転生した私はコズミック・イラの立会人になろう。 作:ひきがやもとまち
あくまで本編執筆の息抜きのための外伝だと、改めて気付きましたので、今後はひとまず完結まではコッチ優先で書かせてもらう所存。
また、そのため先日に出したばかりのFREEDOM版は一旦削除させて頂きました。本編内容との整合性取りとかで縛りになりやすかったので。
また出すことになるかもですが、その時までには推敲しておくつもりでいます。
アスラン・ザラが、プラント本国へと到着して国防委員会本部に姿を現したのは、《真のオペレーション・スピットブレイク》による被害を被ってから少し後のことだった。
本来とうに到着していたのだが、何やらプラントの政治中枢エリアである《アプリリウス》周辺の宙域で検問が敷かれており、出入りが激しく制限されるようになっていたことで入管に手間取り、他のコロニーで今日まで待たされていたのである。
報道管制も敷かれているらしく、状況がよく分からぬまま待たされた末に、ようやく入港の許可がおりたことで、数ヶ月ぶりに本部ビルの一階に足を踏み入れることができた彼は、だが目の前に広がる光景に愕然とさせられることになる。
……殺気だった表情で走り回る職員と、軍服姿の男女たち。
ロビー内のあちこちから漏れ聞こえてくる、大小さまざまな声で交わされる遣り取りに、少ないながらも怒号や罵倒までもが混じっている。
理性的な種族といわれるコーディネイターの中でも特に優秀と認められた者たちだけが集っているザフト軍の中枢が、平素からは想像ができない程の混乱と喧騒に覆い尽くされていたのだ。普段の景色を見慣れていた彼にとっては驚くなという方が無理だった。
――何かが起きたのだ。
それも、彼らザフト軍の中枢でさえ狼狽せざるを得なくなるほどの巨大な何かが――
現状の風景でそこまでは推察でいた彼であったが、肝心のなにが起きたのかという部分については要領を得ない。周囲から聞こえてくる話は千々に乱れていて整合性がとれていない。
誰かに詳しい情報を尋ねなければと考え、いつもより確実に人が多いロビーの各所で兵士や指揮官たちが声高に話し合っている中を通り抜けながらアスランは適当な人物を捜し歩いて、ようやっと見知った顔を中に見つけて声をかけた。
「ユウキ隊長!」
「アスラン…? アスラン・ザラか! どうしたんだ、こんなところで? 君はクルーゼ隊の一員として地球にいると思っていたが…」
士官学校時代に世話になった、信頼できる隊長と再会することができた幸運にアスランは感謝し、相手の方でも昔世話した士官学校主席のことは覚えていてくれたようだった。
【フェイス】の称号授与の話は聞かされていなかったらしい彼は意外そうな顔を彼に向けてきたが、知らされていないことを授与される側の自分が勝手に教えるわけにはいかず、称号を得られた手柄の内訳については個人的に語りたい気分になれない。
「それより、この騒ぎはなんなのです? 地球での戦況になにか急激な変化でもあったのでしょうか…?」
だから彼は敢えて上官からの問いに言葉を濁して答えることなく、せき込んだような口調で自らの問いを急いで被せる。
無礼とされる行為だったかもしれないが、相手の方もそれどころではなかったらしく、元々そういった問題に口うるさい人物でもない。
単刀直入に問いへの答えとなる本題を、だが沈鬱な表情を浮かべながら声を低めて告げてくれた。
「――事実と確認された最新の情報だ。《オペレーション・スピットブレイク》が失敗したらしい…」
「えっ!? では、パナマ攻略は――」
「それがパナマではないんだ」
「……?」
苦虫を噛み潰したような表情で告げられたユウキからのの答えと反応に、アスランは首をかしげる。
あれほどの大兵力を投入しての一大作戦に失敗したとなれば、ザフト軍中枢の混乱ぶりも頷ける。どのような魔術を使った結果かまでは分からぬものの、それを可能にする何かを地球軍が用いてきたということを意味するのは確実だからだ。
それに対抗するための手段について早急に立案する必要が不可欠である以上、普段よりも国防本部ビルが騒然となるのは仕方がなかった。
だがユウキの続く言葉からは、アスランの解釈とは異なる意味合いが込められており、
「《スピットブレイク》の攻撃目標は、直前で《JOSH-A》に変更されていたのだ」
「!! アラスカに――ですかッ!?」
「ああ。上の方では前々から、極秘裏に進められていた真の作戦だったらしいのだが・・・・・・」
