転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。   作:ひきがやもとまち

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久しぶりの本編更新。
話そのものは結構前に思いついてたものの、出だしで躓き続けてリテイクしまくり、最近では体調不良も重なってと散々な結果が今の最新話という結果に。

この期に至り、取りあえず最初の奴のを出してみて、反応を見た上で考えてみます。


第26話

 

 《ジオニズム》――それはコズミック・イラとは異なる暦を用いた地球圏を巡る戦い歴史上で、地球と敵対してきた勢力たちが唱え続けた思想である。

 後に《ニュータイプ》と呼ばれ、環境に適応して能力が拡大した新人類の誕生を中心とした主義のように解釈されることになる思想だが、大本となる提唱者《ジオン・ダイクン》自身が唱えたのは『地球から発した人類は宇宙で自活し、疲弊した地球は聖地として崇めよ』とする《サイド国家主義》だった。

 宇宙移民者たちのコミュニティー間での互助によって、政治的・経済的な地球からの自立と独立は可能だとするのが、彼の提唱した《ジオニズム》の始まりだったのだ。

 

 だが、刻の流れのなかでジオニズムは、変節を繰り返す。

 別にダイクンが豹変した、という訳ではない。彼が残した思想と勢力を利用した者たちが、自身の思想と目的とジオニズムを混同し続けただけである。

 

 最初の一人目は、《ギレン・ザビ》だった。

 ダイクン最大の支援者ザビ家の長子であった彼は、主君を暗殺した後『亡き主君の理想実現』を掲げて思想的後継者と称し、『過酷な宇宙空間に適応した新勢力』を進化した優秀な人類、『安楽な地球に住み続ける旧勢力』を下等な旧人類と見なす《優良人種説》こそが《ジオニズム》であると主張することで民心をまとめ、ジオン公国を率いて史上最大の悲劇を引き起こす。

 

 彼が敗れ去った後、曲解は《ハマーン・カーン》に継承される。

 ジオン将軍の娘であり、基地指令の後継者に過ぎなかった彼女は、自らが国のトップになるため、ザビ家の忘れ形見である幼女『ミネバ・ザビ』を奉じて残党軍を糾合することで傀儡として利用した。

 彼女はジオニズムという思想よりも、思想を軸に建国された『ジオンという国』を欲した彼女は、ダイクンの後継者に過ぎなかったザビ家の遺児であるミネバを『全スペースノイドの頂点に立つ存在』として祭り上げることで、それを補佐する自らの地位をも同時に引き上げさせるのに利用したのである。

 

 個々人ごとの主観と事情と目的によって、ジオニズムの曲解と拡大解釈による利用と悪用は続く・・・・・・自らが過去に犯したテロに心囚われたサイアム・ビスト、ダイクン派とザビ派双方を利用して宇宙市民による地球支配を望んだジョナサン・バハロ。

 そして――ダイクンの子、シャア・アズナブルと称したキャスバル・レム・ダイクン。

 いずれもジオニズムと、ダイクンが残した国を、戦火をもたらす理由とした人物たち。

 

 

 ・・・・・・では、コズミック・イラの暦を用いる、この世界の地球を巡る戦いにおいて、戦火をもたらす理由として叫ばれ続けている《ブルーコスモス思想》は、どうなのだろう?

 『地球から自然に生まれた者』こそを正しい形の人類、『遺伝子を調整して人為的に生み出されたコーディネイター』は自然ではない歪な存在『自分たちと異なる生命。同じ人間ではないモノたち』と定義することで虐殺や非人道行為を繰り返す正当性を主張している、過激すぎる右翼思想。

 

 『青き清浄なる世界のために』という、一見すると曖昧なスローガンを掲げた彼らの思想は、何故ここまで広く人々に支持されるのか恐らく暦の異なる地球の戦乱に慣れた者には首をひねらざるを得ないことだろう。

 確かに彼らの思想は、言い分だけ聞いていたのでは意味が分かりづらく、賛同する理由やメリットもないように思える。

 

 だが、彼らの主張を『実現するため必要となる具体的な行動』として考えた場合、その答えは至って明確に示される。

 

 ――『外敵からの防衛のため挙国一致体制の確立』『異民族の侵略から民族全体を守るため統一の必要性』『防衛戦争に当たって民間人への協力義務化』『国際条約に抵触しない“ヒト以外の種族”に対する非人道行為および大量破壊兵器の使用』

 

 ・・・・・・国防を担う者たちにとって、ありとあらゆる『勝つためには必要な手段』という誘惑、その全てが『相手が人間ではなくエイリアンの侵略だから』と位置づけるだけで可能としてくれる危険思想――それがブルーコスモス思想がもつ側面的な意味合いであり。

 『地球国家すべての支配と統一』を欲する大国の野心とも、利害を一致する政治思想でもある危険極まりない右翼思想。

 

 

 宇宙世紀にも彼らと同じような思想を軸に結成された集団がある。

 市民たちの反政府デモに毒ガスを用いて虐殺し、反政府勢力を激発させて一カ所に集めさせることで脅威を拡大。その脅威に対処するためと称して権限拡大に利用した愛国右翼的な治安維持部隊《ティターンズ》

 自分たちの拠点深くまで攻め込ませることで、基地自爆による殲滅を狙った彼らと同じような手を、コズミック・イラの地球連合軍中枢メンバーも模倣しようとしている。

 

 だが――組織内部の構造を維持するため、外側に仮想敵をつくるという手段は危険なのだ。

 それは相手側にも同じ流れを生むことを意味している施策でもある。

 

 果たして、そんな『敵にとって当然の反応』をコズミック・イラの地球軍は正しく理解しているだろうか・・・・・・?

