転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。   作:ひきがやもとまち

23 / 32
少しぶりの更新です。今回の話はキラ・サイドの回。
本当はアラスカ攻めの序盤ぐらいまで書く予定だったのですが…眼と頭が痛いッス…。
体力面での消耗も計算して書かなくちゃダメだったかと反省中。

オリジナル要素を入れすぎましたな……反省。


第22話

 ・・・・・・雨が、降っていた。

 コロニーの中に降る人工の雨が、僕たちの集う中庭のサンルームから眺める外の風景を灰色に染め上げている。

 黒ではなく、白でもない。灰色の雨・・・・・・。

 その色は、どこか今の自分に近いように思えてしまって、しばらくの間ぼくは、ぼんやりと外の風景に降り続ける雨を、ただ無言で眺め続けることで過ごしてたんだ・・・。

 

「キラは、雨がお好きなのですか?」

「・・・・・・」

 

 そんな僕に声をかけてくれる人がいて、僕はそちらを振り返り、見知った相手の人の柔らかい笑顔でニコリと微笑み返してくれる姿を確認する。

 

「・・・好きって訳じゃないと思う。どちらかと言えば、昔は少し嫌いだったかもしれない。

 けど今は・・・・・・不思議だなって思って・・・」

 

 彼女からの質問に、僕自身も僕の気持ちに答えを見つけ出そうとしながら、少しずつ言葉を続けるよう努力してみる。

 そして、思うんだ。

 

 なぜ、自分はここにいるのだろう・・・?

 自分は、ここにいていいのだろうか・・・?

 自分は本当に・・・生きていていい人間なんだろうか・・・?

 

 ――分からない―――

 

「ではキラは、どこにいたいのですか?」

「・・・わからない」

「ここはお嫌いですか?」

「・・・・・・嫌いじゃない。けど、僕はここにいていい人間なのかな・・・」

 

 そんな事を思い、考え、迷いながら返事をしながら。

 僕はまた外の風景へと目を向ける。灰色の雨が止むことを予定されている時間はまだ遠い・・・。

 

 

 

 

 

 僕がラクスさんの―――プラント内にある、ラクスの実家で意識を取り戻してから一週間以上が過ぎようとしていた。

 最初の数日はベッドから起き上がることさえ酷く体力を消耗するほどだったけど、数日前からは自由に歩き回っても問題ないくらいに身体機能は回復していた。

 その点ではコーディネイターとして生んでもらった肉体に感謝すべきかも知れないと思うこともある。

 

 けれど・・・今の僕には、とても素直にそう思うことが出来そうにない・・・。

 

 そんな生活を送り続ける中、一人だと気が滅入ってしまう僕を気遣ってか幾人かの人達が頻繁に僕のもとを尋ねてきては親しく会話する機会が得られていた。

 立場的に多くの人達と接触することは難しかったけれど、そのぶん会いに来てくれた一人一人と長い時間をかけて多くの話を交わし合うことができたのは、今の僕にとって間違いなく救いになっていたと・・・・・・後になれば僕はきっと、そう思えるようになっていると思う。それ程に印象深い人達と過ごした日々だったから・・・。

 

 

 その中でも、特に印象が強い人物だったのが“彼”だった。

 

「なぜ、あなたは僕を殺そうと思わないんですか・・・?」

「ほぅ? 何故そう思ったのかな、キラ・ヤマトくん」

 

 初めて彼が僕の前に姿を現したときのことだ。

 所属と身分を告げられた瞬間に、僕は思わず考えるより身体が先に動いてしまって、痛みのあまりラクスから笑われてしまう醜態を晒してしまったものだった。

 後になれば笑い話にしかならない恥ずかしい姿を見られちゃったなって・・・・・・ボク自身でも思うようになっている出来事だけど・・・でも当時の僕には多分そう考えるのは難しかったんじゃないかって思ってもいる。

 

 

 何故なら僕はあの時、彼が『クルーゼ隊の副隊長パプティマス・シロッコだ』と聞かされた瞬間。

 思わず、“腰の拳銃を抜こう”と身体を動かして、そして痛みで倒れてしまった直後のことだったのだから・・・・・・。

 

 

「あなたには、その資格があるからです・・・。

 僕はあなたたちの仲間を大勢殺して、あなたたちの仲間は僕の友達を殺しました・・・・・・どうしようもない事だったけど・・・けど・・・」

「ふむ。確かにな、筋は通っている。

 だが差し当たっては、辞めておくとしよう」

「・・・なぜ・・・?」

 