敵を欺くにはまず味方から――アスランには瞬時に父の真意が理解できたし、ユウキもそれは同様だったのだろう。
そしてその理解は、真の作戦内容を知らされていなかった指揮官たちの一人に、彼自身が含まれていたことを示す雄弁な証拠でもあった。
ユウキは、そのこと自体にも釈然としないものがある。
真の作戦を兵や指揮官たちにギリギリまで伝えず、敵に目標を悟られるのを防ぐという方法論自体に含むところはない。敵を欺くには味方からという理屈も理解できる。
全軍のトップと極少数のメンバーのみに本当の目的が伝えられ、他の者らには陽動のため偽りの作戦内容が通達されていた――という極秘作戦の前例も全くないというほどではないのがザフトの一般には知られることなき軍事史でもある。
(・・・だが、本当の作戦内容を知らされていたのが、ザラ議長の側近ばかりで、クライン政権時代からスピットブレイクの準備に携わってきた軍高官たちにまで知らされていなかったというのは、どういうことだ・・・?
我々ザフト軍はザラ議長個人の私兵ではないのだが・・・・・・)
それがユウキが今回の件で釈然としないものを感じさせられている一事だった。
プラントは制度として議会制を敷いている民主国家であり、パトリック・ザラも国民からの賛成多数によって制度に則り評議会議長に就任している。
だからこそユウキたちザフト軍人は、彼の命令に従って敵と戦っているのだ。
・・・・・・だが、その議長自身が制度や手順を無視して、自分個人に忠誠を抱いている自身の賛成派の軍幹部ばかりを厚遇して特別扱いし、信頼するというのでは中世の王権国家と変わらぬではないか―――ユウキはそう思い、心中で懸念を強くする。
ただでさえ現在のザラ議長のように、一人の政治家だけに市民たちから圧倒的多数の支持が集中しているのは、議会制の民主国家という政体においては危険な状態なのに――
近い将来プラントは「勝つための必要性」を理由として、効率化と意思統一を推し進めた『総力戦を行うために特化した国家』へとザラ議長の下で変貌することになるのだろうか?
もしそうなってしまった時、その状態へと陥った祖国は、プラント評議国は――
【ザラ公国】とでも呼ぶべき、事実上の軍事独裁国家へと変えられてしまっているのでは―――
「・・・・・・詳しいことは、まだ分からん。
だがどうやら敵は、《サイクロプス》を使用して我が軍の大半を自分たちの本部施設ごと焼き払うという強攻策に出たようなのだ。
寸前で察知したクルーゼ隊長の行動によって、全滅は免れたという話だが、詳細までは・・・」
一つかぶりを振って、ユウキは改めて話題を戻すとアスランに向かって事実だけを伝える作業に回帰する。
自分の思考が危険な方向へと向かい始めているのを自覚したのが、その原因だった。
あくまで自分は一軍人に過ぎず、与えられた職務に全力を尽くすのが務めの存在という認識が、ネガティブな発想に陥っていた彼の意識に自制を促したのだ。
政治色が強い分野は、自分たち軍人がとやかく口を出すべき問題ではない。
「サイクロプスを、クルーゼ隊長が――っ」
だが、自分の内なる衝撃に区切りをつけることが出来たユウキと異なり、アスランの方は情報の爆弾をいきなり投下され、思わず叫び声を上げずにはいられない。
“その部隊の名”を聞いて声はうわずり、先日別れたばかりの相手たちが敵の卑劣な罠にはまって命を落としかけるところだったことを知らされて、アスランは悪寒のような衝撃に襲われた顔色を青くする。
だが直後に彼は、自分が驚愕するのは早計だったことを教えられることになる。
ユウキの話には続きがあったのだ。
それは殊にアスランにとっては、他人事でしかないサイクロプスより重すぎる厄介な事案についての話。
「クルーゼ隊のこと以上に、おそらく君個人にとっては悪いニュースが今一つある・・・極秘開発されていた最新鋭もモビルスーツが1機、何者かに奪取されたらしい」
「・・・・・・?」
「――その手引きをしたのが、ラクス・クラインだということで今、国防委員会は大騒ぎなんだ・・・」
「なっ――!? そんなまさかッ!!」
あまりにも衝撃的すぎる内容だった続く凶報に、アスランは思わず礼儀も耳目も忘れて叫んでいた。
最初は、どう自分に関係しているのか分からずにいた情報に、足下が崩れ去るほどの落とし穴が仕掛けられていたことに、驚愕を通り越して理不尽な怒りさえ彼は感じる気分を刺激されずにはいられなかった。
――あのラクスが? そんな事がまさか、ありえない!!