 ティターンズの総帥《ジャミトフ・ハイマン》は、この様な言葉を語っている。

 

 

「奴らとて、遊んでいる訳ではあるまい。

 そういうものだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アラスカの海から更に氷の厚い、北海の奥深く。

 魚群に交じって深海を進んでいく、巨大なダークグリーンの影たちがあった。

 鯨ではない。そのように小さな生き物とはスケールの異なる存在。

 人工的に巨大となるよう建造された機械の鯨――地球連合軍の潜水艦隊こそが彼らだった。

 

 明らかに定数の上限を超えた人員を満載させて《JOSH-A》を出港した彼らは――敵国の天才は『夜逃げ』と評したが――新たなる拠点であるグリーンランドを目指して一路北の海を進んでいた。

 両拠点の位置的な理由から直線で迎えるコースがなく、ザフト軍に制海権が渡りつつある南方よりユーラシア連邦の勢力下にある北回りのルートの方が安全だからである。

 

 一時はザフト軍の飛行可能巨大MAという新型機の脅威に脅かされ、乗員の多さ故に足の遅さで焦りから狼狽していた高官たちも、時間の経過とともに距離が離れたことで安心し、艦長室でコーヒーカップを前に談笑できるほど落ち着きを取り戻していた。

 

「いやはや、一時はどうなるかと思いましたが、無事に退避できて何よりですな」

「まったくです。いきなり最深部まで入り込まれることなどない分かっていても、これではね」

 

 彼らの大方は、大西洋連邦軍の将校だったが、中にはユーラシア連邦の軍高官も少なからず混じっている。

 アラスカの快適なオフィスとは比べるべくもない狭さと、調度品もろくにない殺風景な室内ではあったが一時の避難用につかう潜水艦の艦長室とあっては贅沢も言えない。

 

 将校たちが集まっているフロアの下の階では、一般兵に混じって士官までもが船倉に押し込められ、貨物と一緒に座り込んでいる身近にある現実の光景などは、遠い異国の風景としか思うことが出来なくなった彼らの元へ、その報告がもたらされたのは出港からしばらく後のこと。

 

「――報告がありました。第四ゲートが突破されたようです、基地内部への侵入が始まりました」

 

 扉を開いて入室してきた士官の口から淡々とした口調で告げられた『アラスカでの戦況報告』

 それを聞かされた瞬間。艦長室に集っていた『アラスカ防衛の指揮を必死に執っている“事になっている”者たち』の顔に少々複雑そうな表情が宿る。

 

「もう少し持ちこたえるかと思ったのですがね・・・・・・ユーラシア軍も前線から遠い時間に慣れすぎたせいで、少し弛んでいるのではありませんかな?」

 

 一人の士官が、隣の席に座っている将校に向かって、皮肉気な視線とともに同盟国の兵士を嘲るような言葉を放つ。

 発言者は、大西洋連邦所属を示すマークをつけた軍服をまとっていて、言われた側はユーラシア軍の所属らしい。微妙にマークが違っている。

 見下しを多分に込めた視線と言葉だったが、思ったほどの悪感情を相手に抱かせることは出来なかったようだ。

 

「いやいや、あまり頑張ってもらったのでは、むしろ皆様方がお困りでしょう? だからですよ」

「・・・・・・ふん」

 

 和やかな態度と表情で、あるいは和やかさを装った態度で対応してくる相手。

 会話する二人の光景は些か奇妙な部分をもっていて、拠点防衛の任務を命じさせた側である大西洋連邦士官の方が苦々しい表情を浮かべての発言だったのに対し、命じられて囮役を引き受けた側のユーラシア軍士官の方が余裕をもった態度で接しているように見えるのだった。

 

 あるいは両者の階級がともに『大佐』だったことが、互いの対応に影響を及ぼしている理由だったのかもしれない。

 方や大西洋連邦軍に属して大佐まで上り詰めることに成功した自分と、『味方の兵たちを売った手柄』で対等な立場を与えられた相手が、同じ室内で同席を許されている待遇に不公平さを感じているのは明らかな目つきと視線だった。

 

「味方を売るというのは、よい商売のようですな。私もユーラシアに生まれるべきだったかもしれん、敵と命がけで戦うより安全に早く出世ができそうだ」

「・・・・・・・・・」

 

 相手の反応で不快感を刺激されたのか、先程よりも露骨になった悪意的な評価と表現にユーラシアの士官は肩をすくめるだけで、無言のまま節度を守ることを優先させた。

 ユーラシアと大西洋連邦の二大軍事国家は、たしかに互いが同盟国同士として地球連合軍の中核を成す勢力であり続けてはいるものの、実際には水面下での勢力争いを続けているのが実情でもある。

 

