分悪い子じゃないんだ。ストーカーというより、その、ちょっと押しが強すぎるって感じで、向こうも俺がその気がないのはわかってて、でも諦めきれない感じというか、何が何でも欲しいモノは手に入れたいというか……」
「なあ柊木、それを世間一般ではストーカーって言うんだぞ」
「暗いジメジメした粘着質な感じがないだけ俺としてはだいぶマシなんだよ伊達! 盗撮盗聴尾行妙な贈り物もないし周囲に対する嫌がらせもない! だけど無理!!」
つまり今まで経験したストーカーの中ではマシな部類ではあるけれど、だからと言って堪え切れるレベルでは決してないと。いや堪える必要はないんだがな。というかお前本当に今までどんな目にあってきたんだ。
ったく、と頭をがしがしと書いた松田が、ん、と柊木に彼のスマホを差し出した。
「まつだ……?」
「つまり一応は話し合いの余地がありそうな相手なんだろ? ならすっぱり断りの連絡いれろよ。本気で外堀埋められる前に手を打った方がいい」
「ん、確かにね。ほら旭ちゃん、今なら俺たちもいてやるから、勇気出して頑張ってみよ~?」
「俺何歳児だよ……」
ぶちぶちと文句を言いつつ、萩原に頭を撫でられても柊木は抵抗しない。伊達も苦笑してそれに続いた。
「何にせよ、ちゃんと拒否の意志を伝えることは大事だと思うぞ? お前のことだから、相手の気持ちとかそのお偉いさんへの義理とか気にして、あんまりはっきりとは伝えられてねえんじゃねえか?」
「……」
そっと口を閉じた柊木は、どうやら図星だったらしい。
意外とというか、柊木は女性相手にもなるべく傷つけないように立ち回る。あくまでも仕事外の、悪意のない相手に限った話だが、根本的に人を拒否するのが苦手な性質なのだ。
「何とかお相手さんに拒否の意志を伝えて、出来るだけ早くそのお偉いさんにも頭下げればまだ何とかなるんじゃないか? 正式な見合いでもないし、そのお偉いさんも話が通じない人ではないんだろ?」
言い聞かせるように優しくヒロが言うと、柊木は唇を横一文字に結んだままこくりと頷いた。
よし、柊木の震えが止まった。
「仕事に集中したいから今は私生活のことは考えられない、そう伝えるだけだ。多少ごねられても折れるんじゃないぞ」
そうして一番誕生日が早いくせに一番末っ子気質の甘ったれは、僕たち全員に励まされてようやくスマホの画面に指を滑らせたのだった。
こういうところが可愛いと思うのだが、それを知っているのが僕たちだけだという事実が、何となくくすぐったい。
***
「……何でこうなったんだろうな」
「陣平ちゃん、それは言わないお約束」
はは、と乾いた笑みを零すハギも、さすがに遠い目をしていた。
何が悲しくてカップルばかりのプールに男二人で来なくてはならないのだろうか。
*
数日前、俺たちの前で柊木は意を決し、そのご令嬢とやらに連絡をした。丁寧に丁寧に断りの言葉を並べ、申し訳ないと伝えるアイツの対応に、聞く限り不備はなかったと思う。
しかし、相手が悪かった。辛抱強く言葉を重ねる柊木にもめげず折れず、漏れ聞こえた言葉は『諦めきれない』。なるほど、声の調子からしてかなり気の強い女らしい。時間がたつにつれ、柊木の顔色が青を通り越して白くなっていく。
「──わかりました」
そろそろまずい、と思ったところで、案の定もはや完全に目が死んでいる柊木がとうとう根を上げた。諦めに満ちた声は、もはやもの悲しい。
「では、一度だけです。それでも私の意志が変わらなければ、このお話はなかったことに」
その一言を絞り出した柊木はそっと通話を切り、そのまま──まっすぐ後ろに倒れた。
*
女性との会話に堪え切れず卒倒した柊木がぼそぼそ話し出したところによると、彼女は「こんな電話での言葉で諦められるわけがない、せめて一度ちゃんと会って話したい」「チャンスが欲しい、それでも無理なら諦める」と言って譲らなかったとか。
それ以上会話を続けることに堪え切れなくなった柊木は根負けして妥協、一度だけデートをすることに。行き先は、彼女の要望で夏らしくプールだ。
