転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。 作:ひきがやもとまち
とりあえず、新しいネタ集めするより、自分の書いてる作品のアニメ版だけでも全話見直す方を優先しようと決意。
地球軍本部アラスカまで到着してから数日後、アークエンジェル・クルーたちの待遇は甚だ不本意なものとなっていた。
敵の追撃を振り切り、独力だけで敵陣を突破して孤独な戦いを勝ち残り、連合軍本部アラスカまでたどり着くこと――。
それは年号の異なる地球圏をめぐる大戦で白いMSの戦艦に与えられた任務遂行とまったく同じものであったが、それを果たして目的地まで辿り着いた者たちへの対応はまったく異なるものへと変化していたのが、その理由だった。
彼らはアラスカへの到着後。艦内待機を言い渡されてから、5日間も音沙汰なきまま放置され続けていたのである。
すでに艦内では、問題が発生し始めていた。
積もり積もったフラストレーションが元と思しき味方同士のイザコザが、表面化し始めていたからだ。
戦死が確認されたキラの友人、トール・ケーニヒの恋人“だった”少女ミリアリア・ハウによって、先の戦闘で捕虜になっていたザフト軍の赤服パイロットであるディアッカ・エルスマンが害されそうになったのは、そんな中で起きた事件の中で最大のものだったと言っていい。
「捕虜をいつまでも、医務室に置いておいたのが間違いでした」
通路を歩きながらマリュー・ラミアスは、捕虜が襲われて殺されそうになった一件について副長から冷淡な声での報告を受けていた。
ナタルから冷静に述べられる事務的な内容は、微量な糾弾が混じっていることを感じさせられ、普段は温厚というより“お人好し”という方が正しい性格の艦長もうんざりした表情を隠しきれない心地にさせられる。
「ましてや、そこを一時でも無人にするとは・・・・・・。先の戦闘で兵たちも動揺しているのです。当然あのようなことが起こり得ることを、認識しておくべきでした」
「そうね――」
実のところ、あの捕虜に関してはマリューの側でも迂闊さを悔いている部分はあり、アラスカ入港と同時に本部へと引き渡す予定で怪我の手当だけして、その後はほとんど放置した状態になり半ば忘れかけてしまっていたのが理由だった。
無論、アラスカ到着時に捕虜の件については報告していたのだが、その件についてさえ本部からは何の指示もなく、自分たち自身の存在さえ忘れられたような扱いを受けていたアークエンジェルのクルーたちにとって正直、捕らえた敵のことまで気にし続ける余裕はなかったのである。
ザフト軍によるパナマ侵攻に対処するため余裕がない。――それが、この処置がおこなわれた理由説明だった。
最初はマリューたちも、それで納得とまではいかぬまでも「仕方がないか」と受け入れてはいた。
アラスカまで辿り着いたとはいえ、到着寸前にストライクを失い、結果として彼女たちが本部まで持ち込むことが出来たのはアークエンジェル本体と戦闘データだけだったというのは紛れもなく事実であったし、ヘリオポリスで《G》の開発計画をスタートさせた頃には、5機の《G》と運用母艦アークエンジェル双方をセットで新たな地球軍の主力に考えていたのと比べれば、大損害と言われても否定する言葉がないのも事実ではあったからだ。
・・・・・・とはいえ、その過程で幾つかの戦功を上げたのも事実ではあり、他の味方が敗北と後退を続けている中にあって孤立しながらも勝利を続けてきた実績とも鑑みれば、この冷淡すぎる対応に悪意的なものを感じざるを得なくなっていくのは仕方のないことであっただろう。
英雄として歓迎しろ――などと傲慢な願いまでは考えたこともない。
ただ部下たちに上陸許可を出して、広々とした空間で休暇を与えるぐらいの配慮はしてくれても良いのではないだろうか?