 平然と論評する口調で言ってきた相手に、僕は疑問の声をぶつける。

 あるいは否定することで、僕は相手に殺されたいと思ってたのかも知れない。

 自分が殺してきた大勢の人達の仲間に仇討ちとして殺されるなら・・・これからも人を殺して生き続けなきゃならないよりはずっといい・・・そういう思いが胸の中にあったのは事実だったから・・・。

 

 でも、この男性将校は僕の計算に乗ってくることは最後までなかった。

 

「確かに私の立場で考えれば、《X-105ストライク》のパイロットが負傷して満足に動けない身体になっている今の内に殺して、厄介な敵を事前に排除しておくのも一つの立派な戦術だと言える。だが――」

 

 ラクスが注いでくれた紅茶を呑みながら、高々と長い足を組んでいた相手の男性は不意に苦笑して、僕に向かってティーカップを軽く遠くの方へと掲げてみせて、そして言ってくる。

 

「現在プラント評議会とザフト軍上層部の視線はパナマか、その先にある連合本部アラスカへと向けられている。我々が今いる場所を見てはいない。

 人種差別や選民思想を叫んで、一般市民たちを戦場へと駆りたて続ける戦争指導者たちが見ていない場所でまで、律儀に国粋主義を遵守して敵と戦って斃れたところで、奴らは気にも止めんだろう。

 プライベートな時間まで、私は仕事を持ち込む気がない男なのだよ。観客たちが見てもいない舞台上で踊り狂う、血塗れのマリオネットになるのは御免被りたいところさ」

 

 ・・・・・・相手から聞かされた意外な言葉に、僕は唖然とさせられて、すぐには返事をすることすら出来なくなってしまったほどだった。

 この人は《プラント》と《地球連合》との戦いを、国家対国家による国家間戦争として見ている。

 《ナチュラル》と《コーディネイター》という異なる種族の対立とは考えていない。

 初めて会ったときからずっと、「ナチュラルだから」「コーディネイターだから」とかの他の人達が何度も言ってきたのと同じ言葉をまったく考えていないんだ。

 

 驚くほど自信に溢れた大人の人だった。

 ともすれば彼の言動は、「傲慢」や「尊大」としか感じてもらえずに、多くの人達から怒りと怨みだけを買ってしまうんじゃないかって、会って間もない僕でさえ思ってしまうほどに。

 

 ただ反面、いま僕に向かって語ったように慎重さと警戒心を強く持っている人なんだと言うことも、言葉の端々からは感じ取れていた。

 自信家で傲慢そうな表面の裏側に、それとは別の用心深い別側面が感じとらされる。

 

 あるいは、それは今の僕だから感じるようになったことで、少し前までの僕が彼と出会っていたなら、そんな風には全く思えないまま否定だけを返していたかもしれない。

 

 ・・・・・・この人は多分、なにか『大きな過ち』を犯してしまった過去を持ってる人なんだ。

 そして、その過ちをくり返すことを酷く恐れている。だから慎重にもなるし、警戒もする。

 僕には、それが分かったし、感じ取れた気がしてもいたんだ。

 

 ――・・・彼と同じように、大きな過ちを犯してしまって、死ぬことも出来なくて、今も生き続けてしまった僕だからこそ・・・・・・彼の中にある「同類」を感じ取れることが出来るようになってたんじゃないかって・・・・・・そう今の僕は思っていた・・・。

 

 

 

 

 今まで考えたこともない発想をする人だなと、心からそう思えて、悪意も敵意も感じることがないのが、パプティマス・シロッコという不思議な人と僕との出会いだった。

 そしてそれは、彼だけの話ではなかったんだ。

 

 

「なんで僕は・・・ここにいるんだろう・・・・・・」

 

 突然フッと心に浮かんだ疑問が、口をついて出た時でのことだった。

 ここは――この庭園から見えるプラントの景色は、平和で美しくて心安まる場所だ。

 ゆっくりと時が流れていて、「何かしろ」とか「そんな事をしてはいけい」とか――「敵は殺せ」と命令してくる人は誰もいない。戦いのない場所。

 屋敷の外にだって僕と同じコーディネイターだけが生活していて、ナチュラルたちの中で暮らす孤独を味わうことはないんだろう・・・・・・

 

