転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。   作:ひきがやもとまち

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シロッコSEED FREEDOM。良くも悪くも更新です。
半ばオリジナル設定のため手こずり易く、完成が遅れて申し訳ありません。
釣られて本編まで時間かかっちゃいましたしね……コッチ終わったので次はソッチ急ぎます。


番外編【転生した私はコズミック・イラの立会人になろうFREEDOM】第3章

 二度にわたって行われた地球プラント間による大戦は、ザフト軍の勝利によって終結の刻を迎え、プラント評議国は《C.E.》世界における地球圏の覇者として君臨することに成功していた。

 

 この敗戦によって、戦力の過半と地球に住む者達からの支持を失った大西洋連邦は、地球連合における盟主国としての地位をも損失することになる。

 だが、それらの屈辱と敗北をコーディネイターへの強い差別意識をもつブルーコスモス支持者たちに受け入れられる可能性など、ある訳がない。そういう連中だ。

 

 形ばかりの国家主権を尊重するとして自治権を許されただけにまで落ちぶれた旧母国を離脱した彼らは、残された戦力を率いて新たな寄生先として地球連合の副盟主国だったユーラシア連邦を選んでいた。

 

 彼らは《ブレイク・ザ・ワールド》に端を発する混乱のなかで、一部地域が分離独立を叫んで紛争が多発するようになった軍事緩衝地帯に隠れ潜むと、表向きはユーラシアと敵対しながら裏では『対プラント・反コーディネイター』で結ばれた同盟関係を維持し続けているのだ。

 

 敗戦後も軍の一部が抵抗を続けるため、政治的にも軍事的にも介入と摘発が難しい一帯に残党軍が拠点を築く―――という点で彼らの行動は『一年戦争』の後、暗礁宙域に《茨の園》を建設させていた《デラーズ・フリート》を彷彿とさせるものがある・・・と言えないこともない。

 

 だがデラーズ達に有りながら、彼らには無かった、致命的な違いが一つだけ存在する。

 『志』の有無だ。

 

 

 ことの善し悪しや善悪とは全く無関係にならざるを得ない分野での話にはなるが・・・・・・デラーズ達が掲げた《ジオニズム》は、『スペースノイドの自治権確立』という、戦争に勝った後について明確なヴィジョンが示されている。

 

 後の戦乱によって政治利用のため曲解され続けたことで《ジオニズム》とは『ニュータイプ論のことだ』と誤解する者まで出るようになってはいたが、大本としてのジオニズムには『地球と対等な宇宙国家としての共存共栄』という『希望』が示されるものだったからこそ、一般の人々からも支持される思想となり得ることができたのだ。

 

 それに比べ『ブルーコスモスの教義』は、コーディネイターへの憎しみと恨みと危機感だけしか存在していない。

 その点で考えれば、彼らに近い組織は《デラーズ・フリート》より、むしろ《アクシズ》の方が酷似している。

 

 同じジオン残党最大の勢力でありながら、彼ら二つの組織には大きく異なる点を有していた。それは彼らの大本となるジオンという国家体制そのものに起因する。

 ジオン公国はさまざまな問題を抱えた集団だったのは事実だろう。

 

 だが彼らには、《ジオニズム》という《思想》

 『ジオン軍』という体制の防衛力たる《軍事》

 軍を養い運用できる国家体制がになう《政治》

 ダイクンの遺志を次ぐと称した『ザビ家』という象徴であり《偶像》

 国家成立に必須とされる『思想』『軍事』『政治』『偶像』の四つを備えた、曲がりなりにも疑似国家としては確立することが出来ていたのである。

 

 やり方はどうあれ、デラーズやガトー達は『国家としての政治』と『正規軍をもつ軍事』の二つを失いながら、『思想』と『偶像』という精神面での支柱となる二つが残されていた。

 

 ザビ家の血を引くミネバを傀儡としたハマーン率いるアクシズには、『軍事』『政治』『思想』の三つが欠落した窮状で『偶像』であり『象徴』としての、親を失った幼女だけしか残っていない、空洞化した組織に成り果てていたのだ。

 

 それ故にアクシズ軍はハマーン自身も、彼女に反逆したグレミーでさえ、『戦う必要性』と『勝つための道筋』を兵達に語りはしても、権力掌握後の展望を人々に示すことは避けたのだろう。

 

 後に連邦の傀儡国家となったジオン共和国の『ジョナサン・バハロ』が《サイド共栄圏思想》を立案してはいるが、あれは『利害損得だけで人同士は結びつくことが出来るものだ』という前提でのみ成立しうる経済思想に過ぎぬものだった。

 頭の中だけの理屈のみで考えられた、世界を変える新たな社会制度など、その程度のものだ。

 

 

 ――そして現在。

 C.E,75の地球において、《偶像》だけを支柱として組織を維持しようとしたハマーンの愚行を再現しようとする愚か者たちが、新たな戦乱の火種を世界にもたらそうとしている。

 

 《思想》面での指導者だったアズラエルやジブリールを失い、ミケール大佐という軍人を初めて指導者に据えたことで《政治》を捨て去り、《軍事》としての軍組織すら維持できなくなってテロ集団へと落ちぶれ・・・・・・コーディネイターへの憎しみと脅威という《偶像》であり《象徴》だけしか残っていない、ブルーコスモス派の地球連合・残党軍。

 

 デラーズ・フリートによるコロニー落とし作戦《星の屑》は、巨大な被害をもたらしながらも歴史を変える一弾になるものではあった。

 だが同じく地球にコロニーを落としながらも、地球連邦との交渉のため利用しかしなかったアクシズ軍の同類でしかない彼らでは、『壊す』という形でしか現状の世界を変えることはできないだろう。

 

 

 そのような者達だからこそ、『彼ら』にとっては利用価値があった。

 そうである以上、それは私自身にとっても同様だということでもある。

 

 彼らが、世界に望まれて生まれてきたのなら。

 世界は彼らのものであり、彼らは世界のものならば。

 

 

 この私は、この手に世界を欲して、自らの意思でこの世界を選び生まれ変わった、傲慢な男なのだから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧地球連合の副盟主国ユーラシア連邦の一角、《エルドア地区》

 ユーラシア領内でありながら、独立反乱勢力が跋扈する軍事緩衝地帯となっている地域には現在、《ブルーコスモス》の拠点になっている。

 

