転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。   作:ひきがやもとまち

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半端で止まってたのを完成させて再投稿という形に相成りました。
ホントは完全書き直しするつもりでしたが、時間無かったのと最近更新滞ってるのが気になりまして……取りあえずという感じで。

また本来はもう少し長く、連合サイドの場面も描く予定でしたが、アスラン視点での話を間に入れるかで悩んでおり、一先ず区切りが良い所で。


第18話(正式完成版)

 

 今さら言うまでもないとは思うが・・・・・・正史におけるパプテマス・シロッコがそうであったように、ラウ・ル・クルーゼも同じであったように、この私コズミック・イラの立会人となるため生まれ変わった転生者パプティマス・シロッコもまた、連合とプラントの武力衝突に協力しながらも、いずれかの勢力による勝利によって戦争が終わることを望んでいる訳ではなかった。

 

 連合が勝って終われば、社会の反動化を推進することは明白だ。それこそアズラエルやジブリールなどの愚物が、中世を再現するため躍起になるだけだろう。

 地球連邦が勝利した宇宙世紀の戦後世界もろくな社会を築いたわけではないが、奴らが連邦よりマシとは到底思えん。

 

 逆にザフト軍の勝利で幕を閉じたところで、怨恨のみで戦いを支えているパトリック・ザラに率いられたままでは体制維持すら困難となるだろう。

 エギーユ・デラーズを肯定するわけではないが、志を持たぬジオン残党アクシズ軍がダブリンにコロニーを落としたよりは、穀倉地帯に軌道変更させたガトー達の方がマシだったことは事実でもある。

 

 ――だが少なくとも現段階において、私はパトリック・ザラが密かに進める《真のオペレーション・スピットブレイク》を成功させてやるつもりではいた。

 ブルーコスモスに率いられた地球連合という組織は、いま殺すよりも生かし続けた方が弊害は大きくなる一方の連中だと断じざるを得なかったからである。

 

 また仮にアラスカへの奇襲攻撃が成功したところで、“あの”アズラエルやジブリールたちが素直に白旗を掲げる潔さを持っているとも思えず、《ストライク・ダガー》の量産体制も完了している頃合いでもある。本部を失ったところで連合との戦争そのものは今しばらくは続くだろうというのが私の読みだ。

 

 クルーゼと親交を結んで味方にしたことで、アズラエルに作戦を密告するパイプが失われたという事情もある。戦争は終わらぬにしろ、地上での趨勢を今の時点で確定しておくのも悪くはない・・・・・・そう考えていたのだが。

 

 

 

 ――そんな私の元に予期せぬ凶報がもたらされたのは、ストライクを倒した後に生き残ったイザークのみを連れてカーペンタリアまで帰投した、その数日後のことだった。

 

 

 

「シロッコに対して本国への召還命令だと? この時期にか?」

 

 基地指令室から戻ってきた私を待っていてくれた友人からの不審げな一言がそれであった。

 理解しかねると言いたげに口をへの字に曲げてみせる友人に向かって、私としては肩をすくめて見せるより他に感情表現の手段がない。

 原作と違い、二心を抱いてはいるが味方の作戦失敗を企図しているわけではない、この世界のクルーゼにとっては至極当然な反応であり、前線の指揮官としても常識的な不満の意思表示でもあったからだ。

 

 少しでも冷静に考えられる指揮官であるなら、敵地上基地への攻略作戦において飛行可能なモビルスーツの有無が大きく戦局を左右するのは言うまでもない。ましてビーム砲を装備している可変モビルアーマーとくれば尚更だ。

 

 にも関わらず、敵拠点攻撃を間近に控えた時期にテストパイロットも務めた開発者本人を後方へ呼び戻すなど人材の無駄遣いとしか解釈しようがない。

 私は苦笑の形を作って見せながら、司令に言われてきたばかりの言葉を鸚鵡返しに暗唱する。

 

「人類史上初の可変型MSを完成させ、プラントの輝かしい歴史に名を残した技術者を、万が一にも戦死する危険性のある最前線には置いておく訳にはいかぬそうだ。

 アスランの特務隊栄転に伴い、共に本国へと帰還して表彰式典に参列せよと――ザラ新議長閣下から直々のお達しを頂戴する栄誉に浴したわけだな」

「・・・・・・ああ、なるほどな。議長閣下も、なにかとお忙しいらしい」

 