事情聴取の必要性があるという通達内容から、士官たちは無理かもしれない。だが曲がりなりのも戦艦のクルーたち全員から事情を聞きたい訳ではなかろう。
業を煮やしたマリューから問い合わせても、本部からの反応は梨の礫。これでは彼らに不満を溜め込むなと求めるのも無理がある。
「そうでなくとも、これではまるで捕虜に脱走してくれと言っているようなものではありませんか。この件も報告せざるを得ないでしょうね・・・」
「それも正確な論評なんでしょうね。でも、それなら――」
だからであったのか、この時の彼女はナタルからの他人行儀な一言が妙に勘に障るものを感じさせられ、不機嫌になっていた。
正直、イラついてもいたのだろう。
地球に降りてきたばかりで砂漠の虎と戦闘になった直後に、キラ・ヤマトが横柄で生意気にも取れる発言をしていたことがあるのと同様に、彼女にも自分の感情をコントロール仕切れず、神経が「雑」になってしまうこともある。
人はマシーンではない以上、それは仕方のないことでもあったのだから。
「――副長の良きように。私なんかに構わず、勝手にしてくれればいいだけでしょう?
今までずっと、そうしてきたのだから・・・・・・」
「艦長ッ!!」
無責任とも受け取れるマリューからの返答に叫び声を上げるナタル。
だが、その声は糾弾と言うより悲鳴に近かった。
普段は、頼りなくはあっても理は理として認められる人だと思っていた艦長が、なぜ今のような状況下で自棄を起こしたような反応をするようになっているのか? 彼女には全く理解できなかったからだ。
・・・・・・ただ一方で、彼女が自分の行動にはじめて疑問を抱かされたのも、この瞬間だったことは事実だった。
確かに艦長の言うとおり、今回の件では艦長だけでなく自分にも、そして軍本部にも責任があったのだ。
このような事態が起こり得ると懸念するのが当然なら、自分の判断で移動を命じさせ、終わった後に艦長へと報告をあげても良かった。・・・今までやってきたのと同じように・・・。
また捕虜が脱走する危険性を留意するなら、本部もなにか言って然るべきだった。
脱走した捕虜に、本部内での破壊活動などやられてはアークエンジェルの責任問題ウンヌンというレベルでは収まらないのだから、危険性を留意するべきだったのだ。
そして、この自分も。
本来は先任士官でしかない相手の失態ばかりを糾弾して、軍上層部の責任問題には言及すらしようとせず、その理由を「軍人の義務」「勝利のため」とだけ言い続ける自分の行動は――俗にいう『保身』と呼ばれるものではなかったか――?
「――ッ、艦長ッ!!」
我知らず、声を上げていた。
開けてはいけないパンドラの箱を開きかけてしまったような恐怖心に襲われて、何かに向かって自信の正当性の主張をしなければ気が済まない。そんな衝動的な欲望に掻きたてられ叫ばずにはいられなかったのだ。
「私はなにも、個人的感情であなたを非難しているつもりはありません! むしろ、逼迫した状況の中でよくやっておられると感嘆を禁じ得ない思いを抱いている程に!!」
思わず発せられた、自分でも言うつもりのなかった言葉にナタル自身が驚きを感じさせられたが、同時に納得もした。
そうか、そうだったのかと自分でも自分の気持ちが今ようやく分かった。理解したのだ。
自分はこの人に敬意を抱いていることに。本来ならば果たさなくて良い責任を背負って、その細い肩と身体で折れることなく背負い続けて今までやってこれた彼女に軍人として深い敬意を感じるようになっていた。
だからこそ、立派な艦長になれるよう支えようと思っていた。艦長の至らぬところを補佐するのが副長の役目として、敢えて失敗部分や悪い部分の指摘ばかりに明け暮れてきた。その部分さえ是正できれば、彼女は間違いなく完璧な艦長になれると信じて・・・・・・。
だが――だがしかし、今は・・・・・・今となっては―――
「私が申し上げたいのは、我々にとって規律は重要なものであり、野戦任官だろうが緊急事態だろうが、それは変わらないということだけです!