 その土地に建つ砦跡の地下に広がる坑道には会議室が設けられ、母国を脱してユーラシア軍と密かに合流した大西洋連邦残党軍の首脳陣が集められ、緊急の会議が開かれている最中となっていた。

 

「なんたるザマだ! これはッ! この惨状はッ!!」

 

 だが会議は、のっけから騒然とした雰囲気に包まれた状態で始まらざるを得なくなっている。

 壁面の一部に設置されている巨大スクリーンに映し出されている映像と、流れてくる音声によって会議の参列者たちに知らされた『自分たちの作戦結果』が、その理由だった。

 

『オルドリン自治区での被害は、死者428名にのぼり、これでブルーコスモス残党勢力によるテロの死傷者は二千名を超えました。

 ですが、駆けつけた《コンパス》および《ネオ・ディサイズ》の奮闘によって、他の地域への被害拡大は免れることができた模様です。

 プラント政府は、このテロの首謀者であるミケール大佐を国際指名手配とすることを地球各国政府に要請し、組織の解体を目指して尽力することを強く求めています』

 

 スクリーンに映し出されているのは、先日攻撃させた直後のプラント経済特区オルドリン自治区が瓦礫の山と化した無残な姿として映し出されている。

 映像の各所には、攻撃隊によって破壊された町並みだけでなく、攻撃隊の《ダガーL》や《ウィンダム》も残骸なども所々映っており、巨大すぎる黒色の鉄屑はおそらく撃墜された《X-1デストロイ》のものだろう。

 

 ――それはいい。

 元々から帰還を前提としない特攻作戦として立案されていた攻撃計画なのだから、参加した者達にも皆、覚悟というものが求められるのは当然のことでしかない。

 そうでもしなければ現状の自分たちによる攻撃によって、宇宙のバケモノ共に効果的な打撃など与えようがないのだから仕方がないと列席者たちは既に割り切っている。

 

 だが――そうまでして求めていた成果が得られなかった、という結末は彼らに取ってさえ許容できるものでは決してない。

 

「オルドリン攻撃が成功しても、カナジを反撃に巻き込ませるのに失敗したのでは、何の意味もないではないか!!

 その為にこそ、残り少ない完全状態のデストロイをも投入したというのにッ!」

 

 歯軋りせんばかりに吠え立てる同僚による今更過ぎる恨み言を、だが誰も制止しようとする者はいない。

 悔しい思いと無念さと理不尽すぎる結果に対して、不愉快さで胸を焦がしていたのは全員が共有している悪感情だったからである。

 

 

 ――こんなはずではなかった。

 今までに3度の同じ攻撃方法を使ってきたことで、ザフト軍兵士たちはフラストレーションを溜め込んでいる状態に陥らされていた。

 「タレ込み」という形で新指導者ミケール大佐が前線指揮をしている、とザフト軍司令部から前線部隊に通達されるよう誘導すれば、必ずや誘いに乗ってくるはずだった。

 その情報に信憑性を持たせるため、虎の子のデストロイまで投入している。

 

 攻撃されて被害を被る側の一般市民層にも、主力メンバーたちをコーディネイターが担っている《コンパス》や《ネオ・ディサイズ》に対する不平不満や不信感が高まっている時期でもあった。

 

 エネルギーというものは、それが原子力であれ悪感情であれ、一度火を入れてガス抜きをしないまま堪り続けていけば、いずれは暴発して周囲を焼き尽くさずにはいられない。

 それによる効果こそを目論んで実行されたのが、先日の彼ら《ブルーコスモス軍》が行った作戦だった。

 

 その結果と効果が、この為体。

 

『また、今回の被害を重く見たプラント政府は、オルドリン自治区に居住するコーディネイター市民たちの安全を優先し、被害を免れた人を含めた宇宙への強制移民を断行することを政府方針として決定したと発表しました。

 市民たちの中には生まれ育った地への郷愁から残留を希望する人もいましたが、家族の身の安全を鑑みてコロニー移住を了承。来週中には現在生き残っている全住民が、宇宙への移民を完了する予定となっています。

 この方針転換により、今までは経済特区に限り本人からの承諾を得ることが条件とされていた地球在住コーディネイターの宇宙移民が、更に加速するのは確実として各国政府は――』

 

「地球上からコーディネイター共が住んでいる場所がなくなれば、衆愚共の批判と恨みを奴らへと向けさせる口実が絶たれる!!

 それでは人員の補充が困難になる一方ではないか! これでは反攻作戦どころではないぞ!!」

 

 忌々しげな口調に怒りと恨みを目一杯込めた憎しみの言葉を、その参列者は会議室に集った全員に聞こえるよう轟かせた。

 それに対する反論はない。否定的な意見もないが、全員がその意見の正しさに不快な感情を強く抱いていることだけは確実でもある状況。

 

 彼らブルーコスモスの支持基盤は、【コーディネイターへの憎しみ】にある。

 だが反面、先の第二次大戦終盤にプラント議長デュランダルによって暴露された、悪名高き《死の商人ロゴス》と各国首脳との繋がりや、《X-1デストロイ》による反抗的な民間人への虐殺行為などが知られるようになったことで、今ではブルーコスモス自身が『民衆たちからの憎しみ』を買う立場へと墜ちてしまっていた。

 

 もはや以前までのように、相手から行われた非人道行為と被害だけを糾弾して支持を集められる状況に、ブルーコスモスは既になくなっていたのだ。

 そのため彼らは、方針を根底から変更させる。

 

 自分たちが『相手側の犯した非道』を世に知らしめ、正義は我にありと叫ぶのではなく。

 敵を感情に駆られさせ、『正義なき感情を満たすための復讐に巻き込ませる』という流れへと誘導するよう仕向けさせることにしたのである。

 

 これにより、コーディネイターにとって自分たちナチュラルは『自らの感情を満たすためなら巻き込んで死なせてしまって別にいい存在』としか思われていないのだと、相手自身の行動により事実として知らしめさせるのが目的だ。

 

 そうなれば、地球に生きるナチュラルの市民たちには、自分たちが生き続けるため好むと好まざるとに関わらずブルーコスモスに参加してコーディネイターから身を守る以外に選択肢をなくすことが可能になるのだ。