 肩をすくめながら抽象的な返答を返した私だが、そこは腐れ縁というヤツなのだろう。クルーゼは正しく私の意図を読み取って、皮肉気な形に唇を歪めて笑って了解の意を表してくれる。

 

 もともとパトリック・ザラ率いる主戦派のザラ派は、コーディネイターをして『ナチュラルたち旧人類より優れた新人類』を称しており、その根拠として「ナチュラルを圧倒的に上回る技術力」が有力な主張の一つになっていた。

 原作でシーゲル・クライン前議長が懸念していた第三世代の出生率低下さえ、コーディネイターの英知を結集した技術力で解決しうると確信している、時代遅れな科学万能主義こそが彼らザラ派の正当性を示す根拠でもあるのだ。

 

 だが一方で、《ジン》や《バクゥ》、更には《ゾノ》などの新型も含め、プラントがコズミック・イラの史上初めて開発に成功して運用してきたモビルスーツ群は、前クライン政権下で生み出されたものばかりであり、目下のところ新任のザラ議長には技術面での実績が乏しい。

 そんな彼にとって、就任直後に史上初の可変MS開発を成し遂げさせた評議会議長という肩書きは、前任者との差を市民達に見せつける上でも絶好の宣伝材料になり得るだろう。

 

「要するに、自分の議長就任を華麗に飾り付ける勲章役に呼び戻されたわけだ。俗物の人気取りに利用されるのは不愉快だが、命令とあればやむを得まい。

 与えられた役割をこなすのも、軍人の勤めと思って割り切るさ」

「さすがはシロッコ副隊長殿は、役者でいらっしゃる」

「言うなよ、クルーゼ。ぞんがい、人身御供の家系なのかもしれんのだからな」

 

 そう言って皮肉気に唇を釣り上げて、私は悪友と共に笑い合う。

 私もクルーゼも、共にコーディネイターではないナチュラルが、コーディネイターを演じているだけの者たちであり、そのような存在がコーディネイターの優位性を誇示するための名誉ある役割を与えられるというのだから、真実を知る者にとっては笑うしかない。無論、人前では心の中だけでの笑みになるだろうが。

 

 もともとザラ新政権には、情報の取捨選択による印象操作でイメージを利用する、後のデュランダル政権を彷彿とさせる部分が強い。

 ストライクのパイロットが、コーディネイターの少年キラ・ヤマトだと知らせることなく黙殺したのが良い例だろう。

 

 連合とオーブの技術力が手を組めば、ナチュラルが操った機体でも《砂漠の虎》やクルーゼ隊を撃退しうる脅威になるのだと市民達の危機感を煽り、オーブと連合の密約を見抜けなかったクライン政権の弱腰な態度に失望させ、強行主戦派の自分に支持を集めさせることができるのだからな。

 コーディネイターが操ってこそ、あの驚異的な戦果が出せたのだと市民たちに思われてしまっては元も子もない。

 アストレイ三人娘達による模擬戦の光景と、Xナンバーのカタログスペックを並べて表示されたものを見せつけられ、連合とオーブの密約を国家存亡の危機だと考えるバカはいまい。

 

 アスランの特務隊栄転も、一番の目的はそこに尽きる人事ではあるのだ。

 確かにザフト軍にとって無視し得ぬ脅威にまで成長していたストライクを相打ちの形で撃破したアスランの功績は高く評価されるに値するのは事実だが、その功績に高い地位で報いるのは、それだけ『連合とオーブが結託して造りあげたストライク』が強敵だったことを相対的に示すアピールになる。

 真のオペレーション・スピットブレイクによって、連合がありえなくなった後、“その後の処置”のためオーブに更なる圧力強化を謀る・・・か。

 

 フフ・・・【条約は破られるためにある】とは、よく言ったものだ。

 それは中立を破棄されたことを糾弾する側とて、例外ではあり得まい。

 

