転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。 作:ひきがやもとまち
……出来たのですが、どーにも微妙な気がしなくもなく迷ってもいる作者…。
問題ありそうだったら直すかもですけど、待たせすぎたため一先ず更新。
出だしで長くつまづきやすい作者の悪癖故な結果でした…。
キラ・ヤマトが、発動された《真のオペレーション・スピットブレイク》の情報と、その攻撃目標を知らされたのは何時のことであったのか。――正確な日時を私は知らない。
原作での描写がすべて正しいと仮定するなら、ザラ議長による作戦開始が発令された直後にアイリーン・カナーバ議員からクライン邸へと緊急連絡が入れられたことで知ることになった・・・・・・と言うことになるのだろうが、実際にその通りであることを示す、時間軸が表示されていた描写はなかったのだ。
あるいは、作戦発令前にシンパなどから情報が入ったものの、本国にいるカナーバには最前線の侵攻部隊を止める術がなかっただけという可能性もある。
だが少なくとも、私が立会人となるためパプテマス・シロッコとして生まれ変わった、このSEED世界で彼が情報を入手したのは、作戦開始と同時という訳ではなかったようである。
それが私による原作介入により変化した結果なのか、それとも原作通りの時間軸でも同じ展開だったのか・・・・・・今という刻を生きている私には永遠に分かりようがなく、証明することも出来なくなってしまった歴史のIF。
一人の人間に、二つの異なる同じ世界で選びうる選択肢の未来、そのどちらの方が優れているかの正答を知ることは決して出来ない。
――それが分からぬから、あるいは認められなかったから、“彼”は敗れることになるのだが・・・・・・それもまた、今は分からぬ未来の可能性の一つということになるのだろう。
一先ずは、今の私がいる場所と時間軸では、ラクス・クラインとキラ・ヤマト、そしてシーゲル・クラインを乗せた乗用車で共に同乗しながら、一つの建物へと移動している途上。そういう立ち位置に今の私は立っている。
「あ、こうですからね。こう。ザフトの軍人さんのご挨拶は」
「こ、こう・・・ですか?」
隣の座席ではラクス・クラインが、キラ・ヤマトに地球軍のものとは多少異なるザフト軍人式の敬礼の仕方を教えられており、見様見真似で模倣しようと苦心している姿が目に映る。
その姿は確かに、道化ていると言えば道化じみていたのだが、意外にも言動からくる印象とは裏腹にラクス嬢の動作は機敏で、訓練を受けたわけでもない民間人がやっているとは思えぬほど堂に入っている。
・・・・・・流石はスーパーコーディネイターとは異なる、コーディネイターを超える最優のコーディネイターとして造り出された姫君と言うところか・・・・・・。本人は未だ知るところではないとは言え、いずれは彼らも排除せねばならない存在。わざわざ敵の情報を事前に伝えてやる義理は、私にはない。
「――しかしシロッコ殿、此度の作戦変更。まことに貴公には与り知らぬ事だったのでしょうな?」
ふと、そんな疑義を質す声が私の座る正面から聞こえてきた。
視線を向け直すと、そこにスーツ姿のシーゲル・クラインが私と向き合う位置で座っていて、疑惑に満ちた視線――という程ではないとはいえ、信用しきれぬと言う目つきで私の顔を見つめてきている。
やはり、パプテマス・シロッコという人間は、そのような目と評価で見られる宿命にある存在らしい・・・・・・そう思わされ、私は内心で苦笑を浮かべずにはいられなかったが、表情や仕草には疲れたような感情だけを全面に出したものになる。
「お疑いになられるのは、私の立場としてご尤もです。ですが小官は本来、技術畑の人間であり、新型可変MSの完成を、新議長就任の祝いとして飾る添え物として招喚されることが決定されていましたので、此度の件からは最初から員数外と見なされていたのでしょう。