 

 

 ・・・・・・だが、肝心のコーディネイターが暮らす地上都市が、地球上から無くなってしまったのでは憎しみの煽りようがない。

 

「既に我らは孤立しております。次の作戦立案も急がせていますが、コーディネイター共が地上で不当占拠を続けている都市が付近にある地域となると、やはり現状そう都合よくは行かず・・・・・・」

「厄介なのは、それだけではありません。このエルドア周辺の反乱勢力共もきな臭さを増しつつある状況です」

 

 額に脂汗を浮かべて喘ぐように作戦立案の現状を報告していた作戦参謀に続いて立ち上がったのは、諜報部門の責任者だった。

 

「会議の後、皆様の自室にも詳細な資料を届けさせますが・・・・・・ユーラシアからの独立だなんだと騒ぎ立てる跳ねっ返り共の中で、バケモノ共と変になれ合う連中が使っている装備品に、たいへん不快な代物を見つけまして―――コレです」

「――むッ! これは・・・」

 

 立ち上がった列席者の操作に従ってスクリーンに映されていた映像が切り替わり、どこかの村か集落付近でおこなわれた小規模な戦闘の様子が、一枚の写真画像として映し出されている。

 

 その景色には何人かが見覚えがあった。

 自分たちが新たな根拠地としているエルドア地区の周囲に乱立し、独立を主張しているナントカいう国名の小国だった過去をもつ地域だ。

 その土地では重要な意味をもつ建造物が映っていたので覚えている。

 

 だが彼らが警戒したように声を上げたのは、そこではない。画面の中央近くに映っている幾つかの巨大なシルエットこそが重要だったのだ。

 

「これは・・・・・・《ダガーL》か? 装備に見覚えはないが、《ウィンダム》も映っているようだが」

 

 別の一人が首をかしげながら疑問符の声を上げる。

 彼には、その画像の何が問題なのか分からなかったらしく、友軍のMS部隊が反乱勢力のゲリラ共を制圧しただけの映像に、いったい何の意味があるのかと小首をかしげるだけでしかない。

 

 だが、悔いいつ用に見つめていた幾人かのメンバーたちは、その画像の違和感に気付いていた。

 確かに画面内に映っているのは、連合軍制の量産型MS《ダガーL》と《ウィンダム》だ。自分たちも運用している主力機なのだから間違えるはずはない。

 

 ・・・・・・だが、妙に細かなところでディテールが変わっているように、彼らの目には感じられていた。

 どこかが、なにかが。自分たちが使っているナチュラル用OSを積んだMSとは違っているような、そんな気が――

 

「・・・・・・ッ!! おい、少佐。まさか――まさか、この《ダガーL》と《ウィンダム》は・・・ッ!?」

「はい、中佐。ご推察の通りです。これらの機体は、我が軍のものではありません。ゲリラ共が操って、我が軍との戦闘に使用したものです。既に被害を各部隊に確認しております」

「MSをゲリラ共が使っているだと!? 生産拠点も技術もない奴らが、いったい何故・・・・・・どうしてそんな事になったのだッ!!」

 

 信じられない想いで将校は否定の言葉を叫び、諜報部門の責任者を問い詰める。

 戦場で放棄されていたMSを回収し、修復したものを各勢力に売却しているジャンク屋の存在は知っていたが、ことは単に連合軍のMSをゲリラたちが購入した、というだけではない。

 

 精密機器とハイテクの塊であるMSの操縦には、相応の訓練とノウハウが必須のはず。ただ物だけあれば動かせるという優れたセンスの持ち主も希にはいるが、数が揃うはずもない以上、この部隊には操縦訓練を指導する教師役がいたはずだった。

 

 では、それは誰なのか? ナチュラル用のMS操縦をナチュラルに教導する以上は、ナチュラルの教官こそが優れているはずではあったが、そのような人材が果たして―――

 

「FSSで確認したところ、これの機体は大西洋連邦軍が、戦後にザフト軍によって接収されたものであったことが判明しました」

「!? バケモノ共が、我らの使っていたMSをゲリラ共にくれてやったというのか!」

「はい、おそらくは・・・。どうやら接収したものを、そのまま武器商人へと売却し、それをユーラシアの独立勢力へと安値で売りつけるよう最初から段取りがつけてあったようでして・・・」

「なんたることだ! 節操無しな宇宙のバケモノ共め!! 我らと戦うため、我らの機体をゲリラ共にバラ蒔くとは・・・!! おのれェッ!!」

 

 怒りのあまり額に青筋を立てて喚く連合軍士官の一人。

 ゲリラたちの背後に、現在の大西洋連邦政府が関わっているとすれば、操縦指導のための人員派遣など簡単にできてしまう。

 ザフト軍としては、別に自分たちの懐をなんら痛めることなく、敵の旧式兵器をリサイクルしただけで敵の足を引っ張り合う結果が得られるのだから満足だろうが、やられる側にとってそれは屈辱であり堪ったものではない。

 

 挙げ句、それらが分かったところで手の出しようがないという事実が、彼らの精神を最も過敏に刺激されていく。

 ユーラシアと手を結びながらも表向きは敵対関係を装い、国際社会からは孤立している自分たちが幾ら『ゲリラたちへの武器供与や横流しを止めろ』と非難したところで、敵の政府が相手にするはずもないという程度のことは流石に彼らでも理解せざるを得ない。

 

 言ったところで無意味に終わるしかないと、分かり切っているからこそ彼らとしては腹の虫の治まりどころが見つからずに憤ることしか出来ないのだ。

 

「ユーラシアは!? ユーラシア連邦はどうしているのだ! この一帯は地図上で奴らの領土だ、彼らから批判を浴びさせれば――」

「それは既に行っていたようだ。だが再三の批判や苦情を申し入れても、無視され続けているそうだがな。

 『兵器の接収は降伏直後にザフト軍により行われ、接収された後に感知できる立場にない』という返答を繰り返すだけだそうだ・・・」

「チィッ! 《ネオ・ディサイズ》の差し金か! 奴らめ、あざといことを・・・ッ!!」

 

