転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。   作:ひきがやもとまち

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久々過ぎる更新になってしまいました、申し訳ございません。
一度は書けてたんですけど、内容が気に食わずに結局は大幅な書き直しで時間を食ってしまいましたよ…。
もう少し思い切りよくならないと最近、時間的にキツイ時代ですねぇ…。


第17話

 

 赤色灯のみに照らされた薄暗い艦橋にあるモニター中央に、最後まで残っていた機体状況を伝える表示が切り替わり、変わって別の文字が画面上に浮かび上がる。

 

【SIGNAL LOST】

 

「・・・・・・え?」

 

 その表示を見たニコル・アマルフィは呆けたような声を上げながら、思わずポカンとした表情を晒してしまう。

 同じ内容のものに一足早く切り替わっていた《バスター》の状態を表す表示の下に、つい今し方まで記されていた《イージス》の反応も消え、全く同じ文章だけが無味乾燥に彼の眼前に突きつけられていた。

 

 ピ―――という、危険を伝える耳障りな音が響くのを、今だけは気にならずに画面上に示された文字だけを凝視し続け、ザフト軍潜水艦《クストー》の管制官が抑制された声音でおこなっている呼びかけも鼓膜を虚しく響く。

 

「――ザラ隊長、エルスマン機、聞こえますか? 応答してください。ザラ隊長、エルスマン機、聞こえていたら応答を――」

「《バスター》と《イージス》、および先ほどの爆発が確認された地点は?」

 

 ニコルの隣でモニターを見つめていた艦長が無言のまま、その傍らに立つ副長がCICに確認を取る。

 帰投を命じられていたザラ隊が、アラスカに向かう途中のアークエンジェルを運良く発見して最後の攻撃を仕掛け、その戦闘が惨憺たる結果に終わった直後での出来事だった。

 

 海上では少し前から雨が降り出したらしく、浮上すれば嵐に揺れる海が見えたかもしれない。

 だが海底は至って穏やかなままで、地上での激闘が行われた後だという事すら忘れそうになってしまうほど平穏そのもの。

 

 そう。・・・その戦闘で失われた命が、数字としてのみ表示され、そこに違和感を感じなくなってしまうほど穏やかに。

 閉ざされた狭い空間内から見上げるだけの、画面の向こう側で行われていた戦争だけを見つめるオーブ国民たちと同じように、ただ冷静に、適切に、手順と戦況に則って正しく対応することだけが自分たちの仕事だと割り切った上で―――。

 

「2時方向の小島です。それとオズマン隊長から通信、援軍に来たとのこと。戦闘空域到着予定は17分後と言ってきております」

「フン! 危険な相手を我々に押しつけ、安全になったと思った途端に美味しいところだけ掻っ攫いに来たか! オズマンのハイエナが!」

「――あ、待ってください。今足つきから発信された通信を傍受しました。

 “・・・人・・・救助を求む・・・島の位置は・・・”雨と荒波で正確には分かりませんが、どうやらオーブに救難信号を送っているようです」

「・・・なるほど、そういう事か。よし、面舵いっぱい。本艦はこれより、この海域より離脱する」

「えっ!?」

 

 艦長の決定と命令を聞かされたニコルは、信じられない思いで振り返ると、悲痛な表情で命令の変更を訴えかけた。

 

「そんな・・・! せめて、あと5分――いえ、2分だけでもアスランたちの帰還を待ってください!」

「君には悪いが、この状況となっては不可能だ。“君たちの隊”が全滅させられたことで、我が艦には戦力らしい戦力が残っていない。オーブ軍まで動き出す危険性が出てきた今、これ以上この海域に留まるのは自殺行為なのだよ。理解してほしい」

「そん・・・な・・・・・・」

 

 相手に肩を落とさせ引き下がらせた、気遣うような表情を見せる艦長の言葉を聞かされて、俯いたニコルには見えない位置で副長は唇を皮肉な形に曲げていた。

 