私自身も、周囲の者達からも今回のような話題を耳にしたことは一度もありませんでした」
「確かでしょうな?」
「無論です。お疑いなら幾らお調べになっても構わない―――と申し上げるべきところですが、このような情勢下です。信頼は調査結果ではなく、形ある協力で示すことをお約束いたしましょう」
「うむ・・・・・・貴公の言、確かに疑いなく信じられる状況ではない。だが貴公の言葉すべてを疑っているわけでもない。
私の疑念が取り越し苦労であったと謝罪させて頂くためにも、此度の一件での協力を是非ともお願いしたい」
率直に述べてくるシーゲルの言葉に、私もまた心からの確約を保証する。
事実として私には、《真のオペレーション・スピットブレイク》に関する情報は、パトリックからもエザリアからも、取り巻きの側近達からさえ聞かされたことは一度もなく、私の方から聞きに行ったことも、彼らに接触を試みたことさえ一度もない。仮にシーゲルが入念に私の行動を精査することが可能だったとしても、なんらの痕跡や証拠を見つけ出すことは不可能だったことだろう。
もっとも、転生者である私にとっては、調べに行くまでもなく知ることが出来た情報だっただけではあるのだが・・・・・・それは彼ら「今を生きている者達」が知る必要のない情報源。
知る必要のないことを教えてやるべき理由も、そして利用価値も、今のところ彼らにも情報の側にも存在していない。
だが一方で、完全に彼らを見捨てて流浪の脱走兵の集団にしてしまっても良いとまで思っているわけではないのが、この世界で生きる道を選んだ今の私でもある訳だが。
「ありがとうございます、シーゲル前議長。・・・・・・ところで、ラクス様。これから向かう場所に到着した後のことで、一つご提案したき事があるのですが」
「提案したいこと、ですか? まぁ、なんでしょう? あなたから教えていただけるなんて少し怖い気がいたしますわね。いったい何が目的で助言していただけるのでしょう? ウフフ」
「ははは、なに。助言などと呼べる大層なものではありませんよ。ただ、どうせ舞台に上がられるのですから、こういう芝居じみたことも偶には良いかと思ったまでのこと。何も私だけの領分というわけではございませんからな」
互いに無形の仮面をつけて笑い合った我々は、ラクスと対面の席に座しているキラ・ヤマトから多少引かれたような表情で見つめられる前振りを交わしあった後、耳元に口を寄せていくつか『役者としての助言』を行った。
ラクス嬢はラクス嬢で、「まぁ」と驚いた声を小さくあげて見せながらも、然程は驚いたように見えぬ表情と態度であったものの、何度もうなずき返す仕草によって演技ではないことを示した後。
「それは良いご提案です。これから私たちの行動にとって、大きな助けになり得るかもしれません。感謝します、シロッコ隊長。これからもどうかプラントと人々の平和のため、その才能と力を役立てて下さるよう、お願い致します」
「勿論であります、ラクス様。《平和の歌姫》から斯様な言葉を賜りますとは、真に我が身の幸運を祝福したい心地であります。
斯く成りますれば、この身を滅してでも平和な世界実現のため尽くす所存でございます」
「そう仰っていただければ、わたくしも心強い限りですわ。これからも共に平和のため、宜しくお願いしますわね。パプティマス・シロッコ副隊長」
「ははっ、ありがたき御条。臣の全力を尽くしましょう。――平和のために」
お互いに、空々しさを承知の上での会話であった。その点で彼女には、ハマーン・カーンになる未来の可能性もあったのやもしれない。