 ここが、どこかで聞いたことがある理想郷『約束の地』だったら、どんなにいいだろう――そう思うことだってある。そのはずなのに・・・・・・何故だろう。

 

 どうしてだか僕には・・・・・・ここが、自分の向かうべき『約束の場所じゃない』

 そう感じる気持ちが、どうしてだか胸の中でくすぶり続けている自分がいる・・・・・・。

 

 

「自分の向かうべき場所、せねばならぬ事は、やがて自ずと知れましょう。

 あなた方はSEEDを持つ者故に・・・」

 

 

 そんな風に、ふと思った疑問を口にした言葉に、盲目の落ち着いた佇まいの人物『マルキオ導師』というらしい人は、僕に向かってそう告げた。

 静かな存在感をもった民間の宗教家だとかで、よく『SEEDを持つ者』という単語を口にする。

 

 ・・・・・・後で知った話だけれど、彼はもともと旧時代の宗教団体に属していたものの、《evidence01》や遺伝子改変問題への対処を巡って既存の宗教団体に失望して信仰を捨てた人達の一人で、ナチュラルとコーディネイターとの融和を目指して精神の変革を訴えて支持を集めている人だったらしい。

 

 

『ナチュラル、コーディネイターにかかわらず、人はみな同胞であり、同じ木に生った果実である。そしていずれ彼らの中より進み出、彼方の海へ漕ぎ出すであろう者たちがある。

 人と世界を融和し、すべての人に希望をもたらす約束された存在。

 それが「Superior Evolutionayv Element distend-factor」――即ち【SEED】を持つ者達』

 

 

 それが彼が語って、多くの人から支持を集めながらも対立の機運に飲み込まれて忘れられつつある思想。

 この『SEEDを持つ者』っていうのは別に、僕やラクスのことだけを差す言葉ではらしく、遺伝子改変などの問題とは関係なく、ヒトは同じヒトとして認め、肉体の変革ではなく精神の変革をおこなうヒトのことを指すのだそうだ。

 

 彼は宗教家らしい考え方として、今の価値観が崩壊して混迷する世界にヒトとヒトとを繋ぎ止める存在が必要と考えていて、そういう役割を持った存在が果たすべき義務を信じている人でもあるらしい。

 

 その考え方でいくなら、いずれ僕もラクスも『至るべき場所へ向かう運命にある』という事になるのだと思う。その考えに基づくなら、確かに今の僕が悩んでも悩まなくても運命は変わることはないのだろう。

 

 

 

 

 一方で、ラクスの考えは彼に賛同しながらも、少しだけ違うところもあるらしい。

 

「キラの夢は、いつも哀しそうですわね・・・・・・」

 

 僕が傷を癒やすための療養生活を送っている傍ら、時折ふいに過去の自分と、過去の自分がやってきたことの影が、今の平和な時を過ごしている僕に追いついてきて、どうしようもないほど僕を責め立て、脅かす時があったときに彼女が言ってくれた言葉がある。

 

 ・・・トールのことを思い出し、トールを殺したアスランを「殺してやる」と思って、本気で憎悪して――この戦争に巻き込まれてからイヤイヤ戦ってきたはずの僕が、初めて心の底から憎んで殺してやりたいと思ってしまった相手が・・・・・・アスランだった。

 

 友達だって、ずっと言っていた相手を・・・・・・友達だと、ずっと想っていた相手に、僕は生まれて初めて心の底からの憎悪と憎しみをぶつける相手に選んでしまった・・・。

 その罪深さに身体が震えて、トールのことを思い出したら涙がこぼれて、いっそあのまま死んでいられたらと・・・・・・そんなことまで考えてしまう僕の心に、

 

「それで守られたものも、たくさんあるのでしょう・・・・・・?」

 

 それだけを告げて、彼女は僕の髪に優しく触れながら、それ以上の言葉もまた何も言ってくることはない。

 その場限りの気休めも、宥めるための嘘も、励ましの言葉も。

 ただ事実だけを告げる代わりに、彼女の方からも何も求めようとはしてこない。

 

 ただ、認める。事実を認める。

 後にになって考えて分かるようになったことだけれど・・・・・・彼女はただ僕を支えてくれて、待っていてくれる人だった。

 ――僕がボク自身の意思で行きたい場所を決めて、向かうことを決意する時までずっと・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 そして最後の一人、パプティマス・シロッコと名乗る芝居がかったザフト軍士官の男性は、マルキオ導師とも。そしてラクスとも違う別の視点を僕に向けてくる人だった。