 能力自慢で、ゲリラ共を支援しても兵器供与には消極的だったコーディネイターらしからぬ手法を説明されて、列席者の一人が舌打ち混じりに罵り声を口にだす。

 プラントにはカナーバ政権の頃から、地球各地の独立運動を影ながら支援していたものの、ゲリラたちにMSを提供しようとはしなかった。

 

 それはナチュラルのゲリラたちが独立を勝ち取った後、それらの武力を自分たちコーディネイターに向けてくることを恐れたのが理由の一つではあったのだろう。

 彼らを支援する目的は、あくまで地球軍の足を引っ張る重しとさせることでしかなく、今の敵を倒すため新たな敵となり得る勢力を自分たちで育ててしまったのでは何の意味も無い。

 

 そういう点でプラントの対ナチュラルとの外交手法は、常にリスクを優先したものが選ばれるのが常であったが、現在の地上ザフト軍による監視役を担っている《ネオ・ディサイズ》はこのての手法を平然とやってのけるコーディネイター組織らしからぬ一面を有している過激な集団だ。

 

 先日のオルドリン自治区に対する夜襲攻撃でも、《コンパス》が甘い夢想家らしい降伏勧告をおこなってきたのに対して、ネオ・ディサイズは敢えて敗残兵たちを挑発して戦闘を続行させ、完膚なきまでに叩き潰すための口実にしたという報告もある。

 

「卑怯者のコーディネイター共め! だから奴らのように腹の黒い連中は信用できんのだッ!

 だというのに民衆共は易々と奴らの甘言ごときに惑わされおって・・・・・・衆愚共がッ!」

 

 ダンッ!!と、先程よりも強い力で机を叩く音を響かせた者の怒りは、未だスクリーンの端に表示され続けているニュース映像のインタビューによるもの。

 

『攻撃を受けているのはプラントの施設なんですけど、町中で暮らしている住民は彼らだけではありませんからね。被害に逢われている方の多くはナチュラルなんですよ。

 ですから、巻き込まれる恐れのあるプラント関連の施設がコロニーへと移されるという措置には正直、安堵しているという方が多いのも、もっともだと―――』

 

 世論の結果としては、コーディネイターたちの強制宇宙移民は概ね好意的に受け止められているらしく、これで厄介者と距離を置いて生活できるようになるというなら過去の経緯は水に流してもよいという者まで一定数は存在しているという話だった。

 

 彼らブルーコスモスとしては、途轍もなく愚かなだけの話でしかない。

 監視の目が届かない遙か遠方の宇宙に浮かぶ、巨大な密室でしかないスペースコロニーで奴らが何を開発し、何のための兵器を研究しているのか・・・・・・それらを知る術を自分たちナチュラルが損失するリスクを負うだけではないか。

 

 《ニュートロン・ジャマー》《モビル・スーツ》《Nジャマー・キャンセラー》――どれもコーディネイターどもが、宇宙に浮かぶバカな塊の内側で密かに造り出して戦渦を広めた殺戮マシーンの名。 

 

 地球市民達は前大戦・前々大戦において起きた出来事を忘れてしまったとでも言うのだろうか?・・・・・・そうかもしれない。

 民衆という生き物たちは愚かで、どうしようもなく愚かな生き物だから、目先の安楽な生活を与えてくれると言われれば、灯に惹かれる我の群れのように安易に飛びついてしまう習性を生まれ持たされた、愚かな生き物たちが衆愚という存在なのだから。

 その愚かさ故に、先の大戦ではギルバート・デュランダルが語る詭弁に騙されて利用された、直近の過去すらも忘れ去り、いま再びコーディネイターの綺麗事を信じて伸ばされた手を掴もうとしてしまっている。

 

 現在の自分たちは、宇宙戦力のほとんどを損失した状況に陥って久しく、バケモノ共が自ら造り出した宇宙に浮かぶ砂時計に引きこもられては、手の出しようが無くなるしかない。

 

「今ひとつ悪い知らせがあります。地下隧道のルートを使って同士からもたらされた最新情報です。

 ・・・・・・どうやら《ファウンデーション》の奴らが、《ネオ・ディサイズ》と《コンパス》に接近する気配を見せ始めたようでして・・・」

「なんだと!? 事実なのか、それは?」

「まだ確定情報ではないようですが、先日も若作りの女王直々の親書が送られていたという報告があったことを鑑みると、あるいは・・・・・・」

「この時期に厄介な真似を・・・ファンデーションめ、日和見おったか!!」

 

 ダンッ!と拳を机上に叩きつけて怒りを顔面に現す、厳つい顔立ちの連合軍将校。

 その発言内容は、もし非難された側や第三者が聞くことができていたならば、かなり手前勝手な言い分としか解釈しようのない代物だったが、一面的な現実を含んでいる非難でもあったことが彼我の立場の厄介さを示していると言えたかもしれない。

 

 《ファウンデーション王国》は東欧にある王制国家で、今なお専制君主制を続けている歴史ある国の名としても知られ、近年までユーラシア連邦に属する一国でもあった国。

 

 そして病死した国王の後継者として『コーディネイター』が女王となり、統治するようになった忌まわしい裏切り者共の名でもある。

 前大戦・前々大戦の被害と混乱によって盟主国であるユーラシアが弱体化したとみるや、混乱に乗じて分離独立をはかってきた恩知らずなエゴイスト共の親玉が牛耳っている国なのだ。

 

 当然のようにユーラシアが属国の独立など認めるはずもなく、大軍勢が討伐軍として反乱鎮圧のため派遣されたが―――この軍が完膚なきまでに敗北させられたことによって現状の混乱が発生する流れとなっていく。

 思わぬ大敗にうろたえ様を晒してしまったユーラシアの対応を『落ち目』と見た各地の不満分子たちが一斉に決起して独立反乱が相次ぐ結果を招く要因となったからだ。

 

 現在までのところユーラシアが敗北と独立を許してしまったのは《ファウンデーション》一国だけにとどまってはいるものの、以前と比べて国力と権威が大きく低下してしまった現状にあるのは否定しようがない。

 

 さらには報告にあったように、ザフト軍による旧大西洋連邦軍制MSのゲリラたちへの供与などがあったとすれば、この現状は今よりさらに悪化していくことが予想され、改善の目は今のところ見いだせていない。

 

