転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。 作:ひきがやもとまち
アラスカ戦最終回。長かったです。文章も長いです。
クルーゼの謀略による意見対立から、敵基地を目前にして分裂してしまったザフト軍攻撃部隊。
およそ4割近くの兵力が《サイクロプス》による自爆から逃れるため敵に背を向け基地から遠ざかる道を選択し、残る6割が地球軍本部《JOSH-A》に城下の盟をしくためジャガンナート司令の指揮の下、攻略作戦を継続するため全面攻撃を続行中だった。
とはいえ、絶対数の減少は如何ともしがたく、やむを得ずジャガンナートは敵基地の包囲網に一部穴を開けて、そこを「敵前逃亡を望む連合軍兵士達への逃走ルート」として提供してやるという形で妥協を強いられることとなる。
これに対して地球軍側は、侵攻部隊の混乱という幸運を与えられた状況を利用し、戦局を優位にするための切っ掛けとなり得ていた―――という訳では実のところない。
「おいっ、どこへ行く貴様ら!? まだ撤退命令は出ていないぞッ!!」
「もう無理ですよ! 大西洋連邦のお偉方は、とっくに逃げちまったんでしょう!? パナマに出撃した本隊と合流するため逃げた方が――」
「馬鹿者! 我らを混乱させるため宇宙のバケモノ共が垂れ流している穿った心理戦に惑わされおって! 持ち場へと戻れ! 戻って敵と戦え! 今こそ奴らに連合魂を見せつけてやるのだッ!!」
すでに陥落するのが確定しつつあった地球軍本部を守る防衛部隊内で、上官と部下、下士官と士官、下級・中級士官と指揮官レベルたちの間で意見対立を発生させる動機となる、火種が投げ込まれる要因となっていたからである。
もともと地球連合軍統合最高司令部という肩書きとは裏腹に、現在《JOSH-A》を守るため戦っている防衛部隊の大半は、『とある取引』によって大西洋連邦の貴下に入ることを承諾したユーラシア連邦軍の兵士たちが大半で、士気が低い。
圧倒的多数の敵軍に強襲された不利な戦況で、『戦って勝たねば殺される』という危機的状況だったからこそ、必死になって迎撃のため戦っていたのである。
兵士たちにとっては、勝ち目のなくなった戦域を捨てて撤退し、無事な味方部隊と合流して奪還作戦でもやった方がマシだと考えるのは当然の発想だ。
だが一方で、上層部の一員ではないものの、一定以上の地位にはある現場の責任者たちには別の視点がある。
ここで現場を放棄し、許可なく独断撤退してでも生き延びて味方と合流したところで、『敵前逃亡の軍紀違反者』として軍法会議で銃殺刑に処されるのがオチでしかない。
『臆病きわまる卑怯者』としてのレッテルが、自分の死後も家族もろともに貼り付けられて恥辱に満ちた生涯を送らされる羽目になるのだ。
また仮に敵のいうとおり、これが最初から味方の計画だったとすれば、逃げて生き延びた自分たち守備軍を連合軍は決して生かしておかないだろう。草の根わけて探し出し、『口封じ』として殺されぬため逃亡者として生きるしかなくなる。とても逃げられない。
どのみち死ぬことが決まっている立場というなら、せめて―――!!
それが彼ら、現場責任者クラスの判断であり、選択の動機にもなっている感情だった。
更には基地外へと脱出し、逃げる道を選んだ者たちにも対立と衝突が見られる。
「おい待て! 待ってくれ! 頼むから連れて行ってくれ! 置いていくな!!」
「無茶言うな!? この機はもう定員を超えている! 次の機を待っ―――ぐふっ!?」
「クソッ! どけ! どけって言ってんだよクソ野郎! 俺の逃げ道を塞ぐんじゃねぇ!」
基地に残されていた、脱出のために使用可能な軍用バギーや輸送機などに乗せてもらおうと、定員を超えた数の兵士たちが殺到してしまい、渋滞と衝突が発着場付近などで続発していたのだ。
死地から逃げ延びようと、味方を殴り飛ばし、足を掴んだ者を蹴飛ばし、誇りも主義主張も仲間意識さえも投げ捨てて、味方の命を捨てさせてでも自分だけは生き延びるため必死に足掻き続ける修羅となり果てた連合の兵士たちが餓狼のように群れ集っている。
結果としてクルーゼからの情報公開と、ザフト軍から示された寛容さは、アラスカ守備軍の内部対立を引き起こさせる切っ掛けとなり、全軍で攻めかかっていた時よりも連合軍本部の守りは薄くなって攻略しやすくなってしまったのだ。
それにより兵力減少による突破力低下のデメリットは相殺されることになる。
混乱によって一時的に遅れが発生していた、ザラ議長発案に基づく攻撃スケジュールは辻褄が合わされ、計画通り順調にザフトの大軍による連合本部への奇襲作戦は成功裏に完了できる流れを形作っていた。
このため、クルーゼの独断撤退によって貴下の兵力を減らされてしまっていたジャガンナート司令にとって、必ずしも機嫌は悪くない。
「成る程な。クルーゼの若造が賢しげに語っていた主張も、一理はあったということか」
満足げに頷きながら呟いたジャガンナートは、旗艦となっている潜水空母の艦橋で唇をゆがめて一人笑う。
彼は別段サディスティックな趣味趣向や人格の所有者ではなかったが、愚かな敵国の無様な失敗で味方の兵たちが死ぬことなき圧勝よりも、誠実な敵軍の名将によって多くの犠牲を払わされる方が、人道的で優れている――などという非人道な軍事ロマンチシズムに賛同する気は些かもない健常者のつもりでいる。
連合の兵たちが命惜しさに晒す無様な醜態には、見ていて反吐が出る想いだが、その醜態で多くの味方が危険少なく敵基地中枢へと侵攻可能になれるのなら、許せる。
かつて連合の卑劣な罠によって多くの犠牲を強いられた《グリマルティ戦役》を思い出せば、笑いの衝動も起きようというものだ。
――勝利した暁には、若造の先走った判断の誤りを『作戦の一環だった』ということにして擁護してやるぐらいはしてもいい・・・・・・そう思えるまでになっていたのだが。
「・・・ッ!! 司令っ、上空より接近する物体あり!!」