「どちらにしろ、本国に戻らねばならなくなった私には、連合との決戦に参加することは出来ん。メッサーラは君に預ける。

 今までの機体とは勝手が違うだろうが、クルーゼなら問題なく使いこなせると確信している」

「あまり買いかぶられても困るのだがな」

 

 不本意そうに言いながらも、クルーゼの表情から微笑は消えない。

 そこにはパイロットとしての絶対の自信がある故なのだろう。必ず乗りこなしてみせるという自負が感じられた。

 

「とはいえ、貸してくれるのなら使ってみせるさ。

 “あの男”に出来たことだ。私にモビルアーマーの操縦ができないはずがない」

 

 どこか負けん気の強い少年じみた響きを持った声で、事情を知らぬ者には解らぬ言葉で快諾してくれたクルーゼに対し、私もまた白い歯を見せたシロッコらしい笑顔を以て右手と右手を握り合う。

 

 そうした上で・・・・・・たった一つだけ気になる懸念事項についての情報を伝えておく必要があった。

 

「――ところで、一つ気になる噂を耳にした。整備班から聞かされたのだが・・・・・・どうやら地球軍本部への先行偵察部隊として、君たちに先んじて別の一隊が先刻派遣されたらしい」

「アラスカに偵察部隊を、我々以外にか?」

「そうだ」

 

 不審げな声と口元の表情でクルーゼが尋ね返し、私も解せぬと言いたげな表情を作って彼の疑問に応じる。

 あながち演技というわけではない。この状況は私が仕組んだ結果ではないのだから、理解できぬという思いも嘘ではなかったからだ。

 

 原作において真のオペレーション・スピットブレイク発動寸前にクルーゼからアズラエルへの作戦内容の密告に使われた、地球軍本部JOSH-Aへの特務偵察。

 あの出来事が、クルーゼの独断によるものだったのか、与えられた偵察任務に紛れる形で流用したものであったのか、私は知らない。

 

 だが今、少なくとも私が生まれ変わって参戦したコズミック・イラの争覇戦の中で、本格的な奇襲をおこなう前にアラスカへの偵察任務をクルーゼ達が極秘裏に命じられていたのは事実である。

 原作と異なり、パトリック・ザラの片棒を担いでいないにも関わらず、クルーゼが真の作戦目標を既にして知っているのは、それが理由によるものだ。

 

 だからこその、奇妙さだった。

 原作での同シーンにおいて、クルーゼが公の任務を私的復讐のため利用した流れだろうと、己の復讐計画のため偵察任務を捏造した流れであろうと、どちら共に矛盾する『もう一部隊の偵察任務』という出来事は、私の知るコズミック・イラの歴史には存在していない。そのはずだったからだ。

 

「司令部が、より正確な情報を欲したからではないのか? 潜水艦一隻での偵察は危険が伴う。

 敵の防諜対策によって幾つかの偵察部隊が補足撃滅されることを想定し、複数の偵察部隊を送り込んでおくのは用兵の常道から逸している程でもなし」

「通常の敵拠点に対する総攻撃なら、それもあり得るだろう。だが今回のような作戦では・・・・・・」

「・・・・・・たしかにな。囮に敵の注意が集中している隙を突いて、空き家になった頭を奇襲によって潰すことを目的としながら、多数の偵察隊を派遣したのでは本命はこちらだと敵に悟らせるようなものでしかない。

 余りに、リスクとメリットとの比重が偏り過ぎている・・・」

 

 クルーゼもまた、私と同じ理由で作戦の趣旨と理由が理解できず、首をかしげて腕を組むポーズで考え始める。

 

「その部隊を今から止めることは出来ないのか? 場合によっては撃沈してしまっても、この状況なら名分は立つと思うのだが・・・」

「私も同じことを考えたが、一足遅かったようだ。今からでは先に出航した部隊に追いつくのは無理だろうな。

 《ナスカ級》と《ローラシア級》の連携で足つきを追い越すことが出来た宇宙と異なり、この大海原で我々ザフト軍は《ボズゴロフ級》しか持ち合わせていない」

 

 肩をすくめながら、私は技術者として技術的に不可能であることを簡明に説明する。

 ザフト軍は技術大国とはいえ宇宙国家らしい特徴として、ジオン軍同様に潜水艦の開発においては積極的ではない。

 今次大戦と続くデスティニー時での戦いにおいても、海上での戦いには専ら《ボズゴロフ級潜水母艦》ばかりが当てられ、別の船を造るという事がついぞなかった。

 