 艦長が言った綺麗事が、自分の任された潜水艦を傷つけられたくないという小心者な理由を含んでのものであることを彼は知っていたのだ。

 そんな状況でニコルは黙り込み、沈黙が戻ってきた潜水艦はしずしずと艦長の命令通りに進路を変えて帰還の途につこうとしていた。

 その瞬間に事だった。ハッチが開き、騒々しい荒ぶる少年が飛び込んできたのは。

 

「艦長! 艦が動いているが、状況はどうなっている!」

 

 イザーク・ジュールだった。足つきを補足後に仕掛けた戦闘中に敗退し、先に帰還していた彼は医務室で手当を受けたその足で艦橋まで直談判に赴いてきたらしく、頭には包帯を巻いて軍服の下からも消毒薬の匂いをプンプン匂わせながらの入室だった。

 

「アスランとディアッカは!? さっきの爆発は何だ!?」

「傷の方はもう良いようだね・・・。二人の方は不明だ、我々は当初の予定に従って帰投命令を実行している最中だよ」

「不明? 不明とはどういうことだ!?」

「詳しい状況はわからん。まずバスターとの交信が途切れ、やがて大きな爆発が確認された後、イージスとの交信も途切れた。

 そしてエマージェンシーは、どちらからも出ていない。足つきはオズマン隊が追撃している」

「そんなバカなッ!!」

 

 激しい剣幕で状況説明を否定し、艦長に向かって艦を戻すよう強い口調で要求する彼。

 二度手間であり、多少面倒ではあったがニコルに行ったものを今一度イザークに対しても語ってやらねばと艦長が内心で溜息をこぼしていた丁度その時。

 

 ザラ隊最後の男が現れる。

 ・・・・・・主役は最後に登場するものだとでも言うように、潜水艦の中さえ劇場として用いる男に生まれ変わった人物が――。

 

 

「状況はどうなっているか? 艦長」

「あ、ハッ! シロッコ副隊長・・・」

 

 薄い赤と黒で塗り分けられていた狭い空間に、白一色の軍服をまとった青年士官が入ってくると、副長他のブリッジクルーたちは即座に敬礼をして、艦長一人だけが複雑そうな表情を湛えながら反応が遅れ、ニコルがそれに倣い、イザークは敬礼すらしようとしない。

 

「左前方にプレッシャーを感じたのでな、情報が知りたくなった。・・・誰がやられたか?」

「はっ、あの・・・プレッシャーと言いますのは・・・?」

「口では説明しづらいが、感覚的なセンサーのようなものだと思ってもらっていい。

 私室にあるモニターを使って回線に割り込もうかとも思ったのだがな、艦長たちに嫌われたくはない。できれば口で説明を聞いておきたいな」

「ハッ! それでは僭越ながら小官が――」

 

 急に生き生きとした口調と態度で割り込んできた副長を、不愉快そうな視線で眺めてくる艦長を無視するように、副長は簡明にイザークたちに語った内容をシロッコに説明する。

 その様子を見ながら、ニコルはまだしもイザークの方は苛立ちを押さえることに苦慮し続けていた。

 

 彼としては相手が上官とは言え、当然の怒りだったからだ。

 この芝居がかった男は、足つきを捕捉して攻撃を仕掛ける際、自分たちだけで出撃させて、己一人潜水艦に残って高みの見物を決め込んでいたのである。

 

「君たちが望み求めた報復戦だ。君たちだけで果たすのが筋だろう」

 

 というのが、その理由だった。正論である。

 帰還命令の抜け穴を使ってでも、足つき撃破にこだわった自分たちの行動を鑑みれば、正しかったのは相手であって、自分たちの失態でしかないことぐらいは理解できる年齢だが、その結果としてアスランとディアッカの二人が未帰還という現状をもたらしている。

 感情を持つ人間として、不満や怒りを感じるのは当然のことだと、イザークは固く信じる己の思いを疑っていない。

 

「・・・ふむ、事態は見えてきたな。後は簡単だ。この艦は即刻カーペンタリアに帰投する」

「なっ!? 待ってください副隊長!!」

 

 そして、シロッコが下した命令に対して、他の誰より早く反応して強行に反対したのは、全員の予想通りイザークだった。

 