「なんだとッ!? ミサイルかッ」
突然ブリッジのCICから急報を知らされたジャガンナートは思わず口走ってしまった直後、「それはない」と即座に自分自身で自らの疑問に否定を返す。
弾道ミサイルを使って大気層を大きく弧を描くように飛翔して、敵地に大破壊力の弾頭を投下させる攻撃方法は旧世紀の昔から地球国家群の間で用いられてきた定番のものだが、現在の地球上では使用不能になって久しい。
地球の各所に撃ち込まれた《Nジャマー発生装置》が核分裂を封じ込め、レーダーも機能不全に陥っているからだ。
いくら威力が高くとも、通常弾頭ではザフトの大艦隊になにほどの損害を与えられるものではなく、弾数が多ければ既に察知されていたはず。
そもそもレーダーすら使用できず、自動操縦装置も近距離でしか機能できない状況下で、超超遠距離からの遠隔攻撃など狙って当てられるものではない。
今作戦を指揮統率するため、プラントから地球へと降りてきて日の浅いジャガンナートが感覚の違いにより一瞬だけ誤った故の推測だったが、では何が接近してきたのかと問われたら見当がつかない。
その推測は正しく的確で、最初に口走った疑惑は続く報告ですぐに否定され、続く疑問にも肯定される報告が届くことになる。
即ち――不明、と。
「MS――いや、速いッ!? IFSに反応なし!機種不明ッ! 所属不明のアンノウンです!!」
「何だというのだ!? いったい何が来た!」
その報告内容にジャガンナートは更に混乱させられずにはいられない。
上空から降下してきたと言うが、制宙圏はほぼ完全にザフト軍宇宙艦隊が制圧している。
さすがに地球軍本部の上空は防備が厚く、MS隊を満載したポッドで降下作戦をおこなえるほどの隙を見いだすことは出来なかったが、逆に言えば軌道上から敵増援を降下させようとする敵戦艦を見逃すほど節穴でもなかった。
可能性があるとすれば、大気層ギリギリの高高度まで打ち上げた機体が、カーブを描きながら索敵網を掻い潜って飛来させる手法だが・・・・・・たった1機かそこらの高高度戦闘機など援軍に送ってなにが出来るというのか? 何をするつもりだというのか? まったく訳が分からない!!
「何なのだ!? 誰か説明しろ! いったい何が起きたと言うのだ!?」
キレかかったような口調と表情でがなり立てるジャガンナートからの疑問に、答えられる者は誰もいない。
その機体の介入と登場の察知は、その機体から一筋のビーム光が発射されたのは、ほぼ同時に起きた出来事でもある。
そしてそれは、イザーク・ジュールが怨敵《アークエンジェル》の艦橋を撃ち抜くため、《デュエル》がもつビームライフルの銃口をロックオンしたのと、完全に同時でもあったのだ。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!!
「!! なにッ!? 反応だと――上かッ!!」
コクピット内に響き渡った、危機の到来を知らせる耳障りな警告音を聞かされた瞬間、イザークは半ば無意識の行動でコントロールレバーを動かして機体を操作し、回避行動をとらせていたが、それでも僅かに反応が遅かったということか。
あるいは―――その回避行動さえ、織り込み済みの一撃だったのかもしれない。
「くっ!? ビームライフルが・・・っ」
――ドォウンッ!
小さな火球となって消滅させられてしまった自機のビームライフルを見せつけられ、仕留められる寸前までいった怨敵を前にして距離を開けざるをえない強敵の登場に歯がみする。
敵艦にとどめを刺すため突き出していた銃身を撃ち抜かれた結果だった。
それを成したアンノウンは落下速度も加えた驚くべき機動性で、自機に向かって超高速で接近してきながら腰部にあるビームサーベルへと手を伸ばす姿がモニターに映る。
「舐めるなぁッ! やぁぁぁぁッッ!!」
射撃武装での迎撃では間に合わないと判断した彼は、愛機にバックパックへと手を伸ばして引き抜かせたビームサーベルを上から下へと高速で振り抜き一閃させ。
――ドォウンッ!!
再び火球が発生し、デュエルの腕から右手の先が切り裂かれて焼き切れた袖だけを残して無くなっている。
「クソッ!? なんだよ! あれは一体・・・ッ!?」
状況不利と見た彼は機体を反転させ、飛行補助マシーン《グゥル》に跨がらせたデュエルを大きく後退させていく。
その後ろ姿と、見慣れた形状とカラーリングをもったMSを、モニター越しに目撃することになり、
「!! 《デュエル》――あの機体は・・・っ」
敵を見送るMSの内側から、その機体の後ろ姿を見せつけられていたキラは、微かに唇を強くかみしめ、レバーを握る腕に力が込もる。
かつて戦っていた頃の記憶が、走馬灯のように頭をよぎる。
自分に向かって「守ってくれてありがとう」と言ってくれた、お礼に折り紙をくれた女の子。
その子が乗っている脱出用シャトルを撃ち抜こうとしたことがあるのが、あのデェエルに乗っているパイロットだった。決して良い印象のある相手ではない。
だが結果として、敵機はあの子が乗った機体を撃てなかった―――と、思う。
あの時の戦いで、自分たちは共に飛来してきた“流れ弾”がデュエルの発射したビーム光に命中してしまい、スパークが起きて諸共に吹き飛ばされてしまったせいで、“その後の結末”をキラが見ることは出来なくなってしまっていたのだ。
殺されたかもしれないし、生きて地球に帰ることが出来たのかもしれない・・・・・・分からない。
キラが曖昧な心地を抱かされ、割り切りがつきづらい蟠りをデュエルに対して抱かされていたのも、それら顛末の曖昧さゆえの部分が大きかったのだが――少なくとも今の彼にとって、大切なことは他にある。
コクピット内にある機器を操作し、使い慣れたコードの番号を入力した後。
キラは通信機を使って、懐かしき母艦の艦長“代理”に向かって報告を告げる。
「こちら、キラ・ヤマト! アーク・エンジェル――マリューさん! 聞こえていますかッ!?」
「キ・・・ラ・・・?