『CDA赤い彗星の肖像』で描かれていた幼少期の彼女も最初から未来の姿が確定していたわけではなく、今ここにいるラクスの未来が途中で交わる可能性も0ではない。
人類だけが持つ《可能性の神》とやらは、この世界では一体どのような未来を彼女に与える予定でいることやら。
なにはともあれ、私には私の果たすべき役所というものがあるのが、今の場面だった。
目的地へと向かう途上で私は車を降り、迎えに来させていた部下の車に乗り換えると、備え付けられていた受話器を手に取り、所定の場所へと作戦開始を伝える連絡を送る。
「私だ。平和の歌姫殿からの通達を伝える。
“ラクス・クラインが平和の歌を歌う”、繰り返す。“ラクス・クラインが平和の歌を歌う”――各員は所定の予定に従って、姫御子様をせいぜい支援してやるといい」
そう告げて受話器を置いた私は、背もたれに背中を預けると、歴史の流れが加速し始める事件の一端に振られたことに僅かながら喜びを感じて感慨にふける。
そして思うのだ。
「フフフ・・・読んだ通り―――いや、この場合は筋書き通りと言うべきか。
パトリックとクラインとの同盟は決裂する運命だったらしい。事態は見えている、筋書き通りに進むだけなら後は簡単だが・・・・・・さて、どうなることやら。
クルーゼの方も、何事もなくシナリオ通りに進むことができる状況ではない以上は、さて―――」
友に対する信頼は、ヤザンの力を信じるのと変わらぬだけの確固たるものがある私だが、流石に原作と乖離しすぎた立ち位置に変えてしまった彼の行動と結果までは、完全なる予測はできようがない。
簡単に死ぬような男ではないとは言え、この世界における《真のオペレーション・スピットブレイク》の中で彼が果たすべく与えられた役割とは何である事なのやら・・・・・・
――そして、この時よりしばらく後。
プラント内にある軍事工廠の一つにエラーが発生して、警報音が鳴り響き、管制室に詰めている兵士達が慌てて隔壁の緊急閉鎖と警備隊への通報をするため動き出した直後のことだった。
「馬鹿者! 早く警報を止めろ! 通報などするんじゃない! 貴様らいったい何をやっとるんだ!? ケツの青い童貞の小僧でもあるまいに!」
「し、室長・・・? ですが、しかし・・・・・・」
慌てていた宿直の兵士たち2人は、血相を変えて怒鳴り込んできた中年で小太りのコーディネイターらしくない恰幅のいい室長の叱責に、なぜ怒られてるのか理解できず顔を見合わせることしか出来ない。
だが室長だけは堂々とした態度を崩すことなく、正しく状況を理解していた。
あるいは、正しく理解していると信じて、動じなかった。
「あの機体は、議長直々の密命によって建造された機体だ。
我らがザフト軍には、あのようなエネルギーを動力に用いた機体など“存在していないMS”なのだよ。
下手に騒いで、外にいる連中に存在を気取られてしまえば、奴らにとっても不幸な結果になるだけだ。何事もなかったとして、何を見ても、何も見なかったことにして処理するのが一番な存在さ」
「し、しかし・・・・・・ですが室長、ならば《フリーダム》は何故、今になって出撃を・・・? そのような連絡は受けておりませんが・・・・・・」
「私も受けておらん。だが、守衛を始めとして何人かの兵士達が、ラクス様が“護衛の赤服”をともなって参られたと報告があった。
ザラ議長閣下のご子息であらせられる、アスラン様の婚約者ラクス様がだ。お偉方にはお偉方で色々とあるのだろうよ。下手に詮索しないで見て見ぬフリをするのが、こういう職務を仰せつかった時の処世術ってものだ、割り切れることさ」
「は、はぁ・・・・・・」
首をかしげながらも、そーいうものかと納得した心地で警報を切ってしまい、外にいるコロニー警備のジン部隊にも『急遽決まった新型試作機のテスト飛行』という報告を上げてしまったことで、完全に誰一人として正しく理解できぬまま大事件は発生し、気付いた時には目標は遙か遠くへと遠ざかってしまった後になっていた。