 互いが互いに知らせることなく、極秘裏に自国製のモビルスーツ開発を進めていた点などは、それを象徴する事柄と言えるだろう。

 

 

「――まっ、良いではありませんか。コーディネイター共も、まんざら遊んでいる訳ではないということでしょう。

 全てがコチラの思惑通りに運んでくれるのであれば、今の我々が陥らされている苦境がそもそもない。そういうものではありませんかな?」

「サザーランド大佐・・・それもそうかもしれんが、しかし―――」

「最悪の場合、早々に突破されて仕掛けが見破られるという危険性も0ではなかったのです。むしろ彼らはよくやってくれている方でしょう。

 どちらにせよ、司令部と共に消えてなくなる兵たちです。結果良ければ・・・それで良いことですよ」

「・・・・・・・・・ふむ」

 

 腕組みしながら姿勢を正し、椅子に座り直した相手と、目礼するユーラシアからの寝返り組の面々。

 そんな“同士たち”に酷薄そうな薄い笑みだけを返しながら、サザーランドは机の前に置いたジェラルミン製のアタッシュケースを見下ろして、心の声と言葉の両方で異口同音に呟きを漏らしていた。

 

 

「強固な守り手が立ちふさがるほど、欲深な盗人共は宝物への欲望を高めやすいもの。

 空き家にしたとはいえ、司令部をくれてやるのです。おあいこ程度では割に合わん。

 最低でも八割は誘い込みたいものですが・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球軍本部《JOSH-A》から脱出した潜水艦隊に『友軍の被害』としてもたらされていたのと同じ情報が、アラスカ沖に展開していた別の潜水艦隊のもとにももたらされていた。

 『味方の戦果』という形での報告として、である。

 

「我が軍、先頭集団より連絡! 第四ゲートの突破に成功した模様、突入許可を求めております!」

「第12《ディン》飛行小隊が、迎撃機発進口および、偽装ハンガーを発見! 攻撃を開始!」

「第5、第8《バクゥ》陸上戦隊が基地東側を守る戦車大隊を撃破! 残敵を掃討しながら飛行部隊と連携しながら基地攻撃に加勢するとのことですッ!」

 

 次々ともたらされ続ける『自軍有利』を示す報告に、今次作戦が開始された直後からプラント議長直々の委任状によって作戦参謀から作戦司令へと立場を変えていたハリ・ジャガンナートは、満足そうに大きめの鼻を膨らませる。

 

「フッ・・・圧倒的ではないか、我らコーディネイターと旧人類共との力の差はッ!!」

 

 ザラ議長による発案のもと、自分たちが密かに準備を進めてきた《真のオペレーション・スピットブレイク》は、ほとんどの部分で何の障害もなく予定した通りに推移していた。

 敵の予測を裏切っての奇襲は完全に心理的な機先を制するのに成功し、敵の防衛部隊は互いに連携をとるより早くザフト軍の先制攻撃によって撃滅され、寸断され、大した損害も被ることなくメインゲート付近まで制圧を完了させてしまっている。

 

 パナマを攻められると信じ込んでいた地球軍の主力部隊は遠く、援軍に来るとしても優に丸一日近くは必要だろう。

 一部では頑強に抵抗を続ける連合軍部隊もいるようだが・・・それも今の内だけだ。所詮はナチュラル、本部さえ陥落させてしまえば、命令通りに群れなければ戦うこともできない連合のアホウ共だけでは碌に戦うこともできずに烏合の衆と化すに決まっているのだから。

 

(それでいい・・・この戦いを率いる我らによってこそ、真にプラントの未来を担う者となるのだ。これで散っていった多くの者達の魂も報われることができる。

 愚かな旧世界の住人だけが富み、正しく公正なる社会を望むものが虐げられる世界は粛正され、変革されるべき定めにあるのだから)

 

 軽く目をつむって瞠目し、今までの戦いで殺されていった同胞の戦死者たちの死を悼んで瞑目する。

 ジャガンナートは、彼なりにではあったものの本気で戦死した兵たちの心情を念って憤りを抱えている、味方思いで有能な指揮官ではある人物だった。

 ただ、その視点は典型的な忠君愛国軍人型のステレオタイプ的思考法を、プラントの社会に置き換えて適応させただけのものであったのも事実である。

 

(やはりザラ議長は正しかった! ナチュラル共の暴虐に晒され続ける兵たちの心情を慮ろうともせず、旧人類共との講和を主張するクラインの如き無慈悲な非人道主義とは違う!

 兵たちの気持ちを! 我らの痛みを分かってくれるザラ議長こそ、真にプラントと我らコーディネイターの未来には必要となる新たな指導者に相応しい御方なのだから・・・!!)