 ユーコン級潜水艦だけで、マッドアングラーを保有しないジオン海軍のようなものだとイメージすればいい。

 同一艦が同一速度で同じ目標に向かって移動する限り、後発組が先行ランナーに追いつけることは永遠にこないだろう。

 相手が連邦の俗物どものように驕り高ぶって油断してくれたなら話は別だが、残念ながらコズミック・イラの勢力図を宇宙世紀に当てはめた場合、ザフト軍はジオン軍であって地球軍ではない。優良人種説は唱えようと、現場の兵たちまで同じ訳ではない部分も同様にな。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ――私の頭の中で、危険を知らせる不快さを強く感じさせられずにはいられなかった。

 それは原作知識を持つ転生者であれば誰しもが感じ取るべき場面であり、危険信号だけなら私でなくともパプテマス・シロッコになる必要すらもなく、想像力さえあれば感じられて当然の状況。

 

 だが私が感じ取っていた不快さは、それらの多くと些か趣を異にしたものだったかもしれない。

 私が感じた危険とは、『複数の危険性が重なり合って相乗効果を起こしている可能性』

 

 仮にコレが、『歴史の修正力』によって引き起こされた、私という異分子がもたらした変化を正しい歴史へと引き戻すための辻褄合わせだとしたら――このコズミック・イラの世界には、そして私には実行役として歴史に選ばれ得る人物に心当たりがある・・・・・・。

 

「――今回の作戦、敵に漏れたかもしれんな」

「なんだと・・・?」

 

 ややあって顔を上げ、小さな声で呟いてしまった一言に、クルーゼが仮面の下に隠れて見えない柳眉を逆立て、聞き逃せない情報と思ったか鋭い反応を返す。

 

「いや、その前提で動いた方がよいかもしれぬと言うことさ。作戦は、どこから敵に漏れるか分かったものではないからな。

 ――これは私が地球へと降りてから独自に調べて得た情報で、まだ裏も取れていない噂の域を出ぬ代物でしかないのだが・・・・・・」

 

 無論、彼にだけは聞こえるよう意図的に声量を絞って呟いた結果ではあったが、それ故にこそコチラも手の内の一つや二つは最初から持っていたように見せかけねば、我が自慢の友人を動かすことは出来ないだろうと考えた私は、『ありもしない過去』だが確認の取りようのない記録を捏造し、咄嗟に情報の整合性を取らせることに成功する。

 

「《グリーンランド》の方へと、大量の建築資材や工事用の重機が輸送されたらしいと言う話を、技術者たちから昔のツテで聞かされた。

 最初は新たに拠点でも建設するつもりなのかと思っていたのだが・・・・・・どうにも位置が気になる。

 あの辺りは地球軍本部より更に後方に位置して、睨みを利かせられるザフトの基地などある訳がない。最も近いジブラルタルでさえアイスランドの向こう側だ。

 と言って、後方拠点を新設するだけと言うには徴発された物資の量と工業機械の数が膨大すぎる。とすれば・・・・・・」

「本部機能の移転を考えていた可能性が高い・・・・・・と、言うことか?」

 

 クルーゼが疑念混じりの声ながらも、先ほどよりは深刻さを増した声音で私の話を受け取ったのを聞き届け、私もまた重々しい仕草で頷きかえす。

 

 それらは転生者としての知識によって得た原作知識を下地として、その設定を可能とするため連合軍が行っていたであろう作業行程を又聞きという形でクルーゼに伝えたものだった。

 私自身が見た訳ではなく、JOSH-Aを放棄後にグリーンランド地下へと移される連合軍の新司令部の建設情報も、ザフト軍の情報網はもちろんのこと私の耳にも届いてきたものは一つもない。

 この点、連合軍側の防諜対策もなかなかのものと評価せざるを得ない部分ではあったのだろう。

 だが一方で地球連合が、JOSH-Aに攻め込んだザフト軍ごとサイクロプス自爆によって壊滅的な大打撃を被らされたこと。JOSH-Aを失った後のために新たな地球軍新司令部をグリーンランド地下に築き上げていたのは原作世界における事実ではある。