軍には厳しく統制され、上官の命令を速やかに実行できる兵と、広い視野で情勢を見据え、的確な判断を下すことのできる指揮官が必要です! でなければ隊や艦は勝つことも、生き残ることも出来ないのですから!」
「・・・ええ、分かっているわナタル。分かっていると、言いたいところだけれど・・・・・・」
突然に褒めちぎられて意表を突かれたらしいマリューは、しばしの間きょとんした表情で呆けたように黙っていたが、やがてホロ苦い笑みを浮かべ直すと感情を抑えきれなかった自分の失言を取りなすように、茶化すように―――ナタルにとっては致命的とも言っていい言葉を口にする。口にされてしまった。
「分かってはいるけれど・・・・・・できなかったなら、分かってないのと一緒よね?
私も、あなたも、他のみんなも、今回のことも全てが」
「・・・・・・ッ!?」
足下がガラガラと崩れる音を聞いたかのようだった。
マリューの言葉は、退廃的な気分が言わせているだけの愚痴でしかないことは分かっていた。
溜まり続けた心労が、油断しても敵に襲われる恐れのない場所にきて一挙に反動がきているのだろうと、ナタルでさえ察することができる。
・・・にも関わらず彼女は、相手がシニカルな気分になっているだけでしかない言葉に、驚くほど衝撃を受けさせられていた。
今まで信じていたものに裏切られたような、そんな気持ちに生まれて初めてなっていたのだ。
先ほど自分が語った言葉は、軍事教練で教えられたとおりの正論だった。それは間違っていなかったと今でも信じ続けることが出来ている。
だが・・・・・・現実に今まで、規律なきはずのアークエンジェルは生き残り続け、勝ち続けてきている。
他の規律を教え込まれたはずの連合軍部隊が、パナマに残された最後のマスドライバーを死守するため結集して、反撃に回る余裕すら失っている不利な戦況にありながら――
「艦長。私は・・・私はなにも――」
「・・・・・・ごめんなさい、ナタル。あなたを責めるつもりはなかったの・・・・・・むしろ感謝してる。今まで至らない私をよく支えてくれてたと。
ただ、ごめんなさい。今は、今だけは・・・・・・少しだけ一人にしておいて・・・。
今の私には感情的にならないことが出来そうにないから・・・」
「・・・・・・艦長」
そう言われてしまえば、もはやナタルにかけられる言葉は何もなかった。
ただ敬礼し、自室で一休みすることだけを提案して受け入れられると、自分は艦長の代わりにやるべきチェック作業をこなすため艦橋へと戻っていく。
正直、大した仕事はない状況だったが、今は彼女もなにかをやっていたい気持ちになっていたから・・・・・・
彼女たちが待機任務を解かれ、主要クルーたちがブリーフィングルームへと集められて審議会を受けさせられた後、一部乗員の移動とアラスカ守備軍第五護衛艦隊付きへの所属替えを言い渡されるのは、この日から更に数日後のことだった。
一方その頃。
地球上の地下深くに建造された基地施設内にある薄暗い一室で、上級将校の前に多くの士官たちが集められ、審議を受けさせられていたのとは真逆の位置に浮かぶ宇宙空間において。
軍を率いる立場にある人物が、照明を落とした薄暗い執務室でデスクを前に、一人の腹心から報告を受けていたのは、コズミック・イラの暦が冠せられた世界らしい皮肉な偶然によるものだったのかもしれない。
「“スピットブレイク”、全軍配置完了したとのことです。ザラ議長閣下」
「・・・・・・・・・」
デスク上に置かれたモニターに映し出された、現在通信が繋がっている相手からの言葉にパトリック・ザラは黙ったまま報告を聞き終える。
モニターの向こうでは、いつもの通り底の読めない爽やかな笑みを浮かべた好青年が、こちらに微笑みかけている。
同志とも、新たに得た腹心とも呼ぶべき人物で、緩くウェーブがかった豊かな黒髪と、ハンサムな顔が若々しい。
そんな彼を前にして、それでもパトリックは押し黙ったまま動こうとしない。
その姿は、ここまで辿り着くまでに歩んできた困難な道程に思いを馳せているようにも、対ナチュラル右翼にしてタカ派の筆頭がらしくもなく逡巡を感じて躊躇っているようにも見える、どちらとも言えず、どちらになることも可能なような、自分の人生の進むべき道は「どちらを選ぶべきなのか?」と迷っている人物に、余人からは見える姿だったかもしれない。
だが、どちらであるにせよ、その反応はモニター向こうの通信相手にとって、予想外のものではなかったようである。
