六花、欠けることなく   作:ふみどり

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柊木さん元警察官で審神者やってます。


柊木本丸① とうらぶクロス

 とにもかくにも気が重い。

 自分は仕事ならばたいていのことは割り切って実行できる人間だと自負していたが、何せ本丸に籠もっていると対人ストレスが皆無なので耐性が薄れているのかもしれない。男士しか周囲にいない環境があんなに楽だとは思わなかった。警察学校よりさらに気が楽ってどういうことだ快適すぎる。

 ひたすらに野郎としか接触のない審神者生活のなか、数少ない苦痛な任務がこの会議だ。わざわざ時の政府の施設に足を運び、多くの政府関係者や審神者の前で戦績を発表する。

 いや、会議の必要性はわかる。戦果の報告は当たり前のことだし、それに対する評価は当然必要だ。審神者同士で戦果を共有することで切磋琢磨させる狙いもあるだろう。強いて言うならリモートでやればいいじゃねえかとは思うが、まあ対面のほうが不正を見抜きやすいとか一応の利点もある。だから審神者会議への出席に納得していないわけではない。嫌だろうが気が重かろうが、やらなければならない「職務」なのだから。

 仕立てのいいスーツの袖をさすりながら、俺は大きく溜息をついた。

 

「主ってば溜息もう何回目~? 大丈夫だって、今日もめちゃくちゃ格好いいから」

 

 俺も負けずに可愛いし、と紅く輝く爪を見せながらにっこりと笑う。長く俺を支えてくれているはじまりの刀が可愛いことに異論はないのだが、俺が必要以上に着飾っていることについては不安しかない。

 

「……俺は目立ちたくないんだよ」

「だから言ってるっしょ、主が目立たないとかそもそも無理」

 

 この前の篭手切の反応も面白かったよね、と言われて思わず口をキュッと噤む。

 面白かった、というのは顕現時、つまり刀剣との初めての対面のことだ。審神者の祈りを道しるべに依り代に降りた彼らはひとの身を得、名乗りをあげる。それに審神者が応えることで主従の契りとなるそうだが、俺の場合、何故だかまともに名乗りを上げてくれる刀のほうが少なかった。

 

「『私は篭手ぎ、……是非一緒にすていじのれっすんを!!』ってもうね、笑うしかないって」

「歌って踊るのは……もういい……」

「え、やったことあんの? 主がアイドルやるなら俺ばっちりプロデュースしちゃうけど」

「冗談でもやめて」

 

 自分の顔が整っている部類であることは自覚している。何なら三日月が「ほう、これは……」と感心するレベルであるらしい。

 しかし残念なことに、石切をして「……苦労したんだね」と涙させ、青江に強ばった笑顔で「気休めにしかならないけれど、少し綺麗にしておこうか。何をって、……聞きたいのかい?」と刀を抜かせた程度には面倒な顔面なのだ。

 幼い頃に誘拐されたことに始まり、まあ、うん、それはそれは苦労した。今では完全なる女性苦手に発展し、触れるほどに近づかれれば失神し、何なら過度な視線を受けただけで貧血を起こすほどである。一応リハビリの甲斐あってだいぶマシにはなったが、いまだに完治とは言いがたい。

 だから女性の審神者も多く出席するこの会議は、俺にとってひたすらに苦痛だった。初めてそれを清光に打ち明けたときは、もう何も言わなくていいと寄り添ってくれた。「主の顔を考えれば納得すぎて何も驚けない」という言葉は聞こえなかったふりをした。

 こんのすけとも相談し、会議の欠席も提案されたが、それは俺のプライドが許さなかった。仕事は仕事、夢だった警察官という職を辞してまで審神者として在ると決めたのだ。中途半端にしていては、背中を押してくれた悪友たちにも顔向けができない。

 頭を仕事モードに切り替えていれば問題ない、女性の審神者や政府職員とはなるべく距離をとる、だいたい刀剣男士の容姿を見慣れている彼女たちがそんなに騒ぐわけがない、そう思って俺は堪えた。堪えてきた。