キラ・・・・・・くん・・・?」
通信機から飛び込んできた聞き馴染んだ、二度と聞くことが出来なくなったと思っていた少年の声が鼓膜を叩き、マリュー・ラミアスは数瞬の間だけ状況を忘れて唖然としたまま同じ名前を呟いてしまったことにも気づけなくなっていた。
因縁深い怨敵の《デュエル》に目前まで迫られ、今度こそ終わりかと諦めに心を絶望に染められていた、その次の瞬間には天から一条の光が降り注ぎ、自分たちを殺そうとしていた敵のビームライフルのみを撃ち貫き、一瞬のうちに撤退にまで追い込んでしまった。
地獄の一歩手前から地上へと引きずり上げられたかのような立場の激変を、あまりに短時間で体験させられたことで脳の理解と反応が状況の変化に追いついてくれずに混乱した心理を統合できない。
また、その『声の主』が発したと思しき発信源が、さらにマリューの心を混乱させる。
コンピューターが間違った表示をしていないのなら、『彼の声』の発信源は空から舞い降りてきた見知らぬMSから発しているもの。
アークエンジェルの艦橋を守るように背を向けて、低空に滑空して飛行している所属不明の新型MSから発信された通信でしかありえない。ありえないのだが・・・・・・
(なん・・・なの・・・? この機体は・・・・・・ザフト軍の新型、とでも言うこと・・・・・・)
マリューが混乱して、考えがまとまらぬのも無理はない。
目前に降り立って自分たちの艦を救ってくれたMSは、味方と思うには余りに不可解な点が多すぎる機体だった。
頭部のV字アンテナや、両眼の配置をしたカメラアイ等、あきらかにザフト制のMSとは異なる開発思想に基づき設計されたとしか思えないフォルムをもつ飛行可能MS。
《Xナンバー》の影響を受けた、オーブ制の軍事技術が強く反映した形状をしているものの、あの軍事技術大国でさえ現段階で『重力下での単独飛行』を可能とする技術までは生み出せてはいなかったはず
・・・なら、この機体は一体どこの、誰の手によって造られたMSだと言うのだろう・・・・・・?
なまじヘリオポリスで《アークエンジェル》と《Xナンバー》の開発計画に携わっていた経験があったことで、他の者たちより既存の技術限界をよく知っていたことが仇となり、即座に現実を受け入れられる精神的下地を築くことが出来なかったのがマリューの反応が鈍い理由だった。
一方で、彼女と同じように工業技術には聡い立場でありながら、アッサリと現状を受け入れて歓喜の声を上げる者たちも他にはおり。
「キラ・・・? キラなのッ!? 本当にッ!?」
「~~ッ!! そうだよ! キラだッ! キラが生きてたんだッ!!」
クルーたちが一様に息をのむ中で、キラと同じ学校の生徒として仲の良かった二人の少年少女たち『サイ・アーガイル』と『ミリアリア・ハウ』がそろって喜びの声を上げ、その声でマリューもまた意識と、そして“危機的状況にある現状への理解”を取り戻す。
『繰り返します、こちらキラ・ヤマト! その状態で戦闘続行はもう不可能です!
僕が援護します! マリューさん、今のうちに早く退艦をッ!!』
「あ・・・・・・いえ、・・・・・・あの――」
続く言葉で、さらに冷静な思考を取り戻すことが出来はしたが、発した返答は言葉を探すように考えをまとめながらのタドタドしいものになる。
他者から見れば、鈍い反応としか思えぬ対応だったそれは、状況と立場が激変した故での結果でもある。
キラが強い口調で告げた言葉の内容は、彼が『まったく状況を理解していない』という事実を示すものでもあったからだ。
――艦の外から見たアークエンジェルは傷だらけで、撃沈される寸前の瀕死でのたうち回っている状態に見えただろうし、それは事実でもある。
既に満身創痍の窮状で、武装類やMSハッチなど各部を破壊されて稼働率は40%近くまで低下させられ、推力も維持できなくなりつつある。
なんとか飛行能力は維持できているものの、高高度へと急上昇する力は残っておらず、低空飛行で移動するぐらいしか今のアークエンジェルには出来る状態でなくなりつつある。
たしかにザフトの大部隊に包囲されている現状で艦を捨てて逃亡するなど、自殺行為のようにも思える選択ではあるが、現状のアークエンジェルでは『目立つ的』にしかなりようがない。
まだしも艦を捨ててクルーたちだけで、白旗を掲げながら戦場を離脱した方が逃げ延びられる可能性は高いようにキラには思われたはずなのだ。
だが・・・しかし・・・・・・
「ほ、本部の・・・地下に、サイクロプスがあって・・・・・・私たちは囮に・・・作戦だったの!