今この時も、衛星軌道上では数知れぬ輸送艦がモビルスーツを収容した大気圏突入カプセルを降下ポイントへと運びつつあり、地球上では各拠点から輸送機が離陸をはじめて目標値点への移動を開始し、先行していた潜水母艦群も予定ポイントに集結して待機させてある状況が、既に出来上がりつつあった。
大量の人員。膨大な量の物資。
大量殺人という非生産的活動の極みとも呼ぶべき行動を壮大な規模で実行するため、プラントとザフト軍は持てる力の大部分と、生産能力の限りを尽くして掻き集めれるだけの物という物を集め尽くして、予定されていた計画決行の日に備えてきたのである。
前線から遠く離れたプラント本国にいるパトリックが一声発すれば、地球軍側に残された最後のマスドライバーを奪取するため集められた戦力すべてが動く。
兵士も司令官も、みな同様に一人の人間からの司令を待ち望んでいる。
これだけの大軍勢を用いた一大作戦の開始が宣言されれば、それは命じた張本人であるパトリック自身でさえ止めることは出来なくなるかも知れない、膨大すぎる数が持つ力の力学。
そう。始まってしまえば、動き出してしまえば、もはや誰にも止められなくなるのだ。
たとえ命じられた目標が、当初の予定と異なる、議会で承認されていない場所に向けての攻撃命令であったとしても。
一度動き始めた状況は、巨大な津波と化して全てを飲み込み終えるまで止まることは決して出来ない。そういう風に、この作戦は形作られている。
これだけの物を集めておいて、今さら何もせぬまま中止するなど世論が許さない。
許すことのない社会の風潮を、パトリック・ザラ自身が煽って作り上げてきた今までがあるのだ。もはや彼に戻る道など、とうの昔になくなっていた。
最初から一つしかない選択肢と分かっているなら、焦らせる必要は微塵もなかった。
ただ優しく、「大丈夫。君は間違っていない。あなたは決して悪くない」と心を慰め傷を癒やし。
「―――あとは、ご命令をいただくのみです。
我らにとって、唯一の正しき道たるザラ議長が示された理想を実現するため、全てのコーディネイターの心に、創成の光を見せるための作戦決行のご命令を」
・・・・・・ギリギリの縁に立って揺れていた男の背中を、ソッと後ろから押してやるだけで、後は自分の意思で突き進んでいくことは最初から決まっていたことなのだから。
それがパトリック・ザラが生まれ持っていた運命である限り。
彼はその道から逃れることは決して出来ない。
「―――・・・・・・」
やがて議長は重々しく唇を開いて言葉を発する。
その内容が―――世界を変える一撃になると、そう確信して―――。
そして――終末の光を、創成の光として放つことを命じた人物が決定を下したのと同じ場所にある別の建物内で、彼とは真逆の立場に立つコーディネイターの少年が数日ぶりに目を覚ましたのは、果たしてその数日後であったのか前であったのか。
昏睡と覚醒と目覚めを幾度も交互に繰り返していた彼には、もう分からない。
「・・・・・・うぅ・・・ここ・・・は・・・・・・?」
重かった瞼をゆっくりと持ち上げながら、まどろみの中でキラ・ヤマトは掠れた声を絞り出すように呟いていた。
ゆるゆると目を覚ました彼は、自分が見た光景を当初「天国にきた」としか思うことができない。それ程に綺麗で、平和で、優しい場所だったからである。
四方に芝生が広がっていて、周囲には花が咲き乱れ、甘い香りが一息ごとに肺に入り込んでくる。
青い空をバックにして、ふわふわと波打つピンク色の豊かな髪を持った天使が、ニッコリ笑いかけながら自分に話しかけてきてくれて、それで―――
「あら、ピンクちゃん。いけませんよぉ、そちらは・・・・・・まぁ。おはようございます」
「・・・・・・ラクス・・・・・・さん?」
だが、天使と思っていた人物からかけられた声が記憶を刺激し、それが引き金となって見覚えのある人物と目の前の天使の姿がやがて合致し、その人物の名をキラに思い出させてくれることになる。
『ラクス・クライン』
プラント評議会のシーゲル・クライン議長の娘にして、プラントにとって『平和の歌姫』と呼ばれる少女。
そして――“自分が殺しかけたアスラン・ザラ”の婚約者でもある女の子――
「あら・・・ラクスとお呼びになってくださいな――キラ。
でも、覚えていてくださって嬉しいですわ」
そう言って、あの時とは違い自分の名を直接呼んでくれて、ほわりと微笑みを向けてくれる優しくも美しい少女。
だが――それにしても、どうしてラクスがこんな所にいるのだろう・・・?