後日、この愚かな決定と命令を下した室長の責任と真偽が問いただされるため、査問会への出席が言い渡されたが、室長は直後に死体となって発見され、真相は謎に包まれたまま迷宮入り事件の一つとして、プラント警察のアーカイブに保存されることとなる。
プラント内では《存在を知られてはならない動力を用いたMS》であるが故に、秘密裏に開発されて完成し、正規の味方識別に登録することすら憚られる『核エネルギーを使った新型MS』という特殊な立ち位置を利用した、役者じみた男の薄笑いが宇宙の漆黒に響く中、自由の翼は地球へ向けて飛び立って行く。
それはまるで、地球の子宮から誕生した子供たちは、永遠に地球の呪縛から逃れられずに縛られ続ける宿命にあるのだとでも言うかのように。
重力に魂を囚われて飛べなくなった者達は、地球をめぐる争いから生まれた憎しみの連鎖から解き放たれることも出来ないのだと証明するかのように。
望み求めた翼を手に入れて尚、イカロスの身体は地上から完全に離れることは出来ず、最後には再び地の底へと還っていく、古代から続く歴史の繰り返し。
だが、忘れてはならない。
確かにイカロスの肉体は、翼を得て高みを目指した結末に、地上への落下が待っているだけだったが・・・・・・『魂』も地の底へと還えされたかは―――人それぞれの解釈の中にしか答えは存在できないのが事実だという現実を。
そして―――その機体が向かって、舞い降りていった先にある場所、『地球』では。
――地球連合軍統合最高司令部《JOSH-A》に勤務するアラン・タチ大尉は、軍隊もまた形骸化した国家の中では官僚機構の一部に過ぎないという事実を、体現したような男だった。
軍属である彼の父親は、さして偉い階級ではなかったものの、軍内部に浸透し始めた頃からの熱心なブルーコスモス派で初期メンバーの1人でもある人物だった。そのコネにより、本部勤務となって最前線行きを免れてきたのが彼であった。
彼は父に深く感謝したが、だがザフト軍の侵攻がパナマ基地まで迫りつつある戦況に陥った頃には、彼の心から感謝の感情を忘れ去られ、如何にして難を逃れるか?それのみが彼の全てになっていた。
正直、敵がザフト軍でなければ真っ先に寝返っていた連合兵の一人が彼だったろうが、『遺伝子改造された有能な兵揃いのコーディネイターたち』に降伏したところで、助けてもらえる価値が自分にあると信じて全生命をベットする度胸などないにも彼という人間だった。
ザフトから寝返りを拒否された時には、連合という帰る場所さえ失う羽目にもなりかねない。
なにか手土産が必要だったのだ。
――なんとか助命を許してもらえるだけの、価値ある手土産が・・・・・・。
普段は立ち入り禁止区域に指定されている一角で、『瀟洒なスーツ姿の伊達男』と、その後ろから小間使いのように卑屈な笑みを浮かべて追従している『大佐の階級章をつけた初老の将校』という妙な取り合わせの一団を見かけたのはのは、苦悩しながら本部を徘徊している中での出来事だった。
何やらキナ臭い匂いと、同じくらい『お宝の匂い』を小悪党故に感じ取ったタチ大尉は、バレないよう後をつけたまま立ち入り禁止区域の奥へ奥へと入り込んでしまっていき、そして―――聞いてはならない単語を、彼らが小声で話しているのを耳にしてしまう不幸を得ることになる。
『サイクロプス』――という極大の不幸をもたらす死に神の名を・・・・・・。
「そのあと俺は、ヤバいことを聞いてしまったと思って、ずっと倉庫の一つに隠れてたんだ。
だが今日になって急に外が慌ただしくなり、その後は逆に静かになったから這い出してきた――そしたら本部はもぬけの殻だ! この状況を見れば間違いない! 信じてくれよ!?