 一方で、ファウンデーションの独立反乱によって引き起こされた混乱は、大西洋連邦から離反したブルーコスモス軍には僥倖だったという一面をもってもいる。

 この混乱によって紛争地帯と化した一帯は、政治的にも手出ししづらい地域となったことで、彼らブルーコスモス軍が入り込む余地を与える結果に繋がっていたからだ。

 

 何より、そういう成り立ちをもつ国であるからこそ、ファンデーションは『自分たちブルーコスモスを守る盾となる存在』そのはずだった。

 

 

「彼の国は、我らがエルドア砦跡を新たな拠点として移転するより以前から、この地で存続してきた者達です。

 地元民の中にもシンパは多く、おそらくは奴らから得られた情報を元に我らの拠点を割り出させ、その情報を手土産としてネオ・ディサイズに媚びを売る腹積もりでは」

「・・・・・・だが、宇宙のバケモノどもの手先に成り下がってしまえば、奴らとて国を失うことになるはず。

 奴らとて、“地球の一国”であるということに、変わりは無いのだから」

 

 そうなのだ。

 情報参謀からの報告に、不審顔で答えた将校からの回答こそが、彼らがファンデーションの行動を『裏切り』と断じた理由になっている部分だった。

 

 

 大前提として、現在のプラント評議会は『宇宙移民』を国策として掲げている。

 地球上に生きる全てのコーディネイターたちを、半強制的にスペースコロニーへと送り出してしまおうというのが、この計画の趣旨なのだ。

 

 そのため同じコーディネイターであってさえ、全面的な賛成を得られているわけではないのが、シロッコとクルーゼが中心になって推し進めている《全コーディネイター宇宙移民計画》の側面的な事実でもある。

 既にして地上に利権を有している者達にとってみれば、自らが有する富の地盤を無価値な土地として捨て去るようなものであり、受け入れられる政策ではなかったからだ。

 

 ましてファウンデーション王国は王制国家。権力の土台は地上にあって宇宙にはない。

 先祖が獲得した、支配権を有する『土地』こそ彼ら自身の土台であり、金銀財宝はともかく支配地域までコロニーへと持って逃げることはできないはず。

 そんな宇宙移民政策を推し進めるザフト軍のラウル・クルーゼ率いる《ネオ・ディサイズ》に膝を屈することは、ファウンデーション王国にとって滅亡を意味していた。

 

「連中がネオ・ディサイズと手を結んで、国内に奴らを迎え入れ、我らの拠点に関する情報を提供すれば、たしかに我らブルーコスモスとの決戦を挑むことは可能にはなる。

 だが、その戦いに勝とうと負けようと、『地上を統治する王国』としてのファウンデーション王国は終わるのだぞ? それを奴らは分かっていてやっているのか?」

「おおかた上手く立ち回って、甘い汁だけ吸えるとでも企てているのだろうよ。小賢しそうに見えて、脳天気な連中だったということさ」

「たしかに・・・・・・所詮は宇宙のバケモノ共の、それも妖怪じみた“ババァ”が女王となっている国だからな。ろくな連中ではあるまい。卑怯な国なのだろうよ」

 

 失笑と冷笑と侮蔑が、部屋中に飛びちり蔓延して、悪意が無形の針となって、今この場にいない者達の心臓に突き立てるように宙を舞う。

 この期に及んでなお、コーディネイターへの悪意と侮蔑と、見下しに基づく決めつけの評価を盲進し続けられる精神だけは、彼らブルーコスモスにとって見上げたものと評せる唯一の取り柄だったのかもしれない。

 

 その見下しが、高くなりすぎたプライドが、敵を侮り上位性を確信したがる願望が。

 現在の自分たちが置かれた窮状へと追い込んだ原因だったと自覚するには、彼らのコンプレックスとプライドは、余りにも高くなりすぎていたのだ・・・・・・。

 

 

「――それで? その件についてユーラシアは、なんと言ってきている?」

 

 

 議題とは無関係な悪意によって場が閉められ、脱線しかかっていた議場内に静かで理性を失っていない、だが如何にも頑なそうな声音で確認の言葉が発せられ、ハッとなった参謀の一人が慌てて席を立って相手に報告する。

 

「し、失礼しました。この件についてはユーラシアの方でも確認を進めており、仮に事実であった場合でも最大限、進駐には反対するとの確約をもらっています。ですが・・・・・・」

「・・・ファウンデーションとネオ・ディサイズが完全に手を組んでしまった状況で、反対し続けることは不可能・・・か?」

「・・・・・・はッ。戦略的観点から見ても好ましい判断ではない、と・・・」

「そうか――」

 

 静かに瞑目するかの如く両目をつむって見せる、会議室でさえアーミー服をまとったままの中年の男。

 如何にも現場気質といった風情をもち、雄弁家だったが商社マンじみた雰囲気をもっていた先代・先々代とは異なるタイプの、国家に属する正規軍という立場からも脱した現在の彼らを率いるに相応しいものをもっていると感じさせる、現場の人間好みな雰囲気をもった野戦将校。

 

「また、その際に基地を守り切れぬと判断された折りには、大佐の安全だけは確実に保証できる用意があるとも。どうか大佐、ここは・・・・・・」

「やむを得んだろうな。彼らからの支援は必要だ。今はまだ真の同盟関係が表沙汰になるのは避けねばなるまい」

 

 そう言って頷き、部下の進言を採用する決定を下した議長格の席に座る、四角い顔の中年の軍人。

 ユーラシア連邦は表向き、彼ら大西洋連邦軍の離反者である者達のことを『ミケール大佐のパルチザン』と呼んで敵対しているが、裏では今でも事実上の同盟関係を継続している。

 活動資金や軍需物資の多くは彼らから供給されているもので、国家の対面がある相手国としては表だって動きにくい現在の状況下で実働戦力を担っているのがブルーコスモス軍という間柄にあるのが彼らの関係だった。

 

 その点でも、今ユーラシア連邦との関係が公的に露見するのは避けたかった。

 後ろ盾となる大国の支援あってこその存在が、パルチザンというものなのだから、現時点で共に戦って共に倒れられてはミケール達にとってさえ破滅を意味する。この際、やむを得なかった。

 