 

 

「なるほどな・・・・・・君は少し彼女に似ているところがあるようだ」

「彼女・・・ですか?」

「ああ。君は、君の魂の安らぎが欲しかったタイプの少年だな。だからこそ、この屋敷での生活に求めていたものを見いだして居心地の良さを感じている。違うかね?」

「魂の・・・・・・安・・・らぎ・・・・・・」

 

 一見しただけなら酷薄にも見える、冷たい瞳の持ち主とは裏腹にずいぶんと概念的な言い方を使う人だと思いながら、不思議と胸に「ストン」と落ちるものがある表現でもあるように僕の心は感じられていたようだった。

 それは続く彼の説明によって、より強く納得を得られるものへと変わっていくことになる。

 

「君の心が戦いに疲れ、傷ついているのに、周囲の仲間達にはそれに気づいて配慮してやれるナイーブさがなかった。

 ・・・いや、気付いていた者はいたのだろう。癒やしてやりたいと願った者も少なからず存在していたはず。だが実行する者はいなかった。

 みな自分のことで精一杯で、君の心の傷と疲れに気付いてやれても、寄り添って癒やしてやれる余裕は誰一人として持つことができなかった。

 だから君は、「平気な自分」を演じるしかなかった。「傷ついても戦える自分」でい続けることでしか、周囲の「自分より弱い」仲間達を安心させてやることは出来なかったからだ」

「・・・・・・まるで、見てきたように言うんですね」

 

 相手の言いように少し呆れさせられながら、それでも自分が言われた言葉はおそらく正解なんだろうな・・・という気持ちも、僕の中では確かにあったみたいだった。

 実際そう思える場面が幾つもあった。なにより傷とは別に自分が疲れ切っていて、安らぎを求めていた心が、この屋敷で与えらてもらえるようになっていたから、今まで敵だった人達の中でも安らいだ心地で過ごすことが出来ているという説明には納得しやすい部分が多かったから・・・。

 

「これは私の持論なのだがな。世の中には二種類のタイプの人間がいると私は考えている。

 『支配する者と支配される者だ』――と言えば、中世期の独裁者になれる訳だがね」

 

 そんな風に考えて、納得と自問自答が半々ぐらいになってる僕に対して、シロッコ――さんは面白そうな表情を称えながら、改めて僕の方を真っ直ぐ見つめて言葉を紡ぐ。

 

「私の考えは、それとは些か異なっている。

 人のタイプとは、『自分が何者であるか』に関心を抱く者と、『自分が何を成し得るか』に関心を抱く者という二種類だと、私は推測しているのだよ。

 仮に、この考えが正しいと仮定すればの話だが――君やアスランは前者に該当し、私は間違いなく後者に分類される人間ということになるのだろうな。

 だからこそ、『自分とは何者か?』という点に高い価値を見いだす者達からは嫌われやすいという訳でもある」

 

 そう言って愉快そうに笑い飛ばす目の前の男性の言葉に、僕はしばしの間言葉を失って唖然とさせられてから――そうかもしれない、と思える気持ちになってきていた。

 相手の男性が真実、後者に分類されるタイプの人なのかは出会って日の浅い僕には分からないけれど、僕自身が『自分が何者か?』という疑問に強い拘りを持っているタイプの一人だと言うことだけは理解できたし、受け入れやすい分析結果でもあるように感じられたからだ。

 

 けれどそれは、おそらく僕だけじゃない。今の世界を生きている人のほとんどが気にしている問題なんじゃないかとも思えてくる話でもあった。

 自分のルーツ、自分が自分であるというアイデンティティー。

 

 遺伝子改造人類コーディネイターの誕生や《evidence01》の発見によって既存の宗教体系や価値観の根底が崩壊してしまった今の世で生きている人達にとって、それらは自分個人が寄って立つ大地のようなものになる。

 皆で共有していた足下の大地が崩壊してしまったように感じられている今の世界に生まれた人達にとって、それらが見つからないまま生きていくことは多くの人々にとって難しいことの方が多いんじゃないかって・・・・・・そう思わされていた。

 

 

「あら。ですがそれは、『自分が何者なのか』と向き合うことが出来たからこそ可能になる道ではありませんか?」

 

 言いながら、僕とシロッコさんとの間に入ってきたのはラクスだった。

 コトンと音を立てながら、お茶とお菓子を僕たちの前に置くためにニコリと笑いながら手を伸ばす。

 