私たちは知らなかった! 何も知らなかったのよっ!!」
『な・・・!?』
自分にとって長らく艦長代理“だった人”の言葉に、キラは一瞬愕然とさせられる。
彼の立場ではプラントで、新議長となったアスランの父親が独断で攻撃目標を変更させた地球軍本部を直接叩くという陽動作戦に引っかけられ、手薄になった《JOSH-A》に大軍勢が迫っていることを知らされた。
そこには自分の学友たちがクルーとして志願入隊したアークエンジェルが、長旅の目的地として寄港しているはずだったのだ。
『自分にばかり戦わせて守ってもらっては』――そう言って志願してくれた友達がクルーになっている船がだ。
――自分のために、自分たちの祖国でもない外国の軍隊に志願入隊してくれた友達を危険な目に遭わせながら、自分は安全で平和な場所で穏やかな暮らしを送ることができる・・・・・・そんな立場と状況の激変に我慢していることが出来なくなったからこそ、アレほど嫌っていた戦場に自らの意思で帰ってくる道を選んで、ここにいる。
だが、どうやら罠に引っかけられたのは地球軍ではなく、ザフト軍だったらしい。
「ただ・・・・・・ザフト軍の方でも・・・知ってる人がいたみたいで・・・退却命令と、地球軍への退避勧告が出されて・・・・・・でも、アークエンジェルは敵から恨まれてるから・・・・・・ここでは退艦できないの。もっと基地から離れた場所まで逃げてから・・・・・・!!」
『わかり――ました』
マリューからの血を吐くような心苦しい声での告白を、告解を聞かされて、キラは敢えてその想いと言葉には応えることなく前を向き、自分と彼らが行くべき道を行くための《剣》となるため露払いを引き受ける。
『ザフト、連合、両軍に伝えます! 僕たちアークエンジェルは、ザフト軍からの退避勧告にしたがって戦闘を停止して撤退します! 道を開けてください!
僕たちは撃たれない限り、決して誰にも撃ち返したりはしません! 繰り返します――』
全周波の通信に乗せて、明瞭な口調で告げられたキラからの宣言。
そう宣言する時にも、マリューたちと通信で語り合っている間も、キラは休むことなく『有言実行』をおこない続けていく。
機体の背中に展開している翼状のパーツに内蔵された砲口が、自機とアークエンジェル目がけて発砲してきた方角へと撃ち返され。
両腰にマウントされて砲身と右手にもったビームライフルは、それぞれ異なる方向から自分たちを狙い撃とうとしてくる者に向かってだけ撃ち返される。
その反撃は正確に、敵機の群れから『戦闘能力だけ』を損失させていき、『移動力』を奪わず撤退する道を選ばざるを得ない状態へと追い込んでいく。
頭部を、武装を、ライフルを装備した右腕を、次々と破壊されて戦闘継続が困難になったザフト軍MSが大量に生み出され続ける。
無論、機体の重要部位を奪われてバランスを失ったものの中には、自力での撤退ができなくなるものも出ている事だろう。
飛行中に飛行能力を維持できなくなり、地上へと落下したものの中には衝撃や負傷で命まで失うものも決して0ではないはずだ。
――だが、それでも今まで連合軍の新造船艦《アークエンジェル》搭載MS《ストライク》のパイロット《キラ・ヤマト》の戦い方とは決定的に違うものだったのも事実ではある。
今と同じ状況におちいった時、『バーサーカー』とも評された今まで通りのキラだったなら、確実に、効率よく、的確に、『自分たちに危機をもたらす全ての敵』を殺し尽くせる戦い方で全滅させていたはずだ。
あらゆる条件を利用し、使えるものは全て用い、効率よく的確に『自分たちを殺そうとする敵』を顔色人使えることなく冷静沈着に殺す方法だけを考え、実行する。――それが今まで続いてきたキラ・ヤマトの戦い方だった。
今までは、そうする必要性が存在した。
迫り続ける敵に『追い詰められた』という状況が。
自分が戦わないと『皆が殺される』という窮状が。
条件が、今までのキラが戦い続けてきた『戦う理由』だった。
状況が、彼に「戦う」か「戦わずに見捨てる」という選択肢を選ばせてきた理由だった。
彼は今まで一度も、『自分の戦う理由』を『己の意思』で選んだことがない。考えたことすらなかったかもしれない。
『なぜ戦わねばならないのか?』と、理由付けを求めるだけで、選ばされた自分の行動と選択を「正統だ」と保証してくれる理屈を考えるだけで。
だから、もう辞めるのだ。そういう『逃避』は。『言い訳』は。
周囲から求められる『役割』を果たすことだけ考えればいい生き方は。
『周りから求められたから』戦って。『撃たなきゃ撃たれるから』敵を撃って。
『好きで戦ってる訳じゃないのに』と、求めに応えるだけで責任を押しつけ、役割を果たして報われなければ被害者意識にこり固まる。
そんな生き方は、戦い方は、もう辞めようとキラは心に誓って戦場へと戻ってきたのだ。
たとえ相手が結果的に心だとしても、助からなかったとしても。
それは『自分が殺した命』として、殺した責任を背負う覚悟が今のキラにはある。
もう二度と、自らが殺めた敵を前にして。
『殺したくなんてないのに』―――などと、『殺しに来るから殺さざるを得なかった相手自身』に殺した責任を押しつけて逃げることだけは絶対にしない。
そう、誓って―――ここに戻ってきたのだから。
戦場へと帰還したキラ・ヤマトは、確かに変わった。
その内面での心情変化は、物理的な破壊エネルギーと被害総数という形をもった実害としてザフト軍にも影響を与えずにはいられないほどの圧倒的すぎるもの。
今までは、『自分は望んでいないこと』を『周囲が求める役割を果たすため』に使うだけだった力を『自分が望んだことを叶えるために』という目的意識との一致によってフル活用できるようになった彼の力は圧倒的と呼べるほどの変化を付与させる。
・・・・・・だが、些か皮肉なことではあるが。
キラの内面における変化は、ザフト軍にも確かな影響と変化をもたらしはしたものの、その変化と影響は個々人で大きく異なるもので、『彼の変化そのもの』とは何ら関係のない変化と影響も含まれていた事実は否めない。
たとえば全周波の通信に乗せて、キラが敵味方すべての部隊に聞かせるために行った警告をコクピットの中で聞かされた“彼”がいる。
「この声・・・・・・まさかッ! 奴かっ!?
