小説版 パラダイスロストの一場面をモチーフにしてみました。

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失楽園 〜商店街〜

3人でくすくす笑い合う。

商店街の喧騒の中、立ち止まる彼女たちの周りを忙しそうに人々が歩きすぎていく。

泉美がふいに辺りを見回して、感慨深げに言う。

 

「ねぇ…この中の何人がオルフェノクで、何人が人間なんだろう?」

 

直緒も真依も笑うのをやめた。

辺りを見回す。

 

携帯を片手に通り過ぎるサラリーマン。

買い物をした重そうな荷物を持つ子連れのお母さん。

スイーツを片手に楽しそうな下校中の女子高生3人組。

赤ちゃんの乗ったベビーカーを引いている母親。

カフェのテラス席に座るカップルと料理を運ぶウェイトレス。

ロイヤルブルーのチューブトップパールホワイトのミニスカでおなじみのスマートブレインのキャンギャルたち。

 

真依はのんびりと

 

「むっ……多分、八割方オルフェノクだよね…」

 

泉美は心の中で(私も直緒もだからね…)とつぶやく。

それからふと、(ずいぶん遠くに来ちゃった気がするなぁ…)

 

――泉美や直緒たちがオルフェノクと化してスマートブレイン社に庇護された当初は、まだオルフェノクという怪人の存在自体が世間に認知されていなかった。

それから約半年。オルフェノクはあっという間に数を増やし、世界はオルフェノク中心の社会へと変化していったのである。

オルフェノクと化した者は他の人間をオルフェノクにすることができる。

これはオルフェノクエネルギーなるものを人間に注入することで可能なのだが、それに適応できない場合はオルフェノクに覚醒できずに灰と化して死亡する。

 

一部の自然にオルフェノク化した者が人間を襲い始めた。

襲われた人間は死に至るが、灰と化して死亡する人間もいる中で、自らもオルフェノクとなって蘇ることもあった。

オリジナルのオルフェノクが人間を襲い、襲われた内の一部がオルフェノクに覚醒する。その覚醒したオルフェノクたちがまた別の人間を襲う。そして、その内の一部がまたオルフェノクに覚醒する。

それが繰り返された結果、ほんの一年前まではその存在を一部にしか知られていなかったオルフェノクは爆発的にあっという間にその数を増やし、世界は瞬く間にオルフェノク中心の社会に変化した。

泉美や直緒、また商店街にいる人たちのように、オルフェノクは普段は人間の姿をしており、見た目で人間とオルフェノクを判別することができず、真依たちが異変に気付いたころにはまだ人間の方が多く、人間社会は崩壊していなかったが、既に対処不能なほどまでに多くの一般人がオルフェノク化し、社会に紛れこんでいたのであった。

それから、社会へと溢れ出したオルフェノクたちはいつしか、人間よりもその数は多くなり、世間がオルフェノクという人外の怪人を認知した頃には、もう完全に手遅れであり、あらゆる組織がオルフェノクによって侵食され、スマートブレイン社に支配され、そこから世界中の人間がオルフェノクと化すのに一ヶ月とかからなかった。

今では人間は目立たないようにひっそりと暮らすか、真依たちのように若く気概がある者は、地下に潜って抵抗勢力となった。

いずれにせよ、すでに人間の数は全世界で数万から数千人程度まで減少し、その数も日を追うごとに減っており、オルフェノクが世界を完全に支配するのも時間の問題となっている。

 

「そうね・・・」

「スマートブレインのキャンギャルたちは言わなくてもオルフェノクだね」

「じゃあ、あのサラリーマンは?」

「スマートブレインの携帯を使ってるってことはオルフェノクだよね」

「子連れのお母さんもあんな重そうなのに軽々と持っているからオルフェノクね」

「あそこの女子高生たちは?」

「んー…どうだろう?」

 

『はぁ~~い!今日のニュースの時間で~す!』

 

商店街の入り口に設置してある大きめのビジョンから、女性の声が聞こえてくる。

軽い感じの口調で、とてもアナウンサーとは思えない。

 

画面には『SMART BRAIN News』と題して、『今日の人間解放軍の動き』とテロップが出ている。

 

画面中央にはアナウンサーにそぐわない容姿の女性がカメラの奥のスタジオに鎮座している。

水色と黒色のエナメル質のワンピースを着ている。

スマートブレインの広告塔ともいえるスマートレディだ。

今となってはこの街に住む者だけでなく、世界中どこでも日常の一つとなっているので、誰も違和感を抱かない。

 