「徹底抗戦によって敵を引きずり込み、然る後に降伏させ、その隙に脱出する。

 私が生きてさえいれば、まだ方策は残されている。今ここで私まで斃れれば、ブルーコスモスという組織そのものが瓦解しかねない。

 残念ながら諸君らの多くを連れていくことはできないが、その死は決して無駄死ににはならない。不名誉なものでは無いと約束しよう」

『大佐・・・・・・ミケール総帥・・・』

「大義のために犠牲を覚悟で我らは立ったのだ。この世界がバケモノ共の好きにされてしまう前に、本当に取り返しのつかないことになるのを止めるために・・・!!」

『・・・・・・』

 

 部下達を前に、静かに熱を込めた口調で語りかける、軍人としては初のブルーコスモス盟主の言葉に、今までの『政治はできるが軍人ではない指導者たち』とは異なる印象と期待を抱いている彼らは息をのむ。

 

 ――だがその言葉は、いざというとき『部下を捨て駒にして自分だけは逃げ延びる』という意味を持った、卑怯者らしい発言内容でしかないものではあったが・・・・・・彼ら自身がそれを自覚する日はおそらく永遠に訪れまい。

 

 

 彼らブルーコスモスにとって、憎むべきコーディネイターの根絶は、何にも勝って価値ある絶対の使命なのだから。

 その使命を果たすことは何にも勝る至上の価値をもつ。

 最上位にあるのが『コーディネイター種族の絶滅』なのである。

 それより下位にある全てのレッテルや評価基準は、最上位と比べて取るに足らない。

 

「すまんが諸君らの命―――俺にくれッ!!!」

『!!!! ハッッ!! すべては青き清浄なる世界のためにッ!!!』

 

 一斉に起立して、議場に集っていた将校たち全員が新たな指導者の熱弁に応え、死ぬ覚悟と未来の勝利のための自己犠牲を承諾する旨を発する。

 

 こうして、この基地に集っていた『兵士たち全員の生死』が、議場内にいる十数人の将校たちだけの決意と覚悟だけで決してしまうことが確定した。

 

 彼らには事情も理由も真相すらも伝えられることなく、ただ「命令に従い敵と戦って基地を守れ」とだけ通達されて、新たな盟主が逃げるまでの時間を稼ぐために、ただそれだけのために多くの兵士達を無駄死にさせる作戦の実行が決定されてしまうことになる―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球の一角にある地下深くの会議室で、一つの国がもたらした行動に対する対応を巡って、一つの方策が決定された日から数日ほど後。

 彼らが立てこもっているユーラシア大陸の一角から遙か南方に位置する島国にも、その国が催する舞台劇のゲストとして招かれた役者のもとに招待状が届けられることになる。

 

 

「――以上がファウンデーションのアウラ女帝からの申し出だ。プラントにも、そしておそらく《ネオ・ディサイズ》にも同じものが届いていると思うが」

 

 常夏の海に浮かぶ小さな島国の連合体を総ている行政府の執務室内で、その国を統治する地位にある人物がモニター画面に向かって語りかけていた。

 

 オーブの代表首長、カガリ・ユラ・アスハが、彼女の姓名だった。

 この国の統治者に就任してから5年が経過していた人物。

 

『・・・・・・その申し出によって求めている見返りは何なのでしょうか? 彼の国が求めそうなもので私たちが与えられそうなものは多くないはずですが・・・』

 

 その彼女と画面越しに向き合っている相手が、首をかしげながら問いを返してくる。

 プラント政府の要人用にデザインされた専用の礼服をまとった姿の、カガリと差して年齢の変わらぬ美しい女性。

 

 《世界平和監査機関コンパス》の初代総裁にして、《プラント評議会特別常任席次》という曖昧な役職名と役目をおった地位にある人物――『ラクス・クライン』というのが彼女の人物名。

 

 彼女たち2人は友好国の重要人物同士というだけでなく、先の大戦、その前の大戦と二度に渡るプラント地球間で勃発した戦いの中で同じ旗の下で戦った戦友でもあった過去をもち、同じ「一人の男性」をめぐって奇妙な形での縁をもつ私的な友人同士でもある間柄だ。

 

 『デュランダルの反乱』『ティターンズ戦役』においてはプラント軍内部の反主流派勢力《クライン派》を率いる盟主として行動し、オーブ国内での権力争いで『アカツキ演説』によって主導権を握ったカガリと共に、プラント内部から発生した二大軍国主義勢力の打倒に貢献したことから国民達に圧倒的な支持を得ている者達でもある。

 

 若いながら歴戦の勇者でもある彼女たちではあったが、今回の件では戸惑いを抱かずにはいられない様子で、先ほどから続く会話でもあやふやな表現や言い回しが多く見られている。

 

「――彼の国は、ミケールの所在をかなり精密に掴んでいるようですし、協力する意義はあると思うのですが・・・」

 

 ラクスからの問い返しにカガリが答えようと口を開こうとして、それを制するように耐えきれないと言った様子の声音で、若さと情熱がこもった幼さの残る声が勢い込んで割り込んでくるのに掻き消される。

 

「ファウンデーションは、ブルーコスモスの拠点と動きを知って、平和を願う一員としてコンパスを支援してくれようと言っているのでしょう?

 ならオーブも参加するべきだと思いますし、国是にもかないます」

「・・・そうだな。だがなトーヤ、物事には裏と表があるモノなんだ。それを考えて動かないと酷い結果を招くことだってある」

「それは大人の理屈です。それに僕だって、それぐらいは理解できているつもりでいます」

 

 少しだけ不満そうな声音で返してくる補佐役の少年の言葉に、カガリは「若いな」と思わず心の中で思って苦笑する自分を感じさせられる。

 思い出せば自分も、かつて生前の父に同じような主張をおこなって困らせた記憶がある。

 

 あまり人のことだけを上から目線で説教できる立場ではない程度には、自分を分かる年齢にはなったが、だからこそ苦い経験を教訓として教え導くぐらいの義務は果たしていいだろうと自分では思うようになってもいる。

 

 オーブ首長家の一員として生まれた十四歳の彼は、『トーヤ・マシマ』

 利発さを評価して現在は秘書のような役割を努めてもらっている少年であり、ゆくゆくは自身の後継者にと考えて政治の場にも同席を許しているのだが・・・・・・やはり年齢による限界を理性と優秀さだけで超越するのは難しいらしい。