 

 自らの尊ぶ善意を信じること篤く、自らが悪と信じたものを憎み否定する想いに迷いを持たないジャガンナートは本気でそう考え、そう信じて、議長が示す理想社会実現のための第一歩として必要な今次作戦を成功に導くため全力を尽くそうと、彼なりの使命感と義務感に燃えていたのだ。

 

「前線部隊より連絡! 要塞中枢へと通じているらしきゲート4を陥とすことに成功した模様です!」

「よし、今攻めている第一攻撃隊は一旦帰投させ、確保した進入路から水陸両用MS隊を突入させて《グランド・ホロー》までのルートを確保させるのだ。それまでに帰投した部隊の補給を急がせるのだ」

「はっ、了解しました! 伝えますッ」

 

 母艦のCAIから告げられた報告に対して、ジャガンナートは指揮官として燃えながらも、自分の感情だけを理由に無謀な突撃を命じるようなナチュラル同然の無能者になる気は微塵もない。

 

 現在《JOSH-A》の地表部分を攻めて、突入口であるゲートの確保に成功したのは《ディン》や《グゥル》などの空中戦隊が主力を務めている。

 重力下での飛行を可能にした現時点では唯一のザフト軍MS《ディン》は、遮るものとてない大空を縦横無尽に飛び回りながら地上施設を攻撃可能な機体で、機動力が生かせる空中戦においては地球軍の戦闘機隊より圧倒的アドバンテージを有することができるが、そのぶん装甲が犠牲になっているのは否めない。

 

 基地内の最深部に繋がる通路という、移動が制限される戦場では思わぬ損害を被るリスクが大きかった。拠点突入用としては火力不足という難点もある。

 逆に《グーン》や《ゾノ》といった水陸両用MSは、地上での移動時には機動力が大きく低下するデメリットはあるものの重装甲で、水中戦時にダメージを負った際の水圧で潰れぬよう計算された設計が成されている機体群だ。

 

 移動の自由が利きづらい、どこに敵が潜んでいるか分からぬ拠点内部への突入作戦などでは、むしろ切り込み隊として適任なのは《ディン》や《バクゥ》のような高機動MSではなく、《グーン》や《ゾノ》のように重装甲重武装の機体が有利であることをジャガンナートは承知していた。

 

 どのみち敵の主力はパナマに救援に行ったまま戻ってくる気配はなく、残された留守部隊だけで自分たちの攻勢から本部施設を守り抜くことなど不可能な戦況。

 すでに戦略レベルでの勝敗としては、ザフト軍の勝利は確実となった後の状態なのである。

 留守を任されただけの連中を掃除してやるために、大切な味方の兵をナチュラル共に殺させてやる義理などあるはずもない以上は、無駄な犠牲と消耗は避けながら確実に進めていくべき段階なのが今だった。

 

 本部内にさえ突入に成功してしまえば、入手できた僅かな情報からでも《グランド・ホロー》の内部には十分なスペースがあることは確認している。

 そこまで行けば再び《ディン》が必要になる。今の時点で無理をさせる必要性は微塵もなかった。

 

 

 ・・・・・・が、このとき彼の指示は徹底しなかった。

 

 指揮官である彼自身は、燃えながらも冷静さを放棄しない指揮能力を有する人物だったが、前線の兵士達の中には感情の赴くまま強引に突入しようとして待ち構えていた部隊に不意打ちを食らい、したたかな逆撃を被る部隊が続出してしまったのだ。

 

 中には、飛行マシーンの発進口から突入に成功した直後に、停止していた戦闘機から対空ミサイルを撃ち込まれて撃墜され、落とされた敵機には発進口から出撃されるという醜態をさらす者まで現れたとなれば、流石のジャガンナートも額に青筋を立てずにはいられない。

 

「バカ者共がっ、足下もろくに確保せずに不用意な突貫などするからだ!」

 

 怒鳴り声による罵声と共に、無理矢理にでも装甲と火力で劣る《ディン》の部隊には後退と補給をするよう改めて指示がくだされ、無謀な突撃を痛みによって思い知らされたパイロットたちは母艦へと戻るため移動し始め、水中から続々と姿を表せ始めたズングリとしたデザインの水陸両用MS隊が代わって中枢へと通じるゲート入り口へと殺到していく光景。

 

 あまりの大軍と、確保した基地中枢へと通じるゲートの少なさとで、一部に渋滞が生じることはあったものの、その混乱につけ込める戦力が地上の防衛部隊に残っていなければ意味はない。

 

 悠々と陣形を再編しながら敵基地内へと進軍していく《グーン》の部隊と、母艦へと戻るため空へと飛び上がっていく《ディン》の部隊。

 

 その中に、大軍の飛行に紛れるようにして《JOSH-A》の数あるゲートから飛び立っていった一機の戦闘機と、一機の巨大な戦闘機にも見える機体の姿があったことに、果たして彼らは気づくことが出来ていたろうか・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザフト軍が圧倒的優位な戦力差を確保しながらも、地球軍最大の拠点《JOSH-A》を落とすため最善を尽くしているのと同じ戦場で、地球軍側もまた別に遊んでいたわけではない。彼らも必死で戦ってはいたのだ。

 もっとも、同じ死力を尽くした戦いであっても、その内訳は大きく異なるものだったことも事実ではあったが。

 

「“オノーグ”撃沈! 右舷フライトデッキ、被弾させられました!」

「チィッ! 取り舵! オノーグの抜けた穴を埋める!」

「なおもディン接近! 数、六!!」

 

 白亜の浮沈艦アークエンジェルの艦橋でも、必死に迎撃指示が飛び交いながら迎撃のためクルーたちは最善を尽くしてはいる。

 宇宙戦艦という艦種に反して、瀑布を割りながら地上施設防衛のため水上戦闘で迎撃するため出港してくる参戦の仕方をしていた彼らは、クルーの半数近くが未熟者ばかりで始まっていた艦にしては上出来すぎる戦果を上げていたと評価できたろう。