「無論です、ラクス様。己を知らぬ者には、自分になにが出来るかも分かるはずがない。

 ――ですが所詮それは、我々のようなタイプの人間にとって重要事になり得ないのも事実です。あくまで己に何が成せるかを知りたいが為に己を知る。

 只それだけの価値しかなく、己が何者かを知ったところで然したる興味が湧くことはないのでしょう。

 どのような人間が自分であれ、その自分になにが出来るかしか興味がないのが私達のような人間だと、個人的には推測しております」

「あらあら、怖い仰りようだこと。こわいこわい」

 

 終始ニコやかな笑顔を浮かべたまま、だけどラクスはお菓子とお茶だけを置いてそそくさと僕たち二人の近くからは離れていってしまう。

 いや、ハッキリ言ってシロッコさんを避けているように僕でさえも感じられるほど、マルキオ導師とラクスの反応はよそよそしさを交えながらのものになっていた。

 

 反面、二人ともシロッコさんを嫌っている訳ではないようにも僕には思えてしまって、余計に混乱させられてしまう。彼らの関係性が良く分からないまま、そんな関係のままでも穏やかに同じ場所で静かにときを過ごす時間が数日間ばかり続いた頃、思い切って僕は彼に尋ねてみたことがある。

 

「なぜ・・・僕たちに、ここまで良くしてくれるんですか・・・?」

 

 助けられた今の自分の立場からみれば、いくつもの矛盾になるんだろう質問。一方で彼の存在を初めて紹介されてから、ずっと気になり続けていた疑問でもあったこと・・・。

 

 なぜ、地球連合製のMS《ストライク》のパイロットを助けるのに協力したのか?

 なぜ、自分の部下を何人も殺してしまった連合軍の現地徴用兵を捕虜にしないのか?

 なぜ、敵を密入国させる手伝いをして、自分が裏切り者扱いされる危険を犯すマネをしたのか?

 

 それを行う程の理由とメリットが、彼の側にあるとは僕にはとうてい思うことが出来ない。

 僕を助けるのに協力することで、彼がなにかの得をして、危険に相応しい報酬が得られる要素が僕にはまったく見いだすことができなかったから・・・。

 

「もしも・・・僕にザフト軍へ入ることを期待してるんだとしたら、無駄です・・・。助けて下さったことには感謝してますけど、だからって僕には仲間達が乗ってる船を撃つなんて・・・」

「フフ、通俗的な解釈だが、それが普通の人のものの見方でもあるか。まぁ、隠すことでもないので教えておこう」

 

 自分でも擦れた考え方をするようになった自覚のある僕からの視線を受け止めながら、含み笑いを漏らしていた顔を少しだけ居住まいを正して向き直り、彼はハッキリと僕に向かって断言することから始めてくれた。

 

「まず始めに言っておくと、私はザフトの軍人だ。プラントの国土と市民達を守るべき責務を負っている身なのだよ。連合軍勝利のため協力してやる義理もなければ意思もない。

 正直に言えば、地球軍のエースにして怨敵《ストライク》のパイロットを生かしておくべき理由は、何一つとして持ち合わせている立場にはないのが私なのだよ。・・・本来ならば」

「―――・・・っ」

 

 視線を合わせながら真っ直ぐな瞳で言い切られた瞬間、僕は思わず“ひるみ”を覚えずにはいられなかった。

 自分から振った話題ではあったし、そういう感情を返されるのが普通なんだと理解してもいた。・・・・・・そのつもりだったけど、やっぱり直接言われてしまえば心が痛まずにはいられない自分がいる・・・。

 そういう感情を向けられても仕方のない人間に、僕は自分の意思でなる道を選んでしまった後なんだって・・・・・・それを思い知らされずにはいられなかったから・・・。

 

「まして、ブルーコスモス思想などという差別思想が蔓延している状態では、地球とプラントとの共存など考えられない。

 それさえ無ければ検討すべき案件になるだろうが、コーディネイターを「同じ人間」と考えていない人々が権力を握っている国とでは、手を取り合いたくても出来ないのがプラントの置かれた立場なのだよ、キラ君。

 何故なら交渉というものは、相手を『自分と対等な人間だ』と見ることができていることが絶対条件だからだ。そうでなければ、如何なる条約も約束事を交わしても無意味にならざるを得ない。