「水着で悩殺しよう的な発想かな? 旭ちゃんにはマジで逆効果だけど」
「……まあある意味良かったんじゃねえか」
「何で?」
「泣いてもプールの中なら目立たねえし、卒倒しても熱中症だと誤魔化せる」
「あ、なるほど」
デートの約束を取り付けられた柊木はなりふり構わず俺たちに泣きついた。
「頼むから誰か付いてきてくれ、マジで無理」と、あんなに真剣な顔の柊木を見たのはもしかしたら初めてだったかもしれない。どこまで必死だったのか、掴まれた肩が手の形に赤くなっていた。お前よくそれで普段俺らのことゴリラとか言えるなと思う。
それで何とか時間の融通がつけられた俺とハギは、仕方なく男二人でプールに乗り込み、対象二人を見守る羽目になったというわけだ。
「しかしさすがというか、……目立ってるな」
シンプルなサーフパンツにパーカーを合わせただけの柊木だが、そこに立っているだけでモデルのように様になる。言うまでもなく周囲の女性の視線を一身に浴びていた。
本人は我関せずという顔をしているが、それなりに付き合いのある俺たちにはわかる。あれは、出来ることならすぐにでもその場から走り去りたいと考えている顔だ。
「あらー……旭ちゃん、今日生きて帰れるかな?」
「死なせたら俺たちが殺されるぞ、柊木のモンペに」
「あいつら本当に旭ちゃんのこと好きだよね~」
何が何でも守り切るんだぞと念を押してきたクソ真面目のゼロに、オレたちも行ければよかったんだけどとしょんぼりしていた諸伏、悪ィが頼むぜと肩を叩いてきた伊達。
普通ならいい歳した野郎相手に心配しすぎだろと言うところだが、何せ対象が柊木だ。本人に事情がありすぎるというのもそうだが、本来たいていのことは自分で片付けてしまう性質のやつに全力で頼られたなら、そりゃあ応えてやりたくもなるというものだろう。
頑張んないとね、と軽く言うハギもまた、抜かりなく周囲の気配を探りながら柊木を視界に捉え続けている。オフなのにやってることは完全に
「あ、来たみたい」
柊木に向かって大きく手を振る女性、おそらく彼女が例のご令嬢なのだろう。
いくらか年下だという彼女は、まあそれなりに美人と言っていい。華やかな水着を身にまとい、一生懸命柊木のために着飾ってきたのが見て取れる。相手が柊木でさえなければ、その努力を微笑ましく思えたかもしれない。そういう意味ではあの子も気の毒かもな、と思った矢先、彼女は躊躇なく柊木の腕に抱き着いた。
「ありゃ」
「うわ、」
一瞬硬直しても笑顔を崩さなかった柊木はさすがと言っておこう。
あれは泣くのを我慢している。偉いぞ柊木、そのまま堪えろ。さすがに往来で泣くアラサー同期は見たくない。
「……あー、積極的だね、肉食系女子って奴?」
「やっぱ今日柊木死ぬかもな」
「どうしよう俺たちも殺されちゃうねえそれ。おっと、移動し始めた」
「よし、追うぞ」
ある程度距離をとって尾行する旨は柊木に伝えてある。よほどのことがない限りは特に手を出すつもりもないが、一応いるというだけでアイツは安心するらしい。どうやら俺たちの存在にはすでに気づいていたようで、一瞬だけこちらに目線を送ってきた。
ほんの少し素の情けない笑顔をこちらに向け、すぐに顔を戻す。
「……相変わらず人の視線には敏感だなアイツ」
「歴代のストーカーのおかげで磨かれたスキルだと思うと切ないよね~」
やめろ萩原、本当に泣けてくる。
*
そのあとのデートは、まあ順調だったと言っていいのではないだろうか。
ウォータースライダーに乗ったり(二人乗りで密着するのが無理だったんだろう、それぞれ一人で乗っていた)、流れるプールに浮かんでいたり(抱き着こうとしてくる彼女を必死にかわしていた)、彼女が作ってきたお弁当を食べたり(まずいわけではないと思うが、噛まずに呑み込んでいた)、よくあるストローが二つ刺さっているジュースを飲んだり(ストローに口を付けてはいたがあれは絶対飲んでない)と、深く考えなければ微笑ましいデートに見えると思う。……絶対に笑顔を崩さない柊木の努力が涙ぐましい。