 

 眼下の味方艦が、敵の飛行可能MS部隊から猛攻を受けて撃沈されていくものが次々と出て行く中で、被弾させられながらも致命傷を避け続け、逆に急降下爆撃を仕掛けてきたディンに回避した直後のミサイル発射を浴びせかけて撃墜までしてのけたのだから大した戦果と言ってよいほどの健闘ぶり。

 

 ――だが、全体の戦況が悪化をつづける中でアークエンジェル単艦だけでの健闘ぶりは、戦略的には『無意味な奮闘』と呼ぶべき類いのものだったのも事実ではある。

 あるいは、敵を心中に付き合わせているだけという表現すら不適切と言えないほどの状況だったのかもしれない。

 

 

「くそッ! まんまとやられたモンだぜ司令部も! 敵が目の前まで迫ってきてる時期に、主力を全部パナマにだけ振り分けちまうだからな!!」

「この陣容じゃ、対抗しきれませんよ! 主力部隊は、まだ戻ってきてくれないんですか!?」

「来てくれたときには、こっちが全滅してなきゃいいんだがねッ!」

 

 チャンドラが思わず、司令部の愚かな判断に抗議と罵倒の言葉を口走り、ノイマンが負担とダメージ増加に耐えかねて抗議と状況改善を求める悲鳴じみた声が木霊する。

 

 それらの囂々たる声を聞きながら、マリューは黙って唇をかみしめる。

 敵を倒し、基地を守りつづけてさえいれば、何かが変わり何らかかの勝ちが生じるかもしれぬと信じるに足るナニカがある戦闘であったなら、その奮戦ぶりは「無益」とまで呼ばれるものではなかったかもしれない。

 

 しかし・・・この時のマリューは、それすらも信じれる理由に事欠いている状態にあった。

 近く侵攻が迫っていると噂されていたパナマに、主力部隊のほとんど全てが割り振られ、残っているのは僅かばかりの留守部隊のみ。

 たったこれだけの戦力で、これほどの物量で迫るザフト軍の攻勢に対抗できるわけもない。そんなことぐらい誰に言われるまでもなくマリュー自身にも分かり切っている事でもある。

 

 だが――だから、どうしろと言うのだ?

 この基地は地球軍にとって最重要の拠点なのだ。本部を敵の手に渡すわけにはいかない。それでは地球軍全体が『頭』を失って烏合の衆と化してしまう。

 

 そうなっては戦争の敗北は、その時点で確定する。それを避けるためにも死守するしか他に手段がない。

 敵との戦力差を前にして、不可能じみていることは分かっている。このままではパナマからの救援も間に合わずに全滅しかない戦況のまずさも重々に承知している。

 

 だが、それでもやるしかないのだ。ここを落とされたら全てが終わる。

 終わらせないためには、無理でもなんでも守り切るしかない――ッ。

 

 そうマリューは声には出さず、心の中で思っていた。決意していた。

 ――ただ反面、心のどこかで別の声が響いていたのも、認めたくない事実ではあった・・・

 

 

 どうすれば守れるのか?

 守るため戦っても結果は同じではないのか?

 自分たちが戦っても、戦わなくても、結果はなにも変わらない。

 

 ……無駄死にの道連れを増やすだけで……

 

 

 呪いのような、そんな絶望的な囁きが、マリューの心の中で先程から耳元に語りかけ続けてきている。そんな幻聴に彼女は襲われていた。

 

「司令部とのコンタクトは!?」

「とれませんー!

 どのチャンネルもずっと『各自、防衛戦を維持しつつ臨機応変に応戦せよ』って、同じ文章が返ってくるだけです!」

「そんな……馬鹿な…っ」

 

 信じられない司令部からの返答内容に、マリューは歯嚙みすると同時に相手の正気を疑わずにはいられなかった。

 防衛戦を維持するもなにも、敵部隊による基地内への突入はすでに始まってしまった後ではないか。幾つかのゲートは何とか守れているとは言え、所詮それは敵軍の進入路を制限する程度の意味しかない。

 

 ここまで攻め込まれている戦況に陥って、司令部は一体どこの防衛戦を守れと言うつもりなのか?

 だいたい防衛戦を維持するもなにも、拠点を守るための防衛戦が突破されたからこそ本部を強襲されているのではないのか!?

 本陣まで敵の侵入を許しておきながら、今さら各部隊単位の防衛戦など維持したところで何の意味があると言うのだろう!?