 事実として其れがある以上は、『それを造るため運ばれる物を見たという情報』は、事実でなくとも事実を形作る1ピースにはなり得るものだ。

 

 どのみち、『建築資材の搬入』という情報だけでは、運ばれた後に確認する術はない。ただ運ばれた先で本当に要塞が建設されていたか否か、その結果によって真偽が確定する。そういう類いの情報だった。

 『ラプラスの箱』と同様に、始まりは虚偽でしかないものでも後付けで現実を変えうる価値が付与されることは、ままあるものさ。

 

「とは言え、なんら証拠があっての予測という訳でもない。

 可能性としては否定できん程度の、状況証拠に基づく憶測に推測で肉付けして、つぎはぎで辻褄合わせをしただけの代物だ。まぁ、そういう前提で動いていた方が安全ということさ。

 作戦というものは、どこから情報が漏れるか分からんものだと、昔誰かから教えられた覚えもあることだしな」

 

 とは言え、現時点では憶測の域を出ないのも事実ではある。

 本当に、真のオペレーション・スピットブレイクの作戦情報が敵に伝わっているかは判然とせず、仮に本部機能を移転させていたとしても原作と事なりグリーンランド以外の場所に建設している可能性も棄てきれない以上は、念のため言葉を濁しておくぐらいが丁度よかろう。

 

 原作を知る私としては、仮に悪い予感が的中してしまった場合であっても、ザフト全軍は敗戦へと直結することはなく、むしろ本土決戦によって事実上の勝利国となり得る未来へと続いていく状況下で、わざわざ可能性上の話でしかない味方の被害を未然に防ぐため、上層部が推し進める真の作戦案にケチを付けて嫌われる愚行は避けるべきだと考えていたからだ。

 

 だが、流石と言うべきか。この世界におけるクルーゼは冷静であり、慎重だった。

 

「・・・・・・しかし、君の予測が当たっていたとしても、地球軍が本部を移転までする理由にはなれまい?

 仮に今回の作戦情報が敵に漏れていた場合であっても、パナマ防衛に回している戦力を即座に動かせるようにして、アラスカへと舵を切った我が軍後方から追撃させ、背後を突かせた方が戦術的には理に叶う。

 我が軍の作戦を空振りに終わらせるだけのために、わざわざ大規模な拠点を放棄するほどの価値が果たしてあるものだろうか・・・?」

 

 小首をかしげながら疑問を呈したクルーゼの判断は的確であり、私から見ても納得のいくものが充分に感じられた。もし私が転生者ではなく原作知識を持っていなければ、思わず彼の言葉で自説を破棄して、未来の危険性を放置してしまう選択肢を選んでいたかもしれないほどだ。

 

 ・・・・・・しかしながら、彼を納得させるだけなら簡単にできてしまう過去を、このコズミック・イラの世界は持っていた。

 アニメ版しか見ていない者たちにとっては余り馴染みのない話であろうが、この世界には今のクルーゼをこそ納得させるには最適な情報が過去に存在していたのだよ。

 

「分からんが・・・・・・あるいは連合は《エンディミオンの再来》を狙っているのかもしれん」

「エンディミオン・・・・・・? ッ!! 《エンディミオン・クレーター》かッ!!」

 

 ガタッと音を立てて両手を突き、彼にしては珍しいほど驚いた動作で立ち上がるとクルーゼは、忌まわしい記憶を思い出したかのように顔の下半分を歪めて口元を曲げる。

 

「そうだ。かつて連合軍が月面に保有していた資源供給基地《エンディミオン・クレーター》

 君が例の、“フラガの息子”と初めて遭遇したという戦闘が行われた場所だ。そして連合軍が行った悲劇の前例にもなり得る忌まわしき呪われた地・・・」

 

 友人の希少な姿を見物しながら、私は『彼にとっての始まり』ともなっていた、アニメ版では描かれていないアニメ版が始まる前に勃発していた今一つの悲劇の記憶を、今現在の比較例として語り出す。

 