 『人間が人間以下の家畜との約束など守る必要はない』『人間が牛や豚と約束などするはずがない』・・・・・・そう考えるのが、その種の人達の発想なのだから・・・」

 

 ・・・・・・彼の語る話の内容に、僕は返す言葉がなにも思いつくことが出来なかった・・・。

 《ブルーコスモス》のことは、僕も噂話やニュースで見てオーブにいた頃から知ってはいた。コーディネイターに対して酷いことをしている人達が信奉している主張なんだと。

 

 ただオーブではあまり見かけない人達だったせいで、ぼく自身は最近まで深く考えたことがない人達でもあった。――あるいは無意識的に見るのを避けてしまっていたのかもしれない・・・。

 アレほど酷いことをされた人達が、僕たちのオーブがある地球の人達に恨んでしまうのは、仕方のないことなんだって思ってしまう気持ちを抑えることが出来なくなりそうだったから・・・。

 

 噂だと、ユニウスセブンに撃ち込まれた核ミサイルも、彼らがやらせたものだったって・・・・・・たくさんの仲間を核の炎で焼き殺された人達が、核を撃たせた地球の人に怒るのは当然のことだと僕でも思う。思うけど・・・・・・でも、

 

「だったら・・・なぜ・・・・・・?」

 

 彼の話を聞いた僕には、それが分からなかった。

 彼らの怒りが分かるからこそ、最初の質問の答えは逆に分からなくなることしか出来なかったから・・・。

 

「たしかに私はブルーコスモスを危険視している。その点では、対連合主戦派のパトリック・ザラ議長に協力して貢献するのが正しいと言えるだろう。

 ・・・・・・だが私にはパトリックが、この宇宙に光をもたらす者とは思っていない。あの男の腹には黒々とした憎しみしか感じられるものがない。

 憎しみの光を放つ者にはなるかもしれないが、その憎しみは必ずや将来、プラントに徒となるだろう。その時のためとでも言っておこうか・・・」

 

 そう言って僕から視線を外し、雨の向こうの景色を冷たい瞳で見つめながら、独り言みたいに語ってくれた彼の本心。

 その透明感のある瞳には、まるで雨の景色やコロニーの外壁さえ透過して、宇宙空間の景色でも見ているみたいな不思議さがあった。

 

 そして、ようやく分かったことが一つある。

 ラクスも、マルキオ導師も、なぜだか彼のことが嫌いじゃないみたいなのに、どこか苦手意識みたいなものを感じながら接しているみたいに見える態度。

 

 ・・・・・・その理由は、僕が彼に感じさせられた感情と、同じものなんじゃないかという事。

 

 決して嫌いじゃないし、言ってる言葉にも賛成できる部分が多くて理解もしやすい。

 でも何故だか、この人と話していると不安を感じさせられる時がある・・・。

 「怖さ」を感じさせられることが、偶にあるんだ・・・・・・。

 

 たぶんラクスもマルキオ導師も、彼の言葉や仕草にふくまれている、そういう部分を感じさせられるから・・・・・・彼と積極的に話すのを「恐れ」ているんだと、僕は彼と話しながら思わされていた・・・。

 

 

 

 

 

 そんな日々の中、ある日の出来事だった。

 

 

「やあ、キラ君。体調の方はどうかね? せっかく歓談しているところを邪魔してしまったようで、すまないな」

「あ、いえ。シーゲルさんこそ、お疲れ様です」

 

 サンルームの扉を開いて入ってきた中年男性の姿を見つめ、僕は慌てて会釈を返す。

 仕立てのいいスーツを纏って、口髭を綺麗に整えられた紳士的な人物。

 

 ラクスのお父さんにして、前プラント評議会議長だったシーゲル・クラインさんが、自分の家に帰宅してきたのだった。

 僕も屋敷で療養させてもらってから何度か会ったことがある相手で、今は選挙に落選して地位を退き、アスランの父親であるパトリックさんが新しい議長としてプラントの政治とザフト軍の総指揮とを同時に進めているらしいことが、ニュース映像なんかでたまに見かける機会があった。

 

 シーゲルさん自身は選挙に負けてからは、他の公職に就こうとはしなかったみたいだけど、今でも支持者や影響力を持ってる現職の人なんかは結構いる人みたいで、雨の中で今日も出かけていってたのもプラントで用事が終わったらしいマルキオ導師を地球に戻れるようにするためのシャトル便を手配しにいってくれてたらしいんだけど・・・・・・その表情から見ても結果は芳しくなかったらしい。 