キラ・ヤマトか・・・・・・ッ!!」
仮面の指揮官ラウ・ル・クルーゼは、MA形態のメッサーラの中で通信機から飛び込んできた警告を聞かされた瞬間、“その声”にこそ強く影響され、張り付いていた不敵な笑みを激しく歪まされる変化をもたらされた人物だった。
「まさかとは思っていたが、また生き残っていたとはな。
つくづく他者の命を吸って生き続ける、ヒトが夢見た悪夢の産物がッ!!」
唾棄する口調で吐き捨てたクルーゼにとって、その通信は『その声の主』が生き続けていたことを示すものだった時点で、彼にとっては最大限の意味と価値のあるものになる資格を有する。
自らを生み出させる原因となり、自らに苦痛に満ちた生を強要した“有ってはならぬイキモノ”
それが性懲りもなく、また生き延びたというのだ。これで他の変化に気を配っていられるほど、クルーゼの被った『キラの誕生による二次災害』は小さなものでは決してない。
当然キラの内面変化など、クルーゼにとって論ずるに足らぬ些事にしかなりようがなく。
相手が変わろうと変わるまいと、『自分が殺すと決めた自分の中の相手自身』には何一つとして、変化させてやるべき理由はない。
所詮、ヒトは自分の知ることしか知らず、今の自分が知ったことのみで他者と世界を計ることしか出来ぬ生き物なのだから。
ならば、自分が『知らぬ相手の変化』など、今の自分にとっては無いのと同じ! 関知する価値や必要性などどこにもない!!
―――殺すべきか?
瞬間、その誘惑に駆られる。
昔の自分であったなら、仮に殺意は感じたとして『現段階の状況』で彼を殺すのは得策では無いと、敢えて見逃したかもしれない。
かつて自分が実行するつもりでいた計画の最終段階までには準備が整っていない状況にある以上、今の段階で『相手にとっても最悪のジョーカー』を自分だけが危険を冒してまで仕留めようという気になれなかった可能性は高い。
だが今は、その計画は既にない。友人との出会いと交流によって必要性が激減した。
友と共に、生きたいと欲する世界を手にするため戦っているクルーゼにとって、キラの存在と生存はただの脅威以外の何物でもなくなっていた。
既存のザフト軍MSでは、奴が乗っている機体には敵いそうにもないが、このメッサーラならあるいは―――そう思いかけたクルーゼは、だが寸前で思いとどまったのは、相手の機体によるもの。
「あのマシーン・・・我らがヘリオポリスで奪取したものを発展させた後継機らしいが、オーブ軍機とは思えん。といって量産MSすら実戦投入できていない連合に、あれほどの機体が生み出せる技術があるはずもない―――とすると」
連合でもなく、オーブ製でもないとするなら、残る候補は一つしかありえない。
あの凄まじい性能を発揮しているMSが、もしザフト軍が完成した後の機体だったとしたら――ザフト軍の“天才”が、アレを超える新型をそろそろ完成させてくる頃合い。そういうことになるだろう。
「フッ・・・ここで貴様と戦って滅びるなら、それも宿命かとも思ったがね・・・・・・気が変わった。
貴様は万全の用意をして、私自らの手で殺してやろう。我が友の造り出した機体によってッ!」
そうコクピットの中で一方的に宣言だけを残し、ラウ・ル・クルーゼはアラスカの戦場からの脱出行を急がせる。
どのみち奴が生きていた以上、いずれ宇宙へと戻ってくるはず。宇宙国家プラントとの戦いに決着をつけるためには宇宙に出るしか道はない。
急ぐ必要は、今のクルーゼには何もなくなった後なのだから―――
一方、《JOSH-A》に包囲網を敷いていた潜水母艦の一隻で、敵味方に通信を垂れ流している発信源の存在を知った男もいる。
(馬鹿な!? あの機体は・・・まさかッ!!)
ハリ・ジャガンナートは、後方の艦隊から届けられた所属不明のMSの画像を見せられたとき、思わず心の中だけで悲鳴のような大声を上げるのを押さえるのがやっとだった。
映像に映し出されていた、憎むべき怨敵である《大天使》を守るように立ち塞がっている所属不明で見知らぬはずのMSに、彼は見覚えがあったからだ。
彼自身が、完成した実機を見る段階には至っておらず、設計図をもとにコンピューターグラフィックスで映し出されていた色のない白黒の機体。
だが、大まかな特徴と形状は、明らかに彼が心酔して忠誠を誓った存在である、パトリック・ザラ議長が密かに開発を進めさせていた新機軸のMS!!
――何故、それがアラスカへと降下してきたのか!?
ザラ議長から差し向けられた援軍?
だが、それならば何故、味方を撃つなどという暴挙を・・・・・・意味がわからん!!
「――攻撃しろッ!!」
「・・・はっ!? で、ですが・・・・・・」
「攻撃しろと言っている! あれは敵だぞ!? 撃ち落とすのだッ!!」
状況の変化に戸惑うあまり、傍らに立ちすくんでいた艦隊参謀に向かってジャガンナートは叱りつけるような口調で命令した。
攻撃せよ、と。
あの所属不明ながら、重力圏内でも飛行可能な、ナチュラル如きの技術力で実現できるとは到底思えない機体を撃ち落とすのだ、と。
「は・・・はぁ・・・ですが司令。
お言葉ですが、あの突然現れた機体は恐るべき戦闘能力を有しており、我が軍の力を持ってしても容易に倒せるとは思えず、正体がわからない現状では慎重に対応した方がよろしいのではと・・・・・・」
「貴様の目は節穴か!? よく見ろ! あの機体はあきらかに地球軍の艦を守って戦っているではないか!