 時に今のように、少年らしい正義感や使命感に駆られた故の越権的な発言や行動をおこなうことが希にあるのが、現状では難点になっていた。

 

 どことなく、かつて出会ったばかりの頃のザフト軍兵士になっていた少年を彷彿させる言い分に、カガリは再び苦笑に駆られた。

 彼らが同じような議題の中で出会った場合のことを想像して、興味を覚えたのだが、あまり友好的なムードで会話を進められそうにない組み合わせと気付いたのである。

 

「一応ではあるが、親書に記されていた見返りとして求められている内容は『コンパスへの参加』とある。

 素直に受け取るなら、これを切っ掛けに独立国家として国際社会に認められる立場を得られるよう、コンパス参加国として協力と支援を――という含みがあるということになるのだろうが・・・・・・どうだろうな?」

『納得できるだけの理由と報償ではありますわね。あの国は独立直後から、技術・経済ともにめざましい発展をしてはいるものの、ユーラシアとの関係がよくない状態が続いてもいますから。今以上の発展を成し遂げるためにも国外との繋がりは重要なのも理解できます。

 できますが・・・しかし・・・・・・』

「だが、【絵に描いた餅】そのものだぞ? この親書に書いてあるとおりのこと本当の狙いだったとするならの話だが」

 

 思わず頬杖をついてしまいながら、カガリが呆れたような口調で言い切ってラクスを苦笑させ、トーヤ1人だけが理由を理解できずにキョトンとさせられるしかない。

 頭はいいが純朴な少年の素直な反応に、微笑ましいものを感じさせられながらカガリは振り向いて種明かしを開陳する。

 

「先の大戦の勝利国であるプラント評議国は現在、《全コーディネイターの宇宙移民》を国策として積極的に奨励している最中で、《ネオ・ディサイズ》はその急先鋒だ。

 彼らと共同歩調をとっているコンパスに参加した程度のことで、彼らの国だけが特例扱いをしてもらえる程の効果があるとは思えないな」

「・・・・・・あっ!?」

 

 その点を失念していたらしいトーヤは、思わずといった様子で声を上げる。

 いみじくもカガリが言ったとおり、現在のプラント政府は地球在住のコーディネイターたちを軍民問わずスペースコロニーへと移住させる、宇宙移民政策を積極的に実行していた。

 

【地球上に生きる者達との間に、憎しみによる溝と壁ができすぎてしまった現状、一旦は互いに距離を置いての冷却期間が必要だ】

 

 というのが、その政策の趣旨である。

 一概に間違っていると否定できるものではないし、否定するようなものでもなく、ラクスやカガリ自身も素直に首肯することまでは出来ないものの複雑な思いを抱いてもいる政策。

 

 だが少なくとも、地球上で一定以上の勢力を築くことに成功したコーディネイターたちからは賛成を得られることが多くない政策であることだけは確実だろう。

 ファウンデーションは、数年前に死去したという前国王まではナチュラルたちの国だったという話だし、現在の発展は宰相となった若き才媛の手腕によるところが大きいと聞いてもいる。

 

 それら成功までの労苦と、手に入れた栄光全てをなげうって、安全なコロニーでの生活を得られるから宇宙に引っ越しをしましょうと言われて、喜べる人間はナチュラル・コーディネイター共に多くはなれないのが現実の人間というものだったろう。

 

『そうですわね。おそらくは《ネオ・ディサイズ》には、私たちやプラント評議会に送られたものとは違う内容が記された親書が届いているのではないでしょうか?

 たとえば、【ミケール大佐とブルーコスモス全軍を献上する】その代わりに【地球国家としてファウンデーションの存続と保証を】といったところでしょうか?』

「そんなところだろうな。ついでに確実な契約履行の証拠として、血判書でもオマケとして求めるかもしれないがね」

 

 苦笑しながらカガリは冗談めいた口調で言ってのけるが、彼女としては冗談でも言わねばやってられない心地でもあるのだ。

 仮に自分たちが予想した内容が的中していた場合、オーブ連合首長国と《コンパス》とに送られてきた親書と、ブルーコスモス討伐作戦の提案は、自分たちを『保証人に使いたがっただけ』ということを意味することになるのが、その理由だった。

 

 別段、参加への許可や他国との関係改善のための支援だのといったものは期待されておらず、本命にだけ申し入れたのでは成功した後で反故にされてしまう危険性があるのと、独自の軍事力と諜報組織まで保有しているらしき《ネオ・ディサイズ》だけに売り込めるほどの価値ある商品は多くないから競合させたい。――そういう理由と目論見で誘いをかけられただけなのが、ファウンデーションから見た《コンパス》とオーブの存在と価値なのだった。

 

「我々はおおかた、彼らを主演とした舞台で、主役が映える活躍をするため脇を固める助演たちといったところか。愉快なこととは言えないな」

『あらあら、ですが「間違い」とも言い切れない役所なのではありませんか? 現実にわたくしたちと彼らとの間には、それだけの差が生じてしまっているのは事実なのですから』

「分かっているさ。だからこそ、愉快なことではないと言っている。自分たちが主役達のための『引き立て役でしかない』というのが事実なのだから尚更にな」

『あらあら』

 

 不機嫌そうに頬を膨らませる年齢不相応に幼い、だが彼女がよく知る相手らしい仕草に、微笑ましいものを感じさせられてコロコロ愉快げに笑うラクス・クライン。

 だがカガリとしては正直に、不機嫌さを感じずにはいられないのが現在のオーブが置かれている国際状況だったのである。

 

 プラント評議国が現在、推し進めている『全コーディネイター強制宇宙移民計画』は、プラント理事国内にある飛び地の領土としての都市で暮らす市民たちだけを対象として実施されている。

 

 プラント理事国であっても、彼らの庇護下にはなく、庇護下にある経済特区を国内に有してもいないオーブ在住のコーディネイターたちまで含まれている制度ではない。

 先の大戦では正式に同盟関係を結んでティターンズや、デュランダル議長個人に従う道を選択したザフト離反軍と戦ったという経緯もあり、仮にも主権国家である他国にまで自国の法律や制度を押しつけてくるような真似はしていないし、オーブの側にもそれを受け入れるべき正当な理由は存在しなかった。

 

 

