転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。   作:ひきがやもとまち

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【シロッコFREEDOM】2話目ができましたので、とりあえず投稿です。
ただ予想より遥かに長くなり、深夜になってしまったため、出来たばかりのを投稿してます。
このため誤字が多いとは思われますが、明日以降に直していく予定でいますので、一先ずはご容赦のほどを。


番外編【転生した私はコズミック・イラの立会人になろうFREEDOM】第2章

 C.E.と呼ばれる暦が用いられた地球圏が初めて経験した宇宙空間での戦い、地球連合軍とプラント・ザフト軍との戦争は、プラント側の勝利によって終わることとなる。

 地球で生きる人々が、宇宙に住む民に敗れたのである。その点が、宇宙世紀の暦を用いた地球の歴史と大きく異なっていた。

 

 だが、その結末はC.E.を生きる人類にとって特別な意味を持っていた。

 ナチュラルがコーディネイターに敗れた、という事実が地球圏の未来に大きな影響を与えたからである。

 

 

 プラントは大戦における勝利によって連合各国に対し、地球各地のプラント理事国への『完全に対等な外交的立場』と『不平等条約の破棄』そして賠償金の支払いを認めさせた。

 国としての悲願であった、コーディネイターという新たな種を頑迷な地球の旧指導者層に公として認めさせることを、遂に実現させたのである。

 

 地球連合の盟主国としてザフト軍に降伏させられた『大西洋連邦』は、プラントに恨みをもつ人々と軍部の主戦派から支持を失い、急速に没落する憂き目へと陥っていく。

 またこの敗戦は、自らこそを『天然自然から産まれた正統なる優れた生命』と自負して、コーディネイターに強い差別意識をもつブルーコスモス思想に共鳴する者達にとって、耐えがたい屈辱でもあったのは言うまでもない。

 

 その屈辱が大西洋連邦軍内部から大量の離反者を生み出すこととなり、新たにブルーコスモス盟主となった『ミケール大佐』を指導者として残存戦力を再編。

 彼らと密かに結託した地球第二の大国ユーラシア連邦は、大西洋連邦の降伏調印を『売国行為』と見なして正当性を認めようとせず、プラントに対して徹底した姿勢を貫くことでコーディネイターに悪感情をいだく人々の心を急速に引き寄せていた。

 

 一方のザフト軍も、勝利したとはいえ被った傷口は浅いものではなく、軍内部から生じた過激な軍閥勢力『ティターンズ』と戦力を二分しての主導権争いに加え。

 最終決戦場となった『宇宙要塞メサイア』をめぐる戦闘において、指導者ギルバート・デュランダルと共に直属軍の過半を損失させられたことから、地球上すべてを武力制圧して支配下におけるほどの余裕は彼らにも残されていなかった。

 

 戦争が、明確にどちらかの国の勝利で幕を閉じた後も、世界は混迷の時代から解放されることはなかったのだ。

 

 だが、この状況は敗戦を喫した地球軍にとって、まさに天佑だった。

 ミケール大佐は混乱に乗じて、ブルーコスモス組織の再編と再決起を促すためゲリラ活動を活性化させ、デュランダル勢力の残党とも呼ぶべき者達も密かに蠢き始めていた。

 勝利による一時の平穏は終わりを迎え、C.E.の地球圏もまた再び戦乱が蘇ろうとしていたのだ。

 

 だが、それらの事態を前に、全く動じることなく笑みを浮かべる傲慢な男が、動じるべき理由は一つも無い。

 彼にとって一連の出来事は、最後に残った敵対勢力を完全に駆逐し、支配者という名の『立会人』となるために必要な最後のピースがそろったことを意味していたに過ぎぬものだった。

 

 

 傲慢な男に生まれ変わることを、自ら望み選んだ男にとって、最後の障害物を排除するための戦いが今、新たに始まりの刻を迎えることとなる―――。

 

 

 

 

 

 

 

「我が軍の将兵たちと、オルドリン自治区に住む同胞たちが被った被害を、ラメント議長とクライン代表はご存じないのですか?

 ブルーコスモスからの一方的な侵攻を受けたのは、こちらなのです!」

 

 プラント評議会の議場に、壮年の男からの糾弾が響き渡っていた。

 列席している議員たちの表情にも、同情と理解の色が強く浮かんでいる。

 

 議会内における主戦派の現筆頭として知られる国防委員長ハリ・ジャガンナートが、先日おこなわれた地球アフリカ地区にあるプラント経済特区オルドリンへの地球軍残党《ブルーコスモス》によるテロ攻撃への反撃と、その後の対応に不満を表していたのだ。

 

 ジャガンナートは、地球プラント間が初めて戦った《第一次連合プラント大戦》の折りには《ザラ派》の幹部として知られていたが、パトリック・ザラが斃れた後に政権をとったギルバート・デュランダル議長は世間的には穏健派と評されている人物だったことから距離を置くようになり、結果的に《宇宙要塞メサイア》と共に崩壊したデュランダルと運命を共にするのを免れることが出来たのである。

 

 それは彼自身に、『超越的存在の加護』を信じさせるに十分な結果であり、自らを『使命を果たすために生を与えられた一員』と確信した彼は、軍を退役して選挙へと出馬し、現在の地位を得るに至っていた。

 

「兵たちの心情を慮れば、パプティマス副総帥の行動は、手ぬるいと言わざるを得ません!

 そもそも都市防衛のため、旧式のジンだけしか配備されていなかったことこそ、襲撃対象に選ばれてしまった一番の問題っ!

 戦乱が終結したとはいえ、旧敵国の領内である地球上に同胞たちを住まわせるからには、相応の戦力を防衛用に配備しておくべきだったのですっ。

 違いますかなラメント議長!? クライン代表っ!!」

 

 彼に糾弾される側に立たされた、現プラント最高評議会議長ワルター・ド・ラメントと、現在は《世界平和“監査機関”コンパス》の初代代表という地位に就いているラクス・クラインとしては声がない。

 

 

 ――先に終結した《第二次連合・プラント大戦》は、最終的にザフト軍の勝利によって幕を閉じることができたとはいえ、ザフト側が被った被害も決して浅いものではなく、出生率に課題を抱えているプラントは戦後の対応に苦慮することになる。

 

 戦勝国として、敗戦国である地球側にMSなどの兵器破棄や兵力削減を約束させたプラントが、過剰な戦力を地上に配置し続けることは強権的な支配を印象づけさせ反感を招き、その反感がブルーコスモスが乗じる余地を与える恐れがある・・・・・・という理屈により地上各地にあるプラント経済特区には最小限の戦力だけしか防衛用に配備させていなかったことが、此度の戦闘で被害を拡大させた要因になっていたからである。

 

 ジャガンナートから見れば、愚かとしか言いようがない判断だった。

 少ない戦力しか配備しないのなら、それらは最精鋭でなければ抑止力としての意味などあるわけがない。

 防衛用の費用を削って警備兵を減らせば、犯罪者の欲望を刺激させて襲撃を招く理由となる。当たり前のことだと彼は思う。

 