ならば地球軍が開発した新型モビルスーツが、奴らの味方を守るため援軍として派遣された以外に、他の可能性があるとでも言うのか!?」
「い、いえ・・・確かに仰るとおりであります。攻撃を集中させます」
「急げッ!!」
怒鳴り声で部下をせかしつつ、ジャガンナートの内心は焦りしかない。
(アレを我が軍が密かに造っていた機体などと、バレる訳にはいかん!!
《Nジャマー》で使用不能にした核エネルギーを、再び使用可能にできる装置を我ら自身の手で生み出していた事実は、誰にも知られてはならんのだから!!)
部下に命じた内容とは裏腹な叫びを、ジャガンナートは胸中で強く放っていた。
宇宙空間に浮かぶスペースコロニーで生きる者達にとって、核ミサイルでの攻撃や毒ガスといった攻撃に対する恐怖心と忌避感は、暦の違いに関係なくすべての地球圏で同様の現象だ。
逃げることも、防ぐ手段も存在しない、使われてしまった後では殺されることしか出来なくされてしまう、抗いようのない虐殺兵器がコロニー住民にとっての其れだからだ。
通常弾頭のミサイル程度であれば、コロニーの外壁は破損することはあっても崩壊させられるまでには滅多にいたるものではない。
だが、核ミサイルなら話は別だ。一発は無理でも何発かを撃ち込まれてしまえば、逃げ場のない宇宙の小島に過ぎぬスペースコロニーに住んでいる者たちを文字通りジェノサイドすることが可能にされてしまう。そういう存在がコロニー側にとっての核兵器。
広大な宇宙空間のなかを、コロニーの巨大さから見れば豆粒よりは大きいという程度のミサイルが発射され、いつ撃ってきて何発発射されるかは撃ってきた側にしか分かりようがない―――という状況下では、いくら多数のMS隊で防衛に当たらせたところで被害を完全に防ぎきる術などあるわけがなく、1発でも守りを抜けられてしまえばそれで全て終わってしまう。
だが、地上に生まれて地続きの大地を自由に行き来して生きるのが当たり前の者たちが大半を占めるナチュラルたちには、コロニーという密閉空間で生きる者たちにとっての『核攻撃される危険性への恐怖』というものが感覚的に理解することが難しい。
だからこそ、講話派で知られるクライン前議長は《ユニウスセブンの悲劇》に対する報復攻撃として開戦前に、地球上全ての場所へと《Nジャマー》を撃ち込ませて核分裂を不可能にさせた。
これによりエネルギー不足に陥った地球上では餓死者や凍死者が大量に発生し、講話を主張するプラントとの関係修復を阻む要因の一つとなってしまっていくのだが・・・・・・やらなければコロニー国家のプラントと地球軍による宇宙戦争など、《核ミサイルの撃ち合い》によってアッサリと終わっていたことだろう。
たぶん、今よりも更に惨状と化し合った両国の成れの果てという結果を得るカタチで・・・・・・。
その危険性を、パトリック・ザラ新議長は敢えて復活させた。
勝つために必要となったのだ。仕方がない。
だがおそらく、プラント市民達の多くと、ザフト軍兵士たちの一部には、そんな議長の崇高な想いと理想を理解しきれぬ輩は一定数孕んでしまっているであろうことは、先年までクラインごとき軟弱者が政権を取れていた点からみても事実。
「仮にあれが連合の新兵器ではなかったとしても、あれほどの威力を持ったMSを見せつけられてしまっては、見過ごしたまま敵基地攻撃を続行することはできんッ。
背後から襲われでもすれば、何機落とされるか分かったものではないッ。
あのMS、なんとしても落とせよ!! 必ずなッ!!」
「ハッ! では、本営に控えさせていた直援部隊を当てさせるよう指示を出します!
各艦にも地上施設攻撃用ミサイルから急ぎ対空ミサイルへと切り替えさせ、迎撃火線を集中させておりますので、今しばらくお待ちを!!」
「半数をあの機体を抑えるのに向かわせ、残りは全てアラスカ攻略に投入して圧力を強めるのだ! あの所属不明機が連合機なら、頭を先に潰してしまえば済むのだッ!!」
「ハッ!! 早速に!!!」
上官からの説明に納得した副官が、口早に自分が発した命令を実行させるため艦橋内の各所へ細かな指示を下していく。
(あの悲劇を復活させうる技術を我らが生み出したなどと、兵達やプラントの市民達に知られるのは不味い!!
アレを撃ち落とさせれば、我々が造らせていたMSだったとは誰も思わん! 連合がなにを言ってこようとも、敵の言い分を信じる者など今のプラントにいる訳がない!!)
それが上官の発した命令の意図するところだったなどと、想像することすら出来ないままに。
あの機体――《ZGMF-X10Aフリーダム》を、ザフト軍の造り出したMSだった事実などあってはならないのだ。
だからこそ、味方機のコードを与えず、IFSでも識別できない機体として、ザフト軍MSとして正式に登録すらされてはいないのだから。
《ユニウスセブン》を崩壊させた兵器を復活させるマシーンを、ザフト軍が保有しているはずがない。だから壊す。完全破壊させる。
少なくとも、この戦いに勝利するまでは。
我らがパトリック・ザラ議長が、地球軍との戦いで最大の殊勲をあげた国家的大英雄となるまでは。
(“まだ”今の段階で、講和派のクラインや、中立派のカナーバ如きに付けいられる口実を与えるわけにはいかぬのだから!!)
クルーゼは、『キラの生存』を知ることによって。
ジャガンナートは、『キラに与えられたMS』の存在によって。
それぞれにキラの帰還と、内面変化による変化と影響を受けてはいたが、それはキラの心境の違いとは何ら関係性もない、なにも変わらぬままだとしても同じように影響を受けさせられた者同士でもあった。
その点で、この時のキラにとっての理解者は、行く手を遮るため正面から迫りつつあった“彼”だけしか敵の中にはいなかったのかもしれない。
ビーッ! ビーッ!!