そう頭の中で強く否定して、焦慮と苛立ちをいっぱいに浮かべさせた表情を見せるアスラン。
いつもは物静かな印象だった相手の取り乱しようにユウキは戸惑い、少し驚いたように一歩後ろに身を引いた横を、アスランは上司への挨拶も思いつかぬほど冷静さを欠いた精神で、父がまつ本部中枢のオペレーションルームへ向かって歩き出し―――
「その件に関しては、私から彼にお伝えする方が役立つ部分もありましょう。ユウキ隊長」
横から投げかけられた、聞き覚えのある声に「ハッ」となって立ち止まる。
供に体の向きを変えた先に立っていた、空虚な瞳と穏やかな笑みを浮かべる美貌の青年将校の姿を見いだし、ユウキはやや驚かされながら名を呼んだ。
「パプティマス副隊長・・・・・・どうして貴方がここに? 新型機開発のため日夜ラボにこもっていると聞いていましたが・・・」
「そちらの方で一定の成果を確認できたので、その報告をと参ってきたところです。――ですがいざ来てみれば、ご覧の通りという訳でしてな。正直、途方に暮れていたばかりでして」
「なるほど」
そう言って困ったような表情で浮かべながら、白い歯を見せて苦笑してみせるシロッコの返答を、ユウキは疑うことなく素直に受け止める。
もともと彼には、彼の『天才』に疑念を抱くべき理由をもっているわけではなく、どちらかと言えば軍への貢献と巨大な業績に敬意を抱いている思いの方が大きいほどだったのが彼である。
先日も自身の担当分野ではないにも関わらず、他の部署が開発中だった新型の地上施設攻撃用の降下兵器にかんして開発チームに助言を与え、より完成度を高めた状態で納期を数ヶ月早めることに成功したというニュースで軍司令部は持ちきりだった。
残念ながら《オペレーション・スピットブレイク》の発動には間に合わなかったものの、『もし三ヶ月早く開発チームに彼が加わっていたら戦局は変わっていただろう』と当の開発チームたち自身の口から惜しむ気持ちを愚痴られていたと噂されているほどの人物なのである。
それがザフト軍内における『天才パプティマス・シロッコ』に対する一般的な評価だった。賞賛こそすれ、疑うべき理由などあるはずもない。
だからユウキは、アスランと違ってシロッコ個人の人格に疑いを抱いている訳では全くなかった。
ただ、その天才的と称される圧倒的な才能故に、彼が道を誤らなければと危惧していたのだ。
彼の才能はコーディネイターの中でも群を抜いているものがある。それは所属を超えて通用するものですらあるかもしれない。そんな彼に現状の打破を期待する者は決して少ない数ではないはずだった。
・・・・・・それらの声と望みが、彼自身を『その手に世界を求める道』へと至らせてしまうのではないか・・・・・・?