「今すぐ艦を戻すべきです!! あの二人がそう簡単にやられる訳がない! 伊達に赤を着ている訳じゃないのが俺たちクルーゼ隊なんですよ!?」

「分かっているさ、イザーク」

 

 だが吠えかけられた上官の方は、慣れた調子で泰然としたもの。

 まるで感情を剥き出しにして吠えるだけの子供でも相手にするかの如く、イザークの感傷を優先して現実を見ようとしたがらない意見を一蹴する。

 

「私とてアスランやディアッカがやられてたと思っている訳ではない。あの二人のことだ。仮に機体を失うことになろうと、自分だけは脱出して生き延びるぐらいの事はやってのける」

「だったら!!」

「まぁ聞け。彼らの生存は信じているが、機体の反応が消え、交信が途絶えているのも事実ではあるのだ。その一方で、エマージェンシーは出ていない。

 如何にストライクと足つきとはいえ、フェイズシフト装甲を持つ2機共が、この状態に陥るというのは些かおかしい」

「え・・・? あ、そう言えば・・・」

 

 言われて始めて気づき、イザークは愕然とした表情を晒していた。

 これはニコルも同様で、あまりに衝撃に脳が一時的な機能不全を起こしていたのか、自分の不明を後悔する色を顔に浮かべていた。

 だが他のクルーたちには今一ピンとこなかったらしく、不思議そうな顔をしたまま沈黙し続けていた。

 これは彼らとクルーゼ隊が保有しているモビルスーツに対する知識量と実体験の多さの違いがもたらした差でもあったのだ。

 

 基本的にフェイズシフト装甲を持つ機体が、敵の攻撃を受けてエマージェンシーを出す余裕もなく一撃だけで撃墜されてパイロットも戦死させられる、という状況はモビルスーツ戦においてはほとんどあり得ない。

 それをするにはビーム兵器の直撃が必要不可欠であり、フェイズシフトの防御性能はビーム兵器の斬撃だろうと一発でパイロットごと破壊するには、ソードストライカー装備時の《15.78メートル対艦刀シュペーゲル》で一刀両断するか、ランチャーストライカーの《320ミリ超高インパルス砲アグニ》をコクピットかメインエンジンどちらかに直撃させるより、現時点では他に手がない。

 

 どちらかならば不可能な話ではなく、現に前回の戦闘でもニコルがあのまま突貫していれば、そうなっていた可能性は極めて高い窮地に陥っていた。

 だが、その時でさえ側にはアスランが乗るイージスがおり、味方戦死の報は届くはずであった。

 片方ずつしか、エマージェンシーを出す余裕もなく一瞬にして殺すことなど出来ないはずのストライクを相手に、片方がやられたのを放置して戦闘を続け、残る片割れも脱出や救難信号を出すことなく同じ轍を踏まされる・・・・・・というのは流石に低確率すぎる偶然が味方しなければ不可能なように思われる。

 

 それぐらいなら、それぞれの場所で別々の敵と戦って敗れた――とする方が、まだ説得力が感じられる。

 二人はおそらく互いの敗北を互いに目撃することなく、互いに母艦に知らせることも撤退すらも出来ない内に敗退させられたのだ。

 

「とするならば、彼らが生きていると仮定した場合、足つきに察知されないため島内に隠れ潜んで潜伏しているか、足つきに降伏して捕虜となったかの、いずれかだろう。

 あるいは何らかの事故で機体が作動せず、島のどこかで漂流しているかもしれんがね。

 どちらにしろオーブ軍が動き出したというなら、我々だけで捜索活動をするより、彼らに探し出させた上で、返還してもらった方が手っ取り早く確実というものさ。

 “中立国の義務”としてね。ヘリオポリスでの貸しもある。ここらで纏めて返させてやるというのも悪くはあるまい?」

 

 ククク・・・と、含み笑いと共に言われた言葉にイザークは反射的に反発を感じた。

 上から目線で見下ろして、人を見下すことしかしない人間――そんな風に彼にはシロッコのことが見えるようになってきていたからだった。

 