 《エンディミオン・クレーター》とは、CE70年の開戦序盤においてザフトと地球軍が月面の支配権を巡って小競り合いを繰り広げた、俗に言うところの《グリマルディ戦線》において地球軍の重要な資源供給基地として知られた地名であり、この地を巡る攻防戦の中で我が友ラウ・ル・クルーゼと宿敵ムウ・ラ・フラガが宿命的な出会いを果たした場所でもある。

 

 そして、この場所には今一つの由来があった。

 連合軍が初めて《サイクロプス・システム》を使用し、敵味方共に全滅させた場所という呪いと怨嗟の声に満たされた由来が・・・・・・。

 

「あの戦いにおいて、我々ザフトの猛攻から基地を守り切れぬと悟った連合は、月面を巡る勝敗を決めさせぬ為、サイクロプスを起動させて味方もろとも敵を吹き飛ばすという暴挙に出た。

 あの時には、基地防衛のため戦力をかき集めた防衛戦が敷かれてあり、基地内から異常な量のエネルギー反応が感知されたことからギリギリのところで我々は生き延び、ムウ・ラ・フラガも脱出と撤退に成功した。

 ・・・・・・だが、防衛戦を構築してもいない敵本部への奇襲作戦・・・・・・もし、如何なる手段だろうと今作戦の情報を敵が掴むことができていたら、私でさえ誘惑を感じざるをえんほどの好条件が整いすぎている」

「・・・・・・まして、地球より微弱ながらも重力がある月面基地からの脱出でさえ、あれ程の被害を被らされたのだ。足の遅い潜水艦や水陸両用モビルスーツ部隊では、前回と同じ被害規模さえ望み薄、か・・・・・・」

 

 溜息と共にクルーゼは椅子に座り直し、相手の愚かさと愚行に吐息するように息を吐く。

 

「・・・では友よ。我々はどう動くべきだろうか? 無駄と承知で今の話を、総司令部に報告してみるかね?」

「証拠はなにもない」

 

 答えが分かり切っている質問に対して、私もまた分かり切っている回答を形式的に返すのみ。

 今回の作戦は、パトリック・ザラ議長から直々の密命によって極秘裏に準備が進められてきた一大作戦だ。生半なことでは、今さら中止にできようはずもない。

 なにしろ、評議会にすら通さず承認もされていない、勝った後に事後承諾で許可を得ていたことにして実行しようという、最高権力者の独走と特権乱用を体現したような作戦案が、これから我が軍が行おうとしている《真のオペレーション・スピットブレイク》なのである。

 

 また、この懸念は必ずしも有り得ない話と言うほど、特別な人材が必要な情報漏洩という訳でもない。

 確かに今作戦は、奇襲をより確実なものとするため軍上層部内でも一部の者しか詳しい内情を知らされておらず、軍の移動を管轄する部署の重要ポストを占める幾人かと、実戦部隊の先導役として先陣を切る主戦派幹部たちなど、パトリック・ザラが信頼する数少ない側近たちのみが知る最重要機密に類するものだ。

 

 ザフト軍全体の中でも、真の作戦内容を知っている者は極一部だけに限られ、それ以外の者たちにとっては表向きのオペレーション・スピットブレイクを実行するものと、頭から信じ込まされている者たちが大部分な作戦。

 

 ・・・・・・だが逆に言えば、作戦内容を知るメンツの中で誰か一人でも裏切って敵に情報を漏らした場合、そのことを他のメンバーが把握するのは不可能と言っていいのが、極秘の作戦案というものでもある。

 もともとザラ議長に、情報を知らされたメンバー全員の動向を逐一チェックできるほどの手駒はそろえる事はできていない。下手に監視するよう命じれば、命じられた監視員がナニカ情報を知ってしまって裏切らないかとイタチごっこを演じる羽目になりかねない。

 

 そこら辺に、パトリック・ザラが持つ謀略家としての限界があったと言っていいのかもしれなかった。

 この手の作戦を実行する際には、信じて委ねられる腹心がいなければ成功は覚束ない。その為にこそ、裏切らぬと信じ切れる側近を育てておかねばならないのだ。

 