 だからこそ、敗戦国内の不満分子を監視させる役目を、親プラント地球国家に任せて支援するだけではなく、戦勝国の権利として一大拠点に大規模な戦力をおかせ《地球監査軍》としてザフト軍が直接的に担うべきだと彼は主張していたのだ。

 

 だが彼の意見は、『平和維持のための実行力を保有した能動的組織』の設立と、その活動範囲と権限を地球国家群に認めさせるという代案が通ることによって否決され、代わってザフト軍の指揮下から離れた戦力としての外苑部隊《世界平和監視機関コンパス》が地球上でその任についている。

 

 その案を承認した当時の議長こそがラクス・クラインであり、その彼女が《コンパス》の初代総裁となることで地位を譲られたのが現在の議長ラメントだった。

 経歴の時点で、二人に対して好意を抱いている理由をもたなかったのがジャガンナートの立ち位置だったのだ。

 

 そして、その愚かな提案と決定の結果として負債を支払わされたのが、今回の襲撃だった。

 ジャガンナートとしては憤懣やるかたないのが当然の反応であり、議員たちからも同調する雰囲気はあったが・・・・・・一方で。

 どこかしら共感しきれないムードを内包したものになっていたのは、彼にも今回の襲撃を防げなかった責任がまったくない、という訳ではなかったからだ。

 

 

「・・・そう言うがな、ジャガンナート国防委員長。

 《ネオ・ディサイズ》から提案された、地球上の同胞たちをブルーコスモスの脅威から完全に防衛するためのプランとしての《全コーディネイター強制移民計画》に反対して否決させたのは、君ではなかったかね?」

「当然ですっ!」

 

 鼻息荒く、デスクに手のひらを叩きつけるようにジャガンナートは断言する。

 先の大戦がプラントの勝利で終わりながらも、軍内部から発してザフト軍を二分させた軍閥勢力《ティターンズ》との内紛によって少なくない傷を被ったことから、勝利後の地球をザフト軍の監視下に置くには戦力が不足していた当時の状況。

 

 如何に減少し過ぎた戦力を配置して地球を統治し、次の戦乱を未然に防ぐか?という議題で議会が紛糾する中。

 ティターンズの暴走に終止符を打ち、ザフト軍人としての本道に立ち返った者達から篤い支持を受けていた仮面の指揮官『ラウ・ル・クルーゼ』は、新たに設立されたばかりだった治安維持部隊《ネオ・ディサイズ》の総帥として一つの提案を議会に提出していた。

 

 

『残念ですが、今の地球に我らコーディネイターが、ナチュラルと共に同じ大地で生きていくことは不可能なところまで来てしまったと、私は判断しております。

 人はたしかに、憎しみだけしか知らぬ愚者ばかりの愚かな種族ではないとはいえ、我らと彼らはあまりにも多くの引き金を、憎しみの心で撃ち合ってきてしまった。

 それこそ、積もり積もった憎しみの連鎖は、人の世界を滅ぼしかねないほどに・・・・・・。

 現在の状況でナチュラルたちと同じ大地に我らコーディネイター種族が生きることは、新たな平和秩序に綻びを生ませる原因にしかなり得ますまい』

 

 ザフト軍の若き英雄として知られる仮面の名将にしてエースパイロットは、議場において地球上でのコーディネイター社会治安維持責任者らしく、彼は演説調での報告をおこなった上で、その上で一つのプランを評議会に提案してきていたのだ。

 

 

『私は治安維持を担う者として、この場を一時お貸しいただきたい。

 大西洋連邦の残党軍をはじめとするブルーコスモス主義者どもの、プロパンダに利用されるリスクを防ぎ、かつ地上で暮らしている同胞たちの安全を死守するためにも、地球上の各所にコーディネイターが居住するプラント経済特区がおかれている現状は好ましくありません』

 

『もとより我らコーディネイターは、コロニーで生まれ、コロニーで育った宇宙の民。

 地球上に領土を求めて攻め込んだ訳ではないのですから、地上の気まぐれな自然環境の中から誕生したナチュラルたちと我々は同じではない。

 連合からの核攻撃に対する反撃の一環として、軍事拠点化のため地球の一部を占領したとはいえ、別に領土を求めて攻め込んだわけではないのが我々です』

 

『無論のこと、先の大戦での悲劇を繰り返させぬためにも、監視のため一定数の兵力は駐留させる必要がありますが、それは我々《ネオ・ディサイズ》と《コンパス》が役割分担によって担いましょう。

 ザフト正規軍が守るべきコーディネイターの一般市民たちが、今の地球に居住し続けることは、得られる利より害の方が遙かに多い状況に変化したものと判断せざるを得ません』

 

『そこで私は、地球上に生きる全てのコーディネイターたちを宇宙にあげる【強制移民計画】の実施を、プラント評議会に提案したいッ』

 

 

 それがクルーゼが議会の場でおこない、衝撃と議論をもたらした発言内容だった。

 無論ただ地球をナチュラルたちだけの状態にして放置するという訳ではなく、毎年一定数の留学生をプラントへと招く制度を制定させ。

 警戒の薄くなった地球上でブルーコスモス勢力が復活するのを防ぐため、監視や監査などの権限を与えられたザフト軍の精鋭部隊を駐留させ、その部隊に資金提供をおこなう国にはプラント製の高品質な工業製品などを地球上で専売的に売買する権利を与える――といった副次的なものを踏まえての提案として。

 

 先の大戦終盤において、デュランダル議長により《軍産連合体ロゴス》の存在が一般市民レベルにまで公開されていたことによって、地球市民も自分たちを戦争の犠牲に利用することでエゴを満たすための餌にされてきた事実をすでに知っている。

 

 以前までほどには、ただ『奴らはコーディネイターだから、奴らにとって自分たちはナチュラルでしかないから』と、口で言うだけでは扇動に乗りづらいムードが地球市民の間でも醸成される状況に今日ではなってしまっていた。

 

 新たな寄生相手として、大西洋連邦と袂を分かったユーラシア連邦のもとで勢力回復を謀っているというブルーコスモス陣営が、民間からの支持を得るには判りやすくコーディネイターの脅威を人々に思い知らせることが必要になっているのだ。

 

 

『自分たちの為なら、ナチュラル市民の命など、テロリストと共に虐殺して構わない』

 

 

 そのように考えているのが、コーディネイターたちの一般認識なのだと、彼らに信じさせることが、ブルーコスモスには必要な状況に変化しているのが現在だった。

 オルドリン自治区への攻撃に始まり、カナジ市まで後退して戦場を拡大させようとした『反撃を利用するための攻撃作戦』は、そうした状況が絡んだ謀略の一環だったのだ。

 

 そのリスクを防ぐためには、地球上からコーディネイターが暮らしている地域を無くすことが一番手っ取り早い。

 0にまではしなくとも、ただ数を減らしていくだけで攻撃対象は限られ、防衛する側は戦力を集中しやすくなるメリットが得られるはずだった。

 

 かつてと異なり、地上・宇宙のコーディネイターは総数を大幅に減らしており、戦禍による恨みは斑模様のようになって地球各所に蔓延して、地下に潜ったものまで含めれば捕捉しきれるものではなくなっている状況にあるのだから、いっそのこと一旦スペースコロニーへと全てのコーディネイターと、望むなら家族と共に避難させてしまった方が有効だ。

 

 

 それが地球上で治安維持を担う独立部隊《ネオ・ディサイズ》総帥としてクルーゼから提出されていた《全コーディネイター強制移民計画》の内訳だった。

 

 もはや地球は、コーディネイターが平和に生きれる星ではなくなっている

 自分たちへの憎しみで、地球をコーディネイターの住めない星にさせないためにも、自分たちの世代は死ぬまで宇宙で生きていくしかないのだから―――と。

 

 この提案に、ジャガンナートは強硬に反対して、徹底否定の論陣を張った。

 

 

「我らの目の届かぬ地球の地下深くで、奴らが――ナチュラルの過激な一派が今までなにをやってきたかお忘れか!?