たまに声をかけてくる逆ナンをかわしつつ、俺たちもずっと後を追っていた。ハギがちょこちょこスマホをいじっていると思ったら、来ていない三人に実況中継をしていたらしい。
「あいつら、なんて?」
「降谷ちゃんが、さすがに夕方くらいで限界だろうから解散する様子がなかったら仕事の呼び出し装って帰らせてやれって」
「妥当なところだな」
「あとヒロくんが、エチケット袋の用意はいいかって」
「ああ、絶対後で昼飯の弁当分吐くからな」
「それから伊達班長が仕事終わりに差し入れ届けに柊木の家行くってさ。ゼリーとアイスどっちがいいかって」
「もはや扱いが病人」
まあ十中八九ぶっ倒れるのであながち間違いとは言えないが。
ぼちぼち日も傾き、帰る客も増えてきた。柊木も意を決したのか、彼女に向き合って真剣な顔を作っている。
「……萩原、もう少し近づくぞ」
「はいは~い」
そっと二人の声が聞こえる位置まで距離を詰めた。
「……私の気持ちは変わりません。お気持ちは本当に嬉しく思いますが、お付き合いをすることは出来ませんし、今後こうしてお会いすることも出来ません。貴方のお父様には私の方からきちんとお話をさせていただきます」
「そんな、旭さん……! 確かに今の私はまだまだ至らない点は多いかもしれません、けれど、絶対に貴方に相応しい女性になってみせます!」
「そんな風に仰っていただけることは身に余る光栄です。しかし、どうぞそのままの貴方を受け入れてくださる方をお選びください」
貴方の隣に相応しいのは、私ではないでしょう。
きっぱりと言い切った柊木に、少し感心した。お前、女相手でもちゃんと言うこと言えるじゃねえか。
「そんな……!」
その言葉に、彼女は目を潤ませた。ドラマのヒロインさながら口元に手をやり、流れる涙をぬぐうこともなく。
一瞬の隙をつき、柊木に抱き着いた。
「あ、」
俺と萩原の声が揃う。
当然その声も聞こえていない彼女は、柊木の胸元に頬を摺り寄せ、そしてそのまま背伸びをし、顔が近づいた──ところで柊木はばっと彼女を引き離す。
「旭、さん……?」
柊木の頬に涙が伝う。表情はもはや笑顔を作れず、目が虚ろになりかけていた。
完全にキャパオーバーしたのだろう、ふらりとゆらぎながらも、二歩、三歩と下がり、何とか倒れないように踏ん張っている。
──これはまずい。
「あ、旭さ、……私、……っごめんなさい……!」
彼女がその場を走り去るのと同時に、俺たちは柊木に駆け寄った。
目の前にいるのに視線が合わない。その肩を掴んで揺さぶる。
「オイ柊木! 柊木!?」
「旭ちゃん? 俺たちのことわかるー?」
「あ、……」
未だ目線が合わないながらも、その口がはくりと動く。
しかし言葉が紡がれることはなく、俺たちの言葉も届いてないようだった。
「ハギ、俺が柊木に肩貸すから荷物頼む」
「了解」
柊木が
俺たちは柊木を半ば抱えるようにしてすぐにその場から撤収した。
*
結局、柊木が会話できるほどに復活したのは、俺の車に乗り込んだ後だった。
俺がハンドルを握り、萩原が後部座席でぐらぐら揺れる柊木の面倒を見る。荷物も積み込んでエンジンをかけたとき、柊木ははっと我に返った。
「……はぎわら?」
「お、戻ってきた。だいじょぶ?」
「ようやく起きたか」
「……まつだ」
「おう」
三秒ほど固まった柊木は、そのままぶわっと音が出そうなほど涙を溢れさせる。そして隣にいた勢いよく萩原に飛びついた。
「うおっ!?」
「あああああああ怖かったあああああああ!!」
「いっ……! わかった旭ちゃん怖かったのわかったからちょっと腕緩めて!! マジで締めてる!! 肋骨きしんでるからホント!!!」
突如として始まったやり取りに、不謹慎とわかりながら噴き出した。
「あっこら、何笑ってんの! あいててて本当痛い、痛いってば柊木!!」
「いやこれお前笑うだろ。おーい柊木、聞こえてっかー」
「きこえてる……」
「よし、萩原は好きにしていいが俺の方には来んなよ、運転中だからな」
「……うん……」