 

 

「やはりダメですな。《オペレーション・スピットブレイク》による影響なのか、港は完全に軍の管理下に置かれているらしく、導師のシャトルでも地球に向かうものは全て発進許可は出せないとのことでした。

 どうしてもと言う場合には、作戦が終了する予定の日まで待つように、と」

「ふむ・・・それでは仕方ありませんね。子供達は待っているでしょうが、ラクス様と共に過ごせる時間が増えることは嬉しいことでもある」

「まぁ、わたくしもですわ。導師さま」

 

 和やかな会話だった。戦いや争いが関係しない話の内容。

 ヘリオポリスで過ごしていた頃でさえ、戦争の激化に伴って少なくなっていってた記憶のある『平和』を意識できる内容の話を聞きながら、僕は言いようのない穏やかな心地で彼らの話を聞くと話に聞き流していた。

 

 聞き流したまま、ただ流れてくる声に耳を傾ける・・・・・・それを犯しても誰の迷惑も被害も与えずに済む。そんな会話内容を・・・・・・しかし。

 

「シロッコ殿の方では、如何でしょう? 軍のツテでは見つかりそうですかな」

「残念ながら。・・・・・・ただ、結果的にですが妙な話を耳にしました」

「ほう。妙な話とは、どのように・・・?」

 

 今日も同席して、静かにお茶を飲んでいたシロッコさんに、シーゲルさんからも声をかけて、その返事に訝しそうな表情を浮かべて詳細を促す。

 シーゲルさんも娘であるラクスと同じく、シロッコさんに警戒感を抱いていたようだったけど、それでいて信頼しているようにも思えるところが彼らの関係の特殊性なんだと、見ているだけでしかない僕にも感じられた。

 

「《オペレーション・スピットブレイク》に参加する艦艇の、整備をしていた者達から流れてきた噂だそうですが・・・・・・航法を担当していたクルーの中で、クライン前議長に同調していた者達が幾人か姿を消しているのだとか」

「航法の担当者をかね? 一体なぜ・・・」

「さて。整備兵たちは、“パトリック新議長の指揮下でおこなう最大の作戦に、かつてのライバルが妨害してくるのを恐れているのではないか?”と、政府を悪く言いたがる下級兵士らしい推測で盛り上がっているようでしたが・・・・・・果たしてその程度のことか否か・・・」

「ふむ・・・」

 

 話を聞かされて思案するように腕を組むと、無言のまま考えに没頭しはじめるシーゲルさん。

 ラクスも慣れているのか、お父さんの邪魔をしようとはせずに黙ってお茶くみ係に徹している。

 

 その気遣いに気付いたらしいシーゲルさんが、お礼を言ってからカップを受け取って口を付けようとした、その時だった。

 コール音が鳴り響いて、サンルームの一角にモニター画面が映し出される。

 映し出された執事の人から、シーゲルさんに現政権でも閣僚に続投した「アイリーン・カナーバ議員」から緊急の連絡が入ってることを告げられて、すぐに画面が切り替わる。

 

 映し出された美しい女性の、けれど険しすぎる表情。

 それが僕たち全員の心に緊張感を高めさせて、そして告げられる――終わりの言葉。

 

 

 

『シーゲル・クライン! 我々はザラに欺かれた!

 発動されたスピット・ブレイクの目標はパナマではない――アラスカだ!!

 そんなことを議会は承認していない! その後の戦略案などできていないのだッ!!

 既に作戦発動が命じられた各前線部隊は、本国からの制止など聞こうともせずアラスカへと殺到している!』

 

 

『おおかた勝利という結果によって世論の支持を得、事後承諾で我ら議会を納得させてしまう腹づもりなのだろうが・・・・・・それでは議会の存在意義は失われる!

 これで勝てば、誰もパトリック・ザラを止められる者などいなくなる・・・・・・。

 この作戦での勝利によって奴は、「プラントの独裁者」として君臨することになってしまうのだ!』

 

 

 

つづく




謝罪:今話ではさすがに「3点リーダー」が多すぎたかと思われますが、それだけ『キラの不調』を表してると解釈していただけたら助かります。

志向が途切れ途切れで、整合性がとれておらず、聞いてる側にとっても不快な面がある状態での心情――そういうのをイメージしながら描いてみた次第です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。