ユウキは、その可能性をこそシロッコの才能に感じさせられ、彼に本能的な警戒感を抱かせるようになっていたのだった。
その警戒心は必ずしも彼独自の発想というわけではなく、古来より優れた才能の持ち主が己が領分を超えた望みを抱くようになるのは珍しいことではなく、健全な危機意識として敬意を評されていいものですらある。
だからこそシロッコにとって、特段に警戒するほどの疑念になりえるものではない。
ニコリと友好的な笑みを浮かべながら、親切面を崩すことなく会話に誘うことに躊躇いを抱くべき脅威には、ユウキはなり得る存在では全くなかったのである。
「久しぶり、と言うには些か早すぎる再会になってしまったな、アスラン。負傷もほとんど癒えたようで何よりだ。無事な帰還を嬉しく思う」
「――いえ、副隊長も壮健そうで安心いたしました。ご活躍も噂としてではありますが、伺っております。また大きな貢献を成されたそうで・・・」
「フフッ・・・《フェイス》に選ばれた精鋭から褒めてもらって恐縮だが、残念なことに忌まわしき記憶として、無かったことにしなければならぬ結果になってしまった後ではな」
曖昧な表情で敬礼とともに先日まで部下だったアスランから送られた形式的な賛辞に対して社交辞令を返した上でシニカルな笑みを浮かべさせた後、
「・・・・・・私が今少し早く、“アレ”を完成させることが出来てさえいれば、今回の作戦での被害は出さなくて済んだかもしれんのだからな・・・・・・」
「・・・!! ふ、副隊長・・・それは・・・ですが・・・・・・」
顔を伏せたまま、一瞬前まで浮かべていた表情を消し去って告げられた一言に、アスランは「ハッ」とさせられた表情で顔を上げて相手を見上げる。
その瞳には強い共感の念と、そして同時に恐れおののく恐怖とがハッキリと見て取れていた。
今し方まで『確認すべき事案』だった疑惑への答えを、相手からの返答は含むモノであったことに遅まきながら気付いたからだ。
『防げなかった今回の作戦での被害』・・・・・・それは遠回しにクルーゼ隊の仲間たちの明暗を示唆するものではなかったろうか・・・?
だとすれば、イザークやニコルは? クルーゼ隊長までもまさか―――
「ユウキ隊長、今回の一件についての情報では、私にも些か個人的な伝手がある。よければアスランへの詳しい話は、私にお任せ願えないだろうか?
彼にも立場上、知ってから議長との面会に臨んだ方がいい部類の話でもある・・・」
「シロッコ副隊長、ご好意は有り難いのですが、しかし――」
「それに失礼ながら、ユウキ隊長には別の任務もおありでありましょう? 私であれば幸い、と言っては何ですが今は新型開発だけが割り当てられている身。工房に戻るのが多少遅れたところで戦局に影響できる立場ではありません。ご遠慮なく」
「ふむ・・・」
わずかにだけ考え、ユウキは相手からの提案を素直に受け入れることにした。
実際問題として彼は多忙であり、確実な任務こそあるわけではなかったものの、玉石混合で垂れ流されるようにもたらされ続けている前線の情報や報告を精査して、確実と呼べるに足るものだけを上にあげるだけの作業でも、かなりの時間と労力が必要とされているのが現状のザフト軍が陥らされている窮状。
正直なところ、相手が旧知のアスランでなければ、下の者に奢らない性格の彼でさえ今ほど懇切丁寧に事態を教えてやろうとまではしなかったろう。
事情を大雑把に教えてやるぐらいはしたろうが、詳細が伏せられている『クライン父子』の話まで語ることはなかったはず。
その点では、原作通りの流れとして『アスランと彼』が本部ビル内で再会できたことは、歴史劇の一幕の立会人となれた傲慢さを隠す男にとって「僥倖」だったと言えるだろう。
もともと拒絶すべき理由が自分にあった訳でもない相手からの提案だ。
ただ何となく――相手を信じることに理由のない不安を、わずかに感じただけ。合理的に考えて相手からの“好意”を謝絶すべき理由はなにもないのだから任せた方が賢明なのだった。
・・・・・・『個人的な感情を吐き出す』という理由で動く道を選べないこと。