俺は捕虜でいいから、この基地を脱出させてくれ! 頼むッ!!」
「ふん・・・」
クルーゼは、床に座り込みながら必死の表情で訴えかけるように述べてくる連合軍大尉タチからの話を聞かされて、不愉快そうに鼻を鳴らしていた。
《サイクロプス》――それは強力なマイクロ波発生装置の名称だ。
基地内部にある炉を臨界まで暴走させたことで、アラスカを中心とする半径十キロ四方は巨大なクレーターに変えてしまえるほどの大爆発を起こさせることが可能になる、超強力な自爆兵器。
表向きには、連合軍が開発中の新兵器として「実用段階にある」というのは事実として周知されていても、今次大戦の開戦後まもなく月で使用されたという話は噂としてしか知られていない存在。
だがクルーゼは、その噂が事実であることを知っている数少ない一人であり、『あの男』と初めて邂逅して相見えた【エンディミオン・クレーター】での戦いの結果として、その威力は肉眼で目撃させられた『生き証人』でもあった。
あの爆発が再び起きれば、《JOSH-A》が幾ら強固な外壁を持つ軍事要塞だったとしても意味はない。吹き飛ばされることしかできないだろう。
まして、あの戦いから既に数ヶ月が経過しているのだ。
技術は先頃より上昇しているだろうし、地球の半分以下の重力しかない月と違って、今度は地下深くにある施設内部にまで自分たちから攻め込んでいこうとしている立場に自分たちはある。
あらゆる面で、先の使用時よりもザフト軍が被る被害は甚大なものになるのは避けられない。
・・・・・・ただし、その情報が“事実ならば”という前提条件付きではあるが・・・・・・。
「命惜しさから来るものとは言え、よくもまぁそれ程のデマカセを考えつけたものだ。君と同じで私も、命は惜しい者の一員でね。その点では共感もするし立場も察するが・・・・・・しかし些か無理がある話でもある。
この状況だ。たかが言葉だけで敵が退いてくれる可能性だけでもあるのなら、誰だろうと心を込めて虚偽を語る。そうではないか?」
「だが! 俺はさっき司令室まで行って見てきたんだ! 敵に攻められてる最中だってのに、誰もいなくなった無人の司令室に!
そしてモニターに表示されていた、あのマーク・・・・・・見慣れない代物だと思って調べてみたら案の定だ! 頼む! 助けてくれ! ここから俺を脱出させてくれぇ!!」
「・・・・・・まだ言うか? 我が軍の侵攻から本部を救援到着まで持ち堪えれば勝ちとはいえ、命まで張るほどの価値が連合にあるとも思えんがな」
「結果的にウソだと分かったら銃殺刑にしてくれていいんだ! だから頼む! 今は! 今だけはぁっ!!」
「ふむ・・・・・・」
相手の悲鳴じみた叫びに心動かされたように、クルーゼは一つ呻き声を発してから顎に片手を添えて考え込む素振りを見せた。
そして、やや斜め上を向いた姿勢で沈思黙考するように黙り込んだ彼だったが―――実のところ彼は相手の言葉に疑いを抱いていたわけではない。
ほぼ100%、彼の言っていることは事実だろうとクルーゼは既に確信していた。
そうでなければ、現状の周囲に広がる景色に説明が付かない。
外にいる警備の部隊が少なすぎるのは、自軍の陽動に引っかかった為だという理屈で説明がつけられるが、本部内の警備兵まで不在という状況は他に説明しようがないのだ。
それでも彼が即座に撤退を選ばなかったのは、『証拠が乏しい』という理由によるもの。それを捕虜でもなんでも敵である連合兵タチ大尉に悟らせないため『信じていない』と見せるポーズを示し、更なる情報が得られるなら聞き出そうとカマをかけていたに過ぎなかった。
自分だけ助かればいいというなら別として、他のザフト軍部隊にまで作戦中止と全軍撤退を許可させるためには相応の証拠が必要だったのだ。
それなりのモノを示さねば、教条主義的にナチュラルへの怨みからくる差別思想を盲信するハリ・ジャガンナートが攻撃中止を受け入れられることは不可能だろう。