 あの《サイクロプス》を! 《ニーベルング》を!

 《ロゴス》と結託した奴原どもが、なにを目的として何のために何を生み出し、なにをするために使ってきたか! まさか、お忘れになった訳ではありますまい。

 あの悲劇を繰り返さぬためにも、地球上に確保した領土と、維持するための都市機能は国防のための必要性から、国防委員長として譲れるものでは決してないッ!!」

「むぅ・・・」

 

 そこまで言い切られては、地位を譲られる形で議長になった中立派の政治家ラメントとしては、意見を押し通すことはできない。

 実際ジャガンナートととしては、安全面確保のための監視と威嚇のための地上軍事拠点は絶対に必須のものだと確信している。

 

 場と状況と立場から言葉を選んではいるものの、本音を言ってよいものなら「バカなことを言うな」と無能者のラメントを怒鳴りつけたいぐらいだった。

 プラントから遠い地球で、自分たちの監視すらも遠ざかり、ナチュラルどもを放し飼いなどすれば、再びプラントが核の脅威にさらされるだけでしかない。

 それを阻止するためにも、地球上に確保した拠点と兵力、維持するための設備とは彼にとって必須条件だと確信してもいる。

 

 ・・・・・・もっとも、彼が強硬に反対していたのには、別の理由も関係していた本心までは語っていなかったのも事実ではある。

 

 提案者である仮面の指揮官ラウ・ル・クルーゼと、その腹心である《天才》『パプティマス・シロッコ』という二人の人物を、彼はどうしても信じることができない危険さを感じ続けていた。

 

 初めて邂逅した《第一次連合プラント大戦》の頃からずっと彼は、彼ら2人に対する言い知れぬ不安を消すことができずにいる。

 具体的にどう、という話ではないため言葉にして否定したことはないが、彼らが提案してきた独自のプランと言うだけでジャガンナートは反対の論陣を張るのに十分な理由となりうる。それほどに彼のクルーゼとシロッコに対する不信感は根深いものがあったのだ。

 

「だが、そのために《ネオ・ディサイズ》の活動があるのだろう? 彼らの活動は、着実に成果をあげ続けている。

 軍内部の不満も今回の一件で大分弱まったと聞く。そこまで神経質にならずともよいのではないかな」

「――用心のためです。クルーゼ総帥やシロッコ副総帥の能力はたしかに信じるに値すると思われますが、彼らとて全知全能というわけではない。

 戦中に我が軍は、《デストロイ》の開発と投入を察知することができましたか? 《JOSH-A》を空き巣にして我が軍の攻撃隊を道連れにした作戦は? 常に不測の事態に対処できる予備の戦力は防衛政策上、必要でしょう」

「ふむ・・・・・・まぁ、確かにな」

 

 国防の責任者である軍幹部出身者から、そう言われてしまえば文官出身のラメントに言える意見などあるはずもない。

 多少不満そうではあったものの、それ以上の反論はないと見て取ったジャガンナートの視界の中で、次に手が上がったのは議員の一人からのものだった。

 

「その一件について一つ報告があります。いえ、必ずしも先の議題と関連しているものではないのですが、今回の攻撃で被害を受けたオルドリン自治区に居住する住人たちの処遇について、すでに決まった部分についてだけでもと」

「・・・・・・やはり、新たな宇宙移民として迎え入れることになりそうかね?」

「はい。今までは住み慣れた土地を離れることに抵抗を示していた人々も、今回の件で了承せざるを得ないと感じたようです。

 幸いに、と言っては不謹慎の度が過ぎますが、前大戦・前々大戦での志願兵大量徴募により現在のプラントは住宅数に比較して入居者が不足しておりますし、受け入れ先に困る恐れだけはありませんから」

「不幸中の幸い・・・と言うしかないのだろうな・・・。あまりにも痛みに満ちた、苦い幸運でしかないものだが・・・・・・」

「ですが、新旧の住民同士で諍いが起きる可能性が極めて低い状況にあることだけは事実です。どこも軍に人手を取られたまま帰ってこず、人手不足ですからね・・・。

 両親や親族とそろっての移住を希望している、ナチュラルとの間に生まれた第一世代を優先的にシャトルでのピストン搬送を実行しております」

 

 民政を担当している議員からの報告を聞かされて、評議会メンバーたちはそろって顔をしかめ、一人の例外なく心痛を表情に浮かべて露わにする。

 最終局面では大量殺戮兵器の撃ち合いにまで陥ってしまうに至った《第一次連合プラント大戦》と《第二次連合プラント大戦》において、プラント側が被った領土的被害は比較的少ないレベルにとどまることが出来た。

 あくまで地球が受けた被害と比べればの話ではあったものの、それでも住処であるコロニーの破壊は《ユニウスセブン》をはじめ《ヤヌアリウス》の幾つかの損失で済んでいる。

 

 だが、それに比して人的被害における割合は甚大なものがあり、ただでさえ出生率の低下という難題を抱えていたプラント社会に大きな影を刻み込まれる結果となって、今日に至るまで影響を及ぼし続けている。

 なまじ種族全体のスペックが優秀であるがために、十代の子供まで新兵として戦場に志願させたことが巨大な負債となって、プラントの未来にのしかかる羽目に陥っていたのだ。

 

 子供のいなくなったファミリー世代の邸宅や、庭付きの無人となった幽霊屋敷などが今のプラント内には各所に点在しており、しかも配置に秩序性がないときている。 

 治安維持の問題としても、町の景観が与える住民たちへの心理的影響の観点から見ても、新たな住人が入ってくれるに超したことはなかったのだ。

 

 

 ――実のところ、その点もジャガンナートが強行にクルーゼの提案に反対票を投じている理由の一つになっている部分だった。

 戦闘の勝敗に関係なく、結局はオルドリンに住む同胞たちの宇宙移民は実行される運びになる。

 

 ・・・それを狙って、わざと部隊の出動を遅らせたのではないか・・・?

 そうジャガンナートが勘ぐってしまうのも無理のないタイミングでの介入だったのが、《天才》シロッコ率いるネオ・ディサイズ部隊のブルーコスモスとの戦闘状況だった。

 

(もしそうだとすれば、此度の計画にも必ずや裏があるに違いない!