それがコズミック・イラという時代を生きる多くの人々が、現在という名の事態を突破できずにいる一番重要な理由ではないのか?――と疑問を感じることすら最期の瞬間までできないままに・・・・・・。
「さて、ここでなら今は落ち着いて話すことができるだろう。座ってくれ、アスラン」
「はい・・・・・・」
古巣での上官に勧められて椅子に座ったアスランは、改めて場所を移した自分たちが今いる周囲を見渡していた。
二人が向かい合ってテーブルに座っている場所は、プラント国防委員会本部ビル内にある喫茶スペースだった。
普段であれば後方勤務の士官だけでなく、委員会に務める中級・下級官僚などの役人も利用している空間のため密談など到底できるものではないのだが、流石に今の状況では利用者など1人もいるはずがない。普段はウェイトレス代わりに配属されている女性兵士すら姿を消している有様だ。
この状況でなら、話に耳を傾けるようと近づいてくる者がいた瞬間に察知することが子供でも可能だ。周囲にいる人間たちを疑って警戒する必要がないという点で、密談には最適な空間になっているのが今現在のこの場所だった。
「ではまず話すべきか――など考えるまでもないだろうな。
君にとっても、フィアンセにかけられた容疑についての話から確認しなければ安心できなかろう?」
「はい・・・・・・出来ますならば」
相手からズバリと問われた指摘に、アスランは苦い表情を浮かべて後ろめたそうに顔を俯かせながら、それでも声に出してはそう答えていた。
その通りだ、と。
このような事態が起こっている中で、個人的な事情を優先している自分に罪悪感を感じないわけではなかったが、それでも彼にとって何よりも気がかりな情報がそれであるのは否定できないのも彼の人格だった。
「私には信じられません・・・・・・あのラクスが、スパイの手引きをしたなどと・・・・・・そんな馬鹿なことが、全てがなにかの間違いという可能性もあるのでは!?」
「落ち着け、アスラン。その事情についての話を、今から始めるところなのだからな」
「あっ・・・も、申し訳ありませんでした・・・つい」
「気にしなくていい。君の立場を考えれば当然の反応だ。婚約者同士の仲がいいのは良いことでもある」
白い歯を見せて笑いかけてくる元の上司の笑みに、アスランは頬を赤くして立ち上がりかけていた身体を椅子に戻して座り直すことになる。
だが、その行動と羞恥心が彼に冷静さと普段の思考を取り戻させる効果をもたらしていた。
そのことを確認した上で、シロッコは自身の知っている情報を調整した上で、教えてしまって構わないと判断できるものは何かと考え、“取捨選択”した内容を旧部下の少年兵に語り始める。
「ラクス嬢が連合のスパイを手引きして、我が軍の最新鋭モビルスーツ奪取に協力したという噂の真偽についてだが・・・・・・これは事実であり、間違いとも言えるだろうな。
何しろ彼女がプラント国内に招き入れていた連合兵とは彼――“キラ・ヤマト”
君が以前に話してくれた、《ストライク》のパイロットだというコーディネイターなのだから」
「!? キ・・・・・・ラ・・・・・・?―――キラですってッ!?」
ガタンッ!と音を立ててアスランは席を蹴って立ち上がり、思わず悲鳴じみた声で叫ばずにはいられなかった。
一瞬前に、驚きで立ち上がって恥じ入りながら着席した直近の過去を忘れた訳ではないのだろうが、シロッコがもたらした情報の爆弾にはそれだけの威力が込められたものだったのだ。
死んだと思っていた親友が、自分が殺したと思って罪悪感に苦しみ続けていた連合軍MS《ストライク》のパイロットがまだ生きて“いてくれた”などと・・・・・・そんな話をいきなり告げられて冷静に受け止められるほど成熟した人格には至れていない。
「嘘です! キラが・・・アイツが生きているはずがありません! アイツが、そんな・・・・・・ッ」
「ほう。君は私が嘘を吐いていると思っているのかね? 自分が倒した《ストライク》のパイロットが生存しているはずはないと?」