 たとえば、パプテマス・シロッコにとってのサラ・ザビアロフのようにである。

 フォン・ブラウンへのコロニー落とし漏洩や、自分自身がNT能力によって相手とせめぎ合っているところを、自分に変わって動きを止めた敵を撃たせる役割など、相手が自分を『背後から撃ち殺す危険性』を危惧せざるを得ない者には到底任せられるものではない。

 

 無論それは、シロッコにとって都合のいい思考しかできぬよう洗脳した結果でしかなかったが、パトリック・ザラはそれすらやらぬまま息子すら遠ざけて今回の陰謀に及んでしまっている。

 自分が本国にいながら、遙か遠くの侵攻先まで軍を遠隔コントロールするには、最低でも腹心の将が自分以外に一人は必要不可欠だった。

 パトリックには、それがない。妻を殺され復讐心に取り憑かれてより、他人を信じることができなくなった彼には、もともと大それた野望など実現できる器になるのは不可能なのだから――。

 

「むしろ、失敗してしまったときに責任を押しつけるための口実として使われるのがオチだろう。なにも知らぬ存ぜぬを通して、真面目に作戦実行の任を果たした方が利口というものさ」

「確かにな・・・・・・最近のザラ議長は以前にも増して猜疑心が強くなったように思える。下手に懸念事項など告げ口すれば、“情報を流したのが我々だから知ることができた懸念だった”とでも言い出しかねない。結果が変わらんのなら、放っておくのが一番の良策か」

「そういう事だ」

 

 ニヤリと私は笑って白い歯を見せ、クルーゼもまた不敵そうに微笑み口元を歪ませ視線を交わらせ合う。

 これが我々、パプティマス・シロッコとラウ・ル・クルーゼという、本来は敵として立ちはだかっていた者たち同士の枢軸だった。

 味方の兵まで騙すような行為は、あまり気が進まないのは赤い彗星と同じくするところだが、シャアと同様に我々も必要とあらば他人の命は利用し、切り捨てる。

 それがキラ・ヤマトやカミーユ・ビダンには選び得ない策を用いる、ちっぽけな感傷で世界を破滅に導く小賢しい子供たちから恨まれ、敵対し、互いに否定し合うことしかできない間柄になる一番の理由なのだから。

 

 

「とにかく、退き時は見誤らぬよう、いつも以上に注意しておいて欲しい。何かあったら即座に司令官に命じて、全軍撤退するよう要求してくれ」

「了解した。私としても、サイクロプスの炎で焼き殺されるのはゾッとしないからな・・・」

「いざとなったら、君だけでも離脱して安全地帯まで逃げ延びろよ? 後のことは私の方で何とかするよう議長を説き伏せる。君さえ生き残れば、我々の理想が潰えることはないのだから――」

「フフ、期待させてもらおう天才殿。もっとも、情報が漏れておらず作戦が成功し、我らの杞憂でしかなかったなら、それが一番有り難いのだがな」

 

 違いない、そう答えて私も笑い、我々は二人揃って部屋を出て同じ場所へと向かって歩き出す。

 今日が記念すべき日であったから、と言うのがその理由だった。

 

 我らクルーゼ隊から、初の《ネビュラ勲章》授与者が現れ、国防委員会直属の特務隊へと栄転が決まった若きトップガンに対して、正式に辞令が通達される日・・・・・・フフフ。

 きっと彼も喜んでくれることだろう。大手柄を立てて、祖国へと凱旋できるのだからな。

 

 ―――親友を自分の手で殺したという大手柄を持って、ザフト軍のトップとなった父親に会うためプラント本国へと舞い戻るアスラン・ザラ・・・・・・か。

 

 原作での、その後を知る者にとっては、なかなかに見物な劇を見物できそうでクルーゼだけでなく私もまた心が躍るのを抑え切れんよ。

 

 パプティマス・シロッコという肉体は、どうやら余程に小賢しいだけの子供が嫌いらしいと、こういう時にはよく思い知らされて困る。ハハハハ。

 

 

 

つづく




*最後は悪役らしい終わり方で締めてみました。
ただし、この心の声も実は伏線。

裏事情に関わってる者が演技していると、内面はけっこう腹黒いという種らしさを演出しておりまっス♪


*書き忘れましたが、次話から原作ストーリーに回帰します。
今話のようなオリジナル話は、やはり私には描きにくい…。
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