「まだ来る・・・っ!? この反応――《デュエル》ッ!!」
アークエンジェルを護衛しながら先行して先導していた、キラの新たな愛機《フリーダム》のコクピット内に警告音が響き渡って、レーダーに正面から接近しつつある敵機の反応を彼に知らせる。
そのコードから彼は、その敵が因縁深い相手が再び自分たちの前へと立ち塞がってきたことを知って、複雑な感情に顔を歪まされずにはいられない。
先ほど一度は退けた相手だったが、どうやら戦闘する意思を完全に失わさせるには至らなかったらしい。
損傷した右腕を修復しているほどの時間はなかったのか、左腕に新しいビームライフルだけを装備し直した姿で、追加装甲《アサルトシュラウド》の右肩に装着させた可動式ビーム砲《シヴァ》とともに乱射しながら自分とアークエンジェルを撃ち落とすため着実に迫ってきつつある。
「俺たちの味方を、殺さずに退けているのかッ!? 下手な脅しをぉッ!!」
自機の周囲に広がっていく、敵によって作り出される光景にイザークは激高させられながらも、迫り来る敵機に向かってビームライフルと《シヴァ》とを交互に撃ち続けるため引き金を引き続ける。
舐めた射撃だった。
敵を見下し、この程度でも撃ち落とせるものと侮った一撃。
当然だろう。何故なら敵は《ストライク》“ではない”のだから。
自分たち《クルーゼ隊》が散々に手を焼かされ続けた因縁の宿敵は、先日の戦いでアスランによって戦死させられた後なのだ。
なるほど、確かに機体性能は凄まじいの一言だが、乗っているパイロットまで“アイツ”と同格の存在を容易く用意できるはずもない。
おそらく何らかの手段により、自動で複数の機体をロックオンすることが可能な新型の自動射撃システムの開発に成功したのだろう。足つきの目前に滞空したままの機体操縦だけをパイロットが担っているというなら、この惨状にも説明はつく。
だが、現実には彼が狙っている攻撃目標《フリーダム》に乗っているパイロットは《ストライク》を使って彼らと死闘を繰り広げてきたキラ・ヤマトだ。
その事実を、キラ・ヤマトは因縁のある敵パイロットの存在と共に把握して、イザークは気づいていない。
その差は明確に結果へと現れ、イザークの機体から乱射されるビームの弾雨はことごとく躱され、自機のもとへと高速接近しつつある白と黒の見慣れぬ所属不明機に間合いを詰められてしまう遠因となる。
だが、数多く撃ち続けたビームの火線を躱され続け、軽やかな動きで自機へと迫り来るフリーダムの回避行動を見せられたことで、イザークの中でも記憶の風景と一致するものが見いだされて目を見開き、
『やめろと言ったろう!? 死にたいのか!』
「あれを躱すだと!? この動き・・・・・・まさかコイツ――《ストライク》ッ!?」
その認識に至った瞬間。キラの叫びは距離がある位置から届かない。
イザーク・ジュールは思わず、「カッ」となる思いを我慢できないほどの衝動に襲われる。
―――ディアッカを失ってまで殺したはずが、何故お前だけが生きている!!―――
そういうタイプの怒りである。
その怒りがイザークに、ストライクのパイロットが操る新たな機体に向け、本気の殺意がこもった一撃を放たせたが、それすらも躱され敵の斬撃の間合いにまで入り込まれてしまう!!
「なにィッ!? う、うわぁぁぁッ!!」
『―――っ!』
腰にマウントされたビームサーベルを抜き放ち、敵機の内側へと入り込みながらコクピットに向かって光の軌跡を描こうとして、キラは心と瞳を苦痛に歪ませられる。
敵によって今まで味あわされてきた過去の光景が、フラッシュバックのように思い出され、彼の心と肉体とで望みが一致しなくなり―――やがて、微かにコントロールレバーに指を動かす。
一方でイザークもまた、光の記憶の中にいた。
コクピット正面のモニターを覆い尽くしていく光の束に迫られながら、自らに迫りくる避けられぬ“死”を自覚して絶叫していた。
自分は死ぬ? 避けられない、殺される、これで終わ―――死――――
いくつもの言葉が頭の中に思い浮かんでは一瞬にして消えていく――ような気がイザークには感じられたのかもしれない。
思考するには短すぎる時間の中で、彼がそのようなことを考えられるはずはなかったが、それでも彼には感じられた気がしたのだ。
彼の心は、このとき迫る光の中に、一人の少年の姿を幻視していた。
同じ部隊の中で最も親しかった僚友が、自分に向かって皮肉気な癖のある笑顔を浮かべてくる姿。
その腕を掴もうと、彼は右手を伸ばして友の右手にソッと触れる―――そのイメージを浮かべたとき。
現実の時間軸にある彼の肉体は、コントロールレバーを動かしていた。
その結果として起こった行動を前にして、キラ・ヤマトは心と瞳で瞠目させられることになる。
―――グォンッ!
『っ!? なっ! 避けたッ!?』
コクピットを両断しつつあった斬撃を、わずかに逸らさせた直後。
《デュエル》は、支援ユニット《グゥル》とのドッキングを解除して、大きく機体をジャンプさせたのである。
それによって完全に、互いの思いは擦れ違う。
斜め下へと斬撃の切っ先を下げさせたフリーダムと、迫るビームの刃を前にして上へと飛んだデュエルの機動。
もしフリーダムが、軌跡を変えぬまま敵機のコクピットを狙っていたら、デュエルの両足を寸断して戦闘を辞めさせることが可能だった。
飛行機能を持たないMSで脚部を失い、空中戦を続けることは出来ない。
もしデュエルが、敵の斬撃にコクピットを狙われ続けることに気にしすぎていたら、この状況で飛翔すれば両足を切り取られ、戦死は避けられても戦闘継続は不可能となるしかない。
結果として、それが互いの思惑を完全に裏切る結果をもたらすことになった。
キラの、『殺さず撤退を促す』という想定は完全に裏切られ。
イザークの、『無駄だとしても最後まで諦めない』という足掻きも完全に裏切られる。
――ガシンッ!!