「当たり前です! そんなっ・・・・・・馬鹿な話を! いったい、どういう企みで副隊長は私にそんな話を――」
「ふむ。では逆に問うがね、アスラン」
「そんな嘘を吐くことで、私にとって一体どのような企みに利用できると、君は思っているのかな? 意見を聞いてみたいものだ」
至極冷静な口調で聞き返された反問によって、アスランは口を開けたまま閉じれなくなった状態で――完全にそれ以上の追求を封じ込められる結果をもたらされることになる。
自分から嘘だ、虚偽情報による企みだと、口走ってしまったとはいえ、相手の立場でそのような行為を犯す意味なり利益なりが得られると思って言った言葉というわけではなかった。
ただ反射的に、「そうに決まっている」と信じたかったから否定する言葉を放ってしまっただけのこと。
あの苦しみを、嘆きを、罪悪感の重みを、ようやく振り切って解放されると思えるようになっていた矢先に、また同じ苦しみを味あわされる可能性が示されたことに思わず反発して拒否してしまった。只それだけの条件反射とも呼ぶべき逃避の思考。
そのアスランの逃げを、シロッコは容赦ない手法で初手から封じ込めてしまった。
相手自身の言葉によって、相手自身の内なる“逃避”を自覚させるのに利用したのだ。
そこが彼ら2人が、目指す未来への道筋が重なる部分があったとしても、最後まで共に歩むことは出来そうにないと感じさせられたラクス・クラインとパプティマス・シロッコとの大きな相違点だったから。
「そういうことだ。彼は生きているよ。
君が《イージス》を失った後に、負傷していたところをオーブ軍が収容したのと同じように、彼もまた別の者たちの手で収容されて治療を受けた後にラクス嬢の元へと招かれていた。ということさ。
その点では、ラクス嬢の方がオーブよりも問題行為だったと言えるかもしれんな。オーブは中立国として君の身柄を国内には入れようとしなかったと聞かされている。
・・・もっとも、“足つき”を自国内の軍港に収容して補修までおこなった相手国と比べるのもおかしな話かもしれないが――」
「では――ではラクスが、奪取に協力したという最新鋭のモビルスーツというのは・・・」
「ああ、そちらの話がまだだったな」
いつもの冷笑癖を発揮させ、オーブの二枚舌外交を軽い口調で皮肉って毒舌を吐いていた相手の意識を戻すため、という体を取って心が痛む話題から敢えて話をそらす。
続く話で矛盾があったなら、先の話にも虚偽の可能性が見いだせるはず――そういう小狡い計算もないわけではなかったが、『ラクスがスパイを手引きした』という情報にとって、その点の真偽が重要なのも事実ではあった。
「そちらについては、技術者同士の横の繋がりによって私が知り得た情報を交えての話になってしまうが・・・・・・正確な論評だとも表現できるが、過ちに基づく虚偽であるとも表現できる――という言い方が正しくなるのだろう」
「・・・? 失礼ですが、どういう意味でのお言葉なのでしょう? お気遣い頂けるのは恐縮ですが、婉曲な表現を用いられずハッキリと言って頂きたい」
「怒るな。別に韜晦したわけではない。
ただラクス嬢が《ストライク》のパイロットに、ザフト軍が極秘開発していた最新鋭モビルスーツを無断で与えてしまったのは事実だが、彼女によって奪取された最新鋭モビルスーツなどというものは、ザフト軍には存在していないと言っているだけなのだから」
「・・・・・・?? あの、副隊長。それはどういう・・・・・・仰っている意味がよく・・・」
最初は、苦笑するような笑声を小さく零して、ナーバスになっていた神経を逆撫でされたような気分にさせられたことに苛立ちの混じった声音で問い返したアスランだったが、二度目の疑問には困惑の方が強くなっていた。
相手の言っている言葉の意味が分からなかった。
あるいは、軍機に当てはまるような秘匿兵器を奪われてしまった、と言うことなのかとも考えたが、そんな存在など高性能とはいえモビルスーツでありえるはずがない。一体どういう――
「これは噂でしかないのだが・・・・・・あくまで噂だぞ? いいな?