「・・・・・・部下の命を、オーブという他国に貸す立場でおっしゃるんですか?」

 

 以前よりも更に目つきの悪くなった凶眼で、イザークは言い切っていた。

 自分たちだけで出撃させて、自分だけが安全な場所に隠れていたことを非難するための言葉だった。

 

 それにニコルは気づいて顔色を青くして、副長もまた表情を不快気に歪めて「生意気な坊や」を睨み付けるが声までは出さなかった。

 

 だが、どちらにしろシロッコにとっては大して気にするほどの問題でも無かったらしい。

 軽く笑って手を振りながら、シロッコとして生まれ変わる道を選んだ男は、シロッコらしい口調と態度で平然と―――正しいものの見方に基づく事実を告げるだけ。

 

 

 

「もし君たちだけを出撃させ、アスランとディアッカの未帰還という結果に終わったことで私を恨みに思うのなら筋違いだな、イザーク君。

 もし彼らを生きて帰したいと本気で願っていたのなら、“私が命じたオペレーション・スピットブレイクへの合流”に従っていれば済んだ話なのだから。

 あの戦闘は君たちが望んで選び、失敗した結果に過ぎず、私が命じた訳ではない」

 

 

 ――その言葉を言われた瞬間。

 イザークの顔色の激変ぶりは微速度撮影でも見るかのように鮮やかだった。

 

 言い負かされた事への怒り。言い返せない事への屈辱。敗北感、憎悪、プライドなど・・・様々な感情が内面から湧き上がってきて今にも噴火するように思われたがギリギリのところで自制できたのか、荒々しい歩調で艦橋を飛び出して自室へと戻っていく。

 途中で大きな音が響いてくるのが聞こえ、ニコルは思わずビクッとさせられたがシロッコは動じることなく、後を艦長に託して自室へと戻る道を選択していた。

 

 そして、誰の見る目のなくなった位置まで来た時、冷笑混じりの瞳で呟いていた。

 

 

 

「フフッ・・・まるで子供のようですらない。完全に子供の言い分というところかな、イザーク。

 どちらにしろ、これで舞台は整ったという訳だ」

 

 

 

 異なる地球の歴史を知る男にとって、イザークはジェリドと被って見える部分があるのとほぼ同じ理由で、カミーユ・ビダンとの類似点も多いのがイザーク・ジュールであり、ジェリド・メサでもあることは最初から見抜けていた。

 

 状況の中で、自分に都合のよい部分だけを正当性があると感じて、自分に都合の悪い部分は軽視して解釈する悪い癖を持っている少年っぽい士官たちなのである。

 その点では、ガルマとも似ている部分を持っていたのが彼ら三人だったのかもしれない。

 それらの推察と分析が正しい評価であるかは関知すべき所ではなかったが、少なくとも現時点で状況のほとんどはシロッコの望む形で出来上がりつつあったと断言してよい仕上がりとなっていた。

 

 自分が表舞台に立ち、人々を主導して導く役割を果たすべき日は近い。

 転生を望んだ目的そのものである、シロッコ立つ日が、今しばらくの忍従によって実現される。そう確信していた。

 

 

 

 

 ・・・・・・だが、どこまでも時代は、人の心を大事にしない男が勝利者となるのを阻害したくて仕方が無いものらしい。

 

 シロッコたちが潜水艦クストーで、カーペンタリア基地へと帰還した直後のこと。

 彼は、自分でも予期せぬ出来事が、自分の知っている出来事として実現されてしまっていた事実を知ることになるのである。

 

 

 

 

 それは―――連合本部アラスカへの【クルーゼ隊“以外の偵察部隊”】が派遣されていたという凶報だった。

 

 

 斯くして、時代は、世界は。

 目の前の現実を見せつけるため、刻の涙を多くの人々が流す道を選び続ける・・・・・・。

 

 

つづく




*言うまでもないでしょうけど、一応の説明です。
最後のは、【もう一人の親友】の本格介入開始の布石です。

詳しくは次話で。
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