「さては柊木テンパりすぎて精神年齢幼児レベルまで落ちてるね!? いたっ締め上げるなってば柊木!! マジでお前の腕力洒落になんねえんだから!!」
柊木の家について車から降りるまで萩原から離れることはなく、その間ずっとえぐえぐと泣き続けた。
絵面が面白すぎて運転中ひらすら爆笑をこらえ続けたが、どう考えても俺は悪くない。柊木が萩原に泣きついて締め上げる図ってお前、笑う以外の選択肢がないだろと思う。
***
家に帰って即行胃の中のものを吐き戻し、軽くシャワーを浴びなおしたころには、今日仕事だった三人もうちに乗り込んできていた。
まだ早い時間なのに急いできてくれたのだろうか。さすがに申し訳ない。
「あ、旭ちゃん適当に服借りたよ?」
「ああ、うん……ごめん萩原」
いーよ、と軽く笑った萩原が着ていた服は、俺の涙で見事にぐっしょり濡れているはずだ。車の中での騒動を思い出したらしい松田は、また小さく肩を揺らしている。
「松田……さすがの俺も傷つく……」
「ふ、くく、ああ、悪かったよ、面白すぎてな」
真剣に同情されるよりは笑い飛ばされる方が気持ち的に楽なのは確かだが、そう全力で笑わなくてもいいと思う。確かにさっきまでの自分のことは俺自身忘れてしまいたいけれど。
「柊木、俺らのことはいいから少し横になったらどうだ?」
「ああ、まだ顔色が悪いぞ」
伊達と降谷の言葉に甘えてそのままソファに転がった。
諸伏がばさりとタオルケットをかけてくれて、傍に飲み物を置いてくれた。
「サンキュ」
「どういたしまして。ま、デートが終わって良かったね」
無事に終わったとは言い難いけど、と小さく言うと、諸伏も困ったようにはははと頬を掻きながら笑顔を作る。
「彼女、走って逃げちゃったんだって?」
「柊木が泣いたの見てすげー動揺してたな」
「『そこまで私のこと嫌なの!?』って感じ? うーん、拒否っていうのは伝わったと思うけど、どうなるかなあ」
もはや彼女の最後の表情を覚えてもいない俺は頭を抱えるしかない。
どう考えても気を悪くさせてしまったのは事実だろうが、謝罪の連絡をした方がいいのか、それともこのまま連絡を絶つべきなのか。ぐるぐると思考が堂々巡りをしていたところに、俺のスマホから走る一瞬のバイブ音。
部屋に沈黙が流れ、視線がスマホに集まった。
「……まさか?」
「いや、でもまさか」
「さすがに早くない?」
「でもタイミング的に……」
「とにかく、確認するしかないだろう」
ほら、降谷が俺にスマホを差し出す。
明るくなった画面にごくりとつばを飲む。若干震える手でスマホを受け取り、メッセージを開いた。
「……。……、……ん?」
「何その反応」
「……その彼女からの、メッセージなんだけど」
「やっぱりか。彼女は何て?」
「……諦めては、くれたらしいんだけど……?」
「良かったじゃないか。何だよ、その歯切れの悪さ」
どう反応していいかわからないまま、降谷にそのスマホを投げ渡した。五人が一斉に画面を覗き込み、揃って目を点にする。
『逃げてしまって本当にごめんなさい』
『貴方の涙に、私では到底貴方の隣は務まらないと理解してしまいました』
「……涙を流す姿すらあんなに美しい貴方の隣には、立てない……?」
「まるで芸術品……一枚の絵画のようで……?」
「その美しさに堪え切れず逃げてしまった私をお許しください……?」
「まさに創造主のつくった美しさ……?」
「地上に舞い降りた天使に、私ごとき下界の人間が手を触れてはならないのです……?」
父には私からきちんとお話しておきます、という一言でメッセージは締められていた。綴られていた文章はまるでポエムのようで、何というか、……何というか。
何もないとわかっていても、俺の手はつい自分の肩甲骨に伸びる。硬い骨の感触だけが手のひらに残り、当たり前のことながら羽など生えているはずもなく。
俺はどう反応していいかわからないまま、とりあえず口を開く。この顔で今までいろんな評価をされてきたけど、と自分で思うよりずっと戸惑った声が零れた。
「……
一瞬の沈黙が流れた後、まるで爆発したかのような笑い声が部屋に響いた。