(強固な守り手が立ち塞がるほど、その奥の宝への期待は高まる・・・・・・彼の話が真実だとするなら、イケニエとして本部と共に心中するため用済みとなったのは、ユーラシアの部隊と、眼下に見た“アレ”だ。
復讐心と被害者意識が強すぎるジャガンナートなどには、美味すぎる人参が二つも目前にぶら下がっている状況下では、撤兵など到底受け入れる気になれまい。
連合からすれば、色々と面白い構図なのだろうが・・・・・・我らにとっては少々、面白すぎて厄介な構図でもある。さてどうしたものか)
考えながらクルーゼは、何物よりも切れる自らの頭脳をフル回転させ、状況を分析して正しく理解するため俯瞰視点でのシミュレーションを超高速で構築させる。
味方の犠牲の上に勝利を得るという非常な手を使ってきたこと、それ自体には然程の不思議はない。
既に一度、《エンディミオン・クレーター攻防戦》でやっている負の実績があるのだ。一度が二度になったところで、そう驚く事になれるはずもない。
だが、月面戦線を支える最重要拠点だったエンディミオン・クレーターと、地上における連合軍本部《JOSH-A》では軍事的価値が違いするのも事実ではある。
ましてイケニエに供され、敵と共に心中させられる役を担うのはユーラシア連邦の艦隊と来ていれば尚更だった。
大西洋連邦とユーラシアは、地球連合を形成している地上国家群の中でも中核を成している二大強国。
この二国が共同歩調での自作自演で、侵攻してきたザフト軍を道連れにする謀略を用いてきたということは、彼らの間で密約が交わされた結果であるのは明らか。
おそらく基地自爆をザフトが使用した未知の大量破壊兵器ということにでもして被害を強調、その脅威度と非人道性をアピールすることで敵愾心と危機感を煽って世論を誘導し、プラントとの戦いへの参戦を地球各国に強要して拒否する者を一掃して強引に統一を成す。
・・・・・・そういう筋書きを考えての謀略なのだろう。それは分かるし、それはいい。
所詮は敵である地球国内での変化と事情だ、プラント側のクルーゼが関知するような話ではない。
問題なのは、この謀略が成ったことで生じる戦局の変化だった。
その流れに乗れるか否かで、自分たちの浮沈も決することになる。
拠点を自爆させてまでザフト軍侵攻部隊を葬り去った、ユーラシア・大西洋の二大国が完全なる共同歩調をとって、事実上の地球統一政権を樹立させたからには、来たるべきプラントとの総力戦を想定してのものなのは間違いあるまい。
その時のためにも、ザフト軍には出来るだけ戦力を維持し続けてもらう必要性が、クルーゼにはある。今ザフト軍をやらせるわけにはいかないのだ。
・・・・・・戦い終わった後、最後に立っているのは地球連合のヤクザ者でも、プラントの復讐に狂ったザラ派でも、永遠の少数派にしかなれないクライン派でも、まして小っぽけな島国のオーブでもない。
――我が友だけが、この世界と人類を正しく導ける才能と資格をもっている者なのだから・・・・・・
「フン、直接この目で確認しに行くまでもなさそうだな。貴様という将校の言うことは本当なのだろう。この状況がそれを証明している、それ以外にはあり得まい」
「なら、今すぐ脱出を命じてくれ! そ、それと俺も一緒に・・・・・・!」
「いいだろう。捕虜ではなく、人質としての立場になるかもしれんが、それでも良いのならの話だがな」
「それでいい! ありがとう! 君たちザフト軍の人道的救助のことは、他の連合各国にも必ず伝えさせてもら―――」
「ただし」
相手からの、恥というものを感じる心を持たない者らしい感謝の言葉を途中で遮ると、クルーゼは仮面をつけて素顔を隠した面差しに、仮面じみた嗤いを浮かべて見せながら、
「私は君を人道的理由で助けるわけではなく、人質には利用価値があるから助けるのだ。
そうである以上、人質として君にも手伝ってもらおう。最後にさせぬ為の賭けだ。
蒼き清浄なる世界へと続く扉を、開かせぬ為の――ね」
露悪的な口調で、なにか思いついたらしい色を浮かべながら。
タチ大尉が思わず口元を、ヒクッと強張らせて黙り込まされる笑みを湛えた表情で・・・・・・
つづく