『今日の人間解放軍の動きをお知らせしちゃいま~す!』

『第3支社と周辺の施設が襲撃されちゃいました~~。でも安心してね?こっちに被害はありませ~~~ん』

『解放軍の兵士さんは9人お亡くなりになりました~~~』

『え~~~ん。かわいそ~~~~』

 

大げさに泣きまねをするスマートレディ。

 

「ねぇ!みてみて!」

 

さっきの女子高生たちがちょうどビジョンの前を通りがかり、そのうちの1人がスマートレディの放送に気付いた。

ピタッと3人の女子高生たちは足を止めてビジョンを注視する。

 

『これで生き残っている人間の数は7673人』

 

ふいに、女子高生たちの瞳が白っぽくボウっとくすんだ銀色に光った

くすんだ銀色は瞳から女子高生たちの白い肌を伝わって、全身へと行き渡っていく。

女子高生たちの顔はもちろん、上着やスカートから覗かせている腕や脚に異形の模様が浮かび上がる。

もちろん、制服や下着に隠された部分にも。

全身に異形の模様が浮かび上がっている。

これがオルフェノクが人間の姿からオルフェノクの姿へと変貌させる際の予兆だ。

 

普段、オルフェノクは人間だった頃の姿で生活をしている。

オルフェノクと化した者の99%以上は、人間だった頃にオルフェノクに襲われた際にオルフェノクエネルギーを注入されることで、そのエネルギーが人間の心臓のみに作用し、心臓を灰化させて死亡させる。

そこで、オルフェノクエネルギーに耐えた者は、人間の心臓に代わる組織としてリバースハートという臓器が生成されると同時にモーフィンコアと呼ばれる変化器官も生成される。

リバースハートは人間の姿をしている時は心臓と同じ役割を果たし、オルフェノクの姿になるとオルフェノクエネルギーを生成し、供給する役割を果たす。

変化器官と呼ばれる、モーフィンコアは電気信号を送り出し、オルフェノク細胞というモノの配列を瞬時に組み替え、人間の姿からオルフェノクの姿へと一瞬で変貌させることができる。

 

脳から発信された電気信号はモーフィンコアと呼ばれる変化器官を作用させる。

そこから身体を変化させるという信号が送り出される。

まず、目の瞳が白っぽくくすんだ銀色に変わるのが変貌の合図だ。

そのくすんだ銀色はそこから全身へと広がる。

そこで身体に備えているオルフェノク細胞の配列を組み替えはじめる。

身体の内部は人間の内臓から自身のモチーフとなった動植物の特質にあったものに変貌し、皮膚にオルフェノクの姿を象った異形の模様が浮かび上がる。

これは人間の皮膚の表皮が変質した結果で、表皮を硬質化させて灰色の鎧のような硬い皮膚を形成させるためなのだ。

模様として現れた表皮はどんどんと硬質化させて、くすんだ銀色に光った肌はくすんだ銀色を通り越して光沢のある銀色に近い灰色に変質させると同時に身体が膨張することでオルフェノクの姿へと変貌を完成させるのである。

 

女子高生の3人にもこの前兆が現れたのだ。

 

『あともう少しで世界は完全にオルフェノクのモノになります!みなさん頑張ってね!』

『ちなみに今回お亡くなりになった人たちの中でオルフェノクになった人はだ~れもいませんでした~~。ざぁ~~んねん』

 

ニュースが終わり、プツンと画面が暗くなり、そこにはスマートブレインのロゴだけが映し出される。

 

女子高生たちも肌に現れていた異形の模様がスッと、肌に吸収されるように消え去り、くすんだ銀色に光っていた肌もそれと一緒に女子高生らしいきめ細かい元の白い肌へと戻った。

 

女子高生たちも紛れもなくオルフェノクだった。

 

真依の目が羨望の眼差しで女子高生たちを見つめているように泉美には見えた。

 

彼女たちはどこにでもいるような女子高生だ。ブラウンのボブの少しぽっちゃりした女子、スラッと高身長の黒髪ポニテのイケメン女子、金髪に染めたロングヘアーの不良女子。

各自、おしゃれに勤しむ年頃の女子高生だ。

ほんの数ヶ月前、まだ人間たちが大多数を占めていたころ、真依たち3人も女子高生として学校に通っていた。学校帰りにああやって、楽しく友だちと駄弁りながら帰るということを真依たちもしていた。

それが今では、こうやって変装して死者(オルフェノク)の街に紛れ込むときだけ小綺麗にラフな格好をするくらいで、他はあまり余裕はない。

本質は全くと言っていいほど変わり、その現象を幾度となく目撃した。

女子高生たちもほんの数ヶ月前まで人間だった。オルフェノクのことや真依たちのスマートブレインやオルフェノクとの戦いなど全く知らずに生活を送っていた。

それがいつしかオルフェノクと化して、今ではすっかりオルフェノクを受け入れ、人間の姿で以前と変わりなく何食わぬ顔で普通に日常生活を送っている。

 