 今は亡きザラ議長も、奴らによって殺されたに違いないのだ! 狐どもめ、今度こそ貴様らの尻尾を掴んで一網打尽にしてくれるッ)

 

 心の中で暗い復讐の炎を燻らせながら、ジャガンナートにはその点を深く追求することはできない。

 

「幸いな、と言うのは問題がある発言になるのでしょうが、《ネオ・ディサイズ》より以前から具申されていたコロニーへの大規模移住計画のおかげで、居住スペースなどの準備は整っております。受け入れ自体には大した問題もないでしょう。

 また、《コンパス》と《ネオ・ディサイズ》の働きによって、我が軍のオルドリン守備隊が敵を追って国境侵犯をおかす危険性は未然に防がれ、損害も最小限に抑えられたと聞いています。

 もし仮に彼らの介入がなく、感情に駆られた守備隊が敵の策にはまって、カナジ市まで戦禍を及ぼしてしまっていたときには厄介な事態に陥っていたのは確実です。

 そうならなかっただけでも、良しとすべきなのが現在の我らが置かれた状況かと」

 

 円卓に座していた評議員の一人が事態を総括した見解を述べて、内心はどうあれ他の議員たち全員が賛成の意を表したことで、ジャガンナートも他に同調して糾弾の矛先を納めるしか選べる道が奪われることになり、会議は結論づけられることとなる。

 

 もしも敵の策にはまり、カナジ市内まで軍を進めさせ、街を焼き払ってしまった後で『ブルーコスモスの新盟主ミケール大佐はカナジにいなかった』という事実が明らかとなった場合。

 プラントと現評議会は非難の矢面に晒されるのは確実だったろう。

 

 そうなれば依然としてザフト軍内部に余喘を保つ《ザラ派》の残党や、彼らに同調する過激な主戦論者たちを勢いづかせ、感情による再戦の機運が高まるのに力添えしてやるだけなのは判りきっているのだから、現体制側に立つ一員として頭を下げるべきところでは下げておくのが賢明な対応だった。

 

 

 ――内心で、“そう思っていない”からこそ、ジャガンナートには頭を下げて“見せる”必要性があったのだ。

 

 

 本心では、口ほどにもないブルーコスモス残党の不甲斐なさを罵って軍靴で踏みつけてやりたいほどの怒りを感じさせられていたが、顔には出さない。

 表面的にはプラント国民全体のためを思って、私情を押さえる政治家として振る舞うことにジャガンナートは、ここ数年の政治家生活で慣れが染みついていた。

 

 ――やはり、“彼ら”の計画に加担するより他に道はないようだ。

 

 そう心の中で感じながら、数日前に面会の予約をして評議会の後に会うことになっているVIPとの会談で、自らが取るべき道とスタンスをどれにするかの決断を、密かに彼は思い決めたのは今この瞬間でのことが切っ掛けだった。

 

 準備は進めてきた。支援もした。

 だが、ザラ議長とは異なる方針と出自をもつ“彼ら”を完全には同調しきれなかったからこそ今まで答えを決めあぐねてきたが・・・・・・事こうなっては仕方が無い。

 

 ――本当に取り返しのつかないことになる前に。この世界が奴らや、ナチュラルどもの物になってしまう前に、何としても奴らを討たなければならないのだ。

 

 その為には、現状の腐った世界を受け入れ、見せかけの平和を餌として与えられただけで偽善者どもの政権を支持してしまう愚かな愚民たちを犠牲の羊として饗されるのは必要悪でしかないのだから―――

 

 

「・・・わたくしども《コンパス》の力が至らず、申し訳ありませんでした。ジャガンナート国防委員長・・・・・・」

 

 “クラインの娘”が、神妙な顔つきで自分に向かって頭を下げてくるのを見ても、ジャガンナートとしては思うところは何もない。

 ただ立場上、格上の議長から謝罪され、格下の評議員だけが我を張り続けても得がないから、謝罪を受け入れ非礼を詫びて席に着くだけのこと。

 

 そこにあるのは、役職に伴う義務と責任だけであって、心など『政治家の謝罪』という名の【政治】には、欠片ほども必要のないゴミのような要素と切り捨てられる。

 

 ――まったく、何故こんな小娘を“彼ら”は『女王』に求めるのか――

 

 内心で侮蔑と共に、そういう風にだけは感じながらも、ジャガンナートは《平和の歌姫》に向けられる市民たちからの高い支持率まで否定する意思は微塵もない。

 

 ――せいぜい利用してやるとしよう。

 ザラ議長が目指された、正しき新世界を築くためにこそ、彼女の力は使われるべきなのだから―――

 

 

 

 

 

 

 

「ラメント議長、先程は閣議を押しつける形になってしまい、申し訳ありません。ご心配までおかけしてしまって・・・」

 

 然したる結論や成果が出された訳でもなかったまま評議会は終わり、議会場からホールへと続いている廊下を歩みながら、先程から暗い顔つきで俯きがちに歩いていたラクス・クラインは、隣にたって進んでいたプラントの現最高権力者に頭を下げていた。

 

 国民たちに蔓延していた戦後の厭戦的なムードと、過激な主戦派・温厚に見えた穏健派というタイプの異なる2人の前任者たちによって2度にわたる泥沼の大戦へと引きずり込まされた恐怖心とが、中立的な立場と貧相な見た目をもつ彼を次の議長へと押し上げてくれた人物だ。

 

「いえ、元々それは評議会議長である私がやるべき仕事ですから。むしろ《コンパス》代表という立場にある今のあなたが、ザフト軍内部の問題に口を出す方が差し障りがある」

「ですが、本来はわたくしが担うべき役割だったのも事実です」

 

 そう返されてしまえば、ラメントとしても苦笑するしかない。

 本当はラクスが、彼の果たしている役目を担うべき存在だったのが事実だからだ。

 

 市民からの支持率でも、軍からの任期という点でも矛盾しなかったし、一度はその任に就いていた時期もある。

 だが長く付きつづけることなく、彼女からの推薦という形を受けてラメントが議長職に就任している。

 

 プラントの政治面を主導して、地球各国との対立解消と対等な立場での条約締結、それによる恒久平和の実現という自らの願い求める世界へ人類すべてを導くことは、彼女自身の意思にも叶っているものだったにも関わらず、彼女が地位を捨てた理由。

 

 それは純粋に、彼女が任に堪えうる能力と経験をもたない人物だったから。

 

「いえ・・・・・・しかしジャガンナートなどは立場上、厳しいことを言わざるをえん部分があるのも事実です。

 否決されたとはいえ、被災地から避難のため地球で暮らしている同胞が減ったことで、我々コーディネイターが被る被害は目に見えて減少している。

 ブルーコスモスに賛同した連合残党からの反撃も、対処を担う《ネオ・ディサイズ》と、救難・復興支援を担当している《コンパス》が矢面に立って受けているおかげで、ザフト正規軍の中には弛緩した空気が流れているとも聞く。