 だが・・・・・・本人達自身が、自主的な判断と選択によって移住者となる道を選ぶのを、止められる立場にもないのが、オーブ政府の置かれている状況でもある。

 

 

 既に前期に比べて1.5倍近い、国内在住のコーディネイター市民達からの移民希望申請が行政府に届けられるのが、オーブ国内にある各役所の日常風景になってしまっていた。

 必ずしも母国に嫌気が差した等の理由ではなくとも、やはり自分たちと同じ種族の者達ばかりが集っている安全な土地というのは、人が求めたくなるのは仕方がなかった。

 

 カガリとしてもデュランダル政権時代のように、オーブの軍事技術者がプラントに移住して生活基盤を確立するため、準戦時体制下の国では軍に貢献するしかない状況下で、選択肢が狭められているというならともかく、『職業選択の自由』や『新造されたコロニーでの新たな生活』といった環境に夢をもって移民を希望してくる人々に【行くな】とは言えないし、プラント評議会政府に【返せ】という権利もない。

 

 だがその結果、国民達の自由意志と権利を尊重したオーブからは国民が減少して、宇宙移民を提唱した者達の成果となるのだ。

 

 彼女としては思わず、あの役者じみた男の嘲笑を聞かされたような気がして不愉快になってしまう。

 そんな彼女を微笑ましいものでも見るような瞳で見つめていたラクスだったが――ふと、その瞳と表情に影が落ちる。

 

 

『――私たちは、デュランダル議長が示した世界を否定しました。

 少なくとも自己の利益のために行動した訳ではなく、純粋に果てなく続く戦いの歴史を断ち切りたかった・・・・・・ただそれのみを目的に動いた彼の理想とした新世界を、私たちは・・・』

 

 思い出すように、思い詰めたような口調で、告解するかのように語り始めたラクスからの呟きに、カガリとトーヤは同時に視線を集中させて憂いを秘めた彼女の顔を正面から見つめる。

 

『そのことを今更間違っていたとは思いません。ですが、彼の示した未来の可能性を否定した私たちには、彼とは異なる世界の可能性を人々に示す義務があると思っています。

 ・・・・・・ですが・・・その世界は、クルーゼ隊長やシロッコ副隊長たちが導こうとしている未来と、果たして矛盾するものではないのか否か・・・・・・最近、私自身にも分からなくなってしまっている自分がいる・・・』

「・・・・・・」

『確実に違っている、否定するしかない未来だとは私も思いません。・・・・・・ですが、同じかと問われたなら、やはり違っていると答えるだろうと自分で思ってもいる。

 でもだからといって、私たちの方が確実に、私たちの目指す未来に続く道を歩めているという自信を持つこともできていない・・・・・・』

「・・・・・・・・・」

 

 素直に己の中にある迷いや葛藤、不安と未来への疑心を吐露してくる友人の言葉に、カガリもまた心の中で密かに頷きを返す。

 この時代、誰もが道に悩み、迷っている。

 果たして、どれが正解なのか?と。求める未来に続いている道はどれなのか?と。

 迷い、悩んで、その結果として間違えて悲劇に見舞われ、選ぶこと自体が怖くなり、誰か優れた人から与えてもらえる優れた答えを信じた道を選んだ末に―――また間違えて悲劇を味あわされた人々達。

 

 今の時代に生きている、ほとんどの人達は心の中にトラウマを抱えて道を歩まされている。

 だからこそ、優しい世界を求めるし、優しい場所へ導いてくれる人達を信じて委ねたがる。

 

 それは、ラクス自身ですら変われることはない。

 彼女とて、今に至るまで多くの人達を失いながら歩まされてきている。

  

 誰かが示してくれた優しい世界へ続いている道へと、信じて乗ってしまいたい気持ちは彼女の中にも確かにあったが―――それと同時に、『自分たちで考え、話し合いと譲歩を繰り返した先にある未来の世界』が、その場所が。

 

 

 ・・・・・・自分たちの願い求める『優しい世界に決まっている』と、信じて歩むことも出来ずにいるのが彼女だったから・・・・・・

 

 

『わたくしたちは・・・・・・一体、どこへ―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球の片隅と宇宙の片隅で、自らの望む世界と、それを望む自分自身の資格の有無に悩み、迷い、深刻な自己不信を抱くようになっていた2人の姫君達がいる、この世界。

 

 だが―――かつて、この世界と同じ名前を持つ惑星で、異なる暦を用いていた時代に生まれた一人の人物に、彼女らの抱く不審と迷いは存在しなかった。

 

 彼にあったのは、彼女らと同じ思いを自己に抱いていた一人の英雄を『なり損ない』と断じて、自らにこそ『資格あり』という確信と共に駒を進めるに至った圧倒的な才能と自信。

 

 傲慢なまでの【自らを信じる心】こそが、彼の行動を揺るぎなく支え続けた原動力であった人物。

 

 

 その「彼」に憧れ、彼になりたいと願った「彼」にとってもまた。

 この世界における自身の果たすべき役割に、疑念を抱くことなど死ぬまで有り得ぬ戯れ言でしか有り得ない。

 

 

「ふむ・・・・・・随分と久しぶりに降り立ったが、地上の重力というものは思っていた以上に不快さを感じさせるものだったようだな。

 生まれ育った星でのことだった故か、今までは差して気にしたこともなかったが、久しぶりに味あわされれば、嫌でも気付く。

 ・・・まるで惑星の中心にまで引きずり込もうとするかのような、得体の知れない力・・・・・・嫌いだな、この感触は」

 

 

「ククク・・・それなら、結構。それが感じられるようになったということは、お前にも可能性が芽生えてきたということを証明するものだからな。

 最後の舞台を共に演じる者として、頼りにさせてもらうとしよう」

 

「彼らも、そして彼女たちも。皆、その手に世界を欲しがっている。自分たちが望む形となった新たな世界の到来を。

 戦後の地球圏を支配するのは女だ、と私個人としては思っているが、それはラクス・クラインやカガリ・ユラ・アスハ達ではないようだ。

 ましてアウラ如き愚物に、世界は荷が重すぎる」

 

 

 

「“人の心を大事にしない世界”とやらを阻止するため、私の前に立ちはだかってくる最期の小僧の役は、果たして誰が担うことになるか・・・・・・ククク、愉しみにさせてもらうとしよう」

 

 

 

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