――奪取された最新鋭モビルスーツには、ザラ新議長の指示によって極秘裏に開発されていた“核エネルギー”を動力として用いる新機構が採用されたものだったらしい・・・・・・」
「―――なッ!? ・・・か、・・・く・・・・・・ッ?」
あまりにも衝撃的すぎる話の内容に、アスランは一瞬ナニを言えばいいのか分からず、ただ唖然として言葉を失うことしかできなくなっていた。
核エネルギー・・・・・・その単語は、今では禁じられた最大のタブーになっている言葉のはずだった代物の名。
《ユニウスセブン》へと不意打ちで発射されたソレの被害によって、24万以上の命が一瞬にして奪われてしまった、宇宙に浮かぶ巨大な密閉空間であるスェースコロニーで暮らしているコーディネイターたち全てにとって最大の悪夢としか言いようがない存在。
その報復も兼ねて地球各地へ発射された《ニュートロン・ジャマー》によって、物理的に使用を不可能にすることで過去の遺物と化さしめることに成功することができた悪魔の力。
地球に住むナチュラルたちからすれば、その被害によってエネルギー不足に陥り、多くの同胞が餓死に追い込まれた『過剰防衛』として恨みに思っている者が少なくはないのだろうが・・・・・・そこまでやらねば収まりが付かないほど、『コロニーに住む者達』にとって逃れる手段のない大量破壊兵器による超長距離攻撃というものは恐怖と憎しみの対象となり得るものなのだ。
もし仮に、周囲の感情論に押し切られた当時のシーゲル・クライン議長が、地球各地へのニュートロン・ジャマー発射という妥協案に許可を与えてくれなければ、プラント住人たちには地球に対して『持ちうる全ての核兵器を発射して殺戮する』という道以外に選べる選択肢はなくなるしかなかった。
それほどの物なのだ。
コロニー住人たちにとって、核ミサイルを撃ち込まれて虐殺されるという行為への恐怖心は。
たとえ核が撃ち込まれても、発射された当事者と周辺地域に住むもの以外は間接的な被害だけで終わることができる、大洋や地続きで世界各地に逃げることが可能な地球だけで生きているナチュラルたちには、それが分からない。感覚的に理解することが難しい。
そういう住んでいる場所の違いからくる『使用しやすさ』を有している兵器が、地球軍にとっての核兵器なのだ。
コーディネイターであれば、間違ってもコロニー相手に使いたいと思うことはできないし、仮に思う者が現れたとしても協力者が集まることはまずないだろう、禁断の兵器。
その使用を物理的に封じ込めることによって、何とか『戦争』という状況に持ち込めるまでプラント住人の心理を妥協させ、『一方的なジェノサイド』という道に多数派からの賛成が集まらなくなったことで、今日までの戦局は維持されてきた。
だが・・・・・・だがもし、核を封じた側のプラント技術陣が、『核の使用を解禁できる新技術』を開発させた―――などという情報が知られてしまえば、地球軍は如何なる犠牲を払ってでも必ずや手にするため必死になるだろう。
その技術さえ手に入れられれば、どれほど追い詰められた窮状からでも逆転の可能性が得られるのだ。たとえ勝てずとも敵もろとも心中することが可能になるかもしれない。
そんな真似が可能になる―――その可能性が示されてしまっただけでも、地球軍は息を吹き返すだろうし、降伏など全くする気がなくなるかもしれない。
そんな代物を、それほどに碌でもない効果を及ぼしかねない新技術を。
新議長は―――パトリック・ザラ議長は造らせたのか!?
自分にとっての父親がッ!!