 

「すでに指揮系統は分断されつつあります! 艦長、このままでは……ッ」

「ぱ、パナマからの救援隊は!?」

「全然影も形もレーダーには映ってきません! チクショウ! 魔女の婆さんに呪われちまえクソ連合軍ッ!!」

 

 あまりにも悪すぎる状況の悪さに、トノムラがおそらく出身地の風習かナニカなのだろう罵倒を口走り、横の席で聞いていたサイも秀麗な顔を引き攣らせて絶望的なかげりを浮かべる。

 そんな中、ミリアリアが上げた声の内容によってマリューは「ハッ」となって我を取り戻す。

 

「友軍機接近! 被弾している模様――こ、これは!? 着艦しようとしているの!?」

 

 その報告内容にマリューは激しく慌てさせるものが混じっていたことが、結果として彼女に絶望する心を僅かな間だけ忘れさせてくれることになる。

 現在アークエンジェルで外部から強制着艦が可能なのは右舷フライトデッキだけで、そこが使える理由は先程の攻撃で被弾させられ、穴が開いたまま塞げなくなっているだけが理由なのだ。

 

 無理やり入り込むのが不可能なわけではないが、一歩でもミスれば艦内に着陸した後に爆発四散してしまい、戦闘機は戦闘機型爆弾へと一変してしまう末路を辿らされる羽目になる。

 自機が被弾した状態で強引に味方艦に拾ってもらおうとした蛮勇の勇者様が、直陸をミスって死ぬだけなら自業自得で済ませてしまって別にいい問題だと済ませることも可能かもしれないが―――爆発する場所が自分たちが乗る戦艦の腹の中とあっては他人事のバカ話で済ませられるものではない。

 

 味方機に特攻されて撃沈された、『マヌケで不運な大天使』という不名誉すぎる異名を奉られて二階級特進したいと希求する願望をもたないマリューとしては、慌てながらも即座に右舷フライトデッキに通話をかけ、消火作業にあたっていた整備スタッフたちへの退避と、もう一機分の消火作業を同時にこなすよう指示する以外の選択肢などある訳がなかった。

 

 その指示によって、味方のせいで今すぐ殺されかかった窮地に意識が向かってくれて、落ち着きを取り戻してから改めて作戦指示を下していたマリューだったが……まさか、突っ込んできて爆発は免れた戦闘機のコクピットから飛び出してきた人物が旧知の男性パイロットであることや、その人物が大急ぎで自分たちがいる艦橋へと急報を知らせるため猛スピードで疾駆していたことなど知るよしもない。

 

 

 だからこそ、背後で急に開いたエレベーターの音に振り返った先に、見知った相手の顔を見つけたときには驚愕の声と表情で迎えることとなる。

 

「っ…たい――少佐!? あ、あなた、いったい何を……!」

「そんなことはどうだっていい!!」

 

 入ってきたのは、ムゥ・ラ・フラガ大尉だった。

 いや、先日の人事で彼も自分と同じ少佐になっていたことを寸前で思い出し、つい体に染みついていた習慣によって言い直してしまっていた自分に対して、勝手知ったるモビルアーマー乗りのエースパイロットは、いつになく真っ直ぐな視線と態度で彼女に向かってこう宣言してくる。

 

「それより今すぐ撤退だ!」

「な……!? 少佐、なにを言って…っ」

「何もクソもあるか! こいつはとんだ作戦だぜ! 守備軍はいったい、どういう命令を受けてんだ!?」

「ど、どんなって…少佐、何を仰っているのか私には……」

 

 呆けたようなマリューからの反応は、ムゥが憤りを込めて罵倒と疑問を同時にはなった発言に対して、意図することなく的確な答えを返していた形となり、相手の瞳と心にさらなる憤りの想いを再び宿し直すものにもなった。

 

 即ち、彼女たち守備軍には―――『何の命令も受けていない』

 

 何一つ、ろくに聞かされていないまま、ただ持ち場を守っていただけだったのだ。

 本部内の光景と、司令部のモニターに表示されていたマークを見てきたムゥには、それが解る。

 少しでも何かを知っていて、この反応を返せるものなどいる訳がないのだから。

 

「いいか、よく聞けよ―――本部の地下には、《サイクロプス》が仕掛けられていた。

 作動したら基地から半径十キロは溶鉱炉になるってサイズの代物の、超強力なマイクロ波発生装置が。

 《エンディミオン・クレーター》で、俺の部隊を敵ごと吹っ飛ばしてくれやがったヤツを再び連中は使うつもりで仕掛けやがったんだ!!」

「な…っ!?」

 

 あまりに衝撃的な話の内容に、マリューの思考は数瞬のあいだ空白化して意識が止まる。

 地球軍本部にサイクロプスが、いったい何故!? どうして!?――そんな疑問が次々と頭に浮かんでくるマリューの意識に、ムゥの言葉だけが冷徹に事実のみを刻みつけるように告げてくる。

 

 

 ―――現状の戦力で《JOSH-A》を防衛することは出来ない。

 いや、現在の地球連合軍の力では、ザフトとの戦争に勝つことそのものが不可能だろう。

 

 今の本部施設でさえ、パナマからの救援は間に合わず、やがて守備軍は全滅してゲートは突破される。

 敵に奪われぬため、本部施設の破棄と、攻め寄せたザフト軍部隊の始末を同時につけるためサイクロプスが作動される。

 

 おそらく表向きは、『本部を騙し討ちした卑劣なザフト軍が守備軍の思わぬ抵抗に手こずったため』『味方の犠牲を覚悟で大量破壊兵器を使用した』『コーディネイターとは何と非人道的で凶暴な種族なのか』……という事にでもする予定でいるのだろう。

 

 それによって大衆の世論と、悪辣なる侵略者コーディネイターから地球と人々を守るため各国を強引に糾合。従わぬ者は『地球人類防衛のための戦争』に協力しない裏切り者と決めつけて排除し、地球各国が加盟している地球連合軍を単一の指揮系統で動かすことが可能な一つの同じ軍隊として再編成する腹づもりでいるのだ。

 

 

「俺はこの目で見てきたんだ! 司令本部はもうもぬけのカラさ! 残ってるのはユーラシアの連中とアークエンジェルのように、あっちの都合で切り捨てられた奴らばかりだ!