 中には、いっそのことネオ・ディサイズに地球上の問題を一任させ、ザフト軍はプラント防衛だけを担う政策を可決すべきだという声も上がっているとの噂もある。

 国防の責任者として、ジャガンナートが無視できる状況でないのは一面的には事実でしょうな」

「はい・・・・・・まだ《コンパス》と《ネオ・ディサイズ》が矢面に立っているだけなら良いのですが、そこまで強力な権限を与えてしまっては軍事独裁への道を開く事にもなりかねませんから・・・・・・」

 

 二人の声は重く、特にラクスは顔色までもが重苦しい。

 クルーゼ総帥の――おそらくは、副総帥シロッコが立案したであろう意見も、分からない訳ではない。

 

 たしかに自分たちコーディネイターと地上のナチュラルたちは、あまりにも多くの血と犠牲を払わせ過ぎてしまった。憎しみは一時期、互いの種族を食い尽くさんばかりに巨大に膨れ上がり、人類社会全体を滅ぼして絶滅させてしまうのではないか――?とまで危惧したほどだ。

 

 だから今は距離を置き、限定的な接触のみに制限することで、互いの心に芽生えあった憎しみの炎が弱まる日を待つ――という彼らの主張は理に叶っている。ラクス自身も誘惑を感じさせられたことが何度もあるほどに。

 

 ・・・・・・だが、それでは一体なんのために先までの大戦はあったのだろう?

 あの大戦で死んでいった人達は、今よりも世界が良くなると信じて、そして死んでいったはず。

 

 それらの犠牲を、犠牲になった人々を想う気持ちごと、時の流れと共に風化させて忘れさせてしまった後の世界になってから、再び握手の手を伸ばしてやればいいではないか――というシロッコたちの主張は、合理的であるが故にラクスにはどうしても受け入れがたいものを感じさせられずにはいられない。

 

「・・・その手に銃を持ち、憎しみで撃ち合うのは愚かなことと――そう理解しているつもりでしたが、やはりわたくしも所詮は完全にはほど遠い不完全な人間の一人だったと言うことなのでしょうね・・・・・・。

 憎しみと同じように、失われた人達への哀惜や、犠牲に報いようとする想いもまた、犠牲を伴う愚行を続けさせてしまう理由になるものなのだ――と。

 頭では理解できるようになりましたが、未だに受け入れる心を持つことまでは出来そうにありません・・・・・・失ったものが、あまりにも大きすぎる戦いでしたから・・・・・・」

「・・・・・・クライン代表」

 

 苦しそうに胸を押さえる仕草をして見せたラクスを、痛ましげな視線で見守るラメント。

 彼女が一度は世間の求めに応じて、政権首班の座に就きながら短期間で後任に地位を譲ってしまったのは、このラクスがもつ考え方と見解が現状の社会に合っていないことを自覚させられたのが切っ掛けだった。

 

 今の時代の人々が求めている《ラクス・クラインの役割》に、現実の自分自身が応えられる人格と価値観を彼女自身がもっていないという、双方の相違を自覚させられたのだ。

 

 彼女は《第一次連合プラント大戦》時には、故シーゲル・クライン議長の娘として《平和の歌姫》として市民たちから人気があり、父が凶弾によって斃れた後は残された勢力を率いて、暴走するザラ議長と手足となった軍の過激派との戦いに勝利し、カナーバ議長たちの軍事クーデターを成功させる外的要因ともなった存在。

 

 ・・・・・・ただ言い換えれば、実際の政治を担って国の舵取りをした経験など、一度もないまま英雄扱いされるようになっているのが、現在のラクス・クラインに与えられている評価なのだ。

 

 勢力を率いる指導者としての印象が強い彼女だが、実のところ彼女自身が何かしらの政策や政治面での地積を上げたことは一度もなく、政治経験さえ僅かしかない。

 父の元で仕事を手伝っていたことこそあったとはいえ、あくまで政治家としての価値があったのは父親で、娘でしかない自分の立場は民間人と変わるものではなかった。

 

 連合の新造戦艦《アークエンジェル》に保護された際、人質としてクルーゼ隊を退かせる効果こそあったものの、あれは『父親のプラント議長』という立場に対する対応でしかなく、翌年に選挙で敗北して下野した後に同じ要求をしていたときにも同じ対応をしてもらえたか?という点ではラクス自身も疑問を抱かざるをえない部分だ。

 

 そんな彼女にプラント市民たちが、政権首班の地位につくことを求めてしまう理由と原因を、ラクスは痛いほどに自覚している一人であった。だからこそ辛い。

 

 

 『信じる相手を選び間違えたときのリスクが大きすぎる』

 

 

 ・・・・・・只それだけが、自分に対して市民たちが思想面でのアドバイザーとしてだけでなく、政治的トップに立つことまで求められている理由。その全て。

 そういう願いを抱く気持ち自体は、分からない訳ではない。

 

 最初に信じたシーゲル・クラインに失望し、次に期待したパトリック・ザラは《真のオペレーション・スピットブレイク》で思わぬ大敗を演じた後、完全に暴走して悪戯に戦禍を広げるだけで犠牲を拡大。遂には味方もろとも敵を撃とうとする暴挙に出るまで至っている。

 

 そこまでしてナチュラル絶滅に固執した理由が、個人的な復讐心を満たすためでしかなかった真相を、今のプラント市民たちは知ってしまった。

 そんな彼に見切りをつけ、主戦派を遠ざけて穏健派で宥和政策を唱える新たな指導者として、ギルバート・デュランダルは一時期熱烈な歓呼と圧倒的な支持をプラント市民から寄せられるまでに至っていた。

 

 だが彼もまた、市民たちを裏切って『必要な犠牲』として死なせ続けていた事実を、今の彼らは知っている。

 第二次大戦が起きる引き金となった《アーモリーワン》への連合軍襲撃と、新型MSの奪取は、デュランダル自身が機密情報を敵側に流すことで誘き寄せた結果だったことが戦後の調査で判明している。

 それに続く《ユニウスセブン落下》も、彼がテロリスト化していたザフト軍離反部隊にコンペイションで敗れて正式採用されなかった次期主力機候補の新型MSを提供することで可能になっていた。

 

 それらの後に続く被害と犠牲の数は、今さら語るまでもない。

 信じて任せた相手を選び間違えたことで、数万に上る人命をデメリットとして要求される羽目になる―――

 

 そう思えば、両者がことを起こした時に最初から真相を見抜いて信じなかった“と思われている”ラクス・クラインにこそ政治面での首班の地位を望まれるようになるのは、民衆たちの心理として仕方のない部分があるのも事実ではあるのだ。

 

 

 

 ――暦の異なる地球圏で、一つの思想の提唱者にはなれたが、政治家にはなれなかったが故に殺され、その政治的地位を乗っ取られた人物と同じ立場に、生きながら立たされてしまっているのが今のラクスが抱かされている苦悩だった。

 

 後に彼は、自らを殺して地位を奪った者達がおこした戦争への憎しみから、自分の娘にこう評されている。

 