「噂だ。あくまでもな。
――だが、その開発が行われていると噂されている施設が、ラクス嬢が手引きしたスパイを招き入れていたのが目撃されているのと同じ施設だったことは事実でもある。
そして、現在のプラント国内に正式配備されている全モビルスーツの数が、開発途中のものも含めて1機たりとも減っていない。というのも事実ではあるが――」
「いったい何故・・・・・・なんで、そんなものを父が・・・ッ!?」
「“勝つために必要となった。仕方がない”と、おそらくはザラ議長は主張されるところだろう。――が、果たしてどうかな?
議長とて、勝つために《オペレーション・スピットブレイク》の攻撃目標を独断で変更されたのだろう。
わざわざ失敗して地球軍有利の現状にしてやるために、サイクロプスで味方を殺させてやったとも思えん」
その通りだと、アスランは思った。
元上司の冷徹な酷評の視点に慣れていたのもあったろう。
父は・・・パトリック・ザラ議長は地球軍本部アラスカへの奇襲を、戦争の早期終結させる最善手だと考えたからこそ実行させたはず。そうでなければ変えさせる意味そのものが無く、戦略的には間違っていない判断でもある。
だが、そうである以上は父が、現在の危機的状況に陥っている『サイクロプスによる作戦失敗後の現状』を予測して、今日の事態に備えるため核エネルギーを動力源とする最新鋭モビルスーツを、事前に開発させていたとは考えにくい。
パナマ攻撃隊を使って、地球軍本部の奇襲による壊滅を狙っていたのが父であり。
核エネルギーを動力とする最新鋭モビルスーツを『勝つための必要性』で開発させ続けてきたのも、自分の父。
つまり父は・・・・・・子供の頃は優しかった父さんは・・・・・・。
―――本部を奇襲で陥落させた後の、地球と戦い続ける戦争用に、核エネルギーを用いる兵器を用意させていた――――
そういう事になってしまう。
なるしか・・・・・・ない。
「――だが、今の話は“核エネルギーを用いた最新鋭機”という噂が真実だった場合には、という前提条件によって成り立つものでもある。この話がデマだった時点で、この話は大部分が破綻するのだからな。そう深刻になるほどのものでもなかろうさ」
そうして突然、シロッコは明るい声と表情に変わってアスランを見やりながら笑いかける。
深刻な話ではあっても、噂でしか無いという事実を知っていたからこそ、敢えて舞台劇じみた演出をしていたのだと示すかのように。
そんな姿を見せつけられてアスランは、憑き物が落ちたように力が抜ける思いを味わうことになったが――『不安な思い』まで消すことは不可能だった。
確かに噂でしかない可能性はあるし、噂でしかなかったなら今の話は所詮デマの一つでしかなくなってくれるだろう。
・・・・・・だが、もし。
もしも事実だった時は・・・・・・自分はいったい、どういう道を選ぶことになるのだろう・・・?
「そう・・・ですね。噂でしかないかもしれません。そのことを確認するためにも、そろそろ議長の下へ出頭しようと思います。
先程までは人の出入りが多かったでしょうが、今なら待たされることもないでしょう」
「そうするといい。――ああ、そうだ。伝えるのが遅れてしまったが、クルーゼやニコル、イザークたちはどうやら無事に生還できたようだぞ。
ここに来る直前に、私宛の個人用メッセイージが届いていた。それによると所在は記せないらしいのだが、“主立った者達は全員を生かして返すことができて安堵している”と書いてあった」
「それは何よりです。安心しました。ところで、シロッコ副隊長」
「ん? なにかねアスラン。まだ何か聞いておきたい疑問が残っていたのかね?」
「ええ、そうです。最後の質問です」
「繰り返しの問いになってしまい、失礼を承知でお尋ねしますが・・・・・・シロッコ副隊長。
なぜ私に、それほどの貴重な情報をお教えくださるのでしょう?
奈辺に目的がおありなのか、今度こそ本当のあなたの目的を教えていただきたい。
それが今の俺に残された、あなたへの最後の質問です」
つづく