互いに擦れ違うだけで、掠らせることすら出来なかった攻撃を躱され合った直後に、フリーダムが高速で通り過ぎていった直後の空間で、デュエルが空中でグゥルと再びドッキングし直すと、敵機の背後を取るため通り過ぎようとした背中に追いすがる!!
『この動き・・・違う!? 今までの相手じゃないのかッ!』
「お前さえいなければ! 《ストライク》ぅぅぅぅッ!!」
機体を反転させて防ぎきった追撃への感想も、キラとイザークは再び擦れ違って、亀裂を深め合う。
敵味方すべての状況をリアルタイムで見聞きすることが可能な、雲上人の視点をもつ者が実在することができたなら、さぞ皮肉極まりない構図を見ることが出来ただろう。
イザークは当初、内面の変化と共に戦場へと帰還した《フリーダム》のパイロットを、因縁深い《ストライク》のパイロットだとは思っていなかったが、今はそれを知っている。
だがキラは、以前までの彼が知っている因縁の相手より遙かに上昇した反応の鋭さと対応から、『デュエルのパイロット』が『別人に変わっている』と勘違いしてしまったのだ。
「俺を戦いに駆り立てた貴様だけに、そんなことが許せるものかーッ!!!」
『くぅッ!? こんなことをしている暇はないんだ! もう辞めろーッ!!!』
互いの評価と認識と攻撃、それら全てで擦れ違い、互いの距離が物理的な距離以上に遠ざかった彼らの対決は、だが決着までたどり着くことは出来ることなく終わってしまうことになる。
それは彼らの予期せぬ決戦場となってしまった戦場から、遙か北西の海に姿を沈めた一隻の潜水艦の中であった出来事。
「そろそろですな―――よろしいですか?」
「・・・・・・・・・」
グリーンランドに向かう潜水艦内の一室で、ウィリアム・サザーランド大佐から躊躇いない口調で語りかけられた傍らに座す相手は、無言のまま咎める視線を相手に向ける。
彼は本来、地球軍統合最高司令部《JOSH-A》の基地司令という立場にある人物で、その基地を自爆させようという任務なのだから当然、その役目の片割れは彼自身が担うことになる。
とはいえ軍人の価値基準として、持ち場を死守するのは当然のことであり、自身が司令官を務めていた守るべき拠点を、味方の兵もろともに自ら破壊し尽くす役割を担うことに何の感傷も抱かずにいるのは難しい。
だからこそ、何の感情も見せることなく淡々と義務の遂行を求めてくる『大佐ごとき中級幹部』の陰険そうな面構えに、悪感情をより強く刺激されずにはいられないのだ。
(――政治家とのコネクションで出世した、成り上がりの老害がッ!!)
心の中で罵りながら、彼は無言のまま相手の隣に座って首から提げた、小さなキーを手のひらに握りしめる。
(覚えておきましょう―――)
自身の傍らの席に座りながら、首から提げていたキーを手に取った上官を横目に見て、ウィリアム・サザーランドは相手の心理を正確に読み取ると、無言のまま心の中だけで『相手の非礼』を心の手帳に書き留める。
「――この犠牲により、戦争が早期終結へ向かわんことを切に願う・・・・・・」
彼ら二人の将校達は、想いは共有できぬまま、厳粛な面持ちだけを共有し合った姿で、互いに持ち寄っていたアタッシュケース内の装置にキーを差し込む。
「青き清浄なる世界のために―――」
陰険そうな瞳と、過去の怨みを忘れない人格が滲み出ている顔立ちで、多額の国費を投じて建設された国軍の一大拠点を吹き飛ばすという任務を実行する際の宣言として。
民間の思想結社が掲げる主義思想のスローガンを口に唱えながら―――地獄を生み出す鍵を開く。
「――!? なんだッ!? 光だとっ!?」
『!! うわぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!』
「推力最大! エンジン全開で振り切れぇーッ!!」
「まさかアレは!? ぜ、全艦離だ―――ッつ!!??」
その瞬間。
地球連合軍の本拠地として知られた一大軍事拠点《JOSH-A》は、攻め寄せたザフト軍攻略部隊の5分の2近くを巻き添えに、難攻不落のまま基地の歴史に終止符を打つことになる。
開戦以来の大損害。
講和派のクライン政権から主戦派のザラ政権へと移行した初の戦闘での大敗。
その失態と膨大な犠牲の数は、当然のこととしてプラントの政治・経済・軍事の各分野に巨大な影を落とす事になる。
クルーゼ隊長に率いられて脱出を果たした攻略部隊の一部は健在だったが、ザラ新政権が大幅な戦略の見直しを図ることは避けられないだろう。
誰もが混乱し、誰もが恐怖して、怒り、嘆き、死者達の無念と犠牲に涙を流して、その復讐と報復に情熱と肉体をともに捧げようと多くの若者達が胸中に誓いを立てる中。
一人だけ、笑みを浮かべながら状況を見ている者がいた。
地球を遙か遠くの眼下に見下ろす位置に立ち、天から地上すべての出来事を脇から見ているだけで弄ぶ己をこそ『好し』と捉える、傲慢なる天才として生まれ変わった男が。
「フフフ・・・ハハハハ、やはり堪えきれずに、アズラエルが動いたようだな。
読んだ通り、キラたちと連合との仲も原作通り決裂したようでもある。
刻の運は私に味方し、歴史の修正力には味方しなかったらしい。
さて――私も再び動き出す時期がきたかもしれん。
また戦場は宇宙へと戻ってくる。
新たな『剣』と『盾』にとって、良い実戦テストの場を与えてくれることだろう・・・フフフフ」
グリーンの中でモノアイが光る、2機の新型MSを背中にそびえさせた姿と共に―――
つづく