『父が、もっとしっかりザビ家の頭を押さえてくれていたら』

 

 と。

 人は全ての分野において完璧になることは出来ない。もし彼女の言が正しかったとするならば、彼の兄にはこう求める資格があったことになるだろう。

 

『アムロが、地球の人々をニュータイプへと導く指導者になってくれれば・・・』

 

 と。

 だが現実には彼女の父は完全無欠ではなく、政治家としては死ぬまで成功することができず、彼の兄が最も評価し続けた人物は一兵士以上の存在になることを生涯拒み続けて、戦乱が起きるのを未然に防げる立場になることは一度もなかった。

 

 人はマシーンにはなれない。

 だが厄介なことに、政治的問題で苦しめられた人々は、自分たちを導く指導者の地位に立つ者達にだけは、『矛盾なきマシーンになること』を求めるのを『当然の権利』と信じてしまうようになる悪癖を捨てることも出来てはいなかった。

 

「そう言えば、そろそろ《ミレニアム》が寄港する予定日でしたな。一ヶ月ぶりでしたか? ヤマト准将も今回は少しぐらいなら休養できるのでありましょう?

 ラクス代表も彼と共に、久々の休暇をお過ごしください。どのみち今すぐに解決できる問題で悩んでいる訳ではないのですから」

「ええ・・・そうさせて頂こうと思います。お気遣い感謝しますわ、ラメント議長」

 

 気を利かせるように言ってくれた相手の言葉で、ラクスの心は少しだけ軽くなり、だが同時に重いものも心のしこりのように感じさせられるのを、都合よく防ぐことはできそうになかった。

 

 キラと会えると思うと、やはり心が浮き立つものを感じずにはいられない。

 ・・・だが一方で、最近の彼が見せるようになった表情を思い出すと、不安と気遣いに重苦しいものも感じてしまう。

 

 最近の彼は――いや、デュランダル議長を討った後からの彼は、一人で考えに沈むような顔を見せることが多くなっていた。

 その卓越した能力故に、彼自身が下した選択への責任故に、今も続いている戦争の矛盾を一人で背負おうとしているかのような・・・・・・そんな重苦しさを感じさせられ、ラクスとしては察せずにはいられないのだ。

 

 

 そして、だからこそ、彼女は気づかない。

 自分が愛するキラが抱えている、戦争の矛盾を背負うという行為の矛盾を。

 愛する男の苦悩なればこそ、生の感情に流されて正確な評価と判断を下すことができず、彼女自身も道に悩む未来へと繋がっていくことになるのだ。

 

 戦争が抱える矛盾を背負うことを望むならば、指導者にならなければならない事実を。

 パイロットだけをやっている立場と道を選んだなら、政府の決定と命令に批判はしても、変えさせることなど出来ない立場に甘んじることも受け入れなければならない事実を。

 

 どれほど強くとも、ただのパイロットに世界を変える力など無く。

 今のような時代に、卓越した能力を持っているだけのMSパイロットに出来ることなど、人殺しぐらいしか無い。

 

 そんな立場に留まる道を自ら選びながら、ただ『誰よりも優秀だから』というだけで戦争の矛盾を一人で背負おうとするのは―――『自意識過剰』でしかなかった事実を。

 

 ラクス・クラインは、愛情と共感ゆえに気づくことが出来ていなかったのだ。

 所詮は彼女も、生の感情に流されることしかできない、人類の一人でしかなかったから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラント最高評議会ワルター・ド・ラメント議長と、世界平和監査機関《コンパス》ラクス・クライン代表。

 その二人が、ジョージ・グレンが持ち帰ったという逸話をもつ《くじら石》が飾られているホールに向かって歩んでいく。

 

 プラント議場の一角で展開されている光景。

 その光景を、

 

 

「ほぉ・・・ジャガンナートと《ファウンデーション》も、堪えきれずに動き出したか。

 どうやら時代の流れは、私が読んだとおりに動き出したようだ」

 

 ラクスとラメントがいる位置から敢えて距離をおくようにして人に見られぬよう、だが非合法の人物との密談とは思われない形での非公式会談をおこなっているプラント国防委員長の背中を見下ろしながら。

 

 私は先日来から議場内の上層階に与えられている《ネオ・ディサイズ》総帥執務室の窓から、ワイングラスを掲げてガラスの向こうに透かし見た景色の一部として、原作通りに進んでいく結果としての光景を満足と共に眺めていた。

 

 世界情勢と、戦争の推移、各勢力たちの配置。

 それら全てが原作通りのままではなくなっている『FREEDOM』にまで刻と状況が進んだ後となった、現在のSEED世界。

 それらの変化が、今なお残ったままの勢力たちに原作と違う選択を選ばれてしまう危険性・・・・・・それだけが私にとって懸念事項となっている唯一の問題点だった。

 

「楽しそうだな、シロッコ。地球の重力下から帰ってきたときには、いつも不愉快そうにしている君にしては珍しい。誰かを陥れる良い策でも思いついたようだな」

「ククク・・・、人聞きの悪い言い方をするところは相変わらずだなクルーゼ。私はただ、歴史の立会人となれた己の幸運を、素直に喜んでいるだけだというのに」

 

 背後からソファに座って同じグラスを掲げている、この部屋の主からの笑みを含んだ言葉に、私は背を向けたまま同じように嗤いを込めた声音で返し、現在の状況にまで至ることに成功した自分自身の現在の立場に、軽い満足感に浸ることができていた。

 

 

 もしファウンデーション王国が、プラントの国防委員長ハリ・ジャガンナートと密約を交わそうとしなければ。

 ユーラシア連邦が、大西洋連邦から離反した《ブルーコスモス》の残党軍を庇護してファウンデーションと対立していなければ。

 奴らの『真のスポンサー』として、【彼らの種族】が支援する勢力となっていなければ。

 

 

 ――その程度の違いであれば、何らの支障も発生することはなかっただろう。

 ただ行動の内訳と、密約を結ぶ相手が別人に変わった程度では、大した時代の変化など望むべくもなく、今動かなければ後でなら勝てるという類いの問題でもない。

 ただ時代の流れを読み損ねた愚者に成り下がるだけのこと。考慮すべき価値など微塵もない、カトンボへと落ちるだけだ。

 

 私が警戒していた時代の変化による影響は、ただ『相手が動き出すのを辞めること』それだけだった。

 動き出してくれねば、潰しようがない。

 

 不利な情勢に陥ってしまったことで《ファウンデーション》が動かず、地球の一国としての繁栄を謳歌する道を選んでしまっていたなら、奴らを炙り出すため地球の一国がもつ自治権への徹底介入など強硬手段を取らざるを得ないところだったが、反乱を目論み蠢く道を選び取ってくれるというなら何らの問題も無かった。

 

 所詮は、生のプライドとコンプレックスの感情を丸出しにした末に《ディスティニー・プラン》を曲解した独裁者アウラ・マハ・ハイバルには、時代の変化に合わせて自らの行動を変えることは出来なかったと言うことか。

 