まだ本格的に目覚めていない頭で、そう考えたとき。
キラはそもそも、此処がどこで、自分が今どのような場所にいるのかさえ把握していない事実に気付いて、しばしの間愕然とする。
「おや、彼が目覚めたのですね?」
そんな自分に、別の人物から新たに声が掛かった。
落ち着いた大人の男性の声音だったが、こちらの方には聞き覚えがなく、ただ敵意を一切感じさせない声と喋り方がキラに警戒心を抱かせることなく、ゆっくりとした足取りで部屋から出てきた男の姿を自然に迎え入れる形となる。
「はい、マルキオ様。つい先程キラが目覚めてくださいましたわ」
「ふふ。だとすると驚かれたのではありませんか? このような場所で寝かされていたのですから。
館の皆さんも、そう言って反対されたのですが、ラクス様がどうしてもベッドはここに置くのだと仰られまして」
「あら。だってこちらの方がお部屋より、気持ちいいじゃありませんか。ねぇ?」
杖をつきながら盲人特有の探るような足取りで現れた、三十代後半の黒髪の男性とラクスとのやり取りによって、キラはようやく広々とした庭に据えられたサンルームらしきガラス張りの建物に寝かされている自分に気付くことができたようだった。
「――ぼくは・・・・・・」
「あなたは傷つき、私の祈りの庭に辿り着いてこられたのです・・・」
現在置かれている状況を理解し始めたキラの呟きに、マルキオが穏やかな声で答えを付け足す。
その声は穏やかであっても、過度のいたわりは含んでいない。淡々と事実を告げているだけの言葉だけを与え、キラに自然な形で記憶の再構築を促すための言葉でもあるようだった。
「そして、私がここへお連れしました・・・・・・」
「あ・・・・・・」
ラクスが付け足すように言った言葉と表情によって、キラは一時的に忘れていた重要な記憶を――あるいは、一時だけでも忘れていたい消すことが出来ない記憶を、『アスランの婚約者』の口から聞かされて、思い出させられることになり
「あ・・・ああっ・・・・・・あ・・・・・・!!」
よみがえった記憶。意識を失う直前の、憎しみしかない記憶。
ぞろりと蘇った自分の思考にキラはぞくりとし、圧倒されて全身が小刻みに震えはじめる。
「ぼく、は・・・・・・アスランと戦って―――しんだ・・・はず、・・・・・・なのに・・・・・・」
「キラ・・・・・・」
震えだすキラを気遣うように、寄り添うラクス。
そんな二人の姿を見ることができなくなった両目で、痛ましげに眺めやることしか出来なかったマルキオだったが、
「――もっともね」
と、今この時だけはキラの傷ついた心と向き合う時間を、身体が少しでも回復するまで逸らすだけの価値ある話を提供することが出来そうだと感じていた。
だから口にする。真実の、もう一つの側面を。IFがありえたかもしれない歴史の一部を。
「たしかに私は、傷ついたあなたを見つけ、ここにお連れしました。
・・・・・・ですが、それはあくまで“連れてこようとしただけ”のことで、実際に連れてきたのは正確には私ではなかったのです。
どういうわけか、軍の検問と警戒が急に厳しくなってしまったようでしてね。もし私が当初考えていた専用船で、あなたを連れてくる手段を取っていたならば、おそらくは捕捉されて捕虜となり、あなたがこの場所で目覚めることは出来なかったかも知れません」
「・・・・・・それ、は・・・」
一体どういう事なのか? 相手の言っている話の意味が分からずキラは問いかけ、マルキオもまた答えるのが難しいというように困った顔になる。