 あの連中は、空き家になった《JOSH-A》にザフト軍をぶつけさせて相打ちに終わらせるだけじゃない。

 地球全部を『自分たちの国』に作り替えちまうつもりで今回の作戦を計画しやがったのさ! それが奴らの目的だ!

 この一件で世間はコーディネイター憎しで盛り上がり、敵を倒せと叫ぶ大西洋連邦のお偉いさんが『正義は我にあり』とでも偉そうにほざく! 最悪の終わり方さ!!」

「そんな…そんなことって……!」

 

 

 あまりに衝撃的すぎる事実暴露の連発によって、マリューの頭はパンク寸前の状態だった。

 ただでさえ、敵の手に落とす訳にはいかないと必死で守っていた本部は最初からもぬけのカラで、守るべきものは当初からここには無くなっていた後だったと知らされ。

 かすかな希望と信じて、敵わぬ敵と必死に戦っていた最後の縁たる援軍はどこにも存在せず。

 

 最初から自分たちが守るべきものは何もなかった。

 ただ勝利のための生贄として、敵を引きつけておくための囮として戦っていただけ。

 すべては無駄に終わる前提での奮戦。価値あるものなど何もない戦果。

 いくら敵を倒したところで、どれほど犠牲を被りながら戦い続けたところで。

 

 どうせ最後はすべて一瞬にして、全部消える。すべて無駄死に。すべて無駄。

 最後の結末だけが、“見捨てた側にとっては”意味ある大量の死として価値が生じる……ただ、それだけ……そういう作戦…。

 

 

「こ…こういうのが……作戦なの……?」

 

 全員が黙り込んで沈黙が包まれていた艦橋に、ミリアリアの震える声が小さく響くのが聞こえてくる。

 

 

「作戦だから……? 私たち、軍人だから……そう言われたら、言われたとおり、死ななきゃいけないの……?

 必要な犠牲だから、私たちは勝つために、死ななきゃいけない……そーいうこと……?」

 

 

 涙を湛えた瞳で、泣き笑いのような表情を浮かべながら呟かれる少女からの言葉に、上官であるマリューは反応に窮して、答えることが出来なかった。

 伏せられた視線の先では、鋼鉄の床で見えない眼下の戦場において今現在も数十の命が失われ続けているのだろう。

 

 だが、彼らの生と死に責任を追うべき立場の人間たちは、誰一人として彼らの死に責任を取らない。取ることを拒否して遠く離れた場所まで逃げ出してしまっている。

 彼らは只、ここにいる兵士たちの死によって敵軍が葬られ、安全な場所から成果だけが得られるのを待ち望んでいる。

 

 敵軍と共に大勢の兵士たちが死んでいき、その犠牲によって安全な場所まで逃げ出した、『責任を取りたくない責任者たちだけ』が得をする。それが出来るように世の中の仕組みは作られている―――

 

 

「違うッ!!」

 

 

 そんな暗い思いに囚われかかっていたマリューやミリアリアの耳に、ムゥが叫んだ怒りの怒声が響き渡り、意識を現実へと回帰させる。

 

「そんな作戦をアンタらは、本部から命じられていないんだろうが!? ただ“本部は守る必要がある大事な場所だから守れ”と、ただそんだけしか命令されてなかったはずだ! 違うか!?」

「そ、それは……そうですけど、しかし司令部の意向は――」

「そんなものは“無い”ッ!!」

 

 ムゥは敢えて、ハッキリとそう断定した。

 自分が見聞きして、知ってしまった情報に基づく正しい連合軍司令部の真意を、“命令されてなかったから存在しない命令だ”と断定して見せたのだ。

 

「ある訳がないんだ! そんなもんはな! そんな命令をハッキリと言ってしまえば、誰も言うことを聞かない、逃げ出すにに決まってると奴さんたちは信じてるだろうからなッ。具体的な命令なんか出せる訳がない!

 俺の話だって、俺が司令部内でサイクロプスを見て教えに戻ってこない限りは知りようがない事なんだからな!