「アウラめ、せいぜい派手に激発するがいい。破滅させてやる」

 

 ムルタ・アズラエルに女の女々しさを付与させたかのような独裁者アウラに率いられ、《ブーステッドマン》を復活させたような《アコード》たち。

 『過去のブルーコスモス博物館』とでも呼ぶべきファウンデーション王国の反乱鎮圧によって、この時代における私の役目はすべて完了することが出来るだろう。

 

 その為にも今までの時間は、準備に徹してきた。おかげで不確定要素たり得る敵勢力のほぼ全ては駆逐することが出来ている。

 

 

 今は亡きデュランダルから《オーブ影の軍神》と評されたという『ロンド・ミナ・サハク』には、愛しの弟君や《アメノミハシラ》と共に宇宙の屑と化してもらった。今頃は、あの世か転生先で姉弟仲良く暮らしていることだろう。

 

 

 コソコソと他者の戦いに介入しては、盗賊のように欲しい物だけを盗んでは着服していた、ジャンク屋を隠れ蓑にした泥棒集団には、適当な罪をかぶせて指名手配させた。

 原作内で行っていた行動の中には、違法行為はいくつもある連中だ。

 

 目撃者もなく証拠もないからこそ治安当局の網にかかることがなかった連中だが・・・・・・『転生者』にとっては然したる障害になり得るような壁ではない。

 合法的に奴らを追われる身へと落ちぶれさせる手段など、権力者側に生まれ変わりさえすれば幾らでもある。

 すでに半数のメンバーは獄中にあると聞く。もし奪還を目指していれば、今回の騒ぎに乗じて動き出す可能性は低くないかもしれん。

 

 今のうちに、敢えて奪還させてやるための移送計画でも用意しておいた方が良いかもしれん。

 脱獄の手引きまで罪状に加わるなら、追跡中に凶悪犯として発砲を任意で許可するのも容易になるのだから。

 

 

 傭兵部隊《サーペント・テール》も今はすでに無い

 換えの効かない少数精鋭だったメンバーの半数は死体を確認し、残りの者達も命からがら逃げ散り、地下へと潜伏している。

 

 彼らの言っていたとおり、戦乱が終わった後も腕のいい傭兵の需要がなくなるということはないのが現実の世界と有力者たちというものだろうが、それは彼らが戦乱を終結させて秩序維持者となった勢力にとって邪魔者にしかなりえない事実を意味しているものでもある。

 表向きだけでも平和になった世界に、政府機関の統制をはなれた強力な戦力が、自由行動の権限をもったまま存在し続けるのは目障りでしかない。

 

 かつて『アリー・アル・サーシェス』が所属した《PMCトラスト》と同じように、彼らサーペントテールの傭兵たちも遠からず滅びる運命しかありえなかったのだ。

 実働戦力の中で、叢雲劾だけには満身創痍ながらも逃げ延びられてしまったが・・・・・・今回の戦いのいずこかで、必ず奴は私の命を狙いに来るはずだ。

 

 この機を逃せば、仲間たちの仇を討てる機会はテロによってしか無くなるだろう。それが分からぬ劾ではない。戦闘の中で奴は必ずや我々に挑んでくる。その時にとどめを刺す。

 いつも舞台の脇から人の演技を論評し、美味しいところだけを掠め取りたがるスーパーコーディネイターのなり損ないには、いい加減ご退場頂きたいのでね。クックック・・・。

 

 

「これで、アコードを擁するファウンデーション王国を潰せば、邪魔者は全て排除することが出来る。

 《ネオ・ディサイズ》の権限と戦力を与えさせるため、敢えて生き延びさせてきた、死に損ないのブルーコスモス残党部隊とユーラシア連邦の老害どもには、そろそろ役を若手に譲って引退してもらう時期でもある。廃物は早く処理してやらねば、下水が詰まって仕方がないからな」

「オーブはどうする気でいるのかね? ――“キラ・ヤマト”がいる、あの厄介な中立国を」

 

 クルーゼが笑みを含んでいた口調の中に、途中でかすかな苦みを感じさせるものへと変えさせながら問いかけてきた質問に対して、私は年来の友を振り返りながら白い歯を見せつつ笑って応えてやることにする。

 

 ――彼の中では、未だに完全に割り切ることまでは出来ていないらしい、私と出会うまでの人生を縛り続ける最要因となっていた少年の存在は、今なお彼の心に小さくない影響を与え続けていることを確信させられながら――

 

「何もする気はないさ。少なくとも私の側から手を出すべき理由とメリットを、あの国はなにも持ってはいない。

 専守防衛の理念が縛りとなって、手を出されない限りは、自分たちの方からも手出しのしようがなく、せいぜいが地元ゲリラを影ながら支援するのが関の山でしかない南海で中立を謳う孤独な島国だ。放っておくさ」

「・・・つまり、手を出す気はないということか? コチラからはなにも?」

「ああ。少なくとも、向こうから手を出ししてこない限りは、我々の側からオーブと戦端を開かせる気はない。

 ――もっとも、政府が政治的介入をおこなうことまで、我々が口出しできる権限もない訳だが」

 

 私からの返答に、クルーゼは呆れたような雰囲気を仮面をかぶった顔の上から感じさせ、仮面の下にある隠れていない口元に、うっすらと愉悦の笑みを浮かべる歪な笑顔を垣間見せる。

 

 こちらの意図を正しく理解して受け取った、という意思を示すボディランゲージだった。

 今回の議会で採択されたという、『地球上の全コーディネイター強制移民計画』には当然ながらオーブ在住のコーディネイターたちも対象範囲に該当する。

 

 無論、形式的な面が強くなっているとはいえ、先の大戦では最終局面で共に戦った同盟国として相手側の自治権を犯す訳にはいかないのが外交というものではあったが・・・・・・逆に言えば本人自身が望んでいる移住を、オーブ政府側が拒否できる正統な権利もまたないことを意味してもいる。

 

 ならば、そちらの道を選びたくなるよう状況を動かしていくだけのことだ。

 すでに貿易相手国への圧力と、流通する品物の量を調整させることによって、結果的にオーブと通商条約を結んでいる相手国から得られる貿易利益は例年を下回る水準となって久しい。

 

 もともと対立し合う二つの勢力同士の中間に位置することで、直接的には交易できない相手国との仲介役を果たすことで三角貿易を成立させ、莫大な利益を得られることが可能になるというのが、《アナハイム・エレクトロニクス》にせよオーブにせよ、彼らの立場にある者達にとっては常套手段というもの。

 

 イザークのように若さに似合わぬ石頭の軍事バカであれば、「敵側の兵器類まで販売しながら中立などありえない」などと青臭い理屈を言い出すかもしれぬところだが、現実の中立はそうではない。

 

 考えてみれば誰にでも分かることだ。

 自分たち用の兵器を造って、売ってもくれない相手国の中立など、尊重してやったところで一体なんの得がある? 中立国とは遙か昔から、そういう風にして成立可能になる国のことだった。

 理屈ばかりが先行して、現実を見なくなった愚か者どもには、それが分からぬ。

 

 

「すでに今年度のオーブが貿易で得られた利益は、3年前に比べ大幅に減少したものになっている。これを少しずつ下げていき、代わって我らプラント製の商品を地球各国には普及させていく。

 数年もすればオーブは、選択を迫られることになるだろう。

 このまま国の理念を貫きながら、南海で孤立した“かつての技術立国”として歴史に名を残して衰退するか。

 それとも、露骨な自治権介入を実行し続けてくる我ら《ネオ・ディサイズ》へと牙を剥き、国を存続させるため自ら国是に背いて、自分たちから勝利と栄光を求めに来るか。

 いずれにしろ、我々にとっての障害物となり得る存在を排除する大義名分を得ることが出来るだろう。いささか俗っぽい言い回しだが、正義は我にあり、というところだな」

「・・・・・・相変わらず、えげつないことだな。だが、そうなる未来を予期できない間抜けばかりの国とも思えん。

 あるいは今回の一件でオーブとファウンデーションが同盟を組み、我らの覇権を阻もうとする恐れもあるのではないか?