このうちの1人が最初にオルフェノクと化して他の2人を襲ったのだろうか、それとも家族や別の友人、たまたま居合わせたりすれ違った全くの赤の他人に襲われたのか、はたまたオルフェノクたちによる人間の大虐殺に遭ったのかは分からないが、女子高生たちもオルフェノクに襲われた時には見たことのない灰色の異形に恐怖し、なす術もなくオルフェノクの使徒再生を受けて、死したのだが、女子高生たちには適性があった。

自らもオルフェノクに覚醒したのである。

オルフェノクに覚醒した女子高生たちも、他の大多数のオルフェノクと同じように、世界をオルフェノクだけのモノにするために、人間を襲って殺害することで仲間(オルフェノク)を増やすことは、人間を進化したオルフェノクに導くための愛であり、襲った人間がオルフェノクになれずに灰化して死んでしまっても、オルフェノクになれない人間は死んだほうがいいという認識だ。

泉美たちは仲間(オルフェノク)を増やすことの意味、使徒再生攻撃で人間を襲っても、オルフェノクに覚醒できずに灰と化して死んでしまう人間の方が多いこともあり、憎んでいない人間を殺害することに理解できなかった。

あの女子高生たちも泉美と同じような年頃だ。

しかし、女子高生たちは泉美とは違い、世間一般の大多数のオルフェノクと同じ考えであり、それが当たり前で普遍的である存在である。

 

実際に女子高生たちもオルフェノクに覚醒してからは仲間(オルフェノク)を増やすべく、幾度となく人間を襲ったのであろう。

 

オルフェノクに覚醒した者は、人間を超越した力に飲まれてしまう者が多い。

それに加え、オルフェノクに覚醒した者は基本的に好戦的になり、覚醒したほとんどのオルフェノクは人間は敵対する種族であり、仲間(オルフェノク)を増やすために人間を襲って殺害することは、死を乗り越えたオルフェノクは人間の上位に位置する知的生命体として繁栄するべきであるためだと認知している。

最初は人間から身を守るためだったが、やがてそれがオルフェノクの数が増えて有利になると、その考えが浸透していったのだ。

 

クンクン

 

直緒が匂いを嗅ぐ。

 

「…血のニオイ」

 

直緒の言う血の匂いとは人間を襲ったことのあるオルフェノクに対し、直緒が嗅ぎ取ることのできるニオイなのだ。

無論、女子高生たちから発せられる臭いらしい。

つまり、あの女子高生たちも例に漏れずにオルフェノクと化してから、人間を襲ったことがあるということだ。

まだ、人間がほとんど占めていた頃の人間社会では、直緒のこの能力を使い、人間に紛れるスマートブレインのオルフェノクを見つけ出すこともできた。

しかし、いつの頃かその数が少しずつ増え始めたかと思えば、スマートブレインに関与しない一般人まで血のニオイを纏う者が増えたのである。

 

「ねぇあれ応募した?」

「あーヒューマンゼロDAYピッタリ予想キャンペーンってやつ?」

「した!」

「残りが7673人でしょう?」

「あと1年くらい先かなー?」

「えー?1ヶ月も持たないと思うー」

「人間解放軍だっけ?」

「あんなおもちゃで私たち(オルフェノク)を倒せるわけないのにねー」

「「「はははは」」」

 

女子高生たちの瞳が再び白っぽくボウっとくすんだ銀色に光った

そしてくすんだ銀色は瞳から女子高生たちの白い肌を伝わって、全身へと行き渡っていき、異形の模様が現れる。

女子高生たちの会話や様子が見えてくる。

 

ヒューマンゼロDAYピッタリ予想キャンペーンとはスマートブレインが一般の市民(オルフェノク)向けに展開するキャンペーンだ。

人間が絶滅する日がいつなのかを予想するといった内容で、すでに多くの市民(オルフェノク)が応募しているらしい。

 

そんな会話をする女子高生たちを泉美は憂いを帯びた表情で見つめる。

哀れみではなく悲しみといった表情。

 

一方の真依はギリっと歯を噛みしめる。

その理由は解放軍の仲間が減ってしまったことだろうか、それともどこにでもいるような女子高生たちまでもがオルフェノクであるということを見せつけられたこと、またはその両方なのか。

 

かつては()()()()()()()()()であり、()()()()()()()()()()()()()()()も、今では()()()()()()()()()()()()()で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 

〜Fin〜




タイトルは適当of適当。
ダサいのは気にしない。
これが連載することがあれば、深掘りするかも…?

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