 だというのに、――まさか魅了や洗脳効果のある呪具だのまじないだのを差し向けられるとは思わないだろ。

 どうやら「人間」で「刀剣男士に並ぶ容姿」、ついでに「審神者としての戦績も良好」は大いに彼女たちを刺激してしまったらしい。

 会議の会場に向かえば道中から帰路まであれこれと理由をつけては話しかけられ、戦績の報告中には黄色い声が飛び、文や贈り物を押しつけられる。しかも少しでも対応を間違えようものなら彼女たちの背後に控える刀剣男士が殺気立つ。いや俺にどうしろってんだお前らも少しは主を諫めろそれでも臣下か。清光のフォローがなければ俺は殺されていたかもしれない。

 毎回満身創痍で会議から帰ってはぶっ倒れる俺を見て、さすがにまずいと刀たちは話し合ったらしい。どうにかして彼女たちを近づかせない方法はないだろうか、と。

 その結果が、厳正なるくじ引きの結果選ばれた、本丸きっての伊達男、燭台切光忠が選んだフルオーダーの細身のスーツ。どういう理屈だよと。「絶っっっ対これが一番似合うから!!」と熱弁されて仕方なく大枚をはたいたブランドものだが、カフスボタンまでこだわりぬいたそれは、俺が着るには少々派手なような。

 髪を整えられ香水まで振りかけられた俺は歓声をあげる刀剣たちの盛大な拍手で繰り出されたのだが、まだ誰に見られているわけでもないのにひどく落ち着かない。

 

「……こんな作戦上手く行くのか……?」

「ま、そこは燭台切を信じとこーよ。大丈夫、文句なしに俺の主は格好いい」

「知ってる」

「主はさ、それこそボロを着たって絶対目立っちゃうんだって。主が着たらすり切れてヨレヨレのデニムもヴィンテージに見えるんだから」

「それも知ってる」

「だから逆に、とことん格好良くキメて誰も近寄れないくらいの存在感を出せばいいんだよ」

「それがちょっとよくワカラナイ」

 

 疑わしく思いながらも大人しく勧められるままに袖を通したのは、光忠があまりにも楽しそうに支度を手伝ってくれたからだ。着物を推していた歌仙や「これお前が参考に見てたアイドルの衣装では」と思われるものを掲げていた篭手切は少し悔しそうだったが、それでも俺の身支度を整える誰もがとにかくひたすらに楽しそうだった。

 支度の間には代わる代わる刀剣たちが部屋を覗きにきては「よっ色男! いいじゃねえか!」「これは驚きだな……三日月、きみ、負けるんじゃないか」「はっはっは、主はいけめんだからなあ」「本当によくお似合いですよ、主君」「会場の女の子たちの方が倒れちゃわないかな」「むしろその方がいいのでは?」「写真集……これは売れるたい」なんて言葉を残していく。博多の言葉は聞き捨てならなかったので一期に無言で目を向けた。頭が痛そうに頷いてくれたので何とかしてくれることだろう。

 童話の王子が着るような衣装を推していた清光の次に付き合いの長い彼も、にこにこと俺を見つめ、言った。

 

『どんな格好しててもあるじさんはあるじさんだし、ずーっと格好いいけど! おめかししたあるじさんも、やっぱり世界で一番格好いいから!』

 

 ボクも一緒に行けないのが残念だな~とはしゃぐように腕に抱きついた乱。その横で、衣装が乱れるだろーと笑って諫める清光。皆が笑顔だった。

 いつも俺の指揮で前線を走ってくれる彼らがこんなに喜んでくれるのなら。まあ、どうなるかわからないけど、一回試してみるくらいはいいか、と。

 あれこれと考えている間に転移装置が到着を告げる。この扉が開けばそこは時の政府。廊下にも会場にも多くの人間がいて、うるさいほどの視線を身に受けることになる。

 ふっと息を吐いた。清光と目が合う。大丈夫、と清光は頷いた。

 

「じゃ、始めよっか」

 

 愛刀を傍らに、俺は戦場へと臨む。

 

 *

 

「……いやめっちゃくちゃ絡まれたんだけど……!」

「いやホントごめんデコりたりなかったか~~~!! 次こそ絶対、絶対に皆ひれ伏すくらい格好よくしようね!! もう後光差すくらい狙ってこ!!」

 




「審神者会議」がトレンドに入ってたときにリクエスト頂いて書いたやつ。

さて、柊木さんが守ろうとしている「歴史」とはどちらを指すでしょうか。
どっちでも闇深くなりますね。なんともはや。
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