やがて溜息を吐くような仕草を示すと、盲人故に敏感になった聴覚によって遠くから聞こえてくる音を捉えて、キラに向かって肩をすくめて見せるように語る。
「・・・私などよりも、本人から直接聞いてみるのが一番いいでしょうね。多分とても驚かれるとは思いますが・・・・・・それでも彼は敵ではありません。少なくとも、今のあなたにとって彼は敵ではない。
私があなたを助けるだけでなく、ここまでお連れしたのは《SEEDを持つ者》であったが故に。ですが彼は、別のナニカをあなたに見いだしているような・・・・・・そんな気がします。
会っておく方が、あなたにとっても結果的に良いことになる人物だと私は思います。・・・楽しいと思える人物かは、残念ながら分かりませんが・・・」
「・・・・・・・・・??」
ますます分からなくなった相手の言葉にキラは混乱し、沈黙したまま見つめていると、彼の耳にも聞こえるように芝生を踏む靴音が庭の方へと近づいてきて、そして―――
「――ほぉ? もう意識を取り戻したとは、流石だな。見舞いに来ただけのつもりだったが、これは私も同席させていただいても宜しいでしょうかな? ラクス・クライン様」
「どうぞ、ご自由に。こういう芝居がかった催しは、あなたの好みでもあるのでしょう?」
「ハハハ、これは手厳しい。私は立会人に過ぎませんので、この場においても立ち位置を変えるつもりは毛頭ありませんよ。ラクス・クライン様」
「あら? 本当にそうなのでしょうか。うふふふ」
「・・・・・・・・・???」
新たに現れた男の服装と態度と、そしてラクスたちとのやり取りとの落差によって、混乱が現界に達しつつあることしか出来なくなってきたキラ・ヤマト。
表裏の乏しい、ただハッキリとした言葉で己の想いを具体的に形にするのを拒む傾向にあるだけで、根は素直で腹の探り合いなどには全く適正のないキラでさえ分かるほど、ラクスも男もニコやかな笑顔で楽しげに談笑しながら、その実まったく笑っていない仮面劇じみた挨拶を交わし合った後。・・・・・・その男はベッドに横たわるキラの前へと進み出る。
・・・・・・形だけならザフト軍の物より連合軍の軍服に近い黒色の衣装を身にまとい、紫色の髪を額の上で一つに纏めてヘアバンドで止めている独特の服装センスを持った人物のようだった。
――冷たい瞳をしている人――
それがキラが彼と会って最初に抱かされた印象であり、我知らず僅かに後ずさる。
そんな彼の姿を見下ろしながら、相手の男は薄く笑みを浮かべた。
「フフ、目の前で敵の兵士を見て固くなるのは分かるが・・・・・・せめて礼ぐらいは言って欲しいところだな。
私はこれでも君を助けるため、それなりに便宜を図ってやった身ではあるのだぞ? まぁ、いい」
「あなた・・・は・・・・・・」
「私の名はパプティマス・シロッコ。ご覧の通り軍人だ。
ザフト軍クルーゼ隊の副隊長をしている、プラント側の軍人だよ」
その名と所属を告げられながら、白い歯を見せて笑われた時。
キラが思わず取った反応は、ラクスの上げた笑い声によって場に満ちた緊張を吹き飛ばしてくれるものとなる。
つづく
注:念のため補足説明しておきますが、今話でシロッコとキラとの邂逅そのものはネタぐらいの意味しかありません。
どっちかと言うと、【クライン派との顔つなぎ】を今の時点でやっておくのが、今後の展開的に必要になる部分。
むしろキラもシロッコもいなくなった地上で、アズラエルとの伝手もないクルーゼの方が、この場面でのメインになる予定。