 曖昧で具体性のない命令なんざ解釈次第なシロモノだ! どうとでも言い換えれる! こっちの都合で勝手に変えちまえばいい! 逃げるだけならそれで十分だ!!」

 

 

 あまりにもあまりな言い分に、マリューだけでなく他の面々まで唖然としてエースパイロットの顔を凝視することしか出来なくされていた。

 詭弁だ――とマリューは思ったが……しかし、今回の作戦は始まりとなっていたと思しき査問会がすでにして、サザーランド大佐の“詭弁”によって取り繕われていただけのシロモノだったことを思えば、この程度の詭弁は流されて然るべきものと言えなくもない。

 

「確かに…部下は上官に習うもの、ですからね。現状において一時的な上官のサザーランド大佐に習うとしましょう」

「で、では艦長……それでは…」

「ええ――本艦は司令部の命令である『防衛戦を維持しつつ臨機応変への対処』を実行するため、『臨機応変に対処する』のよ。命令に背く訳じゃないわ」

 

 自身も詭弁を口にしつつ、マリューの口元にようやく笑みらしきものが浮かぶのを部下たちも目にして、彼らの心と表情にも僅かながら余裕が取り戻されてくる。

 

 しょせん、前線の軍人にとって後方の司令部から下される命令などというものは、半分だけ守っていればよく、残りは場と状況に応じて独自に判断して動けばいい。律儀にすべて言われたとおり真面目にこなすだけではバカを見て死ぬだけしかない。

 

 それが軍の命令というものだと、マリューはこのとき理解したようだった。

 その発想は、異なる暦を用いた地球圏を巡る戦いの中で、『役者じみた天才』が最も信頼した機動巡洋艦のソレと酷似したものだったことを彼女は知るよしもなかったし、その結論が正しいか否かは彼女も、そして暦の違う地球での戦いで戦死した艦長にも解ることはない。

 

 何故なら正しい答えとは、正しい結果に行き着くことが可能になる選択のことだからだ。

 現時点の混沌とした戦況で、未来の結末へと続く正しい選択肢など視えている者は誰もいない―――

 

「では、僚艦にも打電し、本艦は遺憾ながら戦場を一時離脱する―――」

「あ、待ってください! 通信が…いえ、これはオープン回線…? 何者かが戦場全体に向けて何か発信している模様です! 音声、出します!」

 

 艦長席へと座り直し、大軍に囲まれた不利な戦況から撤退を成功させる困難さを前にして覚悟を決めた直後に告げられたミリアリアからの報告の内容。

 多少は、肩すかしを食らわされた気分を抱かされながら、艦橋内に流れてくる何者かが敵味方全てに聞こえるよう発信している通信を耳にしたとき。

 

 この日マリューは、何度目かになる驚愕の思いをまたもや味わう事になるのだった。

 

 

 

 

 

『全ザフト軍の兵士諸君、ならびに地球連合の将兵たちに告げる。私は、ザフト軍の指揮官ラウ・ル・クルーゼ隊長である。

 敵味方全軍に警告する。直ちに戦場から全速力で離脱せよ! 《JOSH-A》にはサイクロプスが仕掛けられている!

 私は、この目で確かにそれを見た! 奴らは我らを空き家となった司令部にぶつけさせて皆殺しにする腹づもりだ! 我らは奴らの卑劣な罠に騙されたのだ!

 非道なるナチュラル共の思惑に乗って、無駄死にしてやる義理はない! 全軍は戦闘を放棄して速やかに撤退せよ! 無駄死にはするな!』

 

 

『じ、自分は地球連合軍のアラン・タチた――少佐だ! 《JOSH-A》守備部隊に配属されている兵士たちよ、戦うのを止めろぉ!

 あと少しの時間でサイクロプスが起爆するんだ! お前たちも早く逃げろ! 責任は私が負う!

 私は守備隊の指揮権をさ、サザーランド大佐から直々に委ねられている! だからこそ真相に気づくことができた! 速やかに離脱するか、ザフト軍に降伏するのだ!

 クルーゼ隊長は、寛大なる慈悲によって敵である私の降伏を許された! お前たちも逃げ切れないときは、そうすべきだ!

 これは命令である! ざ、ザフト軍に降伏せよ! 無駄死にはするなぁッ!!』

 

 

 

つづく




*今話ラストにおけるクルーゼの行動理由。
ネタバレになるかもと思いましたが、それほど複雑なものではないので、念のため先に説明しとくことにしました。


【敵の連合兵まで助けてやる理由】
1:どうせ連合が「生き証人」を許すはずがない。
 敵が作戦後にやることは見え透いている状況では、敵側の生き証人が多いことは自軍の有利にしか作用しない。
 役立たなくても、自分たちは何も損をしない。

2:このまま戦闘状態が続くと、撤退がスムーズに行えずに犠牲が増える。
 こんな手を使ってきた敵が、盛大に反攻作戦をしかけてこない理由があるわきゃ無いので戦力は多く残るに越したことはない。

 また純粋に、防衛戦力の離脱は拠点を攻める味方の有利になっても不利にはならない。
 ナチュラルを殺しまくりたい感情を優先するか、任務を優先するかで味方の方針を分裂できる。生き残れるヤツが多くなれれば、拘るヤツは死んで構わん

3:自分が逃げるための大義名分。
 現段階では任務を放棄しての敵前逃亡と見なされかねない。
 「裏切ったから知ることが出来た情報」と言いがかりをつけられる恐れもある(笑)
 正当そうな理由が必要だったし、部下たちもその方が賛同しやすい。

 自爆で味方を盛大に殺された後、その責任を無事に逃げ延びた自分達に押しつけてこないという保証もない状況では、保険を用意しておきたい。


そういう様々な戦闘後のプロパガンダで利用できる駒として、今の時点から色々やってたクルーゼさん。
そういう設定の今作版『生き続けられるようになったクルーゼ』の行動理由と目的になっておりまっす。
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