 “敵の敵は味方”――パトリック・ザラ辺りなら、やりそうな手だと思うが、オーブの場合は果たしてどうなるかな」

 

 言葉では懸念を口にしながらも、声は明らかに楽しんでいるらしいクルーゼが、他国の不幸を愉悦の味とばかりにグラスに注がれていた液体と共に飲み干すのを見届けながら。

 

 私もまたグラスを掲げ、自らが愛好した男の生涯を飾るに相応しい栄光を、言葉として親友の疑問に対する答えとする。

 

 

「好きにさせてやれ」

「・・・・・・なに?」

「好きなようにさせてやればいいと言ったのさ」

 

 志を持たぬ憎しみの連合体でしかないアコードと、志を捨てて保身に走ったオーブとの同盟が上手くいくはずもない。

 自らの存在を自己否定し、軍組織だけが残った者達の末路など、支えていた柱となる中核が一本失われただけで脆くも崩壊して、持ち直せる理由はすでに自らの意思で失われてしまった後。

 

 アクシズ然り。ロームフェラ然り。袖付き然り。

 そして、ティターンズに勝利した後のエゥーゴ然り。

 

 滅びるべき運命へと、自らの意思で進んでいった者達の集団だったのが彼らだ。

 ならば私は、中身を失った死骸を燃料として、不死鳥を羽ばたかせる礎を創り出そう。

 

 それこそC.E.に転生し、コーディネイターとナチュラルたちが種族の違いで争い合う、宇宙世紀とは異なる暦の世界での戦争に相応しい、シロッコの演じるべき役割。

 

 シャア・アズナブルの役割が必要なのが、この世界の状況。

 ならば求められる役割を演じることで、自らの目的を達成するシロッコに、自ら望んで生まれ変わった者として私の果たすべき役目は既に決まっている。

 

 その結末が、『シャア・アズナブルのなり損ない』で終わるか否か。

 全ては、C.E.最後の戦いで決まることになるだろう―――

 

 

 

 

つづく




【今作版「FREEDOM」における設定説明】

コンパスの役割:
戦力・活動内容共に原作とほぼ同じ。ただ原作時よりも「救難・復興」に多くの比重が割かれ、キラたちMS隊は戦地での救難活動を護衛するための部隊という役割と認識されるようになっている。

ラクスが提唱し、中立の国際救助組織として設立されたが、テロ対策部隊としての機能と権限は持たされていない。
活動資金などはプラントの同盟国のままのオーブからも出されているが、先の敗戦国側である地球の一国であることから原作よりも立場が弱く、名称を「監査機関」という曖昧な言い方に留める理由に繋がっている。


地球の状況:
先の大戦の敗北によって、地球連合軍は瓦解させられ、盟主国だった大西洋連邦は完全にプラントの俗国と化している。
ただ地球連合軍という枠組みそのものが、地球統一国家軍だったわけでも何でもない大同盟に過ぎない存在だったため、「地球連合の敗北=地球国家全体の降伏」を意味するものではなく、立場は以前より弱まりながらも主権国家として今なおユーラシア連邦などが非公式に抵抗を続け、大西洋連邦から離反してブルーコスモス軍と化した部隊を領土内に匿っている等している。

別名「C.E.版のジオン共和国」


ネオ・ディサイズ:
Zにおけるティターンズやロンド・ベルと同じく「対テロ組織」として独立部隊を担っている。
活動内容はロンド・ベルよりもティターンズに近く、強権的な手段や詐術すらも良しとするやり方には不満もあるが、ティターンズと違って一般市民には手を出さないため敵国からの不満ばかりで大した問題になっていない。

ただし、ユーラシア内に隠れ潜むブルーコスモス陣営に対して【正統ブルーコスモス軍】と称した離反部隊を装っての国境侵犯の攻撃を行ったり。
彼らのシンパたちが多く居住する地域に、「ブルーコスモス徴兵部隊」を名乗って活動資金を強奪させに行ったりなど、嫌がらせ&挑発行為を連発し続けるなど悪役組織らしい非公式活動も多く裏では行っている、ヤクザみたいな面をもつ集団。

これは「偽のマフティー・エリン」から着想を得たもので、純粋な革命家思考の組織ではないことを現わす一面にもなっている。


ラクスがシロッコに賛成しない理由:
彼女としてはシロッコのやり方だと、「今の憎しみは時が忘れさせる」としても「問題の根本解決には繋がらない」と考えており、結局は再発するのでは?という懸念から賛成までは出来ずにいる。

時間経過で上昇した技術力と勢力の拡大は、今と同じ行為を未来で行った際に被害をはるかに拡大させてしまう恐れがある事を危惧している。


一方でシロッコの場合は、時間の経過で両種族勢力の差は、今よりはるかに大きくなる一方だと予想している。
すでに資源が枯渇し始め、発展する余地が失われかけている地球が厄介なのは戦力だけであり、今の時点で力ずくの抵抗を全力で行われなければ、いずれは衰退して辺境の一惑星に落ちぶれるだけだと予測。

そうなった後なら、人類発祥の星として住人もろとも大切に保管して「博物館惑星」にしてやっていいという、地球を重視しない考え方に基づく計画。

「第一世代コーディネイターの供給元」として使うため、ナチュラルを絶滅させることは考えておらず、中小零細国家ばかりが乱立して大国のない地球の誕生を計画している。

ナチュラルが自身の手で自分たちを養い、不測の事態に備えて自腹で第一世代コーディネターの供給源であり続けてくれるのなら楽でいい。


地球圏を管理運営する立場になることを、今作版シロッコは望んでおり、それを「C.E.の人々に望まれたシャアの役割」と表現したもの。

シャアもシロッコも、「他者が自分に求める役割」を望まれたとおりに演じることによって「自らの目的を達成させる」という方針では一致していた者同士。
必ずしもアクシズを地球に落とすことがシャアになることを意味しない。

小説版ファーストの「赤い彗星シャア」になるのも、シロッコがシャアとしての役割を演じることを意味しているのだから……。
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